経費精算を専用の経費精算システムで回すか、すでに社内にあるワークフローシステムに経費申請のフォームを足して回すかは、承認の仕組みではなく「金額と証憑をどこまで正しく扱えるか」で決まります。この記事では、汎用のワークフローシステムで経費申請を作り込んだときに詰まりやすい交通費の運賃計算、領収書の読み取りとインボイス登録番号の照合、仕訳データの出力、電子帳簿保存法のスキャナ保存の4点を、国税庁の一次情報にもとづいて整理します。そのうえで示すのは、申請者に二つの画面を使わせない統合の型と、ワークフローで経費申請まで回してよい企業の条件です。経費精算システムそのものの機能と比較の観点は経費精算システムとは?機能・比較の観点と電帳法・インボイス対応を解説で扱っています。
まとめ:証憑と仕訳の重さで分かれる経費精算システムとワークフローシステムの使い分け
月の経費申請が少なく、交通費の多くが定期券の範囲で済み、領収書を紙のまま保管する運用で困っていない企業なら、汎用のワークフローシステムに経費申請のフォームを足すだけで十分です。承認経路と記録が電子化されるだけでも、紙の回覧より早く回ります。
反対に、出張や営業の交通費が日常的に発生する、領収書を電子で保存したい、仕訳を手で打ち直している、のどれかに当てはまるなら、経費精算システムを別に入れるべきです。この3つは汎用ワークフローの入力フォームと計算式では再現が難しく、作り込むほど保守の負担が増えます。
両方を持つ場合は、稟議や出張の事前申請はワークフロー、精算は経費精算システムと役割を分け、承認者のマスタと事前申請の番号をAPIで渡す構成にします。申請者が同じ内容を二つの画面に入力する状態だけは避けてください。
経費精算システムとワークフローシステムの違い|承認経路を管理するか金額と証憑を扱うか
どちらも「申請して承認を受ける」画面を持っているため、違いが見えにくい組み合わせです。差が出るのは、承認の後に何をするかです。
承認経路を扱うワークフローと金額・証憑・仕訳を扱う経費精算システムの守備範囲
ワークフローシステムは、どんな申請でも決められた経路で回し、承認の記録を残すための仕組みです。経費精算システムは、経費という一種類の申請について、金額の計算、証憑の保存、会計への受け渡しまでを受け持ちます。
| 項目 | 汎用ワークフローシステム | 経費精算システム |
|---|---|---|
| 扱う申請 | 稟議・購買・休暇など全般 | 経費の申請と精算 |
| 交通費の計算 | 申請者の手入力 | 運賃検索と定期区間の控除 |
| 領収書 | ファイルの添付 | 読み取りと電子保存 |
| 会計への受け渡し | CSVの項目を自作 | 仕訳の形で出力 |
| 規程の確認 | 分岐条件で表現 | 上限額や重複の自動検知 |
実務で差が大きいのは2行目と4行目です。承認の経路や記録は、どちらを選んでもほぼ同じ水準で電子化できます。ワークフローシステムの機能の全体像はワークフローシステムとは?機能・クラウドとオンプレの違い・選び方と自社開発の判断基準で整理しています。
ワークフロー製品の経費オプションと経費精算製品の承認機能が重なる範囲
選定を難しくしているのは、両者の機能が重なっている部分の広さです。ワークフロー製品の中には経費精算のオプションを持つものがあり、経費精算製品の多くは多段の承認や代理承認を標準で備えています。
そのため「ワークフローか経費精算か」という製品分類で比べても結論が出ません。比べるべきは、自社の経費申請で重いのが承認の経路なのか、金額と証憑の処理なのかです。部署ごとに承認者が細かく分かれ、金額で経路が何段にも変わる企業は前者が重く、出張と営業の交通費が中心の企業は後者が重くなります。
汎用ワークフローで経費申請を作り込むと詰まる4機能|交通費・OCR・仕訳・電帳法
汎用ワークフローのフォームに金額欄と添付欄を置けば、経費申請の形はすぐに作れます。詰まるのは、その先で経費精算システムが標準で持っている処理を後から足そうとしたときです。
交通費の運賃検索と定期区間の控除を申請フォームの計算式で再現する難しさ
経費精算システムの多くは、出発駅と到着駅を入れると運賃を自動で引き、通勤定期の区間と重なる部分を差し引きます。汎用ワークフローでは、この運賃は申請者が自分で調べて入力することになり、承認者も経理も金額の正しさを確かめる手段を持ちません。
運賃の検索を後から足すには、乗換案内の事業者が提供するAPIの契約と、フォームから呼び出す開発が要ります。定期区間の控除まで入れると、社員ごとの定期区間のマスタを持ち、経路の重なりを判定する処理も必要です。交通費の申請が月に数件なら手入力で困りませんが、営業担当が毎日申請する企業では、この差がそのまま経理の確認時間になります。
領収書の読み取りとインボイス登録番号の照合を後から足す場合の工数
2023年10月のインボイス制度の開始以降、経費の領収書が適格請求書の要件を満たすかどうかで、仕入税額控除の扱いが変わります。経費精算システムでは、領収書を撮影すると日付・金額・登録番号を読み取り、登録番号が実在するかを確かめる機能を備えた製品もあります。
汎用ワークフローでこれを作るなら、画像の文字認識に加えて、国税庁の適格請求書発行事業者公表システムのWeb-APIを呼び出す処理が必要です。このAPIは利用にアプリケーションIDの発行を受ける必要があり、登録番号を指定した取得、期間を指定した更新分の取得、登録番号と日付を指定した取得の3つの機能が用意されています。照合の仕組み自体は作れますが、読み取りの誤りを申請者が直す画面と、照合できなかった領収書を経理が確認する画面まで含めると、フォームの追加では済みません。読み取りと法人カード連携による入力の削減は経費精算を効率化する4つの手段で詳しく扱っています。
勘定科目・税区分・部門を持つ仕訳データを会計システムの取込形式で出す処理
承認が終わった経費は、会計システムへ仕訳として渡します。経費精算システムは、経費の種類から勘定科目を決め、税区分と部門を付けた仕訳を会計システムの取込形式で出力します。
汎用ワークフローの出力は、たいていフォームの入力項目をそのまま並べたCSVです。勘定科目への変換表、税率ごとの分割、部門コードの付け替えを経理が手で行っているなら、そこが作り込みの対象になります。この変換をワークフロー側の出力処理として開発すると、勘定科目や税制が変わるたびに改修が発生します。月末に経理が仕訳を打ち直している企業は、ワークフローでの運用が限界に来ていると見てよいでしょう。
スキャナ保存のタイムスタンプと訂正削除履歴を汎用ワークフローで満たす条件
紙の領収書を撮影して原本を捨てる運用にするなら、電子帳簿保存法のスキャナ保存の要件を満たすことが必要です。国税庁の電子帳簿保存法一問一答【スキャナ保存関係】の問12では、200dpi以上の解像度、赤・緑・青それぞれ256階調以上のカラー画像、タイムスタンプの付与、訂正や削除の事実と内容を確認できるヴァージョン管理、帳簿との相互関連性、検索機能の確保などが要件として示されています。受領者が自分で読み取る場合、タイムスタンプは受領後おおむね3営業日以内に付す必要があります。
汎用ワークフローの添付ファイル欄は、多くの場合この要件を前提に作られていません。添付した画像を後から差し替えられる、差し替えの履歴が残らない、日付や金額で検索できない、のいずれかに当てはまるなら、紙の原本を残す運用を続けるしかありません。メールで受け取った電子の領収書も、国税庁の電子取引データの保存方法(令和6年1月以降用)にある改ざん防止の措置と、日付・金額・取引先での検索ができる状態での保存が求められます。電子帳簿保存法の3区分の全体像は電子帳簿保存法とは?3区分の要件・対象書類と自社システム対応を解説を参照してください。
二重運用を避ける統合パターン|ワークフロー基盤と経費モジュールとAPI連携の構成
ワークフローシステムと経費精算システムを両方持つ企業で起きやすい失敗は、出張の事前申請をワークフローで出し、精算は経費精算システムで出し直す運用です。統合の型は、大きく次の2つに分かれます。
経費申請も含めて一つのワークフロー製品の経費オプションに寄せる構成
使っているワークフロー製品に経費精算のオプションがある場合、それを追加して申請の入口を一つにまとめる方法があります。承認者のマスタと経路の設定が共通になるため、人事異動のたびに二つのシステムで承認者を直す手間がなくなります。
この構成で確かめるべきは、オプションが前の章の4機能をどこまで持っているかです。運賃検索や領収書の電子保存が無いオプションなら、経費のフォームを自作した場合と変わりません。オプションの契約前に、交通費の申請と領収書の保存を実際の明細で試してください。
稟議と事前申請はワークフロー、精算は経費精算システムに分けてAPIでつなぐ構成
経費の量が多い企業では、承認経路の複雑な稟議や出張の事前申請はワークフローに残し、精算は経費精算システムで行う分担が現実的です。この場合は、ワークフローで承認された事前申請の番号と予定金額を経費精算システムへ渡し、精算時に紐づけて予定との差額を確認できるようにします。
あわせて、組織と承認者のマスタは人事システムを正として両方へ配る形にし、どちらか一方を手で直す運用をやめます。稟議の承認経路の設計そのものは稟議システムとは?機能・仕組みと紙・メール稟議の課題から見る導入判断の基準で整理しています。
申請者が二つの画面を行き来する二重運用が起きる典型と承認者マスタの同期
二重運用が起きるのは、二つのシステムを別々の時期に別々の部署が入れた場合です。情報システム部門がワークフローを入れ、経理部門が後から経費精算システムを入れると、出張の事前申請が両方に存在する状態が生まれます。
この状態のまま運用を続けると、申請者は同じ出張の行き先と日程を二度入力し、承認者は同じ出張を二度承認します。承認者のマスタも二つに分かれるため、異動の反映漏れで承認が止まる事故が起きます。統合を検討するときは、申請者が入力する画面を一つに絞ることを最初の条件にしてください。経費の承認を分ける職務分掌の考え方は内部統制の強化で経費精算の不正を防ぐが参考になります。
一創の判断:経費申請をワークフローで回してよい企業と経費精算システムを入れる企業
ここまでの論点を踏まえ、判断を言い切ります。基準は承認経路の複雑さではなく、交通費・証憑・仕訳の3つの重さです。
汎用ワークフローで経費申請まで回してよい企業の条件と作り込みの上限
次の3つをすべて満たす企業は、汎用ワークフローに経費申請のフォームを足す運用で足ります。
- 交通費の多くが定期券の範囲か、月に数件の出張に限られる
- 領収書は紙の原本を保管する運用を続けてよい
- 会計への仕訳は、経理が月に一度まとめて入力しても負担にならない量である
このとき作り込むのは、経費の種類の選択欄と、金額による承認経路の分岐までに留めます。運賃検索や領収書の読み取りをワークフロー側に開発し始めたら、それは経費精算システムを自作しているのと同じです。そこまで必要になった時点で、経費精算システムの導入へ切り替えてください。
経費精算システムを別に入れるべき企業とワークフローへの作り込みを見送る場面
上の3条件のどれか一つでも外れる企業は、経費精算システムを入れるべきです。特に、電子帳簿保存法に沿って領収書を電子で保存したい企業は、スキャナ保存の要件を満たす製品を選ぶ方が、汎用ワークフローに保存の仕組みを開発するより確実です。製品の選び分けは経費精算システムの比較:規程チェック・カード明細・電帳法・会計連携の4軸で選び分けるを参照してください。
見送るべきなのは、承認経路が経費精算製品の設定で表現できないという理由だけで、経費精算の機能まで含めてワークフロー側に作り込む場面です。この場合は、承認の部分だけを自社の規程に合わせてワークフローとして作り、精算と保存は経費精算システムに任せ、両者を事前申請の番号とマスタの連携でつなぐ構成にします。自社の規程に合わせた申請・承認の仕組みの設計と、経費精算システムとの連携の開発は、一創のワークフローシステム開発でご相談いただけます。
よくある質問
経費申請をワークフローシステムと経費精算システムのどちらで回すかを検討する段階で、よく挙がる質問に答えます。
ワークフローシステムだけで経費精算を電子化することはできますか?
申請と承認の電子化だけなら可能です。経費の種類や金額を入力するフォームを作り、金額に応じて承認経路を分ければ、紙の回覧は不要になります。ただし、交通費の運賃の確認、領収書の電子保存、会計への仕訳の受け渡しは別の仕組みが必要です。領収書の原本を捨てる運用にするなら、電子帳簿保存法のスキャナ保存の要件を満たすかを、使っているワークフロー製品で確かめてください。
経費精算システムの承認機能だけで稟議や購買申請も回せますか?
経費精算システムの承認機能は、経費の申請に合わせて作られています。稟議や購買申請のように、申請の項目や添付資料が多く、合議や回覧の経路が複雑な申請を回すには向きません。経費以外の申請が多い企業では、ワークフローシステムを別に持ち、経費精算システムとは承認者のマスタを共通にする構成を勧めます。ワークフロー製品の選び分けはワークフローシステム比較の判断軸4つで整理しています。
出張の事前申請はワークフローと経費精算システムのどちらに置くべきですか?
経費精算システムに事前申請の機能があり、承認経路がその設定で表現できるなら、経費精算システムに置く方が精算時の紐づけが簡単です。海外出張など、役員の決裁や複数部署の合議が必要な事前申請はワークフローに置き、承認された申請の番号と予定金額を経費精算システムへ渡します。どちらに置いても、申請者が同じ出張を二度入力しない形にすることが前提です。
ワークフローの添付ファイルに領収書を保存すれば電子帳簿保存法に対応できますか?
添付するだけでは足りません。スキャナ保存では、解像度と階調の要件を満たす画像であること、タイムスタンプの付与か訂正削除の履歴が残る仕組みであること、帳簿との相互関連性、日付や金額での検索ができることが求められます。添付した画像を後から差し替えられて履歴が残らない製品では、要件を満たしません。製品の仕様書で、これらの要件への対応を確かめてください。
経費精算システムを入れるとき既存のワークフローシステムはどう扱えばよいですか?
経費以外の申請に使っているなら、ワークフローシステムは残します。そのうえで、経費の申請フォームを廃止し、経費の申請は経費精算システムに一本化する方針です。承認者のマスタは人事システムを正として両方に配り、出張の事前申請をどちらに置くかを先に決めておきます。提供形態をクラウドとオンプレミスのどちらにするかの判断は経費精算システムのオンプレミス型とクラウド型を参照してください。
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