スマホ新法は、AppleとGoogleに対してアプリストア・決済・ブラウザの囲い込みを禁じる日本の法律です。2025年12月18日の全面施行から約10か月が経ち、iPhoneにはブラウザの選択画面と代替アプリマーケットプレイスが、Google Playでは代替課金の対象が全アプリに広がって外部決済プログラムが新設され、2026年9月30日には手数料体系も改められました。
本記事では、施行前の予測ではなく施行後に実際に起きた変更を、条文(e-Gov)と公正取引委員会・Apple・Googleの公表資料で確認しながら整理します。iPhoneで何ができるようになり何はできないままか、安全性は下がるのか、手数料は本当に下がるのか、社用スマホの管理で何を見直すべきかまで扱います。
まとめ:スマホ新法の要点(2026年10月時点)
- 正式名称は「スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律」(令和6年法律第58号)。略称はスマホソフトウェア競争促進法、公取委はスマホ法とも呼びます。
- 規制対象はOS・アプリストア・ブラウザ・検索エンジンの4分野で、指定事業者はApple Inc.、iTunes株式会社、Google LLCの3社です。
- iOS 26.2以降の日本では、ブラウザと検索エンジンの選択画面、Safariの削除、代替アプリマーケットプレイス、App Store内の代替決済が使えます。代替マーケットプレイスは、2026年3月31日時点でAppleの承認を受けたものが6つあり、Epic Games Store(2026年5月1日〜)ではフォートナイトが配信されています。
- APKのインストール、iPhone版Google Play、任意のWebサイトからのアプリの直接インストールは、施行後もできません。代替マーケットプレイス経由のアプリもAppleの公証を通ります。
- Appleの標準手数料は、アプリ内購入が30%から26%(21%+決済処理5%)に下がり、代替決済で21%、Webへの誘導で15%、App Store外の配信で5%です。Googleは2026年9月30日から「お支払い方法の選択プログラム」に移り、標準料率は代替課金で20〜25%、外部リンク経由で20%です(年間収益100万米ドルまでや定期購入は10%)。
- アプリストアやOS機能・決済の囲い込み(第7条・第8条第1号・第2号)に違反すると、対象売上の20%(再違反は30%)の課徴金が科されます。
- 公取委は遵守報告書を2026年2月17日と7月27日に公表しました。法の見直しは施行後3年が目途です。
以下、法律の骨格、利用者と事業者への影響、施行後の運用の順に見ていきます。
スマホ新法の正式名称と規制対象の3社
規制の対象になるのは、条文で「特定ソフトウェア」と呼ばれる4種類のソフトウェアです。基本動作ソフトウェア(モバイルOS。代表例はOSの種類と代表例の一覧を参照)、アプリストア、ブラウザ、検索エンジンがこれに当たります(第2条第7項)。事業者の指定基準は施行令第1条で、種類ごとの月間利用者数の年度平均が4,000万人以上と定められています。
公正取引委員会は2025年3月26日に次の3社を指定しました。Appleは検索エンジンの指定を受けておらず、Googleだけが4分野すべてで指定されています。
| 指定事業者 | 指定された特定ソフトウェア | 該当する主な製品 |
|---|---|---|
| Apple Inc. | OS・アプリストア・ブラウザ | iOS・App Store・Safari |
| iTunes株式会社 | アプリストア | App Store(Appleと共同提供) |
| Google LLC | OS・アプリストア・ブラウザ・検索エンジン | Android・Google Play・Chrome・Google検索 |
成立から全面施行までの日程
| 日付 | 出来事 |
|---|---|
| 2024年6月12日 | 国会で成立 |
| 2024年6月19日 | 公布(令和6年法律第58号) |
| 2025年3月26日 | 公取委がApple・iTunes・Googleを指定 |
| 2025年7月29日 | 政令改正と「スマホソフトウェア競争促進法に関する指針」を公表 |
| 2025年12月18日 | 全面施行・申告フォーム設置 |
| 2026年2月17日 | 全面施行時点の遵守報告書を公表 |
| 2026年7月24日 | 利用者向け解説動画とパンフレットを公開 |
| 2026年7月27日 | 令和7年度の遵守報告書を公表 |
「スマホ 法改正」と検索されることがありますが、スマホ新法は既存の法律の改正ではなく、独占禁止法とは別に新しく作られた法律です。独占禁止法では違反の認定に市場への影響を個別に立証する必要があり、時間がかかります。スマホ新法は、やってはいけない行為を条文であらかじめ列挙し、指定事業者に最初から守らせる事前規制の形をとっています。EUのデジタル市場法(DMA)と同じ発想です。プラットフォームを規制する理屈はマルチサイドプラットフォームの定義と日本の規制でも解説しています。
条文で見る禁止事項と遵守事項
指定事業者の義務は、第5条から第9条の「禁止事項」と、第10条から第13条の「遵守事項」に分かれます。どの条に違反したかで、公取委がとる措置の重さが変わります。
| 条 | 内容 | 違反時の措置 |
|---|---|---|
| 第5条 | 取得した非公開データを競合する自社サービスに使わない | 排除措置命令 |
| 第6条 | アプリ事業者を不当に差別しない | 排除措置命令 |
| 第7条 | 他社アプリストアやOS機能(音声出力等)の利用を妨げない | 排除措置命令+課徴金 |
| 第8条第1号 | 自社以外の決済手段の利用を妨げない | 排除措置命令+課徴金 |
| 第8条第2号 | アプリ内での外部販売価格の表示や外部誘導を妨げない | 排除措置命令+課徴金 |
| 第8条第3号 | 自社以外のブラウザエンジンの利用を妨げない | 排除措置命令 |
| 第8条第4号 | 自社のログイン方法の表示を条件にしない | 排除措置命令 |
| 第9条 | 検索結果で自社サービスを不当に優遇しない | 排除措置命令 |
| 第10条・第11条 | データ取得条件の開示・データ移転(ポータビリティ) | 勧告→命令 |
| 第12条 | 標準設定の簡易変更・選択画面・自社アプリの削除 | 勧告→命令 |
| 第13条 | 仕様変更時の猶予期間と情報開示 | 勧告→命令 |
条文の全文は e-Gov法令検索の「スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律」で確認できます。
このほか第14条で、指定事業者は毎年度、遵守のために講じた措置を報告書にまとめて公取委へ提出し、公取委はそれを公表します。
課徴金20%と勧告の違い
課徴金の対象は第7条と第8条第1号・第2号の違反だけです。アプリストアの囲い込み、OS機能の利用妨害、決済の強制、外部誘導の禁止がこれに当たり、違反期間中の関連売上に20%を乗じた額が科されます(第19条)。調査開始日から遡って10年以内に課徴金納付命令を受け、その命令が確定しており、かつ命令日以後に今回の違反行為をしていた場合などは、30%に上がります(第20条)。独占禁止法の排除型私的独占の算定率6%(同法第7条の9第2項)の3倍以上です。
一方、選択画面やデータ移転など第10条から第13条の遵守事項は、違反してもまず勧告が出され、正当な理由なく従わないときに初めて命令となります(第30条)。第5条から第9条の違反で著しい損害を受けた(受けるおそれがある)事業者は差止めを請求でき(第31条)、指定事業者は故意・過失がなくても損害賠償の責任を負います。ただし、第32条の無過失損害賠償請求権を裁判で主張できるのは、排除措置命令(それがなければ課徴金納付命令)の確定後です。
セキュリティを理由にした例外
第7条と、第8条第1号から第3号にはただし書があります。サイバーセキュリティの確保、利用者情報の保護、青少年の保護などに必要で、ほかの手段では目的を達成しにくい行為は、禁止の対象から外れます。ただし第8条第3号のうちブラウザアプリのブラウザエンジンに関する部分と、第8条第4号(ログイン方法)には、この例外がありません。施行令第2条は、例外の目的に「スマートフォンの著しい動作遅延の防止」と「賭博その他の犯罪行為の防止」を加えています。Appleは代替マーケットプレイス経由のアプリにも「公証」と呼ぶ審査を課しており、こうした安全確保の措置がどこまでただし書で許されるかが、運用上の争点になります。
施行後にiPhoneで変わったこと(iOS 26.2)
Appleは全面施行に合わせ、iOS 26.2以降の日本向けに次の変更を入れました(Apple Developer「日本におけるiOSの変更」)。
- ブラウザ選択画面:いずれかのWebブラウザを初めて起動したときに、デフォルトのブラウザを選ぶ画面が表示されます。設定手順はデフォルトブラウザとは?iPhoneでSafari以外に変える手順と選択画面の意味で解説しています。
- 検索エンジン選択画面:Safariのスタートページで、デフォルトの検索エンジンを選ぶ画面が出ます。
- デフォルトアプリとSafariの削除:ブラウザ、メール、電話、メッセージ、翻訳に加え、ナビゲーションとアプリマーケットプレイスもデフォルトを変更できます。Safari自体のアンインストールも可能になりました。
- 代替アプリマーケットプレイス:Appleの承認を受けた事業者が運営するアプリストアを、運営者のWebサイトからインストールできます。
- 代替ブラウザエンジン:承認された専用ブラウザアプリは、WebKit以外のエンジンを使えます。
- サイドボタン:Siri以外の音声会話型アプリを、サイドボタンから起動するよう設定できます。
日本のiPhoneで使える代替アプリマーケットプレイス
代替マーケットプレイスを使うには、iOS 26.2以降のiPhoneで、Apple Accountの国または地域が日本に設定され、実際に日本にいる必要があります(Appleサポート「代替アプリ配信について」)。iPadは日本では対象外です。公取委が2026年7月27日に公表したApple・iTunesの遵守報告書には、2026年3月31日時点で日本向けの承認を受けた代替マーケットプレイスとして、次の6つが挙がっています。
| マーケットプレイス | 運営者 | 日本での提供開始 |
|---|---|---|
| AltStore PAL | AltStore, LLC | 2025年12月(日本対応版2.2.2) |
| Aptoide | Aptoide S.A. | 開始日は未確認 |
| Onside | Onside.io B.V. | 2026年2月 |
| あっぷアリーナ! | BBSS(Aptoideと提携) | 2026年3月31日 |
| Epic Games Store | Epic Games | 2026年5月1日 |
| GAMES STORE(DMM GAMES) | 合同会社DMM.com/EXNOA | 2026年8月31日 |
Epic Games Storeでは2026年5月1日の発表どおり、『フォートナイト』と『Rocket League Sideswipe』が日本のiPhoneで遊べるようになりました。代替マーケットプレイスは最初からiPhoneに入っていないため、運営者のWebサイトからマーケットプレイスのアプリを入れ、そこから個々のアプリを入手する2段階の手順になります。
iPhoneでできないこと:APK・Google Play・任意のWebサイトからのインストール
「スマホ新法でiPhoneに何でも入れられるようになった」と受け取られがちですが、施行後も次のことはできません。
- APKファイルのインストール:APKはAndroid向けのアプリ形式で、iOSでは動きません。代替マーケットプレイスで配信されるのもiOS向けに作られ、Appleの公証を通ったアプリだけです。
- iPhone版のGoogle Play:Google PlayはAndroid向けのアプリストアです。Googleが全面施行に合わせて公表した日本向けの変更は、Android端末とiOS版Chromeの選択画面、Google Playの課金の選択肢に関するもので、iPhone向けのGoogle Playは含まれていません。
- 任意のWebサイトからのアプリの直接インストール:日本でWebサイトから入れられるのは代替マーケットプレイスのアプリだけです(Apple Developer「Participating in alternative distribution for specific regions」)。EUで認められている、デベロッパーのWebサイトから個々のアプリを配信する方式(Web配信)は、日本では使えません。
Webサイトで「スマホ新法で解禁されたので、このファイルを開いてアプリを入れてください」と案内されたら、構成プロファイルのインストールや偽のストアへの誘導を疑ってください。日本で一般公開アプリを入手する主な経路は、App StoreとAppleの承認を受けた代替マーケットプレイスです。これとは別に、テスト用のTestFlightや企業向けの配信制度もあります。
代替マーケットプレイスの削除と、使わない設定
代替マーケットプレイスはホーム画面から削除できます。ただし、デフォルトのインストール元に設定している場合は、先に「アプリのインストール」のデフォルトアプリを変更する必要があります。そのうえで、「設定」→「アプリ」→「アプリのインストール」→マーケットプレイスの名前→「デベロッパを削除」と進むと、インストールの承認も取り消せます(Appleサポート「App Storeからしかアプリをインストールしないようにする方法」)。削除すると、そのマーケットプレイスから入れたアプリが動かなくなるおそれがあり、残したアプリにもアップデートは届きません。同じアプリがApp Storeにあれば、入れ直して利用できる場合があります。ただし、購入済みのアプリやアプリ内アイテムについて、再度支払いが必要になることがあります。
代替マーケットプレイスをそもそも入れさせない(オフにする)には、「設定」→「スクリーンタイム」→「コンテンツとプライバシーの制限」をオン→「アプリのインストールと購入」→「アプリマーケットプレイス」を「許可しない」にします。子どもの端末や家族共有の端末は、この設定にしておくのが確実です。iOS 26.2へ更新する前からコンテンツ制限を有効にしていた端末でも、更新後にアプリマーケットプレイスとWeb配信は自動では制限されないため、改めて「許可しない」を選ぶ必要があります(Appleサポート)。インストールを促す画面が出ても、そのまま閉じるか「キャンセル」で戻れます。
日本を離れた場合も、入れたアプリはそのまま使えます。代替配信アプリの更新や新たなインストールができるのは、日本を離れてから最大90日間です。
施行後にAndroidで変わったこと
Androidは以前から他社ストアやWebからのアプリ導入を認めていたため、利用者から見た変化はiPhoneより小さくなります。Googleが全面施行に合わせて公式ブログで発表した主な変更は次の3点です。
- 日本のAndroidスマートフォンと、iOS版Chromeアプリで、ブラウザと検索エンジンの選択画面を表示
- アプリ内でGoogle Play以外の決済を選べる代替課金プログラムの対象を、ゲームを含むすべてのアプリへ拡大(従来はゲーム以外のアプリに限定)
- Google Playの課金と、デベロッパーのWebサイトでの購入を並べて提示できる外部決済プログラムを新設
その後、2026年9月30日に日本向けの代替課金と外部リンクは「お支払い方法の選択プログラム」へまとめられました。旧外部決済プログラムは同日に新規登録を終え、2027年3月31日で終了します。継続したいデベロッパーは、それまでに新プログラムへ移行する必要があります。
iPhoneのセキュリティへの影響と残るリスク
iPhoneは、Androidのように提供元不明のアプリを自由に入れられる状態になったわけではありません。追加のリスクは、代替マーケットプレイスからのアプリ導入だけでなく、App Storeのアプリで代替決済や外部の購入サイトを利用する場合にも生じます。Appleは、代替決済の取引は「問題を報告する」やファミリー共有に反映されないと説明しています(Payment options on the App Store in Japan)。
Appleが残した安全策:認証・公証・起動停止
Appleの2025年12月の発表によると、代替マーケットプレイスはAppleの認証を受け、その後も継続的な要件を満たす必要があります。配信されるアプリは、App Store以外のものも含めて「公証」と呼ぶ基本審査を通ります。公証は基本機能と深刻な脅威からの保護に重点を置いた審査で、既知のマルウェアやウイルスがないことの確認に役立つとAppleは説明しています。ただし同じ発表で、公証はApp Storeのすべてのアプリが受ける審査(App Review)より限定的だとも述べています。インストール済みのアプリに既知のマルウェアが含まれているとAppleが判断した場合は、そのアプリは起動できなくなり、新規インストールも無効化されます。こうした措置が競争を制限する場合、前述のただし書により許容されるかは、安全確保のための必要性と、ほかの手段で目的を達成できるかによって判断されます。
App Store以外のアプリで効かなくなる保護機能
見落としやすいのは、端末の保護機能の一部が代替マーケットプレイスのアプリには効かない点です。スクリーンタイムでのアプリ内購入の制限、ファミリー共有での購入アイテムの共有、「承認と購入のリクエスト」は、代替アプリ配信で入れたアプリではサポートされません(Appleサポート「代替アプリ配信について」)。App Store内でも、13歳未満の利用者には決済を行うWebサイトへのリンクが使えず、代替決済は保護者の確認(ペアレンタルゲート)を経てからしか提示されません。
子どもの端末に代替マーケットプレイスを入れると、App Storeで使えていた購入の歯止めがそのアプリには掛からなくなります。前述のスクリーンタイムで「アプリマーケットプレイス」を「許可しない」にすると、新たなインストールを制限できます。すでに導入済みのアプリについては、利用可否と購入方法を別途確認してください。
Apple・Googleの新しい手数料体系
Appleアプリ内購入の標準手数料は、従来の30%から26%(App Storeの手数料21%+決済処理手数料5%)に下がりました。代替決済やWebへの誘導を選ぶとAppleへの手数料はさらに下がりますが、決済代行の費用や返金対応の負担が別にかかります。
Appleの日本向けビジネス規約(Small Business Program等の非参加者・定期購入1年目の場合)は次のとおりです。
| 配信・決済の方法 | 標準 | 優遇対象 |
|---|---|---|
| App Store+Appleアプリ内購入 | 26%(21%+決済処理5%) | 15%(10%+5%) |
| App Store+代替決済(アプリ内) | 21% | 10% |
| App Store+Webへのリンク誘導 | 15%(タップ後7日以内の販売) | 10% |
| 代替アプリマーケットプレイスで配信 | 5%(コアテクノロジー手数料) | 5% |
優遇対象は、App Store Small Business Program、Mini Apps Partner Program、Video Partner Programの参加者と、2年目以降の自動更新サブスクリプションです。
Googleの「お支払い方法の選択プログラム」(日本は2026年9月30日開始)の手数料は次のとおりです(Google Play Console ヘルプ)。「新規」は、利用者がそのアプリをGoogle Playから初めてインストールした日が2026年9月30日以降である場合の取引です。もともとGoogle Play以外から入れたアプリでは、Google Playから初めて更新した日で判定します。
| 取引の種類 | アプリ内の代替課金 | 外部リンク(24時間以内) |
|---|---|---|
| 自動更新の定期購入 | 10% | 10% |
| その他(新規インストール) | 20% | 20% |
| その他(既存インストール) | 25% | 20% |
| 年間収益100万米ドルまで | 10% | 10% |
Apps ExperienceプログラムかGoogle Play Games Level Upプログラムの参加者は、標準料率(20%・25%)が5ポイント下がります(10%枠は不変)。料率表の原文はGoogle Play Console ヘルプ「お支払い方法の選択プログラムに登録する」で確認できます。
1,000円の課金で手取りを比べる試算
Appleの規約で、1,000円のアプリ内アイテムを売った場合の手取りを単純計算します。優遇対象外とし、税・為替、代替マーケットプレイス側の手数料や自社の運営費は計算に含めません。外部の決済代行手数料は契約で変わるため、ここでは仮に3%とします。
| 方法 | Apple手数料 | 決済代行(仮3%) | 手取り |
|---|---|---|---|
| Appleアプリ内購入 | 260円 | 0円 | 740円 |
| アプリ内の代替決済 | 210円 | 30円 | 760円 |
| Webへのリンク誘導 | 150円 | 30円 | 820円 |
| 代替マーケットプレイス | 50円 | 30円 | 920円 |
アプリ内の代替決済にするとAppleの手数料は50円下がりますが、決済代行の費用を払うと差は20円しか残らず、返金や問い合わせの対応も自社で負います。Small Business Programの参加者でも、Appleアプリ内購入の手取り850円に対し代替決済は870円と、差は同じ20円です。Webへの誘導や代替マーケットプレイスは削減額が大きい反面、購入完了率が変わり得るため、導入前に同じ商品で比べるのが確実です。
利用者にとってのメリットとデメリット
利用者のメリット:標準アプリの選択肢拡大
利用者向けの具体的な変更は、標準アプリを選ぶ機会の追加です。日本のiOS 26.2以降では、ブラウザの初回起動時とSafariのスタートページに、それぞれブラウザと検索エンジンの選択画面が表示されます。アプリ内課金が安くなるかどうかは、事業者が浮いた手数料を価格に回すかどうかにかかっており、法律が値下げを義務づけているわけではありません。
利用者のデメリット:購入先ごとの相談窓口の分散
代替決済やWebでの購入を選ぶと、返金・解約・不正請求の相談先はAppleやGoogleではなく、そのアプリ事業者や決済代行会社になります。Appleの規約でも、代替決済の売上にかかる税の納付や取引報告はデベロッパーの責任と定められています。購入前に「どの画面で、誰に支払っているか」を確認する習慣が必要です。
企業・アプリ事業者がとるべき対策
アプリ事業者:外部決済を入れるかの判断基準
外部決済の導入を急ぐべきでない事業者もいます。次のどれかに当てはまるなら、Appleアプリ内購入やGoogle Play課金を続けるほうが合理的です。
- Appleへの手数料の削減額(標準で5〜11ポイント、優遇対象で5ポイント)が、決済代行・サポート・会計処理の追加費用を下回る
- 単価の低い消耗型アイテムが中心で、外部へ遷移させると購入率が落ちる
- 返金・チャージバック・年齢確認の運用体制を自社で持てない
逆に、月額サブスクリプションや高単価のデジタル商品を扱い、Webに決済基盤をすでに持っている事業者は、Webへのリンク誘導でAppleへの手数料を標準料率なら11ポイント(26%から15%)、優遇対象なら5ポイント(15%から10%)下げられます。いずれも決済代行費用を引く前の差です。
導入にはApple Developer Programの日本向け改定規約への同意(既存メンバーの期限は2026年3月17日でした)と、日本のApp Store向けエンタイトルメントの取得が前提になります。また、アプリ内で代替決済や購入サイトへのリンクを提示する際は、Appleアプリ内購入も同時に選択肢として表示する必要があります。代替決済の取引はAppleへの報告が必要で、iOS 26.4以降で動くアプリはExternal Purchase Server APIで報告します。Apple側の契約手続きはApple Developer Programの年会費と登録方法、アプリ開発の発注全体はiOSアプリ開発の特徴と外注判断も参考にしてください。
iOSとAndroidで課金方式が分かれると、購入状態の照合が二重になります。両ストアの課金をまとめて扱う方法はRevenueCatの仕組みと導入判断、Google Play側の実装はGoogle Play Billing Libraryの実装手順で扱っています。決済方式の切り替えを含むiPhoneアプリの改修は、iOSアプリ開発の支援で設計から引き受けています。
情報システム部門の対策:社用スマホの導入経路と端末制限の点検
「アプリはApp Storeからのみ導入」という社内規程は維持できますが、iPhoneにも代替マーケットプレイスという経路が増えたため、文言だけでは守られません。監視対象(supervised)のiPhoneなら、MDMの制限項目「別のマーケットプレイスからのアプリのインストールを許可」「Webサイトからのアプリのインストールを許可」をオフにすると、こうした経路からのインストールを止められます(Apple「デバイス管理でのAppleデバイスの制限を確認する」)。あわせて規程に、デフォルトブラウザ・検索エンジンの指定を明記してください。選択画面で従業員が別のブラウザを選ぶと、業務システムの動作確認対象から外れることがあります。Androidでは従来どおり、提供元不明アプリのインストール許可を端末ポリシーで制御します。端末台帳とインストール済みアプリの棚卸しをどう回すかはIT資産管理の目的とツール機能で整理しています。
施行後の運用と2026年以降の見通し
公取委は、全面施行時点の遵守報告書を2026年2月17日に、令和7年度(2025年12月18日から2026年3月31日まで)の報告書を2026年7月27日に公表しました。報告書はApple Inc.、iTunes株式会社、Google LLCの3社分です。内容は事業者の見解であり、公取委の評価ではない点に注意が必要です。同じ日に、デベロッパー向けの「よくある質問」も公表・更新されています。
アプリ事業者が指定事業者の対応に問題を感じたときは、公取委の申告フォーム(2025年12月18日設置)で違反の疑いを申告できます。運用への意見は、別に設けられた情報提供フォームで受け付けています(令和8年度の情報提供窓口は2026年5月25日設置)。利用者向けには、2026年7月24日に解説動画とパンフレット・リーフレットが公取委のスマホ法ページに掲載されました。2026年10月時点で、スマホ新法に基づく排除措置命令や課徴金納付命令は公表されていません。
附則第2条は、施行後3年を目途に施行状況を踏まえて規定を検討し、その結果に基づいて必要な措置を講ずると定めています。全面施行日から数えると2028年12月ごろが目安です。米国でも州レベルでアプリストア規制の動きがあり、テキサス州の例はSB2420(アプリストア責任法)の経緯と開発者の対応で扱っています。
よくある質問
スマホ新法はいつから施行されていますか?
禁止事項と遵守事項は2025年12月18日に全面施行されました。指定事業者の指定などに関する規定は、それより前の公布から6か月後に先行して施行されています。
スマホ新法のガイドラインとは何ですか?
公取委が2025年7月29日に公表した「スマホソフトウェア競争促進法に関する指針」を指します。条文の解釈や、セキュリティを理由とする例外が認められる場面の考え方を示した文書で、公取委サイトの法令・ガイドラインのページからPDFで読めます。
スマホ新法は誰のための法律ですか?
第1条が掲げる目的は、特定ソフトウェアに係る公正かつ自由な競争の促進を通じて、国民生活の向上と国民経済の健全な発展に寄与することです。アプリ事業者には配信・決済の選択肢が広がり、利用者にはブラウザや検索エンジンを選ぶ機会、代替ストアを利用する選択肢が提供されます。
チョイススクリーン(選択画面)とは何ですか?
ブラウザや検索エンジンの候補を並べて、利用者に標準を選ばせる画面です。第12条と施行令第4条・第5条に基づく措置で、Appleの選択画面はiPhoneのブラウザの初回起動時とSafariのスタートページに、Googleの選択画面は日本のAndroidスマートフォンとiOS版Chromeに表示されます。
AppleやGoogleが違反したらどうなりますか?
アプリストアの囲い込み、OS機能の利用妨害、決済の強制、外部誘導の禁止に当たる違反には、関連売上の20%(再違反は30%)の課徴金が科されます。選択画面などの遵守事項の違反は、まず勧告、従わなければ命令という順で進みます。