STP分析は、市場を似たニーズの集団に分け(Segmentation)、その中から狙う集団を選び(Targeting)、選んだ相手の頭の中で競合と違う位置を取る(Positioning)ための3段階の手順です。「誰にでも売れる商品」を目指して予算が薄く広がるのを止め、誰に・何を・なぜ選ばれるかを一本の筋にします。この記事では、意味と3ステップの進め方に加えて、令和7年国勢調査(2026年9月29日公表)の世帯データでSTPを最後まで回す具体例、記入用テンプレート、QB HOUSEとスターバックスの公式資料から読む事例までを扱います。
まとめ:STP分析の要点
- S=市場を分ける、T=狙う相手を選ぶ、P=相手の頭の中での位置を決める。3つは順に別の問いに答える。
- 市場を分ける変数は地理・人口統計・心理・行動の4系統。分けたセグメントが使えるかは、Kotler & Kellerが挙げる5つの要件(測定可能・十分な規模・到達可能・差別化可能・実行可能)で確かめる。
- 狙う相手は6R(市場規模・成長性・競合・優先順位・到達可能性・測定可能性)で採点して比べる。6Rは日本で広まった整理で、提唱者を示す一次資料は見当たらない。
- 立ち位置は2軸のマップで空きを探し、最後は「誰にとって、何の仲間で、どこが違うか」の一文に落とす。
- 順番は既存の市場ではS→T→Pが基本。売る物が先に決まっている場合はPの仮説から入ってよいが、必ずSに戻って規模を測る。
STP分析とは:市場を分け、狙い、立ち位置を決める3段階
STP分析は、マーケティング戦略の最初の段階で「どの市場で、誰に、どう選ばれるか」を決める枠組みです。読み方は「エスティーピー分析」で、STP戦略・STPマーケティング・STPフレームワークも同じ枠組みを指します。
S・T・Pがそれぞれ答える問い
| 段階 | 答える問い | 主な材料 | 出力 |
|---|---|---|---|
| S セグメンテーション | 市場をどう分けるか | 統計・顧客データ | セグメント一覧 |
| T ターゲティング | どこを狙うか | 6Rの採点 | 狙う市場と型 |
| P ポジショニング | どう違うと思われたいか | 競合比較・顧客の購買基準 | 2軸マップと一文 |
セグメンテーションとターゲティングの線引き、顧客データでの分け方は顧客セグメントとは?分け方の4軸とRFM・デシル分析を実データで検証で詳しく扱っています。
STPの起源:Smith 1956のセグメンテーションとRies & Troutのポジショニング
3つの段階は、別々の時期に別々の人が言い出した考え方を、後から1本の手順にまとめたものです。
- セグメンテーション:ウェンデル・R・スミスが1956年にJournal of Marketing第21巻第1号の論文で、異質な需要を持つ市場を「より小さな同質な市場の集まり」として見る考え方を示しました。
- ポジショニング:ジャック・トラウトが1969年6月の業界誌Industrial Marketingの記事で言い出し、アル・ライズとの共著で1972年4〜5月に広告業界誌Advertising Ageの3回連載「The Positioning Era Cometh」(Ries社が原文を公開)、1981年に書籍『Positioning: The Battle for Your Mind』で広めました。連載はポジショニングを「広告が見込み客の頭の中で製品のためにすること」と説明し、セブンアップが自らを「アンコーラ(コーラでない飲み物)」と呼び、見込み客の頭にすでにある「コーラ」と結びつけてその代わりの位置を取った例を挙げています。
- 3段階の手順:フィリップ・コトラーの教科書『Marketing Management』の共著版(Kotler & Keller)は、セグメントとターゲットを決める章の次にポジショニングの章を置いています。第15版は第9章と第10章、第16版は第6章「Identifying Market Segments and Target Customers」と第7章「Crafting a Customer Value Proposition and Positioning」です。
PだけはSやTと出自が違い、広告の言葉づくりから来ています。ポジショニングをマップで終わらせず、相手に届く一文まで詰めるのはこのためです。
STP分析のやり方3ステップ
各段階で「何を基準に決めるか」を先に決めておくと、声の大きい人の思い込みで決まるのを防げます。
ステップ1:4系統の変数によるセグメンテーション
最初に、購買行動が似た人の集まりに市場を分けます。使う変数は次の4系統です。
| 変数 | 例 | 入手しやすいデータ |
|---|---|---|
| 地理的(ジオグラフィック) | 地域・都市規模・気候 | 国勢調査・商圏データ |
| 人口統計的(デモグラフィック) | 年齢・性別・世帯構成・所得 | 国勢調査・家計調査 |
| 心理的(サイコグラフィック) | 価値観・ライフスタイル | アンケート・VALS |
| 行動的(ビヘイビアル) | 利用頻度・利用場面・求める便益 | 購買履歴・アクセスログ |
人口統計の変数は手に入りやすい反面、同じ年齢・性別でも買う理由がばらばらなことが多く、それだけで切ると施策の差が作れません。人口統計で大きく切り、心理・行動の変数で中を割るのが実務的な組み合わせです。各変数の詳細はジオグラフィック、サイコグラフィック、VALSの各記事、法人向けの切り方はBtoBのセグメンテーションとは?企業属性から購買担当者まで5層で切る進め方を参照してください。市場細分化そのものの定義と手順はマーケットセグメンテーションとは?市場細分化の4つの軸と進め方にまとめています。
セグメントの有効性を点検するKotler & Kellerの5要件
分けたセグメントが戦略に使えるかは、Kotler & Kellerの『Marketing Management』第15版が挙げる5つの要件で点検します。日本語の解説では「4条件」「4R」と紹介されることが多いものの、同書の項目は5つです。
| 要件 | 確かめること | 落ちる例 |
|---|---|---|
| Measurable(測定可能) | 規模・購買力・特徴を測れるか | 「感度の高い人」 |
| Substantial(十分な規模) | 採算が合う大きさか | 細かく割りすぎた集団 |
| Accessible(到達可能) | 届けて提供できるか | 接点の無い層 |
| Differentiable(差別化可能) | 施策への反応が他と違うか | 年齢だけで割った層 |
| Actionable(実行可能) | 自社が施策を組めるか | 人員が足りない複数展開 |
5つのうち見落とされやすいのがDifferentiableです。20代と30代に分けても、同じ広告に同じように反応するなら、分けた意味がありません。
ステップ2:6Rによるターゲティング候補の採点
次に、候補のセグメントを比べて狙う相手を選びます。比べる観点としてよく使われるのが6Rです。観光庁の『DMOのマーケティング強化に向けた取組事例集(マニュアル)』p.30も、ターゲティングのテンプレートとして6Rの確認ポイントを載せています。
| 6R | 確認すること |
|---|---|
| Realistic Scale(市場規模) | 大きすぎず小さすぎないか |
| Rate of growth(成長性) | 今後も伸びる見込みがあるか |
| Rival(競合) | 狙う競合が多すぎないか |
| Rank(優先順位) | 相手にとって自社が優先される存在か |
| Reach(到達可能性) | 商品と広告を的確に届けられるか |
| Response(測定可能性) | 施策の効果を測れるか |
6Rは日本で広まった整理で、提唱者や初出文献を示す一次資料は見当たりません。Rankも、観光庁資料は顧客側の優先度(旅行者にとって優先的に訪問したいものか)で書く一方、自社にとっての重要度と説明する資料もあります。社内で使うときは各Rの定義を先に書いてから採点してください。また観光庁資料が「大きすぎると競合が多い可能性あり」と注記するとおり、規模は大きいほど高得点ではありません。
ターゲティングの型:無差別・差別化・集中と製品×市場の5パターン
狙う相手が決まったら、どう向き合うかの型を選びます。大きくは3つです。
- 無差別型:市場全体に1つの施策で臨む。日用品のように需要の差が小さい商品向け。考え方と向く条件はマスマーケティングとは?ターゲット型との違いと投資判断の基準を解説を参照。
- 差別化型:複数のセグメントにそれぞれ別の施策を打つ。売上の拡大を狙えるが、商品・広告・販路の費用も増えやすい。共用できる部分が多いほど増え方は小さくなる。
- 集中型:1つのセグメントに資源を集める。経営資源が限られる企業の定石だが、その市場が縮むと逃げ場がない。
Kotler & Kellerの第15版は、製品と市場の組み合わせでさらに細かく見る5つのパターンも挙げています。
| パターン | 製品×市場の組み方 |
|---|---|
| 単一セグメント集中 | 1製品×1市場 |
| 選択的専門化 | 相互に関係の薄い複数の製品×市場 |
| 製品専門化 | 1製品を複数の市場へ |
| 市場専門化 | 1つの市場に複数の製品 |
| フルカバレッジ | すべての製品×すべての市場 |
3つの型で迷ったら、まず「製品を増やすのか、市場を増やすのか」を決めると5パターンのどれかに落ちます。
ステップ3:ポジショニングマップとポジショニング・ステートメント
Kotler・Keller・Chernevの共著になった第16版はポジショニングを、自社の提供物とイメージを設計し、ターゲット市場の人々の頭の中で他と区別される位置(a distinctive place)を占めるようにする行為と定義しています。実務では2段階で詰めます。
1段階目はポジショニングマップです。狙う相手が買うときに実際に比べている基準を縦横の2軸に取り、競合を置いて空いた場所を探します。観光庁の同マニュアルp.31は、軸を「自地域が4スミのどこかに来る」ように設定せよと書いています。中央付近にしか置けない軸は、差がつかない軸です。
2段階目は一文への落とし込みです。マップの位置だけでは広告も営業トークも作れないため、「〈ターゲット〉にとって、〈自社商品〉は〈比べられる相手の分類〉のうち、〈違い〉を提供する。なぜなら〈根拠〉だから」の形に埋めます。ここでKotler & Kellerの言う類似点(POP:Points-of-parity)と相違点(POD:Points-of-difference)を分けます。POPは他ブランドと共有していてよい属性や便益で、ここが欠けると比較の候補から外れやすくなります。PODは自社の提供物を競合から区別する属性や便益です。PODの言語化は、USPとは?意味とリーブスの3条件・作り方、UVP・バリュープロポジションとの違いで扱うバリュープロポジションの設計に関わります。ただしバリュープロポジションは、Kotler & Kellerの説明では顧客に届けると約束する便益のまとまり全体を指し、PODより広い概念です。
STP分析の具体例:令和7年国勢調査で見る冷凍宅配弁当のSTP
ここでは架空の「冷凍宅配弁当」事業を例に、公的統計の実数でSとTを回し、Pの一文まで書きます。事業は架空ですが、数値は総務省統計局『令和7年国勢調査 人口等基本集計 結果の概要』(2026年9月29日公表)の値です。
S:世帯の家族類型による市場の切り分け
食事の準備は世帯単位で発生するため、世帯の家族類型で大きく切ります。
| 家族類型(2025年) | 世帯数 | 一般世帯に占める割合 | 2020年比 |
|---|---|---|---|
| 単独世帯 | 2,368万9千 | 41.4% | 12.0%増 |
| 夫婦と子供から成る世帯 | 1,331万9千 | 23.3% | 4.8%減 |
| 夫婦のみの世帯 | 1,153万5千 | 20.2% | - |
| ひとり親と子供から成る世帯 | 504万4千 | 8.8% | - |
単独世帯の割合は2020年の38.0%から41.4%に上がりました。さらに年齢で割ると、単独世帯に属する人の割合が最も高いのは男性が25〜34歳(36.1%)、女性が85歳以上(29.6%)で、単独世帯の世帯人員に占める65歳以上の割合は男性24.6%、女性44.7%です。同じ「一人暮らし」でも、若い男性の単身者と高齢女性の単身者では、食事に求めるもの(量・価格・栄養・受け取りやすさ)がまるで違います。ここで心理・行動の変数を重ね、次の3つを候補セグメントにします。括弧内のニーズは統計の結果ではなく、これから調査で確かめる仮説です。
- A:単独世帯・25〜34歳の就業者(帰宅が遅く自炊の時間がない)
- B:単独世帯・75歳以上(買い物と調理の負担を減らしたい)
- C:夫婦と子供から成る世帯(平日の夕食を時短したい)
T:6Rによる3候補の仮評価
この段階の採点は、どこを調べれば判断が変わるかを洗い出すための仮評価です。統計で裏づけられない項目は「仮定」、まだ判定できない項目は「未判定」と書きます。
| 6R | A 若年単身 | B 高齢単身 | C 夫婦と子供 | 根拠 |
|---|---|---|---|---|
| Realistic Scale | 未判定 | 未判定 | 未判定 | 世帯数は母数の上限。購買意向と採算は未確認 |
| Rate of growth | △ | ○ | × | 仮定:単独世帯12.0%増・夫婦と子供4.8%減から推測 |
| Rival | × | △ | × | 仮定:コンビニ・ミールキットと競合 |
| Rank | △ | ○ | △ | 仮定:減塩・やわらか食に強み |
| Reach | ○ | △ | ○ | 仮定:Bはネット広告が届きにくい |
| Response | ○ | △ | ○ | 仮定:Bは電話注文が混じる |
仮評価の上では、Bは成長性と優先順位が高く、到達と測定が弱く見えます。ここで「到達が弱いから捨てる」と決めず、次に調べることを決めます。75歳以上の単身世帯のうち配食に費用を払う意向がある割合(規模)と、本人ではなく離れて暮らす家族が申し込む経路がどれだけ使えるか(到達)です。両方が確かめられたらBに集中し、確かめられなければAとCの比較に戻ります。採点表は結論ではなく、どこを詰めれば判断が変わるかを示す道具です。
P:高齢単身向けポジショニング・ステートメントの仮案
Bを選んだ場合、食事の代わりになる手段はスーパーの惣菜やコンビニ弁当まで広くありますが、ポジショニングで比べる枠は「高齢者向けの配食」に絞ります。この枠の中でのPOPは「温めるだけで食べられる」「定期的に届く」で、ここが欠けると配食の候補に入りません。PODの候補は、出したらすぐ競合の公式サイトで確かめます。たとえば冷凍のまとめ配送は、ワタミの宅食ダイレクトが冷凍の14食セットを定期で届けているため、それだけでは違いになりません。管理栄養士の設計も同じ理由で弱い候補です。そこで仮説として「離れて暮らす家族が注文と届いた記録をスマートフォンで確かめられる」をPODの候補に置くと、Tで弱かった到達の経路(家族が申し込む)とも筋が通ります。一文にすると「一人暮らしの75歳以上と離れて暮らす家族にとって、〈ブランド名〉は高齢者向け配食のうち、家族が注文と受け取りを見届けられる選択肢である。なぜなら〈仕組み〉があるからだ」となります。この一文は、競合の提供内容と家族側の需要を調べるまで仮案です。
STP分析のテンプレート:記入欄と書き方
手を動かすときは、次の表をそのまま写して埋めてください。上の具体例を記入例として入れています。観光庁の同マニュアルpp.29〜31にも、セグメンテーション・6R・ポジショニングマップの3枚組のテンプレートが公開されています。
| 欄 | 書くこと | 記入例 |
|---|---|---|
| S 使った変数 | 大きく切る変数と中を割る変数 | 家族類型×年齢×調理負担 |
| S 候補セグメント | 3〜5個・規模の数値つき | A・B・Cと世帯数 |
| S 5要件の点検 | 落ちた要件があれば理由 | 未判定(到達経路を調査中) |
| T 6R採点 | 各Rの定義・評価・根拠 | 上の採点表 |
| T 選んだ型 | 無差別・差別化・集中 | Bに集中(規模と到達の確認後) |
| P 2軸 | 相手が比べている基準 | 家族の見守りやすさ×食事の手間 |
| P POPとPOD | 比較の候補に入る条件と違い | 温めるだけ・定期配送/家族の確認(仮説) |
| P 一文 | 誰に・何の仲間で・何が違う・根拠 | 上のステートメント |
埋め終えたら、S・T・Pの欄を上から通して読み、「選んだ相手に、その違いは本当に効くか」を確かめます。違和感があるときは、多くの場合Sの変数かPの軸に原因があります。
STP分析の企業事例:QB HOUSEとスターバックスの公式資料からの読み解き
他社の事例は、公式に書かれている事実と、そこからの読み取りを分けて見ます。両社ともターゲットを公式に「この層」と書いているわけではありません。以下のS・Tは公開情報からの整理です。
QB HOUSE:「省時間」による理美容の比較軸の転換
QB HOUSEの公式サイトは、価格を1,400円、1人に要する時間を約10分としています(QB HOUSEの5つのちょうどいい)。ご利用案内には「髭剃り・シャンプー・ブローなどは行っておりません。カットのみのサービスとなります」とあり、予約も指名もできません。同社は自らのサービスを、同じ便益を「より少ない時間で得られる」省時間のヘアカットと説明しています。
ポジショニングで見ると、理美容店が競っていた「くつろぎ・丁寧さ」の軸を降り、「かかる時間」と「価格」の軸で端の位置を取ったことになります。セグメントは年齢や性別より利用場面(行動変数)で切られており、公式サイトは「賢いビジネスマン」「子育て世代」「1カ月に1度のスタイルキープ」と複数の場面を並べています。一方で、スタイリング付きの「QB PREMIUM」、カットとスタイリングを組み合わせた「FaSS」を別ブランドで持つのは、同じ店で全員に応えず、セグメントごとに別の提供物を用意する差別化型の動きです。1号店は1996年11月開業の神田美土代店です(キュービーネット沿革)。2026年6月期の決算説明資料では、グループの国内店舗は612店、うちQB HOUSEブランドが587店です。なお数字で見るQB HOUSEは、ヘアカットにかかる平均時間を12分15秒と公表しており、「約10分」は目安です。
スターバックス:「サードプレイス」というポジショニング
スターバックス コーヒー ジャパンの会社案内は、1996年8月に東京・銀座で日本1号店を開いたこと、そして「家でも職場でもない『サードプレイス』の提案」をしてきたことを自ら書いています。比べられる相手が他のコーヒー店だけなら「味」や「価格」が軸になりますが、サードプレイスという言葉は比較の相手を「自宅」と「職場」に置き換えます。コーヒーの値段ではなく、そこで過ごす時間の価値で選ばれる位置です。この言葉の出どころである社会学者レイ・オルデンバーグの『The Great Good Place』(1989年)は、サードプレイスを家庭と仕事の領域の外で人々が定期的・自発的・非公式に集う場所の総称として定義しています。
この位置は、立地・内装・長居できる席の設計と矛盾しないことで保たれます。ポジショニングが言葉だけで、店舗が回転率優先の造りになっていれば、一文と体験が食い違います。会社概要によると、店舗数は2,116店舗(うちライセンス店舗201店舗、2026年3月31日現在)です。
STP分析の順番:S→T→Pに固執しない場面と固執すべき場面
教科書の順番はS→T→Pですが、商品がすでにある場合は、Pの仮説(この商品はこう違う)から入り、その違いが効く相手を探す方が速いことがあります。ただし、この逆算にはSに戻って規模を測るという条件がつきます。Pから入って、刺さる相手を思い描いたところで止めると、Substantial(十分な規模)を確かめないまま予算を投じることになります。
反対に、S→T→Pの順を崩すべきでないのは、すでに顧客がいる市場へ新しく参入し、何を作るかがまだ決まっていない場面です。売り手の思いつきのPから始めると、市場の分け方がその思いつきに合わせて歪みます。「商品があるならPから入ってSで検算、既存の市場に商品を持たずに入るならSから」が目安です。市場そのものがまだ無い場合は、後述のとおりSTPより先にやることがあります。
STP分析と3C・SWOT・4P・4Cの使う順番
STP分析は単独では完結しません。典型的な流れは、3C分析やSWOT分析で市場・競合・自社の現状を整理し、STPで狙いと立ち位置を決め、4P分析(マーケティングミックス)で製品・価格・流通・販促に落とす、という順番です。4Pを顧客側から点検し直すときは4C分析を使います。Tで選んだ相手を1人の人物像に具体化する作業はペルソナマーケティング、実在する1人の顧客から逆算する方法はN1分析が担います。目的別のフレームワーク全体はマーケティングフレームワークとは?目的別27種の一覧と使う順番にまとめています。
STPで決めた狙いを、Web広告やサイト改善などの具体的な施策計画まで落とし込む段階で手が足りない場合は、Webマーケティング戦略の立案支援も相談先の一つです。
STP分析でよくある失敗と使わない方がよい場面
STP分析が埋めただけの資料で終わる典型は次の4つです。
- 人口統計の変数だけで切る:「30代女性」のような切り方はDifferentiableを満たさないことが多い。行動・心理の変数で中を割る。
- 細かく割りすぎて市場が消える:セグメントの数より、各セグメントの規模を数値で書く。規模が書けないセグメントはMeasurableで落ちている。
- マップの右上を取る:「高品質×低価格」のように誰もが望む位置に自社を置く地図は、競合も同じ地図を描ける。軸は相手が実際に比べている基準にする。
- 一度作って放置する:単独世帯の割合が5年で38.0%から41.4%に変わったように、セグメントの規模は数年で動く。統計の更新時に見直す。
また、まだ存在しない市場をつくる商品(前例のない新カテゴリ)では、STP分析はあまり役に立ちません。分ける対象の市場がまだ無く、規模も測れないからです。この段階では、少数の顧客が「何を片づけたいのか」を深く聞き取る方法の方が先に効きます。STPは、市場がある程度見えてから回すものです。
よくある質問
STP分析は何の略で、どう読みますか?
Segmentation(市場の細分化)、Targeting(狙う市場の選定)、Positioning(立ち位置の決定)の頭文字で、「エスティーピー分析」と読みます。STP戦略・STPマーケティング・STPフレームワークも同じ枠組みを指します。
STP分析とバリュープロポジションはどう関係しますか?
バリュープロポジションは、顧客に届けると約束する価値(便益のまとまり)で、Pで決める競合との違いはその構成要素の一つです。STPで相手(T)と立ち位置(P)が決まらないと、誰に向けた約束かが定まらないため、順番としてはSTPが先、バリュープロポジションの文言づくりが後になります。
セグメンテーションとターゲティングの違いは何ですか?
セグメンテーションは市場を分ける作業、ターゲティングは分けた中から狙う相手を選ぶ作業です。顧客データを使った分け方は顧客セグメントの記事で扱っています。
6Rと4Rはどう違いますか?
4RはRank・Realistic・Reach・Responseの4項目、6RはこれにRate of growthとRivalを足した6項目です。どちらも提唱者を示す一次資料は見当たらず、Rankの意味も資料で異なります。
STP分析はBtoBでも使えますか?
使えます。BtoBでは年齢や性別の代わりに、業種・従業員規模・地域・導入目的・購買に関わる部署といった軸で切ります。法人特有の切り方はBtoBのセグメンテーションの記事で解説しています。