HRBP(Human Resource Business Partner)とは何か?企業の人事戦略における定義と重要性

目次
- 1 HRBP(Human Resource Business Partner)とは何か?企業の人事戦略における定義と重要性
- 2 HRBPの役割・仕事内容とは?組織における戦略パートナーとしての具体的なミッションと日常業務を詳しく解説
- 3 HRBPが求められる背景とは?導入が進む理由とビジネス環境の変化に伴う人事部門への新たな期待を詳しく解説
- 4 HRBPに必要なスキルとは?戦略人事の遂行に求められるビジネス知識・コミュニケーション能力を網羅して解説
- 5 HRBPと従来の人事・CHROの違いとは?役割範囲や責任、組織内での立ち位置の違いを徹底比較しながら解説
- 6 HRBP導入の進め方とは?準備・体制構築から定着までのステップと成功のポイント
- 7 HRBP導入のメリット・効果とは?企業にもたらす戦略的人事の利点と組織・従業員へのポジティブな影響
- 8 HRBPの導入事例・成功事例とは?先進企業での取り組みと成果から学ぶポイント
- 9 HRBPの課題と解決策とは?導入・運用上の問題点を洗い出し、克服するための具体的対策
- 10 HRBPに向いている人・キャリアパスとは?求められる人材像とキャリア形成の方向性
HRBP(Human Resource Business Partner)とは何か?企業の人事戦略における定義と重要性
HRBPは「Human Resource Business Partner」の略称で、企業内で経営者や事業部門のリーダーと共に人事戦略を立案・実行するパートナーを指します。近年、経営戦略と人材マネジメントを密接に結び付ける戦略人事の重要性が増す中で、新たな人事の役割としてHRBPが注目されています。本節ではHRBPの基本的な定義や概念の誕生背景、企業にもたらす価値などについて解説します。
HRBPの定義とは:HRビジネスパートナーという役割の基本的な意味を解説
HRBPとは、企業の人事部門に属しながら事業部門に深く入り込んで活動する人事のビジネスパートナーです。簡単に言えば、従来の人事担当者が採用や労務管理などの業務支援を行うのに対し、HRBPは経営陣や事業責任者と同じ目線に立ち、人と組織に関する課題解決を共に考え実行する役割を担います。例えば、事業部門のトップと連携し、組織設計や人材配置の戦略を練り、事業目標の達成につながる人事施策を推進します。そのためHRBPは「経営者の右腕」として、人事領域から経営に貢献することが期待される存在です。
HRBP誕生の背景:戦略人事の台頭とHRBP概念の起源を探る
HRBPという概念が生まれた背景には、人事部門に戦略性を持たせようという潮流があります。1990年代後半、米国の経営学者デイヴ・ウルリッチ氏が提唱した人事モデル(いわゆるウルリッチモデル)がHRBPの起源とされています。ウルリッチ氏は「人事は単なる事務管理ではなく経営のパートナーであるべき」と指摘し、人事機能を三つに分けました。その中でHRBPは、人事制度の設計を行う専門部署(CoE)や給与計算などのオペレーション部署(HR Ops)と並ぶ重要な機能として位置づけられました。つまりHRBPは、現場に密着してビジネス側の課題解決を図る新しい人事の役割として誕生したのです。
組織におけるHRBPの位置づけ:人事部門と事業部門の架け橋となる存在
HRBPは組織内で、人事部門と事業部門をつなぐ架け橋のような存在です。通常、各HRBPは特定の事業部門や部門の責任者に対応し、その部門のビジネス目標や課題に応じた人事施策を提案・実行します。例えば、営業部門担当のHRBPであれば、営業目標を達成するために必要な人材の育成計画や報酬制度の見直しを現場と協働して進めます。一方でHRBPは人事部門にも属しているため、人事政策の整合性を保ちつつ現場のニーズに即応する役割を果たします。これにより、従来は本社人事と現場の間にあった溝を埋め、迅速かつ的確に人事施策をビジネスに結び付けることが可能になります。
HRBPが企業にもたらす価値:経営への貢献と人事戦略強化に寄与する役割
HRBPを導入することにより、企業は人事面から経営への貢献度を高めることができます。HRBPは各事業部門の課題を把握し、人材戦略を事業戦略に直結させる役割を担うため、結果として組織パフォーマンスの向上に寄与します。例えば、人材配置の適正化や人材育成プログラムの強化を通じて、生産性や従業員エンゲージメントが向上すれば、その部門の業績アップにつながります。さらにHRBPが経営層と綿密に連携しフィードバックを行うことで、人事戦略全体の質も高まります。単なるサポート部門に留まらず、経営にインパクトを与える存在になる点に、HRBP導入の大きな価値があると言えるでしょう。
日本でのHRBP導入状況:国内企業における普及度と注目度の高まり
日本企業においても徐々にHRBPの役割に注目が集まっていますが、その普及度はまだ高いとは言えません。一部の外資系企業や先進的な国内企業ではHRBPを配置し、人事部門の戦略強化に取り組んでいます。例えば、グローバル展開するメーカーが事業部ごとにHRBPを置き、人材育成や組織開発を推進するといったケースがあります。一方、多くの企業では「事業部人事」的なポジションは存在しても、それは本社人事の方針を現場に伝達・運用する役割に留まり、真のビジネスパートナーとして機能していない場合もあります。しかし近年、人材マネジメントの重要性が増す中で、「現場に寄り添う戦略人事」であるHRBPへの期待は高まっており、今後国内でも導入が進むと考えられます。
HRBPの役割・仕事内容とは?組織における戦略パートナーとしての具体的なミッションと日常業務を詳しく解説
ここではHRBPの具体的な役割や日々の仕事内容について掘り下げます。HRBPはビジネス戦略に寄与するために様々な職務をこなしますが、経営層との連携から現場支援まで、その業務範囲は多岐にわたります。以下では、HRBPの主要な職務内容や責任範囲、そして現場との協働のあり方などについて詳しく見ていきましょう。
HRBPの主要な職務内容:日常業務と責任範囲の全体像を解説
HRBPの職務内容は多岐にわたりますが、その中心には現場と経営をつなぐ役割があります。日常業務としては、担当する事業部門のマネージャーや従業員から人事に関する相談や要望を受け付け、それに対応することが挙げられます。また、組織の課題を発見し、人材計画や配置の調整、評価制度の改善提案などを行うのもHRBPの重要な仕事です。さらに、各種人事プロジェクト(例えば人材開発プログラムや制度改訂)の現場展開を支援し、施策がスムーズに実行されるよう促進します。このようにHRBPは、採用・配置・評価・育成といった人事サイクル全般に関与しつつ、自らの担当部門における人と組織に関する責任を負います。
経営陣・事業部門との連携:ビジネスパートナーとして協働する役割
HRBPはビジネスパートナーとして経営層や事業部門の責任者との密接な連携が求められます。具体的には、定期的に事業部門のミーティングに参加して経営課題を共有し、人材面からの解決策を提案します。例えば、売上拡大が課題であれば、人員計画の見直しや営業人材の研修強化を提案し、実行に移します。経営陣から見れば、HRBPは人事の専門知識を持ちながらビジネスを理解してくれる頼もしい相談相手です。一方で現場のマネージャーにとっても、HRBPは人事制度や手続きの説明役に留まらず、チームの課題解決を一緒に考えてくれる存在です。このように上下双方と協働し橋渡し役を果たすことで、HRBPは組織全体のパフォーマンス向上に貢献します。
人材戦略の策定と実行支援:HRBPが関与する戦略的業務領域
HRBPは戦略的人事の担い手として、人材戦略の策定から実行まで深く関与します。例えば、中長期の人材ポートフォリオ(どの部門にどのような人材を配置・育成すべきかという計画)を経営陣と共に検討し、採用計画や育成計画に落とし込みます。また、組織再編や新規事業立ち上げの際には、人員配置や役割分担の設計を支援します。さらに、人事考課や後継者計画(サクセッションプラン)の策定にも関与し、キーパーソンとなる人材の育成に努めます。こうした戦略的業務では、HRBPは単に計画を立てるだけでなく、その実行段階で現場の進捗をフォローし、必要に応じて軌道修正の提言を行います。これにより、人材戦略が絵に描いた餅にならず、実効性を持って組織成果につながるようサポートできるのです。
組織開発・人材開発への貢献:HRBPが担う人事施策の推進
HRBPの重要な役割の一つに、組織開発(OD)や人材開発(TD)といった分野での施策推進があります。具体的には、組織風土の改革やチームビルディングの施策を企画・実行したり、従業員のスキルアップ研修やキャリア支援プログラムの導入を現場で主導したりします。例えば、ある事業部の業績が停滞している場合、その背景に人材育成の遅れや組織体制の問題がないかを分析し、必要なら研修制度の強化や組織改編を提案します。HRBPは自部署の人材動向を把握しているため、画一的な施策ではなく部門の実情に即した改善策を打ち出せる点が強みです。また、人材アセスメントの結果なども活用し、将来のリーダー候補に対する計画的な育成にも寄与します。このように、HRBPは現場密着型で人と組織の成長を後押しし、ひいては企業全体の競争力強化につなげていきます。
データ活用と人事戦略調整:HRBPによる人事データ分析と経営への提言
近年の人事領域では、データに基づく意思決定が重視されています。HRBPも例外ではなく、担当部門における様々な人事データを収集・分析し、経営に活かす役割を担います。例えば、従業員のエンゲージメントサーベイ結果や離職率、評価スコアなどのデータをモニタリングし、課題があればその原因を探ります。そして得られた知見をもとに、経営陣や現場管理職に対して改善策を提言します。たとえば離職率が高まっているなら、その要因(例えば労働環境や処遇)をデータから読み取り対策を講じる、といった具合です。また、デジタルトランスフォーメーションの流れの中で、HRBP自身もITツールを駆使して効率的に人事業務を行うことが期待されています。人事管理システムや分析ツールを活用し、事実に基づいた戦略調整を行うことで、より説得力のある人事提案が可能となります。このようにデータドリブンなアプローチもHRBPの重要な仕事の一つと言えます。
HRBPが求められる背景とは?導入が進む理由とビジネス環境の変化に伴う人事部門への新たな期待を詳しく解説
ここでは、なぜ今HRBPが注目され企業に求められるようになったのか、その背景を考察します。ビジネスを取り巻く環境が変化し、企業の人事部門に対する期待も大きく変わる中で、HRBPという役割が必要とされる理由がいくつも存在します。経営環境の変化やグローバル化、テクノロジーの進展など、様々な要因からHRBP台頭の背景を紐解いてみましょう。
経営環境の変化と人事の役割進化:ビジネス変革に応えるためのHRBPの必要性
近年、事業を取り巻く経営環境の変化が激しく、企業は常にビジネスモデルの変革や新規事業への対応を迫られています。このような状況下で、人事部門にも従来以上に戦略的な対応が求められるようになりました。市場や顧客のニーズがめまぐるしく変わる中、必要な人材像や組織体制も変化します。そこで、現場の状況を敏感に察知し、迅速に人材戦略を調整できるHRBPの存在意義が高まっています。言い換えれば、ビジネスのスピードに人事が応えるためには、各事業部門に密着して機動的に動けるHRBPが必要不可欠なのです。経営環境の変化に即応できる人事の仕組みとして、HRBP導入が進む理由の一つがここにあります。
戦略的人事への期待拡大:HR部門に求められるビジネスパートナーとしての役割
企業内での人事部門への期待は、「管理部門」から「戦略部門」へと大きくシフトしつつあります。経営者から見ると、人事もまたビジネス目標達成のための重要なパートナーであることが認識されてきました。そのため、人事部門には採用・労務といった従来の管理業務だけでなく、経営課題を解決する提案や組織変革の推進といった戦略的役割が求められています。こうした期待に応えるには、現場のビジネスに精通し経営陣と直接議論できる人事担当=HRBPが欠かせません。実際に「人事は経営パートナーである」という意識改革が多くの企業で起きており、その具体策としてHRBPの配置が検討・導入されるケースが増えています。人事が経営に深く関与する流れの中で、HRBPはその中核となる役割と言えるでしょう。
グローバル化・多様化への対応:HRBPによる現地ニーズへの戦略的支援
企業活動のグローバル化や働き方の多様化も、HRBPが求められる背景の一つです。海外展開する企業では、各国・各地域の現地事情に合わせた人事対応が必要ですが、本社人事だけではカバーしきれない場合があります。そこで現地に密着したHRBPがいれば、文化や制度の違いを踏まえつつ最適な人事施策を素早く講じることが可能です。また国内においても、ダイバーシティ&インクルージョン推進や在宅勤務制度導入など、新しい人事課題が増えています。現場ごとに抱える課題は異なるため、画一的な対応ではなくオーダーメイドの解決策が求められます。HRBPはそれぞれの部署・チームの状況を把握し、多様なニーズに沿ったサポートを提供できるため、組織の柔軟性と適応力を高める存在として期待されています。グローバルかつ多様な人材活用が求められる時代に、HRBPの価値が一層高まっているのです。
テクノロジーとデータ活用:HRBPが担う分析的アプローチの重要性
AIやデータ分析技術の発展により、人事の世界にもテクノロジー活用の波が押し寄せています。人事部門には、人事データを分析して人材に関する意思決定に活かす役割が求められ始めました。この変化もHRBPの必要性と関連しています。HRBPは現場の最前線で人に関する様々なデータ(業績、スキル、モチベーション等)を収集できますが、テクノロジーを活用すればそれらを迅速に分析し、根拠に基づく提案が可能となります。例えば、データ分析によって特定部署の離職傾向をつかみ、ピンポイントで労働環境の改善策を講じるといったアプローチです。従来の人事では感覚的に行っていた判断を、テクノロジーを使って科学的に行う——その担い手としてHRBPが期待されています。また、HR Techの導入が進む中で、人事システムから上がってくる情報を解釈して経営に伝える役目もHRBPが果たします。データとテクノロジーを駆使した分析的アプローチは、現代の戦略人事に不可欠であり、HRBPがまさにそのキーパーソンとなっているのです。
人材戦略の重視:人材育成・エンゲージメント強化にHRBPが果たす役割
経営課題の中で人材戦略の重要性が増していることも、HRBPへの期待を高める要因です。少子高齢化や人材流動化が進む中、優秀な人材の獲得・定着や従業員エンゲージメント向上は企業存続の鍵となっています。そのため、人材育成や組織開発にこれまで以上に力を入れる企業が増えており、現場レベルでそれを推進できるHRBPの存在が重要になっています。例えば、各部署で将来のリーダー候補を見極め、計画的に育成するプログラムを実施したり、従業員の意欲を高めるため職場環境の改善提案を行ったりするのは、HRBPが得意とするところです。従来、人材開発施策は本社主導で画一的に行われがちでしたが、HRBPは現場の声を反映させながら施策を形にできるため、より効果的な人材戦略が展開できます。企業が人への投資を重視するようになった今、その実行部隊としてHRBPが各所で求められているのです。
HRBPに必要なスキルとは?戦略人事の遂行に求められるビジネス知識・コミュニケーション能力を網羅して解説
優れたHRBPになるためには、どのようなスキルや能力が必要でしょうか。本節では、HRBPに求められる代表的なスキルセットについて解説します。ビジネス知識やコミュニケーション力、データ分析力など、HRBPは人事の専門知識に加えて多様な能力が求められる役割です。以下に主要なスキル項目を挙げ、それぞれがなぜ重要かを説明します。
ビジネス知識・業界理解:経営視点で人事を語るために必要な知識
HRBPには、人事の専門知識だけでなくビジネス全般の知識が不可欠です。具体的には、自社の事業内容や業界の動向、財務の基本など経営に関する幅広い知見を持っていることが望まれます。これは、経営陣や事業部門と対話する際に、単なる人事施策の話ではなくビジネスの文脈で語る必要があるためです。例えば「この研修を実施すれば売上向上に繋がる人材育成ができます」といった具合に、経営目線で提案できると説得力が増します。また業界固有の課題(例えば製造業なら現場技能者の高齢化、IT業界なら人材獲得競争など)を理解していれば、より適切な人事戦略を立案できます。HRBPは事業部門のパートナーですから、そのビジネスを自分ごととして捉えられる深い業界理解・事業理解を持つことが重要なのです。
コミュニケーション力:信頼関係を築き提案・調整を行うための能力
人と組織を相手にするHRBPにとって、コミュニケーション能力は基盤となるスキルです。まず、経営層や現場マネージャーとの間で信頼関係を築く対人スキルが欠かせません。相手の話を傾聴しニーズを正しく理解するとともに、自分の意見や提案を論理的かつ分かりやすく伝える力が求められます。また、現場と本社人事部との「板挟み」になる場面も多々あるため、双方の意図を汲み取りつつ調整役を果たすコミュニケーション力も重要です。例えば、現場から制度変更の要望が出た場合に本社の意向も踏まえて合意点を見出す、逆に本社施策を現場に納得して受け入れてもらうため説明・説得する、といった働きかけが必要です。これらは単なる話し上手というだけではなく、相手の信頼を得る人柄や誠実さ、状況に応じた対話スタイルを取る柔軟性など総合的なコミュニケーション能力によって成し遂げられます。
データ分析・ITリテラシー:人事データを活用し戦略を支えるスキル
現代のHRBPにはデータを扱うスキルやITリテラシーも求められます。人事領域では、多くの企業が従業員情報や組織データをHRシステムで管理し、分析に活用し始めています。HRBPも、担当部門のデータを読み解き人事戦略に活かす役割を担うため、基本的な分析手法やITツールの使いこなしが重要です。例えば、エクセルやBIツールを用いて離職率や従業員アンケート結果を分析し、そこから問題の傾向を掴むといった能力です。加えて、分析結果をレポートや資料にまとめて経営層に報告するスキルも必要です。ITリテラシーに長けたHRBPであれば、デジタル人事(HRテック)の導入推進役にもなれます。新しい人事管理システムの機能を現場に展開したり、AIを活用した人材マッチング施策を提案したりと、テクノロジーを駆使して組織課題を解決できるでしょう。データドリブンな意思決定が重視される今、HRBPには数字とITを味方につけるスキルが求められているのです。
コンサルティングマインド:課題を分析し助言する問題解決力
HRBPはしばしば内部の組織コンサルタントのような役割も果たします。そのため、課題解決に向けた分析力や助言力、いわゆるコンサルティングマインドが必要です。具体的には、現場から上がってくる様々な問題(例えば「離職率が高い」「部門間のコミュニケーションが悪い」等)に対して、その原因を論理的に分析し、解決策を構想する力です。ただ現状を聞いて対応するだけでなく、「なぜそれが起きているのか」「背景にある真因は何か」を掘り下げる姿勢が重要になります。そして解決策を提案する際には、メリット・デメリットを整理し、実行計画に落とし込む能力も求められます。また、課題解決のプロセスでは関係者の協力を得る必要があるため、ファシリテーションのスキルやプロジェクト管理能力もあると望ましいでしょう。こうしたコンサル的な視点とスキルを持つHRBPは、組織内の問題に対して主体的にアプローチし、確かな成果を上げることができます。
リーダーシップ・影響力:組織を動かし変革を促す推進力
HRBPは公式の役職階級以上に大きな影響力を発揮する場面があります。それゆえ、リーダーシップや周囲への影響力も重要な要素です。HRBP自身が部下を持つ管理職でない場合でも、プロジェクトを主導したり、現場と本社を巻き込んで施策を展開したりする際にリーダーシップを発揮しなければなりません。例えば、新しい人事制度を導入する際に、現場の協力を得つつ推進するには、HRBPが中心となって人々を導く力が求められます。そのためには、自信を持ってビジョンを示し、周囲を動機づけるコミュニケーションを取ることが肝心です。また、組織変革に伴う抵抗や混乱を乗り越える粘り強さも必要でしょう。HRBPが強いリーダーシップと良好な人間関係を築く力を持っていれば、人事施策がよりスムーズに浸透し、組織の変革を後押しできます。単なる調整役に留まらず、変革の推進者として周囲にポジティブな影響を与えられることが、優れたHRBPの資質と言えます。
人事専門知識と法律知識:人事制度や労務管理に精通し法令遵守する力
もちろんHRBPには、人事の専門家としての基礎知識も求められます。人事制度(評価・報酬・等級制度など)や労務管理の知識に精通し、それを現場で正しく適用できることが前提です。例えば、残業管理やハラスメント対応など労務面の課題については、労働基準法等の関連法令を理解した上で適切に対処する必要があります。法律知識が不十分だと、せっかく現場対応できてもコンプライアンス違反を招きかねません。また、就業規則や社内規定にも通じており、現場からの相談に的確に答えられる能力も重要です。さらに、最新の人事トレンドやベストプラクティスについて学び続ける姿勢も求められます。HRBPはビジネス寄りのスキルだけでなく、あくまで人事のプロフェッショナルとして専門性を備えていることが信頼の土台となります。豊富な人事知識と法令順守意識を持ち、それを実践に活かせることがHRBPの重要な資質です。
HRBPと従来の人事・CHROの違いとは?役割範囲や責任、組織内での立ち位置の違いを徹底比較しながら解説
HRBPは従来型の人事担当者や最高人事責任者(CHRO)と何が異なるのでしょうか。本節では、HRBPと他の人事ポジションとの違いについて整理します。具体的には、役割や業務範囲、戦略への関与度、求められるスキル、組織内での位置づけなど、様々な観点から比較してみましょう。
役割・ミッションの違い:経営戦略に直結するHRBPとサポート業務中心の従来人事
まず大きな違いとして、担うミッションの範囲が挙げられます。HRBPは事業部門のパートナーとして経営戦略に直結する人事施策を推進することがミッションです。例えば、新規事業の立ち上げ時に組織設計や必要人材の確保戦略を立案するといったように、事業戦略そのものに関与していきます。一方、従来の人事担当者(人事部のスタッフ)は本社人事部門内で人事制度の運用や手続き業務、各部門からの問い合わせ対応などサポート業務が中心でした。もちろん従来人事も会社全体の人事政策には関わりますが、具体的に各事業の経営課題解決に踏み込むケースは稀です。HRBPは「経営にインパクトを与える人事」を担うのに対し、従来人事は「安定した人事運営を支える」色合いが強いと言えるでしょう。このように、そもそも与えられている役割の目的からして両者には違いがあります。
担当領域の違い:HRBPは事業部門担当、従来人事は全社的な人事機能を担当
担当する領域にも違いがあります。HRBPは通常、特定の事業部門や部署に張り付き、その範囲内で人事業務全般を担います。例えば、営業本部付きのHRBPであれば営業本部内の全社員を対象に、採用から評価、育成まで人事関連の支援を行います。いわば「◯◯部門担当人事」として、その部門に深くコミットするのがHRBPです。一方、従来の人事は人事部内で機能ごとに担当が分かれており、全社横断でその機能を提供します。例えば、新卒採用担当者は全社の採用活動を統括し、人材開発担当者は全社員の研修を企画するといった具合です。従来人事は広く全社を対象に制度運用する「中央集権型」なのに対し、HRBPは限られた担当先に深く入り込む「分散配置型」とも言えます。この違いにより、HRBPはより現場密着で細やかな対応ができる一方、組織全体を俯瞰する役割は本社側(従来人事)が担うという補完関係になっています。
CHROとの役割比較:経営方針策定に関与するCHROと現場に戦略を浸透させるHRBP
最高人事責任者(CHRO)との違いも明確にしておきましょう。CHROは経営陣の一員として、人事戦略の最終決定や経営方針への提言を行う立場です。全社レベルで人材ポートフォリオを描き、組織全体の人事ポリシーを策定するのがCHROの役割と言えます。それに対しHRBPは、CHROや本社人事が策定した戦略・施策を現場に浸透させ、具体的な成果につなげる役割を担います。言わば、CHROが「何をするか」を決める人だとすれば、HRBPは「どう実行するか」を現場で推進する人です。またCHROは経営会議などで会社全体の方向性を議論しますが、HRBPはその方針を受けて各現場での動きをリードします。さらに、CHROは全社観点での人事制度改革や組織開発を主導しますが、HRBPはそれらの施策が各部署でしっかり定着するよう支援するのです。要するに、CHROとHRBPは共に戦略人事の両輪ですが、前者がトップダウンの舵取り役、後者がボトムアップの推進役として機能している点で役割が異なります。
必要なスキル・視点の違い:ビジネス理解重視のHRBPと専門性重視の従来人事
HRBPと従来型人事では、重視されるスキルや視点にも違いがあります。HRBPには先述の通りビジネス知識やコミュニケーション能力、分析力など幅広いスキルセットが求められます。一方、従来人事の担当者は人事制度や労務管理の専門性がまず重視されます。たとえば、評価制度の設計担当者であれば評価項目の設定や等級定義など専門知識が深く求められますし、労務担当であれば労働法規への精通が不可欠です。HRBPも人事の専門家であることに変わりはありませんが、現場と対峙するためにビジネス面の理解を特に重視されます。さらにHRBPは経営者への提言力も必要なため、数字に基づいて語る分析力や課題発見力が問われる場面が多くなります。逆に、従来人事は縁の下の力持ちとして制度運営やトラブル対応の正確さ・迅速さが求められるでしょう。このように役割の違いから、磨かれるスキルセットや日頃の視点にも若干の違いが生じます。
組織内ポジションと評価の違い:HRBPのレポートラインと成果評価指標、従来人事の評価制度の違い
最後に、組織上の位置づけや評価指標の違いに触れておきます。HRBPは組織図上、事業部門と人事部門の両方にまたがるようなポジションです。多くの企業ではHRBPは人事部門の一員として人事部長(あるいはCHRO)にレポートしつつ、担当先の事業部門長にもライン上の報告義務や協働関係を持ちます。いわゆるマトリクス型のレポートラインとなることが多い点が特徴です。一方、従来の人事担当者は基本的に人事部門内の上司にのみ報告する単一のラインです。また評価指標についても違いが見られます。HRBPの場合、担当事業部門の業績や人事KPI(例えば該当部門の離職率低下や人材育成の成果)など、事業への貢献度が重視される傾向にあります。逆に従来人事は、人事施策の全社展開度合いや社内サービス水準といった観点で評価されることが多いでしょう。つまり、HRBPは「ビジネスへの影響」で測られ、従来人事は「人事業務の成果」で測られる傾向にあります。この違いは、両者の役割の違いを如実に物語っています。
HRBP導入の進め方とは?準備・体制構築から定着までのステップと成功のポイント
ここでは、実際に自社にHRBPを導入する際にどのような手順を踏めばよいか、その進め方とポイントを説明します。HRBP導入は単に人を配置すれば終わりではなく、事前準備から定着に向けた工夫まで一連のプロセスがあります。以下に、導入プロジェクトを段階ごとに分けて解説し、各段階で押さえておきたいポイントを紹介します。
導入準備段階:現状分析と経営層へのHRBP導入の提案・合意形成
HRBP導入を成功させる第一歩は、導入の目的と必要性を明確化することです。まず自社の人事課題や組織課題を洗い出し、「なぜHRBPが必要なのか」を経営層と共有します。例えば「事業部ごとに人事課題が山積しており本社人事だけでは対応しきれていない」「経営戦略を現場に浸透させるには橋渡し役が必要」など具体的な現状分析結果を提示します。その上で、HRBP導入によって得られるメリット(現場課題の迅速な解決、人事戦略の実行力向上など)を経営層に提案し、理解と合意を得ます。経営トップのコミットメントは導入成功の鍵です。また、導入範囲(どの事業部門から始めるか、何名配置するか)や役割定義の方針についても、この段階で大枠を決めておきます。準備段階でしっかりと現状把握と目的設定を行い、経営の支持を取り付けておくことが、後々のスムーズな展開につながります。
HRBP役割設計:配置する部署の決定と職務内容・権限の明確化
次に、HRBPをどの部署に何人配置するか、そしてその人たちの具体的な役割と権限を設計します。導入初期は、特にニーズの高い重要事業部門から配置を始めるのが一般的です(例えば売上規模の大きい事業部や、人事課題が顕在化している部門など)。配置先が決まったら、HRBPの職務内容を文書化します。ここでは、担当部門における具体的な業務範囲(例:組織開発、人材育成支援、採用計画調整など)をリストアップし、本社人事や事業部門長との役割分担を明確にします。また、HRBPに付与する権限も定めます。例えば、担当部門内の人事異動や評価決定に対してどこまで決定権・提案権を持つのか、本社人事へのレポートラインはどうするのか、などです。これらを明確化することで、後々「HRBPは何をしてくれる人?」という現場の戸惑いを防ぎます。役割設計においては、現場側の意見も取り入れておくと良いでしょう。自分たちのパートナーとなるHRBPにどんな支援を期待するか、事前にヒアリングして職務設計に反映させることで、現場受け入れもスムーズになります。
人材の選定・育成:適任者の配置と必要スキル習得のための研修
HRBPとして配置する人材の選定も重要なステップです。自社の人事部門内から選抜する場合は、ビジネス知識が豊富で現場対応力の高い人を見極めます。また、社外から経験者を採用する手もありますが、自社の業界やカルチャー理解が必要なポジションですので、配置後にキャッチアップ期間を設けることが大切です。選ばれた人材に対しては、必要なスキルを補う研修やOJTを実施します。例えば、事業部門側の経験が浅い人にはビジネス戦略に関する研修を、人事実務経験が浅い人には労務管理や制度設計のトレーニングを行うなどです。さらに、外部のHRBP交流会や勉強会への参加を促し、ベストプラクティスを学ばせるのも有効でしょう。導入当初はHRBP自身も手探りになるため、定期的なフォローアップを行い、困りごとを本社人事でサポートする体制も必要です。適切な人を配置し、しっかり育成することで、HRBP制度が社内に根付く土壌ができます。
導入初期の運用:HRBPと現場の信頼関係構築と支援活動の開始
実際にHRBPを配置したら、導入初期段階の運用が始まります。まず、新しく着任したHRBPが現場で信頼を築くことが最優先です。最初のうちは現場のマネージャーや社員との面談を積極的に行い、悩みや要望を傾聴します。同時に、自分がどういった支援を提供できるのかを丁寧に説明し、存在を知ってもらいます。例えば、「何か人に関することで困ったらまず私に相談してください」と周知し、些細な相談にも迅速に対応することで信頼度を上げていきます。また、早期に成果を示すことも大切です。着任後、短期間で取り組める課題(例えば1つ部署内の配置転換問題の解決など)に着手し、成功体験を現場と共有します。これは「HRBPが来てから良い変化があった」と実感してもらうための工夫です。導入初期には本社人事もHRBPをサポートし、現場からのフィードバックを集めて改善に繋げます。この段階で信頼関係を築ければ、その後の本格的な活動が円滑に進みます。
定着化と改善:導入後の効果検証と組織体制の継続的な見直し
HRBP導入後しばらく経ったら、制度を定着させつつ絶えず改善を図るフェーズに入ります。一定期間(半年~1年ほど)運用したら、HRBP配置による効果を検証しましょう。具体的には、現場マネージャーや従業員へのアンケートやヒアリングを通じて、HRBPの支援が役立っているか、課題はないかを確認します。また、離職率や従業員満足度、事業部門の業績など定量的な指標に変化が見られるか分析します。これらを踏まえて、必要に応じHRBP体制の見直しを行います。例えば、ある部門ではHRBP一人で対応範囲が広すぎるなら増員を検討する、逆にあまりニーズがない部門があれば他部門との兼任にする、といった調整です。また、HRBP同士や本社人事との情報共有の場を定期的に設け、成功事例や改善案を交換することも重要です。そうすることで組織全体でHRBP制度をブラッシュアップできます。導入後に放置せず、効果を測定しながら体制を柔軟に進化させていくことで、HRBPは真に組織に根付き、長期的な成果をもたらすでしょう。
HRBP導入のメリット・効果とは?企業にもたらす戦略的人事の利点と組織・従業員へのポジティブな影響
では、HRBPを導入すると具体的にどのようなメリットや効果が得られるのでしょうか。本節では、HRBP配置が企業にもたらす利点について解説します。人事戦略と経営戦略の連動強化から、現場の問題解決力向上、人材育成の促進、ひいては企業業績への貢献まで、HRBP導入によるポジティブな影響を順に見ていきましょう。
人事と経営戦略の連動強化:ビジネス目標に直結した人事施策の実現
HRBPを導入する最大のメリットは、人事戦略と経営戦略の密接な連動が可能になることです。HRBPが各事業部門で経営計画に沿った人事施策を企画・実行するため、企業全体としてビジネス目標に直結した人事の取り組みが進みます。例えば、事業戦略上ある製品分野を強化する方針であれば、その分野に精通した人材を積極登用・育成するなど、人事施策がビジネスニーズと一致するようになります。従来は経営戦略と人事施策がバラバラになりがちでしたが、HRBPが橋渡しすることで両者を一体化できます。また、経営者の意図が現場に伝わりやすくなり、逆に現場の声も経営戦略に反映されやすくなるため、組織の一体感が増す効果もあります。要するに、HRBP導入により「経営と人事のずれ」を最小化し、戦略の実行力を格段に高めることができるのです。
現場の課題解決力向上:迅速な人事対応による従業員支援の強化
HRBPが現場に常駐・密着してサポートすることで、各部署の課題解決力が向上します。従来、現場で人に関する問題(例えばチームの対立やハイパフォーマーの離職懸念など)が起きても、人事部門への相談・対策には時間がかかり、対処が後手に回ることがありました。HRBPがいれば、そうした問題を早期にキャッチし迅速に対応策を講じることが可能です。例えば、「開発部で専門スキルを持つ人材が不足している」といった声が上がれば、すぐに採用計画や社内異動で手当てを検討できます。また、メンタル不調者やハラスメントなどデリケートな問題にも、HRBPが現場で親身にサポートすることで早期解決につながりやすくなります。結果として、従業員一人ひとりへの支援体制が強化され、問題の深刻化や放置が減少します。現場の抱える人に関する課題がスピーディーに解決されることは、従業員の働きやすさ向上や生産性向上にも直結するメリットと言えるでしょう。
人材育成・リーダー育成の促進:HRBPによる継続的なタレントマネジメントの実践
HRBPの存在は、組織内の人材育成を加速させます。HRBPは現場の人材を間近で見ているため、有望な人材を早期に発掘し、適切な育成機会を提供しやすくなります。例えば、将来のリーダー候補となり得る若手社員を見極め、その人に合ったキャリアパスを描いて上司と共有するといったタレントマネジメントが可能です。また、従業員のスキルギャップに気付いたらタイムリーに研修を手配したり、ジョブローテーションを提案したりできます。HRBPは各人の能力開発プランを現場マネージャーと共に考え、継続的にフォローアップする役割も果たします。さらに、HRBP自身がコーチ的立場となり、現場の管理職に対して部下育成の助言を行うこともあります。このようにHRBPは組織全体で継続的な人材育成サイクルを回す推進役であり、結果として次世代リーダーの着実な育成や従業員全体のスキル向上につながります。人材育成が促進されれば組織力が高まり、競争優位性の強化につながるという好循環を生み出します。
人事部門の戦略性向上:HRBP配置によって人事が経営に与える影響力の拡大
HRBP導入は、人事部門自体の戦略性を飛躍的に高める効果もあります。各事業部門にHRBPを配置すると、人事部門は単なるバックオフィスではなく、現場と一体となって経営を動かす存在へと変化します。HRBPは現場からのフィードバックを本社人事に持ち帰り、人事政策に反映させる役割も果たします。その結果、本社人事の施策がより的確かつ実効性のあるものに進化し、人事部門全体が経営に与える影響力が増します。経営会議などでも、人事観点からの意見提言に説得力が増すでしょう。例えば、「この新規事業には人材ポートフォリオの再配置が必要だ」というHRBP発の提言が経営判断を左右する場面も出てきます。また、人事部門内でもHRBP同士や他担当者との連携を通じて、部門横断の戦略思考が養われます。HRBP導入企業では、人事部門が「戦略人事部門」として社内での存在感を高めているケースが多く見られます。これは人事の役割が格上げされることでもあり、人事スタッフの士気向上にもつながるでしょう。
業績への貢献:組織能力向上と生産性改善による企業業績へのポジティブな影響
最終的に、HRBP導入は企業の業績向上にも貢献し得ます。上述のように、HRBPが配置されることで人と組織に関する様々な面で改善が促されます。従業員のモチベーション向上や適材適所の推進、リーダー育成などを通じて組織能力が向上すれば、各部門の生産性や売上高、人材定着率などにポジティブな影響が出てくるでしょう。例えば、HRBPが介入して職場環境や人間関係の改善を行った結果、優秀な人材の流出が防げれば、その部門の業績は安定・向上します。また、HRBPの支援で新規プロジェクトに適切な人材を迅速にアサインできれば、事業の立ち上げ成功率も上がるかもしれません。このように、一つひとつは間接効果であっても積み重なれば大きな業績押上げ要因となります。実際に、HRBPモデルを導入した世界的大企業では、人材面の充実がイノベーション創出やマーケットシェア拡大につながったという報告もあります。もちろん人事施策だけで業績が決まるわけではありませんが、HRBPは“人”という根幹資源を最大限活かすことで、企業の成長に寄与する重要な存在なのです。
HRBPの導入事例・成功事例とは?先進企業での取り組みと成果から学ぶポイント
実際にHRBPを導入して成果を上げている企業の事例をいくつか紹介します。外資系企業や国内大手企業、新興企業など、様々なケースでHRBPがどのように機能し効果を生んでいるかを見てみましょう。また、その成功事例から読み取れる共通のポイントについても考察します。
グローバル企業でのHRBP導入:海外本社を持つ企業における戦略人事強化の成功例
あるグローバル企業(海外に本社を持つ多国籍企業)の日本法人では、早くからHRBP制度を導入し成果を上げています。この企業では、日本法人内の主要事業部ごとにHRBPを配置し、本社の人事ポリシーと日本の現地ニーズを結び付ける役割を担わせました。例えば、ある製造部門のHRBPは、本社が掲げるグローバル人材育成戦略を日本の現場に展開する一方、日本独自の課題(技術者不足や熟練工の高齢化など)について本社に報告し、対策支援を取り付けました。その結果、日本法人全体で技術者育成プログラムが強化され、生産性向上に寄与しました。また、HRBPが現場の声を迅速に拾い上げることで労使関係も安定し、従業員満足度の向上にもつながっています。グローバル企業のケースでは、HRBPが本社人事と現地現場をつなぐハブとなり、戦略人事の強化に成功した好例と言えるでしょう。
国内大手企業のHRBP活用:事業部門密着型の人事体制で業績向上を達成した例
国内の大手メーカーA社では、数年前にHRBP制度を導入し、業績向上につながる効果を上げました。この会社では従来、人事部が一括して全社対応していましたが、事業部ごとの課題にきめ細かく対応するため各事業部門にHRBPを配置しました。たとえば、販売事業部に配属されたHRBPは、営業現場で課題となっていた離職率の高さに取り組みました。彼女は営業社員へのヒアリングを重ね、明らかになった原因(長時間労働と教育不足)に対し、働き方改革の推進と研修充実策を提案・実施しました。その結果、営業社員の定着率が改善し、顧客対応力が向上、売上増加という形で成果が現れました。また、生産部門のHRBPは工場現場で人材ミスマッチを解消するジョブローテーション制度を導入し、生産効率アップを達成しました。このA社では、HRBP配置後に主要事業部の業績指標が軒並み改善しており、トップマネジメントも「HRBPが現場を活性化させた」と評価しています。事業部門に密着した人事体制が成果に直結した好例と言えるでしょう。
成長企業(スタートアップ)の導入:迅速なHRBP導入で組織拡大を支援した成功事例
急成長中のIT系スタートアップB社は、社員数100名規模に達した段階でHRBPの導入を決断しました。成長スピードに人事体制が追いつかなくなることを懸念した経営陣が、人事マネージャー1名を各部門対応のHRBPに任命したのです。そのHRBPはまずエンジニア部門を担当し、エンジニアの採用強化と定着に注力しました。具体的には、エンジニア志向に合った評価制度を新設したり、技術カンファレンスへの参加支援などモチベーション向上策を実施しました。また、開発プロジェクトの人員計画をマネージャーと共同で策定し、リソース不足が起きないよう先手を打ちました。その結果、エンジニアの採用数と定着率が向上し、プロダクト開発のスピードも上がりました。会社全体の成長を支える組織力強化にHRBPが大きく貢献した形です。スタートアップのように変化の激しい組織でも、HRBPを素早く導入することで人材面の課題に機動的に対応でき、成長を加速させる効果が実証された事例と言えます。
導入時の課題克服:現場抵抗を乗り越えHRBPを定着させたケース
HRBP導入にはしばしば現場からの抵抗や戸惑いが伴いますが、それを克服した例として、サービス業C社のケースがあります。C社では本社主導でHRBP配置を決めたものの、当初現場マネージャーの中には「突然自部署に派遣されてきたお節介な人事」と受け止め、協力的でない人もいました。そこでHRBP担当者は、まず徹底的に現場に溶け込む努力をしました。毎日の朝礼に参加し、時には現場業務を自ら手伝いながら信頼関係の構築に努めたのです。また、些細な要望にも迅速に対応し、「この人に相談すれば早い」と認識してもらえるよう動きました。さらに、本社側でも現場の理解を促すため説明会を開き、「HRBPは皆さんのパートナーです」と繰り返し周知しました。こうした取り組みにより次第に現場の見る目が変わり、半年もすると「HRBPがいないと困る」と言われるほど定着しました。このC社の例は、丁寧なコミュニケーションと地道な信頼醸成がHRBP導入成功の鍵であることを物語っています。
成功企業に共通する要因:HRBP導入を成功に導くためのポイント
これら事例に共通する成功要因としてはいくつかのポイントが挙げられます。第一に経営層の強いコミットメントです。HRBPの価値をトップが正しく理解し支援している企業ほど、導入が円滑に進み成果も出やすい傾向があります。第二に、HRBPに適した人材の配置と育成です。どの企業も、人選を慎重に行い、必要な研修やOJTを通じてHRBPの能力開発に注力しています。第三に、現場との信頼関係構築が重視されています。最初の壁を乗り越えるため、成功企業ではHRBP自身や本社人事が現場との対話を密に行い、役割を理解してもらう努力を怠りません。第四に、導入後の効果測定と改善ループの確立です。定量・定性の両面でHRBPの成果をモニタリングし、随時体制や施策を見直すことで制度を成熟させています。最後に、本社人事とHRBPの一体運営もポイントでしょう。情報共有や連携体制がしっかりしているほど、HRBPは孤立せず力を発揮できます。これらの共通点は、HRBP導入を検討する他企業にとっても大いに参考になる成功の秘訣と言えます。
HRBPの課題と解決策とは?導入・運用上の問題点を洗い出し、克服するための具体的対策
HRBPを導入・運用する中で直面しがちな課題にはどのようなものがあるでしょうか。本節では、HRBP制度のよくある問題点と、その解決策について考察します。せっかくHRBPを配置しても機能しなければ意味がありません。導入初期のつまずきや役割の曖昧さ、人材面の課題など、いくつか代表的な課題を取り上げ、それぞれに対する対処法を示します。
導入初期によくある問題:現場からの抵抗や理解不足への対処法
HRBP導入初期には、現場側の抵抗感や戸惑いが課題となることがあります。「突然人事の人が来て何をするのだろう」「自分たちの仕事に口出しされるのでは」といった不安から、協力的でない態度を取られるケースです。この対策としては、導入前後にしっかりコミュニケーションを取ることが挙げられます。まず導入時に経営層や人事部から各部門に対してHRBPの役割や目的を丁寧に説明し、理解を得る努力をします。また、HRBP着任後も、現場マネージャーとの個別面談を早期に行い、「私は皆さんの目標達成をお手伝いするために来ました」という姿勢を示すことが大切です。前述の事例C社のように、一緒に仕事をしながら信頼を得るアプローチも有効でしょう。時間はかかるかもしれませんが、焦らず信頼醸成に努めることが、初期の抵抗を和らげる最善策です。
役割定義の不明確さ:HRBPの権限・責任が曖昧な場合に起こる弊害と対策
HRBP導入後によく起こる問題に、HRBPの役割定義が曖昧なために現場・本社の双方で混乱が生じるケースがあります。例えば「どこまで現場の意思決定に口を出していいのか分からない」とHRBP本人が戸惑ったり、逆に現場側が「それは本社人事の仕事では?」とHRBPの関与に疑問を持ったりする状況です。この弊害を防ぐには、導入時にHRBPの職務範囲と権限を明文化し周知することが必要です。HRBPの職務記述書(ジョブディスクリプション)を作成し、担当業務と責任範囲を明確に示します。また、現場と本社人事それぞれの役割分担も合わせて整理し、グレーゾーンを減らします。導入後も定期的に「HRBPに期待すること」「困っていること」をヒアリングし、認識齟齬があれば調整します。役割定義がしっかりしていれば、HRBPは安心して行動でき、周囲も適切な期待値を持てるため、制度が円滑に機能するようになります。
HRBP人材の不足:適切なスキルを持つ人材を育成・確保するための施策
HRBPに求められるスキルは多岐にわたるため、その要件を満たす人材を確保・育成すること自体が課題となる場合があります。社内に適任者がいない、あるいは人数が足りないという問題です。これへの対応策として、まず社内人材の中から潜在的にHRBPに向いている人を見極め、計画的に育成することが挙げられます。若手のうちから人事と事業部門両方の経験を積ませるジョブローテーションを実施したり、外部のビジネススクールや研修に派遣してビジネス知見を養わせたりします。また、中途採用で他社のHRBP経験者やコンサルタント出身者を採用することも一つの手です。その場合、自社の業務に馴染むまで時間がかかる点を考慮し、OJT計画を用意します。さらに、人材が希少であるからこそ、HRBPになり得る人へのインセンティブ(キャリアパスや処遇)を用意して動機付けすることも重要でしょう。例えば「将来的にCHRO候補になれるポジション」と位置づけ、評価・昇進面で報いる仕組みにするなどです。人材の裾野を広げ育てていく地道な取り組みが、長期的にはHRBP不足解消につながります。
人事本部との連携課題:HRBPと本社人事との情報共有と役割分担の改善策
HRBPが現場に近い存在であるがゆえに、本社人事部との連携不足が課題となるケースもあります。HRBPが現場対応に忙殺され、本社人事との情報共有が疎かになると、せっかくの知見が全社に活かされなかったり、方針の不一致が起きたりします。この解決策としては、定期的な連絡会議や報告ラインの整備が有効です。例えば、全HRBPと本社人事メンバーが月次で集まり、各現場の状況報告や課題を共有する場を設けます。また、HRBPが本社の人事施策策定ミーティングに参加し意見を述べられるようにすると、現場感覚が反映され一体感も生まれます。役割分担の面では、HRBPと本社それぞれの責任領域をはっきりさせつつ、協働が必要なテーマ(例えば次年度人事計画の策定など)ではジョイントチームを作るなどの取り組みが有効でしょう。要は、HRBPを「現場の人事」と「本社人事」のどちらかに偏らせず、両者が有機的に繋がるよう仕組みを作ることが大切です。それによって、人事部門全体として統制が取りながらも現場対応力の高い体制を維持できます。
成果の可視化の難しさ:HRBP導入による効果を測定する指標設定と評価方法
HRBPの活動は企業にとって新しい取り組みであるため、その効果測定の方法に悩むケースもあります。「HRBPを置いたものの、本当に成果が出ているのか?」を証明する必要があるからです。人事施策の効果は定量化しにくい面がありますが、いくつか指標を設定して可視化を試みることが重要です。まず、HRBP担当部門ごとの人事KPIを定めます。例えば、「離職率」「従業員満足度(エンゲージメントサーベイ結果)」「要後継者ポジションの後継者充足率」などです。HRBP配置前と後でこれらの指標がどう変化したかを追跡すれば、一定の傾向が見えてきます。また、定性的な評価も取り入れます。現場管理職へのアンケートで「HRBPの支援に満足していますか」「HRBP配置によって人事施策の実行速度は上がりましたか」などの問いを設け、現場からの評価を数値化します。さらに、HRBP自身の活動量や成果をドキュメントにまとめ報告する仕組みも有効でしょう。重要なのは、経営層に対し「このような指標でHRBPの効果をモニタリングしています」と説明できるようにすることです。それによって、HRBPの存在価値が社内で認識され、継続的な支援を得やすくなります。
HRBPに向いている人・キャリアパスとは?求められる人材像とキャリア形成の方向性
最後に、HRBPの適性がある人とはどのような人物か、そしてHRBPを経験した人のキャリアパスについて解説します。HRBPに向いている人材の特徴を理解すれば、人選や自己研鑽の参考になります。また、HRBPとしてキャリアを積んだ後にどのような道が開けるのかも見ていきましょう。
HRBPに向いている人材の特徴:ビジネス感覚と人への情熱を併せ持つプロフェッショナル
HRBPに向いているのは、ビジネスへの深い理解力と人に対する強い関心・情熱を兼ね備えた人材です。まずビジネス感覚については、数字に強く経営視点で物事を捉えられることが重要です。自部署の業績やKPIを理解し、そこで人事として何ができるかを考えられるセンスが求められます。一方で「人が好き」であることも大切です。現場社員との信頼関係づくりや人材育成に情熱を持って取り組める人でなければ、HRBPの役割は務まりません。また、コミュニケーション力が高く、社内の様々な立場の人と対等に議論・協働できる外交力も必要です。さらに、環境変化に柔軟に対応できる適応力や、課題解決に粘り強く挑む責任感も持ち合わせていると理想的でしょう。総じて、HRBPに向くのは「左手に財務諸表、右手に人事評価表を持てる人材」と言えるかもしれません。ビジネスの言語と人事の言語の両方を理解し、橋渡しできるプロフェッショナルこそが、HRBP適性の高い人材像です。
必要な経験・バックグラウンド:人事の専門知識と事業部門での経験のバランスが求められる
HRBPには人事領域の専門知識と事業部門での業務経験、その両方のバックグラウンドがあると望ましいです。人事専門知識については、人事制度運用や労務管理の経験があると現場対応に余裕が生まれます。加えて、評価・報酬制度の仕組みを理解している、人材開発の手法に通じている、といった知見も役立ちます。一方、事業部門での勤務経験(例えば営業や企画、生産現場など)も貴重です。ビジネスの最前線を経験していれば、現場目線で課題を理解でき、事業部門のマネージャーとも共通言語で話せます。また自ら事業KPIを追った経験がある人は、経営視点を持った人事として説得力が増すでしょう。もちろん全員が両方の経験を満遍なく積めるとは限りませんが、人事畑のみで来た人は意識的にビジネス知識を勉強する、逆に事業出身の人は人事理論を学ぶなどして、バランスを取ることが大事です。HRBPという役割は、人事とビジネス両方の素養を持つことで初めて真価を発揮できるため、自身のバックグラウンドを広げる努力を続ける必要があります。
HRBPからのキャリアパス:HRBP経験を活かして次のステップに進む道
HRBPとしての経験は、その後のキャリアにおいて非常に価値あるものとなります。HRBPを数年経験した人には、いくつかのキャリアパスが開けています。一つは、人事部門内でさらなる専門性を高める道です。HRBPとして現場視点を身につけた後、人事企画や人材開発のマネージャー、本社人事の中核ポストに就くケースがあります。HRBP経験により、より実践的かつ戦略的な人事のプロフェッショナルへ成長できるため、人事部門内での昇進に有利と言えるでしょう。別の道は、事業部門のマネジメント層に転身するパターンです。HRBPは事業部門に寄り添って働く中でビジネスの知見も深まるため、適性によっては営業部長や事業部人事部長といった役職に異動し、事業運営側に回る例もあります。さらに、HRBP経験を武器にコンサルティング業界や他社の人事責任者ポジションへ転職する人もいます。いずれにせよ、HRBPで培った現場力と戦略眼は様々なフィールドで評価されるため、キャリアの選択肢が広がるのは確かです。
CHROへのステップ:HRBPが将来最高人事責任者に昇進する可能性
HRBPは将来のCHRO候補を育成する場にもなっています。現に海外では、HRBPを経験した後にCHROに昇進するケースが多く見られます。HRBPとして経営に近いところで現場支援を行った経験は、経営陣の視点と現場感覚の両方を持った人材として評価されるからです。将来的にCHROを目指す人にとって、HRBP経験はほぼ必須とも言われます。日本でも、HRBP導入企業では「HRBP→人事部長→CHRO」というキャリアステップが描かれるようになってきました。HRBP時代に事業部門から信頼を勝ち得ていれば、CHRO就任後も経営陣や事業トップとの円滑な協働が期待できます。逆に言えば、HRBPとして成果を出すことがCHRO候補の登竜門とも位置づけられているのです。HRBP経験者は、現場を知り人事戦略を知る希少な存在として、将来の人事最高責任者に抜擢される可能性が十分にあります。
HRBP経験の市場価値:転職市場で評価されるスキルとキャリアの将来性
最後に、HRBPとしての経験は転職市場でも高い評価を受ける傾向にあることに触れておきます。日本ではまだHRBP経験者が少ないため、実績のあるHRBP人材は引く手あまたです。特に、外資系企業やベンチャー企業などで「戦略人事を担える人」を求める求人において、HRBP経験は大きなアピールポイントになります。経営視点と人事専門性を兼ね備えた人材として、一般的な人事ジェネラリスト以上に高く評価され、場合によっては部長クラスで採用されることもあります。また、HRBP経験を積んだ人は、その後もキャリアの柔軟性が高いです。先述のCHRO候補はもちろん、人事コンサルタントやタレントマネジメントのスペシャリストなど、多方面に活躍の場が広がります。今後国内でHRBPの普及が進めば、さらに市場価値は上がっていくでしょう。そうした将来性を考えても、HRBPというキャリアは挑戦する価値の高いフィールドであり、自身の成長にも繋がる魅力的なポジションだと言えます。