BCPを作ろうとして最初につまずくのは、公的なガイドラインが何本もあり、どれを開けばよいか分からない点です。内閣府、中小企業庁、経済産業省、厚生労働省、国土交通省がそれぞれ文書を出しており、名前も対象も似ています。結論から言えば、考え方の土台は内閣府「事業継続ガイドライン」の令和5年3月版1本で足り、記入する様式は中小企業庁の「中小企業BCP策定運用指針」から取るのが最短です。この記事では、省庁別・業種別の文書の役割分担、内閣府版の改定履歴と中身、巻末のチェックリストの使い方、策定が義務になる範囲を、各文書の原文と令和7年度の実態調査から整理します。
まとめ:ガイドラインを読む順序と使い分け
- 土台:内閣府「事業継続ガイドライン」令和5年3月版(全53頁)が現行の最新版です。業種・規模を問わず全ての企業・組織を対象にしています。内閣府は2026年7月から次の改定を検討しています。
- 令和5年改定の中身:追加はテレワーク・オンラインでの意思決定と、情報セキュリティー強化の2点です。「オールハザード」という語は令和5年3月版に無く、次の改定の検討事項に入っています。
- 様式:中小企業は中小企業庁「中小企業BCP策定運用指針 第2版」の記入シート(様式01〜20、枝番込みで25種)を使います。
- 点検:内閣府版の巻末にある別添チェックリスト86項目で、作ったBCPの抜けを確認できます。
- 業種別:建設、物流、港湾、医療、金融などは、所管省庁や業界団体(建設は日本建設業連合会も)の個別ガイドラインを内閣府版に重ねます。
- 義務:法令上の策定義務は介護・障害福祉サービスなどに限られ、一般企業にはありません。令和7年度の策定率は大企業75.8%、中堅企業54.8%です。
公的BCPガイドラインの全体像と省庁別の役割分担
BCP関連の公的文書は、全業種共通の考え方、規模別・業種別の実務、行政機関自身の業務継続の3系統に分かれます。同じ「BCPガイドライン」でも系統が違えば中身は別物です。
| 文書名 | 発行元 | 最新版 | 対象 |
|---|---|---|---|
| 事業継続ガイドライン | 内閣府(防災担当) | 令和5年3月 | 全業種・全規模 |
| 中小企業BCP策定運用指針 | 中小企業庁 | 第2版(平成24年4月) | 中小企業 |
| 事業継続力強化計画 | 中小企業庁 | ―(認定制度) | 中小企業者等 |
| 業務継続ガイドライン(自然災害・感染症) | 厚生労働省 | ― | 介護・障害福祉の事業所 |
| ICT部門の業務継続計画ガイドライン | 総務省 | 令和6年3月 | 地方公共団体 |
| 中央省庁業務継続ガイドライン | 内閣府(防災担当) | 第3版(令和4年4月) | 中央省庁 |
| JIS Q 22301(ISO 22301) | 日本産業規格 | 2020年(原規格2019年) | 認証を取る組織 |
民間企業がまず開くのは上の2行です。中央省庁業務継続ガイドラインと総務省のICT部門向け文書は行政機関自身の業務が対象で、「官公庁 BCP」を探している場合にだけ使います。
経済産業省の事業継続計画策定ガイドライン(2005年)とITサービス継続ガイドライン(2008年)の位置づけ
「経済産業省のBCPガイドライン」として探されるのは、平成17年3月の「事業継続計画策定ガイドライン」(企業における情報セキュリティガバナンスのあり方に関する研究会報告書・参考資料)と、平成20年9月の「ITサービス継続ガイドライン」(内閣府サイトに掲載されている版)の2本です。2005年版は企業を対象にBCPの計画とマネジメントの骨子をケーススタディ付きで示した全社向けの文書で、2008年版はその1.2章が書くとおり、2005年版からITの要素を取り出して具体化したものです。内閣府版の脚注62はこの2本をバックアップシステムの参照先に挙げています。現在は全社の考え方を内閣府版で押さえ、経産省の文書は情報システム部分の資料として使うのが実務的で、その部分はIT-BCPとは?BCPとの違いと策定9ステップ・復旧優先度の決め方で扱う手順、と分けて読むと迷いません。中小企業向けの様式を探しているなら、経済産業省の外局である中小企業庁の策定運用指針(後述)が当たりです。
業種別ガイドライン(建設・物流・港湾・医療・金融)の探し方
内閣府の防災情報のページ「知る・計画する」に、省庁別・業種別のガイドラインの一覧があります。主なものは次のとおりです。
| 業種 | 文書・制度 | 所管 |
|---|---|---|
| 建設業 | 建設会社における災害時の事業継続力認定 | 国土交通省 各地方整備局 |
| 建設業 | 建設BCPガイドライン 第5版(2024年3月) | 日本建設業連合会 |
| 物流 | 荷主と物流事業者が連携したBCP策定のためのガイドライン | 国土交通省 |
| 港湾 | 港湾の事業継続計画策定ガイドライン(改訂版・感染症編) | 国土交通省 港湾局 |
| 空港 | A2-BCPガイドライン | 国土交通省 航空局 |
| 下水道 | 下水道BCP策定マニュアル2022年版(自然災害編) | 国土交通省 |
| 医療 | 医療施設の災害対応のための事業継続計画 | 厚生労働省 |
| 児童福祉 | 児童福祉施設における業務継続ガイドライン | こども家庭庁 |
| 金融 | 主要行等・金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針 | 金融庁 |
建設業の認定は地方整備局ごとに制度名が違います。関東地方整備局の認定は、BCP策定の有無ではなく基礎的な事業継続力(災害時の業務継続の体制づくり)を評価するもので、平成22年度から総合評価の入札で加点対象になっています。業種別の文書は内閣府版の考え方を前提にしているので、内閣府版で骨格を作り、業種別で業界固有の要件を足す順序にしてください。業種別だけを読むと、目標復旧時間の決め方などが抜けます。
内閣府「事業継続ガイドライン」令和5年3月版の中身
正式名称は「事業継続ガイドライン-あらゆる危機的事象を乗り越えるための戦略と対応-」で、内閣府のガイドライン掲載ページから令和5年3月版のPDFを入手できます。掲載ページには令和3年4月版、第三版、第二版、第一版と英語版・解説書も並んでいるので、手元の版は表紙の年月で確かめます。
改定履歴5版と、令和5年3月改定で追加された2項目
巻頭の「表(1) 事業継続ガイドライン策定・改定に係る目的と経緯」に、初版から現行版までの経緯が載っています。
| 策定時期 | 主な目的 |
|---|---|
| 平成17年8月(第一版) | BCPの策定促進 |
| 平成21年11月 | 実用性向上(目標復旧レベルの明示など5項目) |
| 平成25年8月 | 平常時からのBCMの普及、災害教訓の反映 |
| 令和3年4月 | 災害時の従業員等の外出抑制策の反映 |
| 令和5年3月 | テレワーク・オンライン意思決定、情報セキュリティー強化 |
第一版の年月は資料によって食い違います。PDF巻頭の表(1)は平成17年8月、内閣府の掲載ページと「各省庁による事業継続計画ガイドライン等の概要」は平成17年10月と書いています。社内資料に書くなら、どちらの資料に拠ったかを添えてください。改定の間隔は4年3か月、3年9か月、7年8か月、1年11か月とばらついており、周期からは次回改定を予測できません。
令和3年4月改定は、令和元年台風第19号を受けた中央防災会議ワーキンググループの報告(令和2年3月)に基づくもので、計画運休に合わせた計画休業、早めのテレワーク実施、特別休暇による外出抑制といった、被害発生前の予防的な行動を全体手順表に書くよう促しています。風水害を事前に読める事象として扱った点が地震中心の旧版との違いです。
令和5年3月改定で加わったのは、表(1)によれば「『安心安全で健康』に配慮した対策に関して、テレワークの導入及びオンラインを活用した意思決定を行える仕組みの整備などを明示」「情報セキュリティー強化などを明示」の2点だけです。令和5年3月版の全53頁に「オールハザード」という語は1回も出てきません。あらゆる事象を対象にする姿勢は副題と序文にすでにありますが、オールハザードへの対策を明示的に盛り込むのは、次に述べる改定の検討事項です。令和5年改定の内容として社内に説明するなら、テレワークと情報セキュリティの2点にとどめてください。
次の改定はすでに動いています。内閣府は令和8年7月13日に「事業継続ガイドライン改定等に関する検討会」の第1回を開き、第2回を10月5日に開きました。第1回の資料2は、南海トラフ地震・首都直下地震の基本計画の改定内容に加え、オールハザードへの対策の必要性や地域防災への参画を盛り込む改定を検討すると書き、検討テーマに代替拠点を含む代替戦略の具体化、「結果事象起点」での対策の整理、企業間連携を含むサプライチェーン対策、帰宅困難者対策を挙げています。改定案の確認は全7回の最終回に置かれています。2026年10月時点の確定版は令和5年3月版なので、いまは令和5年3月版で作り、改定版が出たら差分を当てるのが手戻りの少ない順序です。
BCMの全体プロセスとBCPの関係
ガイドラインはBCPを単体の文書ではなく、事業継続マネジメント(BCM)の中に置いています。1.5章の全体プロセスは、方針の策定、分析・検討、事業継続戦略・対策の検討と決定、計画の策定、事前対策と教育・訓練の実施、見直し・改善の順で、目次のⅡ章からⅦ章がこの順に並びます。BCPはⅤ章「計画の策定」で作る成果物で、その前にⅢ章の事業影響度分析とリスクの分析・評価があります。BCMの回し方とISO 22301との関係はBCMとは?BCPとの違いと事業継続マネジメントの回し方・ISO 22301で詳しく扱っています。
目標復旧時間・目標復旧レベルの決め方とRPOの位置づけ
BCPの数値目標を決めるのは3.1.2「重要業務の決定と目標復旧時間・目標復旧レベルの検討」です。時間の許容限界より早く目標復旧時間(RTO)を、レベルの許容限界を上回るように目標復旧レベル(RLO)を設定する書き方で、脚注30は「単なる目標ではなく、講じた対策により達成可能なものでなければならない」と念を押しています。RLOは平成21年11月の改定で「目標復旧時間と不可分な目標復旧レベルの存在の明示」として加わった概念です。
これに対して目標復旧時点(RPO)という語は本文に出てきません。情報システムの維持を扱う4.2.3章の本文が「どれくらいの期間のデータ損失を許容するか」を慎重に検討して決め、それに基づいてバックアップの取得頻度を決めるよう求めており、その箇所に付いた脚注63と付録1の用語解説の2か所でRPOと呼んでいます。業務ごとのRTOとRLOはBCPで決め、それを満たすデータの戻し先の時点(RPO)は情報システム側の災害復旧設計で決める、という分担として読めます。情報システム側の設計はDR対策とは?構成4パターンのRPO・RTO目安とDR計画の作り方にまとめています。
原因事象ではなく結果事象で考えるという設計原則
4.1章「事業継続戦略・対策の基本的考え方」の本文は、「BCMでは、自社に生じた事態を原因事象(例えば、直下型地震)により考えるのでなく、結果事象(例えば、自社の○○拠点が使用不能)により考え、対応策を検討することが推奨される」と書いています。続けて、個々の重要な要素の代替を確保する代替戦略は幅広い事象に共通して有効になりやすいため、必ず考えるべき戦略だとしています。
この原則が効くのは戦略の章です。地震編、水害編、感染症編、サイバー攻撃編と災害別に戦略を並べると対策が重複します。「本社が使えない」「基幹システムが止まる」「主要仕入先から入荷しない」といった結果事象で切れば、代替拠点・代替システム・代替調達先の検討に集約できます。ただし初動まで一本化してはいけません。避難や安全確保、令和3年改定で入った計画運休時の外出抑制は事象ごとに手順が違います。戦略は結果事象で束ね、初動は原因事象別に残すのが原文に沿った使い方です。なお代替戦略には平常時の費用や採算性の面で容易でないという課題も併記されています。
企業の備蓄量の目安(3日分・水9リットル)と根拠文書
「企業の備蓄品の目安」を内閣府版に探すと、5.1.2章の事前対策の例に「備蓄品」があり、脚注83が品目と数量は拠点所在地の条例等を参考にするよう書いています。例として挙げているのが東京都帰宅困難者対策条例で、事業者に従業員が施設内に留まれるよう3日分の飲料水や食料等を備蓄することを努力義務として定めている、という記述です(条例第7条第2項)。
品目ごとの量は、内閣府の帰宅困難者等対策のページにある「災害発生時における大規模な帰宅困難者等の発生への対策に関するガイドライン」(令和8年1月改定)が示しています。参考資料2の目安は、1人あたり水が1日3リットルで計9リットル、主食が1日3食で計9食、毛布が1枚です。対象は雇用形態を問わず事業所内で勤務する全従業員で、来客など外部の帰宅困難者のために10%程度を余分に備蓄する例も挙げています。事業継続ガイドラインは量を書かず、この2つの文書に委ねている構造です。
この3日分を満たしている企業は多くありません。令和7年度の内閣府調査では、3日分以上の備蓄がある企業は大企業でも飲料水66.1%、食料品65.3%、簡易・携帯用トイレ55.7%で、中堅企業は43.0%、41.4%、32.1%でした。「何らかの備蓄あり」の割合(大企業の飲料水93.2%など)だけを見ると充足しているように見えるので、自社の点検では日数で数えてください。従業員以外の帰宅困難者用に余分な備蓄がある企業も、何らかの備蓄をしている企業の3割程度にとどまります。
別添チェックリスト86項目で作ったBCPを点検する
令和5年3月版のPDFの末尾には「事業継続ガイドライン チェックリスト」が付いています。導入時と導入後の取組を簡易に確認するためのもので、□の付いた設問が86項目あります。ガイドライン本文の章立てに沿って並んでいるため、本文の該当章を読み返す索引としても使えます。
| 区分(本文の章) | 項目数 |
|---|---|
| 経営者に求められる事項(1.4) | 7 |
| 基本方針・実施体制(2.1〜2.2) | 8 |
| 事業影響度分析・リスク分析(3.1〜3.2) | 8 |
| 事業継続戦略・対策、地域との共生(4.1〜4.3) | 29 |
| 計画の策定・文書化、事前対策、教育・訓練(5.1〜6.2) | 21 |
| 点検・見直し・改善(7.1〜7.4) | 13 |
最も多いのは戦略・対策の29項目で、BCPの文書そのもの(緊急時の体制と対応手順)にあたる5.1.1は8項目です。チェックリストの重心は「計画書があるか」ではなく、計画の前後にある分析・戦略と、作った後の訓練・見直しに置かれています。
実務で引っかかりやすい設問は3つあります。2.1の「基本方針は取締役会または経営会議の決議を経ているか」は、担当部署だけで作ったBCPがまず落ちる項目です。3.1.2の「目標復旧時間」「目標復旧レベル」を決めて重要業務間に優先順位を付けているかは、RTOだけ書いてRLOが空欄になっている計画で落ちます。1.4の経営者向け7項目には、経営者自身がBCMの議論に自分のスケジュールを確保して参画しているか(③)という設問があります。点検結果は経営者自らが把握すべきだと、チェックリストの冒頭に書かれています。
中小企業庁「中小企業BCP策定運用指針」で様式に落とし込む
内閣府版を読んでも、何をどの欄に書けばよいかは分かりません。そこを埋めるのが中小企業庁「中小企業BCP策定運用指針」です。平成18年2月に第1版、平成24年4月に第2版が出ており、第2版で小規模事業者を含む初心者向けの入門コースが加わりました。2026年10月時点でダウンロードページに置かれているのも第2版です。
コースは入門・基本・中級・上級の4つで、基本は経営者1人で延べ1〜2日、中級は1人で延べ3〜5日(サブリーダーを含め数人なら2〜3日)、上級は数人で延べ1週間程度が目安とされています。コースを選ぶ前に、20問のBCP取組状況チェック(旧・入門診断)で現在地を測る構成です。
実務で価値が高いのはダウンロードページの記入シートです。様式01〜20(枝番込みで25種)があり、利用必須は基本コースで16種、中級で18種、上級で22種です。中核事業に係る情報、各種資源の代替の情報、ボトルネック資源などの様式に、内閣府版の3.1章から4章で検討する内容の多くを書き込めます。内閣府版に無い財務診断モデルでは復旧費用と緊急時の資金繰りを試算でき、議論が「いくらかかるのか」で止まる会社でも数字から始められます。策定の手順と無料の公的支援は中小企業のBCP策定手順|策定率18.3%の現状と中小企業庁指針・事業継続力強化計画の使い分けで扱っています。
BCP策定が義務の事業と、義務ではない一般企業
一般企業にBCPの策定義務はありません。内閣府版も中小企業庁の指針も、自主的な取組を促す文書で法的強制力を持ちません。内閣府版の序文も目的を「企業・組織の自主的な事業継続の取組を促し」と書いています。
法令上の義務があるのは介護保険サービスと障害福祉サービスの事業所です。厚生労働省が自然災害と感染症の2種類のガイドラインとひな形を示しており、経過措置は令和6年3月31日で終了しました。2024年4月からは全事業所で策定済みであることが前提で、未策定は運営指導での指摘対象になります。この分野の要件と減算は介護BCP(業務継続計画)とは?義務化と未策定減算・策定手順で詳しく扱っています。
一般企業で実質的な強制力として働くのは取引条件です。上流企業が調達先の選定条件にBCPの有無を入れる、建設業の認定が入札で加点される、といった形で要求が下りてきます。求められるのは分厚い計画書ではなく「いつまでに、どの水準まで戻せるか」の回答なので、内閣府版のRTOとRLOを先に決めて1枚にまとめておくと要請に答えられます。BCPの基本的な考え方はBCPとは?事業継続計画の意味と防災計画との違い、RTO・RLOの決め方を参照してください。
事業継続力強化計画の認定で使える税制・金融措置
中小企業の対策費用を支えるのが事業継続力強化計画です。中小企業者等が作る防災・減災の事前対策の計画を経済産業大臣が認定する制度で、認定を受けると税制措置、金融支援、補助金の加点が受けられます。
税制は中小企業防災・減災投資促進税制で、令和元年7月16日から令和9年3月31日までに認定を受けた事業者が、認定日から1年以内に計画に書いた対象設備を取得して事業に使うと、特別償却16%を受けられます。認定の期限(令和9年3月31日)と設備取得の期限(認定日から1年)の2つがあるので、設備投資の時期から逆算して認定申請を先に済ませます。制度は改正されることがあるため、申請前に中小企業庁の最新の案内を確認してください。補助金・助成金との組み合わせはBCP対策の補助金・助成金|2026年度の制度と申請の順序で整理しています。
令和7年度実態調査で見るBCP策定率と、伸びていない領域
現時点で最新の策定率データは、内閣府(防災計画担当)の「令和7年度 企業の事業継続及び防災の取組に関する実態調査」概要(令和8年3月付)です。平成19年から隔年で実施され今回が通算10回目、調査対象5,052社、回答率34.8%の一般統計調査です。
策定率は大企業75.8%(前回比0.6ポイント減)、中堅企業54.8%(同9.3ポイント増)でした。大企業の推移は18.9%から始まり、直近は70.8%、76.4%、75.8%と7割台で頭打ちの局面に入っています。中堅企業は12.4%から54.8%へ伸び続けており、伸びしろは中堅企業側に移りました。この調査の区分は大企業と中堅企業の2つで中小企業は含まれず、他の調査の中小企業の数値とは母集団も定義も違うため並べて比較できません。
| 業種 | 令和3年度 | 令和5年度 | 令和7年度 |
|---|---|---|---|
| 金融・保険業 | 81.6% | 76.6% | 82.2% |
| 建設業 | 52.8% | 63.4% | 75.7% |
| 製造業 | 52.0% | 58.3% | 66.3% |
| 情報通信業 | 55.6% | 53.8% | 57.9% |
| 卸売業 | 41.4% | 42.8% | 50.0% |
| サービス業 | 42.3% | 56.7% | 49.6% |
| 運輸業・郵便業 | 49.0% | 66.2% | 48.8% |
| 小売業 | 30.5% | 34.7% | 47.9% |
| 宿泊業、飲食サービス業 | 15.6% | 27.2% | 41.0% |
| 不動産業、物品賃貸業 | 40.7% | 43.7% | 36.9% |
10業種のうち7業種で上昇し、小売業(34.7%から47.9%)と宿泊業、飲食サービス業(27.2%から41.0%)は前回から10ポイント以上伸びました。令和元年度から3回続けて伸びているのは製造業、小売業、宿泊業、飲食サービス業で、建設業も令和3年度から2回続けて伸びています。運輸業・郵便業は前回比17.4ポイント減と最大の下げ幅ですが、令和3年度の49.0%と並べると、令和5年度の66.2%が突出していたと読むほうが自然です。金融・保険業も平成27年度86.9%から平成29年度66.0%へ動いた回があり、業種別の値は1回の増減で傾向を判断しないほうが安全です。
サプライチェーン対策に取り組む企業は大企業で約5割、中堅企業で約2割にとどまり、代替戦略の検討は、検討中を含めて大企業が7割を超える一方、中堅企業は5割に届きません。リスク対応を進める上での課題は、大企業・中堅企業ともに「自社従業員への取組の浸透」が最多で、次いで「取組時間・人員の確保」でした。BCPを作り終えた企業の次の一手は章を足すことではなく、別添チェックリストの教育・訓練と見直しの項目を埋めることです。訓練の前提になる従業員の安否把握は安否確認システムとは?仕組み・費用相場と自社に合う選び方を開発会社が解説で扱っています。
よくある質問
内閣府の事業継続ガイドラインの最新版はどれですか?
令和5年3月版が最新で、正式名称は「事業継続ガイドライン-あらゆる危機的事象を乗り越えるための戦略と対応-」です。内閣府防災情報のページの企業防災コーナーからPDFで入手できます。同じページに令和3年4月版や第三版も掲載されているので、表紙の年月で版を確かめてください。なお内閣府は令和8年7月に改定の検討会を始めており、改定版が出ればそちらが最新になります。
令和5年3月の改定では何が変わりましたか?
巻頭の改定経緯の表によれば、テレワークの導入とオンラインを活用した意思決定の仕組みの整備、情報セキュリティー強化の2点が明示されました。「オールハザード」という語は令和5年3月版に1回も出てこず、オールハザードへの対策は令和8年7月から検討中の次の改定の論点です。
BCPの策定は一般企業にも義務化されますか?
一般企業に法令上の策定義務はなく、義務化の予定も公表されていません。義務があるのは介護保険サービスと障害福祉サービスの事業所で、経過措置が令和6年3月31日に終了したため2024年4月から全事業所が対象です。一般企業では、取引先の調達条件や入札での評価として実質的に求められる形が中心です。
経済産業省のBCPガイドラインはありますか?
平成17年3月の「事業継続計画策定ガイドライン」と平成20年9月の「ITサービス継続ガイドライン」があり、内閣府版の脚注62がバックアップシステムの参照先として挙げています。2005年版は全社のBCP策定の考え方を示した研究会報告書の参考資料、2008年版はそのIT部分を具体化した文書です。現在、全社のBCPは内閣府版、中小企業の様式は経済産業省の外局である中小企業庁の策定運用指針を使います。
内閣府と中小企業庁のガイドラインはどちらを使えばよいですか?
役割で使い分けます。BCMの考え方、目標復旧時間と目標復旧レベルの決め方、戦略の立て方は内閣府版が、記入する様式と財務面の試算は中小企業庁の策定運用指針が担当します。中小企業が最初の1本を作るなら、内閣府版で考え方を確認し、BCP取組状況チェックでコースを選んで様式を埋め、最後に内閣府版の別添チェックリストで点検する順序が手戻りの少ない進め方です。