電子決済手段とは、法定通貨と価値が連動し、不特定の相手への支払いと売買に使える電子的な財産的価値として、資金決済法が定めた区分です。日本円や米ドルに1対1で連動するステーブルコインの多くがここに入ります。2025年10月には国内初の円建てステーブルコインJPYCの発行が始まり、2026年8月には電子決済手段等取引業者の登録が2社になりました。この記事では、法律上の1号〜4号の区分、発行できる事業者の種類、登録が必要になる行為を整理したうえで、自社の決済システムに電子決済手段を載せるときに決めるべき実装要件と、登録業者に任せるべき範囲を説明します。
まとめ:電子決済手段は発行者の種類と誰が預かるかで必要な登録が決まる
電子決済手段への対応は、どの銘柄を扱うかより先に、残高を誰が預かる構成にするかで決まります。結論を先に示します。
- 電子決済手段を発行できるのは、銀行等、資金移動業者、信託会社等に限られます。事業会社が自社でステーブルコインを発行する道は、事実上これらの許認可を取ることを意味します。
- 電子決済手段の売買・交換、その媒介、他人のための管理を業として行うには、電子決済手段等取引業の登録が必要です。登録業者は令和8年8月27日現在で2社しかありません。
- ユーザーの電子決済手段を自社のウォレットで預かる設計は「管理」に当たるおそれが高く、受託開発の現場では避けるべき構成です。
- 決済システムに載せるなら、登録業者や発行者のサービスに接続し、自社は受け取りと記帳に徹する構成を基本にします。
- 実装で決めるのは、入金を確定とみなす時点、外国ステーブルコインの移転上限、移転時の通知、会計処理の4点です。
以下で、根拠となる条文と、それぞれをシステムの仕様にどう落とすかを順に説明します。
電子決済手段とは何か:資金決済法2条5項の1号から4号までの区分
電子決済手段は、2022年6月に成立し2023年6月1日に施行された資金決済法の改正で新設された区分です。金融庁の改正法の概要は、法定通貨の価値と連動した価格で発行され、発行価格と同額で償還を約するものを電子決済手段と位置付け、その仲介者を登録制にする方針を示していました。
通貨建資産・移転可能性・不特定者への使用で判定する1号から4号
資金決済に関する法律の第2条5項は、電子決済手段を次の4つに分けています。1号の中核は、電子的に記録された「通貨建資産」であること、不特定の者への支払いに使え、不特定の者と売買できること、電子情報処理組織で移転できることの3点です。
| 号 | 内容 | 典型例 |
|---|---|---|
| 1号 | 通貨建資産で、不特定者への支払いと売買ができるもの | 銀行・資金移動業者が発行する円建てコイン |
| 2号 | 1号と不特定者を相手に相互交換できるもの | 1号と交換で流通する価値 |
| 3号 | 特定信託受益権 | 信託型ステーブルコイン |
| 4号 | 1〜3号に準ずるものとして内閣府令で定めるもの | 外国法に基づく信託受益権型 |
4号の中身は電子決済手段等取引業者に関する内閣府令の第2条3項が定めており、外国の法令に基づく信託の受益権で一定の要件を満たすものが指定されています。日本円や米ドルで表示され、その通貨で償還されることが「通貨建資産」の意味です。価格をアルゴリズムで安定させる型や、暗号資産を担保にする型は通貨建資産に当たらず、電子決済手段ではなく暗号資産の側で扱われます。
前払式支払手段や暗号資産との境界と、自由に移転できる残高の扱い
1号の括弧書きで電子決済手段から除かれているのは、有価証券、電子記録債権、前払式支払手段などです。自社ポイントや電子マネーは、原則として前払式支払手段の規制で考えれば足ります。前払式支払手段の届出・保全・払戻しの要件は資金決済法とは?前払式支払手段と資金移動業の区分をポイント・チャージ設計で解説で扱っています。
見落としやすいのは除外の例外です。内閣府令2条2項は、前払式支払手段のうち、移転のたびに発行者の承諾などの関与を要しないものを除外の対象から外しています。つまり、ポイントをパブリックブロックチェーン上のトークンにして、発行者の関与なしに誰とでも移転できる設計にすると、前払式支払手段ではなく電子決済手段の検討に入ります。トークン化を企画する段階で、移転に発行者の承認を挟むかどうかを先に決めてください。ステーブルコインの技術的な仕組みと類型はステーブルコインとは?仕組み・3類型と国内の購入経路、日米欧の規制が詳しく扱っています。
電子決済手段を発行できる3つの主体と、償還・移転上限・裏付け資産の違い
誰が発行したかで、1回に送れる金額や裏付け資産の持ち方が変わります。受け取る側のシステムにも影響するので、銘柄ごとに発行形態を確かめておきます。
銀行型・資金移動業者型・信託型の比較と1回100万円の移転上限
1号の電子決済手段は銀行等または資金移動業者が、3号の特定信託受益権は信託会社等が発行します。発行形態ごとの主な違いは次のとおりです。
| 発行形態 | 根拠 | 移転・送金額の制約 | 裏付け資産 |
|---|---|---|---|
| 銀行型 | 銀行法の免許 | 法令上の上限なし | 預金として管理 |
| 資金移動業者型 | 資金移動業の登録 | 第二種なら1回100万円以下 | 履行保証金で保全 |
| 信託型(3号) | 信託業法等 | 府令で利用者保護措置 | 預貯金50%以上・残りは3か月以内の国債等 |
信託型の裏付け資産は、内閣府令3条が「預貯金で管理する割合50%以上」と「残りは償還まで3か月以内の国債証券など」を定めています。2026年6月1日施行の改正で、全額を預貯金で持つ前提から一部を短期国債で運用できる形に改められました。資金移動業者型は、送金額で区分される資金移動業の枠に入るため、第二種資金移動業者が発行するコインは1回の移転が100万円以下に制約されます。高額のBtoB決済に使うなら、この上限が仕様を左右します。
令和8年8月時点の取引業者2社とJPYCの発行開始という国内の現状
金融庁の電子決済手段等取引業者登録一覧は、令和8年8月27日現在で2業者を掲載しています。令和7年3月4日に登録されたSBI VCトレード(取扱いはUSDC、RLUSD、JPYSC)と、令和8年8月27日に登録されたコインチェック(USDC)です。
円建ての発行では、JPYC株式会社が2025年8月18日に資金移動業者の登録(関東財務局長 第00099号)を受け、同年10月27日に電子決済手段としてのJPYCの発行を始めました。経緯はJPYC株式会社の沿革に記載があります。償還の手順や対応チェーンはJPYCとは?日本円に戻す償還の手順・時間・手数料と4チェーン対応の仕組みにまとめています。取扱業者が2社しかないため、システムの接続先として選べる事業者も少ない状況です。特定の1社に依存する設計になりやすい点は、要件定義の段階でリスクとして書き出しておきます。
電子決済手段等取引業の登録が要る4つの行為と、発行者・仲介業者の特例
電子決済手段を扱うシステムを作るとき、最も重い分岐は自社が電子決済手段等取引業に当たるかどうかです。条文は行為で定義しているので、機能の一覧と突き合わせて判定します。
登録対象となる売買・交換、その媒介、他人のための管理、資金移動業者の代理
法2条10項は、次の行為を業として行うことを電子決済手段等取引業と定めています。
- 電子決済手段の売買、または他の電子決済手段との交換
- 1の行為の媒介、取次ぎ、代理
- 他人のために電子決済手段の管理をすること(利用者保護に欠けるおそれが少ないものとして府令で定めるものを除く)
- 資金移動業者の委託を受けて、利用者との間で為替取引に関する債権の額を増減させること
実務で引っかかりやすいのは3の管理です。ユーザーの秘密鍵を自社サーバーで保管し、ユーザーの指示で送金を代行するアプリは、典型的な管理に当たります。円とコインを両替する画面を作れば1か2に入ります。いずれも法62条の3により、内閣総理大臣の登録を受けない限り行えません。
登録の拒否事由に並ぶ株式会社要件・財産的基礎・協会加入と体制整備
登録申請書には、取り扱う電子決済手段の名称と発行者、業務の内容と方法、委託先などを記載します(法62条の4)。法62条の6は、株式会社または国内に営業所を持つ外国会社であること、府令で定める財産的基礎、業務を適正に遂行する体制、認定資金決済事業者協会への加入または同等の社内規則の整備などを登録の条件にしています。システム面では、利用者財産の分別管理、サイバーセキュリティ、障害時の対応まで審査の対象になるため、登録は事業として取り組む規模の判断です。
例外は2つあります。銀行等や資金移動業者が自ら発行した電子決済手段を扱う場合は、届出で足りる特例があります(法62条の8)。2026年6月1日施行の改正では、登録業者の委託を受けて売買の媒介だけを行う「電子決済手段・暗号資産サービス仲介業」が新設されました(法2条18項)。媒介に限られ、利用者の財産を預かることはできない区分です。
決済システムに電子決済手段を載せるときに決める4つの実装要件
ここからは、条文の要求を決済システムの仕様に翻訳します。上位の法令解説は業規制の説明で止まっていますが、開発で決める必要があるのは、どの時点で入金とみなし、どの金額で止め、何を記録するかです。
代金として受け取る構成とユーザー残高を預かる構成で分かれる規制
ECサイトが商品代金を電子決済手段で受け取り、自社のウォレットに入れるだけなら、自社の財産として受け取っているので、他人のための管理や売買の媒介には当たりにくい構成です。受け取ったコインを円に換えるときは、登録業者や発行者の償還を使います。
一方、ユーザーが自社サービス内にコインを入金して残高として持ち、好きなときに使ったり引き出したりできる設計は、他人のための管理の構成そのものです。決済の利便性を上げるつもりで「アプリ内ウォレット」を企画すると、ここに入ります。受け取るだけか、預かるかの線を、画面設計の前に決めておいてください。最終判断は弁護士や所管の財務局の確認が前提ですが、預かる設計は開発側で先に外せます。
移転の確定時期を入金確定の条件にするブロック承認数と照合の設計
内閣府令28条2項は、取引業者が利用者に説明する事項として、電子決済手段の移転が確定する時期とその根拠を挙げています。ブロックチェーン上の送金は、トランザクションが送信された時点ではなく、チェーンごとの確定条件を満たした時点で取り消せなくなります。
受け取る側のシステムでは、注文を「支払済み」に変える条件を、対象チェーンの確定条件に合わせて設定値として持ちます。送信済み、ブロックに取り込み済み、確定済みの3つの状態を注文データに分けて記録し、確定前に商品を出荷しない制御を入れます。同じトランザクションを二重に計上しないよう、トランザクションIDを一意キーにした照合も必要です。チェーンごとに確定までの時間と手数料が違う点は、分散台帳とRDBの構造の違いを踏まえて設計すると整理しやすくなります。
外国ステーブルコインの移転上限を第二種資金移動業と同水準に抑える制御
USDCのような外国で発行された電子決済手段は、府令で「外国電子決済手段」として別扱いにされる区分です。内閣府令30条1項5号は、発行者が外国で登録・免許を受けて監督されていること、償還用資産が監査を受けていることなどを、取引業者が取り扱う条件にしています。同6号は、利用者のために管理・移転できる金額を、第二種資金移動業者が発行する電子決済手段を扱う場合と同等の水準に抑える措置を求めています。
結果として、国内の取引業者経由で外国ステーブルコインを扱う場合も、1回あたりの移転は100万円以下を前提に考えるのが安全です。高額の取引先決済にUSDCを使う企画では、分割送金になる前提で、照合と消込の仕様を組みます。上限値は府令や業者の約款で変わり得るので、コードに直書きせず設定値で持ってください。
犯収法10条の3の移転時通知と取引時確認をつなぐ本人情報の持ち方
犯罪による収益の移転防止に関する法律の第10条の3は、電子決済手段等取引業者が顧客の依頼で他の業者の顧客へ電子決済手段を移転するとき、依頼者と受取人の本人特定事項などを相手の業者に通知するよう定めています。いわゆるトラベルルールです。10条の2は、外国の業者と継続的な移転の契約を結ぶ際の確認も求めています。
自社が取引業者でなくても、登録業者のAPIに接続して送金を依頼する設計では、業者側がこの通知に必要な本人情報を求めてきます。取引時確認で取得した氏名・住所・生年月日を、送金依頼に添付できる形で持っておくと接続がスムーズです。本人確認の方式とデータの持ち方は犯罪収益移転防止法とは?特定事業者の義務とKYCシステムの要件で整理しています。
実務対応報告第45号の券面額計上と2026年8月公表の公開草案
会計処理は、企業会計基準委員会の実務対応報告第45号「資金決済法における特定の電子決済手段の会計処理及び開示に関する当面の取扱い」が定めています。保有者は1号〜3号の電子決済手段を、受渡日に券面額に基づく価額で資産計上し、期末も券面額で評価します。暗号資産のような時価評価ではありません。
この報告は法改正を受けて見直しの途中です。ASBJのプロジェクトページによると、公開草案第74号が2026年8月17日に公表され、コメント期限は同年10月19日です。決済システムから会計システムへ連携する仕訳の型は、確定版の公表を待ってから固めるか、勘定科目のマッピングを設定で差し替えられる作りにしておきます。
電子決済手段を自社で預かるか登録業者に任せるか、受託開発の立場からの判断
ここまでの要件を踏まえ、受託開発の立場から判断を言い切ります。登録業者が2社という現状では、選べる構成は多くありません。
登録業者や発行者に接続し、自社は受け取りと記帳に徹するのが基本
事業会社が電子決済手段を決済に取り入れるなら、登録業者や発行者が提供する入出金の仕組みに接続し、自社は代金の受け取り、注文との照合、会計への記帳だけを担う構成を選びます。登録の負担を負わずに済み、管理や通知義務の大半を業者側に寄せられます。
開発の範囲は、ウォレットアドレスの発行と注文への紐付け、確定状態の監視、消込、円換算と仕訳の生成です。既存の決済代行と並べて、決済手段の1つとして組み込む形になります。決済代行との接続方式の比較は決済システムの仕組みと決済代行との接続方式・自社構築の判断軸で、電子決済手段を含む決済機能の構築は決済・サブスクリプションシステム開発で相談を受けています。
アプリ内ウォレットで預かる設計と両替画面を見送るべき失敗パターン
次の企画は、登録を取る経営判断がない限り作りません。ユーザーのコインを自社で保管するアプリ内ウォレット、円とコインを交換する画面、ユーザー同士でコインを送り合う機能のうち自社が鍵を持つもの。いずれも電子決済手段等取引業の管理か交換に当たるおそれが高い構成です。
よくある失敗は、まず受け取りだけで始め、利用者の要望で「残高を貯めておける機能」を後から足すケースです。この一行の追加で、受け取る構成から預かる構成に変わります。機能追加の要件が来たら、その部分だけを切り出して法務確認に回してください。
電子決済手段の要件定義で登録要否と移転上限の法務確認を挟むべき4つの問い
要件定義書には、次の4つの問いへの答えを書いておきます。
- 自社が電子決済手段を発行するか(銀行・資金移動業・信託の許認可)
- ユーザーの電子決済手段や秘密鍵を自社で保管するか(管理)
- 円や他のコインとの交換、売買の取次ぎを自社の画面で行うか(交換等・媒介)
- 外国ステーブルコインで1回100万円を超える支払いを想定するか(移転上限)
1〜3がすべて「しない」なら、電子決済手段等取引業の登録には原則として入りません。4は登録の要否ではなく、業務フローと照合仕様の前提になります。この確認を開発の途中でなく要件定義で済ませておくと、データ設計の手戻りを避けられます。
よくある質問
電子決済手段とステーブルコインの扱いについて、よく寄せられる質問に答えます。
電子決済手段とステーブルコインは同じものですか?
重なる部分は大きいものの、同じではありません。ステーブルコインは価格の安定を目指すトークンの総称で、法令上の用語ではありません。資金決済法の電子決済手段は、そのうち法定通貨建てで、発行価格と同額での償還を約するタイプを指します。アルゴリズムで価格を安定させる型や、暗号資産を担保にする型は電子決済手段に当たらず、暗号資産など別の区分で扱われます。
電子決済手段と暗号資産の違いは何ですか?
最大の違いは通貨建資産かどうかです。電子決済手段は日本円や米ドルで表示され、その通貨で償還されることが前提なので、価値が法定通貨に連動します。暗号資産は法2条14項で通貨建資産と電子決済手段を除いたものと定められ、価格が市場で変動します。会計処理も異なり、評価の基準は電子決済手段が券面額、暗号資産が原則として時価です。
ECサイトでUSDCやJPYCの支払いを受け付けるのに登録は必要ですか?
商品代金を自社の財産として受け取るだけなら、電子決済手段等取引業の売買・媒介・管理には当たりにくい構成です。ただし、受け取ったコインを円に換えるには登録業者や発行者を通す必要があり、ユーザーの残高を自社で預かる機能を付けると管理に当たるおそれが出ます。外国ステーブルコインは1回あたりの移転額に制約がある点にも注意してください。個別の判断は弁護士や財務局に確認してください。
電子決済手段等取引業者は何社登録されていますか?
金融庁の登録一覧では、令和8年8月27日現在で2社です。令和7年3月4日に登録されたSBI VCトレードと、令和8年8月27日に登録されたコインチェックで、取扱銘柄は一覧に記載されています。登録業者は今後増える可能性があるため、接続先を選ぶときは金融庁の最新の一覧で登録の有無を確かめてください。
自社のポイントをブロックチェーンのトークンにすると電子決済手段になりますか?
移転の設計次第です。自社ポイントは通常、前払式支払手段として電子決済手段から除かれます。ただし内閣府令2条2項により、移転のたびに発行者の承諾などを要しない、誰とでも自由に移転できる前払式支払手段は、この除外から外れます。パブリックチェーンで自由に流通させる設計は電子決済手段の検討に入るため、移転に発行者の関与を残すかどうかを企画段階で決めてください。
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