この記事では、LGWANとインターネットの違い、AWSやAzureなどへの接続方法、民間企業がLGWAN-ASPへ参入する手続を、J-LIS・総務省・デジタル庁の一次資料に基づいて整理します。
まとめ:LGWANの要点
LGWANは、J-LIS(地方公共団体情報システム機構)が運営する地方公共団体専用の閉域ネットワークです。平成16年3月に東京都三宅村を除く全市区町村の接続が完了し、三宅村も平成19年度に正式接続しました。2024年10月に世代交代した第五次LGWANでは、ガバメントクラウドへ専用線でつなぐ「LGWANガバメントクラウド接続サービス」が新設され、AWS・Azure・Google Cloud・OCIの4つが接続先として整備されています。自治体側は総務省ガイドラインの「三層の対策」でネットワークが分かれ、β・β’モデルやα’モデルを選ぶ場合は外部確認と外部監査の報告書をJ-LISへ提出します。以降で全体像を意図ごとに見ていきます。
LGWANの定義と読み方、運用開始までの経緯
LGWANはLocal Government Wide Area Networkの略で、正式名称は総合行政ネットワークです。読み方は「エルジーワン」で、福井市の公式ページでも「LGWAN(エルジーワン)」と表記されています。
運営主体であるJ-LISは、LGWANを「地方公共団体の組織内ネットワーク(以下「庁内LAN」という。)を相互に接続し、地方公共団体間のコミュニケーションの円滑化、情報の共有による情報の高度利用を図ることを目的とする、高度なセキュリティを維持した行政専用のネットワークです」と定義しています。第一の目的は庁内LAN同士の相互接続で、国の機関との情報交換はLGWANが政府共通ネットワークと相互接続することで実現しており、LGWANが直接国の各機関を収容しているわけではありません。
整備は段階的に進みました。平成12年度の実証実験を経て平成13年度から都道府県が接続を開始し、平成16年3月に東京都三宅村を除く全市区町村の接続が完了、三宅村も平成19年度に正式接続しています。その後、平成29年11月からマイナンバー制度における情報連携等の本格運用がLGWANを利用して開始され、現在では住民情報の連携基盤も担っています。
LGWANとインターネットの違い
両者は技術的には同じIPネットワークですが、収容できる利用者、運営責任、使えるドメイン名が異なります。
| 比較軸 | LGWAN | インターネット |
|---|---|---|
| 接続できる主体 | 地方公共団体(ASPは府省・公益法人・民間企業等も可) | 制限なし |
| 運営主体 | J-LIS(LGWAN全国センター) | 単一の運営主体は存在しない |
| 外部との関係 | インターネットから切り離された閉域網 | 公開網 |
| 利用できるドメイン | 地方公共団体専用のLG.JP | CO.JP、COMなど制限なし |
| 通信の監視 | IDSで監視し、SOCが24時間365日運用 | 各組織の裁量 |
| 提供されるサービス | LGWAN-ASPとして登録されたサービス | 一般のクラウドサービス |
LG.JPドメインは個人や民間企業では使用できず、使用者が地方公共団体であること自体を示します。自治体のメールは、他団体宛てにはLGWANを、住民や企業宛てにはインターネットを通ります。同じアドレスでも経路が分かれる点は、後述する三層の対策を理解する前提になります。
LGWANのネットワーク構成と3つの接続方式
LGWANはネットワークと機器を二重化した構成をとっており、J-LISは第五次LGWANでもこの二重化を継続するとしています。自治体から見た接続経路には、次の3方式があります。
| 接続方式 | 経路 | 特徴 |
|---|---|---|
| 都道府県ノード経由冗長方式 | 庁内LAN → 都道府県WAN → 都道府県ノード → LGWAN網 | 従来からの標準的な構成 |
| 直接接続方式 | 庁内LAN → LGWAN網へ直接 | 都道府県ノードの停止による影響を回避できる |
| ハイブリッド方式 | 上記2方式の併用 | 団体のネットワーク構成に合わせて選択 |
第五次LGWANでは、アクセス回線の可用性向上の観点からJ-LISが直接接続方式を強く推奨しています。都道府県ノードを経由する構成では、ノード側の障害が管内の複数団体へ一斉に波及するためです。
費用の負担主体は3者に分かれる
LGWANの費用は自治体が一括で負担するのではなく、経路の区間ごとに負担主体が分かれます。
| 負担主体 | 負担する範囲 |
|---|---|
| 各自治体 | LGWANアクセス回線、LGWAN接続ルータ |
| 都道府県 | 都道府県WAN、都道府県ノード |
| J-LIS | LGWAN網、ガバメントクラウドへの接続回線・中継ルータ、クラウド接続サービス |
自団体が負担するのはアクセス回線と接続ルータの範囲で、網側の設備はJ-LISが整備します。調達時はこの役割分担を前提に見積もりの範囲を決めます。
第四次から第五次への世代交代
第五次LGWANは令和6年10月中旬に運用を開始し、第四次LGWANは令和8年(2026年)3月末をもって運用を終了する計画で、本記事の執筆時点ではその期日を過ぎています。移行は希望時期を3か月ごとに区切った5グループ単位で進められました。第五次LGWANのポイントは、セキュリティ確保と利便性向上の両立、一層の安定運用、ガバメントクラウド接続への対応の3点です。
三層の対策とLGWAN接続系
自治体がLGWANに接続する際は、総務省「地方公共団体における情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」が示す三層の対策に基づく環境が必要です。三層とは、マイナンバー利用事務系、LGWAN接続系、インターネット接続系の3領域を指します。
重要なのは、領域間の扱いに「分離」と「分割」という別の言葉が使われている点です。マイナンバー利用事務系は他の領域と通信できないようにする「分離」が原則で、必要な場合のみ通信経路とポート番号を限定した「特定通信」が認められます。LGWAN接続系とインターネット接続系の間は、いったん分離したうえで必要な通信だけを許可する「分割」で、その通信は無害化を経ます。
無害化通信の3方式
ガイドラインが定める無害化通信は3方式です。インターネット環境で受信したメールの本文のみをテキスト化して転送するメール無害化、インターネット接続系の端末を仮想デスクトップ化して画面だけを転送する画面転送、そして危険因子をファイルから除去または不在を確認して取り込むファイル無害化で、処理は自治体情報セキュリティクラウドまたはインターネット接続系のシステムで行われます。
この無害化には副作用もあります。J-LISが総務省の会議へ提出した資料には、電子契約についてLGWANへファイルを取り込む際の無害化処理で原本性が損なわれ電子署名が無効になるという課題と、事業者から電子署名付き文書を対象外にできないかという要望が出ていることが記載されています。
α・α’・β・β’の4モデル
三層の対策には、セキュリティと利便性のバランスに応じた複数のモデルがあります。旧来の解説ではβモデルとγモデルという整理を見かけますが、現行ガイドラインのモデルはα、α’、β、β’の4つで、γモデルはありません。
| モデル | 業務端末の配置 | 追加される条件 | ガイドライン改定 |
|---|---|---|---|
| α | LGWAN接続系(インターネットとは接続しない) | 三層の対策の基本形 | 従来モデル |
| α’ | LGWAN接続系のまま特定クラウドへ直接接続 | 接続先はISMAPクラウドサービスリスト登録サービス | 令和6年10月 |
| β | インターネット接続系(重要な情報資産は置かない) | EDR等の技術的対策と緊急時即応体制の整備 | 令和2年12月 |
| β’ | インターネット接続系(業務システムも配置) | 情報資産単位のアクセス制御と継続的な検知・モニタリング体制 | 令和2年12月 |
α’モデルは、業務環境がインターネットから分割されたαモデルの団体でも、Web会議等の特定クラウドサービスを使えるようにするローカルブレイクアウトです。接続先がISMAPのクラウドサービスリストに登録されたサービスに限られる点が、他のモデルにはない制約になります。
採用時の外部確認の要件は、モデルによって条件が違います。α’モデルは、実施について事前に外部による確認を行って報告書をJ-LISへ提出し、その後も定期的に外部監査を実施して監査報告書を提出することとされています。β・β’モデルも同じ手続ですが、ガイドラインは「インターネット接続系とLGWAN 接続系を完全に分離する場合を除き」と例外を置いています。完全分離の構成なら提出義務の対象外になる点は、設計段階で確認する価値があります。
LGWAN網そのもののセキュリティ対策
自治体側の三層の対策とは別に、LGWAN網の内部でも対策が講じられています。J-LISが挙げるのは、ファイアウォールによるサーバ群の防御、通信経路の暗号化、団体間や都道府県ノード間の直接通信を制限したうえで全通信をIDSで監視する侵入検知、SOCによる24時間365日の監視、LGPKI(地方公共団体組織認証基盤)による組織認証の5点です。
LGWAN-ASPの仕組みとサービス区分
LGWAN-ASPは、LGWANという閉域網を介して、利用者である地方公共団体の職員に各種行政事務サービスを提供する仕組みです。文書管理や電子申請、庶務事務といった業務システムの多くが、このLGWAN-ASPとして提供されています。J-LISの区分では次の5種類で構成されます。
- アプリケーション及びコンテンツサービス
- ホスティングサービス
- ネットワーク層及び基盤アプリケーションサービス
- 通信サービス
- ファシリティサービス
自治体が導入するのは主にアプリケーション及びコンテンツサービスですが、サーバを載せるホスティングサービスや設置場所を提供するファシリティサービスが別区分として登録される点が、一般的なSaaSとの構造上の違いです。登録済みサービスの一覧は、2021年11月からインターネット環境でも閲覧できるLGWAN-ASPポータルサイトで公開されています。
クラウド(IaaS)利用型LGWAN-ASPの解禁
近年もっとも大きい変化は、ホスティングサービスの機器設置要件にISMAPクラウドサービスリスト登録済みのIaaSクラウドが追加され、パブリッククラウド上にLGWAN-ASPホスティングサービスを構築できるようになったことです。J-LISは、システム構築時間の短縮、容易なシステム拡張・冗長化、生成AI等の最新技術の活用、低コスト化といった特性を生かせるとしています。物理サーバをファシリティサービス上に持ち込む前提だった従来と比べ、参入障壁を下げる変更です。
LGWANからクラウドへ接続する方法
「LGWANからAWSやAzureは使えるのか」という疑問には、2026年時点で3つの答えがあります。用途によって使う仕組みが異なるため、混同しないよう整理します。
1つ目は、LGWAN-ASPとして提供されているサービスを使う方法です。ホスティング基盤にパブリッククラウドのIaaSが使えるため、事業者がクラウド上に構築したサービスを自治体はLGWAN経由で利用します。2つ目は、α’モデルによるローカルブレイクアウトで、Web会議などISMAP登録済みの特定サービスへ業務端末から直接接続する方法です。
3つ目が、第五次LGWANで新設された「LGWANガバメントクラウド接続サービス」です。自治体の基幹業務システムを載せるガバメントクラウドへLGWAN経由で専用線接続する仕組みで、J-LISはLGWAN接続ルータからクラウド接続ロケーション内の接続点までを提供します。対応するクラウドと接続方式は次のとおりです。
| クラウド | 接続方式 | 接続先 | 作成する側 |
|---|---|---|---|
| AWS | Direct Connect(ホスト型接続) | Direct Connect Gateway | LGWAN側(自治体側で受入承認) |
| Google Cloud | Partner Interconnect | Cloud Router | LGWAN側(自治体側でVLANアタッチメント有効化) |
| Azure | ExpressRoute | ER Gateway | 自治体側 |
| OCI | FastConnect | DRG | 自治体側 |
AWSとGoogle CloudはLGWAN側が接続を作成して自治体側が受け入れ操作を行うのに対し、AzureのExpressRouteとOCIのFastConnectは自治体側が作成します。庁内LANは対応範囲外で、接続先ゲートウェイの種類も限定されています。基幹20業務の標準準拠システムをガバメントクラウドへ移行する案件では、この接続仕様がそのまま設計の制約になります。
民間企業によるLGWAN-ASP参入の資格・登録手続
LGWANは行政専用の閉域網ですが、民間企業が関わる経路はあります。LGWAN-ASPのサービス提供者になることです。
手続は書類の提出と所定の審査で進みます。まず「総合行政ネットワークASP登録及び接続に関する参加資格審査申込書」を提出し、受理された後に、サービス区分に応じた接続申込書や登録申込書を出します。自社でホスティングを持たずアプリケーションだけを提供する場合は、サーバを提供するホスティングサービス事業者を通じて接続申込を行います。提供者が別会社でも提供は可能ですが、参加資格審査申込書はそれぞれの事業者が提出します。
設備面の制約も先に押さえます。J-LISのFAQでは、LGWAN網に接続する回線は原則としてソフトバンク株式会社の回線を契約して利用し、サーバ類を設置するスペースはLGWAN-ASPファシリティサービスとして登録されたサービスから選択するとされています。自社設備を任意に持ち込んで網へ直結できる構造ではないため、参入検討では回線と設置場所の要件を最初に確認します。
LGWANの今後:2030年頃の将来像
LGWANの将来像は、デジタル庁に設置された「国・地方ネットワークの将来像及び実現シナリオに関する検討会」の報告書(令和6年5月)で2030年頃を目標時期として描かれています。柱は、仮想化技術の活用と基盤の共用化、ゼロトラストアーキテクチャの考え方を導入したセキュリティ確保、人材育成のための環境整備の3点です。国は政府共通の標準的PC・ネットワーク環境であるGSS(ガバメントソリューションサービス)へ原則移行し、地方についても国が主体的に整備するネットワーク基盤の共用化を検討するとされています。LGWANが担うマイナンバー制度の情報連携やJアラート等の機能の在り方は、引き続き検討とされました。
令和7年度の検証で見えた課題
デジタル庁は令和7年度に検証事業を実施し、2026年3月31日に最終報告書の概要版を公表しています。宮城県と名取市のプロジェクトではGSS G-Net経由のLGWAN-ASPサービスが問題なく利用でき、山口県と岩国市のプロジェクトでは、従来の三層の対策で物理分離されていた業務を1台の端末で実施できることが確認されました。
一方、自治体が提案したゼロトラスト環境の検証では、技術的には導入可能でも運用面の課題が繰り返し挙がりました。機微な情報に対する情報漏えい対策の検知精度、専門人材を含む運用体制の差、機器購入からサービス利用へコスト構造が移ることによるライセンス費用の高騰などです。今後は、令和8年度から基盤共用化の対象範囲とGSS環境への移行の検討、令和9年度から将来像案の具体化と環境整備、令和12年度から将来像への移行開始というスケジュールが示されています。
ゼロトラスト移行を前提にできない費用・運用条件
LGWANの解説では「ゼロトラストへの移行」が近未来のように語られがちですが、運営主体の見方は慎重です。J-LISが令和5年2月に総務省の会議へ提出した資料では、ゼロトラスト導入には全IT資産の棚卸や動的なポリシー定義といった煩雑な作業と専門組織が必要で費用負担も大きいことから、次期自治体ネットワークについてゼロトラスト導入を前提にすることは困難と明記されています。同資料には、代表的なソリューションで年間1,930億円という試算も、ユーザー数を100万人と仮定した参考値として示されています。自治体DXでゼロトラストを検討する際は、この費用と体制の現実を出発点に置きます。
よくある質問
LGWANの読み方は何ですか?
「エルジーワン」と読み、正式名称は総合行政ネットワークです。
LGWANからインターネットには接続できますか?
LGWAN自体はインターネットから切り離された閉域網です。ただし三層の対策によりLGWAN接続系とインターネット接続系は「分割」された関係にあり、メール無害化・画面転送・ファイル無害化のいずれかを経由すれば必要な通信だけをやり取りできます。α’モデルを採用すれば、ISMAP登録済みの特定クラウドサービスへ直接接続する運用も可能です。
民間企業もLGWANに接続できますか?
LGWAN-ASPのサービス提供者として参加資格審査を受け、受理されれば、LGWANを通じて地方公共団体へサービスを提供できます。ただし網へ自由に接続できるわけではなく、回線は原則としてソフトバンクの回線、サーバの設置場所は登録済みファシリティサービスから選ぶ必要があります。
第四次LGWANと第五次LGWANは何が違いますか?
第五次LGWANは令和6年10月中旬に運用を開始しました。J-LISが挙げる違いは、パブリッククラウド上のサービスを利用しやすくすること、アクセス回線の可用性向上として直接接続方式を強く推奨すること、ガバメントクラウドへの接続の仕組みを新たに構築したことの3点です。
LGWANとガバメントクラウドはどちらを使うのですか?
両者は代替関係ではありません。ガバメントクラウドは基幹業務システムを載せる基盤で、LGWANはそこへ安全にたどり着くための経路にあたります。第五次LGWANのLGWANガバメントクラウド接続サービスは、この2つをつなぐために整備されました。