3月決算の会社が2026年4月に受け取った注文書は、税法上は2034年5月31日まで保存が要ります。証憑(しょうひょう)とは、注文書・契約書・請求書・領収書など、取引が実際にあったことを裏付ける書類です。この記事では、証憑の範囲と帳票・帳簿との違い、取引の流れで並べた種類一覧、法人税・会社法・消費税で異なる保存期間と起算日の数え方、電子帳簿保存法での保存方法を一次情報の条文とともに整理し、証憑と仕訳を結ぶ管理の仕組みをどこまで作るかの判断も示します。
まとめ:証憑は取引の裏付け書類、保存は7年が基本で電子受領分は電子のまま
証憑は、取引の相手から受け取った書類と、自社が発行した書類の控えの両方を指します。法人税法施行規則は注文書・契約書・送り状・領収書・見積書を例に挙げ、請求書や納品書もこれらに準ずる書類として含まれます。
保存期間は、法人税では確定申告書の提出期限の翌日から7年が基本です。青色申告で欠損金が出た事業年度は10年に延び、会社法は会計帳簿と事業に関する重要な資料を帳簿の閉鎖から10年保存するよう求めています。
メールやWebで受け取った請求書などは、2024年1月から電子データのまま保存する義務があります。紙に印刷して残すだけでは足りません。
証憑とは:読み方「しょうひょう」と取引の事実を裏付ける書類の範囲と帳簿との関係
「証」は証明、「憑」はよりどころを意味し、読み方は「しょうひょう」です。経理の現場では「エビデンス」と呼ばれることもあります。
法人税法施行規則59条1項3号が挙げる注文書・契約書・送り状・領収書・見積書
証憑という言葉そのものは法律に定義がありません。範囲の目安になるのは、法人税法施行規則第59条1項3号です。青色申告法人が保存する書類として「取引に関して、相手方から受け取つた注文書、契約書、送り状、領収書、見積書その他これらに準ずる書類」と、自社が作成した同種の書類の写しを挙げています。
ポイントは2つあります。受け取った書類だけでなく、自社が発行した請求書や見積書の控えも対象になること。そして列挙は例示で、請求書・納品書・検収書・振込の控えなど、取引の内容や金額を示す書類は「これらに準ずる書類」として同じ扱いになることです。
証憑と証票・帳票・帳簿の違い:誰が作り何を証明するかで分ける4つの用語
似た言葉が4つあり、経理の会話では混ざりがちです。違いは「何を記録した書類か」で整理できます。
| 用語 | 中身 | 例 |
|---|---|---|
| 証憑 | 取引があった事実の裏付け | 契約書・請求書・領収書 |
| 証票 | 事実や権利を証明する札・票 | 伝票・商品券・身分証 |
| 帳票 | 帳簿と伝票・書式の総称 | 請求書の様式・出力帳票 |
| 帳簿 | 証憑をもとに取引を記録した台帳 | 仕訳帳・総勘定元帳 |
証憑が「元の事実」、帳簿が「その記録」という関係です。仕訳は証憑を見て起こし、勘定科目ごとに集計した台帳が総勘定元帳の書き方と転記の手順を解説した記事で扱う総勘定元帳です。どの科目で記録するかは勘定科目の5分類と科目マスタの作り方をまとめた記事で確認できます。
証憑が求められる場面:税務調査・会計監査・取引先との金額の食い違い
証憑の出番がいちばん多いのは税務調査です。調査官は帳簿の仕訳を1件選び、その根拠になった請求書や領収書の提示を求めます。証憑が無い経費は、支払った事実があっても損金として認められないことがあります。
上場会社や会計監査人を置く会社では、監査法人も同じ照合をします。取引先と請求額が食い違ったとき、どちらの言い分が正しいかを決めるのも、発注書と検収の記録です。
証憑書類の種類一覧:販売・購買・入出金・雇用の取引の流れで分ける代表例
証憑は、取引の流れのどこで発生したかで並べると漏れが見つかります。
販売側と購買側の証憑:見積書から領収書まで取引の順に並べた一覧
同じ請求書でも、販売側では「発行した控え」、購買側では「受け取った原本」です。取引の順に並べると次のようになります。
| 取引の段階 | 販売側(発行・控え) | 購買側(受領) |
|---|---|---|
| 引合い・契約 | 見積書・契約書 | 見積書・契約書・注文請書 |
| 受発注 | 注文請書 | 注文書(発注書)の控え |
| 納品・検収 | 納品書・送り状 | 納品書・検収書 |
| 請求 | 請求書の控え | 請求書 |
| 入出金 | 領収書の控え・入金明細 | 領収書・振込の控え |
検収書は購買側が「確かに受け取った」と記録する書類で、請求額を支払ってよいかの根拠になります。記載項目と納品書・請求書との違いは検収書の記載項目と保存要件を解説した記事にまとめました。
雇用と社内取引の証憑:給与明細・出金伝票・仮払精算書の実務上の扱い
社外との取引だけが証憑ではありません。給与や賞与の支給では、賃金台帳と給与明細の控えが支払いの裏付けになります。従業員の立替経費は、精算書と添付の領収書が1組の証憑です。
社内で作る出金伝票は、相手先から領収書をもらえない慶弔費や交通費に使います。ただし自社で作った書類なので、支払先・日付・金額・目的を具体的に書き、承認者の確認を残さないと、支払いの裏付けとしては不十分です。小口現金で払う少額の経費の流れは小口現金の仕訳例と定額資金前渡制の記事で扱っています。
領収書が出ない取引の代わりになる証憑:振込控え・カード明細・支払証明書
銀行振込で払った場合、振込の控えや通帳の記録が支払いの証明になります。請求書とセットで保存すれば、何の支払いかまで示せます。クレジットカードの利用明細も支払いの事実を示しますが、購入した品目までは分かりません。店舗のレシートを一緒に残すのが確実です。
紛失したときは、発行元に再発行か支払証明書の発行を頼むのが先です。それも難しければ出金伝票に経緯を書いて残します。領収書の書き方と記載事項は、領収書を扱う別の記事で詳しく解説します。
証憑の保存期間:法人税7年・青色欠損金10年・会社法10年と起算日の数え方
保存期間は、どの法律の義務かで長さと起算日が変わります。
法人税は申告期限の翌日から7年、青色欠損金が出た事業年度は10年に延びる
国税庁のタックスアンサーNo.5930(令和8年4月1日現在法令等)は、法人が帳簿と書類を保存する期間を、事業年度の確定申告書の提出期限の翌日から7年間としています。
| 根拠 | 対象 | 保存期間 |
|---|---|---|
| 法人税(原則) | 帳簿・証憑・決算書類 | 7年 |
| 法人税(青色欠損金の年度) | 同上 | 10年(平成30年4月1日前開始年度は9年) |
| 消費税(仕入税額控除) | 帳簿・請求書等 | 7年 |
| 会社法432条2項 | 会計帳簿・事業に関する重要な資料 | 帳簿の閉鎖から10年 |
欠損金を翌期以降に繰り越して使う会社は、欠損が出た年度の証憑を10年残します。繰越控除の根拠を調査で示す期間が長いためです。
起算日の数え方:3月決算の会社が2026年4月に受け取った注文書の保存期限
法人税法施行規則59条2項は、書類の起算日を「作成又は受領の日の属する事業年度終了の日の翌日から二月を経過した日」と定めています。受け取った日から数えるのではありません。
3月決算の会社が2026年4月10日に注文書を受け取った場合、その事業年度の終了日は2027年3月31日です。翌日の4月1日から2か月を経過した2027年6月1日が起算日で、7年間の保存は2034年5月31日までになります。同じ年度に青色欠損金が出ていれば、期限は2037年5月31日です。
申告期限の延長を受けている会社は、2か月に延長の月数を足して数えます。1か月延長なら起算日は3か月後です。
消費税は請求書等の受領日の課税期間で数える:法人税とずれる場面
仕入税額控除のための帳簿と請求書等は、消費税法施行令第50条1項により、受領した日の属する課税期間の末日の翌日から2か月を経過した日から7年間の保存が要ります。法人の課税期間は通常は事業年度と同じなので、期限も法人税と一致します。
ずれるのは、課税期間を3か月や1か月に短縮する特例を選んでいる会社です。短縮した課税期間ごとに起算日が決まるため、期首に受け取った請求書は法人税より早く期限を迎えます。保存期限ごとに書類を廃棄する運用なら、長いほうの法人税の期限にそろえておけば取り違えは起きません。
会社法の10年と税法の7年が重なる書類:契約書と決算書類は10年で運用する
会社法第432条2項は、株式会社に会計帳簿と「その事業に関する重要な資料」を帳簿の閉鎖の時から10年間保存するよう求めています。どの書類が重要な資料にあたるかは条文に列挙がありません。
実務の線引きとしては、帳簿・決算書類・契約書は10年、日々の請求書や領収書は税法の7年(欠損金の年度は10年)で運用するのが扱いやすい形です。全書類を一律10年にすると、紙なら倉庫代、電子なら検索対象の件数が3年分余計に積み上がります。長期の継続契約は、契約が終わった年から数えて10年を残す運用にします。
保存しないと起きること:青色申告の承認取消しと会社法976条の過料
帳簿書類の保存が規則どおり行われていないと、法人税法第127条1項1号により、税務署長は青色申告の承認を取り消せます。取り消されると、欠損金の繰越控除などの青色申告の特典が使えなくなります。
会社法第976条は、会計帳簿に記載すべき事項を記載しないなどの行為を100万円以下の過料の対象にしています。罰則より実害が大きいのは、証憑が無いために経費や仕入税額控除が否認されることです。
証憑の保存方法:紙・スキャナ保存・電子取引データ保存の3区分と各要件
保存の方法は、証憑を「紙で受け取ったか、電子で受け取ったか」で決まります。
電子で受け取った証憑は電子のまま:2024年1月から義務になった保存の3ルール
国税庁の電子取引データの保存方法の案内(令和6年11月)は、注文書・契約書・送り状・領収書・見積書・請求書などにあたる電子データを受領または交付したら、電子のまま保存することが義務だとしています。メール添付のPDF、Webからダウンロードした請求書、EDIで受けた注文データが対象です。
- 改ざん防止の措置をとる(タイムスタンプ、訂正削除の履歴が残るシステム、事務処理規程のいずれか)
- データを確認するためのディスプレイやプリンタを備える
- 「日付・金額・取引先」で検索できるようにする
専用のシステムが無くても、1つ目は事務処理規程の策定で満たせます。規程の作り方と国税庁のサンプルは事務処理規程の作成方法を解説した記事、制度全体は電子取引データ保存の要件と対応方法の記事で確認できます。
売上高5,000万円以下なら検索要件は不要:索引簿とファイル名で足りる範囲
同じ案内は、基準期間(2年前の事業年度)の売上高が5,000万円以下の事業者は、税務調査でのデータのダウンロードの求めに応じられれば検索要件を満たさなくてよいとしています。
検索要件が必要な会社でも、専用ソフトは必須ではありません。国税庁は、表計算ソフトで連番・日付・金額・取引先の索引簿を作る方法と、「20260410_110000_取引先名」のように日付・金額・取引先の順でファイル名を付けて1つのフォルダに集める方法を示しています。月の受領が数十件ならこれで回ります。ファイル名・索引簿・データベースの3方式の実装は電子帳簿保存法の検索要件を3方式で実装する手順の記事で解説しました。
原則のルールに対応が間に合わない場合の猶予措置もあります。税務署長が相当の理由があると認め、調査でデータのダウンロードと印刷した書面の提示に応じられれば、データを保存しておくだけで足ります。人手不足やシステム整備の遅れも相当の理由に含まれ、事前の届出は要りません。
紙で受け取った証憑のスキャナ保存:200dpiの解像度と入力期限の2方式
紙の証憑は紙のまま保存してかまいません。紙を捨てて画像で残したい場合に使うのが、国税庁の電子帳簿等保存制度特設サイトが案内するスキャナ保存です。
読み取りは200dpi以上・カラー256階調以上が要件で、判定の目安は解像度要件の判定基準をまとめた記事で扱っています。入力の期限は、受領後おおむね7営業日以内に読み取る方式と、業務の処理サイクルを経て最長2か月とおおむね7営業日以内に読み取る方式があり、後者は事務処理規程が前提です。要件と始め方の手順はスキャナ保存制度の要件と始め方の記事にまとめました。
改ざんには重加算税10%加重、令和7年度改正で新設された帳簿への自動連携の特例
電子取引データは紙より複製や改ざんが容易で痕跡が残りにくいため、電子取引データに関連する隠蔽・仮装には重加算税が10%加重されます。国税庁の令和7年度税制改正の概要(令和7年4月)によると、この加重から外れる特例が新設されました。適用除外は令和9年1月1日以後に法定申告期限が来る国税からで、事前の届出が要ります。
条件は、デジタルインボイス(Invoice JP PINTなど)か預貯金口座の決済データを、国税庁長官が定める基準に合うシステムで送受信・保存することです。そのうえで、金額を書き換えて帳簿に記録できないことと、電子取引データと電子帳簿との関連性を相互に確認できることが求められます。証憑と仕訳がデータで結びついていることを、制度が要件として書いた形です。
証憑管理を仕組みにする判断:会計ソフト付属機能で足りる会社と文書管理システムを組む会社
証憑の保存で手間がかかるのは、保管そのものより「この仕訳の根拠はどれか」を後から探す作業です。
証憑と仕訳を取引番号で結ぶ:調査で根拠を1分で出せる状態の作り方
税務調査で仕訳を1件指されたとき、根拠の請求書をすぐ出せるかどうかは、証憑と仕訳を結ぶ鍵があるかで決まります。実務で効く順に並べると次のとおりです。
- 受け取った証憑に、受領日と連番の証憑番号を振る
- 仕訳の摘要か専用の項目に、その証憑番号を入れる
- 電子の証憑はファイル名か索引に、日付・金額・取引先と証憑番号を持たせる
- 紙の証憑は証憑番号順に綴じ、事業年度と保存期限を表紙に書く
1と2だけでも、仕訳から証憑、証憑から仕訳の両方向にたどれます。令和7年度改正の「電子帳簿との相互関連性」は、この結びつきをシステムで持つことを指しています。
会計ソフトの証憑保管で足りる会社:受領が月数百件以内で経路がメールとPDF中心
証憑の受け取り経路がメール添付のPDFと紙の領収書に限られ、月の件数が数百件以内なら、クラウド会計ソフトの証憑保管機能で足ります。多くの製品はアップロードした証憑を仕訳に添付でき、電子帳簿保存法の検索要件も製品側で満たせます。
従業員の立替経費が多い会社は、経費精算システムで領収書の撮影から承認・仕訳まで回すほうが早道です。機能と選び方は経費精算システムの機能と電帳法対応を解説した記事で比較しています。この規模で独自の仕組みを作るのは過剰です。
文書管理システムを組むべき会社:契約書の10年保存と取引証憑を一元で検索したい場合
判断が変わるのは次のような会社です。証憑が販売管理・購買システム・EDI・メール・紙の5経路以上から入り、部署ごとに保管先が違う。契約書を10年、請求書を7年と期限を分けて管理し、期限が来たら廃棄の承認を回したい。会計ソフトの添付機能では、契約書と、その契約に基づく請求書や検収書をまとめて引けません。
この場合は、取引先・契約番号・証憑番号で横断して検索でき、保存期限と廃棄の記録を持つ文書管理の仕組みが必要です。既製品の選び方と自社開発の判断は電子帳簿保存法に対応する文書管理システムの選び方の記事で整理しています。既製品で自社の販売管理や会計システムとの連携が足りない場合、一創の文書管理システム開発では、受領経路ごとの取り込み、証憑番号による仕訳との相互参照、保存期限の管理までを設計します。
逆に、受領経路が1つか2つで、契約書が年に数十件しか増えない会社は、文書管理システムを入れても検索する場面がほとんどありません。会計ソフトと共有フォルダの命名規則で十分です。
よくある質問
証憑についてよく出る質問です。
証憑と領収書は何が違いますか?
領収書は証憑の一種です。証憑は取引の事実を裏付ける書類の総称で、領収書のほか契約書・注文書・請求書・納品書・見積書・振込の控えも含みます。領収書が「お金を受け取った」ことの証明なのに対し、契約書や注文書は「何をいくらで取引すると合意したか」を示します。1件の取引を裏付けるには、複数の証憑を組み合わせるのが普通です。
レシートは証憑になりますか?
なります。レシートには店名・日付・品目・金額が載っており、宛名の無い点を除けば領収書と同じ役割を果たします。品目まで分かるので、取引内容の裏付けとしては手書きの領収書より強い証憑です。インボイス制度では、小売業や飲食店業などが発行する簡易インボイスとしてレシートで仕入税額控除を受けられます。
メールで受け取った請求書を印刷して保存すれば足りますか?
足りません。2024年1月以降、電子で受け取った請求書などは電子データのまま保存する義務があり、印刷した紙は原本の代わりになりません。印刷して経理処理に回すのはかまいませんが、元のPDFも日付・金額・取引先で検索できる形で残します。対応が間に合わない場合は、データの保存とダウンロードの求めに応じることを条件とする猶予措置があります。
証憑を紛失した場合はどうすればよいですか?
まず発行元に再発行を頼みます。再発行できない書類なら、支払証明書や取引証明書の発行を依頼する方法も選択肢です。振込なら通帳や振込の記録、カード払いなら利用明細が支払いの事実を示すので、出金伝票に経緯と内容を書いて一緒に保存します。紛失が多い経費では、受け取ったその日に撮影して電子化する運用が紛失防止の方法です。
保存期間が過ぎた証憑はすぐに捨ててよいですか?
法人税の7年が過ぎても、会社法の10年の対象になる書類は残します。青色欠損金が出た年度の証憑は10年です。契約が続いている取引の契約書は、終了するまで捨てられません。廃棄の前に、事業年度・欠損金の有無・契約の継続を確かめ、廃棄した日付と範囲を記録に残しておくと、後の調査で説明できます。
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