VALSは、消費者を心理的特性と属性から分類するセグメンテーションの枠組みです。名称は初版のValues and Lifestyles(価値観とライフスタイル)の略ですが、提供元のSBIは2010年のFAQで、心理学に基づく現行版では展開形をやめ、VALSをブランド名として残したと説明しています。1978年にSRI International が9類型として発表し、1989年の改訂で「主要動機」と「資源」の2軸8タイプに再編されました。これを日本市場向けに設計し直したものが日本版VALS(Japan-VALS)で、伝統・達成・自己表現の3方向と新しいものを受け入れる早さを組み合わせた10セグメントに分かれます。この記事では、提供元のStrategic Business Insights(SBI)の公式資料をもとに10セグメントの名称と構成比を一覧化し、AIOアプローチ・LOVとの違い、施策に落とす手順、そして質問票が公開されなくなった現在の使い方までを整理します。なお同名のバンドやAIベンチマーク(Vals AI)とは別のものです。
まとめ:VALSと日本版VALSの要点
- VALSの現行版は8タイプ:主要動機(理想・達成・自己表現)と資源の2軸で米国の成人を分類する。1978年の初版は9類型で、8タイプは1989年の改訂版(VALS2と呼ばれることがある)に由来する。
- 資源は収入だけではない:SBIは属性に加え、エネルギー・自信・新奇性の追求・衝動性・虚栄心などの心理的特性を資源に数えている。
- 日本版VALSは10セグメント:伝統・達成・自己表現の3方向に新しいものを受け入れる早さを掛け合わせる。1990年にSRIとNTTデータ通信の研究者が作ったもので、米国版の8タイプを訳したものではない。
- 日本版の狙いはアーリーアダプターの特定:伝統尊重派・社会達成派・自己顕示派の3セグメント(2020年の構成比で合計9.2%)が新商品の入口として位置づけられている。
- AIO・LOVとの違い:AIOは活動・関心・意見の回答から分類軸を作る手法、LOVは9項目の価値観尺度で、1986年の論文がパブリックドメインであることを利点に挙げている。VALSは提供元の質問票で既定の型に当てはめる商用の手法。
- 自社調査に使う前に提供状況を確認する:SBIは米国版の質問票を一般公開しなくなっており、日本の窓口だった調査会社JDSも2025年1月時点でJapan-VALSのリサーチプログラムを実施していないと案内している。公開資料の10区分は仮説づくりに使い、分類まで行うなら提供元への問い合わせかLOV・AIOに切り替える。
VALSの成り立ちと現行フレームワークの2軸
VALSを調べると「9タイプ」と「8タイプ」の両方の説明が見つかります。1978年の初版と1989年の改訂版でタイプ数も分類軸も入れ替わっているのに、日本語の解説では両方が混ざって流通しているためです。まず時系列を分けます。
1978年の初版9類型と1989年の2軸8タイプ
初版のVALSは、SRI International(旧スタンフォード研究所)のArnold Mitchell らが開発しました。態度とデモグラフィックの設問から米国の成人を9類型に分けるもので、survivors、sustainers、belongers、emulators、achievers、I-am-me、experiential、societally conscious、integrated という名称が使われていました。
1989年の改訂で、この9類型は現在の2軸8タイプへ組み替えられます。SRIのVALSの沿革ページによれば、社会の流行よりも心理的特性のほうが安定しているという判断から、SRI・スタンフォード大学・カリフォルニア大学バークレー校のチームが2年かけて新しいVALSを作り、1989年に送り出しました。同ページは、初版がAdvertising Age誌に「1980年代の市場調査における10大ブレークスルーの1つ」と評されたことも紹介しています。
SRIの社史(事業コンサルティングの章)では、改訂版は「VALS 2」の名で1989年に完成し1990年に公開されたと記録されています。いまの提供元の資料は単に「VALS」と表記しています。「VALSは9タイプ」という記述は1978年版の話で、現行版なら8タイプです。SRIの沿革ページは、SRIからスピンオフしたStrategic Business Insights(SBI)を提供元として紹介しています。
VALSの資源(Resources)軸とその構成要素
現行VALSの縦軸は「資源」です。収入や社会的地位の軸として説明されることがありますが、SBIのUS VALS Typesのページ(2024年4月のアーカイブ)は、消費の傾向は年齢・収入・学歴にとどまらないとしたうえで、資源の要素として次の心理的特性を挙げています。
- エネルギー(energy)
- 自信(self-confidence)
- 知性への志向(intellectualism)
- 新奇性の追求(novelty seeking)
- 革新性(innovativeness)
- 衝動性(impulsiveness)
- リーダーシップ(leadership)
- 虚栄心(vanity)
同ページは、これらの心理的特性と主要な属性を組み合わせて個人の資源が決まると説明しています。資源に自信や新奇性の追求が入っているので、同じ年収帯でも新しいものへ踏み出す力は人によって違う、という前提になります。世帯年収でセグメントを切って「上位層=革新層」とみなす設計とは、ここが根本から違います。デモグラフィック軸との使い分けはサイコグラフィックとは?属性の具体例とデモグラフィックとの違いで整理しています。
米国版VALSの8タイプ
横軸の「主要動機」は理想・達成・自己表現の3方向です。SBIの説明では、理想に動機づけられる人は知識と原則に導かれ、達成に動機づけられる人は周囲に成功を示す商品を求め、自己表現に動機づけられる人は社会的・身体的な活動や変化、リスクを求めます。それぞれに資源の高い層と低い層が対応し、上下端に資源が突出して高いInnovators と、資源が乏しいSurvivors が置かれます。
| 主要動機 | 資源が高い層 | 資源が低い層 |
|---|---|---|
| 理想(Ideals) | Thinkers(思慮型) | Believers(信条型) |
| 達成(Achievement) | Achievers(達成型) | Strivers(努力型) |
| 自己表現(Self-Expression) | Experiencers(体験型) | Makers(実行型) |
| (動機を特定しない) | Innovators(革新型) | Survivors(生存型) |
Innovators は資源が高いため3つの動機のいずれも取りうる層、Survivors は特定の動機が前面に出ないまま手持ちの範囲で生活する層です。この2つは動機軸のどこかに属するのではなく、資源軸の両端に置かれています。個人がどのタイプかは、SBIの質問票(VALS Survey)への回答で判定されます。
日本版VALS(Japan-VALS)の10セグメント
日本語の解説には日本版VALSを9タイプとするものと10セグメントとするものが混在していますが、SBIの日本語公式資料に掲載されているのは10セグメントです。以下は同資料の記載に基づきます。
心理機軸「ありたい姿」の3方向
日本版VALSは、日本市場での心理機軸を「ありたい姿」として3方向に分類しています。同資料は各方向を問いの形で言い表しており、これが分類の起点になります。
- 伝統:「どうすれば恥ずかしくないか?」。家族を守りたい、日本の伝統・しきたり重視、次世代への強い継承意識、年長者を敬う。
- 達成:「何をすべきか?」。知的と認められたい、達成プレステージ志向、強い社会的責任意識、時間効率重視、文化や芸術への関心。
- 自己表現:「何したい気分か?」。今を刺激的に過ごしたい、仕事より自分の生活、新しい物好き、ファッション重視、質の高さより面白さ。
米国版の主要動機が「理想・達成・自己表現」であるのに対し、日本版は理想の位置に伝統が入ります。恥の意識や継承意識を動機として扱う点に、米国版を翻訳したのではなく日本市場向けに作り直したことが表れています。
10セグメントと構成比・受容ステージ
同資料は「Japan-VALSは心理変数と属性を用いて、日本市場を10セグメントに区分します」と明記しています。構成比は同資料に掲載されたJNNデータバンク(2020年)の値で、全国調査の構成比であり自社顧客の分布ではありません。原資料はStrategic Business Insights「VALSとは」(2021年)で公開されています。
| セグメント | 構成比 | 心理機軸 | 受容ステージ |
|---|---|---|---|
| 革新創造派 | 3.2% | 3方向すべてに広く関心 | イノベーター |
| 伝統尊重派 | 2.5% | 伝統 | アーリーアダプター |
| 社会達成派 | 2.5% | 達成 | アーリーアダプター |
| 自己顕示派 | 4.2% | 自己表現 | アーリーアダプター |
| 伝統派アダプター | 6.4% | 伝統 | アーリーマジョリティ |
| 社会派アダプター | 10.4% | 達成 | アーリーマジョリティ |
| 自己派アダプター | 9.6% | 自己表現 | アーリーマジョリティ |
| 同調派 | 23.5% | 周囲の意見を尊重 | フォロワー |
| 雷同派 | 26.9% | 変化を好まない保守層 | フォロワー |
| つましい生活派 | 10.9% | 社会の流れに低関心 | フォロワー |
各セグメントの性格は資料に短く定義されています。革新創造派は「新しいものに積極的な高感度消費リーダー」で、経済力とバイタリティが高くトレンドにも目を配る層。伝統尊重派は「日本の文化伝統を守り、継承する層」で義理・分別を重んじる層。社会達成派は「キャリア・社会志向の強い良識層」で客観的ゴールを設定して努力する層。自己顕示派は「レジャー・ファッション高感度享楽層」で流行に敏感な層です。3つのアダプター層は、それぞれ対応する上位層を追う位置づけです。
残る3セグメントは、明確な消費のモチベーションを持たないフォロワーグループとされています。同調派は「社会潮流にあとから参加する層」で、自分から新しいものを求めないが周囲の意見は尊重する層。雷同派は「社会の流れに鈍感な保守層」で生活の中心は家族。つましい生活派は「社会の流れに低関心な層」で、静かな生活を志向し長時間テレビを見て過ごす傾向がある層です。
1990年の開発時の10グループと現在の名称
SRIの社史によれば、日本版VALSは1990年にSRIのチームが作った、米国以外で初めての汎用VALSです。開発側の記録としては、NTTデータ通信システム科学研究所の恒松直幸氏とSRIインターナショナル東アジア本部の久我美絵子氏による論文「変化を先取りするマーケティング・モデル」(開発工学 Vol.12 No.2、1993年)があります。同論文は、日本版VALSが米国のVALS2を手本にし、文献調査と前後3回のアンケート調査で「足掛け3年」かけて価値観と消費行動の関係を調べたと記しています。
当時の区分は、達成欲求の良識派、自己表現欲求の自己派、安定欲求の伝統派の3つを、新しいものへの感度を表す「活力」の高低で重視派と適応派に分けた6グループが基本でした。ここに、価値観に特徴がなく周囲に合わせる同調派(同調重視派・同調適応派)、活力が最も低い隠遁派、活力が最も高い自在派を加えて10グループです。いまの資料とは名前が違いますが、10という数と2軸の構造は当初から変わっていません。
| 1993年論文の名称 | SBI英語ページの名称 | 2021年資料の名称 |
|---|---|---|
| 自在派 | Integrators | 革新創造派 |
| 伝統重視派・伝統適応派 | Traditional Innovators・Adapters | 伝統尊重派・伝統派アダプター |
| 良識重視派・良識適応派 | Ryoshiki Innovators・Adapters | 社会達成派・社会派アダプター |
| 自己重視派・自己適応派 | Self-Innovators・Adapters | 自己顕示派・自己派アダプター |
| 同調重視派・同調適応派・隠遁派 | High・Low Pragmatics、Sustainers | 同調派・雷同派・つましい生活派 |
英語名はSBIのJapan-VALSのページ(2024年4月のアーカイブ)によります。上の4行は名称と説明の類似性をもとに本記事で対応を推定したもので、公式の対応表ではありません。最下行の3区分は、どれがどれにあたるかを示す資料がありません。
米国版との設計思想の違い
米国版と日本版の最大の違いは、日本版がロジャーズの普及理論を分類そのものに組み込んでいる点です。SBIの英語ページも、日本版は「主要動機」と「社会の変化に対する態度」の2つの属性で区分すると説明しています。米国版の2軸が動機と資源であるのに対し、日本版の2つ目の軸は「誰が先に動くか」です。
SBIの日本語資料は、日本版の狙いを普及理論のアーリーアダプターを特定して効率的なターゲティングを示唆することだと説明しています。アーリーアダプターにあたる3区分は2020年の構成比で合計9.2%ですが、これはロジャーズの理論値13.5%とは性質の違う調査上の値で、初期ターゲットの規模を決める設計値ではありません。
VALSは国ごとに別のモデルとして作られています。SBIのInternational VALSのページ(2024年4月のアーカイブ)は、態度と行動の関係は文化によって違うため国ごとにシステムを作り、セグメントの説明も国別になると述べ、米国以外では中国・ドミニカ共和国・日本・ナイジェリア・英国・ベネズエラの6か国を紹介しています。国が変われば分類も変わる、という前提を外すと分析が成立しません。
ライフスタイル分析の3手法:VALS・AIO・LOVの違いと使い分け
ライフスタイル分析は、消費者の価値観・活動・意見といった心理的側面から生活様式を分類する手法群の総称で、VALSはそのうちの1つです。並んで挙げられることが多いのがAIOアプローチとLOVで、この3つは調べ方も出自も違います。
AIOアプローチが聞く3側面と分類の作り方
AIOは、活動(Activities)・関心(Interests)・意見(Opinions)の3側面を質問紙で聞き、回答パターンからライフスタイルの特徴を抽出する手法です。代表的な文献はWilliam D. Wells とDouglas J. Tigert の論文「Activities, Interests and Opinions」(Journal of Advertising Research 第11巻第4号、1971年8月、pp.27-35)です。この調査では、調査会社Market Factsの郵送パネルの主婦1,000人に、300項目のAIO設問を含む質問票を送り、アイメイク用品の利用者とショートニングをよく使う人のプロファイルを対比しています。
設問の範囲を4つの次元に整理したのが、Joseph T. Plummer の論文「The Concept and Application of Life Style Segmentation」(Journal of Marketing 第38巻第1号、1974年)の表です。AIOの3次元にデモグラフィックを加え、各9項目を挙げています。
| 活動(Activities) | 関心(Interests) | 意見(Opinions) | 属性(Demographics) |
|---|---|---|---|
| 仕事・趣味・社会的行事 | 家族・家庭・職業 | 自分自身・社会問題・政治 | 年齢・教育・所得 |
| 休暇・娯楽・クラブ所属 | 地域社会・レクリエーション・ファッション | ビジネス・経済・教育 | 職業・家族人数・住居 |
| 地域活動・買い物・スポーツ | 食・メディア・達成 | 製品・将来・文化 | 地理・都市規模・ライフサイクル段階 |
VALSとの違いは方向です。VALSは既存の型に回答者を当てはめますが、AIOは設問への回答から分類軸そのものを作ります。既製の型が自社カテゴリに合わないときに使える一方、独自の分類を作る場合は、目的に応じてクロス集計、因子分析、クラスター分析などを選び、設問設計と分析の作業量を見積もります。
LOV(Kahle 1983)の9項目
LOV(List of Values)は、Lynn R. Kahle が1983年の著書「Social values and social change: adaptation to life in America」(Praeger)で提示した価値観尺度です。項目は9つで、内容は次のとおりです。
- 安全(sense of security)
- 帰属感(sense of belonging)
- 他者からの尊敬(being well respected)
- 人生の楽しみ(fun and enjoyment in life)
- 温かい人間関係(warm relationships with others)
- 自尊心(self-respect)
- 自己実現(self-fulfillment)
- 達成感(sense of accomplishment)
- 刺激(excitement)
LOVとVALSを比べたKahle、Sharon E. Beatty、Pamela Homer の論文(Journal of Consumer Research 第13巻第3号、1986年、pp.405-409)は、LOVの利点を「it is in the public domain and it relates more closely to consumer behavior」と述べています。パブリックドメインであることと、消費者行動との関連がより近いことです。比較対象は1989年の改訂より前のVALSである点に注意してください。
VALS・AIO・LOVの分類方法と利用条件の比較
| 観点 | VALS | AIO | LOV |
|---|---|---|---|
| 捉える対象 | 動機と資源 | 活動・関心・意見 | 価値観9項目 |
| 分類の作り方 | 既定の型に当てはめ | 回答から軸を抽出 | 重視項目で分類 |
| 出自 | SRI/SBI(商用) | Wells & Tigert 1971 | Kahle 1983 |
| 質問票 | 非公開(提供元に問い合わせ) | 自社で設計 | 9項目が公開済み |
| 日本市場向け | 日本版VALSあり | 設問で調整可 | 翻訳して利用 |
実務でいちばん効いてくるのは質問票の行です。VALS とJapan-VALS はSBIの登録商標で、判定に使う質問票は公開されていません。既存の分類サービスを利用できない場合は、LOVや自社設計のAIOを候補にします。ただし、質問票の設計、回答収集、分析に必要な費用と時間は別途見積もります。STPの流れの中でセグメンテーションをどう位置づけるかはSTP分析とは?やり方3ステップと企業事例をわかりやすく解説で確認できます。
VALSの質問票は公開終了:自社で使うときの現状
VALSについての古い教科書や解説には、SBIのWebサイトで質問票に答えると自分のタイプがわかる、と書かれているものがあります。SBIの2010年のFAQも、Webサイトの質問票を個人のVALSタイプを判定するための「VALS-location battery」と説明していました。この手順は現在使えません。提供状況を公式ページで確認した結果は次のとおりです。
- 米国版の質問票は一般公開を終了:SBIのU.S. VALS Surveyのページ(2024年5月のアーカイブ)は、VALSの質問票をWebサイトで公開しなくなったこと、学術機関にも質問票を提供できないことを告知し、個別の商用コンサルティング案件として問い合わせるよう案内しています。
- SBIの公式サイトに接続できない:2026年10月14日に確認した時点で、strategicbusinessinsights.com はDNSの名前解決に失敗し、接続できませんでした。現行の案内は、SRIの沿革ページにある「SBIが提供している」という記述と、アーカイブでしか確認できません。
- JDSはJapan-VALSのリサーチプログラムを実施していない:SBIの日本語資料を公開している株式会社ジェーディーエス(JDS)は、SBIと共同で1998年に「プロダクト診断プログラム」を始め、毎年9月に実査していました。しかし同社のJapan-VALSのページ(2025年1月のアーカイブ)には「現在、Japan-VALS™ を活用したリサーチプログラムは、実施しておりません」とあり、2026年10月時点ではページ自体が表示されません。
2026年10月時点で、日本版VALSによる分類を申し込める公開の窓口は、上の2社のどちらにも見当たりません。そのため、公開資料にある3方向と10区分はターゲット仮説と訴求の言葉を考える枠組みとして使い、個人の分類までは求めないのが現実的です。自社顧客を実際に分類したいなら、LOVの9項目かAIOの設問を自社アンケートに組み込み、購買データと突き合わせます。自社データ側の切り方は顧客セグメンテーションとは?分類軸・RFM分析・事例でわかる進め方が参考になります。調査設計から施策までを外部に任せる場合は、Webマーケティング戦略の支援のように、ターゲット設計と施策を一続きで扱える体制を選ぶと、分類が施策に使われないまま終わる事態を避けられます。
VALSをマーケティング施策に落とす手順
日本版VALSの構造は、次の順で施策へ落とすと無駄が出にくくなります。公開資料で進められるのは、心理機軸の選択と訴求・波及に関する仮説づくりまでです。手順2・3の検証には、自社市場の購買意向や媒体接触などの追加調査が必要です。
1. 自社商品がどの心理機軸に応えるかを決める。 伝統・達成・自己表現のうち、自社商品への購買理由と結びつく軸を仮説として選びます。心理機軸を決めておくと、誰のどの購買理由に応える訴求なのかを具体化できます。時短を訴求する商品なら「時間効率重視」を含む達成軸、限定色やコラボを軸にするなら「ファッション重視」を含む自己表現軸です。
2. アーリーアダプター層を初期ターゲットの候補として検証する。 選んだ軸に対応するのは、伝統尊重派2.5%、社会達成派2.5%、自己顕示派4.2%のいずれか1つです。構成比だけでは対象人数も媒体も決まらないので、購買意向と媒体接触を調べてから集中投下するかを判断します。
3. アダプター層への波及をあらかじめ設計に入れる。 各アーリーアダプターの後ろには、対応するアダプター層(伝統派6.4%、社会派10.4%、自己派9.6%)が控えています。2020年の構成比では初期層の倍以上の規模ですが、自社市場で波及が起きるかを確かめてから予算を組みます。
4. 訴求メッセージを心理機軸の言葉に置き換える。 伝統軸なら「恥ずかしくないか」に応える保証や実績、達成軸なら「何をすべきか」に応える基準や比較、自己表現軸なら「何したい気分か」に応える体験や新しさを前に出します。
5. 実データと突き合わせる。 構成比はJNNデータバンク2020年の調査値で、自社顧客にも同じ分布が当てはまるとは限りません。LOVやAIOの設問で取った自社顧客の傾向を購買データと照合し、ずれがあればターゲット仮説を見直します。
手順4と5の意味は、前掲の1993年の論文にある分析例がよく示しています。1990年11〜12月の全国調査(18歳以上70歳未満、有効回収5,599票)で、その年の夏に出たビールの新製品「キリン・ファインピルスナー」と「サントリー・ジアス」の利用をグループ別に見たところ、利用が多かったのは自在派、自己重視派、同調重視派でした。著者らは、広告から読み取れる訴求点(環境問題、落ち着きと品質)は良識派向けであり、自己重視派は訴求点ではなく新しさや珍しさに引かれて飲んでいたと解釈しています。訴求した軸と実際に買った層がずれていたわけで、分類を実データと突き合わせなければこのずれは見えません。
VALSを使うべきでない場面
VALSは万能な枠組みではありません。次の条件に当てはまるなら、無理に使わないほうが結果が出ます。
購買の予測そのものが目的の場合。 心理的な類型は、それだけで購買を当てる道具ではありません。1964年にHarvard Business Review 誌で非デモグラフィックなセグメンテーションの考え方を示したDaniel Yankelovich は、David Meer とのHarvard Business Review 2006年2月号の論文で、サイコグラフィックな類型は人々のライフスタイルや自己像の一面を捉えるかもしれないが「no better than demographics at predicting purchase behavior」(購買行動の予測ではデモグラフィックより優れているわけではない)と述べています。VALSは訴求の言葉や商品の見せ方を考えるのに使い、誰が買うかの予測は購買履歴や行動データに任せます。
対象市場に該当する国版がない場合。 日本版の伝統軸は「日本の伝統・しきたり重視」「年長者を敬う」という日本固有の項目で定義されており、モデルを他国へ移すことは想定されていません。海外市場では、その国の版がなければAIOで独自の軸を作ります。
BtoBの購買を分析したい場合。 VALSは個人の消費行動を説明する枠組みで、資源も個人の属性と心理的特性で捉えています。組織の購買は稟議や与信、既存取引の有無で決まるため、個人の心理機軸では説明しきれません。企業属性から担当者まで層を分けて切る方法はBtoBのセグメンテーションとは?企業属性から購買担当者まで5層で切る進め方で扱っています。
短期の刈り取り施策を設計したい場合。 SBIの日本語資料はVALSを、心理に遡って行動の裏にある「なぜ」を明らかにする枠組みと位置づけています。いま買う直前の人を見つける道具ではないので、今月の獲得数を動かしたいなら検索意図や行動履歴に基づく設計のほうが直接的です。
よくある質問
日本版VALS(Japan-VALS)は何セグメントに分かれますか?
10セグメントです。革新創造派、伝統尊重派、社会達成派、自己顕示派、伝統派アダプター、社会派アダプター、自己派アダプター、同調派、雷同派、つましい生活派の10区分で、SBIの日本語公式資料に構成比つきで掲載されています。9タイプとする解説もありますが、公式資料の区分は10です。
VALSとは何の略ですか?
初版ではValues and Lifestyles(価値観とライフスタイル)の略でした。改訂後はこの展開形を使わず、消費者の心理的特性と属性から市場を分ける枠組みのブランド名としてVALSを残しています。VALS とJapan-VALS はSBIの登録商標です。同じ綴りの音楽グループやスイスの地名、AIモデルの評価サイトのVals AIとは関係がありません。
VALS2とVALSは何が違いますか?
VALS2は1989年の改訂版を指す呼び方で、1978年の初版9類型を「主要動機と資源」の2軸8タイプへ組み替えたものです。提供元は現在この改訂版を単に「VALS」と呼んでいるため、いま「VALS」と言えば8タイプを指します。
AIOアプローチとは何ですか?
活動(Activities)・関心(Interests)・意見(Opinions)の3側面を質問紙で聞き、回答からライフスタイルを分類する手法です。Wells とTigert がJournal of Advertising Research 第11巻第4号(1971年)pp.27-35 で示しました。既定の型に当てはめるVALSと違い、分類軸を調査結果から作ります。
VALS分析は自社でできますか?
個人をVALSのタイプに分類するところまでは、自社だけではできません。判定に使う質問票をSBIが一般公開しておらず、日本の窓口だった調査会社JDSも2025年1月時点でJapan-VALSのリサーチプログラムを実施していないと案内しているためです。公開資料の3方向と10区分をターゲット仮説に使い、自社顧客の分類はLOVの9項目やAIOの設問を自社アンケートに組み込んで行います。