「さくらのAI Engine」とは?企業・自治体も活用可能な生成AI推論API基盤の概要と提供価値

目次
- 1 「さくらのAI Engine」とは?企業・自治体も活用可能な生成AI推論API基盤の概要と提供価値
- 2 多様なモデル対応・国内完結の安心環境!構築不要で導入しやすい、さくらのAI Engineの特長と企業にもたらすメリット
- 3 6種類のLLM搭載!さくらのAI Engineが提供する基盤モデル一覧:音声認識や埋め込みモデルなど、多彩なモデルを選択可能
- 4 料金プランと無償利用枠を徹底解説!無料利用枠と課金体系の詳細
- 5 さくらのAI Engineの使い方・利用方法:会員登録からAPI実行までのステップ
- 6 機密情報保護にも配慮:さくらのAI Engineのセキュリティと国内運用の安心設計
- 7 チャット、音声認識、埋め込み、RAGにも対応:さくらのAI Engineの多彩なAIサービス群
- 8 事業改革に生かす実践的ユースケースと他社比較:さくらのAI Engineの活用事例
「さくらのAI Engine」とは?企業・自治体も活用可能な生成AI推論API基盤の概要と提供価値
さくらのAI Engineは、さくらインターネットが提供する生成AI向けの推論(インファレンス)専用APIサービスです。2025年9月24日から一般提供が開始され、「さくらのクラウド」のコントロールパネルから手軽に利用できます。本サービスは大規模言語モデル(LLM)をはじめ、音声認識モデル、埋め込みモデル、検索拡張生成(RAG)機能など、複数の基盤モデルをAPI経由で利用可能にし、企業や自治体が自社サービスに高度なAI機能を最小限の開発作業で組み込めることを狙いとしています。なお、サービス開始時点ではさらに機能拡充が予定されており、継続的なアップデートが見込まれています。
複数のAIモデルをAPI経由で利用可能にするサービスの全体像
さくらのAI Engineは、文字生成・分類を担うチャット用モデルや、音声文字起こし、文書検索強化(RAG)など、生成AI活用に必要な機能群をまとめて提供します。例えば、提供される基盤モデルには、GPT系や日本語特化モデル、Qwen3シリーズなどの大規模言語モデル(LLM)が含まれ、これらをREST APIで呼び出すだけでアプリに組み込める設計です。さらに音声認識にはWhisper(whisper-large-v3-turbo)や多言語埋め込みモデル(multilingual-e5-large)が用意されており、これらを組み合わせてRAG(Retrieval Augmented Generation)機能を実装することもできます。このように、さくらのAI EngineではさまざまなAI機能を一つのプラットフォームで利用できる点が特徴です。
対象となる企業・自治体ユーザーと想定される利用シナリオ
さくらインターネットでは本サービスを、生成AIを自社システムに導入したい「企業や地方自治体など」を主な対象としています。具体例としては、社内問い合わせ対応のAIチャットボットや、業務音声の自動文字起こし、社内文書を活用した高度な検索システム(RAG)などが想定されています。外部の一般公開向けサービスだけでなく、機密情報を含む社内業務でも利用できることから、政府機関や金融機関などセキュリティ要件の高い分野でも導入が期待されています。
「さくらのAI」プラットフォームにおけるAI Engineの位置付け
本サービスは、さくらインターネットが計画する生成AI活用プラットフォーム「さくらのAI」の中核をなす要素です。当初は「さくらの生成AIプラットフォーム」という名称で呼ばれていましたが、2025年9月の提供開始に合わせて「さくらのAI」に改称されました。このプラットフォームでは、AI Engineのほかにも、データ分析、モデルチューニング、コラボレーション機能などが段階的に追加される予定で、エンタープライズ向けの生成AIソリューション基盤の構築を目指しています。
提供開始の背景:生成AI推論需要の高まりと開発経緯
近年、生成AIモデルをビジネス用途で活用する際の推論処理需要が急増しています。さくらインターネットでは、こうしたニーズを受けて、自社クラウド環境上に高性能GPUサーバーを整備し、最小限の開発工数で生成AIを組み込めるAPI基盤の開発に着手しました。特に、社内文書検索にAI応答を組み合わせるRAG(検索拡張生成)の実装を容易にする点が大きな特徴です。このようにして開発されたAI Engineは、2025年5月に発表されたフルマネージドAI基盤サービスの延長線上に位置づけられています。
提供開始日とサービス提供エリア(国内運用)の概要
さくらのAI Engineは2025年9月24日に提供を開始しました。サービスは国内のデータセンター上で運用されており、利用者のデータが国外に流出しない日本国内完結型インフラで提供されています。これにより、国内法令や規制に準拠した安全なデータ管理が可能となっており、情報漏洩リスクの低減につながっています。提供開始時点では無償版の申込枠に上限が設けられていますが、今後利用者拡大に伴い拡張される見込みです。
多様なモデル対応・国内完結の安心環境!構築不要で導入しやすい、さくらのAI Engineの特長と企業にもたらすメリット
さくらのAI Engineの大きな特長は、利用開始にあたって面倒なインフラ構築が不要な点です。すべてクラウド上でフルマネージドサービスとして提供されるため、高性能なGPUサーバーやネットワークのセットアップをユーザー側で行う必要がありません。また、AI機能はREST APIで提供されており、既存アプリケーションからの組み込みやプロトタイプ開発が容易です。
もう一つの特長として、目的に応じて複数の基盤モデルから最適なものを選べる柔軟性があります。例えば、テキスト生成ではGPT-OSS120bや日本語特化モデル、Qwen3シリーズなどを選択でき、用途や性能要件に応じてモデルを使い分けられます。さらに、RAG機能がAPI経由で利用できるため、社内ドキュメントや外部データを検索しながら回答を生成する仕組みを短期間で実装可能です。これにより、企業は自社データを活用したチャットボットやFAQシステムを容易に構築できます。
もう一つ重要なのは、国内完結型のインフラを採用していることです。さくらインターネット運営の国内データセンター上でサービスが稼働するため、機密情報や個人情報などを海外に送信することなく利用できます。公共機関や金融機関など高いセキュリティ要件を求める業種でも安心して導入できる点が大きなメリットです。さらに、推論処理にはNVIDIA製の高性能GPUが使われており、高負荷の生成AI処理も安定的にこなせる安定性能が確保されています。
6種類のLLM搭載!さくらのAI Engineが提供する基盤モデル一覧:音声認識や埋め込みモデルなど、多彩なモデルを選択可能
さくらのAI Engineでは、合計6種類の基盤モデルが提供されています。チャット補完(テキスト生成・分類)用のモデルは4種類あり、具体的にはGPT-OSS-120Bや日本語モデル(llm-jp-3.1-8x13b)、Qwen3-Coder-30B-A3B-Instruct、Qwen3-Coder-480B-A35B-Instruct-FP8などが含まれます。これらを使い分けることで、出力の品質や対応領域に応じた最適なモデル選択が可能です。
音声認識(文字起こし)用にはOpenAI Whisperベースの大規模モデル「whisper-large-v3-turbo」が用意されています。電話会議や現場音声を文字化する用途で利用でき、音声ファイルをAPIに送るだけで自動的にテキスト化されます。ベクトル埋め込み用には「multilingual-e5-large」が提供され、多言語・高精度の文書ベクトル化をサポートします。
また、ドキュメント検索などに用いる検索拡張生成(RAG)のためのAPIも用意されており、あらかじめ作成したベクトルデータベースを活用できます。文書から抽出したチャンクをクエリベクトルで検索し、その結果を用いてLLMで回答を生成する「documents_query」「documents_chat」という二つのAPIが使えます。なお、RAG機能自体に対する無料利用枠はなく、利用量に応じて従量課金となります。
各基盤モデルにはそれぞれ利用料金と無償利用枠が設定されています。たとえば、チャット補完用モデルでは、gpt-oss-120B系とllm-jp-3.1-8x13Bでは入力トークン0.15円・出力0.75円(10,000トークン単位)と比較的低価格に設定されています。上記以外のモデルについても公式サイトで詳細な料金表が公開されているため、用途やコスト要件に応じて適切なモデルを選択できます。
料金プランと無償利用枠を徹底解説!無料利用枠と課金体系の詳細
さくらのAI Engineは「基盤モデル無償プラン」と「従量課金プラン」の2種類の料金体系が用意されています。両プランとも共通の無料利用枠が設定されており、たとえばチャット機能で月3,000リクエスト、音声認識で50リクエスト、埋め込みで10,000リクエストまでが無償で利用可能です。無償利用枠を超えた場合、無償プランではリクエストにレート制御がかかりますが、従量課金プランでは超過分に対して課金が発生します。
従量課金プランでは、各基盤モデルの使用量に応じてトークン単位で課金されます。具体的には、先述のチャットモデル(gpt-oss-120B系)では入力トークン10,000あたり0.15円、出力トークン10,000あたり0.75円となっています。音声認識モデルは60秒ごとに0.5円、埋め込みモデルは10,000トークンあたり2円(出力無料)です。ドキュメント(RAG)機能は無償枠がなく、100チャンク単位で3円が課金されます。いずれも税込価格で、利用量に応じた明細が請求される仕組みです。
これらの料金設定により、小規模なPoCや試験利用は無料枠内で手軽に始められます。たとえばチャット3000回、音声50回の利用は無償で行えるため、開発初期段階の検証に適しています。本格運用や大量利用が見込まれる場合は従量課金プランへの切り替えが可能で、実際の使用量に合わせてコスト最適化ができます。
さくらのAI Engineの使い方・利用方法:会員登録からAPI実行までのステップ
さくらのAI Engineを利用するには、まずさくらインターネットの会員IDを取得する必要があります。会員ID作成には電話番号を使った本人確認が必要で、この手続きが完了すると「さくらのクラウド」の利用が可能になります。次に、さくらのクラウド上でプロジェクトを作成し、クレジットカード情報を登録します。これでクラウド環境が整い、AI Engineサービスを有効化できます。
プロジェクト作成後はコントロールパネル内で「さくらのAI Engine」を選択し、APIキーを発行します。発行されたAPIキーを使ってREST APIを呼び出すことで、各種AI機能が利用可能です。公式サイトやドキュメントには具体的なAPIエンドポイントやリクエスト例が掲載されており、サンプルコードを動かすことで動作を確認できます。なお、無料プランで始める場合は申込み数に上限があるため、早めに申し込んで枠を確保することが推奨されます。
機密情報保護にも配慮:さくらのAI Engineのセキュリティと国内運用の安心設計
さくらのAI Engineは、さくらインターネットが運営する国内データセンターのみで構成されるインフラ上で稼働しており、機密情報や個人情報を日本国内で完結して処理できます。これによりデータの国外流出リスクを低減でき、情報セキュリティやプライバシー保護の面で安心して利用できます。さらに、同社は高セキュリティ要件を求める公共機関向けにもサービスを提供しており、厳格なガイドラインや法令に準拠する運用体制を整えています。
推論処理ではNVIDIA製GPUが用いられており、これらの資源は厳格なアクセス制御の下で管理されています。通信経路も暗号化されており、データは適切に暗号化・保護されます。また、システム全体では冗長構成やバックアップによる可用性確保の仕組みが組み込まれており、障害時にもデータの安全性や継続的なサービス提供が維持されるよう設計されています。このように、国内運用による「見える安心」とハードウェア面での堅牢性を両立させている点が大きな魅力です。
チャット、音声認識、埋め込み、RAGにも対応:さくらのAI Engineの多彩なAIサービス群
さくらのAI Engineでは、テキストチャット(生成・分類)から音声文字起こし、ベクトル埋め込み、RAGまで多彩なAIサービスが利用できます。チャット機能では、入力テキストに続く自然な応答を生成したり、文章の分類を行ったりできます。前述の4種類のチャットモデルを使い分けることで、多様な会話シナリオや要件に対応可能です。
音声認識サービスでは、音声ファイル(録音データ)をAPIに送ることでテキスト文字起こしを自動で実行できます。例えばコールセンターや会議録音をそのまま文字化し、業務分析に活用するケースが想定されます。ベクトル埋め込みサービスでは文章を高次元ベクトルに変換し、意味検索や類似度計算が可能になります。構築したベクトルデータベースをRAGの検索時に活用でき、AIチャットボットの質問回答精度向上などに利用できます。
RAG(Retrieval Augmented Generation)機能は、ユーザーからの質問をベクトル化し、社内文書などの検索結果をLLMに与えて回答を生成する仕組みです。具体的には、埋め込みモデルでクエリをベクトル化し、ベクトルデータベースを検索し、検索結果を指定したLLMモデルで自然言語に変換する三段階を1回のAPI呼び出しで実行できます。これにより、FAQ対応チャットボットやドキュメント回答システムの構築が効率的に行えます。以上のように、チャット・音声・埋め込み・RAGといった機能を一つのサービスでシームレスに利用できる点がさくらのAI Engineの強みです。
事業改革に生かす実践的ユースケースと他社比較:さくらのAI Engineの活用事例
さくらのAI Engineは企業の業務改革にも貢献します。例えば、ある企業では社内FAQを活用したチャットボットを構築し、社員からの定型的な問い合わせ対応を自動化しました。従来メールや電話に割いていた人的リソースを削減し、業務効率化を実現しています。また別の事例では、コールセンターの通話記録をAIで文字起こしする仕組みを導入し、迅速な応対品質分析やサービス改善に役立てています。さらにRAGを活用したドキュメント検索システムでは、分散保管されていた社内文書から関連情報を高速に抽出し、回答生成に利用する取り組みが進んでいます。
これらのユースケースと比較して他社サービスと差別化する点としては、まず国内運用による安心感とコスト面の優位性が挙げられます。多くのグローバルAIサービスはデータを海外サーバーで処理しますが、さくらのAI Engineは国内で完結するため、法的規制が厳しい業界でも安心して利用できます。また、豊富な無料利用枠や複数モデルの選択肢により、導入段階でのコストやリスクを抑えられるのも強みです。モデル性能や価格体系を比較検討した結果、同程度のトークン単価や機能を備える他社クラウドよりも手軽に始められるという評価もあります。