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女性活躍推進法とは?2016年施行の女性の社会進出促進法の目的・概要をわかりやすく徹底解説【企業が知っておくべき基礎知識】

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女性活躍推進法とは?2016年施行の女性の社会進出促進法の目的・概要をわかりやすく徹底解説【企業が知っておくべき基礎知識】

女性活躍推進法(正式名称:女性の職業生活における活躍の推進に関する法律)は、働く場面で女性が個性と能力を十分に発揮できる社会を実現することを目的とし、2015年8月に成立、2016年4月に施行された法律です。この法律は当初2015年度から10年間の時限立法(2026年3月31日失効予定)として制定され、2025年度末までを適用期間としていました。同法により、国や地方公共団体、そして一定規模以上の企業に対し、女性が活躍できる職場環境を整備するための具体的な取り組みが義務付けられています。
具体的には、常時雇用する労働者が101人以上の民間企業(当初は301人以上、後述の改正で拡大)は、以下の事項を法的義務として遂行する必要があります:

一般事業主行動計画の策定・届出

自社の女性の活躍状況を把握し、課題を分析したうえで、改善に向けた数値目標や取組内容を定めた行動計画を策定し、公表・労働局へ届け出る(*101人未満の小規模事業主は努力義務)

女性活躍に関する情報公表

自社の女性の採用・登用や働き方に関する情報を公開し、求職者等が閲覧できるようにする
このように、女性活躍推進法は企業に対し行動計画の策定と情報の「見える化」を求めることで、働く女性が活躍しやすい環境作りを後押しするものです。なお罰則規定はありませんが、後述するように企業にとって人材確保や業績向上に資する取り組みであり、また社会的要請も高いことから、計画策定・情報公開の義務を通じて各社の自主的な取り組みを促す狙いがあります。
参考:女性活躍推進法は制定当初、2025年度末で失効する予定でしたが、依然として日本のジェンダー格差是正には時間を要することから法律の適用期間を10年延長する方向で議論が進められています。例えば2024年10月には有識者から10年延長の提言がなされ、厚生労働省も同年12月に法改正案を取りまとめました。この改正案では、従来の取り組みに加えて女性特有の健康課題やハラスメント対策の行動計画への組み込みなどが指摘されており、今後も女性活躍推進を継続強化していく方針が示されています。

女性活躍推進法が制定された背景とは?少子高齢化による労働力不足やジェンダー格差など社会的必要性を詳しく解説

女性活躍推進法が制定された背景には、大きく分けて少子高齢化による労働力不足への対応と、依然残る男女間の格差是正という社会的課題があります。それぞれ詳しく見ていきましょう。

労働力人口の減少と女性の未活用労働力

日本の労働力人口は1998年の約6,793万人をピークに減少に転じており、将来の人手不足が深刻に懸念されています。その中で、就業を希望しながらも様々な理由で働いていない女性が約161万人も存在し、この未活用の女性労働力の活用が急務となっています。また、女性の就業率自体は近年上昇しているものの、依然として出産・育児を機に離職せざるを得ないケースも少なくありません。第1子出産後の就業継続率は近年約7割まで高まってきたものの、それでも望みながら離職する女性がいる現状があります。さらに、出産・育児で離職後に再就職する場合、多くの女性がパートなどの非正規雇用にとどまっており、女性雇用者に占める非正規の割合は実に53.4%にも達しています。こうした状況が、女性のキャリア継続を阻み、結果的に労働力の不足と女性の経済的自立の遅れにつながっています。

管理職における女性比率の低迷とジェンダー格差

日本では企業の管理職(課長級以上)に占める女性の割合は約12.1%に留まり、緩やかに増加しているものの国際的に見ると依然低水準です。意思決定層への女性参画の遅れや男女間の賃金格差も顕著で、世界経済フォーラム(WEF)のジェンダーギャップ指数では、日本は2025年版で146か国中118位という位置にあります(教育66位・健康50位に対し、経済112位・政治125位と経済・政治分野で大きな遅れ)。このように法制度上は男女雇用機会均等法の施行(1986年)以来、女性差別の禁止など整備が進んできたものの、実態としては女性の継続就業の難しさや昇進機会の乏しさが残り、他国に比べ社会進出が遅れているのです。
以上の背景から、「働きたい女性が十分に能力発揮できる社会」の実現は日本の喫緊の課題となりました。少子高齢化で労働力が減少する中で女性の力を最大限に活用することは、日本経済の持続的発展にも直結する重要事項です。女性活躍推進法は、この状況を打開するため、企業に積極的な行動計画策定を義務付けることで女性の労働参加を後押しし、男女間格差の是正と経済社会の活性化を同時に図る制度的枠組みとして制定されました。

女性活躍推進法の改正ポイントを解説!対象企業の拡大や女性活躍に関する情報公表の強化など近年の改正内容を徹底解説

女性活躍推進法は施行後、社会のニーズの変化に合わせて段階的に改正が行われてきました。特に2020年以降の主な改正ポイントをまとめます。

2020年(令和2年)改正

大企業における行動計画策定および情報公表の手法が見直されました。2020年4月施行の改正では、301人以上の企業に対し行動計画策定時に「①女性労働者に対する職業生活に関する機会の提供」「②職業生活と家庭生活との両立に資する雇用環境の整備」という2区分からそれぞれ1項目以上の取り組み目標を選ぶことが義務化され、また2020年6月施行の改正では情報公表についても同様に①②各区分から1項目以上公表する形に変更されました。さらに同年6月の改正で、女性活躍推進の取り組みが特に優良な企業を認定する「プラチナえるぼし」制度が創設され、既存のえるぼし認定企業の中から5項目すべてを満たし高水準の成果を上げた企業をプラチナ認定する仕組みが導入されています。

2019年改正(2022年施行)

2022年4月1日施行の改正法で、行動計画策定・届出および情報公表義務の対象となる企業規模が拡大されました。これにより従来は努力義務だった従業員101人以上300人以下の中小企業も義務対象となり、常時101人以上の企業はすべて一般事業主行動計画の策定・届出と女性活躍に関する情報公表が法的義務となりました。

2022年7月改正

2022年7月からは、301人以上の大企業に対し情報公表項目の追加が行われ、「男女の賃金の差異(女性の賃金が男性の何%か)」の公表が新たに必須化されました。これにより大企業は従来からの項目と合わせて合計3項目以上の女性活躍情報を毎年公開する必要があります(中小企業は①②区分通じて1項目以上)。

2024年以降の検討

前述のとおり女性活躍推進法は当初2025年度までの時限立法でしたが、2024年10月の有識者提言を受け10年間の延長が検討されています。厚労省案では、延長後は単に期間を延ばすだけでなく、行動計画に女性の健康課題への対応や職場のハラスメント防止策の強化も盛り込むことが提案されています。背景にはM字カーブの緩和など一定の進展はありつつ、依然L字カーブ(出産後の正社員復帰の少なさ)や男女賃金格差など課題が残存し、ジェンダーギャップ指数でも日本は114位(2024年)と低迷している現状があるため、さらなる継続的取り組みが必要と判断されたためです。2025年6月には延長を含む改正法が公布されており、法の有効期限延長と新たな課題への対応が正式に進められる見込みです。

女性活躍推進法で企業に求められる3つの義務とは?行動計画の策定や情報公表など企業が実施すべき取り組みを解説

女性活躍推進法に基づき、企業(従業員101人以上)に課せられる主な義務は次の3点です(国・地方公共団体もそれぞれ計画策定義務があります)。これらは法の定めるところであり、確実に履行する必要があります。

1. 自社の女性活躍状況の把握と課題分析

まず、企業は自社における女性の採用・継続勤務・労働時間・管理職登用などの現状データを収集し、女性の活躍に関する状況を的確に把握するとともに、改善すべき課題を分析する義務があります。 (例:採用比率や平均勤続年数の男女差、残業時間や有給取得状況、管理職に占める女性割合等を把握します。)

2. 一般事業主行動計画の策定・届出・社内外への公表

上記の分析を踏まえ、女性活躍推進のための具体的目標と取組内容を盛り込んだ行動計画を策定します。計画には達成すべき数値目標(例:○年までに管理職の女性比率○%など)や取組内容、期間(おおむね2~5年)等を定め、策定後はおおむね3か月以内に社員への周知と社外への公表を行い、都道府県労働局へ届け出る必要があります。社外公表は厚労省運営の「女性の活躍推進企業データベース」や自社HPへの掲載等により行います。

3. 女性の職業選択に資する情報の公表

法に基づき定められた項目について、自社の女性活躍に関する情報を外部に公開する義務があります。大企業は前述のとおり複数項目の公表が必須であり、中小企業も少なくとも1項目以上を公表します。公表項目の例として「管理職に占める女性割合」「男女別の育休取得率」「月平均残業時間」「男女間賃金差」などがあり、これらを毎年更新して求職者や従業員が閲覧できるようにします。情報公開によって各社の女性活躍状況が「見える化」され、市場を通じた監視が働くことで企業の自主的な取り組みを促す効果も狙われています。
以上の3つが企業に求められる基本的な義務です。特に行動計画については策定して終わりではなく、実施・評価まで含めたPDCAサイクルを回すことが重要です(計画期間終了後は効果を検証し、必要に応じて新たな目標で計画を更新します)。適切な現状把握と計画・情報公開を通じて、企業全体で女性活躍を推進していく体制整備が求められています。

女性活躍推進法は他の関連法と何が違う?男女雇用機会均等法・男女共同参画基本法などとの関係を詳しく解説

女性活躍推進法と混同しやすい関連法として、男女雇用機会均等法や男女共同参画社会基本法、さらには次世代育成支援対策推進法などがあります。それぞれ目的や内容が異なり、女性活躍推進法とは補完関係にあります。その違いを整理します。

男女雇用機会均等法(1986年施行)

事業主に対し、採用・配置・昇進等での男女差別禁止を定めた法律です。雇用の機会均等と待遇の平等を保証することが目的で、違反企業には是正勧告などが行われます。一方、女性活躍推進法は差別是正ではなく積極的改善措置(ポジティブ・アクション)の推進が目的です。均等法下では企業の自主的努力に委ねられていた女性登用策を、女性活躍推進法では行動計画義務など法的枠組みで企業にも積極的役割を負わせた点が大きな違いです。つまり、均等法が機会の平等(守り)だとすれば、女性活躍推進法は能力発揮の後押し(攻め)の法律と言えます。

男女共同参画社会基本法(1999年制定)

男女が対等に社会に参加し、ともに責任を担う社会の実現を目的とした基本法です。扱う分野は政治・経済・教育・地域活動まで幅広く、男性の家庭参加促進なども含めた包括的な内容になっています。女性活躍推進法が職業生活における女性の活躍に焦点を当てた労働分野特化の実行法であるのに対し、共同参画基本法は社会全体の男女平等参画についての理念法と言えます。両者は目的階層が異なり、共同参画基本法の理念を職場で具体化する手段の一つが女性活躍推進法という位置づけです。

次世代育成支援対策推進法(2003年制定)

少子化対策の一環として、企業に子育てしやすい職場環境づくりを促す法律です。企業は子育て支援に関する行動計画(一般事業主行動計画)を策定する努力義務があり、優良企業は「くるみん認定」されます。女性活躍推進法と計画策定を企業に求める点で似ていますが、目的は「子育て支援環境の整備」と「働く女性の活躍推進」**で異なります。とはいえ、日本では育児の負担が女性に偏りがちであるため、育児環境整備は結果的に女性の職業継続を助ける側面が強く、両法の施策は重なる部分があります。要するに、次世代育成支援策(育児支援)は女性活躍の前提条件を整えるものであり、女性活躍推進法はそれに加えて女性本人のキャリア形成を直接後押しするものと言えるでしょう。
このように、関連法はそれぞれ目的領域とアプローチが異なりますが、最終的には男女がともに活躍できる社会を実現するという大きな目標で繋がっています。企業としては、均等法による差別禁止を遵守しつつ、女性活躍推進法や次世代育成支援法に基づく行動計画を積極的に実行することで、総合的なダイバーシティ経営を推進していくことが重要です。

女性活躍推進法による企業や社会への効果とは?人材確保・競争力向上など女性活躍推進がもたらすメリットを解説

女性活躍推進の取り組みは法遵守という側面だけでなく、企業にとって多くのメリットをもたらします。また、社会全体にも大きな波及効果があります。具体的な効果・メリットを確認しましょう。

企業にとってのメリット

女性が働きやすい環境を整えることは、結果的に「優秀な人材の確保」「社員の定着率向上」「企業ブランドイメージの向上」など、企業が抱える様々な経営課題の解決に寄与します。実際、女性活躍推進法には罰則がないにもかかわらず、積極的に取り組む企業が増えているのは、こうした実利面の効果が大きいからです。例えば働きやすい職場環境は女性社員だけでなく男性社員にとっても働きがいを高めるものであり、従業員全体のモチベーションや生産性向上につながります。またダイバーシティ推進企業として評価が高まれば、採用市場での競争力強化や顧客からの支持獲得にもつながります。女性活躍の推進は、女性のみならず男性従業員や経営者にとっても良い影響をもたらすとの指摘もあり、職場環境改革の契機として企業価値を高める効果が期待できます。

社会・経済へのメリット

女性の労働参加が進むことは、少子高齢化で縮小する労働力を補い、日本経済の活性化に直結します。女性活躍による経済効果を試算した研究によれば、日本の女性就業率が男性並みにまで高まればGDPが最大16%押し上げられる潜在力があると指摘されています。また別の試算では、主要先進国並みに女性の労働参加率が上昇すれば一人当たりGDPが4%増加するとの結果もあります。このように、女性の社会進出促進は個々の家庭の収入向上や消費拡大を通じて経済成長を後押しし、税収増による財政健全化にも寄与し得ます。さらに、多様な人材が活躍する社会はイノベーションの創出や持続可能な社会の構築にもつながります。国連のSDGsでもジェンダー平等の達成と女性エンパワーメントが掲げられているように、女性活躍の推進は社会課題解決と経済発展の両面で極めて重要な鍵となっているのです。
このように、女性活躍推進は「企業の競争力強化」と「社会全体の活力向上」という二重の効果をもたらすwin-winの取り組みです。企業は法対応を契機に前向きに女性活用策を進め、人材不足の時代を乗り越える戦略とすることが望まれます。

女性活躍推進を進めるための4つのステップとは?現状把握から行動計画策定、効果測定まで推進の流れを解説

女性活躍を着実に推進するには、計画策定から実行・検証まで計画的に進めることが重要です。一般的に推奨される4つのステップに沿って、その進め方を解説します。

ステップ1:現状把握と課題分析

まずは自社の女性活躍の現状をデータで把握し、課題を洗い出します。具体的には、雇用管理区分ごとに以下の4項目を必ず調査します:

  • 1. 採用 – 新規採用者に占める女性比率
  • 2. 継続勤務 – 平均勤続年数の男女差
  • 3. 労働時間 – 月当たりの総実労働時間や残業等の状況
  • 4. 管理職登用 – 管理職に占める女性割合

これら4項目は企業規模問わず共通の基礎項目で、さらに大企業(301人以上)では「男女の賃金差」も2022年より必須で把握します。加えて、女性の採用・登用機会や育児支援制度の利用状況など、任意の追加項目も含めて自社の特徴を把握します。集まったデータから女性の定着や昇進を阻害している要因を分析し、解決すべき課題を明確化します。

ステップ2:行動計画(一般事業主行動計画)の策定

ステップ1で浮き彫りになった課題を踏まえ、課題解決に向けた具体的なアクションプランである行動計画を立てます。計画には最低限以下の4点を盛り込みます:

  • 計画期間 – おおむね2~5年程度で無理のない期間を設定
  • 数値目標 – 課題に対応した定量的目標(例:「管理職女性比率をxx%に」等)
  • 取組内容 – 目標達成のための具体的施策(研修実施、制度導入等)
  • 実施時期 – 各取り組みの開始時期・実施スケジュール

目標は複数設定しても構いません。厚生労働省や自治体労働局が提供するテンプレートや策定支援ツールも活用しつつ、実効性のある計画を作成します。目標を設定したら、それを実現するための社内施策を具体化し、開始時期を明記します。数値目標は野心的であっても現実的な水準を検討し、着実に達成を目指せる計画とすることがポイントです。

ステップ3:計画の社内周知と外部公表・届出

策定した一般事業主行動計画は、社内および社外に公表し、行政へ届け出ます。社員への周知は社内報掲示やイントラ掲載・メール配信等で行い、社外には厚労省の「両立支援のひろば」や「女性の活躍推進企業データベース」への登録、自社ウェブサイトへの掲載などで公開します。計画策定後、おおむね3か月以内に公表と都道府県労働局(雇用環境均等部)への届出を完了する必要があります。公表と届出の順序は問いませんが、計画を社外に示すことで自社の取り組みを社会にアピールでき、求職者や従業員の期待に応える効果もあります。

ステップ4:取組実行と効果検証(PDCAの徹底)

行動計画は策定・公表して終わりではなく、実際に計画どおり施策を実行し、進捗を管理することが肝心です。計画期間中は定期的に進捗状況を点検し、必要に応じて施策の見直しや追加を行います。そして計画期間終了後には、設定した数値目標の達成度や施策の効果をしっかり検証します。目標未達成や新たに浮上した課題があれば、その知見を活かして次期の行動計画に反映します。計画を更新する場合は変更内容を社内外に公表するとともに、労働局へ変更届を提出します。このようにPDCAサイクルを継続することで、女性活躍推進の取り組みを一過性でなく着実に前進させることができます。
以上の4ステップを順に踏むことで、自社の現状に即した無理のない施策を講じつつ、女性活躍推進を体系的に進めることが可能となります。各ステップで得られた成果や課題を次に活かし、継続的な改善を図る姿勢が重要です。

女性活躍推進が進まないのはなぜ?無意識の偏見や長時間労働文化など取り組みが停滞する理由と課題を徹底分析

女性活躍推進は多くの企業で重要性が認識されつつありますが、現実には思うように進まないケースも少なくありません。その背景には複合的な要因が存在します。ここでは、女性活躍が停滞する主な理由・課題を分析します。

無意識の偏見(アンコンシャス・バイアス)

表立った差別意識はなくとも、組織内に根強い固定観念が残っている場合があります。例えば「責任の重い仕事は女性には気の毒だ」という無意識の思い込みがあると、本人の意思に反して女性社員に重要な業務や昇進機会を与えないことにつながりがちです。実際、「管理職に向いているのは男性」「女性は家庭を優先すべき」といった性別役割の先入観が人事評価や登用に影響を及ぼし、女性の昇進を阻むケースが指摘されています。このようなアンコンシャス・バイアスは自覚しづらいため対応が難しく、女性活躍推進の隠れたブレーキとなっています。

長時間労働など働き方の問題

日本の職場文化として依然残る長時間労働や、仕事と家庭の両立のしづらさも大きな障壁です。特に管理職には「残業もいとわず働くこと」が期待される風潮があり、家庭責任の大きい女性にとってハードルとなります。現に、日本の女性は男性の2倍以上の時間を家事・育児などの無償労働に費やしており、長時間労働が前提の働き方では家庭との両立が困難です。このため「管理職になりたがらない女性」が生じる要因ともなっています。また企業側でも制度上は育休や時短勤務を整備していても、長時間労働が常態化した職場では利用しづらく、結果的に女性の継続就業を阻むケースがあります。働き方改革が進まない限り、女性活躍も頭打ちになりやすいのが現状です。

女性本人の心理的ハードル

組織側の要因だけでなく、女性従業員側にも心理的・社会的要因からキャリア継続や昇進に消極的になるケースがあります。一つは自己効力感の低さです。「自分には管理職は務まらないのではないか」と自ら能力を過小評価してしまい、昇進に手を挙げない女性が少なくありません。内閣府の調査でも女性は男性に比べ自己評価が低い傾向が明らかになっています。またロールモデルの欠如も心理的ブレーキとなります。周囲に女性管理職がほとんどいない職場では、自分がその道を進むイメージが持ちにくく、不安が先立ってチャレンジを諦めてしまうことがあります。さらに、以前から女性が少ない環境では「女性一人が頑張っても組織は変わらない」という諦め感が醸成されている場合もあります。これら女性自身の内面的要因も、環境整備だけでは解消しにくく、女性活躍が進まない一因となっています。
以上のように、女性活躍推進の停滞要因は組織文化と個人意識の双方に存在します。加えて、企業トップや管理職のコミットメントが不足し取り組みが形骸化してしまうことや、制度はあっても利用促進策が不十分なことなども課題に挙げられます。女性活躍を加速するには、無意識の偏見に気づき是正する研修の実施や、長時間労働是正といった働き方改革、そして女性が「自分にもできる」と思えるような環境づくり(メンター制度やロールモデルの提示)など、多面的なアプローチが求められます。

企業が女性活躍を進めるためのポイントは?経営陣のコミットメントや社内の意識改革、柔軟な働き方推進など成功の秘訣を解説

女性活躍を推進している先進企業の事例からは、共通して次のような成功のポイントが見えてきます。それぞれ自社で取り組む際の参考となるポイントを解説します。

経営トップの強いコミットメントと目標設定

女性活躍を本気で進めるには、まず経営陣がその必要性を理解し、明確な意思表示を行うことが不可欠です。トップ自らコミットし、数値目標を掲げて全社にメッセージを発することで、初めて組織全体が動きます。例えば伊藤忠商事では取締役会に「女性活躍推進委員会」を設置し、女性執行役員を登用するための別枠選考ルールを導入するなどトップ主導の改革を行いました。その結果、2024年4月時点で女性執行役員が5名(役員比21%)に増加し、2025年度末には30%超を目指すまでになっています。このように経営トップが旗振り役となり具体策を講じることで、組織ぐるみの女性登用推進が実現します。まずは社長以下経営陣がコミットし、「〇年までに女性管理職〇%」等の明確なビジョンを示しましょう。

社内の意識改革と女性社員のキャリア支援

アンコンシャス・バイアスを含む社内風土の改革も重要です。管理職層を含め全社員を対象にダイバーシティ教育やアンコンシャス・バイアス研修を実施し、それぞれが無意識の偏見に気づき是正する機会を設けることが有効です。加えて、女性社員自身の意識向上策も欠かせません。メンター制度の導入や女性管理職によるロールモデルの提示を通じて、「自分にもキャリアアップできる」という自信と意欲を醸成します。実際、味の素では女性社員向けのリーダー育成プログラム「AjiPanna Academy」を立ち上げ、身近にロールモデルを作り管理職像を具体的に描けるよう支援したところ、管理職候補の女性たちの心理的ハードルが下がり成果を上げています。このように社員の意識改革と能力開発の両面からアプローチすることで、女性活躍を支える社内文化と人材基盤を築くことができます。

柔軟な働き方の推進と両立支援制度の充実

女性が長期的にキャリアを積むには、仕事と家庭を両立できる柔軟な働き方の整備が前提条件となります。フレックスタイム制のコアタイム撤廃や在宅勤務(テレワーク)の拡大、所定労働時間の見直しなど、時間と場所にとらわれない働き方を推進しましょう。味の素ではコアタイムなしのフレックスやテレワーク制度を管理職にも適用し、退社時間の繰り上げ(残業抑制)も徹底することで、育児中の女性でも管理職に挑戦しやすい環境を整備しました。また、出産・育児から復帰しやすくするために育児休業や時短勤務制度の柔軟運用、さらには男性社員の育休取得奨励や社内託児所の設置なども有効な支援策です。加えて、評価・昇進プロセスの透明化と公正な運用も大切です。無意識のバイアスを排除するため、昇進候補者の選抜基準を明確化し、複数の視点で評価する仕組みを導入するといった対応も有効でしょう。柔軟な働き方と公正な評価制度を整えることで、女性が家庭状況に左右されず安心してキャリアアップを目指せる職場になります。
以上のポイントは、女性活躍推進を成功させるための三本柱と言えます。すなわち「トップのコミットメント」「社内風土改革・人材育成」「働き方改革」の三位一体で取り組むことが重要です。これらに加え、進捗を定期的にモニタリングし、成果は社内外に発信していくことも社員の意識づけや企業イメージ向上につながります。「女性が活躍できる会社」に必要な要素を総点検し、自社の弱点を補強する形で戦略的に施策を講じることが、長期的な企業競争力にも直結するでしょう。

女性活躍推進の成功事例を紹介!先進企業の取り組みから学ぶべきポイントと成果(丸亀製麺・三承工業の成功例)

最後に、実際に女性活躍推進で顕著な成果を上げている企業の成功事例を2つ紹介します。それぞれの取り組み内容と得られた成果から、学ぶべきポイントを見てみましょう。

飲食業界:丸亀製麺(トリドールホールディングス)の事例

全国展開する外食チェーン「丸亀製麺」を運営するトリドールホールディングスでは、女性社員のキャリア育成にトップが積極的に関与し、社内のネットワーキングとモチベーション向上を図るユニークな取り組みを行っています。同社では女性管理職候補者を対象とした勉強会・座談会を開催しており、管理職一歩手前のポジションにいる全国の女性マネージャーたちを集めて意見交換や情報共有を行っています。この座談会には丸亀製麺の社長(トリドールHD社長)も参加し、トップから直接メッセージを伝える場にもなっています。経営トップと女性社員がフラットに議論できる機会を設けることで、女性社員の視野が広がり会社への提言や自らのキャリア形成への意欲が高まる効果があります。
こうした取り組みの成果もあって、トリドールHDは女性活躍推進の実績が評価され厚労省のえるぼし認定(段階認定制度)で2つ星を獲得、丸亀製麺事業部門も1つ星認定を受けています。社内の女性社員からは「自分の働きによって丸亀製麺で働く女性の不安解消や離職率低下につなげたい」という前向きな声も上がっており、実際に座談会参加を機に昇進への意欲が高まったとの報告もあります。このように、丸亀製麺の事例ではトップダウンのメッセージ発信とボトムアップの意見交換の場を両立させることで、女性社員のマインドセットを変え組織風土を活性化させています。企業規模が大きく全国に社員がいる場合でも、オンライン等も活用しつつ定期的に交流機会を設けることで、一体感を醸成し女性活躍を推進できる好例と言えるでしょう。

建設業界:三承工業(SUNSHOW GROUP)の事例

中小企業ながら女性活躍や働き方改革を徹底し、大きな成果を上げているのが岐阜県の建設会社三承工業株式会社(SUNSHOW GROUP)です。同社はかつて社員から「ブラック企業」と呼ばれるほどハラスメントや高離職率の問題を抱えていましたが、2012年頃から社風改革に着手し、2015年に女性活躍推進の本格的取り組みを開始して以来、劇的な変革を遂げました。経営トップの西岡社長自らが意識改革の必要性に目覚め、自身とは異なる視点を持つ女性リーダー(寺田氏)を登用して職場環境づくりの指揮を任せたことが転機となりました。ワンマン型だった社長が「助けてほしい」と頭を下げて女性社員に改革リーダーを依頼し、二人三脚で社内の制度整備と風土改革を進めたのです。
その結果、2012年から2022年の約10年間で同社は驚くべき成果を達成しました:

  • 女性スタッフ比率: 14% → 56% に増加
  • 外国人スタッフ比率: 0% → 10% に増加
  • 育休取得後の職場復帰率: 0% → 100% を実現
  • 子連れ出勤(カンガルー出勤)利用率: 0% → 65% に向上
  • 離職率: 53% → 1.6% へ大幅改善
  • 社員数: 約3倍に増加(68名、2023年時点)
  • 役員・社員の年収: 1.35~2倍に上昇
  • 売上高: 約4倍に増加

女性の採用・登用が進んだだけでなく、働きやすい職場づくりが従業員全体の定着率向上と業績拡大に直結したことがわかります。具体策としては、社内託児スペースの整備や子連れ出勤の容認、徹底した残業削減と有給取得推進、さらに社員の健康投資(健康経営)やSDGs活動への参画など、次々と新しい施策を打ち出し実行してきました。それらの取り組みが評価され、同社は2018年「ジャパンSDGsアワード」特別賞受賞、2021年「レジリエンスアワード」最優秀賞受賞など社外からも高い評価を受けています。
三承工業の成功要因は、経営者の意識転換とリーダーシップの下、社員が主体的に動ける風土を醸成したことにあります。トップの西岡社長が自らの頑固一徹な姿勢を省みて柔軟性を身に付け、「母性的な視点」を持つ寺田氏に権限移譲することで社内に多様なリーダーシップを取り入れました。その結果、寺田氏自身もアルバイト事務職から管理職へと大きく成長し、社内の人材育成の牽引役となりました。このように経営トップが自ら学び変化し、それを支える人材を抜擢して任せるという大胆な施策が功を奏し、組織全体の意識改革と業績向上につながったのです。
両社の事例に共通するのは、「経営トップの本気度」「社員のエンゲージメント向上」「柔軟な制度と風土改革」の重要性です。丸亀製麺ではトップと女性社員の直接対話により意欲を引き出し、三承工業ではトップ自らの変革と社員への権限委譲で組織を活性化させました。いずれも会社の文化そのものを変える覚悟を持って取り組んだことが大きな成果を生んでいます。自社の状況に合わせて、これら成功例のエッセンスを取り入れることで、女性活躍推進の次の一歩を踏み出すヒントになるでしょう。
以上、女性活躍推進法の概要から背景、企業に求められる取り組み、そして課題と成功のポイント、事例まで網羅的に解説しました。女性活躍の推進は法対応という枠を超えて、企業経営の重要戦略であり社会的使命でもあります。すべての社員が性別にかかわらず活躍できる職場を目指し、継続的な取り組みを進めていきましょう。それがひいては企業の持続的成長と豊かな社会の実現につながるのです。

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