LGWANを簡単に言うと、全国の地方公共団体の庁内LANを相互につなぐ、インターネットから切り離された行政専用の閉域ネットワークです。この記事では、インターネットとの違い、構成要素と接続方式、三層の対策と無害化、LGWAN-ASPの仕組み・費用・参入手続、AWSやAzureへのガバメントクラウド接続までを、J-LIS・総務省・デジタル庁の一次資料に基づいて整理します。
まとめ:LGWANの要点
LGWANは、J-LIS(地方公共団体情報システム機構)が運営する地方公共団体専用の閉域ネットワークで、読み方は「エルジーワン」です。2024年10月に運用を始めた第五次LGWANへの移行は2026年3月までに完了し、第四次LGWANとの並行稼働も同月で終わりました。第五次ではガバメントクラウドへ専用線でつなぐ「LGWANガバメントクラウド接続サービス」が新設され、AWS・Azure・Google Cloud・OCIが接続先です。
自治体の庁内は総務省ガイドラインの「三層の対策」で分かれ、インターネット側からLGWAN側へのデータ転送はメール無害化・画面転送・ファイル無害化のいずれかを通します。民間企業はLGWAN-ASPのサービス提供者として関われます。ASP接続料金がかかるのはホスティングサービスだけで、kintoneやBoxのようなインターネットのSaaSも、中継型のLGWAN-ASPを通せばLGWAN側から使えます。
LGWANの定義と読み方、運用開始までの経緯
LGWANはLocal Government Wide Area Networkの略で、正式名称は総合行政ネットワークです。読み方は「エルジーワン」で、福井市の公式ページでも「LGWAN(エルジーワン)」と表記されています。
運営主体であるJ-LISは、LGWANについてのページで「地方公共団体の組織内ネットワーク(以下「庁内LAN」という。)を相互に接続し、地方公共団体間のコミュニケーションの円滑化、情報の共有による情報の高度利用を図ることを目的とする、高度なセキュリティを維持した行政専用のネットワークです」と定義しています。国の機関との情報交換は、LGWANが府省間ネットワークであるGSS G-Net(旧・政府共通ネットワーク)と相互接続することで実現しており、LGWANが国の各機関を直接収容しているわけではありません。
整備は段階的に進みました。平成12年度の実証実験を経て平成13年度から都道府県が接続を開始し、平成16年3月に東京都三宅村を除く全市区町村の接続が完了、三宅村も平成19年度に正式接続しています。平成29年11月からはマイナンバー制度の情報連携等の本格運用がLGWANを利用して始まりました。
LGWANとインターネットの違い
両者は技術的には同じIPネットワークですが、つなげる主体、運営責任、使えるドメイン名が異なります。
| 比較軸 | LGWAN | インターネット |
|---|---|---|
| 接続できる主体 | 地方公共団体(ASP提供者は審査制) | 制限なし |
| 運営主体 | J-LIS(LGWAN全国センター) | 単一の運営主体なし |
| 外部との関係 | インターネットから切り離した閉域網 | 公開網 |
| ドメインの例 | 自治体専用のLG.JP、LGWAN内のLGWAN.JP | CO.JP、COMなど制限なし |
| 通信の監視 | IDSとSOCで24時間365日 | 各組織の裁量 |
| 使えるサービス | 登録済みのLGWAN-ASP | 一般のクラウドサービス |
使い勝手の面では、閉域で守られる代わりに、職員がLGWAN側の端末から一般のWebサイトやSaaSを直接開けない不便さが生じます。この不便さを緩和する仕組みが、後述する無害化通信、α’モデル、中継型のLGWAN-ASPです。
LGWANメールとインターネットメールの取り違え
自治体には、LGWANの中だけで届くLGWANメールと、インターネット側のメールの2系統があります。他団体の職員宛てにLGWANメールのアドレスへインターネット側から送っても届きません。LG.JPドメインのアドレスでも、インターネットに公開されているものとLGWAN内でしか使えないものがあるため、ドメインだけでは判別できません。民間事業者が自治体とメールでやり取りするときは、相手のアドレスがどちらの系統かを最初に確認しておくと、不達の原因調査に時間を取られずに済みます。
LGWANの構成要素と3つの接続方式
LGWANの基本構成は、自治体側の機器から全国の運用拠点まで、役割の異なる4つの要素で説明されます。次の表は第四次LGWAN期のJ-LIS資料「総合行政ネットワークの概要(2018年4月版)」に基づく整理です。
| 構成要素 | 役割 |
|---|---|
| LGWAN接続ルータ | 庁内LANとLGWANを接続する通信機器 |
| 都道府県ノード | 県内の市区町村とASP提供者の回線を収容・集線 |
| POI(Point Of Interface) | DNS・SMTP・NTP等の提供と不正アクセスの検知・監視 |
| 全国NOC | J-LISが設置運営し、LGWAN全体を運用・管理 |
第五次LGWANの構成図では、これにセキュリティGWやガバメントクラウド接続機能が加わっています。ネットワークと機器は二重化されており、J-LISは第五次LGWANでもこの二重化を継続するとしています。自治体の庁内LANから見た接続経路には、次の3方式があります。
| 接続方式 | 経路 | 特徴 |
|---|---|---|
| 都道府県ノード経由冗長方式 | 庁内LAN → 都道府県WAN → 都道府県ノード → LGWAN網 | 従来の標準構成 |
| 直接接続方式 | 庁内LAN → LGWAN網へ直接 | 都道府県ノード停止の影響を受けない |
| ハイブリッド方式 | 上記2方式の併用 | 団体の構成に合わせて選択 |
第五次LGWANでは、アクセス回線の可用性向上の観点からJ-LISが直接接続方式を強く推奨しています。都道府県ノードを経由する構成では、ノード側の障害が管内の複数団体へ一斉に波及するためです。実例として、大阪府の調達資料には、府内市町村が都道府県ノード接続方式で第四次LGWANを利用しており、令和6年10月から令和7年12月の間に希望時期を選んで第五次LGWANへ直接接続方式で移行すると記載されています。
LGWAN接続費用の負担主体と対象範囲
LGWANの費用は自治体が一括で負担するのではなく、経路の区間ごとに負担主体が分かれます。LGWANガバメントクラウド接続サービスの整備状況に示された区分は次のとおりです。
| 負担主体 | 負担する範囲 |
|---|---|
| 各自治体(庁内側) | 自治体LAN、LGWANアクセス回線、LGWAN接続ルータ |
| 都道府県 | 都道府県WAN、都道府県ノード |
| J-LIS | LGWAN網、接続回線、中継ルータ |
| 各自治体(クラウド側) | クラウド接続サービス、ガバメントクラウド |
J-LISが整備するのはLGWAN網から中継ルータまでの区間で、自治体は庁内側のアクセス回線と接続ルータに加え、ガバメントクラウド側の接続サービスとクラウド環境も負担します。同資料では、クラウド側で接続を受ける構成を組む運用管理補助者を自治体が別途調達するとしており、必要に応じてアクセス回線と接続ルータの増強も求めています。機器更新やクラウド移行の調達では、この区分を前提に見積もりの範囲を決めます。
第四次から第五次への世代交代
第五次LGWANは令和6年10月に運用を開始しました。J-LISの公表資料では、計画した全接続団体の移行作業が令和8年(2026年)3月までに完了し、第四次LGWANとの並行稼働期間も同月で終了しています。移行は希望時期を3か月ごとに区切った5グループ単位で進められました。第五次で変わった点は、パブリッククラウド上のサービスを利用しやすくしたこと、直接接続方式の推奨、ガバメントクラウドへの接続の仕組みの新設の3つです。
三層の対策とLGWAN接続系
自治体がLGWANに接続する際は、総務省「地方公共団体における情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」が示す三層の対策に基づく環境が必要です。三層とは、マイナンバー利用事務系、LGWAN接続系、インターネット接続系の3領域を指し、自治体で「LGWAN環境」と呼ぶのは通常このLGWAN接続系の端末とシステムです。
領域間の扱いには「分離」と「分割」という別の言葉が使われます。マイナンバー利用事務系は他の領域と通信できないようにする「分離」が原則で、必要な場合のみ通信経路とポート番号を限定した「特定通信」が認められます。LGWAN接続系とインターネット接続系の間は、いったん分離したうえで必要な通信だけを許可する「分割」で、その通信は無害化を経ます。
インターネット接続系からLGWAN接続系への転送:無害化通信の3方式
インターネット側で受け取ったメールやファイルをLGWAN側へ持ち込むときは、ガイドラインが定める3方式のいずれかで無害化します。
- メール無害化:インターネットで受信したメールの本文のみをテキスト化して転送する
- 画面転送:インターネット接続系の端末を仮想デスクトップ化し、画面だけを転送する
- ファイル無害化:危険因子をファイルから除去するか、不在を確認して取り込む
処理は自治体情報セキュリティクラウドか、インターネット接続系のシステムで行われます。この無害化には副作用もあります。J-LISが総務省の会議へ提出した次期LGWANの検討状況には、電子契約のファイルをLGWANへ取り込む際の無害化処理で原本性が損なわれ電子署名が無効になる課題と、事業者から電子署名付き文書を対象外にできないかという要望が記載されています。
α・α’・β・β’の4モデル
三層の対策には、セキュリティと利便性のバランスに応じたモデルがあります。旧来の解説ではβモデルとγモデルという整理を見かけますが、現行ガイドラインのモデルはα、α’、β、β’の4つで、γモデルはありません。
| モデル | 業務端末の配置 | 追加される条件 | 導入時期 |
|---|---|---|---|
| α | LGWAN接続系 | 三層の対策の基本形 | 従来モデル |
| α’ | LGWAN接続系+特定クラウドへ直接接続 | 接続先はISMAP登録サービス | 令和6年10月改定 |
| β | インターネット接続系 | EDR等と緊急時即応体制 | 令和2年12月改定 |
| β’ | インターネット接続系(業務システムも配置) | 情報資産単位のアクセス制御と常時監視 | 令和2年12月改定 |
α’モデルは、αモデルの団体でもWeb会議等の特定クラウドサービスを使えるようにするローカルブレイクアウトです。接続先がISMAPのクラウドサービスリストに登録されたサービスに限られる点が、他のモデルにない制約になります。α’モデルでグループウェアのどの機能をクラウドに出し、どれをLGWAN接続系に残すかは自治体のグループウェア選定|LGWAN接続系に置く機能とα′モデルで使うクラウドの線引きで整理しています。
外部確認の要件はモデルによって条件が違います。α’モデルは、事前に外部による確認を行って報告書をJ-LISへ提出し、その後も定期的に外部監査を実施して監査報告書を提出します。β・β’モデルも同じ手続ですが、ガイドライン本文は「インターネット接続系とLGWAN 接続系を完全に分離する場合を除き」と例外を置いています。完全分離の構成ではこの手続の規定から外れる書き方になっているため、報告書提出の要否は、採用するモデルと通信構成を固めたうえで現行ガイドラインの本文で確認します。4モデルそれぞれの必須対策と外部確認の条件、分離できているかの確認手順は三層分離とは:α′・β′モデルの通信経路と必須対策、分離の確認手順で詳しく扱っています。
LGWAN網そのもののセキュリティ対策
自治体側の三層の対策とは別に、LGWAN網の内部でも対策が講じられています。J-LISが挙げるのは、ファイアウォールによるサーバ群の防御、通信経路の暗号化、全通信をIDSで監視する侵入検知、SOCによる24時間365日の監視、LGPKI(地方公共団体組織認証基盤)による組織認証の5点です。
マイナンバー情報連携でLGWANが担う役割
LGWANは自治体同士のメールや掲示板だけでなく、マイナンバー制度の情報連携の経路も担っています。J-LISの2018年度の機構案内によれば、各団体はLGWANを通じて自治体中間サーバーを利用し、特定個人情報の副本登録や情報照会・提供を行います。
国側のシステムがクラウドへ移っても、この経路は残っています。デジタル庁の第三期情報提供ネットワークシステムの調達に関する回答では、「自治体中間サーバーと特殊サーバー拠点との間のネットワークはLGWAN」であり、ガバメントクラウドで稼働するインターフェイスシステムは特殊サーバー拠点を経由して自治体中間サーバーと通信すると説明されています。J-LISの令和7年度事業報告によれば、自治体中間サーバー・プラットフォームの第三次システムへの全団体の移行も令和8年3月までに完了しました。
LGWAN-ASPの仕組みとサービス区分
LGWAN-ASPは、LGWANという閉域網を介して、地方公共団体の職員に各種行政事務サービスを提供する仕組みです。J-LISの区分では次の5種類で構成されます。
- アプリケーション及びコンテンツサービス
- ホスティングサービス
- ネットワーク層及び基盤アプリケーションサービス
- 通信サービス
- ファシリティサービス
自治体が導入するのは主にアプリケーション及びコンテンツサービスです。サーバを載せるホスティングサービスや設置場所を提供するファシリティサービスが別区分として登録される点が、一般的なSaaSとの構造上の違いです。登録済みサービスの一覧は、インターネットからも閲覧できるLGWAN-ASPポータルサイトで公開されています。
LGWAN専用版と中継型:LGWAN-ASPの2つの提供形態と実例
LGWAN-ASPとして提供されるサービスには、LGWAN向けに専用の環境を用意する形と、インターネット上の既存SaaSをLGWANから使えるよう中継する形があります。「kintoneはLGWANで使えるか」「BoxやSalesforceは使えるか」という疑問は、後者の中継型で解決されている例が多いです。
| サービス | 形態 | 提供開始 |
|---|---|---|
| サイボウズ ガルーン for LGWAN | LGWAN専用のプライベートクラウド | 2017年4月3日 |
| LoGoチャット(トラストバンク) | LGWANとインターネットの両方で利用 | 2019年11月 |
| LoGoフォーム(トラストバンク) | 自治体専用フォーム(A831140) | 2020年3月2日 |
| R-Cloud Proxy for kintone(両備システムズ) | 中継型(A831057) | 2019年7月 |
| R-Cloud Proxy for Salesforce(両備システムズ) | 中継型(A801375) | 資料に記載なし |
| Box接続サービス(BSNアイネット) | 中継型 | 2020年10月 |
出典は各社の発表です(サイボウズ、トラストバンク(LoGoチャット)、トラストバンク(LoGoフォーム)、両備システムズ、BSNアイネット)。中継型は、自治体が使い慣れたSaaSの画面をそのままLGWAN側から開ける反面、SaaS本体はインターネット上にあるため、扱う情報を当該SaaSへ保存・送信してよいかを、情報の機密性区分、クラウド利用要件、自治体の情報セキュリティポリシーに照らして判断する必要があります。アンケートや申請の受付を電子申請システムとして本格的に組む場合は、専用版か中継型かを要件定義の最初に決めます。
クラウド(IaaS)利用型LGWAN-ASPの解禁
ホスティングサービスの機器設置要件にISMAPクラウドサービスリスト登録済みのIaaSが追加され、パブリッククラウド上にLGWAN-ASPホスティングサービスを構築できるようになりました。J-LISは、構築期間の短縮、拡張・冗長化のしやすさ、生成AI等の新しい技術の活用、低コスト化を利点として挙げています。物理サーバをファシリティサービスへ持ち込む前提だった従来と比べ、参入障壁を下げる変更です。AWSやAzure上にLGWAN-ASPの基盤を組む場合も、ネットワークの閉域化とISMAP登録サービスの選定は、インフラ構築(AWS・Google Cloud・Azure)の設計段階で決めておく項目です。
LGWANからAWS・Azureなどクラウドへ接続する方法
「LGWANからAWSやAzureは使えるのか」という疑問には、3つの答えがあります。用途によって使う仕組みが異なります。
- LGWAN-ASPを使う:事業者がクラウド上に構築したサービスを、自治体はLGWAN経由で利用する
- α’モデルを採る:Web会議などISMAP登録済みの特定サービスへ、業務端末から直接接続する
- LGWANガバメントクラウド接続サービスを使う:基幹業務システムを載せたガバメントクラウドへ専用線で接続する
3つ目は第五次LGWANで新設された仕組みで、自治体の基幹業務システムを載せるガバメントクラウドへLGWAN経由で接続します。J-LISはLGWAN接続ルータからクラウド接続ロケーション内の接続点までを提供します。LGWANガバメントクラウド接続サービスの整備状況に示された接続仕様は次のとおりです。
| クラウド | 接続方式 | 接続先ゲートウェイ | 接続回線の作成側 |
|---|---|---|---|
| AWS | Direct Connect(ホスト型接続) | Direct Connect Gateway | LGWAN側(自治体が受入承認) |
| Google Cloud | Partner Interconnect | Cloud Router | LGWAN側(自治体がVLANアタッチメント有効化) |
| Azure | ExpressRoute | ER Gateway | 自治体側 |
| OCI | FastConnect | DRG | 自治体側 |
Azureで設計するときに注意したいのは、AWSやGoogle CloudとはExpressRoute回線を作る側が逆になる点です。AWSとGoogle CloudはLGWAN側が接続を作成して自治体側が受け入れるのに対し、AzureのExpressRouteとOCIのFastConnectは自治体側が作成します。庁内LANは対応範囲外で、接続先ゲートウェイの種類も限定されています。基幹20業務の標準準拠システムをガバメントクラウドへ移す案件では、この接続仕様がそのまま設計の制約になります。なお、J-LISの2026年5月の概要資料では、さくらのクラウドを対象クラウドに追加する時期を令和9年(2027年)3月予定としています。
民間企業によるLGWAN-ASP参入の手続と費用
LGWANは行政専用の閉域網ですが、民間企業はLGWAN-ASPのサービス提供者として関われます。LGWAN-ASPは、LGWAN網を経由して自治体職員向けにサービスを提供するための枠組みで、自治体向けの公共システムを手がける事業者が参入する入口になります。
参加資格審査から接続までの手続
まず「総合行政ネットワークASP登録及び接続に関する参加資格審査申込書」を提出し、受理された後に、サービス区分に応じた接続申込書や登録申込書を出します。自社でホスティングを持たずアプリケーションだけを提供する場合は、ホスティングサービス事業者を通じて接続を申し込みます。提供者が別会社でも提供は可能ですが、参加資格審査申込書はそれぞれの事業者が提出します。
設備面では、J-LISのLGWAN-ASPに関するFAQ(2018年12月版)が、LGWAN網に接続する回線は原則としてソフトバンク株式会社の回線を契約して利用し、サーバの設置スペースはLGWAN-ASPファシリティサービスとして登録されたサービスから選ぶとしています。このFAQはIaaS解禁より前の版で、現在は前述のとおりISMAP登録済みのIaaSも設置先に選べます。いずれにしても自社設備を任意に持ち込んで網へ直結できる構造ではないため、回線と設置場所の要件を最初に確認します。
LGWAN-ASPの接続料金とホスティング提供者の負担
同じFAQによれば、登録・接続の申込や変更の手続そのものに費用はかかりません。J-LISへ「総合行政ネットワークASP接続料金」を支払うのはホスティングサービスを提供する場合だけで、一時費用と経常費用に分かれます。アプリケーション、通信、ファシリティの各サービスだけを提供する場合、J-LISへ支払う費用は発生しません。ただし、ホスティングを自前で持つなら、ソフトバンク回線の敷設費と使用料、LGWAN接続ルータの調達・保守費が別にかかります。
この回線と設備をまとめて借りる選択肢もあります。さくらインターネットのLGWANコネクトは、ファシリティサービス登録済みの石狩データセンターとさくらのクラウドを組み合わせてASP環境を構築でき、同社のFAQは、LGWANコネクトを使って提供する場合はJ-LISへの支払いは発生しないと案内しています。利用には石狩リージョンとインターネット接続制限オプションが必須で、期間の目安は問い合わせから利用開始まで約6か月、契約から約2か月です。初めて参入する事業者は、自前でホスティングを登録するか借りるかを、この期間と料金で比べてから決めるのが現実的です。
参加資格審査から接続確認試験までの手続の月数、3セグメント構成の組み方、接続料金の年額の出し方は、LGWAN-ASPとは:提供事業者の登録手続・3セグメント構成と接続料金の年額で詳しく解説しています。
LGWANの今後:2030年頃の将来像
LGWANの将来像は、デジタル庁の「国・地方ネットワークの将来像及び実現シナリオに関する検討会」の報告書(令和6年5月)で2030年頃を目標時期として描かれています。柱は、仮想化技術の活用と基盤の共用化、ゼロトラストアーキテクチャの考え方を導入したセキュリティ確保、人材育成のための環境整備の3点です。国は政府共通の標準的PC・ネットワーク環境であるGSS(ガバメントソリューションサービス)へ原則移行し、地方についても国が整備するネットワーク基盤の共用化を検討するとされています。
令和7年度の検証で見えた課題
デジタル庁は令和7年度に検証事業を実施し、2026年3月31日に最終報告書の概要版を公表しました。宮城県と名取市のプロジェクトではGSS G-Net経由のLGWAN-ASPサービスが問題なく利用でき、山口県と岩国市のプロジェクトでは、三層の対策で物理分離されていた業務を1台の端末で実施できることが確認されました。
一方、自治体が提案したゼロトラスト環境の検証では、技術的には導入可能でも運用面の課題が挙がりました。機微な情報に対する情報漏えい対策の検知精度、専門人材を含む運用体制の差、コスト構造が機器購入からサービス利用へ移るため、為替変動や物価上昇でライセンス費用が将来高騰する懸念などです。今後は、令和8年度から基盤共用化の対象範囲とGSS環境への移行の検討、令和9年度から将来像案の具体化と環境整備、令和12年度から将来像への移行開始というスケジュールが示されています。デジタル庁は2026年9月、GSSがVPN機器の脆弱性を突いた不正アクセスを受けたと公表しており、共用化の議論では運用監視の体制も問われます。
ゼロトラスト移行を前提にできない費用・運用条件
LGWANの解説では「ゼロトラストへの移行」が近未来のように語られがちですが、運営主体の見方は慎重です。前出の次期LGWANの検討状況(令和5年2月)では、ゼロトラスト導入には全IT資産の棚卸や動的なポリシー定義といった作業と専門組織が必要で費用負担も大きいことから、次期自治体ネットワークについてゼロトラスト導入を前提にすることは困難と明記されています。同資料には、代表的なソリューションで年間1,930億円という試算も、ユーザー数を100万人と仮定した参考値として示されています。自治体DXでゼロトラストを検討する際は、この試算をそのまま当てはめず、自団体の対象人数・採用機能・運用体制で費用を算定します。情報資産の棚卸しと、監視・障害対応の担当を確保できない段階では、全面移行を採用すべきではありません。
よくある質問
LGWANの読み方は何ですか?
「エルジーワン」と読み、正式名称は総合行政ネットワークです。
LGWANからインターネットには接続できますか?
LGWAN自体はインターネットから切り離された閉域網です。三層の対策でLGWAN接続系とインターネット接続系は「分割」された関係にあり、メール無害化・画面転送・ファイル無害化のいずれかを経由すれば必要な通信だけをやり取りできます。α’モデルを採用すれば、ISMAP登録済みの特定クラウドサービスへ直接接続する運用も可能です。
民間企業もLGWANに接続できますか?
LGWAN-ASPのサービス提供者として参加資格審査を受け、受理されれば、LGWANを通じて地方公共団体へサービスを提供できます。網へ自由に接続できるわけではなく、自前でホスティングする場合は回線とサーバの設置先に要件があります。設置先は登録済みファシリティサービスのほか、ISMAP登録済みのIaaSも選べます。
第四次LGWANと第五次LGWANは何が違いますか?
第五次LGWANは令和6年10月に運用を開始し、令和8年3月までに全接続団体が移行しました。違いは、パブリッククラウド上のサービスを利用しやすくしたこと、アクセス回線の可用性向上として直接接続方式を強く推奨していること、ガバメントクラウドへの接続の仕組みを新たに構築したことの3点です。
LGWANとガバメントクラウドはどちらを使うのですか?
両者は代替関係ではありません。ガバメントクラウドは基幹業務システムを載せる基盤で、LGWANはそこへ安全にたどり着くための経路にあたります。第五次LGWANのLGWANガバメントクラウド接続サービスは、この2つをつなぐために整備されました。