コンピテンシーアセスメントは、成果を上げる人に共通する行動特性(コンピテンシー)を基準に、社員や応募者がその行動をどの程度とれるかを測る手法です。測り方は大きく4つあり、行動面接(BEI・構造化面接)、アセスメントセンター、360度評価、適性検査・自己診断ツールのどれを使うかで、得られる情報の確からしさが大きく変わります。
この記事では、各手法の予測精度を人事心理学のメタ分析で比べたうえで、採用・昇進・育成の用途別の組み合わせ方、導入の手順、結果を処遇に使うときの注意点を整理します。評価シートの書き方や項目の一覧はコンピテンシー評価の項目例とレベル定義の記事で扱っています。
まとめ:コンピテンシーアセスメントの要点
- コンピテンシーアセスメントは、行動特性を基準に人を測定・診断する手法です。処遇の判定までを含む人事評価とは役割が違い、育成だけを目的に単独で実施することもあります。
- 業績との相関(基準関連妥当性)は、Sackett et al.(2022)の再推定で構造化面接0.42、アセスメントセンター0.29(2023年の補正見直しで0.33)、非構造化面接0.19です。構造化面接の方が業績との平均相関は高いものの、合否判定の正確さが倍になるという意味ではありません。
- 360度評価は、同じ立場の評価者どうしの一致度が上司0.50・同僚0.37・部下0.30(Conway & Huffcutt 1997)と高くありません。処遇の判定より育成の材料に向く手法です。
- 採用・昇進の判定には構造化面接かアセスメントセンターを軸にし、360度評価や自己診断ツールは育成用の材料に回すのが基本です。
- 結果は個人情報です。利用目的を特定し、取得方法に応じて通知・公表または事前明示を行います。目的の範囲を超える利用には、法定の例外を除き事前の本人同意が必要です(個人情報保護法17・18・21条)。
まず、アセスメントで測る内容と、人事評価への使い方を区別します。
コンピテンシーアセスメントの意味と人事評価との違い
「コンピテンシー」と「アセスメント」の語義
コンピテンシーは、職務で高い成果を生む人に一貫して見られる行動特性を指します。知識やスキルだけでなく、動機や自己イメージまで含む概念で、定義の原典と氷山モデルはコンピテンシーの意味とスキルとの違いで解説しています。
アセスメント(assessment)は英語で「査定・評価」を意味し、人事の文脈ではあらかじめ決めた基準に照らして能力や特性を測ることを指します。看護や福祉の「アセスメント」も、対象者の状態を情報収集して見立てるという点で同じ使い方です。
処遇を決める人事評価との違い
人事評価は、評価期間の能力や業績を把握し、昇給・賞与・昇格に加えて配置や育成にもつなげる仕組みです。コンピテンシーアセスメントは、その判定材料にもなりますが、本来は「この人がどの行動をどこまでとれるか」を測って、採用・配置・育成の判断に使う測定の工程です。
国家公務員の人事評価では、能力評価を「評価期間において現実に職員が職務遂行の中でとった行動」を評価項目ごとに照らして行うと定めています(人事評価の基準、方法等に関する政令 第4条第3項)。行動を基準にする点はコンピテンシーアセスメントと同じで、国家公務員法第58条は昇任をこの人事評価に基づいて行うと定めています。ただし評価するのは現職で実際にとった行動です。まだ担っていない役割での行動を見たいときに、対象職務を模した演習で観察するアセスメントセンターのような測定を足します。
評価制度全体の中での位置づけは人事評価制度の3本柱と評価手法の種類を参照してください。
コンピテンシーアセスメントの4つの測定手法と精度
測定手法は、職務業績との関連を示す研究値も参考にして選びます。Sackett, Zhang, Berry & Lievens(2022, Journal of Applied Psychology)は、選抜手法の基準関連妥当性(測定得点と職務業績との関連。入社後を追跡する研究だけでなく、在職者を同時期に測る研究も含む)を再推定し、従来引用されてきた Schmidt & Hunter(1998)などの値は範囲制限の補正をかけすぎて過大だったと結論づけました。以前の上位手法の多くは上位にとどまったものの、平均値は0.10〜0.20ほど下がりました。
| 手法 | Sackett 2022 | Schmidt & Hunter 1998 | 主に測れるもの |
|---|---|---|---|
| 構造化面接 | 0.42 | 0.51 | 過去の行動・仮想場面への対応 |
| 職務知識テスト | 0.40 | 0.48 | 業務知識 |
| ワークサンプル | 0.33 | 0.54 | 実務の再現での出来 |
| 認知能力テスト | 0.31 | 0.51 | 推論・処理の力 |
| アセスメントセンター | 0.29 | 0.37 | 演習中の行動 |
| 誠実性(性格検査) | 0.19 | 0.31 | 自己申告の傾向 |
| 非構造化面接 | 0.19 | 0.38 | 面接官の印象 |
出典:Sackett et al.(2022)Table 3。値は測定誤差等の補正を施した平均相関係数で、職種や実施条件によって異なります。個別の選考の正答率ではありません。
この表から言えるのは、同じ「面接」でも質問と採点を決めておくかどうかで0.42と0.19に分かれるということです。また、同じ論文は旧推定で0.49とされていた同僚評価(peer ratings)を、元データが業績ではなく特定の性格特性の評定だったとして比較対象から外しています。この旧推定値0.49を、360度評価の業績予測力の根拠として流用することはできません。
行動面接の聞き取りと構造化面接の採点基準
BEI(行動結果面接)は、過去に成果を上げた場面や失敗した場面を一つ選んでもらい、そのとき何を考え、誰に何を言い、どう動いたかを時系列で聞き取る面接です。マクレランドらが職務に必要なコンピテンシーを特定するために開発した方法で、今は採用・昇進面接にも使われます。
精度を左右するのは構造化です。全候補者に同じ質問を同じ順で聞き、回答をあらかじめ決めた行動指標で採点します。追加質問にも共通のルールを設け、候補者間で質問内容と採点基準をそろえます。質問の作り方と採点の進め方はコンピテンシー面接の定義と目的で解説しています。
アセスメントセンターの演習と国際指針の必須要素
アセスメントセンターは、グループ討議、インバスケット(未処理の書類やメールを制限時間内にさばく演習)、ロールプレイ、ケース分析の発表といった職務を模した演習を受検者に行わせ、訓練を受けた複数のアセッサーが行動を観察・記録して評価する方法です。日本では管理職登用前の「アセスメント研修」として知られています。
国際タスクフォースの指針(Guidelines and Ethical Considerations for Assessment Center Operations, 2015, Journal of Management)は、アセスメントセンターと名乗るための必須要素を10個定めています。職務分析などによる行動基準の特定、行動の分類、複数の評価要素、行動基準と演習の対応表(ディメンション×演習マトリクス)、シミュレーション演習、複数のアセッサー、アセッサー訓練、行動の記録と採点、データの統合、手続きの標準化です。
この指針で見落とされやすい規定が2つあります。一つは、選択肢から選ばせる形式(多肢選択式テスト、状況判断テスト、一部のコンピューター版インバスケット)は、精度が高くてもシミュレーション演習に数えないことです。受検者が自分で行動を組み立てて示すことが条件になっています。もう一つは、選抜・昇進に結果を使う場合、受検者の現在の直属上司を、その部下の評価に加えないよう求めていることです。社内の管理職をアセッサーにするなら、自部署の部下を担当させない割り当てが要ります。
2022年の平均相関の再推定値は0.29です。同じ著者らの2023年論文では、アセスメントセンターが主に管理職に使われることから管理職の業績評価の信頼性で補正を見直し、0.33(ワークサンプルと並ぶ4位)に更新しています。構造化面接よりは低いものの、まだ担っていない役割での行動を演習で直接見られるため、管理職への昇進判定では有力な選択肢になります。演習の開発と、複数のアセッサーを丸一日単位で拘束する手間がかかる点は織り込んでおく必要があります。
360度評価の評価者間信頼性と自己・他者評価の一致度
360度評価は、上司・同僚・部下・本人など立場の違う複数の評価者から、同じ行動項目について評定を集める方法です。評価者の立場によって評定の安定性が大きく違う点に注意が要ります。Conway & Huffcutt(1997)のメタ分析では、同じ立場の評価者どうしの一致度(評価者間信頼性)は上司0.50、同僚0.37、部下0.30でした。部下の評定ほど、誰が評価者に当たったかで結果が動きます。
自己評価と他者評価の一致も低めです。Harris & Schaubroeck(1988)は、同僚と上司の評定の相関0.62に対して、自己と上司は0.35、自己と同僚は0.36と報告しています。本人の自己評価が周囲とずれること自体は、育成で使うときには気づきの材料になります。ただ、評価者の数が少ないまま点数を処遇に使うと、評価者の組み合わせ次第で昇格の可否が変わってしまいます。
適性検査・自己診断型ツールの用途と解釈上の制約
市販の適性検査やオンラインのコンピテンシー診断の多くは、質問紙への自己回答で傾向を測ります。性格検査の誠実性の平均妥当性は0.19(全体値)ですが、この値だけで個々の検査の合否判定への適否は決まりません。採用で使うなら面接で確かめる論点を絞るための材料にとどめ、育成で使うなら本人の自己理解のきっかけとして返すのが現実的な使い方です。
受検者が「望ましい回答」を選びやすい点にも注意が必要です。他の手法と結果が食い違ったときは、測る特性や対象期間、回答状況を確認し、自己診断だけを一律に低く扱わないようにします。
用途別の手法の組み合わせ
4つの手法はコストと精度、本人への説明のしやすさが違うため、用途ごとに軸を決めます。
| 用途 | 軸にする手法 | 補助に回す手法 |
|---|---|---|
| 新卒・中途採用 | 構造化面接 | 適性検査(論点の絞り込み) |
| 管理職への昇進判定 | アセスメントセンター | 構造化面接・上司評価 |
| 次世代リーダーの選抜 | アセスメントセンター | 360度評価(育成課題の把握) |
| 能力開発・研修設計 | 360度評価 | 自己診断ツール |
| 配置転換・タレントマネジメント | 過去の評価履歴+構造化面接 | 360度評価 |
判断の基準は一つで、結果が本人の処遇を左右するなら、行動を直接観察するか、決まった質問で行動事実を聞く手法を軸にすることです。育成目的なら精度より本人が納得して行動を変えられるかが大事になるため、360度評価の価値が上がります。測った結果を人材データとしてどう蓄積して配置に使うかはタレントマネジメントの目的と導入手順で扱っています。
コンピテンシーアセスメントの導入手順
利用目的・結果の共有範囲・保存期間の決定
最初に決めるのは「結果を何に使うか」です。採用・昇進の判定に使うのか、育成の材料に使うのかで、選ぶ手法も、本人に結果を返す範囲も、データの保存期間も変わります。アセスメントセンターの国際指針も、目的を予測(選抜・昇進)、診断(強みと育成課題の特定)、育成(演習そのものを研修として使う)の3つに分け、目的ごとに設計・検証するよう求めています。
外部の診断ツールやアセスメント研修を使う場合は、評価サービスの国際規格 ISO 10667(2020年版)の役割分担が参考になります。依頼する組織(クライアント)向けの第1部は、評価が必要な理由と根拠、結果の利用条件、評価方法の選択、結果と報告書へのアクセス・利用・保存についての責任をクライアントに課しています。何のために測り、結果を誰がどこまで見られるかを決めるのは、委託先ではなく依頼する側です。
測る行動(コンピテンシーモデル)の確定
次に、対象の職務で成果を分けている行動を、評価者が1回の観察で見分けられる数に絞って定義します。高業績者と平均的な社員へのBEIで行動の違いを洗い出すのが原型の作り方で、項目ごとに「どの行動が見られたら何点か」の行動指標まで書き下ろします。項目一覧の例とレベル定義の作り方はコンピテンシー評価の項目例とレベル定義にまとめています。
手法の選定と評価者の訓練
前章の用途別の表で手法を決めたら、評価者を訓練します。面接官やアセッサーには、行動の観察・記録・採点を練習させます。2015年の国際AC指針は、アセッサーが本番の評価を担当する前に、個人・集団として評価能力と信頼性を示すことも求めています。評価者の誤りの種類と訓練の研究は人事評価エラーの11種類と評価者訓練の研究データで解説しています。
試行と結果の検証
本番の前に一部の部署で試行し、評価者間で採点がどれだけ一致するかと、得点が実際の業績評価とどう対応するかを確認します。社員数が少なく統計的な検証が難しい場合でも、高業績者と平均的な社員で得点差が出ているかは必ず見ます。差が出ない場合は、対象人数や業績評価の妥当性、測定誤差も点検し、項目の修正が必要かを判断します。
フィードバックと再測定
2015年の国際AC指針は、フィードバックの時期・方法・内容、育成支援の仕組み、再評価の手続き、結果の保存期間を、実施前に書面で受検者へ知らせるよう求めています。改善目標は全項目を一度に掲げず、本人と優先順位を決めて取り組める数に絞ります。再測定は同じ手法・同じ基準で行い、前回との差を項目ごとに見ます。
結果を処遇に使うときの注意点
フィードバックが成績を下げる場合
360度評価などの結果を返せば行動が良くなる、とは限りません。Kluger & DeNisi(1996)はフィードバック介入の研究131報・607の効果量をメタ分析し、平均ではd=0.41の改善があった一方、効果量の38%超はマイナスで、フィードバックを受けない比較条件より成績が低い効果が報告されています。
360度フィードバックに絞った Smither, London & Reilly(2005)の24の縦断研究のメタ分析でも、フィードバック後の改善は測定誤差を補正した平均効果量で部下評価0.15、同僚評価0.05、上司評価0.15と小さな値でした。結果を返すだけで行動が変わると期待せず、上司との面談で次に変える行動を決め、次回の測定で変化を確かめるところまでを一つの運用として設計します。360度評価の点数をそのまま昇給・昇格の計算式に入れるのは避けた方が安全です。
個人情報としての扱いと目的外利用
アセスメントの結果は、特定の個人を識別できる個人情報です。個人情報保護法は、取り扱う前に利用目的をできる限り特定すること(第17条)、本人の同意なく特定した目的の範囲を超えて扱わないこと(第18条)、取得後速やかに利用目的を本人に通知または公表すること(事前公表済みの場合等を除く)、本人から書面・電磁的記録で直接取得する場合は原則として事前に明示すること(第21条)を求めています。
実務で問題になるのは、育成目的で実施した360度評価や診断ツールの結果を、あとから昇格判定や配置転換の根拠に転用するケースです。最初に「育成のため」とだけ示して集めた結果を処遇に使うのは、特定した利用目的の範囲を超える扱いになりやすく、法定の例外を除いて本人の同意が要ります。国際AC指針も、当初告知した目的以外に結果を使い、それが受検者に影響する場合は、本人に知らせて同意を得なければならないとしています。同意を得られても、転用が知られれば次回の360度評価で回答者が率直に書きにくくなる点は考えておく必要があります。
導入を見送るべき条件
次のどれかに当てはまる組織では、コンピテンシーアセスメントを始める前に別の手当てが要ります。
- 評価者を訓練する時間が確保できない:構造化しないまま面接で測ると、研究で0.42とされた構造化面接の精度を前提にできません。
- 結果を処遇に使うのか育成に使うのかを決められない:本人への説明と同意の取り方が決まらず、回答の質が下がります。
- 職務変更に合わせてモデルを更新する体制がない:現状と合わない行動基準で判定するおそれがあります。
よくある質問
コンピテンシーアセスメントとは何ですか?
成果を上げる人に共通する行動特性を基準にして、社員や応募者がその行動をどの程度とれるかを測る手法です。行動面接、アセスメントセンター、360度評価、適性検査・自己診断ツールの4つの方法があり、採用・昇進・育成の判断材料に使います。
アセスメントと評価の違いは?
アセスメントは基準に照らして能力や特性を測ることで、評価はその結果をもとに処遇などの判定を下すことを含みます。人事評価は評価期間の能力や業績を処遇・配置・育成に結びつける仕組みで、コンピテンシーアセスメントはその判定材料にもなる測定です。育成だけを目的に単独で実施することもあります。
アセスメント研修とは?
管理職の昇進候補者などを対象に、グループ討議やインバスケットなどの演習を行い、訓練を受けたアセッサーが行動を観察して評価する研修です。研究上はアセスメントセンターと呼ばれる手法で、業績との相関の再推定値は0.29(2022年)、補正を見直した2023年の値は0.33です。
コンピテンシーアセスメントのデメリットは?
行動の基準づくりと評価者の訓練に手間がかかることです。面接官の印象だけで採点すると、候補者を共通の基準で比較できなくなります。また、育成目的の結果を処遇に転用すると回答者が本音を書かなくなるため、使い道を最初に決めておく必要があります。
コンピテンシーアセスメントの対策はできますか?
行動面接やアセスメントセンターで見られるのは過去と演習中の具体的な行動なので、模範解答を覚えても点は上がりにくい仕組みです。受ける側ができる準備は、成果を上げた場面と失敗した場面を一つずつ選び、状況・自分の役割・とった行動・結果を時系列で説明できるように整理しておくことです。