経費精算システムのシェアを調べると、媒体ごとに1位の製品が違うことに気づきます。売上金額で数えるか、導入社数で数えるか、利用者へのアンケートで数えるかで、首位はあっさり入れ替わるからです。この記事では製品の順位表は作りません。調査会社とベンダーが公表している数字をもとに、シェアの物差しごとの読み方、タイプ別に見た市場の構造、法改正を機にした乗り換えの動きを整理します。そのうえで、シェア上位の製品が自社の要件に合わない条件を示します。数値と制度の記述は2026年10月時点の公表資料にもとづくものです。
まとめ:経費精算システムのシェアは物差しを決めてから読むのが前提
結論から書きます。シェアの数字は「何で数えたか」を確認しないと比較に使えません。売上金額のシェアは単価の高い大企業案件ほど重く出ます。累計導入社数で件数の上位に立つのは、中小企業向けの低価格SaaSです。利用者アンケートやレビュー件数は、回答者がどんな会社に属しているかで結果が動きます。
市場全体はSaaSが中心で、単機能型、会計・人事スイートに同梱された型、大企業向けの出張・経費一体型、ERPに付随する型の4つに分かれます。自社と同じ規模・同じタイプの中でのシェアを見れば、検討の出発点としては十分に役立ちます。
ただし、配賦のルールが独自に決まっている、自社開発の基幹システムと仕訳以外のデータもやり取りする、海外拠点の外貨立替を自社基準で換算する、という条件のどれかに当てはまるなら、シェアの順位は判断材料になりません。その場合は標準機能でどこまで収まるかを先に確かめてください。
経費精算システムのシェアを示す4つの物差しと首位が入れ替わる仕組み
公開されているシェアの数字は、大きく4種類の物差しで集計されています。同じ「シェア1位」でも、意味がまったく違います。
売上金額シェアは大企業の高単価案件が市場の数字を押し上げる物差し
調査会社のアイ・ティ・アール(ITR)は、国内の経費精算市場をベンダー別の売上金額で集計しています。最新版のITR Market View:予算・経費・サブスクリプション管理市場2026は2026年3月24日の発行で、国内59ベンダーを調べ、経費精算の分野には20社を載せています。実績は2023〜2024年度、予測は2029年度までです。業種別・売上規模別・提供形態別のシェアと、累計導入社数のランキングも収録されています。
この調査を引いて、コンカーは2026年4月24日の発表で、2025年度予測の経費精算市場におけるベンダー別売上金額シェアが42.8%、SaaS型に限ると45.1%で、2014年度から12年連続の首位だと公表しました。
売上金額は「社数×単価」で決まります。従業員数千人規模の企業は1社あたりの契約額が大きく、海外出張の手配や多言語対応まで含めた契約になりがちです。こうした大企業案件を多く持つベンダーほど、売上金額シェアは高く出ます。中堅・中小企業が「売上シェア1位だから」と選ぶと、自社には要らない機能の分まで費用を払う構図になりかねません。
累計導入社数は中小企業向けSaaSが導入件数で上位に立つ物差し
同じITRの調査でも、累計導入社数で並べると顔ぶれが変わります。ラクスは2020年7月9日の発表で、楽楽精算がSaaS型経費精算市場の累計導入社数ランキング(初期出荷から2019年12月末までの集計)で6回連続の1位になったと公表しています。発表時点の導入社数は6,000社を超えていました。
導入社数は1社を1と数えるため、従業員30人の会社も3万人の会社も同じ重みです。月額数万円から始められるSaaSほど件数が積み上がります。売上金額シェアと導入社数のランキングで首位が違うのは、矛盾ではなく、数えている対象が違うだけです。
読み方の目安は単純です。中小企業なら導入社数、大企業なら売上金額のシェアのほうが、自社に近い企業の選び方を映しています。
利用者アンケートとレビュー件数は回答者の属性で結果が動く数字
検索結果の上位に並ぶ比較メディアの記事は、多くが自社で集めた数字を使っています。BOXILは経費精算システムの導入に携わった1,865人へのアンケート(2025年10月実施)で利用中の製品を集計し、首位の製品でも15.6%という結果でした。ITトレンドは自サイトに投稿されたレビューの件数でシェアを出しています。
こうした数字は、回答者がどの規模の会社に属するか、どのメディアの会員か、という属性の影響を受けた結果です。アンケートの母集団に中小企業が多ければ中小向け製品が上に来て、レビュー投稿を促すキャンペーンを打ったベンダーがあれば件数が伸びます。調査会社の売上集計より手軽に読める反面、市場全体の勢力図として扱うのは無理があります。
比較メディアの数字を使うなら、回答者の内訳(従業員規模・業種)が公開されているかを確かめ、自社と近い層の回答だけを見るのが現実的な使い方です。
経費精算システム市場の構造をタイプ別に見る:SaaS中心の4つの勢力
製品名の順位より先に把握しておきたいのが、市場がどんなタイプの製品で構成されているかです。
2016年度の約50億円規模からSaaSが主流へ移った市場の推移
ITRが2018年4月24日に発表した市場予測では、2016年度の国内経費精算市場の売上金額は50億7,000万円で、前年度比33.8%増でした。提供形態別ではパッケージが同8.5%増にとどまる一方、SaaSは同46.8%増と伸び、2021年度には売上金額の約9割をSaaSが占めると予測されています。同じ発表の中で、主要製品でオンプレミスのパッケージだけを出荷するベンダーは少なくなりつつある、というアナリストの見立ても示されていました。
この流れは現在も変わっていません。コンカーの発表でもSaaS型市場のシェアが別枠で示されているとおり、市場の主戦場はSaaSです。オンプレミス型を選ぶ企業は、閉域網での運用や既存システムとの密結合といった明確な理由を持つ層に絞られています。提供形態ごとの判断は経費精算システムのオンプレミス型とクラウド型の選び方で扱っています。
単機能型・スイート同梱型・大企業向け・ERP付随型の顧客層と分布
現在の市場は、成り立ちの違う4つのタイプに分けると見通しがよくなります。
| タイプ | 主な顧客層 | 強み | シェアの出方 |
|---|---|---|---|
| 単機能SaaS型 | 中小〜中堅企業 | 低価格・設定の手軽さ | 導入社数で上位 |
| 会計・人事スイート同梱型 | 小規模〜中堅企業 | 会計や給与とマスタを共有 | 利用者アンケートで上位 |
| 大企業向け出張・経費一体型 | 大企業・多国籍企業 | 出張手配・多言語・多通貨 | 売上金額で上位 |
| ERP付随型・個別構築 | 基幹をパッケージで持つ企業 | 原価・会計との密な連携 | 集計に表れにくい |
見落とされやすいのが4つ目です。ERPの経費モジュールや自社で構築した精算機能は、経費精算市場としては集計されにくく、どのシェア表にもほとんど出てきません。基幹をERPで統一している企業では精算もERP側で回す選択肢が残っており、シェア表に載っていないことは「使われていない」ことを意味しません。
スイート同梱型は、会計ソフトの利用者がそのまま経費精算も同じベンダーで揃える流れで伸びてきました。会計側の乗り換えと一体で決まるため、経費精算の機能だけを比べて選ばれる場面は多くありません。
法改正のたびに経費精算システムの乗り換えが起きる理由と見直す時期
経費精算システムの市場は、制度が変わる年に大きく動いてきました。シェアの変動を読むときも、この周期を知っておくと数字の背景がつかめます。
電子帳簿保存法の改正が市場の伸びと重なった2016年度と2024年
先のITRの2018年の発表は、2016年度の市場が33.8%伸びた要因を電子帳簿保存法の改正だとしています。領収書をスマートフォンで撮影して保存できるようになったことで、紙の回覧を前提にした精算から乗り換える企業が増えました。
次の山は、電子取引データの電子保存が義務化された2024年1月です。国税庁の電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】が示すとおり、電子で受け取った領収書や請求書は、真実性と検索性の要件を満たして保存する必要があります。この要件を自前の運用で満たすのが難しい企業が、対応済みのSaaSへ移りました。乗り換えの動機が「機能を増やしたい」ではなく「制度に合わせたい」である点が、この市場の特徴です。
インボイス制度と2026年10月の経過措置7割への移行で見直す点
2023年10月に始まったインボイス制度も、乗り換えのきっかけになりました。立替経費の領収書が適格請求書かどうかを判定し、登録番号を確認する作業が加わったためです。
この制度は2026年10月1日にもう一段変わりました。国税庁の令和8年度税制改正特集のとおり、適格請求書発行事業者以外からの課税仕入れについて仕入税額控除できる割合が、8割から7割に下がっています。どちらの割合を使うかは課税仕入れの日付で分かれるため、9月30日以前と10月1日以後の立替が混ざる精算では、明細ごとに控除割合を切り替えられるかがシステム側の確認項目になります。
現在の製品が割合の切替に設定変更で対応できるなら、乗り換える理由にはなりません。明細単位で割合を持てず、経理担当者が手で分けている状態なら、見直しを検討する時期と考えてよいでしょう。
シェア上位の経費精算システムが合わない条件:独自配賦・基幹連携・多通貨
シェア上位の製品は、多くの企業に共通する要件を標準機能で満たしています。裏を返せば、共通でない要件ほど標準機能から外れます。外れやすい条件は次の3つです。
プロジェクト別や複数部門への配賦ルールが独自に決まっている場合
経費を1つの部門に計上するだけなら、どの製品でも困りません。問題は、1件の経費を複数のプロジェクトや部門に按分する必要がある場合です。たとえば、出張1回の旅費を訪問した3つの案件へ工数比で分ける、共用の備品代を拠点の人数比で配る、といったルールです。
標準機能では、按分の比率を申請者が手で入れる形が一般的です。比率を工数管理や人事のデータから自動で引く、按分後の金額で予算残を確認する、といった処理まで求めると、設定の範囲を超えます。配賦のルールが管理会計の根幹にある企業ほど、ここで手作業が残ります。
自社開発の原価管理や販売管理と仕訳以外のデータもやり取りする場合
シェア上位の製品は、主要な会計ソフトへの仕訳出力をひととおり備えています。連携が仕訳だけで済むなら、追加の開発は要りません。
外れるのは、自社で開発した原価管理や販売管理のシステムと、仕訳以外のデータをやり取りする場合です。申請時に案件番号の有効性を基幹側に照会する、承認済みの経費を工事原価や案件別の採算へ即時に反映する、といった連携は、製品側に受け口がありません。CSVを夜間に取り込む形で回すと、取込エラーの手直しが締めの直前に集中しやすくなります。大企業での基幹連携の論点は経費精算システムの大企業向けの選び方でも整理しています。
海外拠点の外貨立替と多通貨の換算レートを自社の会計基準で扱う場合
外貨建ての立替は、多くの製品が対応をうたっています。確認したいのは、換算レートを誰がどう決めるかです。製品が日次で取得するレートをそのまま使えるなら問題はありません。
一方、社内規程で月初の公示仲値を使う、クレジットカード会社の確定レートで後から差額を精算する、現地法人の機能通貨で一度計上してから本社で円換算する、といった自社基準を持っている場合は、標準機能との差が出ます。海外拠点を複数持つ企業で大企業向けの出張・経費一体型が選ばれやすいのは、この多通貨の扱いが理由の1つです。ただし、その製品でも現地の会計システムとの連携までは個別対応になることが多く、売上金額シェアが高いことと自社の換算基準に合うことは別の話です。
一創の判断:シェア上位のSaaSで足りる企業と個別開発へ進む企業の境目
シェア上位のSaaSをそのまま選んでよい企業の条件と見送り場面
受託開発を手がける立場からも、次の条件が揃うなら、自社と同じ規模帯でシェア上位のSaaSを選ぶ判断を勧めます。配賦は1申請1部門で済む、会計ソフトが主要製品で専用の出力形式がある、外貨の立替が年に数件しかない、の3つです。この範囲で個別開発を選ぶと、費用と保守の負担に見合う差は出ません。制度改正のたびに自社で追随する負担も抱えます。
見送るべき場面もはっきりしています。売上金額シェアが高いという理由だけで、従業員100人未満の企業が大企業向けの製品を選ぶ判断は勧めません。出張手配や多通貨の機能に対する費用が、使わないまま毎月かかります。製品ごとの料金の幅は経費精算システムの費用相場と料金体系で確認できます。
SaaSを土台に連携部分だけ開発するか基盤から作るかの分かれ目
前の章の3条件のどれかに当てはまる場合でも、いきなり全面的な個別開発を選ぶ必要はありません。多くのケースで、申請と承認はSaaSに任せ、配賦の計算や基幹への連携、換算の処理だけを別に作る形で収まります。SaaSのAPIや出力データを受けて処理する仕組みを足せば、製品の更新に追随する負担はベンダー側に残せます。
基盤から作る判断になるのは、独自のルールが申請の入力画面や承認経路そのものに食い込む場合です。申請時点で配賦先の予算残を判定して承認者を変える、といった要件はSaaSの外では実現できません。この場合は経費精算だけを切り出さず、会計や原価管理のデータ設計と合わせて組み立てるほうが、総額は抑えられます。配賦や基幹連携を自社の会計ルールに合わせて組む場合の進め方は、会計・経理システム開発で扱っている領域です。
どちらの形でも、先に現在の精算データを1か月分取り出し、標準機能で処理できない明細が何件あるかを数えてください。全体の数%なら運用で吸収し、2割を超えるなら開発を検討する、というのが判断の目安になります。
よくある質問
経費精算システムのシェアを調べる担当者から寄せられやすい質問をまとめました。
経費精算システムのシェア1位はどの製品ですか?
物差しによって答えが変わります。ITRの調査をもとにした売上金額シェアでは、コンカーが2025年度予測で42.8%と公表しており、2014年度から首位を続けています。一方、SaaS型の累計導入社数ランキングで6回連続の1位だと2020年にラクスが公表した製品は、楽楽精算です。比較メディアのアンケートやレビュー件数では、また別の製品が上位に来ることがあります。自社の規模に近い物差しを選んで読むことをお勧めします。
シェアが高い経費精算システムを選べば失敗しませんか?
失敗の確率は下がりますが、保証にはなりません。シェアが高い製品は、多くの企業に共通する要件を満たしている証拠です。ただし、独自の配賦ルール、自社開発の基幹システムとの連携、自社基準の外貨換算といった要件は、シェアの高さとは関係なく標準機能から外れます。シェアで候補を絞ったあとは、自社の実データを使った試用で、標準機能から外れる明細の件数を確かめてください。
経費精算システムの市場規模はどのくらいですか?
公開されている数字では、ITRが2018年に発表した2016年度の国内市場の売上金額が50億7,000万円、前年度比33.8%増です。それ以降の売上実績はITRの有償レポートに収録されており、最新の2026年版には2023〜2024年度の実績と2029年度までの予測が載っています。正確な数値が必要な場合はレポート本体を確認してください。コンカーの売上金額シェア42.8%は、その市場全体に対する割合です。
中小企業はどのシェアの数字を参考にすればよいですか?
累計導入社数のランキングが目安になります。導入社数は1社を1と数えるため、中小企業の選択が数字に反映されやすいからです。売上金額シェアは大企業の大型契約が大きく効くので、中小企業の実態とは離れます。比較メディアのアンケートを使う場合は、回答者の従業員規模の内訳を確認し、自社に近い層の結果を見てください。規模別の要件の違いは経費精算システムの中小企業向けの選び方で詳しく扱っています。
今使っている経費精算システムから乗り換えるべき時期はいつですか?
制度の変わり目が判断のきっかけになります。2026年10月1日からインボイスの経過措置の控除割合が8割から7割に変わったため、明細ごとに割合を切り替えられない製品を使っている場合は、見直しの時期です。設定変更で対応できるなら、乗り換える必要はありません。契約の更新月と制度の施行日が近い場合は、更新の3か月ほど前から比較を始めると、移行の準備期間を確保できます。
関連記事
- 経費精算システムとは?機能・比較の観点と電帳法・インボイス対応を解説:機能構成と用語の全体像を押さえる材料に。
- 経費精算システムの比較:規程チェック・カード明細・電帳法・会計連携の4軸で選び分ける:シェアで候補を絞ったあと、比較軸を決めて選び分ける手順に。
- 経費精算システムとワークフローシステムの違い:経費申請をどちらで回すかの判断軸と統合パターン:稟議や購買申請と合わせて基盤を考える場合に。
- 経費精算システムのオンプレミス型とクラウド型:提供形態の選び方と移行・EOLの判断軸:SaaS以外の選択肢を検討する場合に。
- 経費精算システムの大企業向けの選び方:内部統制・ERP連携・多拠点の要件とパッケージの限界:売上金額シェア上位の製品が想定する顧客層の要件確認に。