インテントデータは、企業や個人が製品の購入・導入を検討していることを示す行動の記録です。BtoBでは「どの会社が、いま何を調べているか」を知るために使います。この記事では、データの種類と作られ方、取得方法、違法性の論点、営業とマーケティングでの使い方を順に説明します。違法性の章では、個人情報保護法と電気通信事業法の条文ごとに、どちらの事業者が何を確認すべきかを整理しました。
まとめ:インテントデータの要点
- インテントデータは「何を調べているか」という行動から検討の兆候を読むデータです。業種や従業員数などの属性データとは違い、検討のタイミングが分かります。
- 取得元との関係により、自社で集めるファーストパーティ、提携先から直接受け取るセカンドパーティ、外部の媒体ネットワークなどから集めるサードパーティに分かれます。BtoB向けのサードパーティデータは、個人ではなく企業単位で集計して提供されるのが一般的です。
- 自社サイトの訪問企業は、IPアドレスを組織名に照合して特定します。在宅勤務やモバイル回線からのアクセスは企業に紐づかないことがあります。
- インテントデータ自体は違法ではありません。ただし、Cookieに紐づく閲覧履歴などを受け取って自社の顧客情報と結び付ける場合は、個人情報保護法31条の本人同意が前提になります。
- スコアが高い企業にすぐ営業電話をかけるのではなく、検討段階に合った情報提供から始めると、データの精度の揺れにも対応できます。
閲覧行動は購買意欲そのものではありません。採用候補者や競合企業の調査も含まれ得るため、顧客属性や商談履歴と照合して判断します。
インテントデータの意味と属性データとの違い
インテント(intent)は英語で「意図」を意味します。インテントデータは、購買の意図が行動に表れたものを記録したデータです。6senseは、インテントデータを「アカウント(対象企業)が関心を持っているかどうかを売り手に伝える購買シグナル」と説明しています。Gartnerは、サードパーティのインテントデータを、デジタル上の買い手の行動から得たシグナルを統合し、製品への需要を特定するためのデータと位置づけています。
従来の顧客データとの違いは、分かることの種類にあります。
| データ | 例 | 分かること |
|---|---|---|
| 属性データ | 業種・従業員数・売上規模 | 自社の顧客になりうるか |
| 取引データ | 契約・購買履歴 | 過去に何を買ったか |
| インテントデータ | 料金ページ閲覧・比較記事の閲読 | いま何を検討しているか |
属性データで「狙うべき企業」を絞り、インテントデータで「いま連絡すべき企業」を選ぶ、という組み合わせで使います。BtoBでは1社の中で複数の担当者が情報を集めるため、個人単位ではなく企業(アカウント)単位で集計して扱うのが基本です。
なお、SEOでいう「検索意図(search intent)」は、検索キーワードの背後にある目的を分類する考え方で、営業に使うインテントデータとは別の概念です。検索意図の分類は検索意図の種類とは?Know・Go・Do・Buyの4分類を解説で扱っています。
インテントデータの3分類と取得元の違い
インテントデータは、誰が集めたかで3つに分けられます。
| 種類 | 取得元 | 主な例 | 弱み |
|---|---|---|---|
| ファーストパーティ | 自社のサイト・MA・CRM | 訪問ページ、資料DL、メール開封 | 自社を知らない企業は見えない |
| セカンドパーティ | 提携先の自社データ | 共催セミナーの参加記録 | 提携先の範囲に限られる |
| サードパーティ | 複数の外部媒体を集約する提供元 | 業界メディアでの閲読傾向 | 集計方法が提供元ごとに違う |
ファーストパーティ:自社サイトとMA・CRMの行動記録
6senseは、ファーストパーティのインテントデータを、自社のデジタル資産から直接集めるデータと定義しています。例として、Webサイトの訪問、コンテンツのダウンロード、フォーム送信、メールへの反応、CRMやMAのデータを挙げています。
自社との接点で起きた行動を直接確認できますが、それだけで購買意欲を確定できるわけではなく、自社と接点を持つ前の検討は捉えにくいという限界があります。料金ページや導入事例ページの閲覧は検討が進んだ兆候として重み付けし、ブログ記事1本だけの閲覧とは区別して扱います。本人が自分の意思で提供する好みや回答(ゼロパーティデータ)との違いは、ゼロパーティデータとは?ファーストパーティとの違いと集め方・マーケでの使い方を解説で説明しています。
外部データ:BomboraとG2に見るシグナルの作られ方
外部から取得するデータは、提供元によって作り方が異なります。ここではBomboraとG2の公式説明を比べます。なお、6senseの三分類では、G2やTrustRadiusのようなレビューサイトのデータはサードパーティではなくセカンドパーティに位置づけられています。
Bomboraの「Company Surge」は、数千の媒体サイトやBtoBブランドのサイトが参加する「Data Co-op」の閲読行動を元にしています。2026年9月時点で21,600を超えるトピックを監視し、企業とトピックの組み合わせごとに、直近3週間の活動を過去12週間のベースラインと比べてスコアを出します。スコアが60以上の企業は、そのトピックの閲読が普段より統計的に有意に増えている(spiking)と扱われます。スコアは週末に、その週の活動を元に生成されます。
G2の「Buyer Intent」は、レビューサイト上の行動をシグナルにします。製品プロフィールの閲覧(Profile)、料金ページ(Pricing)、代替製品の比較(Alternatives、Compare)、カテゴリーページ(Category)などを区別します。G2は2022年6月から単一のスコアをやめ、購買段階(Buying Stage)と活動量(Activity Level)の2指標を毎日更新しています。
Bomboraは過去の活動量との比較を重視し、G2はページやシグナルの種類に加え、ページへの関与、滞在時間、閲覧ページ数などから購買段階と活動量を評価します。同じ企業でも提供元によって評価が変わるため、導入前に「何をシグナルとし、どの期間で集計しているか」を必ず確認してください。
インテントデータの取得方法と企業特定の仕組み
自社サイトの訪問企業をIPアドレスで特定する方法
自社サイトの訪問者がどの会社の人かは、アクセス元のIPアドレスを、組織に割り当てられたIPアドレスのデータベースと照合して推定します。IPアドレスと企業の対応情報がデータベースにあれば企業名を推定できますが、固定IPアドレスだからといって必ず判明するわけではありません。
この方法には限界があります。在宅勤務の自宅回線やスマートフォンのモバイル回線からのアクセスは、通信事業者のIPアドレスになるため、企業に紐づかないことがあります。6senseの公式説明では、個人向けのVPNや多数の利用者が共有するVPNのIPアドレスは企業と対応付けにくい一方、会社のVPNを経由したアクセスは本社のIPアドレスに見えるため照合しやすくなるとしています。同社はIPアドレスの照合より先に、自社サイトで発行するファーストパーティCookieや端末IDで企業を特定する段階も設けています。訪問企業の一覧は、使用する識別方法で企業との対応を推定できたアクセスの集計として扱い、件数の増減だけで検討度を判断しないようにします。
外部のインテントデータを購入するときの確認項目
外部データを契約する前に、取得元だけでなく契約プランによる違いも確認します。例えばG2 Buyer Intentはプランによって受け取れるシグナルの種類が異なります。確認項目は次のとおりです。
- データの収集元(どの媒体・サイトの行動か)と、閲覧者への通知・同意の取り方
- 提供される単位(企業単位か、Cookieや端末IDに紐づく単位か)
- トピックの定義と、自社製品に合うトピックが用意されているか
- 更新頻度(週次か日次か)と、スコアを算出する期間
- 自社のCRMの企業情報と突き合わせる方法(ドメイン名、法人番号など)
2番目の「提供される単位」は、次の章で説明する個人情報保護法の論点に直結します。
インテントデータは違法か:個人情報保護法と電気通信事業法
インテントデータの収集や利用を一律に禁止する法律はありません。問題になるのは、個人に紐づく情報をどう受け渡すかと、サイトに設置したタグでどう情報を送るかです。
個人関連情報の第三者提供を定めた個人情報保護法31条
個人情報保護委員会のQ&Aは、Cookieなどの端末識別子について、個人情報に該当しない場合でも、通常は「個人関連情報」に該当するとしています。同委員会のFAQは、個人関連情報の例として、ある個人のWebサイト閲覧履歴や位置情報、性別・年齢・職業などの属性情報を挙げています。
個人情報保護法31条1項は、受け取る側(提供先)が個人関連情報を個人データとして取得することが想定される場合、渡す側(提供元)に対し、提供先が本人の同意を得ているかをあらかじめ確認するよう求めています。この規律は令和2年改正法で設けられ、令和4年(2022年)4月1日に施行されました。確認は、提供先から申告を受けるなどの適切な方法で行います。
同意を取得するのは、原則として情報を個人データとして取得する提供先です。個人情報保護委員会のガイドライン(通則編3-7-2)は、本人が判断するために必要な内容を明確に示したうえで、同意の意思を明確に確認できることを求めています。確認した提供元にも、提供を受けた提供先にも、記録の作成・保存義務があります(法31条3項・30条3項)。法31条1項2号の対象となる外国の第三者へ提供する場合は、その国の個人情報保護制度や提供先の保護措置などの参考情報が本人に提供されていることも確認します。基準に適合する体制を整備した外国の提供先などは、この2号の対象から外れます。
インテントデータに当てはめると、次のように分かれます。
- 企業名とトピックだけの集計データを受け取る場合:法人そのものの情報は個人情報に当たらないため、この規律の中心的な対象ではありません。
- Cookie IDに紐づく閲覧履歴を受け取り、自社の顧客リスト(氏名・メールアドレス)と結び付ける場合:受け取る自社が本人の同意を得ていることが前提です。提供元はその同意を確認しなければ提供できません。
企業単位のデータでも、担当者の氏名や役職と組み合わせれば個人情報として扱う場面が出てきます。どの単位でデータを受け取り、社内で何と結び付けるかを契約前に決めておくことが重要です。
電気通信事業法27条の12の外部送信規律の対象範囲
2023年6月16日に施行された電気通信事業法27条の12(外部送信規律)は、利用者の端末から外部へ情報を送らせるタグやSDKについて、送信される情報の内容、送信先の事業者名、利用目的の通知・公表などを求めています。確認の機会は、通知、公表、同意取得、オプトアウト措置の提供のいずれかで与えます。
ただし、対象は電気通信事業者と「第三号事業」を営む者のうち、総務省令で定めるサービスを提供する者に限られます。総務省のFAQ(問1-12・1-13)は、小売業者が自社サイトで商品を販売する場合は、本来業務の手段として電気通信を使っているにすぎず、外部送信規律は適用されないと回答しています。自社製品を紹介するBtoB企業のサイトも同じ考え方で判断できます。一方、ニュース配信サイトやオンラインショッピングモールなど、サイトの運営自体が事業になっている場合は対象です。インテントデータを集める媒体側のサイトはこちらに当たることが多いため、提供元に外部送信の公表状況を確認しておくと安心です。対象判定の詳細は電気通信事業法とは?外部送信規律の対象判定とタグ管理・同意取得の実装要件を解説で説明しています。
ChromeのサードパーティCookieの扱い
サードパーティCookieは「近く使えなくなる」と説明されることがありますが、Googleの方針は変わっています。Googleは2024年7月22日、ChromeでサードパーティCookieを一律に廃止する代わりに、利用者が選択できる仕組みを導入すると発表しました。2025年4月22日には、現在の設定方式を維持し、新たな選択画面も導入しないと発表しています。さらに2025年10月17日には、Topics、Protected Audience、Attribution Reporting、IP Protectionなど、Privacy Sandboxの多くの技術を廃止すると発表しました。
ChromeはサードパーティCookieを一律には廃止していませんが、利用者の設定やシークレットモードではブロックされます。Safariでも制限が続いています。Cookieに頼る計測は取りこぼしが出る前提で考え、ファーストパーティデータの整備を優先してください。
BtoBでのインテントデータの活用方法
ABMの対象アカウント選定とリードスコアリング
ABM(アカウントベースドマーケティング)では、狙う企業を先に決めてから施策を組みます。属性データで選んだ候補企業のうち、関連トピックのインテントが高まっている企業を優先対象に上げると、広告やコンテンツ配信の予算を絞り込めます。ABMの考え方はアカウントベースドマーケティング(ABM)の基本的な定義とその意義、ツールの機能はABMツールでできることとは?主要機能とその実用例を解説を参照してください。
リードスコアリングでは、属性と行動のスコアを分けます。G2 Buyer Intentのような企業単位のシグナルは企業の優先度に反映し、個人のリードには本人に紐づく行動を加点して、企業全体の関心を各担当者の行動と混同しないようにします。料金ページの閲覧や比較サイトでの閲覧は高く、一般的なトピックの閲読は低く配点します。スコアリングの設計はリードスコアリングとは?その基本的な概要と役割についてで扱っています。
インテントセールスでのアプローチの順序
インテントデータを営業に使う手法は「インテントセールス」と呼ばれます。例えばG2は、Buying StageがAwarenessなら一般的な情報提供、Decisionなら競合との違いの提示を推奨しています。この考え方を接触手順にすると、次のようになります。
- シグナルの種類を確認する(課題の調査段階か、製品比較の段階か)
- 調査段階なら、課題に合った資料や事例を広告・メールで届ける
- 比較段階なら、担当営業から比較のポイントや導入事例を案内する
- 反応を記録し、次回のスコア更新で優先度を見直す
「御社が当社製品を調べていると分かったので連絡した」と伝えると、相手に監視されている印象を与えます。連絡のきっかけは、相手が調べているテーマに沿った情報提供にします。インテントセールスの利点はインテントセールスがもたらす5つのメリットと実感できる効果でまとめています。
インテントデータが機能しない場面と導入の判断基準
次の条件に当てはまる場合、有料のサードパーティデータを導入しても成果につながりにくいと判断します。
- 対象企業の検討状況を営業が継続的に把握できている:外部データを追加しても接触時期や優先順位が変わらず、費用に見合う追加情報を得られない場合は導入を見送ります。
- 自社製品に合うトピックが提供元に無い:トピックが粗いと、関係の薄い閲読でもスコアが上がります。
- 自社サイトの訪問企業すら追えていない:ファーストパーティの計測とCRMの企業名の整備が先です。
- 営業側に「シグナルが出たら誰がいつ動くか」の取り決めが無い:週次でスコアが届いても、対応しなければ費用だけが残ります。
導入する場合は、まず自社サイトの訪問企業データとCRMをつなぎ、商談化した企業にどんなシグナルが出ていたかを数か月分振り返ってから、外部データの購入を検討する順序をおすすめします。見えない検討行動そのものについてはダークファネルとは?可視化できないBtoB購買行動と、コンテンツで捕捉する対策も参考になります。
よくある質問
インテントデータとは何ですか?
製品やサービスの購入・導入を検討していることを示す行動の記録です。Webページの閲覧、資料のダウンロード、比較サイトでの閲覧などが含まれ、BtoBでは企業単位で集計して「いま何を検討しているか」を把握するのに使います。
インテントデータは違法ですか?
インテントデータの利用自体は違法ではありません。ただし、Cookieに紐づく閲覧履歴などの個人関連情報を受け取り、自社の顧客情報と結び付ける場合は、個人情報保護法31条により本人の同意を得ていることが前提になり、提供元はその同意を確認する必要があります。
インテントデータの取得方法には何がありますか?
自社サイトのアクセスログやMA・CRMから集める方法と、外部の提供元からサードパーティデータを購入する方法があります。自社サイトの訪問企業は、IPアドレスを組織のデータベースと照合して特定します。
インテントとはどういう意味ですか?
英語のintentで「意図」という意味です。マーケティングでは購買の意図を指し、SEOでは検索キーワードの背後にある目的(検索意図)を指します。
インテント分析とは何ですか?
インテントデータを集計し、どの企業がどのテーマへの関心を高めているかを判断する作業です。Bomboraのように過去の平均と比べて増加を測る方法や、G2のようにページやシグナルの種類、滞在時間などを組み合わせて購買段階と活動量を評価する方法があります。