SD法(セマンティック・ディファレンシャル法、Semantic Differential Method)とは、「明るい-暗い」のように相反する形容詞を尺度の両端に置き、対象から受ける印象を段階評価で数値化する心理測定法です。アメリカの心理学者オズグッド(Charles E. Osgood)が1952年に理論を組み立て、共同研究者のスーシ、タンネンバウムとの共著『The Measurement of Meaning』(1957年)で本格的に示されました。
この記事では、3因子の中身、形容詞対の選び方と並べ方、逆転項目の得点のそろえ方、分析方法、リッカート尺度との違いを、オズグッドの原典と国内の査読論文・公的資料にあたって整理します。「SD法のデータを平均してよいのか」という前提にも踏み込みます。
まとめ:SD法の要点(心理学での意味・やり方・違い)
- SD法とは、相反する形容詞対を両端に置いた評定尺度を複数使い、対象の印象・イメージを数値化する測定法。オズグッドが1952年に理論を組み立て、『The Measurement of Meaning』(1957年)で示しました。
- 基本因子は評価性(価値)・力量性・活動性の3つで、オズグッドの最初の研究では評価性が共通分散の約7割を占めました。ただしこの3因子は言葉の意味を測る研究で見出されたもので、他の分野でも必ず抽出されるわけではありません。
- 形容詞対は使用実績のある尺度から選びます。日本の研究233件を整理した調査では382組から使用頻度の高い68組が抽出され、収集文献の全分野で使われていたのは「明るい-暗い」など5組でした。反意語がある語を否定形で受ける対(重い-重くない)は避け、好ましい語を左右に振り分けたら集計前に得点を反転させます。
- 段階数は7段階が標準。オズグッドは、7段階なら全選択肢がほぼ均等に使われることを理由に挙げています。中央の「どちらともいえない」を避けたい場合は偶数段階も選べます。
- 分析は、平均値を折れ線で結んだセマンティック・プロフィールの比較と、因子分析による次元の抽出が定番。データを少数の合成得点に縮約したいだけなら主成分分析も使われます。
- リッカート尺度との違いは回答形式。SD法は形容詞対の間の位置を選ばせ、リッカート尺度は記述文への同意の度合いを尋ねます。どちらも態度を測る手段で、印象を軸で捉えたいならSD法、記述文への賛否ならリッカート尺度が向きます。
- 欠点は、両極が真に相反する形容詞対を常に見つけられるとは限らないこと、中間段階に手がかりが乏しく回答の負荷が高いこと、そして尺度水準。SD法の回答は順序尺度の水準にとどまるのではないかと問題提起されているにもかかわらず、実務では間隔尺度として足して平均されています。
SD法の定義と「意味微分法」という訳語の由来
SD法は、ある対象(刺激概念)が人にどのような印象を与えているかを測るための方法です。「良い-悪い」「明るい-暗い」といった反対の意味を持つ形容詞の組を尺度の両端に置き、回答者に「どちらにどれくらい寄っているか」を段階で選んでもらいます。これを複数の形容詞対について繰り返し、得られた評定値を集計・分析します。
心理学の文献では「意味微分法」という訳語が古くから使われてきました。日本におけるSD法研究を概観した井上正明・小林利宣の論文(教育心理学研究 第33巻第3号、1985年)も、冒頭で「意味微分法(Semantic Differential法)は、Osgood(1952)が最初に理論構成をおこない」と書いています。オズグッドは1952年に論文「The nature and measurement of meaning」(Psychological Bulletin 第49巻第3号、197-237ページ)で理論を提示し、その後、共同研究者のスーシ(Suci, G. J.)およびタンネンバウム(Tannenbaum, P. H.)とともに『The Measurement of Meaning』(1957年、University of Illinois Press)を著しました。
「differential」の意味:微分ではなく「差」
ただし、この「意味微分」という訳語には注意が要ります。日本人間工学会の総説「セマンティック・ディファレンシャル法(SD法)の可能性と今後の課題」(市原茂、人間工学 第45巻第5号、2009年)は、原語の指す内容を次のように整理しています。
- 「Semantic」を辞書で引くと「意味論の」と訳されるが、オズグッドのいう「意味」は辞書的な意味ではなく、感情的な意味(affective meaning)を指す。
- 「differential」を辞書で引くと「微分」という意味もあるが、ここでいう differential は「差」(difference)のことを指す「ようである」。
SD法が測っているのは、対象が呼び起こす印象やイメージ。その印象を形容詞対という「差」の軸の上に位置づける方法だ、というのが市原の見立てです。訳語としての「意味微分法」は文献に実在しますが、原語が指しているのは微分ではない点は押さえておいてください。
SD法が測る3因子(評価性・力量性・活動性)と、その適用限界
SD法で集めた評定値を因子分析にかけると、多くの研究で共通して現れる次元があります。オズグッド以来の基本因子とされるのが、評価性(価値、evaluation)・力量性(potency)・活動性(activity)の3因子です。英語の頭文字からEPAと呼ばれることもあります。市原(2009年)が掲載する大山正『色彩心理学入門』のプロフィール例では、各因子に次のような形容詞対が並んでいます。
- 評価性(価値):良い-悪い、美しい-みにくい、健康な-不健康な
- 力量性:強い-弱い、重い-軽い、かたい-やわらかい
- 活動性:動いている-止っている、熱い-冷たい
3因子の重みは均等ではありません。『The Measurement of Meaning』の最初の因子分析研究は、50の尺度・20の概念・100人の被験者による「50×20×100」のデータを分析したものです。同書の表1では、総分散に対する寄与率が評価性33.78%・力量性7.62%・活動性6.24%、共通分散に対しては68.55%・15.46%・12.66%と報告されています。共通分散の約7割を評価性が占める構造で、好き嫌いに関わる尺度を足すほど他の次元は相対的に埋もれます。後述する「評価性偏重の調査票」が起きやすいのはこのためです。
上に挙げた形容詞対と因子の対応は研究例であり、別の対象でも同じ対応になるとは限りません。理由は次の2点です。
3因子の適用限界:言葉の意味以外では再現しない場合
井上・小林(1985年)は、3因子について「これらの3因子は、言葉の意味を測定する研究で明らかにされたものであり、他の心理学の分野でも、これらの3因子が明確に抽出されているわけではない」と明記しています。
実際、市原(2009年)が紹介する大山正らの研究(大山正・瀧本誓・岩澤秀紀「セマンティック・ディファレンシャル法を用いた共感覚性の研究」行動計量学 第20巻第2号、1993年)では、音楽・音・色・形・象徴語・映像とその音楽の刺激を、全刺激に共通の24の形容詞対で7段階評定させています。全データをまとめて因子分析すると、第1因子が価値(分散比22.1%)、第2因子が活動性(12.0%)、第3因子が軽明性(11.9%)、第4因子が鈍さ(11.4%)となり、第3・第4因子は力量性に関わる尺度が2つに分かれたものでした。市原の総説はこの研究の形容詞対を「27」と書いていますが、原論文の方法と表1は24組です。EPAは出発点であって、対象を変えれば因子構造も変わります。
研究者・測定対象ごとに変わる因子の命名
井上・小林(1985年)は「明るい-暗い」を例に、この尺度がどの因子に入るかは研究者と測定対象によってかなり異なる命名がされていたと報告しています。色彩を対象とした研究では、次のように分かれました。
- オズグッドのもともとの研究では、「明るい-暗い」は評価性(evaluation)の因子に入るもの
- 大山他(1962年)は「力量性」の因子に入れた
- 神作(1963年)は「明るさ」の因子に入れた
同論文はここから「いかなる形容詞対であっても、それが概念のイメージ測定に使用され、因子分析が施されてはじめて、それが属する因子が命名される」と結論づけています。「この形容詞対は評価性を測る」と決め打ちで設計するのではなく、自分のデータで因子分析をして命名する。これがSD法の作法です。
SD法の形容詞対の選び方:日本の研究382組から絞られた68組
「どの形容詞対を使えばよいか」は、SD法で最も実務的な問いです。これに対しては、日本の研究を網羅的に集計した実データがあります。
井上・小林(1985年)は、概念の意味やイメージをSD法で測定した日本の論文・記事233件を収集し、そのうち尺度に因子分析を施していた99件を検討しました。そこから382組の形容詞対が集められ、使用頻度の高い68組が抽出されています(68組の使用頻度の合計は1361)。
収集文献の全分野で使われていた5つの形容詞対
68組のなかには、心理学のすべての分野で用いられている尺度として次の5組が挙げられています。同論文は「この5つの形容詞対はいかなる分野で研究する場合にも利用してよいであろう」としています。
| 形容詞対 | 使用文献 | 負荷量の記載 |
|---|---|---|
| 明るい-暗い | 6割近く | 63件 |
| やわらかい-かたい | 全分野 | 48件 |
| 暖かい-冷たい | 全分野 | - |
| 強い-弱い | 全分野 | - |
| はげしい-おだやかな | 全分野 | - |
「使用文献」は68組のなかでの広がり、「負荷量の記載」は因子負荷量が示されていた文献数です。一方で「親切な-不親切な」「頼もしい-頼りない」「まじめな-ふまじめな」「責任感のある-無責任な」のように、使用がほぼ特定の分野に偏っている形容詞対もあります。同論文はこれらを、人格の様態を測定しようとする際には有効であろうと位置づけています。逆にいえば、絵画・言語・色彩のような対象では使用頻度がごく低く、選定候補から外すのが実務的です。自己概念・子ども観・パーソナリティ認知の3概念に共通して利用できる尺度としては、37組が示されています。
測定対象別に見た因子負荷量の安定度
同じ形容詞対でも、測定対象によって因子負荷量のばらつきは大きく変わります。井上・小林(1985年)が示した「明るい-暗い」の因子負荷量の範囲は次のとおりです。
| 測定対象(概念) | 負荷量の範囲 | ばらつき |
|---|---|---|
| 自己概念 | .531〜.940 | 小 |
| 子ども観 | .600〜.745 | 小 |
| パーソナリティ認知 | .510〜.760 | 小 |
| 絵画 | .232〜.923 | 大 |
| 言語 | .394〜.720 | 大 |
| 自己イメージ | .340〜.852 | 大 |
人格系の3概念では値が安定しているのに対し、絵画・言語・自己イメージでは極端に高い値と低い値が混在し、範囲が広くなります。同論文はここから、こうした概念を測る場合は「明るい-暗い」の使用に十分気を付ける必要がある、と注意を促しています。定番の形容詞対だからどこでも使える、というわけではありません。
SD法のやり方:形容詞対の選定から集計までの7ステップ
実施の流れは次のとおりです。環境省の環境影響評価情報支援ネットワークに掲載された検討会資料「『SD法』を用いた調査手法例」(平成12年度第1回検討会 参考資料1-3。本文は大石康彦『森を調べる50の方法』1998年 189-194ページからの引用)の記述を軸に、東京大学の実験資料と井上・小林(1985年)の知見を補って組み立てています。
- 評価対象を決める。ブランド、商品パッケージ、空間、写真、音、言葉など、印象を測りたい対象を特定します。対象は複数用意すると比較ができます。
- 形容詞対を選ぶ。測りたい印象に合うものを、先行研究で使用実績のある尺度から選びます。評価性に偏らないよう、力量性・活動性に対応する対も混ぜます。
- 段階数を決める。SD法では7段階が標準で、同資料も「5ないし7段階程度」としています。
- 並び順と向きを整える。似た意味の対を隣に置かず、好ましい語が左右のどちらかに偏らないよう対語の左右を振り分けます。
- 回答を集める。回答者は各評定尺度上のいずれかの位置に印を付けます。同資料は、統計的処理を行うためには最低10人以上のデータが必要であること、不適当な箇所がひとつでもあればその回答全体が無効となるため、調査票はその場で回収して記入漏れがないことを確認するのが望ましいことを挙げています。森林景観の調査を念頭に置いた目安で、行政が定めた統計基準ではありません。
- 得点化する。同資料は各評定尺度の「悪い評価〜よい評価」に1〜5(または7)の得点を与えるとしています。「単純な-複雑な」のように好悪で向きが決まらない対は、どちらの語を高得点側にするかを項目ごとに決めておきます。左右を振り分けた項目は、ここで得点を反転させて向きをそろえます。
- 集計・分析する。対象ごとに各尺度の平均値を求め、プロフィールを描いて比較します。あわせて因子分析で次元を抽出します。
調査票で避けたい形容詞対の書き方
Nielsen Norman Groupの記事「UX調査における評価尺度:リッカート尺度かSD法か」(Maria Rosala、2020年、日本語版はU-Site)は、SD法のデータが信頼できる前提の1つ目に「2つの形容詞が真に相反していること」を挙げています。調査票で崩れやすいのはこの前提です。
- 反意語がある語の否定形:「重い-重くない」の「重くない」には、「軽い」のほかに「どちらでもない」も含まれます。両極の間が連続体にならないため、反意語の「軽い」が立つなら「重い-軽い」と書きます。後で紹介する東京大学の調査票の「住みたい-住みたくない」のように、適当な反意語が無い語では否定形も使われています。
- 読み方で意味が割れる語:「あつい」は「熱い-冷たい」「暑い-寒い」「厚い-薄い」のどれなのかが、ひらがなでは決まりません。逆に「瀟洒な-野暮な」のような読みにくい語は、回答者が意味を取り違えます。漢字・ひらがなは、意味が一つに定まり誰でも読める側を選びます。
- 意外な組み合わせ:同記事は「かっこいい」と「変な」のような組み合わせを避け、「おもしろい」と「つまらない」のような広く受け入れられている組み合わせを選ぶよう勧め、大規模な定量調査の前に対面のテストで相反する組み合わせと見なされるかを確認することを推奨しています。
市原(2009年)が自身の布の研究で使った「さわやかな」「好き」のような1語だけの尺度は単極尺度と呼ばれ、両極に反意語を置くSD法の尺度(双極尺度)とは別物です。反意語がある語を否定形で受けた対は、見た目は双極でも中身は「重い」の強さだけを測る単極尺度に近くなる、と考えると判断しやすくなります。設問文そのものの言葉選びはワーディングとは?意味・英語と言い回しとの違い、避けるべき言葉で扱っています。
形容詞対の並び順:類似した対の分離と左右の振り分け
並べ方で起きる失敗は2つあります。1つは、「大きい-小さい」の直後に「重い-軽い」を置くような、意味の近い対の隣接です。直前の回答に引きずられて同じ位置に印を付けやすくなり、本来別々に測りたい2つの尺度が同じ値に寄ります。前の設問が後の回答を歪める仕組みはキャリーオーバー効果とは?アンケートの質問順序が回答を歪める仕組みと具体例・対策で詳しく解説しています。
もう1つは向きの偏りです。好ましい語がすべて左端にあると、中身を読まずに左へ寄せる回答でもそれらしいプロフィールができてしまいます。東京大学が公開している庭景観の評価実験では、対語のどちらを左右にするかを無作為に選び、評価的によい言葉が左右どちらかに偏らないようにしたと記録されています。複数の対象を同じ形容詞対の組で評価してもらう場合の設問レイアウトは、マトリクス形式(マトリクス設問)とは?アンケートでの作り方と行列数の目安を参照してください。
調査票の実例:東京大学の庭景観評価(4段階9項目)
実物の調査票が見えると設計しやすくなります。同じ庭景観の評価実験では、次の9項目が使われました。中央の「どちらともいえない」というどっちつかずの評価が頻発するのを避けるため、あえて偶数の4段階が採られています。
| 項目 | 左端 | 右端 |
|---|---|---|
| 1 | 嫌い | 好き |
| 2 | 住みたい | 住みたくない |
| 3 | なじみがない | なじみがある |
| 4 | 面白い・興味深い | 退屈である |
| 5 | 単純な | 複雑な |
| 6 | くつろげる | ストレスを感じる |
| 7 | 雑然・まとまっていない | 整然・まとまった |
| 8 | 緑が多い | 緑が少ない |
| 9 | 窮屈である | 広々としている |
ポジティブな語が右端にある項目(1、3、7、9)と左端にある項目(2、4、6、8)が混在しています。これが左右の振り分けの実装です。項目5の「単純な-複雑な」はどちらが好ましいとも言えない対で、評価性以外の軸を測る項目が混ざっている点も設計の参考になります。
段階数7の根拠と、偶数段階という選択肢
7段階が標準になった理由は、オズグッド自身が『The Measurement of Meaning』で説明しています。多数の実験で、7つの選択肢はすべてが、厳密ではないにせよほぼ同じ頻度で使われる傾向があった。段階数の違う尺度を大学生に使わせた初期の研究(Stagner and Osgood, 1946)では、9段階では中立の両側の3つの位置がどれも使われる頻度が大きく下がり、5段階では「わずかに」と「かなり」を区別できないことに学生がいら立ちを示した、というものです。同書はこの点に個人差があることも認めています。
一方、中央のどっちつかずの評価が集まりやすいという指摘もあり、これを避けるために偶数段階を採る設計もあります。東京大学の4段階はこの選択です。
中間段階のラベルについては、Nielsen Norman Groupの同記事が整理しています。SD法では連続体の途中の選択肢にラベルが付いていないことがほとんどですが、途中の段階に番号を振る(-3〜+3)、あるいは「非常に」「やや」「どちらでもない」と単語でラベル付けするバリエーションも存在します。単語のラベルが付いた尺度のほうが理解されやすいという研究がある一方、途中の段階を表す適切な単語を考え出すのは難しい、というのが実情です。
SD法の分析方法:得点の反転・プロフィール・因子分析
市原(2009年)は、SD法の一般的な分析を「刺激語に対する形容詞対の評定結果を平均したものをプロフィールに描き、刺激のプロフィールの差を検討するか、あるいは、得られたデータを因子分析し、因子構造を明らかにするとともに、刺激ごとに平均因子得点を求め、それらを比較する」と要約しています。その前に、左右を振り分けた項目の得点をそろえる作業が要ります。
逆転項目の得点をそろえる:Pythonでの集計例
左右を振り分けた調査票では、回答値をそのまま平均すると項目ごとに向きが逆のまま混ざります。高得点にしたい語が左端にある項目は、「(最小値+最大値)-回答値」で反転させます。4段階なら1と4、2と3が入れ替わり、7段階なら8から引きます。
次のコードは、東京大学の9項目・4段階の並びをそのまま使い、庭Aと庭Bを5人ずつが評価したという例示用の架空データを集計するものです。Python 3.9.6 の標準ライブラリだけで動き、出力は実際に実行して確認しました。
# sd_profile.py
import statistics
# 東京大学の庭景観評価と同じ9項目・4段階(1=左端、4=右端)
items = [
("嫌い", "好き"), ("住みたい", "住みたくない"), ("なじみがない", "なじみがある"),
("面白い・興味深い", "退屈である"), ("単純な", "複雑な"), ("くつろげる", "ストレスを感じる"),
("雑然・まとまっていない", "整然・まとまった"), ("緑が多い", "緑が少ない"), ("窮屈である", "広々としている"),
]
# 高得点側にしたい語が左端にある項目(0始まり)=得点を反転する
reverse = {1, 3, 5, 7}
LOW, HIGH = 1, 4
# 例示用の架空データ:庭A・庭Bを5人が評価(1〜4)
answers = {
"庭A": [[4,1,3,1,2,1,4,1,4],[3,2,3,2,2,1,3,1,4],[4,1,4,1,3,2,4,2,3],[3,1,2,2,2,1,3,1,4],[4,2,3,1,1,1,4,1,4]],
"庭B": [[2,3,2,3,3,3,2,3,2],[1,4,1,3,3,4,1,4,1],[3,2,3,2,4,2,3,3,2],[2,3,2,4,3,3,2,3,1],[2,4,1,3,4,3,2,4,2]],
}
def score(i, x):
# 反転:(最小+最大) - x。4段階なら 1↔4、2↔3
return (LOW + HIGH) - x if i in reverse else x
for garden, rows in answers.items():
print(f"[{garden}] 項目 / 平均 / 中央値(高得点側の語=4にそろえた後)")
for i, (left, right) in enumerate(items):
vals = [score(i, r[i]) for r in rows]
high = left if i in reverse else right
print(f" {i+1}. {high:<12} mean={statistics.mean(vals):.2f} median={statistics.median(vals)}")
実行結果のうち、庭Aと庭Bの差がわかる項目を抜き出すと次のとおりです。
| 高得点側の語 | 庭A 平均 | 庭A 中央値 | 庭B 平均 | 庭B 中央値 |
|---|---|---|---|---|
| 好き | 3.60 | 4 | 2.00 | 2 |
| 住みたい(反転) | 3.60 | 4 | 1.80 | 2 |
| なじみがある | 3.00 | 3 | 1.80 | 2 |
| 複雑な | 2.00 | 2 | 3.40 | 3 |
| くつろげる(反転) | 3.80 | 4 | 2.00 | 2 |
| 緑が多い(反転) | 3.80 | 4 | 1.60 | 2 |
反転前の庭Aの項目2は平均1.40で、元の符号化では「住みたい」側に寄っています。反転を忘れたまま「高得点=好ましい」のつもりでプロフィールを描くと、この項目だけ最低水準に落ち、実際とは逆に住みたくない庭のように見えます。もう一つ読み取れるのは中央値の粗さです。4段階では中央値が整数か0.5刻みにしかならず、庭Aでは9項目中7項目が4に張り付きました。後述する尺度水準の問題を避けて中央値で描こうとすると、段階数が少ないほど差が見えにくくなります。
データの持ち方は「対象×形容詞対×回答者」の3方向です。対象がm個、形容詞対がn組、回答者がk人なら m×n×k 個の値になり、プロフィールは回答者方向を平均して潰したもの、と理解しておくと後の個人差の議論につながります。
セマンティック・プロフィール(SDプロファイル)の描き方
形容詞対を縦軸に並べ、対象ごとの平均評定値を横軸に取って折れ線で結んだものがセマンティック・プロフィール、別名SDプロファイルです。表計算ソフトでは、項目を横軸、平均値を縦軸にした折れ線グラフで描くのが手早い方法です。形容詞対を縦に並べる伝統的な形にしたい場合は、平均値をX、項目番号をYにした直線付きの散布図を使い、Y軸に形容詞対の名前を添えます。狙いは形の比較。複数の対象を重ねて描けば、どの軸で差が出ているかが視覚的に読み取れます。
プロフィール比較が何を捉えられるかを示す実測例があります。大山正『色彩心理学入門』(中公新書、1994年)は、「緑」の色紙に対するプロフィールと「郷愁」という言葉に対するプロフィールがほとんど同じ形になり相関係数が0.76、「青」の色紙と「平静」という言葉でも同様に0.81になったと報告しています(市原2009年による紹介)。市原は、色と言葉という異なる刺激でも、プロフィールという共通の尺度を介して共通の感情的なプロセスを生じさせることを示唆するもの、と解釈しています。
因子分析による次元の抽出と因子軸の解釈
もう一つが因子分析です。多数の形容詞対の評定値を、背後にある少数の次元(因子)に集約します。環境省の検討会資料も「分析は統計手法のひとつである『因子分析』を用い、因子負荷量と因子軸をもとめる。この処理は市販のパソコン用統計ソフトで行うことが可能である」とし、最後に因子軸の意味を、その軸を構成する評定尺度から考察するという流れを示しています。
同資料が挙げる森林の評価例では、疎開した森林から込んだ森林まで4種類を9名の被験者が評価した結果、「自然な-不自然な」に代表される価値因子と、「開放的な-閉鎖的な」に代表される空間因子が主な因子軸として見いだされました。EPAではなく「空間因子」が出てくるところが、対象に応じて因子構造が変わる実例です。因子分析の手順や結果の読み方そのものは、因子分析とは?やり方・結果の見方を具体例でわかりやすく解説で詳しく扱っています。
主成分分析と因子分析の使い分け
SD法のデータには主成分分析も使われ、『The Measurement of Meaning』に収録された言語間比較の研究でも主成分法が適用されています。2つは計算の向きが逆です。主成分分析は、観測した形容詞対の得点を重み付きで足し合わせ、元の情報をできるだけ失わない少数の合成得点を作ります。因子分析は、観測した得点の背後に共通の原因(因子)があると仮定し、各得点を「共通因子+その尺度に固有の部分」に分けて推定します。UCLAの統計相談窓口の解説の言い方では、因子分析が共通分散を分析するのに対し、主成分分析は総分散を分析します。
判断の基準は、何を知りたいかです。「評価性・力量性のような印象の次元がいくつあり、どの形容詞対がどれに属するか」を解釈したいなら因子分析。多数の形容詞対を少数の得点にまとめて、別の分析の入力に使いたいだけなら主成分分析で足ります。市原(2009年)が紹介する増山の研究は後者の例で、落語のオチの前後を聞かせた印象を13の形容詞対で評価させ、主成分分析で4因子を抽出し、その主成分得点を説明変数にしてオチのおかしさを重回帰で予測しています。市原はこの種の研究について、独立変数と従属変数の仕分けが実験計画の段階から厳格にできているかに注意が要ると指摘しています。主成分分析の計算手順は主成分分析とは?定義・仕組み・分析手順から導入判断まで実装目線で解説、対象間の類似度を距離として布置したい場合は多次元尺度構成法(MDS)とは?主成分分析との違い・計算手順・活用例を解説が参考になります。
SD法とリッカート尺度の違い:測る対象と回答形式の使い分け
SD法とリッカート尺度は、どちらも意見の程度を測る評価尺度ですが、測っている対象と回答形式が異なります。リッカート尺度は、1930年代にこの手法を作ったレンシス・リッカート(Rensis Likert)にちなむ名称で、原典は Likert, R. (1932). A Technique for the Measurement of Attitudes. Archives of Psychology, 140, 1-55. です。
両者の違いを、Nielsen Norman Groupの比較にもとづいて整理します。
| 観点 | リッカート項目 | SD法 |
|---|---|---|
| 得られる情報 | 記述文への同意・不同意 | 形容詞対の連続体上での位置 |
| 選択肢の数 | 通常5つ(7つ・9つも可) | 通常7つ(段階数はさまざま) |
| 選択肢のラベル | 各選択肢に単語ラベル | 両極のみ。間は無ラベルか数字 |
| 限界 | 黙従バイアス・社会的望ましさバイアス | 無ラベルゆえ回答に高い認知能力 |
ラベルの行には補足が要ります。リッカート尺度でも段階が多い場合は、連続体である尺度上の選択肢のすべてにラベルが付けられていないことがあります。同意の程度を3つ以上に分けて簡潔に書き分けるのが難しいためです。
NN/gは両者をどちらも態度を測る手段として扱っており、同じ対象の評価をどちらの形式でも尋ねられます。使い分けの目安は回答形式です。ブランドやパッケージ、空間の雰囲気のように言葉になりにくい印象を形容詞の軸で捉えたいならSD法。「この機能は使いやすいと思う」のような記述文への賛否を測りたいならリッカート尺度が向きます。
ただし柔軟性ではリッカート尺度が優位です。同記事は、たとえば「発見フェーズが完了するまで、解決策について考え始めない」のような記述文はSD法に変換しようとすると収集しようとしている情報の種類そのものを変えざるを得ないとし、概してリッカート型の回答形式を利用する質問のほうが柔軟性が高く、より多くの応用が可能であると結論づけています。
SD法が成立するための2つの前提
同記事は、SD法の質問から作成されるデータが信頼できるのは次の2つの前提が満たされた場合だけだと明記しています。
- 2つの形容詞が真に相反していること。ただし、二項対立している形容詞を常に見つけられるとは限りません。
- その形容詞が二項対立していること、そして形容詞間が連続体になっていることを回答者が理解していること。中間段階にラベルがないため、選択肢が回答者ごとに異なって解釈される可能性があります。
リッカート尺度でも、肯定文と否定文を混ぜて得点を反転させる「逆転項目」の扱いはSD法の左右の振り分けと同じ考え方です。リッカート尺度そのものの段階数の選び方や作り方は、リッカート尺度とは?5段階と7段階の選び方・作り方と分析方法を参照してください。
SD法の限界:尺度水準の前提と、形容詞別に開く個人差
SD法の解説であまり触れられない論点が、データの尺度水準です。
尺度水準の前提:順序尺度データの間隔尺度扱い
環境省の検討会資料は冒頭で「SD法は形容詞対の順序尺度上(質問の回答内容の順序関係を示すもの)に心理反応を反映させる方法である」と定義しています。順序尺度、つまり大小の順序は意味を持つが、目盛りの間隔が等しい保証はない水準です。
ところが実務では、この回答値をそのまま足して平均を取っています。市原(2009年)はまとめでこの点を正面から問題提起しました。「SD法の場合、被験者のデータをそのまま尺度値として足し加え、平均を取っている。つまり、SD法のデータは、間隔尺度の水準を満たしているものとして扱っているわけである。だが、はたしてそれでいいのだろうか。順序尺度の水準しか満たしていないのではないだろうか」。
断定ではなく問題提起である点が重要です。同論文は、仮に順序尺度の水準しか満たしていない場合、プロフィールを平均値ではなく中央値で描くのか、従来の検定法ではなくブートストラップ法などを使うのか、因子分析に代わるノンメトリックな多変量解析法を使うのかといった選択肢を挙げ、解決すべきことがたくさんあるとしています。この論点は2009年時点で未解決。SD法の結果を報告する際は、平均値と因子分析という定番の処理が前提を一つ置いていることを認識しておくのが誠実です。
形容詞別に開く個人差の大きさ
SD法では平均値を使うため個人差が消えます。しかし個人差の大きさは形容詞によって違います。市原自身が行った布の印象評価の研究(市原茂「布の好みの個人差の因果分析的研究」人間工学 32巻1号、1996年)では、赤・黄・緑・青・紫・白・黒の7色の綿糸を5通りの織り方で織り込んだ布を対象に、形容詞ごとに被験者間の相関係数を計算しています。用いた形容詞は単極尺度です。結果は、市原(2009年)の表1によれば次のように分かれました。
| 個人差が小さい形容詞 | 相関の中央値 | 個人差が大きい形容詞 | 相関の中央値 |
|---|---|---|---|
| さわやかな | 0.63 | モダンな | 0.03 |
| 渋い | 0.62 | ナチュラルな | 0.04 |
| 若々しい | 0.57 | 好き | 0.06 |
「モダンな」「ナチュラルな」「好き」では、評定傾向が互いによく似て正の相関を示すペアもいれば、傾向が反対で負の相関を示すペアもいるという状態でした。平均値だけを見ると、この分裂は完全に見えなくなります。個人差を扱うには、尺度×概念×被験者という三相のデータ構造をそのまま扱う三相因子分析などの方法がありますが、市原は2009年の論文で、当時はこれらの方法があまり使われていないと述べています。
評価性偏重の調査票が招く失敗
市原(2009年)はまとめで、解析が簡単になったぶん研究計画が手薄になる傾向を指摘しています。SD法の場合、評価性因子に偏った形容詞を選択したり、形容詞とはいいがたいものを持ってきてSD法と言い張ったりするケースがあると聞く、として「SD法の基本は、意味空間を明らかにすることである」と再確認を求めました。評価性に寄った形容詞対ばかり並べた調査票は、実質的には好き嫌いを何度も聞いているだけになります。回答のばらつきや誤差の考え方は、回答誤差とは?標本誤差との違い・原因・Web調査での検知方法もあわせて確認してください。
SD法が使われている場面:官能評価・景観評価・マーケティング
SD法は特定の分野の専用手法ではなく、印象を測りたい場面全般で使われています。市原(2009年)は「SD法は、様々な刺激概念を対象とすることができるのが大きな特徴で、そのために、様々な研究領域で用いられている」とし、とくに官能評価の領域では広く使用される測定法だと述べています。同論文自体、日本人間工学会の感性情報処理・官能評価部会による総説です。
- 官能評価・感性評価:食品、素材、音、におい。触覚的な形容詞(やわらかい、温かい)で視覚刺激や聴覚刺激を評価させるなど、共感覚的な表現をそのまま測れる点がSD法の特性です。
- 景観・空間評価:環境省の検討会でも、景観の調査手法例として参考資料に採られています。森林の印象を価値因子と空間因子で構造化した例が示されました。
- マーケティング・ブランド調査:ブランド、パッケージ、広告の印象比較。リニューアル前後のプロフィールを重ねて変化を見る使い方が典型です。調査票の配信・回収・集計を自社の業務システムに組み込みたい場合は、アンケート管理システム開発のように逆転項目の反転やプロフィール出力まで含めて設計する選択肢もあります。
- 教育・心理臨床:自己概念、子ども観、パーソナリティ認知など。井上・小林(1985年)は、この3概念それぞれの測定に有効な尺度として56組・51組・49組を挙げています。
研究動向としては、市原(2009年)がPubMedで1954年から2008年までの「Semantic Differential」関連論文を検索し、テーマの異なるものを除いた1389件を対象に集計しています。公刊論文数は1967年に急増。同論文はIBMの SYSTEM/360(IBMの沿革では1964年に発表)とフロッピーディスク(1967年に開発が始まり、販売開始は1971年)を挙げ、SD法の研究の進展がコンピュータの発展抜きには語れなかったことを示すものかもしれない、と考察しています。
よくある質問
SD法とは何ですか?
相反する形容詞を両端に置いた評定尺度を複数使い、対象の印象・イメージを段階評価で数値化する心理測定法です。正式名称はセマンティック・ディファレンシャル法(Semantic Differential Method)で、オズグッドが1952年に理論を組み立てました。「意味微分法」とも訳されますが、原語の differential が指すのは微分ではなく「差」だとされています。
SD法の欠点は何ですか?
大きく3つあります。両極が真に相反する形容詞対を常に見つけられるとは限らないこと、中間段階にラベルが無いため回答者ごとに解釈が割れやすく回答の負荷が高いこと、そして回答が順序尺度の水準にとどまる可能性があるのに平均値で集計されていることです。加えて、平均値でプロフィールを描くと、「好き」「モダンな」のように個人差が大きい形容詞では回答者間の分裂が見えなくなります。
SD法は何段階で作るのが正しいですか?
7段階が標準です。オズグッドは、7段階なら全選択肢がほぼ均等に使われること、大学生に試した初期の研究で、9段階では中立の両側にある3つの位置の使用頻度がどれも大きく下がり、5段階では「わずかに」と「かなり」を区別できないことに学生がいら立ちを示したことを理由に挙げています。中央の「どちらともいえない」を避けたい場合は、東京大学の庭景観評価のように偶数の4段階を採る設計もあります。
SD法の形容詞対はどう選べばよいですか?
先行研究で使用実績のある尺度から選び、評価性に偏らないよう力量性・活動性に対応する対も混ぜます。井上・小林(1985年)が整理した382組・68組のうち、収集文献の全分野で使われていたのは「明るい-暗い」など5組です。両端が真に相反しているかは、本調査の前に対面のテストで確認するのが確実です。
SD法とリッカート尺度の違いは何ですか?
回答形式が違います。SD法は形容詞対の間の位置を選ばせ、リッカート尺度は記述文への同意・不同意の程度を尋ねます。言葉になりにくい印象を軸で捉えたいならSD法、記述文への賛否を測りたいならリッカート尺度で、応用の柔軟性はリッカート型のほうが高いとされています。
SD法の分析には因子分析が必須ですか?
必須ではありません。対象ごとの平均値のプロフィールを重ねるだけでも、どの軸で差が出ているかは読めます。印象の次元構造を解釈したいなら因子分析、合成得点を作るだけなら主成分分析で足ります。
SD法でレポートを書くときは何を記載しますか?
読み手が同じ調査を再現できるだけの情報を書きます。刺激(評価対象)の内容と提示方法、形容詞対の一覧と左右の配置、段階数、回答者の人数と属性、反転させた項目と得点の付け方がまず要ります。結果では、対象ごとの平均値のプロフィール図と、因子分析を行ったなら因子数の決め方と各形容詞対の因子負荷量の表を示し、因子名をどの形容詞対から付けたかを考察に書きます。井上・小林(1985年)の集計でも、因子分析を行った研究のなかで負荷量の記載がある文献は一部にとどまっており、負荷量の表は後から読む人が因子の命名を検証するための材料になります。