Z世代マーケティングの実務|価値観・チャネル選定・ステマ規制対応の勘所
Z世代に向けたマーケティングでつまずく企業の多くは、「とりあえずTikTok」「フォロワーをまず増やす」というチャネル先行・数値先行の発想から抜け出せていません。この記事では、Z世代(1990年代後半〜2010年代初頭生まれ)の価値観と購買行動を整理したうえで、SNS・動画・UGCといった手法の使い分け、2025年の最新利用データに基づくチャネル選定の判断軸、口コミ施策で外せないステマ規制への対応、そしてバズに頼らない効果測定の考え方までをまとめます。成功事例は数を並べるのではなく、どの価値観に効いたのかという理由とともに紹介します。
目次
まとめ:Z世代マーケティングで先に決める優先順位と外せない要素
Z世代マーケティングの成否は、施策を始める前に何を優先順位の上位に置くかでほぼ決まります。先に結論を示します。
第一に、チャネルは「人気だから」ではなく目的で選ぶこと。認知を広げたいのか、比較検討の後押しをしたいのかで、適したSNSは変わります。第二に、Z世代が信頼するのは企業の一方的な発信より同世代や身近な人の声であるため、UGC(ユーザー投稿)や口コミが自然に生まれる設計を中心に据えること。第三に、その口コミ施策を回す前提として、2023年10月に施行されたステマ規制(景品表示法)への対応を最初に組み込むこと。ここを後回しにすると、施策ごと作り直しになります。
そして効果測定では、フォロワー数やバズの瞬間風速ではなく、保存数・UGCの発生数・指名検索といった「購買につながる兆し」を追います。フォロワーを増やすこと自体を目的化した施策は、ほぼ成果に結びつきません。以降の章で、この4点を実務レベルに落とします。
Z世代の定義と価値観|ミレニアル世代との違いと購買行動の特徴
施策の前に、対象を具体的に定義します。年齢の感覚がずれると、参照すべき調査データもチャネルの選び方もずれるためです。
1990年代後半〜2010年代初頭生まれ、2026年時点で10代〜20代後半
Z世代は、アメリカの世代区分「Generation Z」に由来し、おおむね1990年代後半から2010年代初頭に生まれた層を指します。境界には諸説あり、よく使われる定義では1997年〜2012年前後の生まれです。2026年時点では、おおよそ10代から20代後半が該当します。日本の人口に占める割合は15%未満(2023年時点)と、世界平均(人口の約3割)に比べて小さい点が特徴です。ボリュームが限られるからこそ、不特定多数への一斉配信より、的を絞った設計が効いてきます。
ミレニアル世代との違い|「デジタルネイティブ」より「SNSネイティブ」
一つ上のミレニアル世代(1980年代前半〜1990年代半ば生まれ)も、インターネットとともに育ったデジタルネイティブです。違いは、Z世代が物心ついた時点でスマートフォンとSNSが当たり前だった「SNSネイティブ」である点にあります。検索の入口がGoogleだけでなくInstagramやTikTokにも広がり、情報を「探す」だけでなく「投稿して共有する」ことが日常に組み込まれています。発信のハードルが低い分、企業が一方的に語るより、Z世代自身に語らせる余地をどう作るかが分かれ目になります。
堅実志向・共感重視・多様性|購買を慎重にする3つの価値観
Z世代は、経済の停滞期や東日本大震災、新型コロナという不確実な環境で育ち、未来への不安を背景に堅実な消費志向を持つと指摘されます。大量の情報を取捨選択することに慣れているため、派手さや目新しさだけでは動かず、価格に見合う実利と、商品やブランドの背景にある物語に納得して初めて購入に進みます。さらに、企業姿勢の誠実さや多様性への配慮といった社会的な意味づけも判断材料に入ります。質の高い情報の発信が信頼につながる構図は、ビル・ゲイツが提唱したコンテンツイズキングの基本概念とも重なります。「とにかくバズらせる」ではなく、納得材料を丁寧に積み上げる姿勢が前提になります。
Z世代に効くマーケティング手法|SNS・動画・UGCの使い分け
価値観を踏まえると、有効な手法はおのずと絞られます。ここでは代表的な打ち手を、重要度の高い順に整理します。実務でまず力を入れるべきは、最初に挙げるUGC設計です。
「広告らしさ」を抑えたUGC・口コミ起点の設計
Z世代は購入前にSNSのレビューや口コミを確認し、企業発信よりも第三者のリアルな声を信頼します。したがって、最優先は広告を見せることではなく、ユーザー自身が投稿したくなる仕組みづくりです。具体策としては、ハッシュタグキャンペーン、写真や動画の投稿コンテスト、参加するほど話題になる企画設計などが挙げられます。口コミを意図的に促す方法と、それをコンプライアンスの範囲で運用する考え方は、WOMマーケティングの基本と実践のポイントで整理しています。なお、押し付け感の強い広告はZ世代に強く嫌われます。企業色を薄め、自然な流入を狙う設計が前提です。
縦型ショート動画とライブ|認知から比較への動線
TikTokやInstagramのリール、YouTubeショートに代表される縦型ショート動画は、認知の起点として機能します。テンポの良い15〜60秒の動画で関心を引き、プロフィールや固定投稿、商品ページへ誘導する二段構えが基本形です。動画はバズの起点になりやすい一方、再生数がそのまま売上になるわけではありません。動画で「出会わせ」、別の場所で「比較・納得させる」という役割分担を設計しないと、再生数だけが伸びて購買につながらない状態に陥ります。
インフルエンサーより「身近な発信者」とコンテンツの質
インフルエンサー施策は依然として有効ですが、フォロワー数の多い著名人より、フォロワーとの距離が近いマイクロインフルエンサーや一般ユーザーの方が、Z世代には親近感と信頼を持って受け取られる傾向があります。重要なのは起用する人の規模ではなく、発信内容がZ世代の文脈に合っているか、そして提供する情報そのものに価値があるかです。テンプレートのような商品紹介ではなく、使い方や本音のレビューといった具体性が、保存やシェアという行動を引き出します。
Z世代マーケティングの成功事例|共感と体験を起点にした施策
事例は、どの価値観に効いたのかが分かるものだけを取り上げます。手法を真似るより、「なぜ刺さったか」を自社に翻訳することが再現の近道です。
共感の動画|カロリーメイト「青春」アニメーション
大塚製薬は、カロリーメイトのプロモーションで、部活や友人との思い出を描いたアニメーション動画をYouTubeやTikTokで公開しました。学生生活に思い悩むZ世代の共感を呼び、拡散を通じて「青春の味」というブランドイメージの浸透につながった事例です。商品の機能ではなく、世代の感情に接続した点が成果の核にあります。
体験価値とUGC|カンロ「マロッシュ」計画比3〜6.8倍
カンロの「マロッシュ」は、グミからマシュマロへと食感が変化するという体験そのものを商品設計に組み込みました。その意外性が一般ユーザーやインフルエンサーの投稿を生み、TikTok起点で認知が拡大し、計画比3〜6.8倍の売上を達成したと報じられています。「シェアしたくなる体験」を商品に内蔵した点が、Z世代のUGCを自走させました。
ブランド接点とサステナブル|湖池屋・ポカリスエットの事例
湖池屋は、LINEで遊べる箱庭型ゲーム「湖池屋FARM 大豊作!」(2023年1月リリース)を通じて、人気商品のキャラクターやECサイトのクーポンに触れる接点を設計しました。同社によると、稼働期間中にECサイトの集客は目標を達成し、LINE公式アカウントの友だち登録は30%向上したとされています。一方、大塚製薬はポカリスエットのリターナブル瓶を循環型プラットフォーム「Loop」で展開し、瓶を返却するとデポジット70円が戻る仕組みで、社会貢献に参加できる消費としてZ世代の支持を集めました。前者はブランドとの接点、後者は応援消費という、異なる価値観への打ち手として参考になります。
Z世代向けチャネル選定の判断基準|2025年の利用実態と配分
「Z世代=TikTok」という前提は、データで見ると単純化しすぎです。最新の利用実態を起点に、配分の判断軸を決めます。
2025年の利用実態|YouTube・LINE・Instagram・X・TikTok・BeReal.
サイバーエージェント次世代生活研究所が2025年10月に全国の男女(17〜60歳・有効回答2,884名)を対象に実施した調査では、Z世代(17〜28歳)の利用率は次の通りでした。TikTokは「Z世代の主戦場」というイメージほど突出していない点に注意が必要です。
| SNS | Z世代の利用率(2025年) | 傾向 |
|---|---|---|
| YouTube | 86.1% | 動画系は高止まり |
| LINE | 85.8% | 連絡基盤として定着 |
| 71.6% | 減少傾向 | |
| X(旧Twitter) | 66.8% | 減少傾向 |
| TikTok | 52.8% | 横ばい |
| BeReal. | 22.8% | 3年連続で増加(唯一の伸び) |
別の調査では数値が変わります。SHIBUYA109 lab.が15〜24歳の女性に絞って行った2025年の調査では、Instagram89.6%、X69.0%、TikTok60.8%で、InstagramのストーリーズやBeReal.のような24時間で消える「エフェメラル」な投稿、限られた友人とつながる「クローズド」なSNSへの傾斜が指摘されています。対象年齢と性別で結果が動くため、自社のターゲットに近い調査を選ぶことが先決です。
フォロワー数で配分しない|目的別のチャネル役割分担
配分の判断軸は、フォロワー数や流行ではなく「そのチャネルで何を達成するか」に置きます。役割で整理すると、TikTokやYouTubeショートは認知の入口、Instagramは世界観の提示と比較検討、Xは話題化と顧客接点、LINEは継続的な関係維持、というように適性が分かれます。ここで立場を明確にします。認知を取りたい段階で、エンゲージメントを期待してLINE公式の友だち集めに注力するのは順序が逆で、採用すべきではありません。逆に、すでに関心を持つ層の購買を後押ししたい局面で、ひたすら新規のバズ動画を量産するのも的外れです。1つのチャネルにすべての目的を背負わせず、認知・比較・維持の各段階に役割を割り当ててから予算を分けます。
Z世代の口コミ施策とステマ規制|景表法対応と失敗パターン
UGCと口コミを中心に据えるなら、ステマ規制への対応は「あとで考える」では済みません。違反は措置命令の対象となり、Z世代が最も嫌う「不誠実さ」としてブランドに跳ね返ります。
景表法第5条第3号|2023年10月施行のステマ規制の要件
日本では2023年3月28日に告示・運用基準が公表され、2023年10月1日から、景品表示法第5条第3号に基づくステルスマーケティング規制が施行されました。規制の対象になるのは、(1)事業者の表示であり、(2)一般消費者がそれを事業者の表示だと判別しにくい、という両方を満たす表示です。インフルエンサーや一般ユーザーといった第三者の投稿でも、企業が依頼・指示して内容に関与していれば「事業者の表示」と判断され得ます。実際、2024年6月には初の措置命令が出されました。対応の基本は単純で、対価や依頼関係がある投稿には「PR」「広告」などの表示を、消費者が見落とさない形で明示することです。小さな文字や埋もれた位置での表記は、表示があっても不十分と見なされる可能性があります。
やってはいけない口コミ施策|#PR非表示とギフティングの失敗
失敗は具体的な形で起こります。よくあるのが、商品を無償提供(ギフティング)したうえで、投稿に広告表示を付けさせないケースです。「自然な口コミに見せたい」という意図が透けると、規制違反であると同時に、発覚時の信頼失墜という二重のリスクを負います。社員や関係者に身元を伏せて好意的なレビューを書かせる行為も同様で、これは採用してはいけません。自社で口コミを「コントロールしよう」とした瞬間に、ステマの領域に踏み込みます。健全な口コミ施策の核は、広告表示を徹底したうえで、思わず誰かに話したくなる商品・体験そのものを磨くことにあります。透明性を守る運用は遠回りに見えて、Z世代の信頼を積み上げる最短ルートです。
Z世代マーケティングの効果測定|バズに頼らないKPI設計
最後に測定です。ここで指標を間違えると、再生数は伸びるのに売上が動かない施策を「成功」と誤認し続けることになります。
バズと売上を切り分ける|先行指標と成果指標の二段構え
Z世代施策では、認知を測る先行指標と、事業成果を測る指標を分けて設計します。先行指標は再生数・リーチ・エンゲージメント率など、施策の初動を捉えるもの。成果指標は問い合わせ・資料請求・購入など、事業に直結するものです。両者を混同し、再生数の多さだけで成否を語ると、判断を誤ります。広告の費用対効果を見る際は、レスポンス1件あたりの費用を示すCPR(Cost per Response)の基本のような指標で、施策ごとの効率を比較すると配分の見直しがしやすくなります。
フォロワー数より保存・UGC・指名検索|見るべき数値
Z世代の行動特性を踏まえると、フォロワー数は優先度の高い指標ではありません。むしろ次のような数値が、購買への近さを示します。
- 保存数・シェア数:あとで見返す、人に勧める意思の表れで、関心の深さを反映します。
- UGCの発生数:ハッシュタグ投稿やレビューなど、ユーザーが自発的に語った量です。
- 指名検索数:ブランド名や商品名での検索が増えていれば、認知が記憶に定着した証拠です。
- エンゲージメント率:フォロワーの絶対数より、反応した割合の方が施策の質を表します。
フォロワー1万人で反応がほとんどないアカウントより、フォロワー千人でも保存とUGCが活発なアカウントの方が、事業貢献は大きくなります。数を集める前に、反応の質を見る習慣をつけることが効果測定の出発点です。
よくある質問
Z世代マーケティングについて、検索でよく寄せられる疑問に簡潔に答えます。
Z世代のマーケティングの特徴は何ですか?
企業の一方的な広告より、同世代や身近な発信者の口コミ・UGCを信頼する点が最大の特徴です。購入前にSNSで情報を集め、価格に見合う実利とブランドの背景にある物語、企業姿勢の誠実さを確認したうえで慎重に判断します。したがって、広告らしさを抑え、ユーザーが自発的に語りたくなる仕組みを設計することが、Z世代マーケティングの軸になります。
Z世代は何歳から何歳までですか?
おおむね1990年代後半から2010年代初頭に生まれた世代を指し、よく使われる定義では1997年〜2012年前後の生まれです。2026年時点では、おおよそ10代から20代後半が該当します。境界には諸説があり、調査によって対象年齢が15〜24歳、17〜28歳などと異なるため、データを参照する際はその調査がどの年齢層を対象にしているかを確認することが大切です。
Z世代マーケティングでやってはいけないことは何ですか?
対価や依頼関係のある投稿に「PR」「広告」の表示を付けない口コミ施策は、2023年10月施行のステマ規制(景品表示法)に違反する恐れがあり、避けるべきです。無償提供した商品の投稿で広告表示を隠す、関係者に身元を伏せて好意的なレビューを書かせる、といった行為が典型です。また、フォロワー数やバズの再生数だけを目的化する施策も、売上につながりにくく推奨できません。
Z世代とミレニアル世代・α世代のマーケティングの違いは何ですか?
ミレニアル世代もデジタルに親しんだ世代ですが、Z世代は生まれた時点でスマートフォンとSNSが当たり前だった「SNSネイティブ」である点が異なり、検索や購買の入口がSNSに広がっています。Z世代の次のα世代は、さらに幼少期から動画やAIに触れて育つ世代とされ、今後のマーケティングでは両世代をつなぐ視点が必要になります。世代を一括りにせず、それぞれの情報接触の前提を分けて考えることが出発点です。
Z世代マーケティングの調査・データはどこで得られますか?
SHIBUYA109 lab.(SHIBUYA109エンタテイメント)やサイバーエージェント次世代生活研究所などが、Z世代のSNS利用や消費に関する調査を定期的に公開しています。利用率や価値観のデータは年ごとに変動し、調査の対象年齢・性別によっても結果が変わるため、自社のターゲットに近い直近の調査を選び、複数の出典を見比べて判断することが大切です。