エグゼクティブサーチは、社長や役員、事業部長といった経営幹部のポストに合う人を、専門会社が転職市場の外まで探しに行く採用手法です。登録した求職者の中から候補者を選ぶ人材紹介とは探し方が違い、着手時から費用が発生するリテイナー型の契約も使われます。この記事では、定義と人材紹介・ヘッドハンティングとの違い、リテイナー型の報酬水準、日本の職業安定法が定める手数料と返戻金のルール、依頼から入社までの流れを、法令と大手ファームの公式開示をもとに整理します。
まとめ:エグゼクティブサーチの要点
- 対象は経営幹部と上級職です。転職活動をしていない人にも、サーチファームのコンサルタントが直接声をかけます。
- 候補者の雇用をあっせんして報酬を受け取るには、職業安定法第30条の有料職業紹介事業の許可が必要です。
- リテイナー型は着手時に報酬の一部を払い、1社に専属で任せる契約です。成功報酬型は採用が決まったときだけ払い、複数社に並行して依頼できます。
- 米Korn Ferryは、サーチ報酬を採用者の推定初年度現金報酬のおおむね3分の1と開示しています。
- 着手金や年収の数十%を報酬とする料金設計は、上限制手数料ではなく、厚生労働大臣に届け出た手数料表に基づく届出制手数料です。
- 候補者母集団が求人で集まるポジションや、要件が社内で固まっていない段階では、費用に見合いません。
エグゼクティブサーチの定義と対象ポジション
エグゼクティブ(executive)は英語で経営幹部・役員を指す語で、エグゼクティブサーチはその層に絞った人材探索サービスです。エグゼクティブサーチ会社の国際的な業界団体AESCは、リテイナー型のエグゼクティブサーチを「経営幹部および上級職への人材配置に厳密に焦点を当てるもの」と説明しています。
対象になるのは、CEO・CFO・CTOなどのCxO、事業部門のトップ、社外取締役、特定分野の責任者です。依頼を受ける専門会社をサーチファーム、候補者を探して口説く担当者をヘッドハンターやサーチコンサルタントと呼びます。
探し方の特徴は、登録者データベースに頼らない点にあります。競合や隣接業界で同等の役割を担う人をリストアップし、転職を考えていない人にも接触して、関心を持った人だけを企業に推薦します。社内で後継者を育てるサクセッションプランが間に合わないとき、外部から招く手段として使われます。
日本の法律上の位置付け(有料職業紹介事業の許可)
職業安定法は、職業紹介を「求人及び求職の申込みを受け、求人者と求職者との間における雇用関係の成立のあっせんをすること」と定義しています。幹部候補の雇用をあっせんするエグゼクティブサーチはこれに当たり、同法第30条第1項は「有料の職業紹介事業を行おうとする者は、厚生労働大臣の許可を受けなければならない」と定めています。厚生労働省の職業紹介事業に関する指針も、いわゆるスカウト行為を事業として行う場合は職業紹介事業の許可等が必要だと明記しています。一方、社外取締役のように雇用契約を結ばない就任の仲介は、この定義から外れる場合があります。
業界団体としては、許可を受けた有料職業紹介事業者を会員とする一般社団法人日本人材紹介事業協会(JESRA)があります。英語名にはエグゼクティブサーチの語が入っていますが、会員はエグゼクティブサーチ専業に限りません。
人材紹介・ヘッドハンティングとの違い
雇用をあっせんして報酬を受け取る点では、どちらも有料職業紹介です。違いは、主な対象層、候補者の探し方、報酬の払い方にあります。
| 比較軸 | エグゼクティブサーチ | 登録型の人材紹介 |
|---|---|---|
| 主な対象 | 経営幹部・上級職 | 一般職〜管理職 |
| 候補者の母集団 | 転職市場外を含む業界全体 | 自社に登録した求職者 |
| 探し方 | リサーチと直接アプローチ | データベース照合 |
| 主な契約 | リテイナー型(専属) | 成功報酬型 |
| 費用の発生 | 着手時から分割 | 入社決定時のみ |
| 他社との並行依頼 | 原則しない | できる |
人材紹介は、登録者の中に条件の合う人がいればリサーチを挟まずに推薦が届き、費用も入社が決まるまで発生しません。ポジションの候補者が転職市場に十分いるなら、人材紹介を先に使うのが合理的です。
ヘッドハンティングとの違いは用語の範囲
ヘッドハンティングは、他社で働く人を引き抜く行為全般を指す日本での通称です。エンジニアや研究者の引き抜きにも、企業の役員が知人に直接打診する場合にも使われます。エグゼクティブサーチはその中で、専門会社が契約に基づいて経営幹部を探すサービスを指す語です。手法は重なるため、社名やサービス名にどちらの語が使われているかでは区別できません。依頼先を比べるときは、扱う職位の範囲と、リテイナー型か成功報酬型かを確認します。
リテイナー型とコンティンジェンシー型の違い
サーチファームの契約は、リテイナー型とコンティンジェンシー型(成功報酬型)に分かれます。AESCの解説記事では、リテイナー型は「関係の開始時にコンサルティングフィーまたはリテイナーを請求」し、サーチ会社は専属で業務を行います。コンティンジェンシー型の紹介会社は採用の成立に基づいて報酬を受け取り、企業は複数の紹介会社を並行して使えます。
リテイナー型では採用の成否にかかわらず着手費用が発生しますが、返金の有無や条件は契約で確認する必要があります。その代わり、ファームは母集団の設計、候補者リスト、アプローチ結果を報告しながら1つの案件に工数を割きます。成功報酬型は、ファームから見ると決まりそうな候補者から出す動機が働くため、候補者が数人しかいない希少ポジションでは探索の深さが落ちやすくなります。
判断の目安ははっきりしています。後任が社外に漏れては困るCEOやCFO、候補者が国内に数十人しかいない専門職はリテイナー型にします。部長クラスで候補者が一定数いるなら、成功報酬型のサーチや人材紹介で足ります。
エグゼクティブサーチの費用の仕組み
海外大手の報酬水準は初年度現金報酬の約3分の1
米Korn Ferryは、米SECに提出した2026年4月期の年次報告書で、エグゼクティブサーチとプロフェッショナルサーチの報酬収益を「採用者の推定初年度現金報酬のおおむね3分の1」と開示しています。支払い方については、米Heidrick & Strugglesが、リテイナーと間接費を契約受諾月から3か月にわたり3分の1ずつ請求するのが通例だと開示しています。
たとえば初年度の現金報酬(基本給と賞与)の見込みが2,400万円のCFOなら、3分の1に当たる約800万円が報酬の基準です。Korn Ferryの開示では、これに間接費をまかなう一定割合が上乗せされ、実際の報酬が見込みを上回った場合は差額に応じた追加報酬(アップティック)も請求されます。候補者の報酬水準を見積もるときは、CFOの年収相場のような職種別の水準を先に押さえておくと、予算の桁を外しません。国内のファームの料率は、各社が届け出た手数料表で確認します。
日本の手数料規制は上限制と届出制の2種類
職業安定法第32条の3第1項は、有料職業紹介の手数料を2つの方式に限っています。
- 上限制手数料:職業安定法施行規則の別表で上限が決まっています。紹介手数料の上限は、原則として支払われた賃金額の11.0%(免税事業者は10.3%)です。期間の定めのない雇用で6か月を超えて雇用された場合は、6か月分の賃金(臨時の賃金等を除く)の14.8%と、6か月分の賃金総額の11.0%のいずれか大きい額が上限になります。求人受付手数料は1件710円(免税事業者は660円)が上限です。
- 届出制手数料:あらかじめ厚生労働大臣に届け出た手数料表の額を徴収できます。
上限制は、年収に料率を掛ける方式ではなく、実際に支払われた賃金と雇用期間から上限額を計算する方式です。着手金や、年収の数十%を成功報酬とする料金設計は、厚生労働省の手数料に関する資料にある届出制手数料の手数料表に基づいて設定されます。契約前に、そのファームの手数料表に着手金・中間金・成功報酬の各項目が載っているかを確認してください。
返戻金制度と早期離職の情報の確認方法
職業安定法第32条の13と施行規則第24条の5により、有料職業紹介事業者は返戻金制度の有無と内容を求人者に明示しなければなりません。さらに第32条の16第3項により、返戻金制度に関する情報をインターネットで提供する義務があります。厚生労働省の人材サービス総合サイトでは、事業者ごとに紹介による就職者数、そのうち無期雇用で就職後6か月以内に離職した人数(解雇による離職を除く)、返戻金制度の有無を見られます。
リテイナー型の着手金は候補者が見つからなくても発生する費用なので、返戻の対象に含まれるかは特に確認が要ります。どの時点までの退職が対象か、会社都合の退職を除くか、返金ではなく再サーチで対応するかも契約ごとに違うため、規定の条文を読んで確かめます。
依頼から入社までの流れ
- 要件定義と契約:ポジションの役割、任期中に期待する成果、報酬レンジ、着任時期を決め、手数料表と秘密保持の条件を確認して契約します。
- 母集団の設計とリサーチ:候補者がいそうな企業・業界を決め、ファームが実名の候補者リストを作ります。
- アプローチと面談:ヘッドハンターが候補者に接触し、関心を示した人と面談して経歴と志向を確かめます。この段階では企業名を伏せることが多くあります。
- 推薦と企業面接:企業は推薦書を見て面接する人を選びます。役員面接を重ねるポジションでは、面接の間隔が空くと他社に決まるため、日程を先に押さえておきます。
- オファーと条件交渉:年俸、賞与、株式報酬、着任日をファームが仲介して詰めます。
- 入社とフォロー:入社前後の不安をファームが聞き取ります。厚生労働省の指針により、紹介した会社は自らの紹介で無期雇用された人に対し、就職日から2年間は転職を勧奨できません。
エグゼクティブサーチが向く採用・向かない採用
向くのは、候補者が転職市場にほぼいない採用です。海外M&Aの実務経験があるCFO、特定領域の研究開発責任者、現任者に知られずに探す後任など、公募では応募が来ないか、公募自体ができないポストがこれに当たります。
次の3つのどれかに当てはまるなら、依頼を見送るべきです。
- 求人で候補者が集まるポジション:部長・課長クラスで同業からの応募が見込めるなら、初年度報酬の3分の1を払う理由がありません。
- 役割と権限が社内で決まっていない:経営陣の間で求める人物像が割れたままだと、ファームは推薦の基準を持てず、着手金だけが消えます。
- 常勤でなくてよい役割:資金調達や上場準備など期間の決まった財務課題なら、社外CFOのような外部の専門家で済む場合があります。
サーチファームの選び方と主要ファーム
サーチファーム契約前の許可・費用・担当実績の確認項目
- 許可番号:有料職業紹介事業の許可番号を、厚生労働省の人材サービス総合サイトで照合します。
- 手数料表と返戻金制度:着手金の額と支払い時期、返戻の条件を書面で確認します。
- 担当者の実績:同じ職種・同じ規模の企業での決定実績を、担当予定のコンサルタント本人について聞きます。
- 引き抜き対象外の範囲:自社の取引先や、そのファームの既存顧客から候補者を探せるかを確認します。探せない範囲が広いと母集団が細ります。
海外大手5社の東京拠点と事業区分
海外のエグゼクティブサーチ大手として名前が挙がる5社は、いずれも東京にオフィスを置いています。
| ファーム | 東京オフィス | 公式に掲げる主な事業 |
|---|---|---|
| Korn Ferry | 千代田区丸の内 | サーチ、採用代行(RPO)ほか |
| Spencer Stuart | 千代田区丸の内 | サーチ、リーダーシップ・コンサルティング |
| Heidrick & Struggles | 港区愛宕 | サーチ、コンサルティング |
| Egon Zehnder | 千代田区丸の内 | CEO後継者計画、経営幹部の外部招聘ほか |
| Russell Reynolds Associates | 港区赤坂 | サーチ、経営人材の評価・育成 |
各社ともサーチだけでなく、経営人材の評価(エグゼクティブアセスメント)や後継者計画の支援を事業に含めています。国内で「エグゼクティブサーチ」を検索すると、東京エグゼクティブ・サーチ、リクルートエグゼクティブエージェント、JACリクルートメントなど国内勢のサービスページも上位に並びます。依頼先は、同種の役員採用の担当実績、候補者を探せる地域、海外本社との調整能力で絞ってください。国内企業か外資系企業かだけで、国内勢と海外大手を振り分けるのは避けるべきです。
エグゼクティブ採用の失敗要因と予防策
- 要件が途中で変わる:推薦が出てから経営陣が別の人物像を言い出すと、リサーチをやり直すことになります。契約前に、必須条件と妥協できる条件を役員間で合意しておきます。
- 意思決定が遅い:経営幹部の候補者は複数社から声がかかっています。面接官の日程と社内決裁の経路を、推薦が届く前に確保しておきます。
- カウンターオファーで辞退される:現職の会社が昇給で引き止めることがあります。内定前に、ヘッドハンター経由で候補者の引き止め状況を聞き出しておきます。引き止めを受けた側の実態は退職の引き止めとカウンターオファーの調査データで整理しています。
- 採用計画が漏れる:現任者の後任探しが社内に知れると、組織が動揺します。社内で知る人を最小限にし、ファームとの秘密保持契約で候補者に企業名を明かす時点を決めておきます。
よくある質問
エグゼクティブとはどういう意味ですか?
英語のexecutiveで、企業の経営幹部や役員を指します。エグゼクティブサーチは、この層に絞って外部から人材を探すサービスのことです。
エグゼクティブサーチの費用はいくらですか?
米Korn Ferryは、サーチ報酬を採用者の推定初年度現金報酬のおおむね3分の1と開示しています。国内のファームは届出制手数料の手数料表で料率を決めているため、正確な額は各社の手数料表で確認します。
ヘッドハンターからの連絡が本物か確かめる方法はありますか?
候補者に声をかけて転職をあっせんし、報酬を得る事業には有料職業紹介事業の許可が必要です。社名と許可番号を聞き、厚生労働省の人材サービス総合サイトで事業者の許可を照合できます。ただし、番号の一致だけでは連絡者本人の在籍は確認できないため、公式サイトに掲載された窓口へ別途問い合わせてください。
リテイナー型と成功報酬型はどちらを選べばよいですか?
候補者が少なく、採用を社外に知られたくないCxOの採用はリテイナー型が向きます。候補者が一定数いる部長クラスなら、成功報酬型を先に比較するのが合理的です。ただし、採用時の総額は各社の料率や追加費用によって決まります。
採用した人がすぐ辞めたら費用は戻りますか?
有料職業紹介事業者は返戻金制度の有無と内容を明示する義務があります。返戻の対象期間や、着手金を含むかどうかは契約ごとに違うため、契約前に手数料表と返戻金規定を確認してください。