経理の効率化というと、クラウド会計やRPAの導入から考えがちです。しかし経理の作業時間は「件数」と「1件あたりの手間」の掛け算で決まります。件数は支払日・締め日・請求書の受け取り方といった社内ルールで減り、1件あたりの手間は振込データや証憑の形式で減ります。
本記事では、ツールを選ぶ前に経理担当者が関係部署・取引先と調整して見直す業務ルールと銀行取引の設計、電子帳簿保存法とインボイス制度が認めている手間を省ける措置を、2026年10月時点の一次情報で整理します。システムを導入する手順は経理DXの進め方と中小企業の経理のIT化で扱っています。
まとめ:経理の効率化は「件数を減らす、形式をそろえる、自動化する」の順
- 業務ごとに「月間件数×1件あたりの時間」を測り、月間の合計時間が大きい業務から着手します。
- 小口現金、紙の承認回覧、支払日の分散は、ツールを入れなくても社内ルールの変更だけで件数を減らせます。
- 支払日を集約するときは、取適法(旧下請法)の「受領から60日以内」に収まるかを確認します。2026年1月1日からは、代金の支払いに手形を交付することも禁止行為に含まれます。
- 入金消込の手間は、振込名義と請求番号を照合できるかで決まります。ZEDIを使えば、固定長電文の20桁の制限を超えて請求番号などを振込に添付できます。
- 制度対応には手間を減らす措置もあります。電子取引データの検索要件の免除(基準期間の売上高5,000万円以下)、スキャナ保存の業務処理サイクル方式、インボイスの少額特例(税込1万円未満)の3つです。
- 自動化は、ルールと形式をそろえた後に入れます。例外の多い業務をそのままRPAやAI-OCRに載せると、確認と修正の工程が残ります。
経理業務の時間を測る棚卸しの方法
着手する業務は、担当者の負担感ではなく数字で決めます。年に1回の決算業務は負担感が大きくても、月間の合計時間では毎日の請求書処理や消込を下回ることがあります。
棚卸し表の項目:件数・1件あたりの時間・例外の割合
| 項目 | 記入する内容 | 記入例 |
|---|---|---|
| 業務名 | 受領から計上までの1単位 | 受領請求書の支払処理 |
| サイクル | 日次・月次・年次 | 月次(月末締め) |
| 月間件数 | 伝票・書類・明細の数 | 受領した請求書の枚数 |
| 1件あたりの時間 | 着手から完了までの実測 | 受領確認から振込データ作成まで |
| 例外の件数 | 差戻し・再発行・手入力 | 金額不一致で問い合わせた件数 |
| 担当者 | 主担当と代替者の有無 | 主担当1名・代替なし |
時間は担当者の記憶ではなく、1〜2週間を目安に実作業の開始・終了と中断を記録して測ります。月末・月初の集中処理が期間外なら追加で測り、承認待ちの経過時間は実作業時間と分けます。経費精算のように申請者側にも作業がある業務は、営業や現場の入力時間も同じ表に入れます。経理の時間だけを測ると、経理の作業を申請者に移しただけの施策が「効率化」に見えてしまうためです。
着手順の判断:月間時間の大きい業務と例外の多い業務
月間件数と1件あたりの時間を掛けて並べ、上位の業務から着手します。たとえば月200件の受領請求書に1件5分かかれば月約16.7時間、年1回で20時間かかる作業は月あたり約1.7時間です。負担感の大きい年次の作業より、毎月の請求書処理を先に減らす方が時間は多く浮きます。ただし例外の割合が高い業務は、自動化より先に例外の原因を減らします。取引先ごとに書式が違う、承認を口頭で取っている、といった原因が残ったままでは、どのツールを入れても人の確認が残ります。全体の進み具合は、月次決算が締まるまでの営業日数を指標にすると追いやすくなります。締めの手順は月次決算の手順とシステム化の判断で解説しています。
ツールなしで件数を減らす業務ルールの見直し
業務改善の定番であるECRS(Eliminate=排除、Combine=結合、Rearrange=交換、Simplify=簡素化)は、4つの観点で業務を見直す手法です。経理では、まず「やめられる処理」を探し、次に「回数をまとめられる処理」を探します。やめた処理には、その後の手順もツールも要らないためです。
排除:小口現金と紙の承認回覧
小口現金は、出金のたびに出金伝票の起票、手元残高の照合、補充の処理が発生します。法人カードや立替精算に切り替えると、現金の数え合わせが不要になり、カード明細を会計ソフトに取り込めば仕訳の起点もデータになります。具体的な手段は経費精算を効率化する4つの手段にまとめています。
紙の承認回覧は、承認待ちの書類がどこにあるかを探す手間が大きくなります。承認者と金額の基準を決めた上で、電子の申請・承認に移します。
結合:支払日と経費精算の締めの集約
取引先ごとに支払日がばらばらだと、振込データの作成、承認、残高確認がその都度発生します。支払日を月1〜2回に集めれば、これらの処理はその回数に収まります。
集約するときは法令の上限を確認します。中小受託取引適正化法(取適法、2026年1月1日に下請代金支払遅延等防止法から改称)第3条は、委託事業者が中小受託事業者に支払う代金の支払期日を、給付を受領した日から60日以内のできる限り短い期間で定めるよう求めています。集約した支払日が取引によって60日を超えるなら、支払日を月2回にするなど設計を変えます。
同法第5条第1項第2号は、代金の支払いに手形を交付することも禁止行為に含めました。全国銀行協会によると、電子交換所での手形・小切手の交換は2027年3月31日に廃止されます。最終振出期限を公表している金融機関の多くは2026年9月30日を期限としています。手形の振出し・受取りを残している会社は、振込への切り替えを支払日の集約と同時に済ませると、手形の管理と期日の確認がなくなります。
交換・簡素化:請求書の受け取り窓口と勘定科目の整理
紙の郵送、PDFのメール添付、取引先のポータルが混在すると、受領を確認する場所が増えます。受け取り窓口を経理専用のメールアドレスか請求書受領サービスの1つに寄せ、取引先には自社の発注番号を請求書に書いてもらうよう依頼します。発注番号があれば、対応する発注データを特定しやすくなります。その上で、請求金額・数量・単価や納品・検収の状況を照合します。
勘定科目・補助科目・部門の数が多すぎると、仕訳のたびに判断が必要になり、口座明細からの自動仕訳ルールも作りにくくなります。1年間使っていない科目を整理し、取引先と摘要で科目が決まる形にそろえます。設計の考え方は会計ソフトの科目マスタと自動仕訳ルールの設計を参照してください。
入金消込と支払処理の手間を決める銀行取引の設計
入金消込:振込名義の不一致と請求番号の添付
入金消込は、入金明細と売掛金を突き合わせる作業です。手間がかかるのは、振込依頼人名が請求先の社名と一致しない場合、複数の請求をまとめて振り込まれた場合、振込手数料が差し引かれて金額が合わない場合です。
全銀ネットによると、従来の固定長電文で総合振込に付けられるEDI情報は20桁までという制限がありました。全銀EDIシステム(ZEDI)は振込電文をISO 20022準拠のXML形式に移したもので、請求番号などの消込に使うキー情報を振込データに添付できます。ただしZEDIの情報は振り込む側が付けて送るため、効果は取引先の対応に左右されます。
取引先の対応を待てない場合は、請求書に「振込依頼人名の前に顧客番号を入れてください」と記載するか、請求先ごとに入金口座を分けるバーチャル口座を使い、口座番号で入金元を特定します。一部入金や合算入金の処理は入金消込・売掛金照合の業務フロー、システム化の判断は債権管理システムの機能とExcel管理から移る判断基準で解説しています。
支払処理:総合振込データの一括作成と明細の取り込み
振込をインターネットバンキングの画面で1件ずつ入力すると、件数分の入力と確認が発生します。会計ソフトや支払管理の機能で全銀協フォーマットの総合振込データを作り、一括でアップロードすれば、銀行画面での明細ごとの再入力を減らせます。ただし、元データの整備と内容確認は必要で、承認回数は銀行サービスと社内の権限設定によって異なります。振込後の口座明細を会計ソフトに連携しておくと、支払の仕訳も明細から作れます。
電子帳簿保存法とインボイス制度で省ける手間
制度対応は作業を増やすものとして語られがちですが、要件を読むと、会社の規模や金額によって手間を省ける措置が用意されています。制度の全体像は電子帳簿保存法の3区分の要件とインボイスと2026年10月の控除変更で解説しています。
電子取引データ:検索要件が不要になる売上高5,000万円以下
2024年1月から、メールやWebで受け取った請求書などの電子取引データは電子のまま保存する必要があります。国税庁のパンフレットが示す原則の要件は、改ざん防止の措置、ディスプレイ・プリンタ等の備付け、取引年月日・取引金額・取引先で検索できることの3つです。
このうち検索要件は、基準期間(2年または2期前)の売上高が5,000万円以下で、税務調査の際に電子データのダウンロードの求めに応じられるようにしていれば不要です。小規模な会社は、ファイル名の規則づくりや索引簿の作成を省けます。改ざん防止は、専用システムを使わず、訂正・削除の防止に関する事務処理規程を定め、その規程に沿って運用する方法でも満たせます。規程の作り方は事務処理規程の作成方法と国税庁サンプルを参照してください。
スキャナ保存:入力期限を延ばす業務処理サイクル方式
紙で受け取った請求書や領収書をスキャンして原本を捨てるには、スキャナ保存の要件を満たす必要があります。国税庁の一問一答では、請求書・領収書などの重要書類は受領後おおむね7営業日以内に入力し、タイムスタンプを付すのが原則です。ただし、入力期限内の保存を確認できるなど所定の要件を満たすシステムでは、タイムスタンプを省略できます。入力期限は、事務処理規程を定めれば、通常の業務処理期間(最長2か月)を経過した後おおむね7営業日以内まで延ばせます。
読み取りは200dpi以上で、重要書類は赤・緑・青それぞれ256階調以上のカラー、一般書類はグレースケールでも構いません。毎日スキャンする体制が取れず月に1回まとめて処理したい会社は、この業務処理サイクル方式の規程を先に整えます。要件の詳細はスキャナ保存制度の要件と始め方にあります。
インボイス:税込1万円未満の少額特例と70%控除の区分管理
基準期間の課税売上高が1億円以下、または特定期間の課税売上高が5,000万円以下の事業者は、2023年10月1日から2029年9月30日までに行う1回の取引の合計額が税込1万円未満の課税仕入れについて、一定の事項を記載した帳簿だけで仕入税額控除を受けられます(少額特例)。商品1点ごとの価格では判定しません。対象になる会社では、少額特例を適用する取引について、仕入税額控除のための登録番号の確認とインボイスの保存を省けます。ただし、法人税法などによる請求書・領収書の保存義務は別に残ります。
一方、免税事業者などインボイス発行事業者以外からの仕入れに認められる経過措置は、2026年度の見直しで段階が変わりました。控除できる割合は2026年10月から2年間が70%、2028年10月から2年間が50%、2030年10月から1年間が30%で、2031年10月以降は0%です。取引先マスタで登録の有効期間を管理し、取引日・取引内容・税率・特例の適用条件と組み合わせて税区分を判定します。通常取引の確認は減らせますが、請求書の記載事項や例外取引の確認は残ります。
月次決算の日数を縮める締め方
月次決算は、会社法や税法が様式を定める年次決算とは違い、経営判断のための社内資料です。企業会計原則注解の【注1】は、重要性の乏しいものについて本来の厳密な方法によらず簡便な方法で処理することを認めています。月次では、重要性の乏しい経費に限って前月実績で概算計上し実額判明後に精算する、締め後に届く少額の請求書の処理方法と期末の修正手順を決める、といった基準を事前に決めておくと、請求書の到着待ちで締めが止まらなくなります。基準を決めずに毎月その場で判断すると、締めの日数は担当者の判断の速さに左右されます。
ルール変更・ツール導入・アウトソーシングの選び分け
同じ業務でも、件数と例外の多さによって向く手段が変わります。先に必要な準備ができていない手段を選ぶと、導入後に手作業が残ります。
| 手段 | 向く業務 | 先に必要な準備 |
|---|---|---|
| 業務ルールの変更 | 小口現金・支払日・承認回覧 | 社内規程の改定と取引先への通知 |
| 明細連携・自動仕訳 | 口座・カード取引の仕訳 | 勘定科目と仕訳ルールの整理 |
| 請求書受領・経費精算サービス | 受領請求書・立替精算 | 受け取り窓口の統一 |
| RPA | 画面操作による定型の転記 | 手順の固定と例外の削減 |
| アウトソーシング | 記帳・給与計算・決算 | 証憑の電子化と受け渡し方法 |
RPAで画面操作を自動化する場合、操作対象を識別する属性や画面構造の変更によって処理が止まることがあります。会計ソフトに標準のデータ連携やCSV取込がある業務では、RPAより先にそちらを使います(RPAの仕組みと導入判断)。
対象事業者と登録ITツールなどの要件を満たす場合、デジタル化・AI導入補助金2026(旧IT導入補助金)の通常枠を申請できます。契約・発注は交付決定後に行います。補助率は2分の1以内(一定の最低賃金近傍の事業者は3分の2以内)で、補助額は1プロセス以上で5万円以上150万円未満、4プロセス以上で150万円以上450万円以下です。対象経費にはソフトウェア購入費と最大2年分のクラウド利用料が含まれます。申請の要件はデジタル化・AI導入補助金の枠と補助額で確認してください。
経理の効率化が失敗するパターンと、着手を見送る場面
失敗の多くは、ツールそのものではなく導入の順番で起きます。次の3つは、効率化のつもりで手間を増やす典型です。
- 例外を残したまま自動化する:手書きや書式差の多い請求書にAI-OCRを使う場合は、実際の帳票で読み取り精度と確認・修正時間を測ります。削減できる入力時間より確認・修正や運用の負担が大きければ、導入を見送ります。
- 経理の作業時間だけを指標にする:経費精算をシステム化して経理の入力が減っても、申請者が領収書の撮影と項目入力に時間を使えば、会社全体の時間は減りません。棚卸しの段階で申請側の時間も測っておきます。
- 期の途中で会計ソフトを切り替える:期中移行では移行時点の残高照合が必要です。旧ソフトとの並行運用やデータ移行方法によっては、二重入力も発生します。切り替えは期首を基本にします。
着手を見送ってよい場面もあります。月の仕訳が数十件で、担当者が月に数時間で処理できている会社では、ツールの月額費用が削減できる時間に見合わないことがあります。この規模ならルールの見直しだけで十分です。また、決算の直前や、インボイスの控除割合が切り替わった直後の月に業務フローを変えるのは避けます。制度の変更と業務の変更が重なると、誤りの原因を切り分けられなくなるためです。
経理の効率化についてよくある質問
経理の業務を効率化するには何から始めればよいですか?
業務ごとの月間件数と1件あたりの時間を1〜2週間記録し、合計時間の大きい業務から着手します。最初の施策は、小口現金の廃止や支払日の集約のように、ツールを使わず件数を減らせるものが向いています。
経理の効率化の事例はどう読めばよいですか?
ベンダーが公表する事例は、導入前の件数・人数・業務範囲が自社と近いかを確認してから参考にします。「作業時間を○%削減」という数字は、導入前の運用が紙中心だったかどうかで大きく変わります。自社の棚卸し表と同じ単位(月間件数と1件あたりの時間)に置き換えられる事例だけを比較に使います。
経理の効率化につながるアイデアにはどんなものがありますか?
小口現金を法人カードに切り替える、支払日を月1〜2回にまとめる、請求書の受け取り窓口を1つにする、振込依頼人名に顧客番号を入れてもらう、少額特例の対象になる税込1万円未満の経費は登録番号の確認を省く、といった方法があります。どれもツールを入れる前に始められます。
経理代行サービスを使うメリットは何ですか?
記帳や給与計算など件数の多い定型業務を外に出せるため、担当者が1人の会社でも休職や退職で業務が止まりにくくなります。ただし税務書類の作成や税務相談は、税理士・税理士法人など法令上認められた者に依頼する必要があり、一般の経理代行会社には任せられません。料金の決まり方と依頼先の違いは経理代行サービスの料金相場と依頼先の違いで解説しています。
Excel中心の予実管理はどこが非効率ですか?
実績を会計ソフトから手で転記する工程、部門ごとに配ったファイルの回収と統合、ファイルの版の管理に時間がかかります。会計ソフトから部門別の実績をCSVで出力し、ExcelのPower Query([データ]タブの[データの取得と変換])で読み込む形にすれば、翌月以降は[すべて更新]で実績を取り直せます。予算と同じ科目・部門の区分で出力されるよう、会計ソフト側の部門設定を先にそろえておくと、転記がなくなります。