SWRのキャッシュ戦略「stale-while-revalidate」の仕組みを解説

目次
- 1 SWRとは何か?由来と非同期データ取得の革新的アプローチ
- 2 SWRのインストール手順と必要な環境構成の解説
- 3 useSWRフックとfetcher関数の基本的な使い方ガイド
- 4 SWRのキャッシュ戦略「stale-while-revalidate」の仕組みを解説
- 5 useSWRフックの戻り値とReactにおける状態管理の役割
- 6 コードを簡潔に保つためのSWR活用と親子コンポーネント最適化
- 7 Next.jsとの連携におけるSWRの使い方とSSR・SSG対応方法
- 8 無限スクロールやページネーションにおけるSWR Infiniteの実践
- 9 エラー処理とローディング状態を管理するためのSWRベストプラクティス
- 10 SWRとReact Queryの違いと使いどころ
SWRとは何か?由来と非同期データ取得の革新的アプローチ
SWR(stale-while-revalidate)は、Vercel社が提供するReact向けのデータフェッチライブラリであり、非同期データ取得を簡潔かつ効率的に行うための手段として注目されています。その最大の特徴は、名前の由来ともなっている「stale-while-revalidate」というHTTPキャッシュ戦略に基づいており、古いデータ(stale)を即座に表示しながらバックグラウンドで最新データを取得(revalidate)することで、ユーザーにスムーズな体験を提供します。これは、UXとパフォーマンスを両立させたいWebアプリケーションにとって非常に有効です。SWRはキャッシュ管理、再フェッチの自動化、ローディング状態の制御などを標準で備えており、複雑になりがちな非同期処理を簡素化することができます。
SWRの名称の由来と基本コンセプトについて解説
「SWR」は「stale-while-revalidate」の略称であり、HTTPキャッシュの制御ディレクティブから由来しています。これは、WebブラウザやCDNなどのキャッシュが「古い(stale)データを一時的に提供しつつ、裏で新しいデータを取得する」という考え方です。この戦略は、最新データを取得するまでの間もユーザーに素早くレスポンスを返すことができるため、UXの向上に貢献します。SWRライブラリも同様のアプローチをReactに持ち込んでおり、古いデータで即座にUIを更新し、バックグラウンドで再検証することで、ユーザーに遅延を感じさせない体験を提供します。このコンセプトは、単なるデータ取得の効率化にとどまらず、現代のWebアプリケーションにおけるレスポンシブで滑らかな操作感の実現にも大きく寄与しています。
開発元であるVercelとその思想背景
SWRは、Next.jsで知られるVercel社によって開発されました。Vercelはフロントエンド中心の開発体験に重点を置き、開発者が少ない労力で高品質なWebアプリケーションを構築できるようなエコシステムを提供しています。SWRの設計には、「高速な初期表示」「リアルタイム性の担保」「自動的なキャッシュ制御」「宣言的なUIとの親和性」といった、現代的なUX要求を満たすための思想が反映されています。また、VercelはSWRをNext.jsと組み合わせることで、SSRやISRなどの静的/動的レンダリングとも親和性が高く、データ取得と表示の両面で効率的な開発を可能にしています。これにより、SWRは単体でも有用ですが、Next.jsとの統合によってその真価を発揮します。
RESTやGraphQLに対応する柔軟な設計
SWRは特定のAPI仕様に依存しておらず、REST APIやGraphQL、さらにはローカルストレージやIndexedDBなど、あらゆるデータソースに対して利用可能な汎用性の高いライブラリです。その設計は、fetcher関数に任意の非同期ロジックを実装できる点に集約されており、開発者は自分のアプリケーション要件に応じて柔軟に対応できます。たとえば、REST APIから取得する場合はfetchやaxiosを使い、GraphQLではApolloやurqlと組み合わせてfetcher関数を構築することが可能です。これにより、既存のバックエンド実装を大きく変更することなく、SWRをフロントエンドに導入することができるのも大きな魅力です。
リアルタイム性と再検証によるデータ整合性の確保
SWRの最大の強みは「古くてもすぐに表示し、同時に裏で最新データを取得する」再検証(revalidate)機構にあります。これにより、データが瞬時に表示されることでUXが向上する一方で、表示内容は常に最新に保たれるため、信頼性も担保されます。また、一定間隔で自動的に再フェッチする機能(revalidateIfStale)や、フォーカス時に再取得する機能(revalidateOnFocus)も備えており、ユーザーがアプリケーションに戻った瞬間にデータが更新されるといったリアルタイム性が実現されています。これにより、SWRはチャットアプリや通知機能など、最新情報の即時反映が求められるシーンでも力を発揮します。
他のライブラリと比較した際のSWRの特徴と優位性
Reactでのデータ取得ライブラリとしては、SWRの他に「React Query」や「Apollo Client」なども広く利用されています。これらと比較してSWRは「シンプルさ」と「直感的な記述」が大きな特徴です。例えばSWRは必要最低限のAPIのみで構成されており、data, error, mutateといった戻り値を使って簡潔に非同期データを操作できます。さらにSWRは小規模なアプリケーションや静的サイト生成(SSG)との親和性が高く、導入ハードルが低い点もメリットです。逆に、キャッシュ戦略がデフォルト依存であるため、細かい制御が必要な場面ではReact Queryのような柔軟性を持つライブラリが適する場合もありますが、日常的なユースケースであればSWRは十分に強力な選択肢です。
SWRのインストール手順と必要な環境構成の解説
SWRは非常に軽量で導入が簡単なライブラリであり、ReactやNext.jsを用いたプロジェクトにスムーズに組み込むことができます。特に設定ファイルの編集や複雑な環境構築を必要とせず、数行のコマンドでインストールできる点が魅力です。SWRはnpmやyarnでインストール可能で、Reactのバージョンが17以上であれば特に制約なく使用できます。また、TypeScriptにも対応しており、型安全なコード記述が可能です。さらに、開発環境・本番環境問わず同じコードベースで動作するため、開発者の作業負担を大幅に軽減してくれます。
npmやyarnを用いたSWRの基本的なインストール方法
SWRのインストールは非常にシンプルで、以下のようなコマンドを実行するだけで導入できます。npmの場合はnpm install swr
、yarnを使う場合はyarn add swr
と打つことで、必要なモジュールが自動的にプロジェクトに追加されます。インストール後は、Reactコンポーネント内でimport useSWR from 'swr'
と記述することで、SWRの機能を利用できるようになります。なお、依存関係も少ないため、バージョン管理の手間もほとんどありません。導入に必要な時間はほんの数秒程度で済むため、即座に開発に取り入れることができる点も魅力の一つです。
ReactやNext.jsなど対応フレームワークとの互換性
SWRはReactに最適化されて設計されており、基本的にはReactコンポーネント内部で使用されることを前提としています。特にNext.jsとは高い親和性を誇り、SWRを使うことでページ遷移時のデータ取得や、初期データの描画などをスムーズに行うことが可能です。また、React NativeやExpoといったモバイル開発環境でも問題なく動作するため、Webアプリケーションに限らず、幅広いプロジェクトで活用できます。ただし、VueやAngularといったReact以外のフレームワークとは直接の互換性がないため、それらの環境では他のライブラリを検討する必要があります。
TypeScript環境でのセットアップ手順
SWRはTypeScriptにも対応しており、型安全な開発を進めることが可能です。TypeScriptでの利用時には、useSWRのジェネリクス型を活用することで、戻り値の型(data)やエラーの型(error)を明示的に指定できます。たとえば、useSWR<UserData, Error>('/api/user', fetcher)
のように書くことで、型補完やエラー検知が容易になります。SWR本体には型定義ファイルが同梱されており、別途型パッケージをインストールする必要はありません。また、fetcher関数自体にも型を付けることで、さらなる安全性が確保されます。これにより、バグの予防やメンテナンス性の向上が図れます。
開発環境と本番環境の違いと注意点
SWRは基本的に開発環境・本番環境ともに同じように動作しますが、再検証のトリガー(例:revalidateOnFocusやrevalidateOnReconnect)によって本番で意図しない再フェッチが発生する場合があります。そのため、SWRの初期化時に設定できるSWRConfig
を活用し、環境に応じたオプションの調整を行うことが重要です。たとえば、開発環境では頻繁な更新を許容しても、本番環境では最小限のAPI通信に留めるように設定を変更することで、サーバーへの負荷を軽減できます。また、APIエンドポイントのURLも環境変数により切り替えられるようにしておくと、本番移行時にトラブルを回避しやすくなります。
バージョン管理と将来のアップデートへの備え
SWRは活発に開発が進められており、バージョンアップによって新機能が追加されたり、既存の動作が変更されたりすることがあります。そのため、導入時には特定の安定バージョンにロックしておくことが推奨されます。たとえば、npm install swr@2.2.0
のようにバージョンを明示することで、予期せぬ変更によるトラブルを防げます。また、公式ドキュメントやGitHubリリースノートを定期的に確認し、Breaking Changesの有無や新機能の活用可能性をチェックしておくことが重要です。チーム開発であれば、依存パッケージの更新方針やアップデートポリシーをあらかじめ決めておくと、長期的な保守性が向上します。
useSWRフックとfetcher関数の基本的な使い方ガイド
SWRを利用する際の中心的な仕組みが「useSWRフック」と「fetcher関数」です。useSWRフックはデータ取得の状態を管理し、Reactコンポーネント内で非同期データを扱うことを簡単にします。一方、fetcher関数は実際にデータを取得する処理を定義する役割を担います。この2つを組み合わせることで、わずか数行のコードでAPI通信・キャッシュ管理・ローディング処理・エラーハンドリングまで網羅することができます。さらに、ReactのHooks構文と相性が良く、カスタムフック化も容易であり、コードの再利用性や保守性を高めるのにも貢献します。
useSWRフックの基本構文とパラメータの解説
useSWRフックは、第一引数にキー(リクエストの識別子)、第二引数にfetcher関数を指定する形で使用されます。基本構文はconst { data, error } = useSWR(key, fetcher)
のように記述します。キーには通常、APIのURLやクエリ文字列などが使われます。SWRはこのキーを用いてキャッシュの管理や再フェッチのトリガーを制御するため、安定したキーの設計が非常に重要です。また、第三引数としてオプションを指定することで、キャッシュの保持時間やリトライ制御など細かい設定が可能となります。これらのパラメータを理解し適切に使うことで、アプリケーションのパフォーマンスとユーザー体験の最適化が図れます。
fetcher関数の役割と非同期処理との関係性
fetcher関数はSWRにおける非同期データ取得のコアとなる部分であり、useSWRが渡されたキーをもとに実際にデータを取りに行く処理を担います。最も基本的なfetcher関数の例は、url => fetch(url).then(res => res.json())
という形です。fetcherはPromiseを返す必要があり、axiosやGraphQLなど他のライブラリと組み合わせる場合も同様です。この関数は柔軟にカスタマイズでき、例えば認証ヘッダーを付与したり、POSTリクエストを発行したりすることも可能です。fetcher関数を一元化しておくと、プロジェクト全体で共通的にAPI処理を管理できるため、保守性の高いアーキテクチャを実現できます。
APIからデータを取得する具体的なコード例
以下は、SWRを使ってAPIからユーザー情報を取得する基本的なコード例です。
const fetcher = url => fetch(url).then(res => res.json());
const { data, error, isLoading } = useSWR('/api/user', fetcher);
このコードでは、/api/userというエンドポイントにGETリクエストを送信し、取得したJSONデータをdataとして受け取ります。非同期処理中はisLoadingがtrueとなり、エラーが発生すればerrorにエラーオブジェクトが格納されます。これらの状態を利用して、ローディングスピナーやエラーメッセージなどのUIを動的に切り替えることが可能です。Reactの再レンダリングと連動して動作するため、非常に直感的に扱うことができます。
条件付きでのデータ取得(キーの制御)方法
SWRでは、キーをnullにすることでfetcher関数の実行を一時的に停止できます。これにより、特定の条件が成立したときのみデータを取得したい場合に便利です。例えば、ログインユーザーのIDがまだ取得できていない場合に、無駄なAPIリクエストを防ぐことができます。
const shouldFetch = userId !== undefined;
const { data } = useSWR(shouldFetch ? `/api/user/${userId}` : null, fetcher);
このように条件をキーに反映させることで、状態に応じた柔軟なデータ取得が可能になります。また、キーの配列化によって複数の依存要素を含めた条件指定もでき、より複雑なロジックにも対応可能です。
複数データソースの同時取得と依存関係の管理
SWRでは複数のuseSWRフックを同時に利用することで、複数のデータソースから非同期にデータを取得できます。たとえば、ユーザー情報と投稿一覧を同時に取得したい場合、それぞれにuseSWRを適用すればよいだけです。ただし、片方のデータがもう一方に依存する場合(例:ユーザーIDが必要な投稿取得など)は、依存関係を明示的に制御する必要があります。その際は、条件付きキーやnullを活用して、前提データが揃ってからフェッチが行われるようにします。これにより、不要なリクエストの発生を抑制しつつ、処理の順序や整合性も確保することが可能です。
SWRのキャッシュ戦略「stale-while-revalidate」の仕組みを解説
SWRの最大の特徴ともいえる「stale-while-revalidate」戦略は、ユーザー体験とデータ整合性のバランスを最適化するためのキャッシュ制御手法です。この戦略では、一度取得したデータをキャッシュとして保持し、次回のリクエスト時にはまずキャッシュされた古い(stale)データを即座に表示します。その後、バックグラウンドで最新のデータ取得(revalidate)を行い、結果が取得され次第UIを更新します。これにより、レスポンスの高速化とリアルタイム性の両立が可能となり、ユーザーにとってスムーズでストレスのないインターフェースを提供できます。この思想は、UXを重視する現代のフロントエンド開発において非常に重要です。
「stale」と「revalidate」の意味と役割
「stale」とは、すでに取得済みで時間が経過したキャッシュデータのことを指します。「revalidate」は、サーバーと通信してそのデータが最新かどうかを確認し、必要に応じて更新する動作です。SWRでは、初回のデータ取得以降、同じキーで呼び出された際にまずstaleデータを即座に返し、裏側でrevalidateを実行して最新のデータを取得します。これにより、再レンダリングやUI遷移が遅延することなく行われる一方、データの鮮度も担保されるという、UXと整合性の両面を実現できるのです。この仕組みは、単なるキャッシュとは異なり「いつ・どうやって最新にするか」を明確に定義した戦略と言えます。
キャッシュ保持時間と再検証タイミングの関係
SWRではキャッシュの保持時間や再検証のタイミングを細かく制御することが可能です。主な設定項目には、`dedupingInterval`(重複リクエストの抑制時間)、`revalidateOnFocus`(フォーカス時の再フェッチ)、`refreshInterval`(定期的な再フェッチ間隔)などがあります。たとえば、短時間で頻繁に変化するデータには`refreshInterval`を数秒単位に設定し、頻度の低いデータには`dedupingInterval`でAPI通信の抑制をかけることができます。これらを適切に設定することで、通信コストの削減とUXの両立が図れます。特にモバイル端末など通信制限がある環境では、このチューニングがパフォーマンス最適化に直結します。
リアルタイムデータ更新とUX向上の効果
stale-while-revalidate戦略は、リアルタイムに近い形でデータを更新できる点が大きな魅力です。たとえばチャットアプリケーションや通知機能のように、最新の情報がすぐに反映されることが求められる場面でも、SWRは優れた効果を発揮します。ユーザーがアプリを操作している最中や、ブラウザタブに戻った際に自動で再フェッチが走るため、常に新しい情報を提供できます。加えて、古い情報が即座に表示されるため、ローディング時間によるストレスが軽減され、操作のリズムを乱しません。これにより、ユーザーはアプリケーションを快適に利用し続けることができ、エンゲージメントの向上にもつながります。
手動での再フェッチ(mutate)の活用方法
SWRは自動的に再検証を行う一方で、`mutate`関数を使って任意のタイミングでキャッシュの更新や再フェッチを実行することも可能です。たとえば、フォーム送信後や削除操作の後など、明示的にデータの再取得が必要な場面で活用されます。mutateはmutate('/api/data')
のように使い、現在のキャッシュを即座に更新したり、再フェッチをトリガーしたりできます。また、第二引数で新しいデータを渡すことで、サーバー応答を待たずにUIを更新する「楽観的UI(Optimistic UI)」も実現できます。これにより、ユーザー操作に即したフィードバックを提供し、操作感を向上させることが可能です。
同一キーによるキャッシュ共有と最適化テクニック
SWRでは、キーが同一であれば複数のuseSWR呼び出し間でキャッシュが共有されます。たとえば、親コンポーネントと子コンポーネントで同じAPIを参照する場合でも、実際のリクエストは1回のみで済みます。このキャッシュ共有機能により、通信量の削減やパフォーマンスの向上が実現されます。また、SWRConfigを使ってグローバルにfetcherや設定を統一することで、開発効率やコードの可読性も向上します。特に大規模なアプリケーションでは、共通APIの管理を統一し、キャッシュキーの構造を一定に保つことが、最適なキャッシュ活用の鍵となります。キーの設計とスコープ管理を工夫することで、効率的かつ安定したデータ取得が可能になります。
useSWRフックの戻り値とReactにおける状態管理の役割
useSWRフックは、非同期データの取得とそれに付随する状態管理を簡潔に行うための強力な機能を提供します。戻り値として取得できるのは、主に`data`(取得したデータ)、`error`(エラー情報)、`isLoading`(ロード状態)、そして`mutate`(再フェッチやキャッシュの操作を行う関数)です。これらを活用することで、複雑なロジックを書かずに、データの表示・ローディング・エラーハンドリングといったUI制御が実現できます。また、Reactコンポーネントのライフサイクルと密に連動しており、再レンダリングの最適化も自動で行われるため、パフォーマンスにも優れた設計となっています。
data・error・isLoading・mutateの基本解説
useSWRの戻り値である`data`には、fetcher関数が返す非同期データが格納されます。`error`は通信エラーが発生した場合にその詳細情報が含まれ、try-catchを使わずにUI側でエラー処理ができます。`isLoading`はデータがまだ取得中かどうかを示すブール値であり、初期表示時にローディングスピナーを表示する際などに利用します。そして`mutate`は、手動でキャッシュを更新したり再フェッチをトリガーしたりするための関数で、楽観的UIの実装にも用いられます。これら4つの値を適切に使い分けることで、非同期UIの構築が驚くほど簡単になります。
エラー時の挙動とフォールバックの実装例
SWRでは、fetcher関数がエラーを返すと`error`オブジェクトにその内容が格納されます。これを利用することで、try-catch文を使わずにReactコンポーネント内で簡単にエラー処理が可能になります。たとえば、`if (error) return <div>データの取得に失敗しました</div>`のように記述するだけで、ユーザーに適切なエラーメッセージを表示できます。また、`fallback`オプションを使えば、エラー時に代替データを表示することも可能です。これにより、サービスの信頼性を維持しつつ、エラーが起きてもユーザー体験を損なわない柔軟なUIを構築することができます。
ロード中UIのカスタマイズとユーザー体験の最適化
データ取得中に表示するローディングUIは、ユーザー体験に大きな影響を与えます。SWRでは、`isLoading`や`!data && !error`といった条件を活用して、ロード中にスピナーやスケルトンUIを表示することが一般的です。たとえば、`if (isLoading) return <LoadingSpinner />` のように記述すれば、データの取得完了まで適切なフィードバックが提供され、UXが向上します。また、ローディング中でもキャッシュが存在する場合はstaleデータが表示されるため、スムーズな描画が実現されます。さらに、表示の優先度を制御したり、フェードアニメーションを導入することで、より洗練されたUIを提供することができます。
複数の状態を組み合わせた制御のベストプラクティス
SWRから得られる戻り値は、単独で使うことも可能ですが、複数を組み合わせることでさらに高度な制御が可能になります。たとえば、`isLoading`がtrueかつ`error`がnullであればローディング状態、`error`が存在すればエラー状態、`data`が存在すれば表示状態というように、3つの状態を明確に区別することができます。これにより、ユーザーへのフィードバックが一貫性を持ち、状況に応じたUIの切り替えがスムーズになります。また、`mutate`を組み合わせてイベント駆動で再フェッチを行えば、ユーザー操作に即したインタラクションも実現可能です。このような複合的な状態制御によって、堅牢で使いやすいアプリケーションを構築できます。
グローバルステートとSWRの使い分け方
SWRはあくまで「データ取得とキャッシュ管理」に特化したライブラリであり、アプリケーション全体で共有すべきUIステート(モーダルの開閉状態など)については、RecoilやZustand、Reduxなどの状態管理ライブラリと併用するのが一般的です。SWRのキャッシュは自動で共有されるため、グローバルステートのように扱える場面もありますが、あくまで“データ”の共有に限定すべきです。たとえば、ログインユーザー情報や商品リストなどはSWRで扱い、選択状態やUIの一時的なフラグは状態管理ライブラリで管理するといった使い分けが推奨されます。これにより、責務が明確化され、バグの発生を防ぎつつ保守性も向上します。
コードを簡潔に保つためのSWR活用と親子コンポーネント最適化
SWRは、Reactコンポーネントの構造をシンプルかつ明確に保つためのツールとしても優れています。特に、親から子へpropsで非同期データを受け渡すような構成では、コードが煩雑になりがちです。しかしSWRを使えば、各コンポーネントが自ら必要なデータをローカルで取得できるため、propsドリリングを回避しやすくなります。また、共通のfetcher関数を用いることで、再利用性の高いコードを実現でき、メンテナンス性も大きく向上します。さらに、カスタムフックを組み合わせることで、複数箇所での使い回しが効率的に行え、開発効率を飛躍的に高めることが可能です。
propsドリリングを避けるデータ取得の分離
Reactでは、親コンポーネントから子コンポーネントへpropsを通じてデータを受け渡す設計が一般的ですが、ネストが深くなると「propsドリリング」が発生し、可読性や保守性が低下します。SWRを用いれば、子コンポーネントが直接必要なデータを取得できるため、propsの受け渡しを大幅に削減できます。たとえば、ユーザー情報を複数のコンポーネントで使いたい場合、それぞれのコンポーネント内でuseSWRを使ってデータを取得すれば、propsを介さずとも同じキャッシュを参照できます。このアプローチにより、コンポーネントの責務が明確になり、再利用性の高い構成を実現できます。
共通化されたfetcherの再利用と保守性向上
fetcher関数はSWRにおける重要な構成要素であり、データの取得方法を一元化できます。プロジェクト内で共通のAPIエンドポイントが複数存在する場合、fetcherを共通関数として定義しておくことで、各所で重複コードを避けつつ一貫したAPI通信が行えます。たとえば、`libs/fetcher.ts`などのファイルに`const fetcher = (url: string) => fetch(url).then(res => res.json())`という関数を定義し、全体でimportすることで、変更が必要になった場合でも1箇所の修正で済みます。これにより、保守性が大幅に向上し、開発効率も飛躍的に高まります。
コンポーネント分割とSWRによる疎結合設計
SWRはコンポーネントごとに独立してデータ取得が可能であるため、疎結合な設計を実現しやすくなります。疎結合とは、各コンポーネントが他のコンポーネントに依存せずに動作する構造のことで、アプリケーションのスケーラビリティや保守性を高める設計手法です。たとえば、一覧表示と詳細表示を別々のコンポーネントに分け、それぞれが自身に必要なデータだけを取得するように設計すれば、他方の修正が片方に影響を与えることを避けられます。このような分割によって、テストの独立性やUI変更への対応力も向上します。SWRはこの疎結合構造を自然に実現できる点で非常に優れています。
カスタムフックの作成によるコードの整理
SWRの利用パターンが複数箇所で繰り返されるようになると、カスタムフックを導入することでコードの整理と再利用が容易になります。たとえば、ユーザー情報を取得するカスタムフック`useUser`を作成し、その中で`useSWR(‘/api/user’, fetcher)`を呼び出せば、呼び出し元のコンポーネントでは`const { data, error } = useUser()`と簡潔に記述するだけで済みます。これにより、ロジックの重複を防ぎ、fetcherやエラー処理などの実装も一元化できます。また、カスタムフック内でデフォルト値やエラーハンドリング、ローディングUIの制御もまとめて行えるため、コードの見通しが格段に良くなります。
非同期処理に関するテストの容易さと利点
SWRを使うことで、非同期データの取得に関するテストも簡潔に行えるようになります。fetcher関数が純粋関数として設計されているため、ユニットテストが容易であり、モック化によってHTTP通信を行わずに動作確認が可能です。また、カスタムフックにuseSWRをラップしておけば、そのフック単位でのテストも行いやすくなります。たとえばJestとReact Testing Libraryを組み合わせて、ローディング中・成功・失敗の3パターンのテストケースを記述すれば、堅牢なテストカバレッジが実現可能です。非同期処理はテストが複雑になりがちですが、SWRの明確な設計と状態分離により、非常にシンプルに検証を進められます。
Next.jsとの連携におけるSWRの使い方とSSR・SSG対応方法
SWRはNext.jsとの連携に非常に優れており、クライアントサイドのデータ取得だけでなく、サーバーサイドレンダリング(SSR)や静的サイト生成(SSG)と組み合わせて柔軟にデータの扱いが可能です。Next.jsでは、`getStaticProps`や`getServerSideProps`などを通じて初期データを取得し、SWRの`fallbackData`として渡すことで、初期表示を高速化しながら再検証による最新データへの更新も実現できます。また、`SWRConfig`を使ってアプリケーション全体で共通のfetcherや設定を管理することで、一貫したデータ取得ロジックを持たせることが可能です。これにより、ユーザー体験と開発効率の両立が図れます。
getStaticPropsとの組み合わせでの静的生成
Next.jsの`getStaticProps`はビルド時にデータを取得し、HTMLとして出力する静的生成(SSG)機能です。SWRと組み合わせる場合、`getStaticProps`で取得したデータを`fallbackData`としてSWRに渡すことで、初回表示時に即座にデータが反映されます。さらに、クライアント側ではSWRがバックグラウンドで再検証を行うため、表示内容が最新の状態に保たれます。例えば、ニュースサイトなどで初期の読み込み速度を重視しつつも、新しい情報を随時更新したい場合に非常に効果的です。この連携により、静的生成と動的更新を両立する柔軟なアプリケーション構成が実現可能です。
fallbackDataを使った初期表示の最適化
SWRの`fallbackData`は、初期表示時に利用するデフォルトのデータを指定できるオプションです。Next.jsの`getStaticProps`や`getServerSideProps`で取得したデータを、SWRの`fallbackData`に渡すことで、SWRの初期データとして利用できます。これにより、クライアントが再フェッチを行うまでの間もデータが空である状態を避け、スムーズにUIを表示することができます。たとえば、次のように使用します:
const { data } = useSWR('/api/data', fetcher, { fallbackData: initialData })
このようにすれば、サーバー側で取得したデータをクライアントにスムーズに引き継ぐことが可能となり、UXが大きく向上します。
getServerSidePropsとの併用時の注意点
`getServerSideProps`はリクエストごとにサーバーでデータを取得するため、動的なデータ表示に適しています。SWRと併用する場合、`getServerSideProps`で取得したデータを`fallbackData`として渡すことで、SWRが初期レンダリング時にそのデータを使用できます。ただし、SWRはクライアントサイドで動作するため、あくまでレンダリング後の再フェッチやキャッシュ管理を補助する役割であることを理解しておく必要があります。また、`getServerSideProps`が頻繁に実行されるとサーバー負荷が高くなるため、データの更新頻度や重要度に応じて、`getStaticProps`との使い分けを検討することが大切です。
SWRConfigによるグローバル設定の活用
SWRでは、アプリケーション全体で共通のfetcher関数や設定を使いたい場合に、`SWRConfig`コンポーネントを利用します。たとえば、Next.jsの`_app.tsx`に以下のような形で記述することで、全ページに同じfetcherやオプションを適用できます:
<SWRConfig value={{ fetcher, refreshInterval: 3000 }}>
<Component {...pageProps} />
</SWRConfig>
これにより、各コンポーネントで毎回fetcherを指定する必要がなくなり、設定の一元管理が可能になります。また、チーム開発においても設定の共有が容易になるため、保守性と拡張性の高いアーキテクチャを構築するのに有効です。
ISR(Incremental Static Regeneration)との統合
Next.jsのIncremental Static Regeneration(ISR)は、SSGのメリットを維持しつつ、一部のページだけを再生成することができる機能です。これをSWRと組み合わせることで、ビルド時に取得したデータをもとに静的に表示しつつ、更新が必要な箇所だけをバックグラウンドで再構築できます。たとえば、商品一覧ページをISRで静的に生成し、商品詳細はSWRで個別に再取得するような構成にすることで、サイト全体のパフォーマンスとデータの鮮度を両立できます。SWRによる再検証ロジックは、ISRによる再構築と矛盾せず、むしろ補完関係にあるため、両者を併用することでより柔軟かつ高性能なWebアプリケーションを構築することが可能です。
無限スクロールやページネーションにおけるSWR Infiniteの実践
SWRには、ページネーションや無限スクロールといった「ページごとにデータを取得する」ようなユースケースに対応するための拡張フックとしてuseSWRInfinite
が用意されています。このフックを使うことで、複数ページにわたるデータを段階的に取得し、ユーザーの操作やスクロールに応じて追加でデータを読み込むような動的UIを簡単に構築できます。たとえば、ブログ記事の一覧やECサイトの商品リストなど、表示件数が多くなる場面で有効です。従来のuseSWRでは1つのキーに対して1つのデータしか扱えませんが、useSWRInfiniteではページごとにキーを変化させることで、複数のページデータを配列として管理できます。これにより、ユーザーの体験を損なうことなく、大量データの効率的な表示が可能になります。
useSWRInfiniteの基本構文と特徴
useSWRInfinite
は、ページネーションや無限スクロールのようなデータ取得に特化したSWRの拡張フックです。通常のuseSWR
と異なり、第一引数に「getKey関数」を指定し、ページ番号などをもとに各ページのリクエストキーを動的に生成します。基本構文は以下の通りです:
const { data, size, setSize, isValidating } = useSWRInfinite(getKey, fetcher)
ここで、size
は取得済みのページ数、setSize
はページ数を増やす関数、isValidating
は現在フェッチ中かどうかを示します。これらを活用して、ユーザーがスクロールしたりボタンを押したりしたタイミングで追加データを取得するUIを簡単に構築できます。
ページネーションのためのgetKey関数の設計
useSWRInfinite
における最も重要な要素が「getKey関数」です。この関数は、各ページに対して一意なキー(URL)を生成し、SWRに渡す役割を持ちます。たとえば、APIのクエリパラメータでページ番号を指定する場合、(index) => `/api/posts?page=${index + 1}`
のように記述します。また、前のページにデータがない場合はnull
を返すことで、それ以降の取得を停止することができます。このように、getKey関数の設計次第で柔軟なページネーションロジックが実現可能です。特に、APIがnextPage情報を返すタイプの場合には、前ページのデータを引数として受け取り、次のページURLを動的に生成する方法も活用できます。
無限スクロールの実装とIntersectionObserverの活用
無限スクロールを実装する場合は、ユーザーのスクロール位置を検出してsetSize
を呼び出すことで、新たなデータを取得します。この検出には、IntersectionObserver
を利用するのが一般的です。具体的には、最下部に設置した「ローダー」要素が画面に表示された瞬間にsetSizeを呼び出してページ数を増やすことで、自然な無限スクロール体験を提供できます。例えば、observer.observe(loaderRef.current)
のように設定しておけば、DOMがビューポートに入ったタイミングで自動的に次のデータがフェッチされます。この仕組みにより、ユーザーは明示的な操作をせずともスムーズにコンテンツを閲覧し続けられます。
データ更新時のリフェッチとスクロール制御
useSWRInfinite
では、mutate
やsetSize
を使ってデータの再取得やリセットが可能です。たとえば、新しい記事を投稿した後に一覧を最新状態に更新したい場合は、mutate()
を呼び出すことで全ページの再フェッチが行えます。また、リストを先頭から再読み込みしたい場合には、setSize(1)
でページ数を1に戻すとともにmutate
を併用することでリストを初期化できます。スクロール位置を管理する際には、データ更新後に画面を特定の位置へスクロールさせる処理も併用すると、ユーザーが迷うことなくコンテンツを追えるようになります。こうした細かな工夫がUXの差を生むポイントになります。
Load Moreボタンによる段階的表示の導入方法
無限スクロールの代替として、ユーザーがクリックして明示的に次のページを読み込む「Load Moreボタン」も有効な手段です。これは特に、高速スクロールによる大量のデータ取得を避けたい場面や、ユーザーに読み込みのコントロールを委ねたいケースに適しています。実装方法はシンプルで、ボタンのonClick
イベントにsetSize(size + 1)
を指定するだけで新しいページのデータを取得できます。さらに、次のページが存在しない場合はボタンを非表示にするなどの制御を加えることで、使いやすく配慮されたUIを提供できます。SWR Infiniteの柔軟性を活かせば、このような段階的なデータ表示も簡単に組み込むことが可能です。
エラー処理とローディング状態を管理するためのSWRベストプラクティス
SWRを活用するうえで、エラー処理とローディング状態の適切な管理はユーザー体験を左右する重要な要素です。データ取得においては、通信エラーやAPIのレスポンス遅延といった問題が常に発生し得るため、それらに対する明確な対応を設計することが不可欠です。SWRは`error`や`isLoading`、`isValidating`といった状態を自動的に提供してくれるため、これらをうまく活用することでUIの状態管理が非常にシンプルになります。また、失敗時のリトライ制御や、ローディングUIの設計、再試行のタイミング調整などを通じて、堅牢かつ親切なUI体験を実現することが可能です。
エラー発生時のリトライ制御と制限方法
SWRではデフォルトで一定回数の自動リトライが行われますが、これを任意に制御することが可能です。たとえば、サーバーがダウンしているときに無限にリトライが続くと、ユーザー体験を損ねるだけでなく、バックエンドへの負荷も増加します。これを防ぐためには、SWRConfigや個別のuseSWRのオプションで`onErrorRetry`を設定し、リトライ回数やインターバルを制御するのが有効です。例えば、`onErrorRetry: (error, key, config, revalidate, { retryCount }) => { if (retryCount >= 3) return }`のように記述すれば、3回でリトライが打ち切られます。状況に応じた制御によって、堅牢かつリソース効率の良いアプリケーションが実現できます。
ローディングUIの種類と切り替えの最適化
データ取得中にユーザーへ明確なフィードバックを提供することは、操作感を良くするうえで極めて重要です。SWRでは`isLoading`を使ってローディング状態を検出し、ローディングスピナーやスケルトンスクリーン、プレースホルダーなどを表示できます。単純なスピナーだけでなく、最近ではスケルトンUIを採用することで、より自然で快適な体験が提供されるようになってきました。表示方法も、ページ全体にオーバーレイするパターンや、要素ごとに部分的に表示するパターンなど様々な設計が可能です。初回のローディングと再フェッチ時(isValidating)を分けて表示を制御すれば、ユーザーにとって分かりやすく親切なUIが構築できます。
フォールバックコンテンツによるUX維持戦略
万が一データ取得に失敗した場合でも、ユーザーに空白画面を見せないようにすることが、アプリケーションの信頼性向上に繋がります。SWRでは、`error`の状態を検出してフォールバックコンテンツを表示することが推奨されます。たとえば「ネットワークエラーが発生しました。再試行してください。」といったメッセージを出すだけでも、ユーザーに対して原因と対応方法を示すことができ、安心感を与えます。さらに、SWRのキャッシュ機能を活用すれば、過去に取得したデータを一時的に表示することも可能です。これにより、通信障害が発生しても最低限の情報は維持され、UXが著しく損なわれることを防げます。
再試行時のユーザー操作とUI設計の工夫
SWRでは`mutate`を使って任意のタイミングで再フェッチを実行できるため、ユーザー操作に応じた再試行ボタンの設置が非常に有効です。たとえば、エラー表示と一緒に「再読み込み」ボタンを配置し、クリック時に`mutate()`を呼び出すことで、ユーザーの任意でリトライを行えるようになります。この仕組みによって、勝手に繰り返される自動リトライではなく、ユーザー主導での安定した操作が可能となり、UXの安定性が増します。また、ボタンのラベルや位置、フェードイン・アウトのタイミングなど、細かいUI設計にも気を配ることで、より洗練されたインターフェースが実現されます。
グローバルでのエラーキャッチとログ出力
SWRは各useSWRフックごとにエラー管理ができますが、大規模なアプリケーションでは、SWRConfigで`onError`を設定し、グローバルでエラーを捕捉するのが効率的です。この設定により、アプリケーション全体で発生したSWR関連のエラーを一元管理し、SentryやBugsnagなどのエラーログツールと連携して記録することが可能になります。また、開発環境ではconsoleに詳細なエラー内容を出力しつつ、本番環境ではユーザーに必要以上の情報を見せないように制御するなど、運用フェーズに応じた柔軟な対応も大切です。これにより、運用中の障害発生時に迅速な対応ができ、サービス品質を高く保つことができます。
SWRとReact Queryの違いと使いどころ
SWRとReact QueryはどちらもReactアプリケーションにおけるデータフェッチ処理を簡素化するライブラリですが、それぞれ異なる設計思想と機能性を持っています。SWRは「シンプルさ」を重視し、必要最小限のAPIで直感的に使える設計が特徴です。一方、React Queryはより多機能で、キャッシュの永続化、データの依存解決、ミューテーションなど高機能な状態管理が可能です。両者は共にstale-while-revalidate戦略を取り入れつつも、使いどころや開発体験には明確な違いがあります。本項では、両者の違いを比較しながら、どのようなケースでどちらを選択すべきか、その判断基準を解説します。
設計思想やAPI構造の違いと特徴比較
SWRは「軽量・シンプル・宣言的」な設計をコンセプトにしており、わずか1ファイルで動作するミニマルな構成です。基本的なAPIはuseSWRの1関数に集約されており、オプションや設定も簡潔で直感的です。一方、React Queryは設計が包括的であり、useQuery・useMutation・useInfiniteQueryなど用途別に複数のフックが用意されています。また、キャッシュの階層構造やステータスのフック化(isSuccess, isError, isFetchingなど)も特徴です。React Queryはより状態管理に近い思想を持ち、アプリケーション全体のデータフローを統合したい場合に向いています。
学習コストと導入難易度の違いについて
学習コストという観点では、SWRの方が明らかに低く、導入も非常に容易です。useSWRを呼び出してfetcher関数を渡すだけで基本的なデータ取得が完結するため、小規模なアプリケーションや試作段階での使用にも適しています。React Queryはその反面、機能が豊富であるがゆえに初期学習がやや複雑で、公式ドキュメントも理解に時間を要する構成になっています。特に、キャッシュの永続化やPrefetch、Devtoolsの導入などを含めると、導入時の設計と理解にそれなりの工数が必要となります。したがって、短期的に結果を求めるプロジェクトではSWR、長期的かつ複雑な要件を持つプロジェクトではReact Queryが適しているといえるでしょう。
柔軟な機能性とカスタマイズ性の比較
機能性の面ではReact Queryが一歩リードしており、キャッシュの永続化(persistQueryClient)やミューテーション、依存関係の自動解決、Devtoolsによる可視化など、高度なデータ管理が可能です。特に、オフライン対応やバックグラウンドでのプリフェッチなど、ユーザー体験をさらに高めるための細かいチューニングがしやすい設計となっています。SWRも`mutate`や`useSWRInfinite`、`SWRConfig`など基本的なカスタマイズ手段は備えていますが、複雑なユースケースに対応するにはやや工夫が必要です。高度な制御が必要ないプロジェクトであればSWRがベストですが、要件が増えるにつれてReact Queryの柔軟性が活きてきます。
開発プロジェクトの要件による選定指針
どちらを選ぶべきかは、プロジェクトの性質や開発体制に依存します。たとえば、静的サイト生成(SSG)やシンプルなAPI連携で構成されるサイトであれば、SWRの方が圧倒的に手軽です。一方、データの更新や状態管理が頻繁に発生し、かつその整合性を厳密に保ちたいような業務アプリケーションでは、React Queryの導入が有効です。また、React QueryはReduxの代替としても機能するため、状態管理とデータフェッチを一元化したい場合には大きなメリットがあります。開発チームの経験や、メンテナンス体制、拡張性の有無を含めた総合的な視点から判断することが重要です。
リアルタイム性やキャッシュ戦略の違い
SWRとReact Queryはどちらもstale-while-revalidate戦略を採用していますが、その実装には違いがあります。SWRはフォーカス時の再フェッチや自動リフェッチ(refreshInterval)などがデフォルトで設定されており、シンプルな設定でリアルタイム性を実現できます。一方、React Queryではそれらの挙動を明示的にオプションで設定する必要があり、柔軟である反面、設定の煩雑さがあります。キャッシュの保存期間や無効化戦略(staleTime、cacheTime)もReact Queryの方が詳細に制御できます。これにより、特定の条件下でのキャッシュ最適化や、パフォーマンスチューニングを求められる場面ではReact Queryの方が適していると言えるでしょう。