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ラウドネスとは?オーディオ機器の設定と放送・配信のLUFSを分けて解説

ラウドネスとは?オーディオ機器の設定と放送・配信のLUFSを分けて解説

ラウドネスという言葉は、まったく違う3つのものを指して使われます。カーナビやアンプの設定メニューにある「ラウドネス」は、音量を絞ったときに低音と高音を補う音質補正機能です。音響の教科書に出てくるラウドネスは、人が感じる音の大きさそのもので、単位はphon(フォン)やsone(ソーン)です。放送や配信で使われるラウドネスは、番組や楽曲の音量感を1つの数値で表した測定値で、単位はLUFSやLKFSになります。

検索結果に機器の設定解説と音楽制作の解説が混在するのは、この3つが同じ名前で呼ばれているからです。まず3つを切り分けたうえで、機器のラウドネス機能をオンにすべきかの判断、ISO 226:2023とITU-R BS.1770-5の原文が定める中身、放送と配信のターゲット値、実際の測定と調整までを扱います。

まとめ:ラウドネスの要点

先に結論を示します。

  • 「ラウドネス」は3つの意味を持つ言葉です。機器の音質補正機能、聴感上の音の大きさ(phon、sone)、放送・配信の測定値(LUFS、LKFS)を混同しないことが理解の前提になります。
  • 機器のラウドネス機能は、小音量時に低音と高音を持ち上げる補正です。多くの機種で工場出荷時はオフになっており、使うには自分で有効にする必要があります。
  • 低音が痩せて聞こえるのは耳の特性です。ISO 389-7が規定する最小可聴値は1 kHzで2.4 dBなのに対し、63 Hzでは37.5 dBあり、この35 dBの差が音量を絞ったときに効いてきます。
  • LUFSとLKFSは同じ量です。ITU-R BS.1770がLKFS(Loudness, K-weighted, relative to nominal full scale)と定め、EBUがLUFSという表記を使っています。1 LUの増減は1 dBの増減と等価です。
  • ターゲット値は用途で違います。欧州放送はEBU R 128の-23.0 LUFS、日本の地上デジタル放送はARIB TR-B32の-24 LKFS(許容±1 dB)、Spotifyは-14 LUFS、Netflixは-27 LKFS(ダイアログゲート)です。YouTubeは公式に数値を示しておらず、Apple Musicも再生正規化のターゲット値は公表していません。
  • 測定値はゲーティングを通した値です。400 msブロックを75%重ねて切り出し、-70 LKFS以下と、そこから相対10 LU以下を捨ててから平均します。無音区間の長さで測定値が大きく振れないのはこのためです。

以下、それぞれの根拠と実務での判断を順に説明します。

「ラウドネス」の3つの意味を先に切り分ける

同じ「ラウドネスとは」で検索しても、知りたいものが機器の設定なのか測定値なのかで、読むべき情報はまったく別になります。次の表で自分がどれを探しているかを確認してください。

意味 出てくる場面 単位 典型的な疑問
音質補正機能 カーナビ、AVアンプ、PCのサウンド設定 なし(ON/OFF、強さの段階) オンにすると何が変わるのか
聴感上の音の大きさ 音響工学、騒音測定、心理音響 phon、sone dBとの違いは何か
番組・楽曲の測定値 放送、配信、DTM、映像編集 LUFS、LKFS、LU いくつに合わせればよいか

3つは同じ事実(人の耳の周波数特性)から出発していますが、数値の互換性はありません。機器のラウドネスを強めても、制作側が測ったLUFSの値は変わりません。

オーディオ機器のラウドネス機能

小音量で低音と高音が沈む理由

人の耳の感度は周波数で大きく違います。ISO 226:2023の表1には、等ラウドネス曲線を算出する式のパラメータとして、自由音場・正面入射・両耳聴取での最小可聴値が周波数ごとに掲げられています。値そのものを規定しているのはISO 389-7で、1 kHzで2.4 dB、4 kHzで-5.4 dBなのに対し、63 Hzでは37.5 dB、20 Hzでは78.1 dBです。低音は、中音と同じ大きさに感じさせるためにはるかに大きな音圧を必要とします。

音量を絞ると、この差が効いてきます。中音域はまだ十分に聞こえているのに、低音と高音は可聴限界に近づき、相対的に痩せて聞こえます。ヒビノの用語集はこれをラウドネス効果と呼び、「音量を下げるとその曲が地味な印象に変化する場合がある」現象として説明しています。ラウドネス機能は、この痩せた分を電気的に足し戻す回路です。CQ出版の解説によれば、古典的な実装はセンタタップ付きの可変抵抗にコンデンサを2つ足したもので、ボリューム位置に連動して低域と高域が持ち上がります。

カーナビ・アンプでの設定項目と工場出荷時の状態

パイオニアのカーナビ(AVIC-RQ902ほか)のユーザーズガイドは、ラウドネス設定を「小さな音量で聞いているときに、低高音の不足感を補正してメリハリのある音にします」と説明しています。設定はON/OFFの切り替えに加えて、効果の強さをLOW・MID・HIGHの3段階から選ぶ構成です。

ここで見落としやすいのが初期状態です。同ガイドは「工場出荷時は、設定「OFF」、ラウドネス効果「MID」です」と明記しています。つまり出荷時点ではラウドネス補正はかかっておらず、MIDというのは有効にしたときの効果の強さの初期値です。「知らないうちにかかっていた」ということはありません。

機種によって項目名も段階数も違います。トヨタのノア(2022年モデル)の取扱書では、音質調整がトレブル・ミッド・バスとフェーダー/バランスだけで、ラウドネスの項目自体がありません。手元の機器にあるかどうかは、取扱説明書のオーディオ設定の項で確認するのが確実です。

ミュージックラウドネス・ナチュラルラウドネス・ラウドネス等化の違い

「ミュージックラウドネス」のような名前は国際規格の用語ではなく、機器メーカーが自社のメニューに付けた呼び名です。共通の定義がないため、同じ名前を製品横断で調べても答えが出ません。判断は名前ではなく、次の2系統のどちらかを見分けることで付きます。

  • 小音量補正型:音量が小さいときに低音と高音を持ち上げます。周波数バランスを意図的に変える機能です。
  • 音量そろえ型:曲やコンテンツごとの音量差を自動で均します。周波数バランスではなくレベルを動かします。

実例で見ると違いがはっきりします。ケンウッドの彩速ナビ(MDV-D3/MDR-D2)の「音響効果を設定する」にはナチュラルラウドネスという項目があり、「音量に応じて低域高域のバランスを保ち、小音量時でも自然に聞こえるように低音と高音を補正します。録音レベルが大きい曲の場合はLOW、小さい曲の場合はHIGHが適しています」と説明されています。設定値はOFF・LOW・HIGHで、お買い上げ時の設定はLOWです。これは小音量補正型です。同じメニューに並ぶ「ミュージックバスブースト」は「低音楽器の音を増強するレベルを設定します」という別機能なので、両方を上げると低音が二重に持ち上がります。

一方、Appleのミュージックにある「サウンドチェック」は、公式の説明が「すべての音楽とミュージックビデオを同じ音量で再生する」となっており、音量そろえ型です。Windowsのサウンド設定にある「ラウドネス等化」も同じ系統です。

手元のメニューに探している名前が無くても問題ありません。説明文が「音量を均一にする」と書いてあれば音量そろえ型、「低音と高音を補う」と書いてあれば小音量補正型で、この一文だけで判別できます。

オンにする場面・オフにする場面

常時オンを勧める記事もありますが、それは適切ではありません。判断は聴取音量で決めます。

深夜の車内や、集合住宅で音量を絞って聴くときはオンが有効です。補正が想定しているのはまさにこの領域で、低音と高音が可聴限界に近づく状況だからです。一方、ある程度の音量で聴くとき、そして制作物の音を確認するときはオフにしてください。前者では低音が膨らんで輪郭が濁ります。後者はもっと深刻で、補正のかかった音を基準にミックスすると、補正のない再生環境で低音過多になります。EBU R 128が制作の基準とする-23.0 LUFSでモニターするような場面では、機器側の音質補正はすべて切るのが原則です。

カーオーディオでオフのままにしても、故障ではありません。低音が物足りないと感じたら、ラウドネスを上げる前にバスの調整で足りるかを試すほうが、周波数バランスを自分で制御できます。

聴感の大きさを測る単位 phonとsone

音響工学の文脈でのラウドネスは、機器の機能ではなく量そのものを指します。ここは単位の帰属を取り違えやすい領域です。

ラウドネスレベル(phon)の定義と1 kHz基準

ISO 226:2023はラウドネスレベルを、「与えられた音と同じ大きさに聞こえると判断される、正面入射の自由な正弦平面波である1 000 Hzの基準音の音圧レベル(dB)と、同じ数値をとるphon単位の値」と定義しています。つまり40 phonとは、1 kHzの純音を40 dBで鳴らしたときと同じ大きさに聞こえる、という意味です。

この定義から等ラウドネス曲線が描かれます。同じphonになる音圧レベルを周波数ごとに結んだ曲線で、20 Hzから12,500 Hzまでの1/3オクターブ帯域中心周波数について数値が与えられています。適用条件は限定的で、純音であること、正面から届く自由進行平面波であること、両耳で聴くこと、聴取者が18歳から25歳の耳科学的に正常な人であることが前提です。

ISO 226:2023は2023年3月発行の第3版で、ISO 226:2003を置き換えました。データの改訂幅は最大0.6 dBで、実務上の結論が変わるほどの差ではありません。ただし「ISO 226:2003が最新」と書いてある解説は更新されていないと判断できます。

soneはISO 532の量(ISO 226と混同しない)

ラウドネスの単位としてsoneを挙げる解説は多いのですが、soneはISO 226が定める量ではありません。ISO 226:2023の注記2は、任意の信号のラウドネス計算には別の規格を適用すると明記し、定常音・非定常音のラウドネスにISO 532-1、定常音のラウドネスにISO 532-2を挙げています。

両者の役割はこう分かれます。phonは純音を対象に「1 kHz何dB相当か」を表す尺度、soneは倍率を表す尺度で、2 soneは1 soneの2倍の大きさに感じられます。純音の等ラウドネス曲線を引くならISO 226、実際の楽音や騒音のラウドネスを計算するならISO 532という対応です。

ITU-R BS.1770-5が定める測定アルゴリズム

3つ目の意味が、放送と配信で使われる測定値です。土台になるのがITU-R BS.1770で、2006年7月の初版から改訂が続き、現行版は2023年11月のBS.1770-5です。

K特性フィルタと重み係数

BS.1770の測定は、各チャンネルにK特性フィルタをかけることから始まります。原文によれば、これは2段のプリフィルタで構成されます。第1段は頭部を剛体球としてモデル化し、頭部が音場に与える音響的影響を再現します。第2段がRLB(Revised Low-frequency B)重み付けです。この2段の合成をK特性(K-weighting)と呼びます。

フィルタ後の信号はチャンネルごとに二乗平均され、重み係数を掛けて合算されます。重み係数はL・R・センターが1.0(0 dB)、レフトサラウンドとライトサラウンドが1.41(約+1.5 dB)で、LFEチャンネルは測定に含めません。後方チャンネルの音がやや大きく感じられる性質を補正するための重みです。

ゲーティングによる無音・小音量の除外

初版の測定法には弱点がありました。番組内に無音区間や弱音区間があると、算出値が人の感じる大きさから外れてしまいます。EBUがゲーティングを提案し、2011年3月のBS.1770-2で採用されました。

手順は原文どおりに書くと次のようになります。入力を400 msのゲーティングブロックに分割し、隣接ブロックを75%重ねます。次に絶対閾値-70 LKFS以下のブロックを捨てます。残ったブロックのラウドネス値を平均し、そこから相対的に10 LU低い閾値を求め、それを下回るブロックをさらに除外します。最後に残ったブロックだけで再計算した値が、番組の平均ラウドネス値です。

この2段構えにより、曲間の無音や静かなシーンの長さで測定値が振り回されなくなりました。BS.1770-2の国際標準化にはエミー賞が贈られています。

定数-0.691の意味とメーターの検算手順

ラウドネス値の算出式には、-0.691という定数が入っています。ARIB TR-B32の策定に関わったフジテレビの松永英一氏による解説によれば、これはプリフィルタの利得を補正する値で、この定数によって1 kHz正弦波に対するプリフィルタの入出力間利得が0 dBになります。

この補正の結果、L・C・Rのいずれか1チャンネルに1 kHz正弦波を入力すると「ピーク値(dBFS)-3.01=ラウドネス値(LKFS)」という関係が成り立ちます。-20 dBFSの1 kHz正弦波なら、1チャンネル入力で-23.01 LKFS、L・R・Cのうち2チャンネル入力で-20 LKFSです。

手持ちのラウドネスメーターが規格に準拠しているかは、この信号を通してみれば確認できます。1チャンネル入力で-23.0前後を指さないメーターは、K特性フィルタか基準レベルの取り方が規格と違っている可能性があります。プラグインを新しく導入したときの動作確認に使える手順です。なおBS.1770-5の注記によれば、この補正が正確に効く周波数は997 Hzで、1 kHzは厳密さを要しない文脈での呼び名だと明記されています(IEC 61606に基づく規定)。

LUFS・LKFS・LU・LRAの使い分け

LUFSとLKFSが同じ値になる理由

ITU-R BS.1770の原文は、算出したラウドネス値に付ける単位をLKFSと定め、これが「Loudness, K-weighted, relative to nominal full scale」の意味だと説明しています。一方EBU R 128は、BS.1770が導入した単位としてLU(Loudness Unit)とLUFS(Loudness Units, referenced to Full Scale)を用いています。

指している量は同じで、測定方法も同じBS.1770です。同一素材を測れば、LKFS表示のメーターとLUFS表示のメーターは同じ数値を返します。日本の放送規格がLKFS、欧州系のツールやDAWがLUFSを使う傾向があるだけで、換算は不要です。

LU・LRA・トゥルーピーク(dBTP)

LUFSとLKFSが絶対値を表すのに対し、LUは差を表します。BS.1770の原文は、信号のレベルが1 dB上がればラウドネス表示が1 LKFS上がる、と等価性を明示しています。「ターゲットより2 LU大きい」のように相対的な言い方に使います。

LRA(Loudness Range、ラウドネスレンジ)は、番組や楽曲の中でラウドネスがどれだけ振れているかを1つの値で示す指標です。EBU R 128は、LRAをEBU Tech 3342に準拠して測定し、プログラムのラウドネス変動や配信経路のダイナミクスの健全性を評価するために使えるとしています。値が小さいほど平坦、大きいほど静と動の差が大きい素材です。

トゥルーピーク(dBTP)はサンプル間ピークまで含めた最大値で、平均値であるラウドネスとは別に管理します。BS.1770はAnnex 2で、48 kHzの信号を4倍にオーバーサンプリングして192 kHzで測る手順をガイドラインとして示しており、同等以上の結果が得られる方法でも構わないとしています。EBU R 128は制作時に-1 dBTPを超えないよう定めています(測定許容差は20 kHzに帯域制限した信号で±0.3 dB)。

放送と配信のターゲット値

数値を合わせる前に、どの規定が自分に適用されるかを確認してください。

放送:EBU R 128とARIB TR-B32

欧州放送連合のEBU R 128は、プログラムラウドネスを-23.0 LUFSに正規化することを求めています。生放送のように実務上ターゲットの達成が難しい場合に限り±1.0 LUの許容がありますが、この許容幅を見込んだ制作を常態化させてはならない、という但し書きが同時に付いています。

日本は別の値です。ARIB TR-B32「デジタルテレビ放送番組におけるラウドネス運用規定」は2011年3月に策定され、ターゲットラウドネス値を-24 LKFS、運用上の許容範囲を±1 dBと定めています。測定はBS.1770 Annex 1に準拠してL・R・C・Ls・Rsの5チャンネルで行い、LFEは含めません。測定区間は調整用信号・プログラムリーダ・トレーラーを除く本編全尺です。

運用開始の時期も記録に残っています。民放連技術規準T032が2011年5月に策定され、2012年10月1日に運用が始まりました。NHKについては、TR-B32策定の当事者による2013年3月時点の解説で、同年4月の番組改編からの運用開始が告知されていました。T032には現場向けの規定も含まれ、5.1サラウンド番組は受像機側のダウンミックスでレベルが下がることを考慮して暫定的にターゲット+2 dBを最大許容値とすること、平均ラウドネス値が-28.0 LKFSを下回る納品には理由の明記が必要なことが定められています。

規定・サービス ターゲット 許容・条件 出典の公開状況
EBU R 128(欧州放送) -23.0 LUFS 生放送等のみ±1.0 LU 公式PDFで公開
ARIB TR-B32(日本の放送) -24 LKFS ±1 dB 規定は有償、解説は公開
Spotify -14 LUFS Loud -11、Quiet -19 公式ヘルプで公開
Netflix -27 LKFS ±2 LU、ダイアログゲート 公式仕様書で公開
YouTube 非公表 — 公式に数値の記載なし

配信:公表している事業者と公表していない事業者

配信サービスが再生時に音量をそろえる処理を、ラウドネスノーマライゼーション(ラウドネス正規化)と呼びます。この数値は記事によってばらつくので、出典の有無で分けて扱います。

Spotifyは公式ヘルプで数値を明記しています。ITU 1770に従って-14 dB LUFSに正規化し、Premiumリスナーは再生音量をLoud(-11 LUFS)、Normal(-14 LUFS)、Quiet(-19 LUFS)から選べます。Netflixも公式のサウンドミックス仕様で、-27 LKFS(許容±2 LU、ダイアログゲート、ITU-R BS.1770-1準拠)とトゥルーピーク-2 dBを規定しています。

一方YouTubeは、数値を公表していません。公式のアップロード推奨事項に書かれている音声仕様はコーデック(AAC-LC、Opus、Eclipsaオーディオ)、サンプリング周波数48 kHz、ビットレート(モノラル128 kbps、ステレオ384 kbps、5.1は512 kbps)までで、LUFSの記載はありません。「YouTubeは-14 LUFS」という説明が広く流通していますが、これは第三者が実測した値であって公式仕様ではありません。

Apple Musicは区別が要ります。再生正規化のサウンドチェックについて公式が示しているのは「すべての音楽とミュージックビデオを同じ音量で再生する」という説明までで、ターゲット値の数値はありません。ただし納品側は別で、Appleの「Video and Audio Asset Guide」はDolby Atmosの音楽アルバムについて「積分ラウドネス値はITU-R BS.1770-4で測定して-18 LKFSを超えないこと」と規定しています。

この違いは実務に効きます。公表値のあるSpotifyとNetflixは納品基準として扱えますが、非公表のプラットフォームで特定の数値に精密に合わせ込む作業には根拠がありません。過度なリミッティングで音質を犠牲にするより、-14 LUFS前後を目安に置いてダイナミクスを残すほうが妥当です。

測定と調整の実務

M・S・Iの3表示とLRAの見方

EBU Tech 3341が定めるEBUモードでは、Momentary(瞬時、400 ms窓)、Short-term(短期、3秒窓)、Integrated(積分、測定区間全体)の3表示が規定されています。EBU R 128も、Maximum Momentary LoudnessとMaximum Short-term Loudnessを、素材の性格づけに使える指標として挙げています。

納品判定に使うのはIntegratedで、ターゲット値との比較はこの値で行います。MomentaryとShort-termは作業中の監視用で、どこで突出しているかを見つけるために使います。LRAは仕上げの判断材料です。極端に小さければ潰しすぎ、大きすぎれば視聴環境によって聞き取りにくい箇所が出ます。

ffmpeg loudnormでの一括正規化

コマンドラインで正規化するなら、FFmpegのloudnormフィルタが使えます。公式ドキュメントによれば、EBU R128に準拠した正規化フィルタで、動的モードと線形モードの両方、単一パスと2パスの両方に対応します。動的モードではトゥルーピークを正確に検出するため192 kHzへアップサンプルされます。

注意すべきは既定値です。

オプション 意味 既定値 範囲
I 積分ラウドネス目標 -24.0 -70.0 〜 -5.0
LRA ラウドネスレンジ目標 7.0 1.0 〜 50.0
TP 最大トゥルーピーク -2.0 -9.0 〜 +0.0
linear 線形スケーリング true true / false

フィルタ名はEBU R128準拠ですが、Iの既定値は-24.0でR 128の-23.0ではありません。既定のまま実行すると、意図せず日本や米国の放送寄りの値になります。EBU R 128に合わせるなら明示指定が必要です。

ffmpeg -i input.wav -af loudnorm=I=-23:TP=-1:LRA=7 -ar 48000 output.wav

精度が要るときは2パスにします。1パス目で print_format=json を付けて測定値を出し、2パス目で measured_I、measured_LRA、measured_TP、measured_thresh を渡します。この4つがすべて指定されていて条件を満たす場合だけ線形正規化が働き、条件を満たさないときは動的モードに戻ります。素材のダイナミクスを保ちたい場合はこの違いが効きます。出力サンプリング周波数は -ar で明示するのが安全です。インストール方法やほかのオプションはFFmpegとは?使い方とコマンド一覧を動画変換・音声抽出の実例で解説にまとめています。

ターゲット合わせの前に決めるLRA

ラウドネスの調整で最も多い失敗は、目標値を先に決めて音を潰すことです。順序を逆にしてください。

先に決めるべきはLRA、つまりどれだけの振れ幅を残すかです。EBU R 128がLRAをEBU Tech 3342準拠で測ると定めているとおり、これは主観ではなく数値で管理できます。振れ幅を決めてからゲインを動かせば、目標のラウドネスには単純なゲイン調整で到達できます。逆に目標ラウドネスを先に決めてリミッターで押し込むと、LRAが潰れて平板な音になり、しかも配信側の正規化で音量を下げられるため、得られるものがありません。1990年代から続いた音圧戦争(ラウドネスウォー)は、配信各社が正規化を実装した時点で終わっています。

コンプレッサーやリミッターは、ラウドネスを上げる道具ではなく、突出したピークを抑えて振れ幅を設計する道具として使ってください。DAW上での具体的な操作は環境によって異なります。Ableton Liveを外部から操作する仕組みについてはAbleton MCPの導入と使い方で解説しています。

よくある質問

ミュージックラウドネスとは何ですか?

機器メーカーが自社のメニューに付けた呼び名で、国際規格の用語ではありません。名前に「ラウドネス」が付く設定には、小音量時に低音と高音を補う小音量補正型と、コンテンツ間の音量差を均す音量そろえ型の2系統があります。取扱説明書の説明文が「低音と高音を補う」なら前者、「音量を均一にする」なら後者です。ケンウッドの彩速ナビの「ナチュラルラウドネス」は前者にあたります。

ラウドネスをオンにするとどうなりますか?

低音と高音が持ち上がり、小さい音量でも迫力を感じやすくなります。パイオニアのカーナビでは効果の強さをLOW・MID・HIGHから選べますが、工場出荷時は設定が「OFF」(効果の強さの初期値が「MID」)なので、使うには自分でオンにする必要があります。音量を上げた状態でオンのままにすると低音が過剰になるため、聴取音量に応じて切り替えるのが適切です。

カーオーディオのラウドネスを使わないとどうなりますか?

音量を絞ったときに低音と高音が痩せて聞こえます。故障ではなく、耳の特性がそのまま出ている状態です。物足りないときは、ラウドネスを入れる前にまずバスを2段か3段上げて足りるか試してください。制作物の音を確認する用途では、補正をすべて切った状態が基準になります。

ラウドネスとは音量のことですか?

別のものです。音量(音圧レベル、dB SPL)は空気の振動の物理量で、周波数に関係なく測れます。ラウドネスは人が感じる大きさで、同じ音圧でも周波数によって感じ方が変わります。低い音ほど、中音と同じ大きさに聞こえるには大きな音圧が必要になります。

LUFSとLKFSは何が違いますか?

表記が違うだけで、同じ量を指します。ITU-R BS.1770がLKFSと定め、EBUがLUFSを使っています。測定アルゴリズムは同一なので、同じ素材なら同じ数値になり、換算は不要です。日本の放送規格ではLKFS、DAWのメーターではLUFS表記が多く見られます。

なぜ放送は-24 LKFSで配信は-14 LUFS前後なのですか?

想定する視聴環境が違うためです。放送は静かなセリフから効果音まで広い振れ幅を前提とするため、余裕を持たせて低めのターゲットを取ります。音楽配信は再生環境が携帯端末やイヤホン中心で、振れ幅が狭い素材が多いため高めになります。なおSpotifyの-14 LUFSは公式に明記された値ですが、YouTubeの-14 LUFSは公式仕様ではなく第三者の実測値です。

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