CHROとは何か?Chief Human Resource Officerとも呼ばれる最高人事責任者の定義

目次
- 1 CHROとは何か?Chief Human Resource Officerとも呼ばれる最高人事責任者の定義
- 2 CHROの役割とは:人材戦略の統括から組織文化醸成まで、企業を支える使命を詳しく解説
- 3 CEO(最高経営責任者)とCHRO(最高人事責任者)の違い:経営トップと人事トップの役割・権限を徹底比較
- 4 人事部長との違い:現場業務を統括する人事部長と経営陣として人材戦略を担うCHROの役割を徹底比較
- 5 CHRO導入の背景:少子高齢化による労働人口減少と人的資本経営への注目の高まりから読み解くCHROの必要性
- 6 CHROの重要性:経営戦略と人材戦略の融合が企業にもたらす効果とCHRO設置のメリットを徹底解説
- 7 CHROに求められるスキル・能力:経営視点、人事専門知識、問題解決力やリーダーシップなど多岐にわたる能力
- 8 CHROが担う課題:人材不足への対応、多様性推進から組織文化改革・エンゲージメント向上まで徹底解説
- 9 企業におけるCHROの事例:国内主要企業にみるCHRO導入の成功事例とその具体的施策を詳しく紹介します
CHROとは何か?Chief Human Resource Officerとも呼ばれる最高人事責任者の定義
CHROとは、Chief Human Resource Officer(チーフ・ヒューマン・リソース・オフィサー)の略で、日本語では「最高人事責任者」を指す役職名です。企業経営において人事分野を統括し、人材に関する戦略的な意思決定を担います。CEOやCFOなどと同じ経営陣の一角を占め、人材戦略と経営戦略を結び付ける架け橋となる存在です。近年では企業価値向上の鍵として人的資本経営が注目されており、それに伴いCHROという役職にも脚光が当たっています。
CHROという役職名の意味とCHOとの呼称の違い
「CHRO」は最高人事責任者(Chief Human Resource Officer)の英語略称です。企業によってはCHO(Chief Human Officer)という肩書きを用いる場合もありますが、いずれも人事領域の最終責任者という意味では同義です。ただしCHOという表現は稀で、日本では一般的にCHROと呼ばれます。欧米発の役職であり、以前は外資系企業中心の肩書きでしたが、国内企業でも徐々に導入が進んでいます。
CHROの役割とは:人材戦略の統括から組織文化醸成まで、企業を支える使命を詳しく解説
CHROは企業内の人事領域を統括するトップとして、多岐にわたる重要な役割を担っています。経営陣の一員として人材戦略を立案・推進し、組織全体の成長を支える使命があります。ここでは、CHROの主な役割をいくつかの観点から解説します。経営戦略と人材戦略を結び付けることから、人材育成や企業文化の醸成まで、CHROは企業の「人」に関わる戦略をリードする要となります。
経営戦略への参画と人材戦略の連携
CHROの第一の役割は、人事の専門家として経営戦略の策定に参画し、人材戦略を連携させることです。経営者の視点を持ちながら、企業のビジョンや経営計画に沿って必要な人材を見極め、適切に配置・育成する戦略を立案します。経営戦略の達成に不可欠な人材は何か、社内で育成すべきか外部から採用すべきか、といった判断を下し、経営と人事を橋渡しする役割を果たします。
人事施策の推進と進捗管理
戦略として策定した人事施策を確実に実行に移し、その進捗を管理するのもCHROの重要な役割です。採用計画や人材育成プログラム、評価制度の運用など、人事部門で立案された施策が狙い通りに進んでいるかチェックします。施策が企業の生産性向上や業績拡大につながっているかをモニタリングし、問題があれば迅速に対処・改善策を講じます。こうした推進・管理機能により、人事戦略を絵に描いた餅で終わらせず、成果に結び付けるのがCHROの役目です。
優秀な人材の採用・育成のリード
企業の成長には優秀な人材の確保と育成が欠かせません。CHROは人材採用・人材育成の最高責任者として、将来の成長を牽引する人材を見極め、獲得する役割を担います。経営戦略に基づき必要な人材像を定義し、採用戦略を策定・実行します。同時に、社内の人材育成計画を立て、従業員のスキルアップや次世代リーダーの育成にも注力します。例えば、研修制度の整備やキャリアパスの構築によって、社員が成長し続けられる環境を作ることもCHROの重要なミッションです。
人事評価制度の構築と運用
社員の能力を最大限引き出し、適材適所の配置や処遇を行うには、公平で効果的な人事評価制度が必要です。その整備もCHROの役割の一つです。経営戦略と連動した評価基準を設け、社員の成果や行動を公正に評価できる仕組みを構築します。評価制度が形骸化しないよう進捗を管理し、現場から不満や課題が上がれば制度を見直して改善します。例えば、定量化が難しい業務に対しては別の指標を設定して適切に評価するなど、社員のモチベーションを高める評価環境づくりに取り組みます。
企業理念・組織文化の社内浸透促進
組織の一体感を醸成し社員の士気を高めることも、CHROの大切な役割です。企業理念やビジョンを社員に浸透させ、望ましい企業文化を築くためにリーダーシップを発揮します。経営トップのメッセージや方針を現場にわかりやすく伝え、従業員一人ひとりが自分の業務の意義を理解できるよう努めます。また、職場環境を整え働きやすい風土を育むことも含めて、CHROが主導して企業文化の維持・改革を行います。例えば、社員の声を経営に反映させる制度を作るなど、現場と経営のパイプ役となって組織全体のエンゲージメント向上に寄与します。
CEO(最高経営責任者)とCHRO(最高人事責任者)の違い:経営トップと人事トップの役割・権限を徹底比較
CEOとCHROはともに「CxO」と呼ばれる経営幹部ですが、その役割と責任範囲は大きく異なります。CEO(最高経営責任者)は企業経営全般の最終意思決定者であり、経営方針の策定や事業戦略の決定に責任を負います。一方でCHRO(最高人事責任者)は人事領域におけるトップとして、経営陣の一員ながら人材戦略や人事施策に特化した意思決定を担います。CEOが企業全体の舵取り役だとすれば、CHROは人材という観点から企業を支える参謀役と言えるでしょう。
CEOは企業全体の指揮者、CHROは人材戦略の責任者
CEOは企業の最高責任者として、事業戦略・財務戦略・組織運営などあらゆる経営課題の統括者です。これに対しCHROは、担当領域を人事・人材に限定した経営幹部です。CEOが企業全体の指揮者として全社最適を追求するのに対し、CHROは人材戦略の責任者として人に関する専門知見を提供します。例えば、新規事業の立ち上げにCEOが判断を下す際には、CHROが人的リソースの観点から助言し、人材面の準備を主導するといった具合です。両者は協働関係にあり、それぞれの専門性を生かして企業価値向上を目指しますが、その責任範囲(CEO=経営全般、CHRO=人事戦略)が決定的に異なります。
人事部長との違い:現場業務を統括する人事部長と経営陣として人材戦略を担うCHROの役割を徹底比較
従来から企業には「人事部長」や「人事担当役員」といったポストがありますが、CHROとはその役割や立場が異なります。人事部長は現場の人事業務全般を取り仕切る実務責任者であり、人事政策の運営や労務管理など日々の人事管理が中心です。一方、CHROは経営陣の一員として人事戦略を経営レベルで統括する役割を担います。人事部長が部門のリーダーであるのに対し、CHROは経営会議に参画し経営視点で人事課題を解決する「戦略人事のトップ」です。以下では、人事部長とCHROの具体的な違いを見てみましょう。
人事部長は現場の人事責任者、CHROは経営陣として戦略人事を統括
人事部長は人事部門の長として、採用・給与計算・人事制度の運用など社内人事業務を統括します。言わば現場の人事責任者であり、経営への直接的な関与はしません。一方でCHROは、経営トップと共に企業全体の方向性を議論し、人材面から経営課題の解決に当たる経営陣の一員です。例えば、人事部長が日々のオペレーション改善に注力するのに対し、CHROは経営戦略に沿った人材ポートフォリオの見直しや次世代リーダー育成計画の立案など、より長期的・戦略的な人事テーマを扱います。こうした立場の違いから、要求される視野や関与範囲にも差が生まれます。すなわち、人事部長には人事業務の専門知識や現場対応力が重視されますが、CHROには経営視点に立った人事戦略立案力や経営陣との協働スキルが求められるのです。
CHRO導入の背景:少子高齢化による労働人口減少と人的資本経営への注目の高まりから読み解くCHROの必要性
近年、CHROというポジションが注目される背景には、社会・経済環境の変化があります。特に日本では少子高齢化が進行し、生産年齢人口の減少によって人材獲得競争が激化しています。同時にデジタル化やグローバル化によりビジネス環境が変革する中で、人材戦略を経営戦略と結び付けて考える重要性が増しています。この章では、企業がCHROを必要とするようになった背景を紐解き、なぜ今CHROの導入が求められているのかを解説します。
労働人口の減少と採用難による人材確保の課題
日本では少子化と高齢化により、生産年齢人口(15~64歳の人口)が年々減少しています。それに伴い優秀な人材の確保が一段と難しくなり、企業にとって人材は希少な経営資源となりました。労働力人口の不足は採用市場を売り手市場にし、企業は人材獲得のための戦略的対応を迫られています。例えば、報酬や福利厚生の充実だけでなく、リモートワークや副業容認など柔軟な働き方の提供、企業ミッションへの共感喚起など、多角的な施策が必要です。こうした状況で、人材戦略の責任者であるCHROが主導し、人材確保・定着のための全社的な取り組みを強化することが求められるようになりました。
人的資本経営への注目とCHROに求められる役割
また、近年は「人的資本経営」という考え方が注目を浴びています。人的資本経営とは、社員のスキルや経験、意欲など人に関わる資源を資本として捉え、企業価値向上に活かそうとする経営手法です。政府主導で「人的資本の情報開示」が義務化される動きもあり、企業は人材への投資やその成果を積極的に示す必要に迫られています。こうした流れの中で、経営戦略と人材戦略を連動させる専門責任者としてCHROを置く意義が高まっています。経営トップが人的資源の重要性を認識し、人事部門を戦略パートナーとして位置付ける企業が増えてきたのです。その結果、単なる人事部門の統括者ではなく、経営視点を持って人的資本の最大化を図るCHROが必要とされる背景が形成されました。
CHROの重要性:経営戦略と人材戦略の融合が企業にもたらす効果とCHRO設置のメリットを徹底解説
CHROを設置することは、企業に様々なメリットをもたらします。経営と人事の橋渡し役としてCHROが機能することで、人材戦略と経営戦略が一体化し企業の競争力強化につながるからです。ここでは、CHROの重要性を具体的な効果やメリットの観点から説明します。人事と経営を融合させることで得られるメリットを理解すれば、なぜCHROが現代企業にとって不可欠な存在になりつつあるのかが見えてくるでしょう。
経営戦略と人事戦略の整合で企業のビジョン実現を加速
CHROがいることで、経営戦略と人事戦略の間にズレが生じにくくなります。企業が掲げるビジョンや中長期計画に必要な人材像をCHROが明確にし、人事施策をビジョン実現に直結させるからです。例えば、新規事業に必要なスキルを持つ人材を計画的に採用・育成したり、将来の経営幹部候補の育成プログラムを用意したりと、人事戦略を経営目標に合致させることでビジョン達成を加速できます。CHROが経営陣の一角としてこれらを主導すれば、人事と経営が別々に動くことがなくなり、企業戦略の実行力が高まります。
人事の迅速な意思決定で環境変化に柔軟に対応
事業環境が変化した際、人材に関する施策を素早く転換できることもCHRO設置の大きなメリットです。従来、人事部門の決定事項は経営陣の合意を得るまでに時間がかかる場合もありました。しかしCHROがいれば、人事領域の意思決定がトップマネジメントの中で即時になされます。例えば、パンデミック下でのテレワーク導入や、人員再配置による構造改革など、従来は現場発信に頼っていた施策もCHRO主導で迅速に決定・実行できます。これにより、急激な環境変化にも機敏に対応でき、組織のレジリエンス(回復力)が向上します。
組織力強化と社員エンゲージメント向上への寄与
CHROが経営と現場をつなぐことで、社員のエンゲージメント(仕事に対する熱意や愛着心)の向上にもつながります。経営層のメッセージや理念をCHROが人事施策に落とし込み、現場に浸透させることで、社員は自社の方向性を理解しやすくなります。また、CHRO主導で公正な評価制度やキャリア支援策が整備されると、社員の働きがいが高まり組織力が強化されます。社員一人ひとりが経営ビジョンに紐づく目標を持ち、自分の成長と会社の成長を重ね合わせて考えられる組織風土は、CHROがいるからこそ醸成しやすくなるのです。
経営視点の人材戦略で競争優位性を確立
人材は競合他社との差別化要因にもなります。CHROが財務や事業戦略の知識を持ち、経営視点から人材ポートフォリオを最適化することで、他社には真似できない人材力を築ける可能性があります。例えば、自社の強みとなる技術領域で人材育成投資を集中させたり、将来的な事業展開を見据えて新しいスキルを持つ人材を早期に採用するといった戦略をとれるのは、人材と経営双方に精通したCHROならではです。こうした戦略人事の実現により、企業は長期的な競争優位性を確立できます。このように、CHROの存在は単に人事部門の充実に留まらず、企業全体の持続的成長に直結する重要な要素となっています。
CHROに求められるスキル・能力:経営視点、人事専門知識、問題解決力やリーダーシップなど多岐にわたる能力
経営と人事の橋渡し役であるCHROには、非常に幅広いスキルセットが要求されます。単なる人事業務の経験だけでなく、経営者の一員としての視野や戦略思考、人と組織に関する深い知識など、多岐にわたるハイブリッドな能力が必要です。以下では、CHROとして活躍するために求められる主なスキル・能力を挙げて解説します。これらの資質を兼ね備えることで、CHROは企業の人的資本を最大限に活かし、経営に貢献できるのです。
人事・労務に関する高度な専門知識
まず不可欠なのは、人事領域の専門家としての知識です。採用、配置、評価、労務管理といった人事・労務全般の専門知識を持っていることは大前提となります。労働基準法や雇用関連法規に精通し、法改正など最新情報をキャッチアップできる能力も求められます。人事制度設計や研修手法についての知見も豊富であることが望ましいでしょう。CHROは人事部門の最高責任者として、人に関わるあらゆる課題に対する知識と経験を備えている必要があります。
豊富な人事マネジメントの経験
人事部門のリーダーとして組織を率いるため、人事マネジメントの実務経験も重要です。人材採用プロジェクトの統括や評価制度の導入、人員削減や組織再編といった困難な人事施策の実施経験を積んでいると理想的です。また、人事部以外の現場部門との協働経験も求められます。各部門の業務内容や抱える課題を理解し、適切な人材配置や人材開発を行うには、様々な部署との連携経験が役立ちます。豊富な経験に裏打ちされた判断力とリーダーシップが、CHROの職務遂行には不可欠と言えます。
経営全般に関する広範な知識と視点
CHROは経営陣の一員である以上、経営全般についての知識やビジネス感覚も持ち合わせていなければなりません。財務諸表の読み方や事業戦略の立て方、市場や業界動向への理解など、CEOやCFOと対等に議論できる素養が必要です。世界経済の潮流や技術革新のトレンドなど、企業を取り巻く外部環境にもアンテナを張り巡らせます。こうした広い視野と知見を持つことで、経営戦略に資する人材戦略を立案する土台が築かれます。CHROには「人事のプロ」であると同時に「経営のジェネラリスト」としての側面も求められるのです。
経営課題を分析し戦略を立案できる力
経営トップの一角として、CHROにはビジネスセンスと戦略構築力も期待されます。上述の広範な知識を活かして、人事の視点から経営課題を分析し、解決に導く戦略を立案する能力が求められるのです。企業の置かれた状況や目標を踏まえ、人材面での課題を洗い出し、どのような人事戦略で対応すべきかプランを描きます。例えば、海外展開を睨んだグローバル人材の確保や、デジタルトランスフォーメーションに対応できる社内人材の育成など、経営課題に直結した人事戦略を構築する力です。これは机上の知識だけでは身につかず、実践と経験によって培われるスキルと言えます。
卓越した問題解決力と高いコミュニケーション能力
CHROには、経営レベルおよび人事現場の双方で発生する様々な課題に対処するための問題解決能力が必須です。定量・定性両面から客観的に問題を分析し、論理的に解決策を導き実行に移す力が求められます。人事領域の課題は企業の経営状況や外部環境によって刻々と変化するため、状況を見極め適切な判断を下す迅速さと冷静さが重要です。
さらに、CHROは経営陣の中で最も現場に近い存在とも言われます。現場の声を経営に届け、また経営の方針を現場に浸透させるには高いコミュニケーション能力が欠かせません。社員や現場管理職が本音を話しやすい雰囲気を作り、各部門と信頼関係を構築する力です。社内外のステークホルダーと円滑に意思疎通できるヒューマンスキルを備えていれば、経営と従業員の橋渡し役としてCHROは十分に力を発揮できるでしょう。
CHROが担う課題:人材不足への対応、多様性推進から組織文化改革・エンゲージメント向上まで徹底解説
変化の激しいビジネス環境下で、CHROが取り組むべき人事課題も多岐にわたります。働き方の多様化や人材市場の競争激化、新型コロナ禍を経た雇用環境の変化など、現代の企業は従来になかったチャレンジに直面しています。ここでは、現代のCHROが優先的に対処すべき主要課題を取り上げます。人材確保から組織文化の醸成まで、CHROは経営課題と直結する人事上の問題に対し、戦略的に解決策を講じることが期待されています。
ハイブリッドワークなど新しい働き方への対応
コロナ禍を契機にテレワークやハイブリッドワーク(オフィス勤務と在宅勤務の組み合わせ)が広がりました。CHROはこうした新しい働き方を企業文化に定着させ、生産性を維持・向上するという課題に取り組みます。リモート勤務者が孤立感を抱かないようコミュニケーション施策を講じたり、オフィス出社組との公平感を保つ人事制度の見直しが必要です。また、働く場所や時間が柔軟になることで評価の仕方やマネジメント手法も変える必要があります。CHROは人事政策全般を見直し、柔軟な働き方の中でも従業員同士の協働やエンゲージメントが損なわれない環境作りを推進します。
労働力不足・人材獲得競争への戦略的アプローチ
前述のとおり人材不足は慢性的な経営課題です。CHROは優秀な人材を引き付け、定着させるための戦略を立案・実行します。具体的には、自社の魅力を高めるブランディング(例:働きがいのある会社ランキングへの取り組み)、採用手法の多様化(オンライン採用イベントの活用、リファラル採用の推進など)、さらには報酬やキャリアパスの見直しなどが考えられます。また、働き手の裾野を広げるため、女性・高齢者・外国人など多様な人材の活用策も取られています。CHROは経営戦略に沿って人材ポートフォリオを描き、人材獲得・維持のための包括的なプランを主導する役割を担います。
ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)の推進
多様な人材を活かすダイバーシティ&インクルージョンも重要な課題です。企業が持続的に成長するには、性別・年齢・国籍・価値観などの異なる人材がその能力を最大限発揮できる包摂的な組織が欠かせません。CHROは、D&I推進施策の旗振り役として社内制度や風土を整えます。例えば、女性管理職比率の向上や障がい者雇用の促進に向けた目標設定、研修による無意識の偏見(アンコンシャスバイアス)の払拭、ハラスメント防止の取り組みなど、多岐にわたります。さらに、多様な人材が活躍できる評価制度やキャリア支援を構築することも含まれます。D&Iを推進することで生まれる組織の活力やイノベーションを、CHROは経営に資する力へと変えていきます。
社員エンゲージメント向上と組織文化の改革
従業員のエンゲージメント(会社や仕事への愛着・熱意)を高め、離職率を下げることもCHROの重要な課題です。特にリモートワークの普及により社員同士のつながりが希薄になりがちな状況下では、意識的な組織作りが求められます。CHROは社員の声を経営に反映させたり、成果をきちんと認め称賛する文化を醸成したりする施策を推進します。具体例として、定期的な従業員サーベイ(意識調査)を実施して経営層へフィードバックする、社内表彰制度やピアボーナス(同僚間賞賛制度)を導入する、といった取り組みが考えられます。また、ワークライフバランスの支援や健康経営の推進も含め、働きやすい職場環境づくりをリードすることで社員のロイヤルティを高め、組織全体の生産性向上につなげます。
従業員のスキルアップ・リスキルの促進
テクノロジーの進化や市場ニーズの変化に伴い、企業内の仕事のあり方も変わっていきます。その中で社員が時代に取り残されないよう、継続的なスキルアップやリスキリング(学び直し)を推進することもCHROの課題です。人材育成責任者として、研修プログラムの整備や教育投資の確保に努めます。例えば、DX(デジタルトランスフォーメーション)推進に向けてITスキルの研修を充実させたり、管理職に対するリーダーシップトレーニングを実施したりします。また、一人ひとりが自発的に学べる企業風土を育むことも重要です。CHROは学習する組織づくりを後押しし、従業員の成長が企業の成長に直結する好循環を生み出します。
企業におけるCHROの事例:国内主要企業にみるCHRO導入の成功事例とその具体的施策を詳しく紹介します
日本においては、まだCHROを正式に置く企業は限られていますが、先進的に導入した企業ではすでに成果が現れています。その事例を知ることで、CHROが実際に企業にもたらす効果を具体的にイメージできるでしょう。ここでは、国内企業の中からCHROを置いて成功を収めている例をいくつか紹介します。各社のCHROがどのような取り組みを行い、企業変革に貢献しているのかを見てみましょう。
メルカリのCHRO導入事例:評価制度改革で生産性向上
フリマアプリ大手の株式会社メルカリでは、2018年にいち早くCHRO職を導入しました。初代CHROに就任した木下達夫氏は、約1000名規模の組織で大規模な人事改革を断行しています。特に注目されたのが人事評価制度の抜本的見直しです。それまで評価しづらかった社員の行動・価値観の発揮度合いを「バリュー発揮度」として定量評価する仕組みに変更し、成果(KPI達成度)との2軸評価としました。これにより、リモートワーク移行後も公平な評価が維持され、社員のモチベーション低下を防いでいます。制度改革の結果、テレワーク下でも高い生産性を保つことに成功し、メルカリの成長を人事面から支える成果を上げました。
サイバーエージェントのCHRO導入事例:独自制度で企業文化を醸成
インターネット広告やメディア事業を展開する株式会社サイバーエージェントも、国内で比較的早期にCHROを設置した企業です。サイバーエージェントの人事施策はユニークなものが多く、CHRO主導で自社独自の企業文化醸成策が実施されています。たとえば、「ミスマッチ制度」と呼ばれる人事制度では、社内評価で下位5%の社員に対し厳しいフィードバックを行い、場合によっては配置転換も含めた措置を取ります。また「GEPPO(ゲッポウ)」という月次アンケート仕組みで、社員が自身のコンディションや業務満足度を定期的に報告する制度も導入しました。これらの施策により、企業理念に共感できていない社員や問題を抱える組織を早期に発見し手当てすることが可能になりました。CHROはこれらの制度設計・運用をリードし、同社の強い企業文化づくりに貢献しています。
日立製作所のCHRO導入事例:事業戦略に即した人事改革を推進
伝統的な大企業である株式会社日立製作所でも、近年CHROの設置と戦略人事の強化が進みました。中畑英信氏がCHROとして主導したのは、日立が社会イノベーション企業へ転換する事業戦略に合わせた人事制度の刷新です。具体的には、グローバルで人材を活用するための共通人事評価基準の導入や、従来の年功的要素を見直した成果主義人事への移行など、大胆な改革を行いました。これらの取り組みにより、人事部門が経営戦略の推進力となり、中畑氏自身も国内の人事アワードで最優秀賞を受賞しています。この事例は、経営ビジョンに沿った人事改革をCHROが実現した好例と言えるでしょう。
富士通のCHRO導入事例:経営陣と協働し人事戦略を展開
大手ICT企業の富士通株式会社では、平松浩樹氏がCHROを務め、人事戦略の立案・実行で成果を上げました。富士通では経営改革の一環として人事制度・働き方改革を進めており、平松氏はCEOをはじめとする経営陣と密接に信頼関係を築きながら人事戦略を推進しました。具体的には、ジョブ型雇用制度の導入やリモートワーク環境の整備、DX人材の育成プログラムなど数々の施策を実施しています。これらの取り組みに対し、平松氏はHR分野の表彰である「HRアワード」の企業人事部門最優秀個人賞を受賞しました。富士通の事例は、CHROが経営トップと二人三脚で戦略人事を展開し、企業変革に寄与した成功例として注目されています。