ベストオブブリード(Best of Breed)は、業務領域ごとに最も優れた製品を別々のベンダーから選び、組み合わせて使うシステム構成の考え方です。対になるのが、1社の製品群で業務全体をまかなう「スイート」型です。
この記事では、言葉の意味と語源、スイートとの違いを整理したうえで、比較記事ではあまり触れられない「組み合わせた後にかかるコスト」がどこから生まれるかを、接続の数と公的・民間の調査データで示し、どちらを選ぶかの判断基準までまとめます。
まとめ:ベストオブブリードの要点と選び方
- 意味:領域ごとに最良の製品を選んで組み合わせる構成。語源はドッグショーで犬種ごとの最優秀犬に贈られる賞「Best of Breed」です。
- スイートとの違い:選ぶ単位が「製品」か「ベンダー」か。ベストオブブリードは機能の深さを取り、連携・ID管理・障害対応の手間を自社で引き受けます。
- 隠れたコスト:製品同士を1対1でつなぐと、接続の組み合わせは最大で n(n-1)/2 通りに増えます(10製品で45通り)。連携基盤(ハブ)を挟めば製品との接続は n 本に減りますが、データ変換の処理はハブの中に残ります。
- ベンダー統合の調査例:Gartnerの2022年調査では、セキュリティ製品のベンダー統合を進める組織が75%(2020年は29%)。統合の目的は「リスク態勢の改善」が65%で、「ライセンス支出の削減」の29%を大きく上回りました。
- 選び方:競争力に直結する領域はベストオブブリード、差別化しない領域(会計・給与など)はスイートか標準機能に寄せる、という混在が現実的です。連携とマスタの持ち場を設計・保守できる体制が無いなら、ベストオブブリードは選ばないほうが安全です。
ベストオブブリードの意味と語源
ベストオブブリードは、ERP・CRM・人事・会計・チャットといった業務領域ごとに、その分野で評価の高い製品を個別に選定し、APIやデータ連携でつないで1つの業務基盤として使う方針を指します。製品の提供元がバラバラになるため、マルチベンダー構成の一種と言えます。
語源は犬の品評会(ドッグショー)です。米国のウェストミンスター・ケネル・クラブは、Best of Breed(BOB)を「その犬種またはバラエティで最も優れていると判定された犬」と説明しており、BOBに選ばれた犬だけがグループ審査に進みます。(Westminster Kennel Club「Dog Shows」)「品種(breed)ごとの一等賞」という原義から、ITでは「カテゴリごとの一等製品」という意味で使われるようになりました。
表記は「ベストオブブリード」「ベスト・オブ・ブリード」「Best-of-Breed」のいずれも同じ意味です。「ベストオブリード」と書かれることもありますが、これは「ブ」が1つ抜けた表記ゆれで、指しているものは同じです。似た言葉の「ベストインクラス(best in class)」は、同じ部類の中で最良という評価を表す語で、構成方針の名前ではありません。
なお、ここでいう「ベンダー」は、製品やサービスを提供する販売元・開発元の企業を指します。ベストオブブリードでは、選ぶ製品や提供元が増えるほど契約・問い合わせ先の管理が重くなり、これが後で見るコストの出どころになります。
ベストオブブリードとスイートの違い
スイート(Suite)は、1社が提供する製品群で複数の業務領域をまとめて導入する方式で、統合型・オールインワン型とも呼ばれます。両者の違いは、選定の単位が「製品」か「ベンダー」かに集約されます。
| 比較軸 | ベストオブブリード | スイート |
|---|---|---|
| 選定の単位 | 領域ごとの製品 | ベンダー1社 |
| 機能の深さ | 領域ごとに最上位を選べる | 領域によって差が出る |
| データの持ち方 | 製品ごとに別・対応付けが必要 | 共通化しやすい(範囲は製品群次第) |
| システム間の連携 | 標準コネクタか個別構築 | 標準連携の範囲が広い傾向 |
| ID・権限管理 | 製品ごとに設定が必要 | 1か所で管理しやすい |
| 契約・問い合わせ窓口 | 複数になりやすい | 集約しやすい |
| 画面・操作 | 製品ごとに異なる | 統一されやすい |
| 製品の入れ替え | 領域単位で可能 | 全体の移行になりやすい |
| 障害時の切り分け | どの製品・連携が原因か自社で特定 | ベンダーに一本化 |
表の下半分(連携・ID・窓口・切り分け)は、どれも「ベンダーが製品の中で引き受けてくれていた仕事を、自社が引き受ける」という同じ構造の裏表です。ベストオブブリードを選ぶとは、機能の深さと引き換えに、この仕事を自社の業務として抱えることだと考えると判断を誤りにくくなります。
ベストオブブリードのメリット
最大の利点は、競争力に直結する業務で妥協しなくて済むことです。スイートの中には、会計は強いがマーケティング機能は薄い、といった領域ごとの濃淡があります。ベストオブブリードなら、たとえば営業管理だけは業界特化のSFAを選ぶ、といった選択ができます。
2つ目は、入れ替えの単位が小さいことです。ある領域の製品が要件に合わなくなったとき、その製品だけを差し替えられます。スイートでは、一部の機能が不満でも全体の契約や移行計画に縛られがちです。
3つ目は、新しい製品を試しやすいことです。生成AIのように変化の速い分野では、既存スイートへの機能追加を待つより、専業製品を1領域だけ追加するほうが早く使い始められます。
ベンダーロックインの回避も挙げられますが、これは条件付きです。公正取引委員会は2022年2月の報告書で、ベンダーロックインを「情報システムを使い続けるために必要な作業を、それを導入した事業者以外が実施することができないために、特定のベンダーを利用し続けなくてはならない状態」と定義しています。同報告書の官公庁向け調査では、既存ベンダーと再契約した事例がある機関が98.9%(1,011機関中1,000機関)で、その理由の最多は「既存ベンダーしか既存システムの機能の詳細を把握することができなかったため」(48.3%)でした。(公正取引委員会「官公庁における情報システム調達に関する実態調査報告書」)
ロックインの原因が「仕様を知っているのが特定の事業者だけ」である以上、製品を分けただけでは避けられません。領域ごとの製品を差し替えられるのは、データの書き出し手段(APIやCSVエクスポート)と連携の仕様を自社で把握している場合に限られます。連携をすべて特定のSIerの独自実装に任せると、製品ではなく連携部分にロックインされます。
ベストオブブリードのデメリットと見えにくいコスト
デメリットとしてよく挙がる「運用が複雑」「コストが増える」は、具体的には次の4つのコストに分解できます。導入前の見積もりに入りにくいものから順に並べます。
製品数に応じた接続の増え方とハブ化の限界
製品同士を1対1でつなぐ(ポイント・ツー・ポイント)場合、n 個の製品をすべて相互接続すると、接続の組み合わせは最大で n(n-1)/2 通りになります。一方、iPaaSやデータ連携基盤のようなハブを1つ置いて各製品をハブにつなげば、製品とハブの接続は n 本です。下の表は、データの向きや業務ごとの処理を区別せずに数えた接続の数です。
| 製品数 | 1対1で全接続(最大) | ハブとの接続 |
|---|---|---|
| 5 | 10本 | 5本 |
| 10 | 45本 | 10本 |
| 20 | 190本 | 20本 |
実際にはすべての組み合わせをつなぐわけではありませんが、製品が増えるほど、ある製品のAPI仕様変更の影響を確かめるべき接続先も増えます。接続1本ごとに、認証情報の更新、エラー時の再送、項目追加への追随という保守が発生するためです。ハブを置いても、製品ごとのデータ形式を変換する処理はハブの中に残るので、保守の総量がそのまま n 分の1になるわけではありません。ハブ化の費用構造はデータ連携のコスト削減:連携本数と改修頻度で決まる費用構造とハブ化の判断で詳しく扱っています。
製品ごとのアカウント・権限管理と自動化
入社・異動・退職のたびに、製品ごとにアカウントの作成・権限変更・削除が必要になります。10製品を使っていれば、1人の退職で10か所の削除作業が発生し、1か所でも漏れれば退職者のアカウントが残ります。
これを抑えるのが、シングルサインオン(SSO)とSCIMによるアカウントの自動プロビジョニングです。人事システムやIDaaSを正本にして、各製品のアカウントを自動で作成・停止させます。仕組みはSCIMとは?ID自動プロビジョニングの仕組みとエンドポイント実装を解説を参照してください。製品選定の段階で、SSOとSCIMに対応しているか、対応しているのがどの料金プランかを確認しておく必要があります。
障害時の責任分界と問い合わせ先の分散
「CRMの顧客情報が会計に反映されない」という障害が起きたとき、原因はCRM側の出力、連携処理、会計側の取り込みのどこにもあり得ます。各ベンダーの調査範囲はサポート契約で決まり、製品をまたぐ原因の切り分けまで引き受けるとは限りません。製品をまたぐ切り分けを自社と委託先のどちらが担うかを、あらかじめ決めておく必要があります。連携部分の監視とログ、各製品のサポート窓口と契約条件(SLA)を一覧にしておかないと、障害対応が「たらい回し」になります。
ライセンスの重複と使われない契約
部門ごとに製品を選べる体制では、同じ機能を持つ製品を別々の部門が契約する、退職者のライセンスが更新され続ける、といった無駄が起きやすくなります。アカウントを止めることと契約数を減らすことは別の作業で、たとえばMicrosoft 365の公式ドキュメントも、割り当てを外したライセンスを再利用しないならサブスクリプションからライセンスを削除するよう案内しています。(Microsoft Learn)製品ごとに契約の更新日と席数を一覧にして、退職処理と契約の見直しをつなげておくことが対策になります。IT部門が把握していない製品が増えると、それはシャドーITの問題にもつながります(シャドーITとは?該当する例とBYODとの違い・公的資料に沿った対策)。
データで見るSaaSの増加とベンダー統合の動き
ベストオブブリードが広がった背景には、SaaSの普及で「領域ごとに別製品を契約する」ことが簡単になった事情があります。一方で、増えすぎた製品をまとめ直す動きも数字に表れています。
Okta・Salesforceの調査に見る導入アプリ数の増加
Oktaの「Businesses at Work 2025」(2023年11月1日〜2024年10月31日の同社顧客の匿名化データ)では、1社あたりの平均導入アプリ数は前年比9%増の101個でした。従業員2,000人以上の企業は平均247個、2,000人未満は平均71個です。日本は平均46個と国別では少ないものの、前年比31%増と最も高い伸びを示しています。(Okta プレスリリース)
製品が増えても、つながっているとは限りません。Salesforce(MuleSoft)の「2026 Connectivity Benchmark Report」は、従業員1,000人以上の組織のITリーダー1,050人に2025年10〜11月に聞いた調査で、1組織あたりのアプリ数は前年の897から957に増えた一方、相互に連携しているのは27%にとどまりました。(Salesforce ニュースリリース)2つの調査は対象企業も集計方法も違うため、アプリ数そのものは比べられません。共通して読み取れるのはアプリ数の増加までで、連携が追いついていないことを示しているのはSalesforceの27%という数字です。
Gartnerの2022年調査に見るセキュリティベンダー統合
揺り戻しが最もはっきりしているのはセキュリティ製品です。Gartnerが2022年9月13日に公表した調査(2022年3〜4月・北米・アジア太平洋・EMEAの418人)では、セキュリティベンダーの統合を進めている組織は75%で、2020年の29%から大きく増えました。統合の目的は「リスク態勢の改善」が65%で、「ライセンス支出の削減」は29%にとどまります。(Gartner プレスリリース)
同じ発表でGartnerのアナリストは、統合の理由を「異なる製品を寄せ集めたセキュリティ基盤の運用の非効率と統合の欠如への不満」と説明し、統合には少なくとも2年を見込むよう勧めています。この調査から言えるのは、統合の動機がライセンス費の節約より、運用の非効率と製品間の統合不足にあったということです。前章で挙げたID管理や責任分界のコストが個別にどれだけ効いたかまでは示されていませんが、連携の手間が戦略を見直す理由になりうることは読み取れます。
ただし、同調査でもSASEとXDRを「別製品のまま相互運用させる」方針を46%が支持しており、Gartnerはこれを「ベストオブブリードの機能を選べる柔軟性を残すやり方」と位置づけています。統合かベストオブブリードかの二択ではなく、どこまで統合しどこで専業製品を残すかが論点になっています。
ベストオブブリードとスイートを選ぶ判断基準
判断の出発点は、「その業務領域で他社と差をつけたいか」です。差別化しない領域にまで最良の製品を求めると、連携と管理のコストだけが積み上がります。
| 確認項目 | ベストオブブリード向き | スイート向き |
|---|---|---|
| 業務の位置づけ | 競争力の源泉(コア) | どの会社も同じ(ノンコア) |
| 業務を製品標準に合わせられるか | 合わせられない | 合わせられる |
| 連携を設計・保守する人 | 社内またはSIerに確保済み | 確保できない |
| マスタの正本 | 製品ごとに決めてある | 決められていない |
| 製品の入れ替え頻度 | 数年ごとに見直したい | 長期間固定でよい |
| 使う製品の数 | 少数に絞れる | 多数になりそう |
実務では、全体をどちらか一方に統一するより、会計・人事などの基幹はスイートやERPに寄せ、営業・マーケティング・現場業務など差別化したい領域だけ専業製品を足す混在型が多くなります。この混在型は、Gartnerが2013年12月のレポートで打ち出した「ポストモダンERP」の構成例の一つにあたります(ポストモダンERPとは?Gartnerの定義原文で読む従来型ERPとの違いと採用判断)。さらにERP自体を部品の組み合わせとして設計する考え方はコンポーザブルERPとは?ポストモダンERPとの違い・メリットと導入判断を解説で整理しています。
組み合わせを成立させる連携とマスタの設計
ベストオブブリードの成否は、製品選びより「つなぎ方」で決まります。導入前に、少なくとも次の3点を決めておきます。
1つ目はマスタの正本です。顧客・商品・従業員・取引先といったマスタデータを、どの製品が正本として持つかを決めます。正本を決めずに複数の製品で同じ顧客を登録できる状態にすると、名寄せが終わらず、どの数字が正しいのか誰にも分からなくなります。
2つ目は連携の方式です。製品が少ないうちは個別のAPI連携でも回ります。製品が増える見込みがあるなら、iPaaSなどのハブを置く案を比較に入れます。ただし改修を抑えられるかは、共通のデータ形式を決め、変換処理を使い回せるかどうかで変わります。iPaaSの仕組みと料金の数え方はiPaaSとは?仕組み・RPAとの違い・料金の数え方と導入判断をわかりやすく解説にまとめています。
3つ目はIDの正本です。前述のとおり、人事システムかIDaaSを正本にして、SSOとSCIMで各製品のアカウントを従わせます。製品選定の評価項目に「SSO・SCIM対応」と「データの書き出し手段」を入れておけば、後から入れ替えるときの退路も確保できます。
ベストオブブリードを選ぶべきでない場面
次のどれかに当てはまるなら、ベストオブブリードは見送り、スイートか少数製品の構成を選ぶべきです。
- 情報システム担当が1〜2人で、連携の保守を引き受けられない:連携の障害対応と仕様変更への追随は導入後もずっと続きます。外部に委託する場合も、委託先が変わったときに引き継げる設計書が必要です。
- 差別化しない業務に最良の製品を求めている:経費精算や給与計算でも承認経路や社内規程は会社ごとに違いますが、スイートの標準機能で自社の要件を満たせるなら、専業製品を足しても増えるのは連携と運用の費用です。追加する前に、得られる効果とその費用を比べてください。
- マスタの正本を決める権限を持つ人がいない:部門ごとに製品を選び、部門ごとに顧客を登録する状態では、ベストオブブリードではなく単なる寄せ集めになります。
- 選んだ製品がSSO・SCIM・データの書き出しに対応していない:SSOが無ければログイン管理が製品ごとに残り、SCIMが無ければアカウントの作成・停止が手作業になり、書き出し手段が無ければ入れ替え時の移行が難しくなります。
逆に言えば、連携・ID・マスタの3点を設計して保守する体制を用意できる会社にとって、ベストオブブリードは機能面で妥協しないための有効な手段です。問題は戦略そのものより、体制を用意せずに製品だけを増やすことにあります。
よくある質問
ベストオブブリードとはどういう意味ですか?
業務領域ごとに最も優れた製品を選び、複数のベンダーの製品を組み合わせて使うシステム構成の考え方です。語源はドッグショーで犬種ごとの最優秀犬に贈られる賞「Best of Breed」です。
ベストオブブリードの欠点は何ですか?
製品が増えるほど連携・アカウント管理・契約・問い合わせ窓口の管理が重くなることです。1対1で全製品をつなぐと接続の組み合わせは最大で n(n-1)/2 通りになり、製品をまたぐ障害の切り分けを誰が担うかも決めておく必要があります。
スイート型との違いは何ですか?
スイート型は1社の製品群で複数の業務をまかなう方式で、データモデル・ID管理・窓口を集約しやすいのが特徴です(実際にどこまで共通化されるかは製品群や契約によります)。ベストオブブリードは機能の深さを優先し、その分の連携と管理を自社で引き受けます。
ベストオブブリードとマルチベンダーは同じですか?
ベストオブブリードは複数ベンダーの製品を使うので、マルチベンダー構成の一種です。ただしマルチベンダーは単に提供元が複数あるという状態を指し、「領域ごとに最良を選ぶ」という選定方針までは含みません。複数の調達先を持つ考え方の全体像はマルチソースとは?データ統合・調達など分野別の意味とシングルソースとの違いも参考になります。
ERPでベストオブブリードを採るとどうなりますか?
会計・販売・生産・人事などを別々の製品で構成し、連携でつなぐ形になります。基幹部分をERPに残し、周辺業務に専業製品を組み合わせる形は、ポストモダンERPの構成例の一つです。この場合も、全体の方針に沿って製品を選び、連携を統合管理する体制が必要です。