サボタージュとは、労働者が作業を続けながら、その量や質を意図的に落として要求を通そうとする争議行為です。日本語では「怠業(たいぎょう)」と訳され、厚生労働省の労働争議統計調査は「労働組合又は労働者の団体が自己の主張を貫徹するために、作業を継続しながらも、作業を量的質的に低下させるもの」と定義しています。作業そのものを止めるストライキとは、この「続けながら落とす」点で分かれます。
一方で、軍事や安全保障の文脈では施設や物資を壊す「妨害破壊行為」を指し、日常語の「サボる」は抗議の意図を含まない単なる怠けを指します。同じ言葉が場面によって別の行為を指すため、この記事では用法ごとに意味を分け、語源、ストライキとの違い、日本法での扱い、歴史上の事例までを一次資料に沿って整理します。
まとめ:サボタージュの意味と押さえる要点
- 労働争議での意味:作業を続けながら量・質を意図的に落とす争議行為(怠業)。労働関係調整法7条は争議行為の例として「同盟罷業、怠業、作業所閉鎖」を挙げている。
- ストライキとの違い:ストライキ(同盟罷業)は作業を止め、サボタージュは作業を続けたまま能率を下げる。
- 「サボる」との違い:「サボる」は「サボタージュ」の略「サボ」を動詞化した日本語で、抗議の意図を問わない個人の怠けを指す。
- 語源:フランス語の木靴「sabot」から派生した「saboter(雑にやる)」。木靴を機械に投げ込んだという話は語源学では裏付けがないとされる。
- 法的な扱い:労働組合の正当な争議行為としての怠業は刑事・民事の責任を免れる。設備の破壊やシステムの損壊は正当な争議行為と認められにくく、器物損壊罪や電子計算機損壊等業務妨害罪の対象になりうる。公務員は怠業そのものが禁止されている。
- 軍事での意味:戦時の兵器・施設の破壊工作。米国では合衆国法典第18編第105章が「Sabotage」の章名で処罰規定を置く。
サボタージュの意味|労働争議・軍事・英語での使われ方
労働争議での意味:作業を続けたまま能率を落とす「怠業」
日本の法令でサボタージュに当たる語は「怠業」です。労働関係調整法7条は「この法律において争議行為とは、同盟罷業、怠業、作業所閉鎖その他労働関係の当事者が、その主張を貫徹することを目的として行ふ行為及びこれに対抗する行為であつて、業務の正常な運営を阻害するものをいふ」と定め、怠業をストライキ(同盟罷業)やロックアウト(作業所閉鎖)と並ぶ争議行為に位置づけています。
具体的には、作業速度を意図的に落とす、定められた手順を過剰に厳格に守って処理量を減らす、といった形を取ります。職場にとどまって作業を続けている点が、ストライキとの最大の違いです。
軍事・安全保障での意味:妨害破壊行為
軍事の文脈では、敵の兵器・施設・補給を壊したり機能を止めたりする破壊工作を指します。米国の連邦法を集めた合衆国法典(U.S. Code)の第18編第105章は章名そのものが「Sabotage」で、2153条は、戦時または大統領・議会が宣言した国家非常事態に、戦争遂行や防衛活動を妨げる意図で(または妨げうると認識しながら)軍需物資・軍用施設・軍用設備を故意に損壊した者に、罰金か30年以下の拘禁刑、またはその併科を定めています。
原子力の分野でも同じ語が使われます。日本原子力研究開発機構(JAEA)の用語解説は、サボタージュ(妨害破壊行為)を「核セキュリティでのサボタージュは、敵対者による意図的な暴力を伴う行為を意味する」と説明しています。労働争議の怠業とは異なり、こちらは暴力や破壊を前提とした語です。
英語 sabotage・saboteur の意味
英語の sabotage は、意図的に物を壊したり計画を妨げたりする行為を指し、動詞としても使います。その行為をする人は saboteur(サボター、破壊工作員)です。語源辞典 Etymonline によると、フランス語でも英語でも当初は労働争議での意図的な破壊を指していました。英語の sabotage に、日本語の「サボる」のような軽い怠けの意味はありません。指すのは妨害・破壊で、敵を妨害するという軍事の意味は第一次世界大戦期から使われています。
語源:木靴「sabot」と「機械に木靴を投げ込んだ」説の真偽
サボタージュはフランス語の sabotage に由来し、その元は木靴を意味する sabot と、そこから派生した動詞 saboter です。フランス語版ウィキペディアが引くリトレの辞書(1873〜1874年)は、saboter を「急いで雑にやる」と説明しています。
よく語られる「労働者が木靴を機械に投げ込んで壊した」という話について、Etymonline は、この話は英語での記録と同じくらい古いものの語源学的な裏付けはなく、文字どおりの光景を指したものではないだろうと述べています。フランス語の saboter は「楽曲を下手に演奏する」など、「雑にやる」という意味で使われていたためです。
労働運動の用語になった時期は、当事者の証言で確かめられます。フランスの労働運動家エミール・プジェは、1911年の著書『Le Sabotage』の冒頭で、この語は15年ほど前までは「木靴で打ったような」雑な仕事を指す俗語にすぎなかったが、1897年のトゥールーズでの労働総同盟(CGT)大会で「組合の洗礼」を受けた、と書いています。同大会では『Boycottage et sabottage』(当時は t を2つ重ねた綴り)という報告書も出されました。
ストライキとの違い|作業を止めるか、続けながら落とすか
厚生労働省の労働争議統計調査は、争議行為を次の5つの形態に分けて集計しています。サボタージュ(怠業)とストライキ(同盟罷業)の違いは、作業を止めるかどうかです。
| 形態 | 行う側 | 作業 |
|---|---|---|
| 半日以上の同盟罷業(ストライキ) | 労働者 | 所定時間の1/2以上止める |
| 半日未満の同盟罷業(ストライキ) | 労働者 | 所定時間の1/2未満止める |
| 怠業(サボタージュ) | 労働者 | 続けながら量・質を落とす |
| 作業所閉鎖(ロックアウト) | 使用者 | 使用者が停止を宣言する |
| その他(業務管理等) | 労働者 | 上記以外(例:事業所を占拠して運営) |
出典:厚生労働省「令和7年労働争議統計調査の概況」主な用語の定義。
令和7(2025)年の同調査では、総争議は295件、そのうち争議行為を伴う争議は77件でした。概況の表が形態別の件数を示しているのは、半日以上の同盟罷業30件と半日未満の同盟罷業66件(両方を伴う争議は双方に計上)の2つだけです。77件のうち66件が半日未満の同盟罷業を伴っているため、同盟罷業を1つも伴わない争議(怠業・作業所閉鎖・その他だけのもの)は多くても11件です。現在の日本の争議行為は短時間のストライキが中心で、サボタージュを表立った争議手段に選ぶ例は少数にとどまります。
使用者にとっての違いもあります。ストライキは開始と終了がはっきりしていて、その時間の賃金を支払わないという扱いが明確です。これに対し怠業は就労が続くため、どの程度能率が落ちたのかを測るのが難しく、賃金の減額や業務への影響の見積もりで争いになりやすい形態です。
「サボる」との違いと言い換え
「サボる」は、サボタージュの略語「サボ」に「る」を付けて動詞化した日本語です。精選版日本国語大辞典は初出の実例として、大杉栄『日本脱出記』(1923年)の「しかし、同盟罷工其者をサボる労働者が、労働団体が、あるのには少々驚かされた」を挙げています。労働運動を語る文章の中ですでに、争議手段の名前ではなく「(やるべきことを)怠ける」という意味の動詞として使われていたことがわかります。
現在の「サボる」は、デジタル大辞泉の語釈どおり「怠ける。怠けて休む」という意味で、授業や仕事を個人的に休む場面で使われます。要求を通すための集団的な行為というサボタージュ本来の要素は含みません。
文章で「サボる」を言い換えるなら、同辞典が類語に挙げる「怠ける」「怠る」「手を抜く」「骨惜しみ」「油を売る」などが使えます。ビジネス文書では、業務を行わなかった事実を指すなら「怠る」、手順や品質を落とした場合は「手を抜く」と、何をしなかったのかで選び分けると誤解が生じません。
サボタージュの種類|消極的・積極的・開口
サボタージュは、行為の中身によって一般に3種類に分けられます。この分類は法律上の用語ではなく、人事・労務の解説で一般に使われている整理です。
- 消極的サボタージュ:作業速度を落とす、処理量を減らすなど、就労を続けながら能率を下げる。一般に怠業と呼ばれるのはこの形態。
- 積極的サボタージュ:機械や設備を壊す、わざと不良品を作るなど、使用者の財産や製品に直接損害を与える。
- 開口サボタージュ:会社の手抜き工事や不正を顧客や取引先に明かし、使用者の信用に打撃を与える。
3つの違いは、使用者の財産や信用に積極的な損害を与えるかどうかにあります。この違いが、次の章で扱う法的な評価の分かれ目になります。
日本法での扱い|正当な怠業と違法なサボタージュの線引き
労働組合の正当な怠業に対する刑事・民事の免責
労働組合法1条2項は、労働組合の団体交渉その他の行為で正当なものに刑法35条(正当行為は罰しない)を適用すると定めています。同法8条により、使用者は正当な争議行為で損害を受けたことを理由に、労働組合や組合員へ賠償を請求できません。さらに7条1号は、労働組合の正当な行為をしたことを理由とする解雇や不利益な取扱いを不当労働行為として禁じています。
労働組合法1条2項・8条の免責が対象にしているのは、「労働組合の」正当な行為です。組合による意思決定を経ずに個人が作業を遅らせる行為は争議行為に当たらず、通常の職務怠慢として懲戒や人事評価の対象になります。
設備の破壊やシステム損壊に適用されうる刑事罰
労働組合法1条2項のただし書きは「いかなる場合においても、暴力の行使は、労働組合の正当な行為と解釈されてはならない」と明記しています。積極的サボタージュのように使用者の財産を壊す行為は、争議の目的があっても正当性を欠くと評価されやすく、刑法上は次の罪に当たりえます。
| 行為の例 | 該当しうる罪 | 法定刑 |
|---|---|---|
| 機械・設備を壊す | 器物損壊等(刑法261条) | 3年以下の拘禁刑など |
| 脅迫や実力で作業を止めさせる | 威力業務妨害(刑法234条) | 3年以下の拘禁刑など |
| データ削除・不正な指令 | 電子計算機損壊等業務妨害(刑法234条の2) | 5年以下の拘禁刑など |
IT部門で問題になりやすいのは3行目です。刑法234条の2は、業務に使う電子計算機や電磁的記録を損壊したり、虚偽の情報や不正な指令を与えたりして業務を妨害した者を「五年以下の拘禁刑又は百万円以下の罰金」に処すると定めています。退職前の従業員が本番データを消す、設定を書き換えて障害を起こすといった行為は、動機が待遇への不満であってもこの罪の対象になりえます。
公務員に対する怠業の全面禁止
国家公務員法98条2項は、職員が「同盟罷業、怠業その他の争議行為」をすること、また「政府の活動能率を低下させる怠業的行為」をすることを禁じています。地方公務員法37条1項も同じ構造で、住民に対する怠業と地方公共団体の機関の活動能率を低下させる怠業的行為を禁止しています。民間の労働者と違い、公務員には正当な怠業という枠がそもそもありません。
サボタージュの歴史|川崎造船所の争議とOSSマニュアル
1919年の川崎造船所:日本の8時間労働制の起点になった怠業
神戸市立図書館の解説によると、大正8(1919)年9月半ば、川崎造船所本社工場の労働者が賃上げや賞与支給を求め、社長の松方幸次郎が確定的な回答を出さなかったことから、同月18日にサボタージュ闘争を始めました。この怠業という手段を提唱したのは新聞記者の村島帰之です。争議はほぼ10日間続き、松方が8時間労働制の採用などを示して9月27日に解決、10月から工場ごとに8時間労働制が実施されました。
同館の解説は、この争議を「8時間労働制の本格的な実施を日本に最初にもたらした労働争議」と位置づけ、全国的な反響を呼んだと記しています。現在、神戸ハーバーランドには「8時間労働発祥之地」の碑が立っています。
OSS『サボタージュ・マニュアル』:市民に向けた妨害の手引き
第二次世界大戦中の1944年1月17日、米国の戦略情報局(OSS、CIAの前身)は『Simple Sabotage Field Manual』を作成しました。占領下の欧州で、一般市民が目立たずに枢軸側の戦争遂行を妨げる方法をまとめた手引きです。現在は機密指定が解除され、原文はProject Gutenberg(2008年収録)などで誰でも読めます。
前半は建物・工具・機械・輸送への物理的な細工を扱いますが、よく引用されるのは第11項「組織と生産への一般的な妨害」です。ここには破壊を伴わない、会議や管理の進め方で組織を鈍らせる手口が並んでいます。
OSSマニュアルで点検する「会議と組織のサボタージュ」
第11項の「組織と会議」の8項目は、悪意がなくても日常の会議で起きていることばかりです。原文の手口と、それが現在の職場でどう現れるかを並べると次のとおりです。
| 原文の手口(要約) | 職場で見える形 |
|---|---|
| 何事も正規の経路を通させる | 小さな変更にも全段階の承認を求める |
| できるだけ長く話す | 結論の出ない長い発言で時間を使う |
| 委員会に回し、5人以上にする | 検討会の人数だけが増え、決まらない |
| 無関係な論点を持ち出す | 議題外の話で本題が後回しになる |
| 文書の言い回しにこだわる | 議事録の文言修正が何往復も続く |
| 前回の決定を蒸し返す | 決めたはずの事項が毎回再検討される |
| 慎重さを説く | 「拙速は避けよう」で期限が延びる |
| 権限の範囲を問題にする | 「上の判断が要る」で差し戻される |
3行目の原文は Attempt to make the committees as large as possible — never less than five. で、委員会は「決して5人未満にしない」とまで書いています。これらの手口が厄介なのは、一つひとつが慎重さや丁寧さとして正当化できる点です。意図的な妨害でなくても、同じ症状が続けば組織の意思決定は同じように止まります。
対策は、個人の姿勢を問うより会議の仕組みで塞ぐほうが確実です。議題ごとに決定者と期限を先に決めておく、決定事項は記録して再検討には新しい事実を条件にする、検討チームの人数に上限を置く、といった運用は、表の8項目のうち「委員会」「蒸し返し」「慎重さ」「権限」の4つを直接封じます。承認の段数が多すぎる組織では、決裁ルートそのものを見直すことが先になります。
職場でサボタージュが起きる原因と防ぎ方
争議としてのサボタージュであれ、個人の意図的な手抜きであれ、背景には会社側の対応への不満があります。令和7年の労働争議統計調査でも、総争議295件の要求事項(主なもの2つまで)は「賃金」178件(60.3%)、「組合保障及び労働協約」110件(37.3%)、「経営・雇用・人事」82件(27.8%)の順でした。賃金と人事への不満を伝える経路が機能しているかどうかが、争議に発展するかどうかの分かれ目になります。
防ぐには、不満が行動になる前に拾える仕組みを用意します。評価基準と結果の根拠を開示して評価の納得感を上げるには人事評価制度の等級・評価・報酬の設計が土台になり、従業員の状態を定期的に測るには組織サーベイの種類と選び方が参考になります。労働組合がある職場では、団体交渉の場で要求を受け止めることが、争議行為としての怠業を避ける最も直接的な方法です。
システムを扱う職場では、積極的サボタージュへの備えも要ります。業務上必要な範囲に権限を絞る、退職予定者のアクセス権を早めに見直す、重要データの操作ログを残すといった内部不正対策が基本です。IPAの情報セキュリティ10大脅威2026の組織編でも「内部不正による情報漏えい等」が7位に入っています。
セルフサボタージュ(自己妨害)の意味
セルフサボタージュ(self-sabotage)は、自分の目標の達成を自分で妨げてしまう行動を指す言葉です。準備を先延ばしにして本番に臨む、うまくいきそうな場面であえて手を抜く、といった形で現れます。英語圏の一般向けの心理学でよく使われる語で、診断名ではありません。
近い概念として研究で扱われてきたのがセルフ・ハンディキャッピングで、1978年のバーグラスとジョーンズの実験が出発点とされます。失敗したときに「準備不足だったから」と言える状況を自分で作り、能力の評価を守ろうとする心理です。類型や具体例、やめ方はセルフハンディキャッピングの2類型と具体例で詳しく扱っています。
サボタージュに関するよくある質問
サボタージュは日本語で何といいますか?
労働争議の意味では「怠業」です。労働関係調整法7条や国家公務員法98条2項など、法令ではこの語が使われています。軍事や原子力の文脈では「妨害破壊行為」と訳されます。
サボタージュは違法ですか?
民間の労働組合が行う正当な怠業は、労働組合法1条2項と8条によって刑事・民事の責任を免れます。ただし設備の破壊や暴力を伴う行為は正当とされず、個人が独断で行う手抜きは職務怠慢として懲戒の対象になりえます。公務員は怠業そのものが法律で禁止されています。
saboteur(サボター)とはどういう意味ですか?
サボタージュを行う人、特に破壊工作を行う人を指す英語です。フランス語の saboteur から入った語で、日本語では「破壊工作員」「妨害者」と訳されます。
「サボる」はいつから使われている言葉ですか?
精選版日本国語大辞典は、大杉栄『日本脱出記』(1923年)を初出の実例として挙げています。大正期には「怠ける」の意味で使われていました。
映画『サボタージュ』はどんな作品ですか?
同じ邦題の作品が複数あります。アルフレッド・ヒッチコック監督の1936年の作品は、ジョセフ・コンラッドの小説を原作とするサスペンスです。2014年の作品はアーノルド・シュワルツェネッガー主演、デビッド・エアー監督のアクション映画で、日本では2014年11月7日に公開されました。