WCAG(Web Content Accessibility Guidelines)は、Webコンテンツを障害のある人にも使えるようにするための国際的なガイドラインです。現行の最新版はWCAG 2.2(2023年10月5日勧告、2024年12月12日更新)で、達成基準は86件あります。このうちレベルAとAAを合わせた55件が、企業や行政が目標に置く「AA適合」の範囲です。
この記事では、W3Cの勧告本文から数えた版ごとの達成基準数、AA適合の5つの要件、草案段階のWCAG 3.0の位置づけ、各国の法令がどの版を参照しているかを整理します。最後に、自動チェックツールaxe-coreで実際に検出できた基準と、人が確かめるしかない基準を示します。
まとめ:WCAG 2.2の位置づけとAA適合に必要な55件
- WCAGはW3CのWAI(Web Accessibility Initiative)が策定するガイドラインで、それ自体は法律ではありません。各国の法令や規格がWCAGを参照することで拘束力を持ちます。
- 構造は「4原則(知覚可能・操作可能・理解可能・堅牢)→13ガイドライン→達成基準」の3層です。適合の判定には、達成基準に加えて5つの適合要件を使います。
- WCAG 2.2の達成基準は86件(A31件・AA24件・AAA31件)。AA適合で満たすのはA31件とAA24件の計55件です。2.1の78件に9件を追加し、4.1.1 構文解析を削除しました。
- 2.2に適合すれば2.0と2.1にも適合します。W3Cは、法令が旧版を指していても2.2を目標にするよう勧めています。
- AAAはサイト全体の方針として求めることが推奨されていません。現実の目標はAAです。
- WCAG 3.0は2026年9月10日付の草案で、完成は数年先です。WCAG 2を置き換えるものではありません。
- axe-coreは代替テキストの欠落やコントラスト不足を検出しますが、代替テキストの意味の適切さや、すべての機能がキーボードで操作できることまでは保証できません。
WCAGの定義と読み方、策定元のW3C
WCAGは「Web Content Accessibility Guidelines」の略で、日本語では「ウェブ・コンテンツ・アクセシビリティ・ガイドライン」と訳されます。読み方は英語圏で「ウィーキャグ(wuh-cag)」と呼ばれることが多く、国内では「ダブリューシーエージー」と1文字ずつ読む人もいます。どちらでも通じます。
策定しているのは、Web標準化団体W3Cの中でアクセシビリティを担当するWAIです。WAIの作業グループの1つであるAccessibility Guidelines Working Group(AG WG)がWCAGを書き、W3Cの勧告(Recommendation)として公開します。WAIがWCAGのほかにどのガイドラインを出しているかはWAIとは?W3CのWCAG・WAI-ARIA・ATAGの関係と現行版【2026年】で整理しています。
日本語で読む場合は、ウェブアクセシビリティ基盤委員会(WAIC)が公開しているWCAG 2.2の日本語訳を使います。訳の底本は2024年12月12日版です。WAIC自身が「この文書の正式版は、W3C のサイトにある英語版です」と断っており、訳は参考情報という位置づけです。
4原則・13ガイドライン・達成基準の3層構造
WCAG 2.2の本文は、4つの原則の下に13のガイドラインを置き、各ガイドラインの下に試験可能な達成基準を並べています。ガイドラインは目標を示し、それ自体は試験可能な要件ではありません。個々の要件は達成基準で試験し、ページの適合は5つの適合要件も含めて判定します。
| 原則 | ガイドライン(WAIC訳) | 数 |
|---|---|---|
| 1 知覚可能 | 1.1 テキストによる代替/1.2 時間ベースのメディア/1.3 適応可能/1.4 判別可能 | 4 |
| 2 操作可能 | 2.1 キーボードアクセス可能/2.2 十分な時間/2.3 発作及び身体的反応/2.4 ナビゲート可能/2.5 入力モダリティ | 5 |
| 3 理解可能 | 3.1 判読可能/3.2 予測可能/3.3 入力支援 | 3 |
| 4 堅牢 | 4.1 互換性 | 1 |
本体のほかに、W3Cは解説書(Understanding WCAG 2.2)と達成方法集(Techniques)を公開しています。WCAG 2.2は本文で、達成方法(techniques)を参考情報(informative)と位置づけています。つまり達成方法集に載っている実装は「こうすれば満たせる」例であって、それ以外の実装でも達成基準を満たせば適合です。逆に、達成方法集の例をなぞっただけで適合したことにはなりません。
WCAG 2.0・2.1・2.2の違いと版ごとの達成基準数
W3Cの勧告本文(TR/WCAG20・WCAG21・WCAG22)から、各達成基準に付いているレベル表記を数えた結果が次の表です。2.2で削除された4.1.1はレベル表記が外れているため、2.2の件数に含めていません。各版の勧告日と更新履歴はW3CのWCAG 2 Overviewで確認できます。
| 版 | 初回勧告 | 達成基準 | A | AA | AAA | AA適合の対象(A+AA) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| WCAG 2.0 | 2008-12-11 | 61 | 25 | 13 | 23 | 38 |
| WCAG 2.1 | 2018-06-05 | 78 | 30 | 20 | 28 | 50 |
| WCAG 2.2 | 2023-10-05 | 86 | 31 | 24 | 31 | 55 |
2.1はモバイル端末とロービジョン、認知障害への対応を足した版で、1.3.4 表示の向き、1.4.10 リフロー、1.4.11 非テキストのコントラストなどが加わりました。2.1は2023年9月21日、2024年12月12日、2025年5月6日に更新版が出ていますが、W3Cは「達成基準は後の版でも同じ」と説明しており、更新で要件は増えていません。
WCAG 2.2で追加された9基準と削除された4.1.1
2.2で追加された達成基準は次の9件です。AA適合を目標に2.1から2.2へ切り替える場合、新設されたAの2件とAAの4件、計6件の確認が必要です。4.1.1の削除を差し引くと、対象基準数は50件から55件になります。
| 番号 | 名称(WAIC訳) | レベル |
|---|---|---|
| 2.4.11 | 隠されないフォーカス (最低限) | AA |
| 2.4.12 | 隠されないフォーカス (高度) | AAA |
| 2.4.13 | フォーカスの外観 | AAA |
| 2.5.7 | ドラッグ動作 | AA |
| 2.5.8 | ターゲットのサイズ (最低限) | AA |
| 3.2.6 | 一貫したヘルプ | A |
| 3.3.7 | 冗長な入力項目 | A |
| 3.3.8 | アクセシブルな認証 (最低限) | AA |
| 3.3.9 | アクセシブルな認証 (高度) | AAA |
2.5.8はクリックやタップの対象を24×24 CSSピクセル以上にする基準で、間隔や代替手段などの例外があります。2.4.11は、固定ヘッダーなど制作者が作成したコンテンツによって、フォーカス中の要素が完全に隠れないことを求めます。一部分も隠れないことを求めるのはAAAの2.4.12です。一方、4.1.1 構文解析は「廃止及び削除」になりました。支援技術がHTMLを直接解析していた時代の問題を扱う基準で、現在のブラウザと支援技術ではその問題が起きなくなったためです。
2.2に合わせれば2.0・2.1にも適合する後方互換
WCAG 2.2は2.0と同じ適合モデルを使い、2.2に適合するサイトは2.0と2.1にも適合する設計になっています。勧告本文は、正式な義務が旧版を指している場合でも、2.2を新しい適合目標にするようAG WGが推奨すると書いています。
実務では、取引先や調達仕様が「WCAG 2.1 AA」を求めていても、2.2のAAで試験しておけば両方を説明できます。例外は4.1.1です。2.0相当の規格(たとえば現行のJIS X 8341-3:2016)への準拠を表明する場合、4.1.1は試験対象に残ります。JISとWCAG 2.2の差分はJIS X 8341-3とは?2016年版の要点とWCAG 2.2との差、改正の見通しで詳しく扱っています。
適合レベルA・AA・AAAの違いと目標の決め方
レベルAは最低限、AAはAの全基準とAAの全基準、AAAはさらにAAAの全基準を満たした状態です。レベルは積み上げで、AAの基準だけを満たしてもAA適合にはなりません。
AAAについて、WCAG 2.2の適合要件の注記は「一部のコンテンツではレベルAAAの達成基準をすべて満たすことができないため、サイト全体の一般的な方針としてAAA適合を求めることは推奨しない」としています。たとえば1.2.6 手話(収録済)は、同期したメディアに含まれる収録済みの音声コンテンツすべてに手話通訳を提供する基準です。動画を多く公開するサイトでは手話通訳の制作・更新体制を確認し、サイト全体のAAA適合と、必要な動画への個別対応を分けて計画します。
適合を名乗るには、達成基準とは別に次の5つの適合要件をすべて満たす必要があります。
- 適合レベル:選んだレベルの達成基準をすべて満たす(または適合する代替版を用意する)
- ページ全体:ページの一部を除外して適合を主張できない
- プロセス全体:購入手続きのように複数ページにまたがる処理は、すべてのページが適合している
- アクセシビリティサポーテッドな技術の使い方のみ:支援技術で実際に使える方法で実装している
- 非干渉:適合に頼らない部分のコンテンツも、ページ全体の利用を妨げない
出典:W3C WCAG 2.2「Conformance Requirements」
2番目の要件は見落とされやすい点です。埋め込んだ外部ウィジェットが基準を満たしていなければ、そのページはAA適合と言えません。WCAG 2.2の「部分適合の表明」は、制作者の管理下にないコンテンツを特定し、それを除けば適合するものの、現状のページは適合していないと示す形式です。任意の外部サービスを除外してAA適合を名乗れる制度ではありません。なお、適合表明(conformance claim)は任意で、表明しなくても適合はできます。サイトで方針を公開する場合の書き方はWebアクセシビリティ方針の書き方:対象範囲・適合レベル・達成期限の文面と試験結果の書式が参考になります。
WCAG 3.0の現状:2026年9月の草案と2.xとの関係
「wcag 最新」で検索するとWCAG 3.0の話題も出てきますが、2026年10月時点の最新はW3C Working Draft(2026年9月10日付)で、勧告ではありません。W3CのWCAG 3紹介ページは、WCAG 3が完成した標準になるのは数年先だとし、「WCAG 3はWCAG 2を置き換えない(will not supersede)」「WCAG 3の完成後も、WCAG 2は数年間廃止されない」と書いています(出典:WCAG 3 Introduction)。
3.0は名称を「W3C Accessibility Guidelines」に変え、Webコンテンツ以外のアプリや製品も対象に広げる構想です。2026年9月の草案では、適合の示し方として段階(tiers)を設ける案と、スコアで進捗を示してBronze・Silver・Goldを与える案の両方が検討中と書かれています。適合モデルが固まっていないため、2026年時点で3.0を確定した適合基準として扱うべきではありません。契約の適合要件には、勧告済みのWCAG 2.2などを指定します。
結論として、これから対応を始めるならWCAG 2.2のAAを目標にします。3.0を待つ理由はありません。
WCAGを参照する各国の法令・規格と参照している版
WCAGに準拠する義務は、WCAG自体ではなく、それを取り込んだ法令や規格から生じます。どの版を参照しているかは法令ごとに違います。
| 法令・規格 | 地域 | 参照するWCAG |
|---|---|---|
| JIS X 8341-3:2016 | 日本 | 2.0(ISO/IEC 40500:2012と一致) |
| ISO/IEC 40500:2025(2025年9月) | 国際 | 2.2(2023年10月版と同一) |
| EN 301 549 V4.1.1(2026年9月) | EU | 2.2 AA |
| ADA Title II 最終規則 | 米国(州・地方政府) | 2.1 AA |
| リハビリテーション法508条 | 米国(連邦政府) | 2.0 A・AA |
W3Cによると、2024年12月版のWCAG 2.2は2026年後半にISO/IEC 40500:2026として発行される見込みで、ISOでも40500:2025を置き換える次版の審議が進んでいます。日本ではJIS X 8341-3をISO/IEC 40500:2025と一致させる改正が進んでおり、改正後は国内規格もWCAG 2.2相当になります。
欧州アクセシビリティ法(EAA)は独自のアクセシビリティ要件を定めています。EN 301 549などの規格による適合推定には、EAAに対応する整合規格としてEU官報に参照が掲載され、その規格が該当要件をカバーしていることが必要です。W3Cは、EAAへの対応では多くの組織がWCAGとEN 301 549を使っていると説明しています(詳細は欧州アクセシビリティ法(EAA)の要件とアクセシビリティ基準(WCAGとの関係))。米国のADA Title II最終規則は州・地方政府が対象で、2026年の暫定最終規則で期限が1年延び、人口5万人以上の自治体は2027年4月26日、5万人未満の自治体と特別区(special district)は2028年4月26日になりました。連邦政府の調達を縛る508条はリハビリテーション法508条とは何か:定義とその重要性をわかりやすく解説で扱っています。
日本の民間企業について、2024年4月施行の改正障害者差別解消法で義務になったのは「合理的配慮の提供」で、Webサイトのアクセシビリティ対応は「環境の整備」として努力義務にとどまります。この線引きはWebアクセシビリティは義務化されたのか?2024年改正法の線引きと企業がやるべきことで条文に沿って説明しています。
自動チェックで拾える基準と拾えない基準(axe-core 4.13での実測)
WCAGの達成基準のうち、ツールで機械的に判定できるのは一部です。どこまで任せられるかを確かめるため、問題を8つ仕込んだ問い合わせページを作り、axe-core 4.13.0をChrome 154(ヘッドレス)で実行しました(2026年10月4日。ルールはWCAG 2.0〜2.2のA・AAタグに限定)。各ルールが対応する達成基準はaxe-coreのルール一覧に載っています。
<!doctype html>
<html> <!-- 1. lang属性なし -->
<head><meta charset="utf-8"><title>WCAG sample</title>
<style>
.low{color:#999;background:#fff} /* 2. コントラスト2.85:1 */
button.icon{width:16px;height:16px;padding:0;border:0} /* 3. 16px角の隣接ボタン */
a.nofocus:focus{outline:none} /* 4. フォーカス表示を消す */
</style></head>
<body><main>
<h1>お問い合わせ</h1>
<img src="logo.png"> <!-- 5. alt属性なし -->
<img src="chart.png" alt="画像"> <!-- 6. 内容を伝えないalt -->
<p class="low">受付時間は平日10時から18時です。</p>
<input type="text" id="name" placeholder="氏名"> <!-- 7. placeholderだけのラベル -->
<button class="icon" aria-label="閉じる">x</button><button class="icon" aria-label="次へ">></button>
<a class="nofocus" href="#top">ページ先頭へ</a>
<div onclick="console.log('送信操作')">送信</div> <!-- 8. キーボードで押せない送信 -->
</main></body></html>
結果は次のとおりで、違反として報告されたのは8つのうち4つでした。
| 仕込んだ問題 | 関係する達成基準 | axe-coreの結果 |
|---|---|---|
| 1. lang属性なし | 3.1.1 ページの言語(A) | 違反 html-has-lang |
| 2. コントラスト2.85:1 | 1.4.3 コントラスト (最低限)(AA) | 違反 color-contrast |
| 3. 16px角の隣接ボタン | 2.5.8 ターゲットのサイズ (最低限)(AA) | 違反 target-size(2件) |
| 5. alt属性なし | 1.1.1 非テキストコンテンツ(A) | 違反 image-alt |
| 4. outline:none | 2.4.7 フォーカスの可視化(AA) | 検出なし |
| 6. alt=”画像” | 1.1.1 非テキストコンテンツ(A) | 検出なし(合格扱い) |
| 7. placeholderのみ | 3.3.2 ラベル又は指示(A) | 検出なし(label合格) |
| 8. divのonclick | 2.1.1 キーボード(A) | 検出なし |
検出できなかった4つには共通点があります。altが「あるかどうか」は判定できても「内容を伝えているか」は判定できません。キーボード操作とフォーカス表示は、Tab・Shift+Tabによる移動に加え、Enter・Space・矢印キーなど、各部品に必要な操作を人が確認します。placeholderについては、axe-coreは入力欄の名前として扱い、labelルールを合格にしました。入力を始めると消える表示が3.3.2のラベルとして十分かどうかは、人が判断する必要があります。
自動チェックの結果が0件でも、AA適合とは言えません。運用としては、axe-coreやLighthouseで機械的に拾える違反を先に潰し、残りはキーボード操作とスクリーンリーダーで人が試験する、という二段構えにします。ツールの組み合わせと外注の判断はWebアクセシビリティ診断の進め方:自動・手動・当事者検証の三層設計と外注の判断基準で、コントラスト比の計算と例外はWebアクセシビリティのコントラスト比:4.5対1と3対1の適用範囲・CSS実装・自動検証の落とし穴で扱っています。
参考までに、同じページを修正した版(lang=”ja”、文字色#595959で7.00:1、24px以上のボタン、具体的なalt、label要素、button要素、focus-visibleのアウトライン)では、axe-coreの違反は0件でした。ARIAで名前や状態を補う方法はWAI-ARIAとは?role・aria属性の使い方とネイティブHTMLを優先すべき理由を参照してください。
よくある質問
WCAGの読み方は?
英語圏では「ウィーキャグ」と読まれることが多く、日本では「ダブリューシーエージー」と1文字ずつ読む人もいます。正式名称はWeb Content Accessibility Guidelinesです。
WCAGの最新バージョンは?
勧告済みの最新版はWCAG 2.2で、最新の発行は2024年12月12日版です。WCAG 3.0は2026年9月10日付の草案段階で、勧告されていません。「WCAG 2022」という版は存在せず、2.2を指していると考えられます。
WCAGのAAとAAAの違いは?
AAはレベルAとAAの達成基準(2.2では計55件)をすべて満たす状態、AAAはさらにAAAの31件も満たす状態です。WCAG 2.2は、サイト全体の方針としてAAAを求めることを推奨していません。
日本でWCAGへの準拠は義務ですか?
民間企業にWCAG準拠を義務づける法律はありません。改正障害者差別解消法でWebアクセシビリティは努力義務の「環境の整備」に位置づけられています。公的機関は総務省の「みんなの公共サイト運用ガイドライン」でJIS X 8341-3のAA準拠が求められています。
a11yとは何ですか?
accessibilityの頭文字aと末尾のyの間に11文字あることから作られた略記で、「エーイレブンワイ」などと読まれます。アクセシビリティ全般を指す言葉で、WCAGと同じ意味ではありません。