BtoE(Business to Employee)は、企業が自社や取引先の従業員に商品・サービスを提供する取引の呼び方です。社員食堂やオフィスコンビニ、自社製品の社員割引販売がこれにあたります。ところが「福利厚生の一種」という説明だけで終わる解説が多く、実際に制度を作る段階で必ず突き当たる論点、つまり従業員が受け取る値引きや補助がどこから給与として課税されるのかは、ほとんど触れられていません。ここでは用語の整理から始めて、BtoB・BtoCとの違い、サービスの類型、そして課税と非課税を分ける具体的な金額基準までを一次情報で確認します。
まとめ:BtoEの要点
先に結論を並べます。
- BtoEは企業から従業員への取引を指す用語で、自社従業員向けの社内販売と、取引先企業の従業員向けの職域販売の2系統がある。
- 福利厚生と重なるが同義ではない。無償で提供すれば福利厚生施策、対価を取れば従業員を顧客とした販売になる。
- 自社製品の社員割引は、通常の販売価額のおおむね70%以上など3要件を満たせば課税されない(所得税基本通達36-23)。
- 食事補助は、従業員が価額の50%以上を負担し、会社負担が月7,500円以下であれば課税されない。この上限は2026年4月1日以後に支給する食事から、従来の3,500円が引き上げられた。
- 代金を給与から差し引く運用には、労働基準法24条1項ただし書の書面による労使協定が必要になる。
- BtoEの市場規模を示す公的統計は存在しない。経済産業省の電子商取引市場調査が推計しているのはBtoC・BtoB・CtoCである。
以下、それぞれの根拠と、制度設計で判断が分かれる箇所を順に見ていきます。
BtoE(Business to Employee)の定義と対象範囲
読み方と、社内販売・職域販売という2つの系統
読み方は「ビートゥーイー」で、「ビーツーイー」と読む例も流通しています。Eは Employee(従業員)を指します。BtoEと一口に言っても、実務では性格の異なる2系統が同じ言葉で呼ばれています。ひとつは自社が自社の従業員に売る社内販売で、メーカーの社員割引販売や社員食堂がこれにあたります。もうひとつは、ある企業が他社の従業員を対象に売る職域販売で、オフィスに設置する無人コンビニ、職場で申し込む保険や共済、提携価格のスポーツクラブなどが該当します。
この違いは制度設計に直結します。社内販売では自社が売り手であると同時に雇用主なので、値引き分が従業員への経済的利益、つまり給与とみなされるかどうかが問題になります。職域販売では売り手と雇用主が別法人なので、原則として従業員が市場で買い物をしているだけであり、勤務先が費用を補助した場合にはじめて課税の論点が生じます。「BtoEの導入」と言うとき、自社が売り手なのか、外部サービスを福利厚生として入れるのかを最初に分けておかないと、後述する税務判断が噛み合いません。
福利厚生制度との重なりと、線を引く位置
BtoEは福利厚生と混同されやすい言葉です。整理すると、福利厚生は賃金以外に従業員へ提供する制度全般の名前で、BtoEは企業と従業員のあいだに取引が成立している状態を指します。社員食堂を無料開放していれば福利厚生施策ですが、1食400円で提供していれば従業員は顧客であり、BtoEの形をとっています。企業側から見ると、福利厚生費として原資を出しきる設計と、従業員から対価を回収して原資の一部を賄う設計の違いです。
英語圏で福利厚生に相当する概念はフリンジベネフィットと呼ばれ、給与以外の付加的な便益という位置づけで整理されます。また、従業員が用意されたメニューから自分で選ぶ形式にするとカフェテリアプランの設計論に接近します。BtoEはこれらと排他ではなく、提供手段のひとつとして重なり合っています。
BtoB・BtoC・BtoG・CtoCとの違い
BtoB・BtoC・BtoE・BtoG・CtoCの5類型と代表例
取引の呼び分けは、売り手と買い手が誰かという1軸で決まります。
| 略称 | 売り手 | 買い手 | 代表例 |
|---|---|---|---|
| BtoB | 企業 | 企業 | 部品供給、業務システム販売 |
| BtoC | 企業 | 一般消費者 | 小売、通販 |
| BtoE | 企業 | 従業員 | 社員食堂、社員割引販売、職域保険 |
| BtoG | 企業 | 行政・官公庁 | 公共調達、庁舎システム |
| CtoC | 個人 | 個人 | フリマアプリ、ネットオークション |
BtoEが他と違うのは、買い手が雇用契約で結ばれた相手である点です。BtoCなら値引きは販促ですが、BtoEでは値引きが労働の対価に近づいた瞬間に給与課税の対象になります。BtoGで問われるのが入札制度への適合だとすれば、BtoEで問われるのは税務と労務のルールへの適合です。なお、行政向けを BtoA(Business to Administration)と表記する資料もありますが、日本語圏ではBtoGの方が定着しています。
公的統計での扱いと、市場規模の語られ方
「BtoE市場は拡大している」という書き方をよく見かけます。ただし、その根拠となる公的統計はありません。経済産業省が2025年8月26日に公表した「令和6年度 電子商取引に関する市場調査」は1998年度から27回目となる継続調査ですが、推計しているのは国内のBtoC-EC、BtoB-EC、CtoC-ECと、日本・米国・中国相互間の越境ECです。2024年の数値はBtoC-ECが26.1兆円(前年比5.1%増)、BtoB-ECが514.4兆円(同10.6%増)、CtoC-ECが2兆5,269億円で、BtoEという区分は登場しません。
用語としての扱いも同様です。IPAが公開しているITパスポート試験シラバス Ver.6.5(全66ページ)を確認すると、電子商取引の分類として挙がっている用語例はEC、O2O、OMO、EDI、EFT、キャッシュレス決済などで、B to Eは含まれていません。BtoEはあくまで実務やメディアで使われる呼称であり、統計区分でも試験用語でもないという前提で読むのが正確です。市場規模を示す数字に出会ったら、それが調査会社の独自定義によるものか、福利厚生アウトソーシング市場など別区分の数字を読み替えたものかを確かめる価値があります。
BtoEで提供される主なサービス類型
食事補助・社員食堂・オフィスコンビニ
最も導入数が多い領域です。自社で社員食堂を持つ形、弁当を購入して割引価格で販売する形、無人販売什器を執務フロアに置いて従業員が都度決済する形があります。従業員側の利点は市場価格との差額そのもので、企業側の狙いは離席時間の短縮と欠食の防止に置かれることが多い領域です。後述するとおり、この類型は非課税限度額が明確に決まっているため、単価と自己負担割合の設計が制度の成否を左右します。
自社製品の社員割引販売と職域販売
メーカーや小売業が自社商品を従業員価格で販売する形です。在庫の消化と製品理解の促進を同時に狙えるため、従業員を最初の顧客と位置づける企業もあります。一方の職域販売は、保険会社や物販事業者が取引先企業の従業員を対象に、勤務先を接点として販売する形態です。個別に顧客を集める必要がないため獲得コストが下がり、勤務先の信用が販売の後押しになる点が売り手側の利点になります。導入する企業側は、従業員が勧誘を断りにくい環境を作らないよう、就業時間内の実施可否や参加の任意性を明文化しておく必要があります。
健康・レジャー・金融系の職域サービス
スポーツクラブの法人料金、宿泊施設の提携割引、財形貯蓄や団体扱いの保険料控除などがここに入ります。多くは外部事業者のサービスを企業がまとめて契約し、従業員が個別に利用する構造です。利用率が特定層に偏りやすい類型でもあるため、契約前に想定利用者数を出しておかないと、一人当たりコストが想定の数倍になります。
導入で企業・従業員・提供事業者が得るもの
BtoEが三者にとって成立する取引だと言われるのは、それぞれの得るものが異なるためです。もっとも大きいのは提供事業者側の利益で、企業単位で顧客を確保できるため、個人向け販売に比べて獲得コストが下がり、解約率も下がります。従業員側は市場価格との差額を受け取り、勤務先が選定した相手という安心感を得ます。企業側の便益は間接的で、採用時の訴求材料や定着への寄与といった形をとります。
ここは正直に書くべきところですが、企業側の効果は測りにくい領域です。福利厚生の追加が離職率をどれだけ下げたかを単独で切り出すのは難しく、施策の効果を検証するなら利用率と満足度を継続的に測る仕組みを最初から組み込む必要があります。従業員側の心理的な結びつきを扱う概念としてはエンプロイーエンゲージメントや従業員体験(EX)の枠組みがあり、BtoEはその中の接点のひとつとして評価するのが実態に合います。
課税と非課税を分ける具体的な基準
ここがBtoEの制度設計で最も判断を誤りやすい部分です。従業員が受け取る値引きや補助は所得税法上の経済的利益にあたり、要件を外れると給与として源泉徴収の対象になります。要件は金額まで通達で決まっているため、設計段階で数字を確認しておけば避けられる論点です。
自社製品の値引販売:おおむね70%以上という線
所得税基本通達36-23は、使用者が役員または使用人に対し自己の取り扱う商品、製品等(有価証券および食事を除く)を値引販売することで供与する経済的利益について、次の3要件をすべて満たせば課税しなくて差し支えないとしています。
- 値引販売に係る価額が、使用者の取得価額以上であり、かつ通常他に販売する価額に比し著しく低い価額(通常他に販売する価額のおおむね70%未満)でないこと。
- 値引率が、役員もしくは使用人の全部につき一律に、またはこれらの者の地位、勤続年数等に応じて全体として合理的なバランスが保たれる範囲内の格差を設けて定められていること。
- 値引販売をする商品等の数量は、一般の消費者が自己の家事のために通常消費すると認められる程度のものであること。
実務で問題になるのは3つ目です。半額セールにしないという1点目は守りやすく、役職ごとの割引率も規程に書けば説明できますが、購入数量の制限は運用でしか担保できません。転売可能な数量を無制限に買える設計にしていると、家事消費の範囲という条件を外れます。また、この通達は有価証券と食事を明示的に対象から外しているため、自社株の割安取得や社員食堂は別の基準で判断します。
食事補助:本人負担50%以上、会社負担は月7,500円以下
食事の現物支給は、次の2つをどちらも満たすときに給与として課税されません。ひとつは役員や使用人が食事の価額の半分以上を負担していること、もうひとつは食事の価額から本人負担額を引いた残額が1か月当たり7,500円(消費税および地方消費税の額を除く)以下であることです。
この7,500円という金額は2026年に変わったばかりの数字です。国税庁は令和8年3月31日付の法令解釈通達の改正で、非課税限度額を月額3,500円から7,500円へ引き上げ、令和8年4月1日以後に支給する食事について適用するとしています。あわせて、深夜勤務に伴う夜食の現物支給に代えて支給する金銭についても、1回当たり300円以下から650円以下へ引き上げられました。制度を数年前に設計したまま運用している企業は、単価と自己負担率を見直す余地があります。
注意すべき点が2つあります。1つは、現金で食事代を補助する場合は、深夜勤務者に夜食を支給できないために1食当たり650円(税抜)以下を支給するケースを除き、補助の全額が給与として課税されることです。同じ金額でも、弁当という現物で渡すか現金で渡すかで扱いが変わります。もう1つは、要件を外れたときに課税されるのは超過分だけではないことです。国税庁は、1か月の食事の価額が13,000円で本人負担が6,000円という例を挙げ、本人負担が半分に届かないため差額の7,000円全額が給与として課税されるとしています。なお、残業または宿日直を行うときに支給する食事は、無料で支給しても課税されません(所得税基本通達36-24)。
社会保険の現物給与:食事は都道府県ごとに価額が決まっている
税務だけで判断すると漏れるのが社会保険です。食事や住宅を現物で支給した場合、その価額は報酬に含めて標準報酬月額を算定します。価額は厚生労働大臣が定める告示で決まっており、令和8年3月17日公布の令和8年厚生労働省告示第94号により、食事に係る価額は令和8年4月1日から、住宅に係る価額は同年10月1日から改定されました。
特徴は、全国一律ではなく都道府県ごとに額が違う点です。1人1月当たりの食事の額は東京都と北海道が25,500円、群馬県と長野県が23,700円というように差があり、本社・支店それぞれの所在地の価額で計算します。1人1日当たりでは東京都で850円、昼食のみなら300円です。所得税では非課税でも社会保険の報酬には算入されるという食い違いが生じ得るため、制度を作るときは両方の基準に当てておく必要があります。
代金の給与天引きには労使協定が要る
社員販売の代金や食事代を給与から差し引く運用は広く行われていますが、これは労働基準法24条1項の全額払い原則の例外です。同項ただし書は、法令に別段の定めがある場合または当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、そうした労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合において、賃金の一部を控除して支払うことができると定めています。
つまり、控除の対象と方法を書いた協定を事業場ごとに結んでおかなければ、本人が同意していても全額払い原則に抵触します。BtoEを新設するタイミングで、既存の賃金控除協定に新しい控除項目が含まれているかを確認するのが実務上の第一歩です。永年勤続表彰の記念品(所得税基本通達36-21)や創業記念品(同36-22、価額1万円以下)のように、隣接する福利厚生施策にもそれぞれ通達の要件があります。
導入を見送るべき条件
すべての企業がBtoEを入れるべきだとは考えていません。次のいずれかに当てはまる場合、費用対効果が合わない可能性が高いといえます。
第一に、拠点が分散していて従業員数が各拠点で十数人規模にとどまる場合です。社員食堂やオフィスコンビニは設置単位あたりの固定費が大きく、利用者数が損益を決めます。全社で数百人いても、1拠点20人なら1拠点あたりで採算を見る必要があります。
第二に、割引率の格差に合理的な説明を用意できない場合です。所得税基本通達36-23は値引率が一律であるか、地位や勤続年数に応じた合理的なバランスの範囲であることを求めています。特定部門だけ大幅に優遇するような設計は、この要件から外れて経済的利益が給与課税されるおそれがあります。
第三に、一度始めた制度を縮小する見通しがある場合です。福利厚生の縮小は労働条件の不利益変更として扱われる可能性があり、原資が景気変動に連動する設計では数年後に手を縛られます。導入前に、業績が悪化したときに何を止めるかを決めておくべき領域です。企業が従業員に何を約束するかという観点はEVP(従業員価値提案)の枠組みで整理でき、BtoEはその約束を裏づける手段として位置づけると設計がぶれません。
よくある質問
BtoEの読み方は?
「ビートゥーイー」と読み、「ビーツーイー」と読む例も見られます。B to E、B2Eと表記されることもあり、いずれもBusiness to Employee(企業から従業員へ)の略です。
BtoEと福利厚生は何が違いますか?
福利厚生は賃金以外に従業員へ提供する制度全体を指す言葉で、BtoEは企業と従業員のあいだに取引が成立している状態を指します。無償で提供すれば福利厚生施策、対価を受け取れば従業員を顧客とした販売になります。両者は排他ではなく、対価を取る福利厚生はBtoEの形をとります。
社員割引で自社製品を買うと税金がかかりますか?
所得税基本通達36-23の3要件、すなわち販売価額が取得価額以上かつ通常の販売価額のおおむね70%以上であること、値引率が一律または地位・勤続年数に応じた合理的なバランスの範囲であること、数量が一般消費者の家事消費として通常の程度であることをすべて満たせば課税されません。いずれかを外れると値引き分が給与として課税されます。
食事補助はいくらまで非課税ですか?
従業員が食事の価額の50%以上を負担し、かつ会社負担額が1か月7,500円(税抜)以下であれば課税されません。この上限は令和8年4月1日以後に支給する食事から適用され、それ以前は3,500円でした。現金での食事代補助は、深夜勤務者に1食650円以下を支給する場合を除き全額が課税されます。
BtoEの市場規模を示す公的な統計はありますか?
ありません。経済産業省の「電子商取引に関する市場調査」が推計しているのはBtoC-EC、BtoB-EC、CtoC-ECと越境ECで、BtoEという区分は設けられていません。市場規模の数字が示されている場合は、調査会社の独自定義か、福利厚生アウトソーシングなど別区分の数字である可能性を確認してください。