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欧州アクセシビリティ法(EAA)とは?対象・期限とWCAG・EN 301 549の関係

欧州アクセシビリティ法(EAA)とは?対象・期限とWCAG・EN 301 549の関係

欧州アクセシビリティ法(European Accessibility Act、略称EAA)は、EUが2019年4月17日に採択した指令(EU)2019/882で、2025年6月28日から加盟国の国内法として適用が始まっています。EU域内の消費者にECサイト・アプリ・電子書籍・銀行サービスなどを提供する企業は、本社が日本にあっても対象になり得ます。

本記事は、指令(EU)2019/882原文(EUR-Lex)とEN 301 549 V4.1.1原文(ETSI)に当たり、どの事業が対象か、WCAGのどの版を目標にすべきか、違反すると何が起きるかを2026年10月時点の状況で整理します。日本国内の法的義務の線引きはWebアクセシビリティは義務化されたのか?2024年改正法の線引きと企業がやるべきことで扱っています。

まとめ:EAAで日本企業が押さえる要点

  • 適用日:2025年6月28日以降に市場に出す製品と、消費者に提供するサービスが対象。既存のサービス契約は最長2030年6月28日まで、それ以前から使っているセルフサービス端末は導入から最長20年まで経過措置があります(加盟国の選択でさらに短くなる。ドイツは15年)。
  • 対象:EU域内の消費者向けのEC、銀行、電子書籍、通信、旅客輸送のWeb・アプリ、PC・スマートフォン・電子書籍リーダー・決済端末など。法人だけを相手にするサービスは指令の対象外です。
  • 免除:従業員10人未満かつ年間売上高または総資産200万ユーロ以下の零細企業は、サービスの要件とその遵守に関する義務が免除されます。製品を扱う零細企業は免除されません。
  • WCAGとの関係:指令の本文にWCAGの語は一度も出てきません。WCAGは整合規格EN 301 549を通じて入ります。2026年9月2日に公開されたEN 301 549 V4.1.1はWCAG 2.2のレベルA・AAに揃えられ、EU官報への掲載後にEAAの適合推定を与えます。
  • 罰則:金額は加盟国の国内法が決めます。ドイツの国内法(BFSG)は、要件を満たさないサービスの提供などに最大10万ユーロの過料を定めています。

指令(EU)2019/882の位置付けと適用スケジュール

EAAは「規則(Regulation)」ではなく「指令(Directive)」です。EU全域にそのまま効くのではなく、各加盟国が国内法を作り、その国内法が企業を直接拘束します。ドイツのBarrierefreiheitsstärkungsgesetz(BFSG)がその例で、実務で確認すべきなのは指令の条文と販売先の国の国内法の両方です。

指令が定める日付は次のとおりです。

日付 内容 根拠
2019年4月17日 指令の採択 指令本文
2022年6月28日 加盟国の国内法の制定・公布期限 第31条1項
2025年6月28日 国内法の適用開始 第31条2項
2027年6月28日 緊急通報112の応答への適用の最終期限 第31条3項
2030年6月28日 既存製品でのサービス提供・既存契約の経過措置の終了 第32条1項
導入から最長20年 既存セルフサービス端末の使用期限(加盟国の選択) 第32条2項

経過措置はサービス側の話です。2025年6月28日以降に市場へ出す製品には猶予がありません。また第32条2項は「加盟国が定めることができる」規定なので、上限20年をそのまま使えるとは限りません。ドイツのBFSG第38条2項はこれを15年としています。

国内法化も期限どおりには進みませんでした。欧州委員会は2022年7月に24か国、2023年4月に残る3か国へ、国内法化の措置を通知していないとして正式通知書を送り、2024年にはドイツ・オランダ・スウェーデンなど5か国に理由付き意見を送っています。販売先の国で国内法がいつ施行されたか、指令と違う上乗せがないかは国ごとに確かめる必要があります。

EAAの対象となる製品とサービス

対象は第2条に列挙された製品とサービスに限られます。「障害者に配慮したあらゆる製品」が対象になるわけではありません。

対象製品:第2条1項の5分類

  • 消費者向けの汎用コンピュータとそのOS
  • 決済端末と、指令の対象サービスに用いるATM・券売機・チェックイン機・対話型情報提供端末(情報提供端末は車両・航空機・船舶・鉄道車両に一体として組み込まれたものを除く)
  • 電子通信サービスに使う消費者向け端末(スマートフォン等)
  • オーディオビジュアルメディアサービスの視聴に使う消費者向け端末(スマートテレビ等)
  • 電子書籍リーダー

製品については、製造者(第7条)だけでなく、EU域外の製品を域内に持ち込む輸入業者(第9条)と販売業者(第10条)にも確認義務があります。日本のメーカーが現地の輸入業者経由で販売していても、輸入業者は適合性評価・技術文書・CEマーキングの有無を確かめてからでないと市場に出せません。技術文書とEU適合宣言の保管期間は市場投入から5年です。

対象サービス:消費者向けに限定される第2条2項

サービスは「消費者に提供される」ものだけが対象です(第2条2項)。指令は消費者を「自らの事業・職業の外の目的で購入する自然人」と定義しているため、法人だけを顧客とするBtoBのSaaSや業務システムは指令の範囲外です。

  • 電子通信サービス(M2M向けの伝送サービスを除く)
  • オーディオビジュアルメディアサービスへのアクセスを提供するサービス
  • 航空・バス・鉄道・水上の旅客輸送のWebサイト、アプリ、電子チケット、運行情報、対話型セルフサービス端末。ただし都市・近郊・地域輸送は、この分類では対象端末に限定されます。オンライン販売は別途、電子商取引として判定します。
  • 消費者向け銀行サービス
  • 電子書籍とその専用ソフトウェア
  • 電子商取引サービス

影響が最も広いのは電子商取引です。指令は電子商取引サービスを「Webサイトやモバイル端末ベースのサービスを通じて、消費者の個別の求めに応じ、消費者契約の締結を目的として遠隔で提供されるサービス」と定義しています。商品を売るECに限らず、旅行予約やチケット販売、サブスクリプションの申込画面も、消費者契約の締結に向かう導線であれば該当し得ます。逆に、問い合わせを受けるだけのコーポレートサイトは、この定義に当たらない限り対象外です。

Webサイト・アプリで対象外になるコンテンツ

対象サービスのWebサイトやアプリでも、第2条4項の5種類のコンテンツは適用除外です。

  • 2025年6月28日より前に公開した収録済みの動画・音声
  • 2025年6月28日より前に公開したオフィス文書(PDF・Word等)
  • オンライン地図(ナビゲーション用の地図は、必要な情報をアクセシブルな形で提供している場合)
  • 事業者が資金提供・開発・管理のいずれもしていない第三者コンテンツ
  • 2025年6月28日以降に更新・編集しないアーカイブ

過去のPDFを全部作り直す必要はありません。ただし、2025年6月28日以降に更新した商品カタログのPDFや、新しく公開した動画は除外されません。

零細企業の免除と「不均衡な負担」の例外

旧来の解説には「中小企業は免除される」と書くものがありますが、条文の免除はもっと狭く、条件が二つ重なります。

サービス提供零細企業の免除範囲

指令は零細企業を「従業員10人未満で、年間売上高または年間の貸借対照表総額が200万ユーロ以下の企業」と定義しています。第4条5項は、サービスを提供する零細企業について、サービスのアクセシビリティ要件と、その遵守に関する義務を免除しています。製品を扱う零細企業は要件を満たす必要があります。軽減されるのは、第14条の評価の文書化義務(同条4項)と例外利用の当局への通知義務(同条8項)です。ただし評価自体は必要で、当局から求められた場合は評価に関する事実を示します。従業員50人のEC事業者は、売上が小さくても零細企業には当たりません。

不均衡な負担の評価文書とサービスの再評価義務

第14条は、要件への適合が製品・サービスの基本的性質を根本から変える場合と、事業者に不均衡な負担を課す場合に、その範囲で要件の適用を外します。ただし使うための手続きが重く設定されています。

  • 附属書VIの基準(対応の純費用と製造・提供の総費用の比、障害者が得る便益と利用頻度)で評価し、文書化する
  • 評価結果は最後の販売・提供から5年間保管し、当局の求めに応じて提出する
  • サービス提供者は、サービスを変更したとき、当局から求められたとき、少なくとも5年ごとに評価をやり直す
  • 例外を使う場合は販売先の加盟国の当局に通知する(零細企業を除く)
  • アクセシビリティ改善のための外部資金を受けている場合は、不均衡な負担を主張できない

「費用が高いから対応しない」という判断は、この文書が揃っていない限り例外として扱われません。まず対象の画面・機能と対応方法を整理し、改修見積などで費用を把握したうえで、附属書VIの基準に沿って例外の可否を評価し、その根拠を残します。

EAAの要件とWCAG・EN 301 549の関係

「EAAはWCAG 2.1 AAへの準拠を義務付けている」という説明はよく見かけますが、条文の構造とは違います。WCAGとの関係は、指令の機能要件と、整合規格による適合推定を分けると整理できます。

「accessibility requirements」が指す附属書Iの要件

EAAの「accessibility requirements(アクセシビリティ要件)」は、附属書Iに書かれた機能要件のことです。たとえばすべてのサービスに共通する附属書I第III節は、Webサイトとアプリを「知覚可能、操作可能、理解可能、堅牢」にすること、情報を複数の感覚チャネルで提供すること、文字サイズやコントラストを適切にすることなどを求めています。この4原則はWCAGと同じ言葉ですが、指令の本文と附属書にWCAGという語は1回も出てきません(EUR-Lexの英語版本文で確認)。

WCAGが入ってくるのは第15条の「適合推定」を通じてです。EU官報に参照が掲載された整合規格に適合していれば、その規格がカバーする範囲で指令の要件を満たしていると推定されます。EAAでその整合規格の役割を担うのがEN 301 549で、EN 301 549のWebの章がWCAGの達成基準を取り込んでいます。

EN 301 549 V3.2.1とV4.1.1の違い

項目 V3.2.1 V4.1.1
公開 2021年3月 2026年9月2日
Web・文書・ソフトの基準 WCAG 2.1 A・AA WCAG 2.2 A・AA
EAAとの対応表 なし 附属書ZBを新設
EAAの適合推定 与えない EU官報掲載後に与える

V3.2.1は公的機関向けのWebアクセシビリティ指令(EU)2016/2102のための整合規格で、EAAの要件との対応は示していません。V4.1.1は欧州委員会の標準化要請C(2022) 6456(M/587)に基づいて作られ、序文に「EU官報に引用された時点で、A.2節の表に示す規定への適合がEAAの対応する要件への適合推定を与える」と書かれています。規格の採択日は2026年8月24日、各国が国内規格として告知する期限は2026年11月30日です。

つまり2026年10月時点では、EAAの適合推定を与える整合規格はまだEU官報に掲載されていません。適用開始から1年以上、事業者は附属書Iの機能要件そのものに対して適合を説明する必要がある状態が続いています。

目標はWCAG 2.2 AAに置くべき理由

これから改修やテストの基準を決めるなら、目標はWCAG 2.2のレベルAAに置くべきです。V4.1.1で追加されたのは、フォーカスが隠れない(2.4.11)、ドラッグ操作の代替(2.5.7)、ターゲットサイズ最小(2.5.8)、一貫したヘルプ(3.2.6)、入力の繰り返し回避(3.3.7)、認証で記憶テストを課さない(3.3.8)の6基準で、どれもECの購入導線やログイン画面に直接かかわります。既存のWCAG 2.1 AA適合が維持されている場合、WCAG 2.2 AAへの移行では追加6基準を確認します。ただしEN 301 549 V4.1.1への対応には、9.7の利用者設定など、WCAG以外の適用要件も確認する必要があります。各基準の詳細はWCAGとは?最新版2.2の4原則・達成基準86件とAA適合の範囲を参照してください。

注意点として、EN 301 549はWebだけの規格ではありません。リアルタイムテキスト(第6章)や、ハードウェア・ソフトウェアの要件も含みます。端末やアプリを提供する事業者がWCAGだけを見ていると、通話機能や設定画面の要件を落とします。

サービス提供者に課される情報提供と継続的な適合

EAAには、Webアクセシビリティ指令にある「アクセシビリティ宣言」という名前の書類はありません。その代わりに第13条と附属書Vが、サービス提供者に次の情報を公開するよう求めています。

  • サービスの一般的な説明(アクセシブルな形式で)
  • サービスの操作を理解するのに必要な説明
  • 附属書Iの要件をどう満たしているかの説明

掲載場所は「一般取引条件またはそれに相当する文書」と指定されています。ECなら利用規約の中か、利用規約から辿れるページに置くのが条文に沿った形です。情報は書面と口頭で、障害のある人にもアクセシブルな方法で提供し、サービスを運営している間は保持します。文面の組み立て方はWebアクセシビリティ方針の書き方:対象範囲・適合レベル・達成期限の文面と試験結果の書式が参考になります。

情報を一度出せば終わりではありません。第13条3項は、サービスの仕様変更や整合規格の改訂を反映して適合を保つ手続きを求めています。EN 301 549がV4.1.1へ移ることは、まさにこの「整合規格の変更」に当たります。不適合が見つかったときは是正し、サービスを提供している加盟国の当局へ直ちに知らせる義務もあります(第13条4項)。

違反時の罰則とドイツBFSGの過料上限

指令第30条は、罰則を「効果的、比例的かつ抑止的」なものとし、是正措置を伴わせるよう加盟国に求めるだけで、金額は定めていません。罰則の重さは、不適合の深刻さ、該当する製品・サービスの数、影響を受けた人数を考慮して決めるとされています(第30条4項)。

具体的な金額は国内法で確認します。ドイツのBFSG第37条2項は、要件を満たさない製品の市場投入や、要件を満たさないサービスの提供・実施などに最大10万ユーロ、情報提供義務の違反などその他の違反に最大1万ユーロの過料を定めています。過料とは別に、当局の是正手続きもあります。BFSG第30条は、附属書Vに当たる情報(BFSGでは附則3)を作っていない、またはアクセシブルな形で公開していない状態を「形式的な不適合」と呼び、当局がまず期限を切って是正を求め、従わなければサービスの提供禁止を予告して再度求めると定めています。要件の中身を満たしていても、情報の掲載漏れだけで手続きの対象になるということです。

ドイツの過料上限を、他の加盟国の罰則や個別の制裁事例にそのまま当てはめることはできません。販売先が複数国にまたがる場合は、国ごとの国内法で上限と執行機関を確認してください。

日本企業がEAA対応を判断する手順

EU向けに何かを販売しているからといって、すぐに全社サイトの改修が必要になるわけではありません。次の順で対象を絞ります。

  1. 顧客が消費者か:サービスは法人だけが相手なら指令の対象外です。製品は販売先が法人でも、決済端末など第2条1項の対象製品に該当する場合があります。法人向けのサービスでも、消費者が個人として申し込める導線があれば、その部分は該当し得ます。
  2. 第2条のどの分類か:EC・銀行・電子書籍・通信・旅客輸送・対象製品のいずれにも当たらなければ対象外です。
  3. 零細企業か:サービスのみなら、従業員10人未満かつ売上高または総資産200万ユーロ以下で免除されます。製品を扱う場合は免除されません。
  4. 誰の義務か:製品なら製造者・輸入業者・販売業者のどれに当たるか。自社名で販売すると、輸入業者でも製造者の義務を負います(第11条)。
  5. 対応範囲:EN 301 549 V4.1.1(WCAG 2.2 AA)を基準に監査し、附属書Vの情報を利用規約側に掲載します。例外を使う部分は第14条の評価を文書化します。

監査の進め方はWebアクセシビリティ診断の進め方:自動・手動・当事者検証の三層設計と外注の判断基準で詳しく扱っています。

避けるべきなのは、自動修正をうたうオーバーレイ型のツールを入れて「EAA対応済み」と表示することです。EAAが求めるのはサービスそのものが附属書Iの要件を満たすことと、その説明を附属書Vの形で出すことで、表示を上書きするスクリプトの導入は、そのどちらの証明にもなりません。日本国内向けにJIS X 8341-3で対応してきた場合は、JIS X 8341-3とは?2016年版の要点とWCAG 2.2との差、改正の見通しで差分を確認し、次にWCAG 2.1で追加されたA・AA基準、最後にWCAG 2.2の追加6基準の順に確認すると手戻りが少なくなります。

よくある質問

EAAとは何ですか?

EUが2019年に採択した指令(EU)2019/882で、対象の製品・サービスにアクセシビリティ要件を課すものです。2025年6月28日から加盟国の国内法として適用されています。

EAAはWCAGのどのレベルへの準拠を求めていますか?

指令自体はWCAGに言及していません。EN 301 549 V3.2.1はWCAG 2.1のレベルA・AAを取り込んでいますが、EAAの適合推定は与えません。2026年9月公開のV4.1.1はWCAG 2.2のレベルA・AAを取り込み、EAAに基づくEU官報への参照掲載が適合推定の条件になります。これから対応するならWCAG 2.2 AAが目標です。

EU域外の日本企業もEAAの対象になりますか?

EU域内の消費者に対象製品を販売したり、対象サービスを提供したりしていれば対象になり得ます。製品の場合は域内の輸入業者・販売業者も適合を確認する義務を負うため、取引先から適合の証明を求められます。

BtoBのサービスもEAAの対象ですか?

対象サービスは消費者に提供されるものに限られるため、法人だけを顧客とするサービスは対象外です。消費者も申し込める導線がある場合は、その部分が対象になり得ます。

EAAに違反するとどのような罰則がありますか?

罰則の内容は加盟国の国内法が決めます。ドイツのBFSGは、要件を満たさないサービスの提供などに最大10万ユーロ、その他の違反に最大1万ユーロの過料を定めています。

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