機械判読可能なデータとは、プログラムが人手を介さずに読み取り、集計や連携に回せる構造と形式で作られたデータを指します。PDFの表やセル結合だらけのExcelは、人には読めても機械にはそのまま読めません。2026年3月31日には、デジタル庁などの合同会議で「行政データにおける機械可読性に関するルール」が決まり、レベル1〜3の30項目として基準が示されました。この記事では、定義と30項目の中身、神Excelの直し方、判定ツールHarunobuでの採点の読み方、民間企業がどこまで直すべきかの判断までを整理します。
まとめ:機械判読可能なデータへの第一歩は1シート1表と1セル1データの徹底
機械判読可能かどうかは、ファイル形式だけでは決まりません。ExcelやCSVで保存していても、セル結合・表の外の注記・「同」「〃」の省略が残っていれば、プログラムは表の範囲を読み違えます。デジタル庁のルールは、レベル1「閲覧・転記可能」、レベル2「集計・分析可能」、レベル3「連携・自動化可能」の3段階で到達点を分けています。
民間企業の実務では、システムやBI、生成AIに取り込む予定のある表だけをレベル2まで直し、印刷して使う申請書様式は直さずに入力の受け口を変えるのが現実的です。点検はHarunobuで機械的に採点し、修正は生成AIに直接書き換えさせず、整形プログラムを作らせて毎回同じ結果を出す形にすると、手戻りが減ります。
機械判読可能なデータの定義:オープンデータ基本指針と人が読む表との違い
言葉の出どころは行政のオープンデータ政策です。まず公的な定義を押さえ、そのうえで「人が読める」と「機械が読める」の差を具体例で見ていきます。
オープンデータ基本指針の3要件に含まれる「機械判読に適したもの」の位置づけ
デジタル庁が公開しているオープンデータ基本指針(平成29年5月30日決定、令和6年7月5日改正)は、オープンデータを3つの要件すべてに当てはまる形で公開されたデータと定義しています。営利・非営利を問わず二次利用できるルールが適用されていること、機械判読に適していること、無償で使えることの3つです。
同じ指針は、各府省庁が公開するデータについて「機械判読に適した構造及びデータ形式で掲載することを原則とする」と定めています。つまり機械判読は、オープンデータを名乗るための条件の1つです。人が閲覧するためのPDF公開も続けてよいとしたうえで、構造化しやすいデータは機械可読な形式でも出すことが望ましいとしています。
PDFや画像の表が人には読めても機械判読可能なデータにならない理由
スキャンしたPDFや画像に収まった表は、文字がピクセルの並びとして記録されているだけです。プログラムが値を取り出すには、OCRで文字を起こし、どこが見出しでどこが値かを推定する工程が要ります。この推定で桁や列がずれると、集計結果が静かに壊れます。
テキストで作られたPDFでも事情は大きく変わりません。表の罫線と文字の位置は持っていても、「この数値はどの列の何行目か」という構造は失われています。帳票をデータに起こす方法はAI-OCRで非定型帳票を読み取る仕組みと項目マッピングの判断基準で扱っていますが、元のデータが手元にあるならCSVやExcelで出すほうが、読み取り誤りの心配そのものが消えます。
「機械判読」と「機械可読」の表記の違いと行政文書での使い分け
結論から言えば、2つの言葉が指しているものは同じです。英語のmachine-readableの訳語で、オープンデータ基本指針は要件の箇所で「機械判読に適した」と書き、同じ段落で「機械可読な形式」とも書いています。2026年のルールは表題に「機械可読性」を使っています。
検索する側から見ると、古い資料は「機械判読」、新しいルールや判定ツールの資料は「機械可読性」で書かれていることが多い、という程度の差です。社内の規程やデータ仕様書に書くときは、どちらかに統一しておくと用語の揺れで問い合わせが増えずに済みます。
デジタル庁の機械可読性ルール:レベル1〜3の30項目と各段階で可能になる作業
2026年3月31日の各府省庁DX推進連絡会議(第4回)・デジタル社会推進会議幹事会(第21回)合同会議で決まったルールは、デジタル庁のルール紹介ページで概要が、GitHubでJSONとCSVのコード版が公開されています。
3段階の到達目標とレベル別の項目数・各段階でできる作業の比較表
ルールは段階的に機械可読性を上げる設計です。GitHubで公開されているルールのCSVを数えると、レベル1が15項目、レベル2が6項目、レベル3が9項目で、合計30項目あります。
| レベル | 名称 | 項目数 | 満たすとできること | 代表的な項目 |
|---|---|---|---|---|
| レベル1 | 閲覧・転記可能 | 15 | プログラムが表の範囲を正しく読み取れる | 1セル1データ、セル結合をしない |
| レベル2 | 集計・分析可能 | 6 | 列ごとに型が揃い、そのまま集計できる | 数値に文字を混ぜない、選択肢の標準化 |
| レベル3 | 連携・自動化可能 | 9 | 別データと突き合わせ、処理を自動化できる | コード表の別添、縦持ち形式 |
行政機関がこれから公表するオープンデータは、少なくともレベル1を満たすよう取り組むとされています。民間の社内データに義務はありませんが、取り込み先のシステムが何を前提にしているかを測る物差しとしてそのまま使えます。
レベル1の15項目で多い違反:セル結合・表外の注記・空白とゼロの混同
レベル1は「機械が表を表として認識できるか」を問う項目群です。15項目のうち、事業会社のExcelでよく引っかかるものを頻度の高い順に並べると次のとおりです。
- L1-12 セルの結合をしていないか(見出しや同じ値の行をまとめた結合)
- L1-04 データ本体と無関係な情報がないか(表の上のタイトル、下の注記や作成者名)
- L1-02 1シートに複数の表が掲載されていないか
- L1-07 1セル1データか(「東京都千代田区/03-xxxx」のような同居)
- L1-09 空白とゼロが区別されているか(未回答と0件が同じ見た目)
- L1-11 書式でデータの違いを表現していないか(赤字=要対応、などの色分け)
実務ではまずL1-12とL1-04の2つを直せば、取り込みエラーの大半が消えます。色分けで意味を持たせている表は、その意味を「状態」列として文字で持たせ直すまで、どのツールでも読めません。
レベル2の6項目とレベル3の9項目:数値属性・コード表・縦持ち形式
レベル2は列単位の一貫性を見ます。L2-01は「1,200円」「約30」のように数値に単位や記号を混ぜないこと、L2-04は「株式会社」「(株)」「㈱」のような選択肢の表記ゆれを揃えることです。L2-06は数式を値に変換して残すことを求めています。参照先が壊れると値が変わる表は、受け取った側で再現できないためです。
レベル3は、他のデータとつなぐための決まりです。L3-05で時間軸を西暦かe-Stat準拠の表記に揃え、L3-06で地域を標準地域コードか正式名称で書き、L3-08でデータの定義・更新履歴・文字コードとBOMの有無まで記します。L3-09の縦持ち形式は、年度を列に並べる横持ちをやめ、「年度」列と「値」列の組で1行1件にする形です。
神Excelを機械判読可能なデータに直す手順:違反の多い4つの型と直し方
デジタル庁の公式noteは、印刷して申請書として使えるように作られたExcelを「神Excel」と呼び、そのままではシステムやAIが扱いにくいと説明しています。ここでは違反の多い型ごとに、直す順番と崩れやすい箇所を示します。
セル結合と「同」「〃」の省略を各行へ値を埋める形に戻す作業手順
結合セルは、結合を解除すると先頭セルにだけ値が残り、残りは空白になります。解除したら、空白を直上の値で埋める作業までが1組です。Excelなら空白セルだけを選択し、直上セルを参照する式を一括入力してから値に変換する手順が使えます。
「同」「〃」「同上」で省略した行も考え方は同じです。人は上の行を見て補いますが、プログラムは「同」という文字列を値として読みます。L2-02は全行に値を省略せず入れることを求めているので、記号をすべて実際の値へ置き換えます。
1シート複数表と表外のタイトル・注記・非表示行を分けて矩形にする方法
1つのシートに「当月」「前年同月」の2表を並べている場合は、シートを分けるか、「対象期間」列を足して1表に縦へ積みます。後者のほうが、あとで比較や集計をするときに扱いやすくなります。
表の上のタイトルや下の注記は、別シートの「説明」に移します。非表示の行・列は残すと取り込み時に現れるので削除します(L1-13)。1行目が項目名、2行目からデータという矩形にそろえば、ローデータの形式とExcelでの扱い方で説明している、集計前の素のデータと同じ状態になります。
単位付きの数値・和暦・選択肢の表記ゆれを列ごとの決まりでそろえる方法
単位は値から外し、項目名に「売上(千円)」のように書きます。和暦の「R8.4」「令和8年4月」が混在する列は、西暦の「2026-04」に寄せれば、L3-05にも沿った表記です。選択肢の表記ゆれは、正しい表記の一覧(コード表)を先に作り、それに照らして置き換えると漏れが出にくくなります。
手作業で直す件数が数百行を超えるなら、Excelのパワークエリ(Power Query)の置換と型変換で手順として記録しておくと、翌月の同じ表に同じ処理を繰り返せます。
横持ちの年度列を縦持ちに変える理由と変換で崩れやすい合計行の扱い
「2024年度」「2025年度」「2026年度」を列に並べた横持ちの表は、年度が増えるたびに列が増え、取り込み側の定義を毎年直すことになります。縦持ちにすれば年度が増えても行が増えるだけです。Power Queryの「列のピボット解除」を使えば、横持ちから縦持ちへ一度で変換できます。
崩れやすいのは表の中に紛れた合計行と小計行です。縦持ちに変換すると「合計」が地域名や部署名と同じ列に並び、集計すると二重計上になります。変換の前に合計行と小計行を削除し、合計は取り込み先で計算させるのが安全です。
Harunobuで機械可読性を採点する仕組みと結果を読むときの注意点
Harunobuは、デジタル庁のFact & Data Unitが開発し、GitHubのリポジトリで公開している判定ツールです。ルール本体のJSON・CSVと同じリポジトリに入っています。
Harunobuの採点モード3種と100点満点・強制0点の判定の仕組み
対応する入力はExcel(.xlsx・.xlsm)、CSV、TSVで、Python 3.10以上で動きます。採点はレベルごとに100点満点で、重大な違反があったレベルは強制的に0点になり、その理由も示される仕組みです。READMEによると30ルールが実装され、重大度はFATAL・CRITICAL・MAJOR・MINORの4段階で配点が決まります。
| モード | 対象レベル | 用途 |
|---|---|---|
| lite | レベル1のみ | まず取り込めるかを見る簡易チェック |
| standard(既定) | レベル1とレベル2 | 集計に回す表の通常点検 |
| thorough | レベル1〜3 | 他データと連携する表の詳細分析 |
使い方はブラウザ画面、コマンドライン、Python APIの3通りです。コマンドラインでは uv run harunobu analyze data.xlsx --mode thorough --out-path result.json のように実行し、違反したセルの位置とルール、理由を含むJSONを保存します。ライセンスは、ルールのJSON・CSVと文書が公共データ利用規約第1.0版(PDL1.0)、ツール部分がMITです。
判定対象外の4ルールと誤検知しやすいタイトル行・小計の空白行
100点は「30項目すべてに適合」を意味しません。既知の制限事項をまとめた文書によると、L3-02(コード表の別添)、L3-03(特殊記号の定義)、L3-08(定義・更新履歴)は自動判定が難しいため常にパス扱いで、L3-07(年によるフォーマットの変動)も単一ファイルでは判定されません。
逆に、正当な作りでも減点される場面があります。表の直前のタイトル行や出典の注記はL1-04違反として報告され、小計のための意図的な空白行はL1-03違反になります。採点は改善箇所の一覧として読み、点数そのものを社内の合否基準にするのは避けたほうが無難です。
採点結果のJSONを生成AIに渡して整形プログラムを作らせる流れ
デジタル庁の公式note(2026年10月21日公開)は、Harunobuを決定論的なルール判定にした理由を、100万ファイルを判定して1%誤れば1万ファイルが間違い、しかもどれが間違いか分からなくなるからだと説明しています。同じnoteが紹介している整備の流れは次の5段階です。
- 機械可読性に課題があるファイルをHarunobuで判定する
- 判定結果のJSONと元ファイルを生成AIに読ませる
- 生成AIに、データを整形するプログラムを書かせる
- そのプログラムを実行して整形後のファイルを作る
- 整形後のファイルを検証し、必要ならHarunobuで再判定する
要は3番目です。生成AIにファイルを直接書き換えさせると、実行のたびに結果が変わる恐れがあります。整形プログラムを介せば、同じ入力から毎回同じ出力が得られる仕組みです。なお、Harunobuの判定補助AIを有効にするとデータが外部のAI APIへ送られる仕様のため、Harunobuの説明ページも所属組織のセキュリティポリシーに従うよう案内しています。
民間企業が機械判読可能なデータへ直すべき表と手を付けない表の判断基準
行政のルールを社内のExcel全部に当てはめると、直す手間が使い道を上回ります。直す対象は「その表を次にどこへ流すか」で決めます。
システム取り込み・BI・RAGに回す表はレベル2まで直す価値がある条件
直す価値がはっきりあるのは、毎月か毎週同じ形で更新され、かつ取り込み先が決まっている表です。基幹システムへの取り込み、BIでの集計、生成AIの検索対象(RAG)がその代表で、レベル2を満たしていないと取り込みのたびに人が手直しすることになります。RAG構築の手順とデータ整備の進め方でも、精度を左右するのは前処理の段階です。
レベル3まで進めるのは、部署をまたいでデータを突き合わせる場合に限ってよいでしょう。地域コードや時間軸の統一は、他のデータとつながないうちは手間に見合う効果が出ません。
印刷前提の申請書様式は直さず入力の受け口を変えるべき業務上の場面
見送るべきなのは、紙に印刷して押印や手書き追記をする前提で作られた申請書・報告書の様式です。セル結合と方眼のレイアウトこそが様式の役割なので、機械判読可能に直すと今度は印刷物として使えなくなります。
この場合は様式を直すのではなく、入力をWebフォームや入力用の別シートで受け、印刷用の様式はそのデータから出力する形に変えます。年に数回しか集計しない表、集計先の決まっていない一時的な表も、直す対象から外して構いません。
毎月届く帳票を整形プログラムで変換する体制と外部に任せる範囲
取引先や拠点から毎月同じ形のExcelが届く場合、送り手に様式を変えてもらうのは現実的でないことが多いものです。受け手側で「届いた神Excelを整形プログラムで機械判読可能な形に変換し、取り込み先へ渡す」処理を1本持てば、送り手の負担を増やさずに済みます。データの抽出・変換・取り込みの考え方はETLの仕組みとツール選定で整理しています。
体制は、様式ごとに整形プログラムを1本作り、Harunobuなどの判定を受け入れ検査として通す形が保守しやすくなります。どの表から直すか、取り込み先をどう決めるかといった全体設計から相談したい場合は、一創のDXコンサルティングで、データ整備の範囲決めから整形・連携処理の開発まで支援しています。
よくある質問
機械判読可能なデータとデジタル庁のルール、Harunobuについて、よく寄せられる疑問に答えます。
PDFで公開しているデータは機械判読可能なデータに当たりますか?
原則として当たりません。デジタル庁の機械可読性ルールのL1-01は、ファイル形式を機械が直接読み取れるExcelやCSV等にすることを求めています。PDFは閲覧には向いていますが、値を取り出すにはOCRや位置からの推定が必要で、読み取り誤りが入り込みます。人が読むためのPDFは残しつつ、同じ内容をCSVかExcelでも並べて公開するのが、オープンデータ基本指針の考え方にも沿った形です。
ExcelとCSVのどちらで作れば機械判読可能なデータになりますか?
どちらでも構いません。ルールのレベル1はExcelまたはCSVを認めています。差が出るのは中身の作り方で、Excelで注意が必要なのは、セル結合・書式による色分け・数式・非表示行といったExcel固有の違反です。CSVでは1行1データと、カンマを含む値をダブルクォーテーションで囲むことがルールに挙がっています。Excel固有の機能を使っていない表なら、CSVで出すと受け取り側の環境を問いません。
Harunobuは民間企業のデータにも使えますか?
使えます。ツール部分はMITライセンスで公開されており、Python 3.10以上が動く環境ならWindows・macOS・Linuxで動作します。判定は行政データ向けのルールに沿ったものですが、セル結合や1シート複数表といった違反は民間のExcelにもそのまま当てはまる内容です。リポジトリはIssueの受け付けをツール部分に限っており、Pull Requestは受け付けていない点は把握しておくと迷いません。
Harunobuで100点なら機械判読可能なデータだと言い切れますか?
言い切れません。コード表の別添、特殊記号の定義、データの定義と更新履歴の3ルールは自動判定の対象外で常にパス扱いになり、年によるフォーマットの変動も単一ファイルでは判定されません。100点は「機械で判定できる範囲で違反が見つからなかった」という意味です。コード表や定義書は、人が別途そろえる必要があります。
機械判読可能なデータへの変換を生成AIに任せても大丈夫ですか?
ファイルを直接書き換えさせるより、整形プログラムを書かせて実行する形をおすすめします。デジタル庁のnoteも、推論による誤りを避けるために整形プログラムを介す手順を紹介しています。同じ種類の統計や年度違いの同じ系列など、まとまりごとに1本作れば再利用も可能です。社外の生成AIサービスに業務データを渡すかどうかは、所属組織の利用ルールに従って判断してください。
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