レオパレス21はスマートロックを25万戸超に設置し、2024年1〜3月の繁忙期だけで約5万8,000件の鍵の受け渡しをなくしました。不動産DXの事例のなかでも、効果が数値で公表されているものは、このように対象の工程がはっきりしている事例です。この記事では、不動産DXの成功事例を内見・契約・業者間流通・賃貸管理の工程別に並べ、各社の公式発表で数値の定義と時点を確認したうえで、自社に当てはめるときの確認項目と、真似しても成果が出ない場面までを整理します。不動産DXの定義や着手順そのものは不動産DXの着手順と内製外注の判断基準で扱っており、本記事は事例の読み方に絞ります。
まとめ|不動産DXの事例で成果が出た工程と、自社で再現できる条件
公表数値つきの不動産DX事例は、内見と鍵管理、契約書面の電子化、賃貸管理の入居者対応の3領域に集中しています。いずれも件数が多く、毎回同じ手順を踏む作業です。1件ずつ判断が要る反響対応や追客は、効果を数値で公表している会社がほとんど見当たりません。
事例を自社に当てはめるときは、会社名より前提を見ます。管理戸数、取引形態、そしてその作業が月に何件発生しているか。レオパレス21の14万時間という削減量は、25万戸という母数があって初めて成り立つ数字です。自社の件数に置き換えて年間の削減時間を試算し、ツールの月額を上回るかで判断してください。
既製サービスの導入だけで再現できるのは、セルフ内見、電子契約、入居者アプリのように製品の想定に業務を合わせられる事例です。既存の基幹システムや物件台帳との連携が前提の事例は、連携部分を作らないと同じ効果は出ません。
不動産DX事例を読む前に押さえる、工程別の整理と公表数値の読み方
事例記事の多くは大手企業の取り組みを並べるだけで、自社のどの業務に効くのかが読み取れません。読む前に、分類の軸と数値の確かめ方を決めておきます。
反響・内見・契約・管理に業者間流通を加えた5工程で事例を分ける理由
不動産会社の業務は、反響・内見・契約・管理の4工程に分けると、減る作業と測る指標が工程ごとに変わります。この分け方は不動産DXの解説記事で示した着手順と同じです。売買仲介ではこれに、売却物件をほかの宅建業者へ紹介する業者間流通が加わります。
事例を工程で分けると、自社の課題と同じ工程の事例だけを読めば済むようになります。賃貸管理会社が売買仲介の電子契約の事例を読んでも、効く場所が違います。以下の章では、公式発表で数値か具体的な運用条件を確認できた事例だけを工程ごとに載せました。
| 工程 | 会社 | 取り組み | 公表されている内容 |
|---|---|---|---|
| 内見・鍵管理 | レオパレス21 | スマートロック | 25万戸超・鍵受渡し約5.8万件減 |
| 内見・鍵管理 | 明和不動産 | セルフ内見 | LINE予約・1回最大30分 |
| 契約 | 住友不動産ステップ | 売買契約の電子化 | 2026年4月から全国全店 |
| 業者間流通 | 住友不動産ステップ | 一括紹介の入札 | 延べ8,500社超から選定 |
| 管理 | エフ・ジェー・コミュニティ | 入居者アプリ | 管理戸数約2万戸で運用開始 |
反響工程が表にないのは、社名と効果の数値をそろえて公表した事例を一次資料で確認できなかったためです。この点は第4章で扱います。
プレスリリースの数値を自社に当てはめる前に確かめる、件数の定義と時点
事例の数値は、何を1件と数えたか、いつ時点の値かで意味が変わります。レオパレス21の「約5万8,000件」は、入退去時の入居者との受け渡しに、退去後の原状回復業者との受け渡しを足した件数です。入居者との受け渡しだけを数える会社と比べると、多く見えます。
設置戸数も同様です。2022年の発表時点では管理物件の約8割にあたる44万戸が対象とされていましたが、2024年4月末の実績は25万戸超でした。対象と実績を取り違えて引用している記事も見かけます。数値を社内資料に使うときは、発表元の原文で定義・期間・時点の3点を確かめてから載せてください。
もう1つ見落としやすいのが、発表元です。スマートロックの事例の多くは、導入した不動産会社ではなく、製品を提供する会社が発表しています。効果の数値に偏りがある前提で読み、自社での試算の材料にとどめます。
内見と鍵管理の不動産DX事例|スマートロックとセルフ内見の公表効果
内見と鍵管理は、公表数値がもっとも厚い工程です。鍵の受け渡しという物理的な作業がなくなるため、削減量を件数と時間で数えやすいことが理由に挙げられます。
レオパレス21のスマートロック25万戸超と、繁忙期5.8万件の鍵受け渡し削減
ビットキーが2024年5月9日に出した発表によると、レオパレス21は2022年6月にスマートロックの設置を始め、2024年4月末時点で25万戸を超えました。2024年1月1日から3月31日の繁忙期には、物理鍵の受け渡し約5万8,000件が不要になっています。
注目したいのは、効果が鍵の受け渡しにとどまらない点です。導入前は物理鍵の管理に1戸あたり平均42分かかっており、2023年度には鍵管理の時間を年間14万時間減らしたとされています。内見や入居で店舗に立ち寄る必要がなくなったことで、拠点は109から72へ集約されました。
この事例から読み取れるのは、スマートロックの投資回収が鍵の作業時間だけでなく、店舗の数まで含めて成り立っているという構造です。店舗を減らす計画がない会社は、作業時間の削減分だけで回収できるかを別に試算する必要があります。
パナソニック ホームズ不動産と明和不動産に見る、中規模での内見無人化
大手ほどの戸数がない会社の事例もあります。パナソニック ホームズの2022年5月10日の発表では、既存の賃貸管理物件にスマートロック「OPELO」を同年5月から順次導入し、パナソニック ホームズ不動産で初年度7,000台を目指すとしています。入居検討者のセルフ内覧と、入居者への非接触での鍵の受け渡しが目的です。
運用の手順まで公開しているのが、明和不動産の「いつでも内見」です。2024年8月に始まったこのサービスでは、利用者が専用LINEで予約し、顔写真付きの身分証の画像を送ってから、予約時間だけ有効な暗証番号で入室します。内見できるのは10時から17時、1回最大30分です。
明和不動産の手順は、セルフ内見の論点がスマートロックの機種より本人確認と時間管理にあることを示しています。誰が、いつ、どの部屋に入ったかを記録できない運用では、空室での事故やトラブルの責任の所在が曖昧になります。導入前に、予約・本人確認・退室連絡の流れを自社の受付体制で回せるかを確かめてください。
契約と業者間流通の不動産DX事例|売買仲介の電子契約と一括紹介
2022年5月18日に重要事項説明書などの電子交付が可能になってから、賃貸では電子契約が広がりました。売買仲介は三者間の取り交わしが複雑で、普及が遅れていた領域です。
住友不動産ステップが2026年4月に全店で始めた売買契約の電子化と印紙税
住友不動産ステップの2026年3月31日の発表によると、同社は2026年4月1日から全国全店の売買仲介店舗で、重要事項説明書と売買契約書、付帯する合意書などを電子化しました。それまでの遠隔契約は、オンラインで説明した後日に書類を郵送して署名・捺印していましたが、説明の場で端末上の書面をタップして完結できるようになります。
顧客にとって分かりやすい効果は印紙税です。電子交付の売買契約書には印紙が要らず、1億円超5億円以下の取引なら6万円の印紙代がかかりません。同じ資料では、全宅連とGMOグローバルサイン・ホールディングスの調査で、電子契約を実施した顧客の満足度が82.9%だったことも紹介されています。
再現の観点で見るべきなのは、同社が全店展開の前にパイロット検証を行い、承諾書の取得や電子署名のフロー作成を受け持つ専門のサポートチームを置いた点です。売買仲介の電子契約が進まない理由として、同社は三者間の取り交わしの複雑さと、仲介会社側の事前準備の負担を挙げています。ツールを入れるだけでは、この準備作業は減りません。電子交付の要件と実務フローは不動産の電子契約における35条・37条書面の電子交付要件で確認できます。
電話とFAXの物件紹介を一括発信に替えた、ステップオークションの仕組み
同じ資料には、業者間流通の事例も載っています。2021年に始めたステップオークションは、売却物件をほかの宅建業者へ紹介する作業を、店舗ごとの電話やFAXから専門部署による一括発信に切り替えた仕組みです。全国延べ8,500社超から物件に合う紹介先を選び、入札形式で購入申込みを一元管理します。
この事例は、DXが顧客向けの画面だけでなく、業者間の取引にも効くことを示しています。店舗ごとに地元業者へ電話していた頃は、紹介先が担当者の人脈に依存していました。業者間の物件流通の基盤であるレインズの仕組みと業務システムとの連携は、レインズの仕組みと業務システム連携の解説にまとめています。
従業員20名以下を対象にした、国交省のIT重説・電子契約の実証事業
小規模な会社向けの取り組みとしては、国土交通省の不動産分野におけるDX推進に向けた実証事業があります。令和7年8月から11月にかけて、IT重説や書面の電子化に使うサービスを新たに導入する宅建業者を選び、導入前後の業務の変化をヒアリングで検証するものです。
募集要項では、応募要件を従業員が概ね20名以下で、毎月1件以上の契約手続きがあり、これまで契約事務にDXサービスを入れたことがない事業者としていました。1社あたり導入費用と3か月分の利用料のうち最大50万円(税込)を、サービス提供事業者へ支払う仕組みです。2026年10月25日時点で、同ページに検証結果は掲載されていません。
国が対象を20名以下に絞ったこと自体が、小規模な会社ほど電子契約の導入が進んでいない現状を表しています。公表される検証結果は、自社と同じ規模の会社で何が変わったかを確かめる判断材料です。IT重説の実施要件はIT重説の実施要件と賃貸・売買の違いで整理しています。
賃貸管理と反響の不動産DX事例|入居者アプリと、数値が出にくい追客
賃貸管理の入居者対応は、電話の件数が管理戸数に比例して増える業務です。反響と追客は対照的に、事例はあっても効果の公表が少ない工程です。
管理戸数約2万戸のエフ・ジェー・コミュニティが入居者アプリに任せた業務
GMO ReTechの2026年4月1日の発表によると、管理戸数約2万戸のエフ・ジェー・コミュニティは、同日から「GMO賃貸DX 入居者アプリ」の運用を始めました。導入の目的は入居者対応の効率化と収益の向上で、電話対応の負荷が課題として挙げられています。
アプリにはFAQ、チャット、掲示板、入居時チェックの機能があり、入居者が自分で答えを見つけられるようにして電話の件数を減らす狙いです。広告配信の機能で入居者向けに情報を届け、収益源にする構想も示されています。
この事例は運用開始の発表で、効果の数値はまだ出ていません。入居者アプリで電話が減るかどうかは、FAQに載せる回答の質と、チャットに誰が何時間以内に返すかで決まります。問い合わせ対応を自動化した事例の効果と失敗の型はAIチャットボット導入事例と自社に当てはめる判断基準が参考になります。管理会社の入居者対応を法定記録とあわせて組み直す手順は不動産管理DXの進め方で扱っています。入金消込・契約更新・オーナー送金を賃貸管理システムで効率化した事例は、賃貸管理システムの導入事例にまとめました。
反響・追客の事例で公表数値が少ない理由と、効果を自社で測る方法
反響対応と追客の自動化は、不動産DXの解説記事で必ず取り上げられる領域です。ところが、社名と効果の数値を併せて公表した事例は、今回の調査では一次資料で確認できませんでした。数値つきで紹介されている例の多くは、出典が示されていないか、ツール提供会社の想定モデルです。
数値が出にくいのは、成約に至るまでの要因が多いからです。追客メールの自動化で来店が増えても、物件の条件や担当者の接客が同時に効いており、ツールの効果だけを切り出せません。だからこそ、自社で測る指標は成約率ではなく、反響から初回連絡までの時間に置きます。導入前の1か月分を記録しておけば、ツールの効果を説明する際の根拠は自社で記録した数字です。反響管理と追客の仕組みの選び方は不動産CRMの反響管理・追客機能と選び方で解説しています。
不動産DX事例を自社に当てはめる判断軸と、真似しても成果が出ない場面
事例は読んだだけでは成果になりません。自社の前提と突き合わせ、再現できる事例とできない事例を分けます。
事例の会社と自社の管理戸数・取引形態・作業件数を突き合わせる確認項目
当てはめの第一歩は、事例の効果を自社の件数に置き換えることです。レオパレス21の鍵管理は導入前に1戸平均42分かかっていました。仮に自社の管理戸数が1,000戸で、1戸42分の鍵の作業が年に1回ずつ発生しているとすれば、42,000分、つまり年間700時間ほどが削減の上限になります。入退去の回転が速い物件が多いなら、回数を掛けて算出した時間が削減の上限です。この時間に人件費を掛け、スマートロックの機器代と月額を上回るかで判断します。
- 管理戸数・取引件数:事例の母数と自社の母数の比を出し、削減量を比例で縮める
- 取引形態:賃貸か売買か、居住用か事業用かを事例と合わせる
- 作業の発生頻度:月に何回発生する作業か。月数件の作業は自動化しても回収できない
- 発表の時点:対象戸数や機能は発表後に変わる。数年前の発表は現状と違う前提で読む
このうち実務でまず確かめるのは、作業の発生頻度です。頻度が低い作業の事例は、どれだけ効果が大きく見えても自社では回収できません。
既製サービスだけで再現できる事例と、連携部分の開発が要る事例の分かれ目
セルフ内見、電子契約、入居者アプリの事例は、既製サービスの導入で再現できます。いずれも製品が想定する業務の流れに自社を合わせられる領域で、明和不動産やエフ・ジェー・コミュニティも提供会社の製品を使っています。
再現に開発が要るのは、既存の物件台帳や基幹システムとのデータ連携が効果の前提になっている事例です。スマートロックの解錠権限を内見予約と連動させる、入居者アプリの問い合わせを賃貸管理システムの対応履歴に自動で残す、といった部分がこれにあたります。既製品同士にAPI連携がなければ、担当者が2つの画面に同じ内容を入力することになり、事例ほどの効果は出ません。ツールを組み合わせる前に確認したい連携方式(API・CSV・手入力)の項目は不動産DXツールの選び方と組み合わせ方で解説しています。どこまでを既製品で賄い、どの連携部分を作るかを業務の棚卸しから決めたい場合は、DXコンサルティングのように業務整理から入れる開発会社に相談すると、作る範囲を絞った見積もりが取れます。
規模と前提が違う大手事例をそのまま真似て、成果が出ない失敗パターン
真似ても成果が出ない典型は、大手の事例を規模の前提ごと持ち込むことです。管理戸数が数百戸の会社がレオパレス21にならってスマートロックを全戸に付けても、店舗の集約という回収の柱がなければ、機器代が作業時間の削減額を上回ります。この場合は空室の内見用に絞って設置し、入居中の部屋は物理鍵のまま残すほうが合理的です。
売買仲介の電子契約も同じです。住友不動産ステップは専門のサポートチームを置いてから全店に広げました。推進担当が営業との兼務1名しかいない会社が、承諾書の取得手順を決めないまま電子契約サービスだけを入れると、紙と電子の手続きが並走して担当者の作業が増えます。月の契約件数が数件で、電子契約を希望する顧客がいない段階なら、導入は見送って構いません。
よくある質問
不動産DXの事例を調べる段階で多い質問を5つ取り上げます。
不動産DXの成功事例はどの業務に多いですか?
効果の数値まで公表されている事例は、内見と鍵管理、契約書面の電子化、賃貸管理の入居者対応に集中しています。どれも件数が多く、毎回同じ手順を踏む作業で、削減量を件数や時間で数えやすいことが共通点です。代表例はレオパレス21のスマートロックで、2024年の繁忙期に約5万8,000件の鍵の受け渡しが不要になったと発表されています。反響対応や追客の自動化も多く紹介されていますが、社名と数値を併せて公表した事例は一次資料で確認できませんでした。
中小の不動産会社でも事例のような成果は出せますか?
出せますが、削減量は自社の件数に比例して小さくなります。大手の事例の数値をそのまま期待せず、事例の会社と自社の管理戸数や契約件数の比で効果を縮めて試算してください。明和不動産のセルフ内見のように、既製のスマートロックとLINEを組み合わせた運用は中規模の会社でも再現しやすい例です。国土交通省も従業員概ね20名以下の宅建業者を対象に、IT重説と電子契約の導入を支援する実証事業を令和7年に行っています。
不動産DXの効果は何で測ればよいですか?
工程ごとに指標を1つだけ決め、導入前の値を1か月分記録します。内見なら鍵の受け渡し件数か内見1件あたりの調整連絡の回数、契約なら申込から契約締結までの日数、管理なら入居者からの電話件数が測りやすい指標です。反響工程は成約率ではなく、反響から初回連絡までの時間で測ると、ツール以外の要因が混ざりにくくなります。導入前の値がないと、1年後の契約更新の判断で効果を説明できません。
売買仲介でも電子契約は使えますか?
使えます。2022年5月18日の宅地建物取引業法の改正で、重要事項説明書や売買契約書を電子で交付できるようになりました。住友不動産ステップは2026年4月1日から全国全店の売買仲介店舗で電子契約を始めており、電子交付の売買契約書には印紙税がかかりません。ただし売主・買主・仲介会社の三者間で書類を取り交わすため、双方の承諾の取得や電子署名の手順づくりといった準備が賃貸より重くなります。準備の担当を決めてから導入してください。
不動産DXの失敗事例にはどんなものがありますか?
多いのは、既存の入力作業を残したままツールを足し、担当者の作業がかえって増える型です。物件情報を自社システム・レインズ・ポータルへ別々に入力している状態で内見予約ツールを入れると、入力先がもう1つ増えます。電子契約で承諾を取らない顧客向けの紙の手順を決めずに導入し、紙と電子が並走するケースもあります。もう1つは、大手の事例を規模の前提ごと真似ることです。店舗の集約が回収の柱になっている投資を、店舗を減らさない会社が同じ規模で行うと回収できません。
関連記事
- 賃貸管理システムとは?機能・種類と選び方、自社開発が必要になる判断まで解説:入居者アプリやスマートロックと連携させる管理側の基盤を選ぶときに読む記事です。
- 不動産業務支援システムとは?種類・機能の全体像と比較の判断軸、内製外注の見極め:事例で使われているシステムの分類と比較の観点を整理しています。
- 不動産テックとは?カオスマップ第12版が示す14領域と自社の投資領域の決め方:市場にどんな領域のサービスがあるかの全体像を確認できます。
- 小売DXの事例6選|公表数値で見る成果と、自社で再現するための条件と体制:業種は違いますが、公表数値の読み方と再現条件の考え方は共通です。