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化学物質管理とは?SDSとリスクアセスメントの記録義務と管理システムの要件

基幹業務システムの特性とその価値

化学物質管理とは、事業者が扱う化学物質の危険性・有害性を把握し、製造・保管・使用・廃棄の各段階で人と環境への害を防ぐための管理です。法律は1本ではありません。製造・輸入を審査する化審法、排出量を届け出る化管法、職場で働く人のばく露を防ぐ労働安全衛生法がそれぞれ別の範囲を受け持ちます。この記事では、職場の化学物質を扱うすべての事業場に関係する労働安全衛生法の義務を中心に、化学物質管理者の選任、SDSとリスクアセスメント結果の記録と保存年限を条文で整理し、2026年4月・10月に施行された改正点までを押さえます。そのうえで、これらの義務を化学物質管理システムの台帳設計に翻訳しました。

まとめ:化学物質管理で事業場が持つべき台帳と2026年10月時点の改正対応

2024年4月1日に労働安全衛生規則の改正が全面施行され、職場の化学物質管理は「特定の物質を個別規則で縛る方式」から「リスクアセスメントに基づく自律的な管理」へ切り替わりました。リスクアセスメント対象物を製造・取り扱う事業場は、業種・規模を問わず化学物質管理者を選任し、リスクアセスメントの記録を最低3年保存します。がん原性物質に関わる作業記録やばく露の記録は30年です。

2026年10月時点で押さえる改正は2つ。2026年4月1日から営業秘密の成分について代替化学名でのSDS通知が認められ、2026年10月1日から個人ばく露測定は作業環境測定士が行うことになりました。SDS通知義務違反への罰則は、2025年5月14日の公布日から5年を超えない範囲で政令が定める日に施行されます。

システム化の起点は、物質マスタ・SDSの版・取扱場所・リスクアセスメント記録の4つを紐づけることです。対象物の一覧は毎年4月に追加されるため、紙やExcelの台帳では「どの物質がいつ対象になったか」の再判定が追いつかなくなります。取扱品目が少ない単一事業場ならExcelで足ります。

化学物質管理とは何か・化審法と化管法と労働安全衛生法の守備範囲の違い

「化学物質管理」で検索すると、経済産業省の政策ページと労働局のリーフレットが並びます。前者は化学物質そのもの、後者は職場の作業を見ているため、読む前に守備範囲を分けておくと迷いません。

製造・輸入を審査する化審法と排出量を届け出る化管法が扱う範囲

経済産業省の化学物質管理政策のページによれば、国内だけで約2万種類の化学物質が流通しており、人や環境への影響が十分に分かっていないものも少なくありません。化審法(化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律)は、新しい化学物質を市場に出す前に有害性を審査し、製造・輸入量を規制する法律です。対象は主に化学メーカーと輸入業者になります。

化管法(化学物質排出把握管理促進法)は、指定された物質を扱う事業者に環境への排出量・移動量の届出(PRTR)と、取引先へのSDS提供を求めます。どちらも「物質と環境」を見る法律で、作業者が吸い込む量までは扱いません。そこを受け持つのが労働安全衛生法です。

職場のばく露を扱う労働安全衛生法と2024年4月の自律的管理への転換

厚生労働省のリーフレットによると、化学物質を原因とする労働災害(がん等の遅発性疾病を除く)は年間450件程度で推移し、がん等の遅発性疾病も後を絶ちません。国内で使われる数万種類の物質を個別規則で1つずつ縛る方式には限界がありました。そこで2022年5月31日に労働安全衛生規則等が改正され、2023年4月1日と2024年4月1日の2段階で施行されています。

中身は、国のGHS分類で危険性・有害性が確認された物質をラベル表示・SDS通知・リスクアセスメントの義務対象に順次加え、ばく露をどう下げるかは事業者が自ら選ぶという方式です。安衛法全体の義務の構造は労働安全衛生法の規模別の義務と2025年改正の施行日で整理しています。この記事は、そのうち化学物質の部分を掘り下げます。

リスクアセスメント対象物を扱う事業場の義務と化学物質管理者の選任要件

自律的な管理の義務は、扱う物質がリスクアセスメント対象物に当たるかどうかで決まります。判定の材料はSDSの「適用法令」欄と、厚生労働省が公開する対象物質一覧です。

業種・規模を問わず事業場ごとに選任する化学物質管理者の職務と要件

労働安全衛生規則第12条の5は、リスクアセスメント対象物を製造・取り扱う事業場ごとに化学物質管理者の選任を義務づけています。業種や人数の要件はなく、工場・店社・営業所といった事業場単位で選びます。一般消費者向けの製品だけを扱う事業場は対象外です。

要件は事業場の種類で分かれます。対象物を製造する事業場では、講義と実習で計12時間の専門的講習を修了した者に限られます。製造しない事業場に資格要件はありません。職務はラベル・SDSの確認、リスクアセスメントの実施管理、ばく露防止措置の選択と実施の管理、各種記録の作成・保存、労働者への周知と教育、災害発生時の対応です。記録の作成・保存が職務に明記されている点が、後述するシステム要件の根拠になります。

保護具を使わせる事業場で14日以内に選ぶ保護具着用管理責任者

同規則第12条の6により、リスクアセスメントの結果に基づく措置として労働者に保護具を使わせる事業場は、保護具着用管理責任者も選任します。選任すべき事由が発生した日から14日以内という期限つきです。職務は保護具の適正な選択、適正な使用、保守管理の3つになります。

見落としやすいのは、保護具を使い始めた時点が選任期限の起算点になることです。作業手順の変更で新たに防毒マスクを導入した場合、そこから14日の計算が始まります。手順変更の記録と選任日を同じ台帳に置かないと、期限切れに気づけません。

新規採用・作業変更など3つの時点で実施するリスクアセスメントの起点

規則第34条の2の7は、リスクアセスメントを行う時期を3つ定めています。対象物を原材料として新規に採用・変更するとき、対象物を扱う作業の方法や手順を新規に採用・変更するとき、そして対象物の危険性・有害性に変化が生じたとき(SDSの改訂など)です。定期実施の義務ではなく、変更をきっかけに実施する仕組みです。

手法は、厚生労働省版コントロール・バンディングやCREATE-SIMPLEのような簡易ツールから実測まで幅があります。ツールの使い分けと厚生労働省版の現状はコントロール・バンディングの対策シートの読み方で扱っています。システム側では「何が変わったら再実施か」を3つのトリガーとして持たせる設計です。

SDSとリスクアセスメント結果の記録・保存年限を一覧で押さえる実務

自律的な管理の義務は、最終的にはすべて記録に行き着きます。保存年限が3年・5年・30年と分かれており、起算点も記録の種類ごとに違います。

リスクアセスメント記録の4項目と最低3年・がん原性物質の30年保存

規則第34条の2の8が定める記録項目は、対象物の名称、業務の内容、リスクアセスメントの結果、結果に基づく措置の内容の4つです。保存期間は「次にリスクアセスメントを行うまで」ですが、3年以内に次を実施した場合でも3年間は残します。つまり最低3年です。厚生労働省のリーフレットから、主な記録の保存年限を抜き出すと次のとおりです。

記録の種類 保存年限 がん原性物質 施行日
リスクアセスメントの結果と措置 次回実施まで(最低3年) 同じ 2023年4月1日
ばく露低減措置と意見聴取の記録 3年 30年 2023年4月1日
リスクアセスメント対象物健康診断 5年 30年 2024年4月1日
がん原性物質の作業記録 対象外 30年 2023年4月1日
呼吸用保護具の装着確認(第3管理区分) 3年 同じ 2024年4月1日

30年という年限は、紙の保管でもファイルサーバーでも担当者が2回以上入れ替わる長さです。記録の所在よりも「どの物質ががん原性物質に当たるか」の判定履歴を残すほうが難しく、後述する物質マスタの版管理が必要になります。

SDSの「人体に及ぼす作用」5年ごとの確認と重量パーセント表記への更新

SDSを出す側の義務も2023年4月から強化されています。通知事項の「人体に及ぼす作用」は5年以内ごとに1回変更の要否を確認し、変更があれば確認後1年以内に更新して、通知先へ変更内容を知らせます。2024年4月からは、成分の含有量を従来の10%刻みではなく重量パーセントで記載し、想定される用途と使用上の注意も通知事項に加わりました。

受け取る側にとっては、SDSが年単位で改訂されて届くことを意味します。通知方法も2022年5月31日から柔軟化され、相手方の承諾なしにホームページのアドレスや二次元コードで伝えられるようになりました。紙のファイルに綴じる運用では、どれが最新版かを判断できません。

2026年4月の代替化学名と10月の個人ばく露測定という2025年改正の施行分

2025年5月14日に公布された改正安衛法のうち、化学物質に関わる項目が2026年度から施行されています。京都労働局の改正ポイント資料によると、2026年4月1日から、成分名が営業秘密に当たる場合に、有害性が一定程度低い物質に限って代替化学名等での通知が認められました。代替できるのは成分名だけで、人体に及ぼす作用や応急措置は対象外です。

2026年10月1日からは、作業場で行う個人ばく露測定が作業環境測定法に位置づけられ、作業環境測定士による実施が必要になりました。SDS通知義務違反への罰則と、通知事項変更時の再通知の義務化は、公布日から5年を超えない範囲で政令が定める日の施行です。施行日が決まっていない項目は、厚生労働省の化学物質規制のページの更新履歴で追います。

化学物質管理システムに落とす台帳設計・SDS版管理とRA記録の紐づけ方

ここからは、前章までの義務をシステムのデータ構造に翻訳します。製品比較の記事は機能一覧で終わりがちですが、発注前に決めておくべきは「何と何を紐づけるか」です。

物質マスタ・SDS版・取扱場所・RA記録の4テーブルで組む最小構成

条文の要件から逆算すると、最小構成は4つのテーブルになります。中心は物質マスタで、ほかの3つはすべてここに紐づきます。

テーブル 主な項目 根拠となる義務
物質マスタ CAS番号・名称・対象区分・がん原性区分・適用日 対象物の判定
SDS版 製品名・発行日・版・含有量(重量%)・受領日・文書 SDSの確認と更新
取扱場所 事業場・作業場所・作業内容・取扱量・管理者 事業場ごとの選任と周知
RA記録 実施日・トリガー・結果・措置・次回期限・保存期限 第34条の2の8の4項目

表中の対象区分は対象物の区分、適用日は適用開始日、版は版番号、文書はSDSのファイルを指します。製品と物質は多対多です。塗料や洗浄剤のような混合物では、1つの製品に複数の対象物が含まれます。製品単位でSDSを管理し、成分を物質マスタへ展開する構造にしておくと、物質の区分が変わったときに影響する製品と作業場所を一度で洗い出せます。

対象物一覧の年次追加と記録ごとの保存期限アラートを自動判定する仕組み

厚生労働省の対象物質一覧(Excel)は、2026年4月時点の適用分、2027年4月の追加分、2028年4月の追加分がシートを分けて公開されています。2026年4月時点のシートだけでCAS番号を持つ行数は2,000超です。物質マスタに「適用開始日」を持たせ、一覧の更新を取り込んだときに、自社の取扱物質のうち新たに対象となるものを抽出する処理が中核になります。

保存期限は記録ごとに計算します。RA記録は「次回実施日または実施日から3年後の遅いほう」、がん原性物質の作業記録は30年後です。周知についても、規則第34条の2の8第2項第3号が電子ファイルへの記録と作業場での常時閲覧機器の設置を認めています。タブレットでの閲覧を前提に画面を設計できます。

在庫・購買システムと連携して取扱量と使用場所を自動で拾う設計

リスクアセスメントのトリガーである「新規採用」を人の申告だけに頼ると、購買部門が新しい溶剤を発注した事実が化学物質管理者に届きません。購買の品目マスタにSDS受領の有無を必須項目として持たせ、未登録の化学品は発注できない設計にすると、漏れを入口で止められます。

取扱量も同様で、在庫管理システムの入出庫管理と引当の仕組みから払出数量と払出先の作業場所を取れば、手入力の台帳は不要になります。既存の在庫管理に化学品の区分とSDS版を足す方式は、専用パッケージを入れる場合よりも移行範囲が狭い方式です。弊社の在庫管理システム開発では、こうした品目マスタの拡張と既存システムとの連携から対応しています。

化学物質管理システムを導入すべき事業場とExcel台帳で足りる条件の線引き

すべての事業場にシステムが要るわけではありません。判断の軸は取扱品目の数、事業場の数、がん原性物質の有無の3つです。

Excel台帳のままでよい取扱品目50未満・単一事業場の条件

取扱品目がおおむね50未満で事業場が1つ、がん原性物質を扱わない場合は、Excel台帳での管理で足りるという判断です。SDSの改訂確認を年1回の棚卸しに合わせて行い、RA記録をシートごとに残せば、条文の要件は満たせます。この規模でパッケージを入れると、マスタ整備の手間が運用の手間を上回ります。

逆に、がん原性物質を1つでも扱うならExcelはやめたほうがよい。30年の保存期間中にファイル形式や保存先が変わり、作業記録と労働者の紐づけが失われやすくなるからです。複数事業場で同じ物質を扱う場合も、事業場ごとの台帳が食い違い始めます。

パッケージで足りない場合と既存システムとの連携で個別開発を選ぶ判断材料

市販の化学物質管理パッケージは、SDSの登録と法令検索、対象物の判定を標準で持っています。単体で運用するならパッケージが早い選択です。個別開発を選ぶのは、購買・在庫・生産のシステムと品目マスタを共有したい場合と、製品含有化学物質の情報伝達まで同じ基盤で扱いたい場合の2つに限られます。

後者は職場の安衛法とは別の領域で、取引先へ含有情報を渡す仕組みです。業界共通基盤の動きはCMP(Chemical and Circular Management Platform)の解説にまとめています。安衛法対応だけが目的なら、個別開発は過剰です。

よくある質問

化学物質管理の制度とシステム化について、検索の多い質問に答えます。

化学物質管理者は資格がなくても選任できますか?

リスクアセスメント対象物を製造しない事業場、つまり購入した化学品を使うだけの事業場なら、法令上の資格要件はありません。厚生労働省は専門的講習等の受講を推奨しています。対象物を製造する事業場では、講義9時間・実習3時間の計12時間の専門的講習を修了した者から選任する必要があります。事業場の状況に応じて複数名を選任することも可能です。

リスクアセスメントは毎年実施しなければなりませんか?

毎年の定期実施は義務ではありません。労働安全衛生規則第34条の2の7が定めるのは、対象物の新規採用・変更時、作業方法や手順の新規採用・変更時、危険性・有害性の情報に変化があったときの3つです。ただし記録は最低3年保存するため、3年を超えて見直していない記録が残っていると、現状に合っているかを説明しにくくなります。SDSの改訂を受け取った時点を再実施の判断点にすると運用が回ります。

SDSは何年保存すればよいですか?

労働安全衛生規則は、受け取ったSDSそのものの保存年限を定めていません。ただし、リスクアセスメントの記録は最低3年、がん原性物質に関わる記録は30年保存します。どの版のSDSに基づいて評価したかを後から示せないと記録の意味が薄れるため、実務では評価に使った版を記録とセットで残します。最新版だけ保管して古い版を捨てる運用は避けてください。

化学物質管理と製品含有化学物質管理は何が違いますか?

化学物質管理(職場)は、労働安全衛生法に基づいて作業者のばく露を防ぐ管理です。製品含有化学物質管理は、自社製品に含まれる物質の情報を取引先へ伝え、EUのREACH規則やRoHS指令などに対応する管理を指します。前者はSDSとリスクアセスメント、後者はchemSHERPAなどの含有情報データが中心になります。同じCAS番号を扱うため物質マスタは共通化できますが、目的と記録の様式は別です。

化学物質管理システムの導入費用はどのくらいですか?

クラウド型パッケージは月額課金が一般的で、登録できるSDS数や利用者数で料金が変わります。個別開発の規模を大きく左右するのは、既存の在庫・購買システムへの機能追加として行うか、単独で構築するかという違いです。費用を比べる前に、本記事の4テーブル構成のうちどこまでを既存システムで持てるかを洗い出すと、見積もりの前提がそろいます。

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