DR対策(災害復旧)とは?定義・目的と企業への重要性

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DR対策(災害復旧)とは?定義・目的と企業への重要性

DR(Disaster Recovery)対策とは、災害発生時にITシステムを迅速に復旧するための準備を指します。自然災害やサイバー攻撃、停電などの障害に備えてバックアップや冗長化を設計・整備することで、システム停止時の被害を最小化し、事業の継続性を担保するのが目的です。企業においては多くの業務が情報システムに依存しているため、DR対策は事業継続(BC)を支える重要な役割を果たします。システム障害による停止時間は売上機会の損失や顧客信頼の低下につながるため、迅速な復旧によって被害を抑え、顧客・取引先からの信頼維持に貢献します。

DR対策が企業に必要な背景

近年、自然災害やサイバー攻撃の発生頻度・規模は急激に増加しており、それがDR強化の背景です。内閣府によれば、世界の自然災害発生件数や被災者数は1970年代に比べ約3倍に増加しており、保険業界の統計でも2017年以降、年平均で5~7%の損害増加傾向が報告されています。日本では国土面積わずか0.25%ながら世界の自然災害損失の17%を占めるほど被災率が高く、東日本大震災(2011年)以降も毎年大規模災害が発生しています。また情報通信技術の普及でサイバー脅威も激増しており、NICTの調査ではサイバー攻撃件数が過去10年で66倍に増加、2021年には年間5,180億パケットに達したと報告されています。これら多種多様かつ急増するリスクに対応するには、組織的なDR対策が不可欠です。

DR対策による企業のメリットと効果

ダウンタイム短縮

常時バックアップやレプリケーションを活用すれば、障害発生時のシステム停止を最小限に抑えられます。例えば、データセンター間でリアルタイム同期を行うことで、障害時も瞬時にフェイルオーバーでき、稼働停止時間が大幅に短縮します。ダウンタイムが短ければ売上機会損失を抑えられ、顧客からの信頼低下も防げます。

データ保護・損失回避

定期バックアップや多拠点保存により、災害時のデータ損失リスクを大幅に減らせます。最新のバックアップデータを遠隔地に保管しておくことで、万一の際にも直近の状態に戻して業務再開が可能です。

信用維持・事業継続

DR対策は企業ブランドや取引先からの信頼維持にもつながります。迅速な復旧が実現すれば顧客から高評価を得られ、企業価値が向上します。結果として、災害に強い体制を整えている企業はビジネスの継続性を確保でき、市場での競争力も高められます。

DR対策導入の課題とハードル

DR対策の導入には、企業視点で以下のような課題が伴います。
– コスト増大:DR環境の構築・運用にはサーバー/データセンター/クラウド利用料など多大なコストがかかります。DRは緊急時の“保険”で直接売上を生まないため、投資対効果が理解されにくく、予算獲得が難航するケースも多いです。
– IT人材確保:バックアップ運用やシステム復旧には高度なITスキルが必要です。しかし多くの企業でIT人材不足が深刻であり、社内教育や外部支援が欠かせません。
– デジタル化の遅れ:DR対策にはまずデータのデジタル化が前提です。紙ベースの資料が多い企業では、電子化に時間と手間がかかり、計画自体の進捗を妨げます。
– リスク評価の難しさ:想定外の複合的な事象を見越すには高度なリスク分析が必要で、専門部署間の連携や経営層の理解が欠かせません。加えて、DR対策自体への認識不足から導入が遅れるケースもあります。

国内外事例に見るDR対策

国内外の災害事例から多くの教訓が得られています。日本では東日本大震災で多くの企業がシステム障害に直面し、その後DR/BCPの整備が進みました。たとえば避難所運営の基幹データが震災で失われた自治体は、DR対策の不備による危機を痛感しています。海外でも、ハリケーンや洪水によるデータセンター被災からの迅速復旧事例が報告されており、多拠点配置やクラウドDRを活用して災害を乗り越えた企業が増えています。これらの事例からは、「DR準備の欠如が致命的ダメージを招く」という警鐘と、「日頃からの訓練・多層防御が被害軽減に直結する」というポイントが明らかになっています。

DR対策とBCP対策の違い:定義・役割・事例

DRとBCPは何が違う?

BCP(事業継続計画)は、企業全体の事業活動を様々なリスクから守るための包括的計画です。自然災害や感染症、テロ、サプライチェーン途絶など幅広いリスクに対して事業中断を防ぐための戦略的手法であり、企業組織全体で取り組みます。一方、DR対策はBCPの一部であり、特にITシステムの復旧に特化した技術的な対応策です。つまり、BCPがビジネス全体の継続性を維持する包括戦略なのに対し、DRは災害時にシステムやデータを迅速に復旧することを目的とします。

BCPとDRのフォーカスの違い

BCPでは、どの業務を優先的に守るか(事業影響分析)や代替業務フローの整備、人員配置、サプライチェーン維持などが重点課題です。一方DRでは、サーバー・ネットワーク・データベース等のIT資産の冗長化・バックアップ・復旧手順が焦点になります。例えばBCPでは被災時に代替オフィスで人が働けるように計画しますが、DRでは復旧担当のITチームがデータセンター間でデータ同期やシステム起動を実行します。このようにBCPは組織横断的な業務継続フロー設計、DRは技術的復旧手法に特化する点で役割が異なります。

DR対策とBCP計画の具体的な役割分担

実際の運用では、BCPチーム(経営層・事業部門担当)は緊急時の事業優先度や全社方針を決め、DRチーム(主にIT部門)がその方針に基づくシステム復旧手順を実装します。例えば製造業の場合、BCPで「工場稼働を最優先」と決めたら、DRではその工場の制御システムに短いRPO/RTOを設定して早期復旧できる体制を組みます。両者が密に連携することで、業務継続とIT復旧の双方が効率的に進められます。

採用される手法の違い

BCP対策では代替拠点の設置や、緊急時のマニュアル業務、通信手段の確保など非IT的手法を含む総合的なフローを設計します。一方、DR対策ではバックアップ、レプリケーション、クラスタリング、仮想化技術などIT的な対策が中心になります。例えばDRでは、重要データを遠隔地に自動バックアップする仕組みや、サービス継続用のセカンダリサーバーを用意することが一般的です。BCPが「人と業務フロー」に焦点を当てるのに対し、DRは「インフラとデータ」に焦点を当てています。

BCP策定中でのDR要件設定

BCPを策定する段階で、DRの目標指標(RPO/RTO/RLO)や復旧手順を明確に設定することが重要です。具体的には、業務重要度に応じてRPO/RTOを逆算し、システムの復旧優先度を決めます。例えばオンライン決済システムには極めて短いRTOを設定し、それに見合う構成(多重化やクラウドフェイルオーバー)を組み込みます。一方、影響度の低いサポートシステムはRTO/RPOを長めに設定してコストを抑えるなど、BCPの業務目標とDRの技術要件を連携させて計画を策定します。

DR対策における重要指標:RPO・RTO・RLOの意味と設定方法

RPO(目標復旧時点)の意味と設定

RPO(Recovery Point Objective)は「目標復旧時点」を指し、災害発生時点から遡ってどの時点までのデータを復旧するかを定めます。更新頻度の高いシステムは直前の時点をRPOに設定し、データロストを最小化します。更新が少ないシステムなら24時間前や数日前に設定する場合もあります。RPOを短く設定すればデータ損失を減らせますが、その分バックアップ頻度を上げたり、リアルタイムレプリケーションを利用する必要が生じ、コストや複雑性が増大します。

RTO(目標復旧時間)の意義と設定

RTO(Recovery Time Objective)は「目標復旧時間」を意味し、災害発生からシステム/サービスを復旧するまでの許容時間を定めます。たとえば「RTO=4時間」であれば、4時間以内にシステムが復旧し、業務を再開できる状態にする必要があります。重要度の高い業務ほど短いRTOが求められますが、復旧を高速化するにはミラーリングや待機系サーバーの常時動作など追加コストが必要となります。逆に緩やかに設定すればコストを抑えられますが、停止時間が長くなる影響も評価しなければなりません。

RLO(目標復旧レベル)の概要と設定ポイント

RLO(Recovery Level Objective)は「目標復旧レベル」を指し、復旧後にどの程度までシステム機能を戻すかを定める概念です。たとえば、基幹系システムでは処理能力や応答性能を平常時に近づける高いRLOを設定しますが、非クリティカルなサブシステムなら基本データのみ復旧して最低限の機能に留める低いRLOでも許容されます。それぞれのシステムの重要度に合わせてRLOを決めることで、復旧後のサービス品質をコントロールできます。

DR指標設定の実務ポイント

RPO/RTO/RLOの設定では、業務重要度とリソース制約のバランスを考慮します。重要業務ほど厳しい数値を設定しますが、限られた予算や人的リソースも勘案しなければなりません。例えばミッション・クリティカルなシステムには短いRPOとRTOを設定し、高性能ストレージや冗長構成を採用します。一方、経費系システムや人事系システムは許容ダウンタイムを長めにして運用コストを抑える選択もあります。目標値は業務インパクトとコストの妥協点で策定するのが実務上のポイントです。

DR指標とBCP計画の関係

DRの指標(RPO/RTO/RLO)は、BCP計画と密接に連携させて運用します。BCPで定めた事業優先度に従い、関連するシステムごとに適切なRPO/RTOを割り当てます。その後、その目標を満たす復旧手順や体制(担当者、復旧順序、代替手段など)をBCP文書に落とし込みます。例えば、「コア顧客向けサービス」は最優先とBCPで決定した場合、その関連システムには極めて短いRPOとRTOを設定し、IT部門はクラスタリングや高速バックアップを計画します。このように指標とBCPを一体で管理することで、災害対策を組織の大目標と整合させられます。

DRで想定される災害と備えのポイント

自然災害に対するDR対策

日本で想定される自然災害には地震・津波・台風・洪水などがあります。地震・津波リスクに対しては、データセンターやオフィスの耐震・免震構造に加えて、重要データのオフサイト(遠隔地)バックアップが必須です。台風・豪雨では水害や停電リスクが高まるため、データセンターは浸水対策やUPS・自家発電を備えた拠点を選定します。また近年増加傾向の豪雨災害に備えては、クラウドストレージによる自動バックアップや、別地域へのレプリケーションが有効です。このように各災害の特性を分析し、複数拠点・クラウド・可搬メディアなど多様な手段でデータと業務を守ることが求められます。

人的災害・脅威に対するDR対策

サイバー攻撃やテロなど人的脅威への対策も重要です。先述の通りサイバー攻撃件数は急増しており、特に標的型攻撃やランサムウェアなどに備える必要があります。具体的には、多層防御(防火壁・IDS/IPSの導入)、定期的な脆弱性診断、IDSログ監視、VPN/多要素認証などを導入し、侵入検知と隔離ができる体制を構築します。攻撃発覚時には速やかにバックアップデータへフェイルオーバーできる仕組み(例:隔離ネットワークでの復旧サイト)を整備し、迅速に事業継続できるようにします。外部依頼やCSIRT連携によるインシデント対応力強化も有効な対策です。

設備・機器の物理障害への備え

火災・停電・水害・機器故障といった設備故障もDR対象です。例えば消火システムや耐火ラックを備えたデータセンターを利用し、拠点火災への備えを固めます。またUPS(無停電電源装置)と予備発電機により停電下でも一定時間は稼働可能とします。近年のクラウド利用では、リージョン内の複数AZ(アベイラビリティゾーン)を使って物理的分散を図る例が増えています。AZは独立した電力・空調施設を持つ複数のデータセンター群で、たとえば東京リージョン内でもAZ間で同期すれば、仮に一つの施設が火災や停電で停止しても他のAZがサービスを継続できます。

複合災害対応計画

近年は複合災害(地震+津波、風雨+停電等)も想定する必要があります。DR計画では、複数要因が同時発生したシナリオも想定し、影響範囲が広がることを考慮します。例えば地震後に津波が発生した場合の復旧手順、サイバー攻撃と自然災害が同時発生した場合の事業継続体制など、多角的なプランをシナリオごとに作成します。このような包括的なDRシナリオを作っておくことで、想定外の複合事象にも柔軟に対応できます。

想定災害に基づくシミュレーションと訓練

DR計画は作成後に定期的なシミュレーション演習によって実効性を検証・向上させます。具体的には、想定シナリオ(例えば主要拠点消失や大規模サイバー攻撃)に基づいて緊急対応訓練を実施し、計画の不備や連携上の課題を洗い出します。演習では緊急連絡網・フェイルオーバー手順・手動代替プロセスなどを確認し、必要に応じてDR/BCP計画を修正・更新します。このように訓練→見直し→再訓練を継続的に繰り返すことで、計画は実践力を高め、危機発生時にも冷静な対応が可能になります。

災害復旧計画(DRP)の作成手順

初期ステップ:リスク評価と重要システム特定

DRP策定の第一歩はリスク評価とBIA(事業影響分析)です。まず自然災害やサイバー攻撃など想定されるリスクを洗い出し、その発生可能性と影響度を評価します。同時にBIAで各業務が停止した場合の損失を分析し、事業継続に不可欠な主要システム・データを特定します。この過程で、被害が甚大なシナリオ(例:地域全体停電)も含めて検討し、どのシステムをどの程度守るべきかを明確にします。こうして優先業務と関連システムが把握できれば、次段階の目標設定に進みます。

DR復旧計画における目標設定

BIAで明らかになった重要システムごとに、RPO・RTO・RLOの具体的数値と復旧目標を決定します。システムの重要度に応じて優先順位を付け、高い優先度のシステムには短いRTO・厳格なRPOを設定します。同時に、計画実現に必要な仕組み(リアルタイムレプリケーション、冗長構成、クラウド待機サーバーなど)を検討します。これらを明文化することで、各システムが災害時にどの程度の速度・品質で復旧するかを組織内で共有できるようにします。

必要なリソースと体制設計

DRPには人員・場所・設備などのリソース配置を設計します。担当者の割当て、緊急連絡網、代替拠点(DRサイト)の選定、使用機器・ソフトウェアの確保などが含まれます。たとえば、ある企業では東京本社と大阪サテライトでデータ同期を行い、必要に応じてAWSクラウドをDRサイトに利用してコストを削減しました。また沖縄の遠隔データセンターをDRサイトとする例では、本社近郊の災害リスク分散に成功しています。外部リソースとしてクラウドやマネージドサービスを活用する場合は、サービス内容・SLA・接続方式を検討して契約します。これらの体制設計により、発災時に誰がどこで何を実行するかを事前に決めておくことができます。

手順文書(手順書・連絡網など)の整備

DRPには、具体的な復旧手順書と緊急時の体制図を作成します。たとえば、バックアップ取得のタイミングや保管場所、復旧手順のステップ(システム再起動順序、ネットワーク切替手順など)、緊急連絡先リスト(社員、ベンダー、自治体など)を含めます。災害時の通信手段(衛星電話・無線機など)や復旧拠点の場所、責任者・実行者なども明記し、手順書として一元管理します。これにより、災害発生時にも手順に沿って迅速かつ確実に対応できる体制が整います。

テストと維持:演習と計画見直し

DRP完成後はテスト演習の実施と定期的な更新が欠かせません。例えば年に1回以上、想定災害を基にした復旧訓練を行い、計画の有効性を検証します。演習で判明した不足箇所や改善点は計画にフィードバックし、ドキュメントを更新します。これらをBCP運用サイクルに組み込むことで、DRPは最新のリスクや組織変更に適応し続けます。継続的な演習と見直しによって、計画は“生きたもの”となり、いざというときの精度が高まります。

持続可能なDR対策を実現するポイント

BCP連携でDR対策を最適化

DR対策を効果的にするには、BCPと連携して優先順位を決めることが重要です。BCP策定時に重要業務の継続目標(RTO/RPO)を決めておけば、DRで実現すべき可用性要件が明確になります。たとえば業務継続で重要度が高いシステムには厳格なDR要件を課し、優先復旧とします。一方低優先システムはコスト重視でバックアップ中心にします。こうすることで必要な投資と対策範囲を絞り込み、経営資源を最適配置できます。

クラウドを活用したDR対策

クラウドの利用は持続可能なDR構築のカギです。オフサイトバックアップではAWS S3/Glacierなどを活用し、地理的に離れたリージョンに定期的にデータを保存します。これにより、万一本番サイトが被災してもクラウド上のバックアップから迅速にリストアできます。また、複数リージョン・AZでサービスを稼働するマルチサイト運用により可用性を飛躍的に向上できます。加えて従量課金型のクラウドは通常時にDRリソースを停止(課金抑制)し、災害時のみ起動することでコストを抑制できます。

マネージドサービス・アウトソーシングによるDR

DRの専門性や運用コストの課題には、外部委託の活用が有効です。運用負荷の高いバックアップ作業や、緊急時対応のコールセンターなどは、DR専門ベンダーへ委託できます。たとえば、DRaaS(DR-as-a-Service)を利用すれば事前設定した条件で自動復旧が可能となり、自社のIT担当者の負担を大幅に軽減します。マネージドサービスの導入事例では、「DR専任の人材を社内で持つよりも低コストで済んだ」という声もあり、運用リソースを最適化できます。

DR対策の費用対効果

DR対策は投資に見合った成果を意識して検討します。災害発生時の損失回避額をベースにROI(投資対効果)やTCO(総所有コスト)を評価し、妥当な予算を設定します。例えば、クラウドDRを導入した企業の中には「2サイト構成の資本コストの半額で済んだ」という報告もあります。また、コスト低減策としてはシステムの停止→起動を自動化したり、不要データは低コスト階層にアーカイブするなどがあります。DR費用は保険料と同様に考え、被害削減効果が大きい施策を優先的に投資するとよいでしょう。

自動化・仮想化技術の活用

IaC(Infrastructure as Code)やコンテナ技術の活用はDR運用を効率化します。インフラをコード管理し、自動デプロイ可能にしておけば、災害時に必要な環境を短時間で展開できます。また、コンテナやオーケストレーションツールを使えばアプリケーション環境の再現が容易となり、手順ミスや作業時間を大幅に削減できます。自動化により、定期的なDR検証(テストフェイルオーバー)も継続しやすくなり、計画の信頼性向上につながります。

AWSにおけるDR戦略(マルチリージョン・マルチAZ対応)

AWSマルチAZとマルチリージョンの違い

AWSでは、AZ(アベイラビリティゾーン)はリージョン内の独立したデータセンター群です。マルチAZ構成では、同一リージョン内の複数AZにアプリケーションとデータを配置し、障害発生時に自動フェイルオーバーします。これは地震や停電などの局所災害に強く、短距離ネットワークで同期するため復旧時間が短いのが特徴です。一方、マルチリージョン構成は複数リージョンにまたがってリソースを展開する方式で、リージョン全体の障害(大規模災害・リージョン障害)にも対応できます。ただし、リージョン間の遅延・データ転送コストが発生する点がデメリットです。用途に応じ、アプリケーションの可用性要件とコストを踏まえてAZかリージョンかを選択します。

AWSでのバックアップ/レプリケーション

AWS各サービスにはクロスリージョン対応機能があります。例えばS3はクロスリージョンレプリケーションでバケット間を同期でき、Glacierもデータを別リージョンに保存可能です。EBSボリュームのスナップショットは任意のリージョンにコピーでき、EC2インスタンスを別拠点で起動できます。RDSではクロスリージョンリードレプリカを作成し、異地域へのデータ同期が可能です(必要ならマルチAZ構成も併用できます)。これらを組み合わせて、常時別リージョン・別AZにバックアップを取りつつ、必要に応じて迅速リストアします。

AWSにおけるDR構築パターン

AWSでは一般にバックアップ/リストア方式、ウォームスタンバイ方式、マルチサイト方式の3つがDRパターンとして挙げられます。バックアップ/リストア方式はデータを定期バックアップし、障害時に必要サービスを復元するシンプルな方法です。ウォームスタンバイ方式では、最小限のリソースを待機状態で動かし、発災時にキャパシティを拡大して切り替えます。マルチサイト方式は複数拠点で同等環境を稼働させ、常時ロードバランサーで振り分ける高度な手法です。可用性重視ならウォームスタンバイ以上の構成、コスト重視ならバックアップ方式を選ぶのが一般的です。

AWS環境でのDRテストと自動化

AWSではDR計画のテストも自動化できます。たとえばAWS CloudFormationを使いDR用のインフラテンプレートを用意しておくと、定期的にDRサイトを一括再構築し復旧シナリオを検証できます。さらにAWS LambdaやStep Functionsを活用すれば、インスタンス起動やDNS切替えなど復旧手順をコード化して自動実行できます。これにより人手によるテストの手間を減らし、クラウド上で安全にDR演習を行うことが可能です。

AWSでのコスト最適化

AWSにおけるDRコスト削減策としては、スポットインスタンスやリザーブドインスタンスの活用が有効です。たとえばDR用の一時リソースはスポットインスタンスで割引利用し、復旧時にのみオンデマンド起動する方法があります。またS3ライフサイクルポリシーで古いバックアップを低コスト階層に自動移行したり、不要なスナップショットを定期削除することで保管コストを抑えます。さらに、DRサイト用のリソースは常時稼働ではなく必要時起動・停止を自動化して無駄な課金を防止することも重要です。これらの工夫で、可用性とコストの最適なバランスを実現します。

ITシステム復旧に欠かせない指標と手法:バックアップとレプリケーション

復旧目標設定の指標(RTO・RPOの違い)

DR計画ではRTO(停止許容時間)とRPO(データ許容損失量)の違いを正しく理解することが重要です。RPOは「災害発生時点からどこまで遡ってデータを復旧するか」を示し、RTOは「災害からどのくらいの時間で業務を再開できるか」を示します。例えばオンライン決済システムでは、RPOを数分、RTOを数時間以内と短く設定し、リアルタイム同期を活用します。一方、定期レポート生成システムなど影響度が低い業務はRPO/RTOを緩やかに設定しても許容される場合があります。業務要件に応じた目標値を具体的に定めることで、実際の復旧計画が見えてきます。

RLO(目標復旧レベル)とは

RLO(Recovery Level Objective)は、復旧後に求められる業務水準を示す指標です。単にシステムを起動させるだけでなく、処理能力や応答性能、データの完全性がどの程度必要かを具体化します。例えば、復旧後も従来と同等のパフォーマンスを維持する必要がある業務では高いRLOを設定しますが、一時的に性能を制限してもよい業務では低めに設定できます。これにより、復旧シナリオでどこまで復元・稼働させるかの判断基準となります。RLOの設定では、業務重要度と利用可能なリソース(ネットワーク帯域、サーバ台数など)を考慮して現実的なレベルを見極めます。

遠隔バックアップ手法

テープメディアによるオフサイト保存は古典的な遠隔バックアップ手法です。定期的にバックアップデータをテープに出力し、別拠点で保管しておけば災害時にテープを運び込んで復旧できます。一方近年はネットワーク経由バックアップも普及しています。企業LANやインターネット経由で別拠点サーバやクラウドストレージにデータを転送・保管し、必要なときに素早くリストアします。クラウドバックアップ(例:S3やAzure Blob)なら、自動化された遠隔保管が可能で、物理メディア輸送よりも迅速な復旧が期待できます。用途に応じてテープ(コールドストレージ)とネットワーク(ホット/ウォームストレージ)を使い分けます。

ネットワーク経由バックアップ

クラウドや他拠点へのネットワークバックアップでは、データを常時または定期的に別場所に複製し、災害発生時に迅速な切り替えを可能にします。例えば、クレジットカード決済データを本番DCからクラウドへほぼリアルタイムで転送しておけば、本番環境がダウンしてもクラウド上ですぐ業務を再開できます。この手法ではネットワーク帯域と転送コストの確保が必要ですが、物理障害からの復旧時間は大幅に短縮できます。

データレプリケーションを活用したDR

データレプリケーションはDR対策で特に有効です。サーバーやデータベースの内容を常時別拠点に同期させることで、ダウンタイムをほぼゼロに抑えられます。例えば東京と大阪の二拠点で同期レプリケーションを構築しておけば、一方の拠点が被災してももう一方で継続運用できます。この場合、フェイルオーバー(稼働切替)も迅速で、ビジネスへの影響を最小限にできます。ただし同期レプリケーションはネットワーク遅延の影響を受けやすく、コストも増えるため、システム要件や地理条件を踏まえて同期方式(同期・非同期)を選択します。
以上のように、DR対策には明確な目標指標の設定と適切なバックアップ/レプリケーション手法の導入が不可欠です。企業はこれらを組み合わせ、自社のリスクプロファイルに応じた災害復旧戦略を体系的に構築することで、災害時にも迅速かつ確実な事業復旧を実現できます。

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