アダプティブラーニング(適応学習・適応型学習)は、学習者の解答データから理解度を推定し、次に出す問題や戻る単元をシステムが自動で決める学習方式です。文部科学省は2018年6月の中央教育審議会の会議資料(EdTech関連施策の整理)で、「学習データ等を活用した学習状況の見える化等による個に応じた指導(アダプティブ・ラーニング)の推進」を「すぐにでも着手すべき課題」の一つに挙げています。現在は、2021年の中央教育審議会答申が示した「個別最適な学び」のうち「指導の個別化」を機械で支える手段として、GIGAスクール構想の1人1台端末の上で使われています。この記事では、理解度を推定する仕組みの中身、eラーニング・アクティブラーニングとの違い、文部科学省の方針と最新の審議状況、教材の具体例、不登校の子どもが使うときの成績評価の扱い、向かない場面までを一次資料で整理します。
まとめ:アダプティブラーニングの要点
- 正体は「解答ごとに理解度を推定し直し、出題と進度を変える仕組み」。推定には知識追跡(BKT)、項目反応理論(IRT)、単元の前提関係グラフなどが使われる。
- eラーニングは配信の形態、アクティブラーニングは授業の方法で、どちらも個別最適化そのものを指す言葉ではない。
- 文部科学省は「個別最適な学び」を「指導の個別化」と「学習の個性化」に分けて定義している。アダプティブラーニングが直接担えるのは前者が中心。
- 基盤は整いつつあるが途上。必要なネットワーク速度を確保した公立学校は2025年12月1日時点で63.9%、デジタルドリル(AIドリル等)を使う自治体は2022年8月時点で小学校68.0%・中学校66.4%(適応型の機能に限った数字ではない)。
- 全国学力・学習状況調査は2025年度の中学校理科からCBTとIRTを導入し、2027年度以降は全教科CBTへ移る。次期学習指導要領は2026年10月5日に審議まとめが出て、答申は2026年度中の予定。
- 不登校の子どもが自宅で使う場合、学年をさかのぼって学習している教科は成績評価の要件を満たさないことがある。導入前に学校と評価の扱いを決めておく。
以下、仕組み、政策、具体例、使いどころの順に掘り下げます。
アダプティブラーニングの意味と仕組み
適応学習・適応型学習という訳語と定義
adaptive は「適応する」という意味で、日本語では適応学習、適応型学習と訳されます。訳語が違っても指す内容は同じです。要点は、全員に同じ教材を同じ順で配る一斉授業に対して、学習者ごとに経路を変えて同じ到達目標へ向かわせることにあります。家庭教師が生徒の答え方を見て次の説明を変える作業を、解答データとアルゴリズムで大人数に対して行う、と捉えると分かりやすいでしょう。
理解度の推定に使うデータは教材によって異なり、正誤だけとは限りません。たとえば Qubena の公式サイトは、問題・解答時間・正答率などの学習データを収集・分析するとし、解答時間や説明ヒントの閲覧時間・閲覧回数にも触れています。推定した理解度に応じて、易しい問題や前の単元へ戻すか、次の単元へ進めるかを決め、解答が返るたびにこの判断を更新します。
理解度を推定する3つの方式(知識追跡・IRT・前提関係グラフ)
「AIが最適化する」と書かれることが多いものの、内部で何を推定しているかは方式によって異なります。代表的なのは次の3つで、実際の教材では組み合わせて使われることもあります。
| 方式 | 推定するもの | 向く用途 |
|---|---|---|
| 知識追跡(BKT) | 技能ごとの習得確率 | ドリルの出題・習得判定 |
| 項目反応理論(IRT) | 能力値と問題の難易度 | テスト・適応型テスト |
| 前提関係グラフ | つまずきの原因単元 | さかのぼり学習 |
知識追跡(Bayesian Knowledge Tracing)は、Corbett と Anderson が1994年に発表した論文「Knowledge tracing: Modeling the acquisition of procedural knowledge」(User Modeling and User-Adapted Interaction 4巻)に由来する手法です。技能ごとに「もう習得している確率」を持ち、正解・不正解のたびに更新します。最初から知っている確率、1回の練習で習得する確率、知らないのに当てる確率、知っているのにうっかり間違える確率の4つを置くのが基本形で、習得確率がしきい値を超えたらその技能の出題を止めます。近年は、この推定をニューラルネットワークで行う深層知識追跡(Deep Knowledge Tracing)も研究されています。
項目反応理論(IRT)は、受験者の能力と問題の難しさを同じ物差しの上で推定する統計手法です。問題の難易度などを共通の尺度上に位置づける等化を行えば、解いた問題が人によって違っても能力値を比較でき、能力の推定値に合わせて次の問題を選べばコンピュータ適応型テスト(CAT)になります。前提関係グラフは、「分数の計算」の前に「通分」、その前に「約分」というように単元の依存関係をつないだもので、文章題で間違えたときに原因の単元までさかのぼる判断に使われます。
CAIから現在のAI教材までの歴史
コンピュータで学習者ごとに教える試みは古く、1960年にイリノイ大学で始まった PLATO は、汎用的なコンピュータ支援教育(CAI)の最初期のシステムとされています。その後、パソコンとインターネットの普及でCBT・WBTと呼ばれる形態が広がり、2000年代後半からは大量の解答データを使う商用の適応学習エンジンが登場しました。
象徴的なのが、2008年に米国で創業した Knewton です。出版社と組んで教材に適応学習エンジンを組み込む事業で注目を集めましたが、2019年5月、教育出版大手の Wiley がKnewton の資産を取得する契約を発表しています。エンジン単体で教材の外から最適化するより、教材と問題データを持つ側が仕組みを抱える方向へ移った例と読めます。国内の具体例には、Qubenaやatama+など、教材と個別の出題調整を組み合わせて提供するサービスがあります。
eラーニング・アクティブラーニングとの違い
名前が似ているため混同されやすいのがアクティブラーニングで、配信の形態を指すeラーニングとも区別が必要です。3つは狙いが違います。
| 用語 | 何を指すか | 個別最適化 | 典型例 |
|---|---|---|---|
| アダプティブラーニング | 出題と進度の自動調整 | 中心機能 | AIドリル |
| eラーニング | ネット経由の配信形態 | 必須ではない | 録画講義 |
| アクティブラーニング | 能動的な授業の方法 | 目的が別 | 討論・協働 |
eラーニングは「いつでもどこでも学べる」配信形態で、教材が全員共通でも成り立ちます。アダプティブラーニングは、その上に出題の自動調整を載せたものと整理できます。アクティブラーニングは討論やグループワークで学習者が能動的に学ぶ授業方法で、文部科学省の学習指導要領では「主体的・対話的で深い学び」という言葉で示されています。授業の中で両者を組み合わせ、知識の習得はアダプティブ教材で、活用は協働の場で、という分担を組む学校もあります。
文部科学省の方針とアダプティブラーニング
個別最適な学び(指導の個別化と学習の個性化)
「個別最適な学び」は、2021年1月26日の中央教育審議会答申「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して」で示された概念です。答申本文は、子供一人一人の特性や学習進度、学習到達度等に応じて指導方法・教材や学習時間等を柔軟に提供・設定する「指導の個別化」と、子供自身が学習が最適となるよう調整する「学習の個性化」の2つを挙げ、これを教師視点で整理した概念が「個に応じた指導」、学習者視点で整理した概念が「個別最適な学び」だと説明しています。
アダプティブラーニングが直接担えるのは、進度と到達度に応じて教材と学習時間を変える「指導の個別化」です。「学習の個性化」は、子ども自身が興味・関心に沿って課題を選び、学び方を調整する側の話なので、出題を自動で決める仕組みだけでは満たせません。答申が「協働的な学び」との一体的な充実を求めている点も合わせると、文部科学省の方針は「アダプティブ教材を入れれば個別最適な学びが実現する」とは言っていない、と読むのが正確です。
GIGAスクール構想と端末更新・通信環境
アダプティブ教材を教室で使う前提になるのが、1人1台端末と高速通信を整備したGIGAスクール構想です。整備から5年ほどたった端末の更新が第2期として進んでおり、文部科学省は令和5年度補正予算で2,661億円を計上し、公立の義務教育段階では1台55,000円を補助基準額としています。整備の経緯と第2期の論点はGIGAスクール構想の到達点と第2期の更新で詳しく扱っています。
通信はまだ追いついていません。文部科学省の学校のネットワーク速度に関する調査では、「当面の推奨帯域」などの基準で必要なネットワーク速度を確保できている公立学校は、2025年12月1日時点で31,818校中20,318校(63.9%)でした。児童生徒841人以上の学校では50.5%にとどまり、大規模校ほど低い傾向です。全員が同時に解答を送るドリル型の教材は回線の詰まりが体験に直結するため、導入前に学校単位の実効速度を確かめる必要があります。
全国学力・学習状況調査のCBT化とIRT
IRTは教材の中だけの話ではなくなっています。文部科学省は全国学力・学習状況調査を1人1台端末で受けるCBTへ移行しており、中央教育審議会教育課程部会(第131回)の議事録によると、令和7年度(2025年度)調査の中学校理科でCBTを導入し、令和8年度調査では英語の4技能すべてをCBTで実施、令和9年度以降は全教科をCBTで実施することが決まっています。同じ説明の中で、CBT化とあわせてIRT分析を導入し、結果の返し方を変えていく方針も示されています。
CBTの土台になっている文部科学省のCBTシステム MEXCBT(メクビット)は、政策評価の資料で公立小中学校等の学校単位の利用率は2023年度の84%から2024年度の90%へ上がり、目標は100%とされています。国の調査が「同じ問題を全員に」から「能力の物差しで比べる」へ移ることは、学校がIRTのような推定の考え方に触れる機会が増えることを意味します。
次期学習指導要領の審議状況(2026年10月時点)
2024年12月25日、文部科学大臣は中央教育審議会に「初等中等教育における教育課程の基準等の在り方について」を諮問しました。教育課程企画特別部会が2025年9月25日に論点整理を報告し、教育課程部会は2026年10月5日に「次期学習指導要領等に向けた審議まとめ」を取りまとめています。論点整理の段階で、答申は令和8年度中(2027年3月まで)に取りまとめる工程が示されています。
2026年10月12日時点では答申前で、10月8日の教育課程企画特別部会(第19回)から関係団体へのヒアリングが始まっています。デジタル学習基盤を前提にした教育課程の在り方が論点に入っているため、アダプティブ教材の位置づけも答申と学習指導要領本体で変わる可能性があります。導入計画を立てる教育委員会は、答申が出た段階で記述を確かめてください。
アダプティブラーニング教材の具体例
国内で名前が挙がることの多い教材を、「何に合わせて調整するか」で並べます。利用校数などの数値は各社の発表時点で変わるため、ここでは扱いません。
| 教材(提供元) | 調整の軸 | 主な利用先 |
|---|---|---|
| すらら(すららネット) | 学年をさかのぼる単元 | 学校・塾・家庭 |
| Qubena(COMPASS) | 解答に応じた出題 | 公立小中学校 |
| atama+(atama plus) | つまずきの原因単元 | 塾・予備校 |
| Monoxer(モノグサ) | 記憶の定着度 | 学校・企業研修 |
効果の一次データとして引用されることが多いのが、経済産業省「未来の教室」実証での千代田区立麹町中学校の Qubena 活用です。未来の教室とEdTech研究会の第2次提言(2019年6月)は、AI型ドリル教材を使った自学自習と学び合いで、成績中下位層の生徒たちが従来の2分の1程度の時間で学習を修了し、成績上位層のクラスの成績に近づいたと報告しています。浮いた時間は、習った定理でロボットやドローンを動かすワークショップに充てられました。ただしこれは、学校ぐるみで授業の時間配分を作り直した実証の結果で、教材を入れただけで同じ数字が出るわけではありません。
学校で使われる教材の全体像を見ると、文部科学省の端末利活用状況等の実態調査(2022年8月時点)で、AIドリルなどのデジタルドリルを使用している自治体は小学校68.0%、中学校66.4%でした。学習eポータルやドリルを含むソフトウェアの接続の考え方は学習eポータル・AIドリル・教材配信の機能範囲と接続設計を参照してください。
不登校の子どもの学習と成績評価の扱い
アダプティブ教材は、自宅や教育支援センターで学ぶ不登校の子どもの学習手段としても使われています。ここで押さえておきたいのが、2024年8月29日に文部科学省が出した「不登校児童生徒が欠席中に行った学習の成果に係る成績評価について(通知)」です。小・中学校、義務教育学校、中等教育学校前期課程、特別支援学校小学部・中学部を対象に、学校教育法施行規則の改正(令和6年文部科学省令第24号)と告示(同告示第127号)により、欠席中の学習の成果を一定の要件の下で成績に反映できることが法令上明確になりました。
告示の要件は3つで、すべて満たす必要があります。学習の計画・内容が在籍校の教育課程に照らして適切であること、学校が保護者等を通じて学習状況を定期的・継続的に把握すること、学校が訪問やICTを使ったオンラインでの相談・指導で本人と直接の関わりを続けることです。通知は取組例として、民間のeラーニング教材を使って教育支援センターで学ぶ子どもの学習状況を職員が把握し、学校と共有するケースも挙げています。
注意したいのは、さかのぼり学習との関係です。通知の留意事項は、一部の教科で在籍学年より下の学年の学習をしているなど告示の要件を満たさない教科がある場合、すべての教科・観点で評定を記載することは求められないとしています。さかのぼり学習の成果を評定に反映できるかは、教育課程との対応や評価材料によって学校が判断します。評定の記載が難しい場合も、通知は指導要録の所見欄などに学習状況を記述するよう求めています。導入前に、どの教科を在籍学年の内容で進めるか、学習ログを学校へどう渡すかを学校と決めておくのが現実的です。なお、指導要録上の出欠の扱いは、引き続き令和元年10月25日の通知に基づくとされています。
導入の効果と向かない場面
ドリル型教材に適した学習領域と授業設計
ドリル型教材で扱いやすいのは、正解が一つに決まり、単元の前提関係がはっきりした領域です。算数・数学の計算、英単語、漢字、理科の用語などは、解答データから理解度を推定しやすく、さかのぼる単元も特定しやすい分野です。教員の側では、誰がどの単元で止まっているかがダッシュボードで見えるため、机間指導の行き先を決めやすくなります。
導入時には、教材の機能だけでなく、授業の時間配分も設計する必要があります。ドリルで時間を短縮できた場合に何へ充てるかを先に決め、その学習成果も確認してください。成果の測り方を導入前に決めておく方法は、ICT教育システムの目的を成果指標に翻訳する考え方が参考になります。
向かない場面と失敗パターン
向かないのは、正解が一つに決まらない学びをドリルだけで済ませる使い方です。正誤判定を中心とするドリルでは、作文の構成、討論、実験計画、体育や音楽の実技を十分に評価できません。作文については、生徒ごとの弱点に応じて指導を変える Writing Pal という適応型システムの研究(Butterfussら、2022年)もあり、ドリル以外の形なら守備範囲は広がります。それでも、ドリルの正誤判定に無理に当てはめれば、選択式で測れる部分だけが評価され、学びが痩せます。
失敗しやすいのは次のような導入です。
- 端末の配布と同時に全教科へ一斉導入し、通信が詰まって「重い教材」という印象が先に定着する
- ドリルの学習時間や正答数を成果として報告し、授業の中身が変わったかを見ない
- 不登校の子どもにさかのぼり学習を勧めたあとで、評定が付かない教科があると分かる
- 学習ログの保存先と第三者提供の範囲を確認せずに契約し、教育委員会の個人情報の取扱いと食い違う
反対に、まず1教科・1学年で始め、浮いた時間の使い道と評価の扱いを決めてから広げる進め方なら、こうした失敗の多くは避けられます。学校や企業研修向けに学習管理と適応型の出題を組み合わせた仕組みを自前で持ちたい場合は、eラーニングシステム開発(LMS)のように要件から設計する選択肢もあります。
よくある質問
アダプティブラーニングの具体例は?
国内では、学年をさかのぼって学べるすらら、公立小中学校で使われるQubena、つまずきの原因を診断する塾向けのatama+、記憶の定着に特化したMonoxerがよく挙がります。学校の実証では、経済産業省「未来の教室」で麹町中学校がQubenaを使い、成績中下位層が従来の2分の1程度の時間で学習を修了した例が報告されています。
アダプティブラーニングとアクティブラーニングの違いは?
アダプティブラーニングは解答データから出題と進度を自動で調整する仕組み、アクティブラーニングは討論やグループワークで学習者が能動的に学ぶ授業の方法です。前者は知識・技能の習得の個別化、後者は「主体的・対話的で深い学び」を狙います。
文部科学省はアダプティブラーニングを推奨している?
推進の方針はあります。文部科学省は2018年6月の中教審の会議資料で、個に応じた指導(アダプティブ・ラーニング)の推進を「すぐにでも着手すべき課題」に挙げています。ただし、特定の教材の導入を義務づけるものではありません。現在は、2021年の中教審答申が示した「個別最適な学び」のうち「指導の個別化」を支える手段として、GIGAスクール構想の端末上でAIドリル等が使われています。答申は「協働的な学び」との一体的な充実も求めています。
適応学習・適応型学習との違いは?
違いはありません。どちらも adaptive learning の日本語訳で、アダプティブラーニングと同じ意味です。
アダプティブラーニングのデメリットは?
端末と通信が前提になること(必要なネットワーク速度を確保した公立学校は2025年12月時点で63.9%)、正誤判定型のドリルだけでは作文・討論・実技などの評価を完結できないこと、学習データの取扱いを決める必要があることが主な課題です。不登校の子どもが学年をさかのぼって学ぶ教科は、成績評価の要件を満たさない場合もあります。