Society 5.0(ソサエティ5.0)は、2016年1月に閣議決定された第5期科学技術基本計画で日本政府が示した未来社会の姿です。内閣府は「サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する人間中心の社会」と定義しています。この記事では、狩猟社会から情報社会までの1.0〜4.0との違い、仕組み、メリットとデメリットに加え、2026年3月の第7期計画でこの言葉がどう扱われたかまで、政府資料の原文と数値で整理します。
まとめ:Society 5.0の定義と現在の位置づけ
- Society 5.0は、狩猟社会(1.0)・農耕社会(2.0)・工業社会(3.0)・情報社会(4.0)に続く5番目の社会として、第5期科学技術基本計画(2016年度〜2020年度)で提唱されました。
- 4.0との違いは、人が情報を探しに行く社会から、IoTで集めたデータをAIが解析して現実の側へ返す社会への転換です。
- 第6期計画(2021年度〜2025年度)はSociety 5.0を「一人ひとりが多様な幸せ(well-being)を実現できる社会」と言い直し、本文で72回使いました。
- 第7期計画(2026年度〜2030年度)では本文での言及が1回に減り、「従来の Society 5.0 を念頭に置きつつ」、持続的な経済発展と国家安全保障を重視する社会像を示しました。多様なwell-beingの実現も引き続き掲げています。
- デメリットの論点を数字で確かめられるのは、80歳以上のインターネット利用率37.1%(2025年)に表れるデジタルデバイドと、2015年の10倍に増えたNICTERのダークネット観測パケット数です。
以下、定義と1.0〜4.0との違いから順に、計画ごとの位置づけの変化、実装例、デメリットまでを見ていきます。
Society 5.0の意味と「超スマート社会」の定義
内閣府のSociety 5.0のページは、これを「我が国が目指すべき未来社会の姿」とし、第5期科学技術基本計画(平成28年1月22日閣議決定)で初めて提唱されたと説明しています。読み方は「ソサエティ ごーてんぜろ」が一般的で、「ソサエティ5.0」と表記されることもあります。
第5期計画の本文では、Society 5.0よりも「超スマート社会」という語が中心でした。超スマート社会は「必要なもの・サービスを、必要な人に、必要な時に、必要なだけ提供し、社会の様々なニーズにきめ細かに対応でき、あらゆる人が質の高いサービスを受けられ、年齢、性別、地域、言語といった様々な違いを乗り越え、活き活きと快適に暮らすことのできる社会」と定義されています。Society 5.0はこの超スマート社会を実現する一連の取組を指す名前として置かれ、脚注で「狩猟社会、農耕社会、工業社会、情報社会に続くような新たな社会を生み出す変革を科学技術イノベーションが先導していく、という意味を込めている」と説明されています。
つまり「5.0」は技術の版番号ではなく、人類史の社会区分に番号を振ったものです。製造業の「インダストリー4.0」のように産業の変化だけを指す言葉とは、対象の広さが違います。
Society 1.0から5.0までの違い
| 区分 | 社会 | 価値を生む中心 |
|---|---|---|
| Society 1.0 | 狩猟社会 | 狩猟・採集 |
| Society 2.0 | 農耕社会 | 農地と定住 |
| Society 3.0 | 工業社会 | 機械による大量生産 |
| Society 4.0 | 情報社会 | コンピュータとインターネット |
| Society 5.0 | 超スマート社会 | 現実のデータとAIの循環 |
1.0〜4.0の名称は内閣府の定義どおりで、右列は各社会の特徴を要約したものです。
情報社会(Society 4.0)で残った課題
平成30年版情報通信白書は、内閣府の説明を引いて「これまでの情報社会(Society 4.0)では、社会での情報共有が不十分であった」と書いています。インターネットは普及しても、データは組織や分野ごとに閉じており、必要な情報を探して分析するのは人の仕事でした。少子高齢化や地方の過疎化といった課題に、情報技術がまだ十分に届いていなかったという認識です。
Society 5.0におけるデータ共有とAI解析結果の還元
同じ白書は、Society 5.0では「IoT(Internet of Things)で全ての人とモノがつながり、様々な知識や情報が共有され」、「人工知能(AI)により、必要な情報が必要な時に提供されるようになり、ロボットや自動走行車などの技術で、少子高齢化、地方の過疎化、貧富の格差などの課題が克服されます」と引用しています。4.0との差は「情報を使う主体」にあります。4.0では人が端末から情報を取りに行き、5.0では現実世界のデータが自動で集まり、解析結果が人や機械の動きとして現実に戻ってきます。
サイバー空間とフィジカル空間を融合させる仕組み
Society 5.0の技術的な骨格は、フィジカル空間(現実)でデータを集め、サイバー空間(仮想)で解析し、結果をフィジカル空間に返す循環です。内閣府は第6期計画の説明で、サイバー空間に「社会のあらゆる要素をデジタルツインとして構築し」、制度やビジネス、都市や地域の整備を再構成したうえで現実に反映すると書いています。
第5期計画は、この循環を支える基盤技術としてサイバーセキュリティ、IoTシステム構築、ビッグデータ解析、AI、デバイスを挙げ、強みを持つ技術としてロボット、センサ、バイオテクノロジー、素材・ナノテクノロジー、光・量子を挙げました。サイバーセキュリティが最初に並んでいる点は、後で触れるデメリットとつながります。
第5期から第7期までの計画で変わったSociety 5.0の扱い
Society 5.0の政策上の位置づけは、2016年の定義に加え、第6期・第7期の基本計画まで比較すると変化を追えます。3つの計画の本文PDFから抽出したテキストで語の出現回数を数えると、次のとおりです(目次を含む)。
| 計画 | 期間 | 閣議決定 | 「Society 5.0」 | 「超スマート社会」 |
|---|---|---|---|---|
| 第5期 | 2016〜2020年度 | 2016年1月22日 | 3回 | 29回 |
| 第6期 | 2021〜2025年度 | 2021年3月26日 | 72回 | 1回 |
| 第7期 | 2026〜2030年度 | 2026年3月27日 | 1回 | 0回 |
集計の対象は内閣府が公開している第5期・第6期・第7期の本文PDFの全ページです。Pythonのpypdfでテキストを抽出し、空白と改行をすべて除いたうえで「Society5.0」「超スマート社会」の文字列を数えました。抽出時に文字が分割・置換された箇所は数え漏れるため、数件の誤差はあり得ます。それでも、増えて減るという傾向は明確です。
第5期計画:「超スマート社会」が主語だった時期
第5期では「超スマート社会」が29回使われ、Society 5.0はその実現に向けた取組の呼び名でした。計画は、ドイツの「インダストリー4.0」、米国の「先進製造パートナーシップ」、中国の「中国製造2025」を挙げたうえで、ネットワークやIoTの利用をものづくりだけでなく様々な分野に広げると書いています。製造業中心の各国構想に対し、社会全体を対象にした点が日本の打ち出し方でした。
第6期計画:well-beingへの言い直しと投資目標
第6期ではSociety 5.0が計画全体の看板になり、未来社会像は「持続可能性と強靭性を備え、国民の安全と安心を確保するとともに、一人ひとりが多様な幸せ(well-being)を実現できる社会」と言い直されました。数値目標として、5年間で政府研究開発投資約30兆円、官民合わせて約120兆円を掲げています。
この目標の結果は第7期計画の本文に書かれています。官民の研究開発投資は2021年度から2024年度までの合計で86.3兆円となり、「目標額を下回る見込みである」とされました。
第7期計画:強い経済と国家安全保障への重点化
2026年3月27日に閣議決定された第7期計画は、目指す国の姿を「従来の Society 5.0 を念頭に置きつつ、過去5年間の変化も踏まえ」て定義し直しました。新しい社会像は、持続的な経済成長と国家安全保障が確保された「豊かで安全・安心な社会」と、「一人ひとりの多様なwell-beingにチャレンジし、実現できる社会」の2つです。計画の6本柱は「科学の再興」、技術領域の戦略的重点化、科学技術と国家安全保障との有機的連携などで、投資目標は政府60兆円、官民180兆円に引き上げられました。
Society 5.0という語が本文に残るのは、上の引用の1回だけです。概念が否定されたわけではありませんが、第7期基本計画では、Society 5.0を前提としながら、強い経済や国家安全保障を重視する構成になっています。企画書や事業計画でSociety 5.0を根拠に挙げるなら、第7期計画のどの柱に対応するのかまで書かないと、政府の現行方針との対応が読み手に伝わりません。
Society 5.0を進める政府の制度と実装例
SIP・BRIDGE・ムーンショット型研究開発制度の役割
内閣府のSociety 5.0ページは、実現に向けた施策として次の制度を挙げています。
| 制度 | 役割 | 現在の規模・期間 |
|---|---|---|
| SIP(戦略的イノベーション創造プログラム) | 府省連携の研究開発を社会実装まで | 第3期は2023〜2027年度 |
| BRIDGE | 各省の研究成果を社会課題解決へ橋渡し | SIP等の成果が対象 |
| ムーンショット型研究開発制度 | 野心的な長期目標への挑戦的研究 | 目標は10個 |
| スマートシティ | Society 5.0の先行的な実現の場 | 関係府省が都市・地域を支援 |
ムーンショットの10個の目標の中身と、ネットで広がった噂の検証はムーンショット計画を内閣府資料で検証した記事で扱っています。都市単位の取り組みはスマートシティの政府定義と都市OSの成熟レベルが詳しく、地方での展開はデジタル田園都市国家構想から地方創生2.0への再編として進んでいます。
分野別の実装例と関連業種
第5期計画は、取り組む課題として13の重要政策課題を挙げています。エネルギー、資源、食料、医療(健康長寿)、都市・地域の社会基盤、インフラの長寿命化、ものづくり、自然災害、食品安全・生活環境・労働衛生、サイバーセキュリティ、国家安全保障、気候変動、生物多様性です。「Society 5.0の関連業種」を探す場合は、この13分野にデータ収集とAI解析で関わる業種と考えると範囲を絞れます。
実装例として分かりやすいのは交通分野です。国土交通省中部運輸局は2023年3月30日、福井県永平寺町で運行する車両を、道路運送車両法に基づく運転者を必要としない自動運転車(レベル4)として全国で初めて認可しました。同年5月21日に始まったサービスの区間は「永平寺参ろーど」のうち約2kmで、道路に敷設した電磁誘導線をたどって時速12kmで走ります。運転者がいない移動サービスは実現しましたが、走れるのは決められた短い区間に限られます。自動運転による地域課題の解決を評価するには、運行範囲に加え、利用実績や継続運営の状況を確認する必要があります。農業分野の普及率や市場規模はスマート農業の現状で数値を整理しています。
Society 5.0のメリットとデメリット
メリット:人手不足の補完と地域間のサービス格差の縮小
政府資料が想定するメリットは、超スマート社会の定義にある「年齢、性別、地域、言語といった様々な違いを乗り越え」の部分に集約されます。人口が減る地域でも、自動運転や遠隔医療、センサーによるインフラ点検で、人手に頼っていたサービスを維持できるという考え方です。経済面では、第6期計画のとおり研究開発投資を呼び水にして新しい産業を生むことが期待されています。
デメリット1:デジタルデバイドによるサービス利用格差
サービスの利用手段をオンラインだけにすると、インターネットを利用しない人が利用から取り残されるおそれがあります。令和8年版情報通信白書によると、2025年のインターネット利用率は全体で85.7%ですが、年齢別に見ると差があります。
| 年齢階層 | 2024年 | 2025年 |
|---|---|---|
| 全体 | 85.6% | 85.7% |
| 60〜69歳 | 90.4% | 91.2% |
| 70〜79歳 | 69.8% | 71.9% |
| 80歳以上 | 33.1% | 37.1% |
13歳から69歳までは各階層で9割を超えますが、80歳以上は約3人に1人です。高齢化への対応を掲げる構想でありながら、恩恵を最も受けるはずの層ほど利用率が低いという矛盾があります。行政サービスや予約をオンラインに一本化するときは、窓口や電話の経路を残すことが前提になります。
デメリット2:接続機器の増加に伴うサイバーセキュリティ上のリスク
すべての人とモノがつながる社会は、攻撃される入口も増やします。情報通信研究機構(NICT)の観測網NICTERのダークネット観測(インターネット上で到達可能かつ未使用のIPアドレス宛の通信を観測する手法)では、2025年に1IPアドレス当たり約250万パケットのサイバー攻撃関連通信が観測され、2015年の約25万パケットの10倍になりました。これは観測対象のIPアドレス1つ当たり、平均約13秒に1パケットに相当します。ただし、観測通信の約55.0%は調査目的と推測されるスキャンであり、一般利用者がこの頻度で攻撃被害を受けるという意味ではありません。交通や医療の制御がネットワークにつながれば、障害の影響はデータ漏えいにとどまらず、現実の事故になり得ます。
デメリット3:データの集中とプライバシー
移動、購買、健康などの個人データを扱うサービスでは、収集する情報の範囲や利用目的、共有先の設計が課題になります。誰がデータを持ち、どこまで共有するかの線引きが曖昧なまま進めると、監視や差別的な扱いへの懸念が生じます。内閣府も、新技術の社会での使用に伴う倫理的・法的・社会的な課題(ELSI)への対応が必要だとし、自然科学だけでなく人文・社会科学を含む「総合知」を求めています。
実現上の課題:研究開発投資目標の未達見込みと社会実装の条件
第6期の官民研究開発投資は目標120兆円に対し、4年間で86.3兆円にとどまり、目標を下回る見込みと政府自身が書いています。永平寺町の2023年の事例は、運行区間や速度を限定してサービスを開始した例です。事業化を判断する際は、実証実験の成果だけでなく、運営主体、継続費用、利用者の需要まで確認する必要があります。
Society 5.0と似た言葉の違い
| 言葉 | 提唱主体 | 対象 |
|---|---|---|
| Society 5.0 | 日本政府(2016年) | 社会全体 |
| インダストリー4.0 | ドイツ | 製造業 |
| インダストリー5.0 | 欧州委員会(2021年) | 製造業と労働者 |
| スマートシティ | 各国・自治体 | 都市・地域 |
| Society 5.0 for SDGs | 経団連(2017年) | 企業行動 |
インダストリー4.0は工場のデジタル化を中心にした製造業の構想で、第5期計画もSociety 5.0を打ち出す前提として触れています。欧州委員会は2021年1月の報告書で、持続可能性・人間中心・強靭性を掲げるインダストリー5.0を示しました。「人間中心」という語はSociety 5.0と共通しますが、欧州の構想は製造現場の労働者に焦点を当てています。両者の比較は第5次産業革命(インダストリー5.0)の解説にまとめています。
経団連は2017年11月8日に企業行動憲章を改定し、「Society 5.0の実現を通じたSDGsの達成」を柱に据えました。国連のSDGs(持続可能な開発目標)を、Society 5.0の技術で達成するという位置づけです。スマートシティは内閣府の説明でも「Society 5.0の先行的な実現の場」とされ、Society 5.0を都市単位で具体化したものと考えると関係を整理できます。
よくある質問
Society 5.0を簡単に言うとどういう意味ですか?
現実の世界で集めたデータをAIが解析し、その結果を人や機械の動きとして現実に返すことで、経済成長と社会課題の解決を両立させる社会のことです。2016年に日本政府が第5期科学技術基本計画で、狩猟・農耕・工業・情報社会に続く5番目の社会として示しました。
Society 1.0から5.0までは何を指しますか?
内閣府の区分では、1.0が狩猟社会、2.0が農耕社会、3.0が工業社会、4.0が情報社会、5.0がそれに続く超スマート社会です。4.0と5.0の違いは、人が情報を探しに行くか、データが自動で集まり解析結果が届くかにあります。
Society 5.0のデメリットは何ですか?
関連する統計には、年齢別のインターネット利用率と、NICTERの観測パケット数があります。ただし、これらはSociety 5.0によって生じた弊害や被害件数を直接測ったものではありません。2025年のインターネット利用率は80歳以上で37.1%にとどまり、NICTERが観測したサイバー攻撃関連通信は1IPアドレス当たり約250万パケットと2015年の10倍でした。このほか、個人データの集中によるプライバシーの懸念があります。
Society 5.0はいつから始まった言葉ですか?
2016年1月22日に閣議決定された第5期科学技術基本計画で初めて提唱されました。第6期計画(2021年3月26日閣議決定)で中心的な概念となり、第7期計画(2026年3月27日閣議決定)では「従来の Society 5.0 を念頭に置きつつ」新しい社会像が示されています。
Society 5.0の関連業種にはどのようなものがありますか?
政府は業種の一覧を示していませんが、第5期計画が挙げた13の重要政策課題(エネルギー、食料、医療、インフラ、ものづくり、防災、サイバーセキュリティなど)が目安になります。これらの分野でデータを集めるIoT、解析するAI、現実に作用するロボットや自動運転に関わる業種が該当します。