ベストオブブリードとは?分野ごとに最適なソリューションを組み合わせる最新IT戦略の全体像と背景を解説

目次
- 1 ベストオブブリードとは?分野ごとに最適なソリューションを組み合わせる最新IT戦略の全体像と背景を解説
- 2 ベストオブブリードの定義と基本コンセプト:マルチベンダーで最適解を組み合わせる戦略の意味を詳しく解説
- 3 ベストオブブリードの特徴:柔軟性・専門性・統合性・拡張性などマルチベンダー戦略の主要なポイントを整理
- 4 ベストオブブリードのメリット:各業務に最適化できる利点やベンダーロックイン回避など多彩な恩恵について解説
- 5 ベストオブブリードのデメリット:運用複雑化・サポート窓口分散・コスト増など複数システム統合に伴う課題を解説
- 6 ベストオブブリードとスイートとの違い:単一ベンダー統合型とのメリット・デメリット比較と適用シーンの違いを整理
- 7 ベストオブブリードの具体例:ERP・CRM・HRなど各分野で最適ツールを組み合わせた戦略の実践事例から学ぶ
- 8 ベストオブブリードの選定ポイント:統合性・コスト・サポート体制など適切なツール選定のための重要事項を解説
- 9 ベストオブブリード導入の課題:システム連携・データ統合・社内教育など複数ツール導入時に直面する問題を解説
- 10 ベストオブブリード戦略の成功事例:大手企業のITシステム最適化に成功したマルチツール活用の実例を紹介
ベストオブブリードとは?分野ごとに最適なソリューションを組み合わせる最新IT戦略の全体像と背景を解説
近年、企業のIT戦略において「ベストオブブリード」という考え方が注目を集めています。これはシステム導入時に、単一ベンダーの統合スイート製品に頼るのではなく、業務や分野ごとに最適なソフトウェアやサービスを選び出し、それらを組み合わせて活用する手法です。つまり、各分野で“最も優れた(Best)”製品を集めて“品種(Breed)”のように組み合わせ、全体として自社にとってベストなシステム環境を構築しようというアプローチになります。
ベストオブブリード型の戦略が台頭してきた背景には、クラウドやAPIなどシステム連携技術の発展があります。以前は異なるシステム間でデータ連携を行うことが難しく、単一ベンダー製品で統一するほうが無難とされていました。しかし現在では、SaaS(クラウドサービス)の普及とともに各サービス間の統合性が向上し、異なるベンダーの製品同士でも比較的容易にデータを連携できるようになっています。その結果、各分野に特化したツール同士を組み合わせて、自社のニーズにぴったり合ったシステムを構築するベストオブブリード戦略が現実的な選択肢となりました。
このように、ベストオブブリードとは「分野別最適」の思想に基づいたシステム構築戦略です。企業は業務効率化や競争力強化のため、必要に応じて最良のソリューションを柔軟に取り入れることが重要になっており、ベストオブブリードはその有力な方法論の一つとして定着しつつあります。
複数ベンダーから最適な製品を組み合わせるマルチベンダー戦略の実現
ベストオブブリード戦略最大の特徴は、マルチベンダー環境を前提としている点です。つまり、システム全体を単一企業の製品で統一するのではなく、複数の提供元からそれぞれ優れた製品を選定し組み合わせます。例えば、顧客管理にはA社のCRM、会計にはB社の会計ソフト、人事管理にはC社のクラウドサービスというように、分野ごとに異なるベンダーのツールを採用します。これにより各分野で最適な機能を得られますが、その反面、異なるメーカーのシステムを連携させて動かす高度な統合管理が必要になります。マルチベンダー戦略の実現には、複数ベンダーとの契約・調整を行いながら全体を統括する能力が求められます。
各業務に特化したシステム選定による専門性の追求とツールの最大活用
ベストオブブリードでは、業務ごとに最も適したシステムを選ぶため、それぞれのツールが持つ専門性を最大限に活かすことができます。単一の統合システムでは、全ての機能を網羅する代わりに各機能の深さや使い勝手が十分でない場合があります。一方、分野特化型のツールであれば、その領域の業務ニーズに合わせて作り込まれているため、ユーザーは高度な専門機能や業界特有の機能を活用できます。例えば、営業部門には営業支援に優れたCRM、マーケティング部門には高度な分析機能を持つマーケティングツールを導入するといった形で、各部署が必要とする機能をピンポイントで提供できるのです。これによりシステムを最大限に活用し、各業務プロセスの効率や精度を向上させることが期待できます。
柔軟なシステム構成を実現し、将来的な拡張性を確保できる点
ベストオブブリード型の構成はモジュール式であり、システム全体の柔軟性に優れています。必要に応じて新しいツールを追加したり、既存の一部システムをより優れた別製品に置き換えたりといった対応がしやすいのが特徴です。例えば、現在利用中の在庫管理システムを将来より高機能なものに差し替えたい場合でも、他の部分と疎結合(ゆるやかに連携)になっていれば、その在庫システムだけをリプレースすることが比較的容易です。統合スイート型ではシステム全体を一括で扱うため部分的な入れ替えが難しいですが、ベストオブブリードならこのような拡張性・スケーラビリティを確保できます。事業の成長や環境変化に合わせてシステム構成を柔軟に変更できる点は、ベストオブブリード戦略の大きな魅力です。
システム連携を前提としたアーキテクチャ設計と統合の必要性
複数の独立したシステムを組み合わせる以上、システム間の連携はベストオブブリード戦略の前提条件となります。そのため、システム構築時には初めから「どう各ツールを繋げてデータをやり取りさせるか」というアーキテクチャ設計が重要です。具体的には、各システムが提供するAPIやデータフォーマットを確認し、必要ならばデータ連携のためのミドルウェアやiPaaS(クラウド統合サービス)を導入します。また、マスターデータをどのシステムで一元管理するか、リアルタイム同期が必要かバッチ連携で良いかといった統合ポリシーも決めておく必要があります。このように、ベストオブブリードでは統合の手間は避けられませんが、その分自社に最適な形でシステムを組み上げられるというメリットと表裏一体の関係にあります。
ベストオブブリードの定義と基本コンセプト:マルチベンダーで最適解を組み合わせる戦略の意味を詳しく解説
ベストオブブリード(Best of Breed)という言葉は、直訳すれば「品種の中の最良」という意味です。本来はドッグショーなどで各品種ごとに最も優れた個体に与えられる賞を指す言葉ですが、ビジネスやITの文脈では「カテゴリごとに最良のものを選び出す」という意味合いで使われています。システム導入におけるベストオブブリード戦略とは、まさにこの言葉通り、業務領域ごとに最良のソリューションを個別に選定し、それらを組み合わせて全体のシステムを構築する手法です。
ベストオブブリードの基本コンセプトは、「一つひとつの業務領域に対して、その分野で最も適したツールを充てることで、全社システムとして最善の組み合わせを実現する」ことにあります。例えば、会計には財務会計に強いシステム、販売管理には営業支援に強いシステム、人事には人事管理に特化したシステム、といった具合に、それぞれの分野で評価の高い専門システムを採用します。そして、それら複数のシステム同士を連携させて、あたかも一つの統合システムのように機能させるのです。このアプローチにより、自社の各部署・機能が必要とする最適なITツール群を手に入れられる反面、全体を統合するための技術や運用ノウハウが不可欠となります。
要するに、ベストオブブリードの定義づけとしては「複数のベンダー製品からベストなものを選び抜き、組み合わせて使う戦略」であり、その基本コンセプトは「一社の包括製品に頼らず、多様な選択肢から最善の組み合わせを追求する」点にあります。これにより企業は、システム面で自社ニーズに最適化された構成を柔軟に実現できるのです。
「Best of Breed」の語源とビジネスシーンでの意味
「Best of Breed」(ベストオブブリード)という表現は元々、前述のようにドッグショーで各犬種のチャンピオン犬に与えられる賞に由来します。この語源から派生してビジネスシーンでは、「それぞれのカテゴリーで最も優れたもの」という意味合いで使われるようになりました。例えば、「ベストオブブリードのソフトウェア」と言えば、「ある機能領域において最も評価が高いソフトウェア」という意味になります。IT分野では、この言葉が転じて「各分野で最高評価の製品同士を組み合わせてシステムを構築すること」を指す専門用語として定着しています。
業務別に最善のツールを組み合わせる基本コンセプト
ベストオブブリード戦略の基本コンセプトは明快で、それは「各業務において最も優れたツール同士を組み合わせれば、システム全体としても最適化される」という考え方です。統合スイート型ではワンサイズフィットオールのシステムを導入するため、自社のある部分の業務には機能が過不足だったり、使わない機能が含まれていたりすることがあります。これに対しベストオブブリード型では、足りない部分は他のベンダーの製品で補い、不要な要素は導入しないという形で、組み合わせを自由に設計できます。各領域でベストなものを選ぶことで、全体としてもベストに近づけようという発想です。ただし、このコンセプトを実現するためには、前提としてそれぞれのツールを結び付けて動作させる調整役(システム統合)が不可欠であり、単純に「良いものを買ってくれば終わり」ではない点には注意が必要です。
ベストオブブリードの特徴:柔軟性・専門性・統合性・拡張性などマルチベンダー戦略の主要なポイントを整理
ベストオブブリード戦略には、従来の単一ベンダーによるオールインワン型とは異なる独特の特徴があります。ここでは、その主な特徴をいくつかのポイントに分けて整理します。複数ベンダー製品を組み合わせる柔軟な構成であること、各分野に特化したシステムを選ぶ点、将来的な変更に対応しやすい拡張性、そしてシステム間連携を前提としたアーキテクチャ設計が必要な点などが挙げられます。以下で詳しく見ていきましょう。
複数ベンダーから最適な製品を組み合わせるマルチベンダー戦略の実現
ベストオブブリードのアプローチでは、一社の製品群に依存せず複数のベンダーから製品を調達します。このマルチベンダー戦略の実現により、各分野で最高評価のツールを組み合わせられる反面、複数の供給元と取引することになります。企業はベンダーごとに契約を結び、異なるサポート窓口やサービス体系に対応しなければなりません。同時に、各ベンダー間でシステム連携の仕様調整なども必要となります。つまり、マルチベンダー戦略は選択の自由度を得る代わりに、調整すべき相手や事項が増えるという特徴があります。そのため、この戦略を成功させるには各ベンダーとのコミュニケーションやプロジェクト管理を的確に行い、全体を統括する統合的な視点が求められます。
各業務に特化したシステム選定による専門性の追求とツールの最大活用
ベストオブブリードでは、各業務領域で最高のツールを導入するため、それぞれのシステムが持つ専門性をフルに活用できます。例えば、製造業であれば生産管理には製造業向けに特化したMES(製造実行システム)を、販売には小売業向け機能が充実したPOSシステムを、マーケティングにはデジタルマーケティングに強いツールを選ぶなど、各分野にピッタリのシステムを当てはめることができます。このように専門特化したシステムを使うことで、画一的なオールインワンシステムよりも各業務のニーズに合致したきめ細かなIT支援が可能になります。結果として、各部署は自分たちに最適化されたツールを最大限に活用でき、生産性や業務品質の向上につながります。
柔軟なシステム構成を実現し、将来的な拡張性を確保できる点
複数のシステムを組み合わせる構成は、一体型のシステムに比べて変更や拡張に柔軟に対応できるという利点があります。それぞれ独立したモジュールとしてシステムが存在するため、必要に応じて一部の機能だけを追加したり差し替えたりすることが比較的容易です。たとえば、新たにBI(ビジネスインテリジェンス)ツールを導入してデータ分析機能を強化したい場合、既存システムの分析機能に無理に頼らず、優れた外部BIツールを追加連携するといった対応が取れます。また、各モジュールが独立していることで、あるシステム部分に障害や仕様変更があっても他への波及を最小限に抑えやすい面もあります。将来的な組織変更や事業拡大にともないIT要件が変化しても、ベストオブブリード構成なら必要な部分だけを入れ替えるなど拡張性の高い対応が可能となります。
システム連携を前提としたアーキテクチャ設計と統合の必要性
ベストオブブリード型システムでは、複数のツールが独立して存在するため、それらを一つの仕組みとして機能させるためのシステム連携が欠かせません。ゆえに、導入計画の初期段階から「連携ありき」のアーキテクチャ設計を行う必要があります。具体的には、共通のデータ項目をどう管理・同期するか、システム間のインターフェースやAPIをどう繋ぐか、リアルタイム連携とするのかバッチ処理で十分か、といった点を決めていきます。また、システム同士がデータをやり取りする際のセキュリティ(通信の暗号化や認証)も考慮に入れなければなりません。このように設計段階で統合方針を明確にし、必要な仕組みを構築することで、初めて複数のシステムが一体となって業務を支える環境が完成します。ベストオブブリード戦略では、単に各種優秀なツールを寄せ集めるだけでなく、それらを結び付ける統合の工夫と技術基盤がセットで重要な特徴と言えるでしょう。
ベストオブブリードのメリット:各業務に最適化できる利点やベンダーロックイン回避など多彩な恩恵について解説
ベストオブブリード戦略を採用することで、企業はいくつものメリットを享受できます。各部署が自分たちの業務に最適なシステムを使えるという利点はもちろん、特定ベンダーに縛られない自由度や、新しい技術を取り入れやすい柔軟性など、多彩な恩恵があります。以下では、主なメリットを順に見ていきましょう。
各分野に最適なツールを導入して業務効率と成果を最大化できる
最大のメリットは、何と言っても各業務領域にフィットしたツールを使えることによる業務効率・効果の向上です。ベストオブブリードでは部署ごとに最適なシステムを選ぶため、各部門は自分たちのニーズにジャストフィットする機能や使い勝手を手にできます。例えば、コールセンター部門には顧客対応履歴の管理に優れたCRMを、製造現場にはリアルタイムの生産スケジューリング機能を持つ生産管理システムを導入するといった具合です。これにより、各部門の業務プロセスはツールによって強力に支援され、無理なく効率化できます。適材適所のITツールを使うことで従業員の作業負担が軽減されるだけでなく、データの精度向上や分析の高度化など業務成果の最大化にもつながります。
最新テクノロジーを柔軟に導入し続けられることでイノベーションを促進
ベストオブブリードでは、各分野で常にベストな製品を採用しようとするため、新たに登場した最新テクノロジーも柔軟に取り入れることができます。一方、統合スイート型の製品だと、一度導入した後はその製品群のバージョンアップに従う形になり、画期的な新技術が他社から出てもすぐには導入できないことがあります。しかしベストオブブリード戦略なら、「今この分野ではこのソリューションが最も優れている」と判断すれば、比較的短期間でそのツールを追加導入したり既存ツールと差し替えたりできます。例えば、AIを活用した需要予測ツールなど新技術の製品が出現した際に、それをいち早く導入して競合優位性を得るといった機敏な対応が可能です。常に最適な構成を追求できるこの特性は、企業のIT環境におけるイノベーション促進につながり、変化の激しい市場への適応力を高めます。
特定ベンダーへの依存を回避し、ベンダーロックインを防止できる
複数ベンダーを採用するベストオブブリード戦略では、システム全体を一社に頼りきりにしないためベンダーロックインの回避につながります。ベンダーロックインとは、特定のベンダーの製品やサービスに依存しすぎるあまり、他社製品への乗り換えが難しくなってしまう状況のことです。統合スイートを全面的に採用していると、そのベンダーの価格改定や製品方針に振り回されたり、自社の要望に合わなくなっても簡単に別の選択肢へ移れないというリスクがあります。一方、ベストオブブリードではもとから複数社の製品で構成しているため、一部のシステムを別ベンダーに切り替えるハードルが相対的に低くなります。例えば、サービス品質に不満が出た場合に特定のモジュールだけ他社製品へリプレースする、といった対応が可能です。こうした依存の分散により、ベンダー側の事情に左右されにくい安定したIT運用が実現できます。
システム障害時に他システムへの影響を抑え、リスクを分散できる
ベストオブブリード環境では、各システムがある程度独立しているため、一部で障害や不具合が発生しても全体への影響を抑えやすいという利点もあります。もし全業務を一社の統合システム上で動かしている場合、ひとたびそのシステムに深刻な障害が起きると業務全般が止まってしまう恐れがあります。また、セキュリティ上の脆弱性が見つかった際も、単一システムなら全データが一括で危険にさらされかねません。その点、ベストオブブリードで複数のシステムを組み合わせていれば、一つのシステムがダウンしても他の機能は影響を受けず動き続ける可能性があります(もちろん連携部分への影響は注意が必要ですが)。例えば、在庫管理システムに障害が出ても受注処理や経理のシステムは動作し続ける、といった具合です。このようにリスクを分散できる点は、システム全体の堅牢性を高めることにつながります。ただし、システムが増える分セキュリティ管理も分散し複雑になるため、個々の対策を怠らないことが前提となります。
ベストオブブリードのデメリット:運用複雑化・サポート窓口分散・コスト増など複数システム統合に伴う課題を解説
メリットの多いベストオブブリード戦略ですが、一方で無視できないデメリットや課題も存在します。複数のシステムを扱うことによる運用管理の煩雑さ、システム連携に関わる技術的負担、問い合わせ対応や契約管理が分散することによる手間、トータルコストの増大リスク、そしてユーザー教育の難しさなどが代表的です。ここでは、ベストオブブリード導入時に直面しがちなデメリットを詳しく解説します。
複数システム運用による運用・管理体制の複雑化が生じやすい
ベストオブブリードでは、単一システムで済むケースと比べて運用・管理体制が複雑になりやすいです。システムが増えれば、それだけ運用担当者が把握すべき範囲も広がります。例えば、各システムごとに管理者権限の設定やユーザーアカウントの管理を行ったり、それぞれの稼働状況を監視したりする必要があります。また、障害発生時の切り分けも難しくなります。どのシステムに原因があるのか、システム間の連携部分で問題が起きていないか、など確認すべきポイントが多岐にわたります。さらに、バックアップや災害対策もシステムごとに実施しなければならず、統合型に比べて運用フローが煩雑です。このように、複数システムを使いこなすには高度なIT運用能力が要求され、場合によっては専任の人員増加や体制強化が必要になるでしょう。
システム間のデータ連携・統合に追加のコストや手間が発生する可能性
異なるシステムを組み合わせて使う以上、避けられないのがデータ連携や統合に伴う手間です。標準で連携機能が用意されていない組み合わせの場合、API連携の開発やデータ変換処理の実装といった追加の開発作業が必要になります。例えば、受注情報を販売管理システムから在庫管理システムへ受け渡す連携を作る場合、それぞれのデータ項目をマッチングさせ、処理フローを開発しなければなりません。また、実装時だけでなく運用中も、各システムのバージョンアップに合わせて連携部分を調整・修正する手間が発生しがちです。こうした技術的対応には当然コストもかかります。統合スイート製品であれば最初から内部で統合されている部分に、ベストオブブリードでは自力で手を入れる必要が出てくるため、その分プロジェクト期間や費用が増大する可能性があります。連携用のミドルウェアやクラウドサービスを利用する場合でも、その利用料が新たにかかる点に留意が必要です。
問い合わせ窓口や契約が分散し、トラブル対応や支払い管理が煩雑化する
システムを複数導入すると、問い合わせや契約の窓口が分散するという問題も生じます。統合スイートであれば、何かトラブルが起きた際には一社に問い合わせれば済みますし、契約や支払いもその一社との間だけで管理できます。しかしベストオブブリード環境では、例えばCRMに関する質問はCRMベンダー、会計システムの不具合は会計ソフトベンダー、と問い合わせ先が分かれます。複数のサポート窓口とやり取りするのは時間と労力がかかり、問題が連携部分にある場合は「自社ではなく他社のシステムが原因」とたらい回しにされるリスクもあります。また、契約更新や支払い手続きもベンダーごとに別々に行う必要があり、管理部門の負担が増えます。複数の請求書を処理し、利用状況を個別にチェックして無駄がないか管理するなど、統合型にはない煩雑さが伴います。このように、サポート・契約の分散は見落としがちなデメリットですが、実務上は無視できない手間となるため、あらかじめ体制やルールを整えておくことが重要です。
複数ツール利用によるライセンス費用増加などコスト面のリスクがある
ベストオブブリードは必要なものだけ導入できる利点がある一方で、コスト面のリスクも考慮しなければなりません。複数の製品を個別に契約する場合、それぞれにライセンス費用やサブスクリプション料金が発生します。統合スイートならパッケージ価格で割安に提供されるケースでも、バラで契約すると合計額が高くつくことがあります。また、前述の連携開発費用や運用の人件費増も含めると、トータルコストでは一社にまとめた方が低くなる可能性もあります。さらに、各システムで利用ユーザー数やデータ量によって課金される場合、全てのシステムでそれぞれ費用がかかるため、全社横断の統合システムより割高になるケースも考えられます。もちろん、無駄な機能にお金を払わないというベストオブブリードの利点もあるので一概には言えませんが、コスト試算をしっかり行い、複数導入によるコスト増リスクを見極めておく必要があります。
異なるUI・操作の習得や社内サポートに手間がかかる点
ベストオブブリード環境では、ユーザー(従業員)が扱うシステムの種類が増えるため、操作方法の習得やサポートにも手間がかかります。統合システムであれば一度習熟すれば統一的な操作感で様々な機能を使えますが、複数システムではそれぞれUI(ユーザーインターフェース)や操作手順が異なります。例えば、経費申請はシステムA、人事情報閲覧はシステムB、顧客データ検索はシステムC、とログイン先も画面のデザインも異なるとなると、ユーザーは各システムの使い方を覚えるのに時間を要します。最悪の場合、使いにくさから利用が定着しないシステムが出てくる恐れもあります。また、社内ITサポート担当者も複数のツールについて問い合わせ対応する必要があり、教育やFAQ整備などサポート体制にも負担が増えます。このように、ユーザー視点で見た使い勝手の面でも、ベストオブブリードは注意すべき課題を孕んでいます。
ベストオブブリードとスイートとの違い:単一ベンダー統合型とのメリット・デメリット比較と適用シーンの違いを整理
ここまでベストオブブリードについて述べてきましたが、それでは従来型の単一ベンダーによる「スイート」戦略と比べて何がどう異なるのでしょうか。それぞれにメリット・デメリットがあり、向き不向きのシーンがあります。このセクションでは、ベストオブブリードとスイートの違いを整理し、どのような場合にどちらを選ぶべきか考察します。
スイート(統合型)戦略とは?単一ベンダー製品でシステムを統一する手法の概要
スイート(Suite)戦略とは、企業内の主要な業務システムをすべて同じベンダーが提供する統合製品で揃える手法です。例えば、ERPスイートを導入すれば会計・人事・生産管理・販売管理など複数の機能が一つの製品ファミリー内で提供されます。スイート型の最大の特徴は、システム間の連携が前提に設計されているため、導入後すぐに各機能がシームレスに連動しやすいことです。また契約やサポート窓口が一元化され、運用管理も統合的に行いやすい利点があります。言わば「オールインワン」のパッケージであり、ITシステムを包括的に整備したい企業に向いている方法です。ただし、スイート製品には自社では使わない機能も含まれがちで、それら不要機能にも費用を払うことになったり、自社の独自業務にフィットしない部分が生じたりするデメリットもあります。
メリットの比較:統合管理による運用効率化 vs 分野特化システムで機能最適化
ベストオブブリードとスイート、それぞれのメリットを比較してみましょう。まずスイートのメリットは、全て同一ベンダー製品で統一されていることから運用管理が容易である点です。ユーザーインターフェースやデータ構造も統一されているため、ユーザー教育もしやすく、システム同士の連携も標準機能でカバーされていることが多いです。また、ベンダーのサポート範囲が広いため、困ったときに一括して問い合わせできる安心感もあります。一方、ベストオブブリードのメリットは、何と言っても機能の最適化です。各業務領域に特化したシステムを組み合わせることで、全体としても各部分が高い能力を発揮します。スイートが広く平均点を取るアプローチだとすれば、ベストオブブリードは尖った能力を組み合わせて100点に近づけるアプローチと言えます。また、前述したように新技術を取り込みやすい柔軟性や、ベンダー依存を避けられる自由度もベストオブブリード側の優れた点です。
デメリットの比較:包括的なスイートにおける制約 vs マルチベンダー環境の複雑さと負担
次にデメリットの比較です。スイート型のデメリットは、包括的ゆえの制約があることです。一つのベンダーの製品群に乗り換える形になるため、自社の業務プロセスをシステムに合わせて変更せざるを得ない場合があります。特に独自の業務が多い企業では、スイート製品の標準機能では足りずカスタマイズが大量発生して結果的に複雑になることもあります。また、オールインワンゆえに必要のない機能まで抱き合わせで導入することになり、使わないモジュールにも保守費用等を払い続ける無駄が生じるケースもあります。さらに、一度全面導入すると別ベンダーに切り替えるハードルが高くなるため、ベンダーロックインのリスクも孕んでいます。一方、ベストオブブリードのデメリットはこれまで述べた通り複雑さと負担です。複数システムを統合運用する難しさ、契約やサポートが分散する煩雑さ、初期構築や連携保守にかかるコスト増など、多面的に考慮すべき課題があります。このように、スイートとベストオブブリードは一長一短であり、どちらが優れるとは一概には言えません。
選択のポイント:自社の目的・規模に応じたベストオブブリードとスイートの使い分け方
スイート型とベストオブブリード型、どちらを選ぶべきかは自社の目的や規模によって異なります。例えば、自社のITリソースが限られておりシステム運用をシンプルにしたい場合や、ベンダーから包括的なサポートを受けて安心感を得たい場合はスイート型が適しているでしょう。特に中小企業やIT専門部署の人員が少ない組織では、管理が容易なスイート型の方が現実的です。一方で、自社独自の業務プロセスが多く既存の統合製品ではカバーしきれない場合や、最新ツールを積極的に取り入れて競争力を高めたい場合はベストオブブリード型が有力な選択肢となります。大企業で部門ごとの要求が高度化・多様化しているケースでも、部門ごとにベストなソリューションを導入することで全体最適を図るやり方が有効でしょう。また、最近では初めは小規模にスイートを入れて基盤を整え、事業成長に伴い一部機能をベストオブブリード化して補強する、といったハイブリッド戦略も見られます。重要なのは自社の現状と目指す姿を踏まえ、両者の特徴を理解した上で最適なアプローチを採用することです。
ベストオブブリードの具体例:ERP・CRM・HRなど各分野で最適ツールを組み合わせた戦略の実践事例から学ぶ
実際にどのようにベストオブブリードが活用されているのか、具体的な例を見てみましょう。企業によって採用するツールの組み合わせは様々ですが、ここでは典型的なシナリオをいくつか紹介します。基幹業務システムでの活用例、社内コミュニケーション環境での併用例、そしてマーケティング領域での最適ツール統合例を取り上げます。
基幹系システムの例:ERPと周辺専門システムを組み合わせたベストオブブリード構築事例
ある製造業の企業では、全社的な基幹業務管理には大手ベンダーのERPを導入しつつ、各領域の専門システムを組み合わせるベストオブブリード型の構成を取っています。例えば、会計・財務はERP標準モジュールを活用する一方で、生産管理については業種特有の工程管理機能を持つ専用パッケージを別途導入しています。また、品質管理についてもERPには含まれない専門的な分析ツールを採用しています。これら周辺システムとERPはインターフェースを構築してデータをやり取りし、全体で整合性を保っています。このように、基本の土台としてERPの統合力を活かしつつ、不足する部分を最適ツールで補完することで、それぞれの利点を両取りする構成になっています。結果として、財務など共通業務は一元化されつつ、製造現場などの固有業務は専用システムで強化されるというバランスの取れたシステムを実現しています。
社内コミュニケーションの例:メール・チャット・会議ツールなど複数SaaSを併用した環境
社内IT環境においても、複数のSaaSツールを併用するケースは増えています。例えばオフィススイートとしてはMicrosoft 365やGoogle Workspaceを導入しつつ、チャットにはSlack、オンライン会議にはZoom、といったように用途に応じて複数のサービスを使い分ける企業が多く見られます。本来Microsoft 365にはTeamsというチャット・会議統合ツールが含まれますが、使い勝手や社内の慣習からSlack+Zoomという組み合わせを好む部門が存在する、といった具合です。このような場合、会社全体ではOffice系はMicrosoftのスイートに任せつつ、コミュニケーション手段はベストオブブリード的に他社サービスを採用するというハイブリッド型になります。実際、社内コラボレーションにおいて「特定分野で優れたSaaSを取り入れる」動きは一般的です。これにより、従業員はメールやドキュメントはお馴染みのツールで扱いながら、チャットはより機能豊富な専用ツールを使えるなど、各用途で快適なサービスを利用できています。ただし、情報共有が複数プラットフォームに分散するため、ポリシーや連携の取り決め(例えばカレンダー統合や通知の連携設定)を行い、ツール間の断絶を極力減らす工夫が重要です。
マーケティング領域の例:分析・広告・CRM等で最適なツールを統合活用するマーケティングスタック
マーケティング分野では、専門領域ごとに優れたクラウドサービスを組み合わせてマーケティングスタックを構築する手法が一般化しています。例えば、ウェブサイトやアプリのユーザー行動を解析するためにGoogle AnalyticsやAmplitudeなどの解析ツールを使い、顧客へのメール配信にはMailchimpや国産の配信サービス、広告出稿管理には各種DSP(デマンドサイドプラットフォーム)ツール、そしてCRMデータを統合するために顧客データプラットフォーム(CDP)を導入するといった形です。これら複数のマーケティングツール群をデータ連携させて一体的に運用し、全方位で最適化を図ります。例えば、小売業のある企業では店舗とオンラインの購買データを統合するためCDPを導入し、そのデータをもとにマーケティングオートメーションツールで個別のメール配信やアプリ通知を行っています。また別の分析ツールでキャンペーン効果を細かく測定し、結果をまたCDPにフィードバックして次の施策に活かす、といった循環を実現しています。このように、マーケティング領域では用途別に最適なクラウドサービスを組み合わせることで、統合スイートにはない高度なデータ活用と顧客体験の向上を果たしている例が多く見られます。
ベストオブブリードの選定ポイント:統合性・コスト・サポート体制など適切なツール選定のための重要事項を解説
では、実際にベストオブブリード戦略を導入する際、どのような点に注意してツールを選定すればよいのでしょうか。闇雲に「評判が良いから」と製品を寄せ集めても、統合がうまくいかなければ効果は出ません。以下では、ベストオブブリードを成功させるために事前に検討すべき重要ポイントを解説します。
業務要件の明確化と自社に適したソリューション選定の重要性
第一に、自社の業務要件を明確化し、それに適合するソリューションを選ぶことが肝心です。各部署が何を求めているのか、現在の課題は何かを洗い出し、それに応える機能を持つ製品を候補に挙げます。例えば、「営業プロセスを可視化して管理したい」「在庫をリアルタイムで把握したい」など具体的なニーズがあります。それらを満たすために、CRMなのか在庫管理システムなのか、どういった製品が必要かを決めます。次に、市場に存在する関連製品を調査し、機能や導入実績を比較検討します。この際、単に有名だからという理由ではなく自社業務にマッチするかを重視しましょう。自社に不要な機能が多すぎる製品や、逆に必要な機能が欠けている製品は適切ではありません。また、現場の意見を取り入れることも重要です。実際に使うユーザーの声を反映させることで、導入後の定着率も高まります。要件定義を丁寧に行い、自社にフィットするソリューションを見極めることが成功への第一歩です。
システム連携性・互換性の確認とデータ統合プランの策定
次に、候補となるツール同士の連携性や互換性を事前に確認しましょう。せっかく良いツールを選んでも、お互いデータを融通できなければ宝の持ち腐れです。各システムが外部と連携するためのAPIやインポート/エクスポート機能を備えているか調査します。標準で他の主要システムと連携するコネクタが提供されている製品もあります。そういった連携オプションがあるかをベンダーに問い合わせてみるのも良いでしょう。また、データ形式の互換性も重要です。例えば日付のフォーマットやコード体系など、小さな違いでも統合時には問題になります。さらに、導入前にデータ統合のプランを立てておくことも大切です。どのシステムをマスターデータの管理元にするか、リアルタイム連携が必要な箇所はどこか、データの整合性をどう保つか、といった設計を予め考慮して製品を選ぶと、後々の統合作業がスムーズになります。システム同士の相性を見極め、全体最適なデータフローを描いた上でツール選定を行いましょう。
導入・運用コストの把握と投資対効果(ROI)の検証
ベストオブブリード構成はその性質上、複数のシステムに費用が分散します。したがって各ツールの導入・運用コストをきちんと洗い出し、総額で無理のない範囲か検証する必要があります。ライセンス料・サブスクリプション料金はもちろん、初期導入費用(設定やデータ移行のコスト)、連携開発費、さらに毎年の保守・サポート費用など、漏れなく見積もります。複数システムゆえに見えづらいコストもあるため、担当者を決めてTCO(総所有コスト)を算出するくらいの慎重さが必要です。また、ただ費用を抑えるだけでなく投資対効果(ROI)の視点も重要です。各システム導入によって見込まれる効率化効果や売上増、コスト削減効果を定量的に試算し、それが投入するコストに見合うか評価します。例えば、新しい営業管理ツールで成約率が何%上がり売上に貢献する見込みか、在庫管理システム導入で在庫圧縮につながりどれだけコスト減になるか、などです。ROIがプラスになる見通しが立てば経営層の理解も得やすく、プロジェクトがスムーズに進むでしょう。
ベンダーの信頼性・サポート体制および将来性の評価
ベストオブブリードでは複数ベンダーと付き合うことになるため、それぞれのベンダーの信頼性やサポート体制も選定時の重要な判断材料です。製品の機能だけでなく、そのベンダーが安定したサービス提供を行っているか、問い合わせ対応は迅速か、技術的な情報提供は充実しているかといった点を確認しましょう。具体的には、他社での導入実績やユーザーレビューを調べたり、可能であれば試用期間中にサポート窓口への質問を投げて対応品質を見極めるとよいでしょう。また、ベンダー企業自体の将来性も考慮します。そのサービスが今後も継続的に開発・改良される見込みがあるか、企業財務が健全か、業界内での地位は安定しているかなどです。万一ベンダーがサービスを終了したり事業撤退した場合、代替手段を探すコストは大きくなります。複数のベンダーと関わるからこそ、一つひとつのベンダー選定に慎重になり、信頼できるパートナーと言える会社の製品を採用することが、長期的な成功につながります。
ユーザーの使いやすさ(UX)と十分な社内教育・サポート体制
最後に、導入するツールのユーザーエクスペリエンス(UX)と、社内での教育・サポート体制についても計画しておきましょう。どんなに機能が優れたシステムでも、現場のユーザーが使いこなせなければ宝の持ち腐れです。各製品のUIが直感的か、言語対応やヘルプが充実しているかなど、ユーザー視点での使いやすさを確認します。必要に応じてユーザビリティテストや他社事例のヒアリングを行うのも有効です。また、複数システムを導入する場合、社内で教育を計画的に実施しないと利用定着が進まない恐れがあります。各システムについてトレーニング資料を用意し、研修や勉強会を開催するなど、導入後しばらくは手厚くフォローする体制を整備しましょう。さらに、社内に「このシステムについて詳しい人」(スーパーユーザー)を育成しておくと、現場からの質問に素早く答えられ安心です。サポートデスクの設置やFAQサイトの整備も有効でしょう。ユーザーがスムーズに移行できるよう、ソフト面の準備も怠らないことが、ベストオブブリード導入成功の鍵となります。
ベストオブブリード導入の課題:システム連携・データ統合・社内教育など複数ツール導入時に直面する問題を解説
ベストオブブリード戦略を現実に適用する際、理論上のデメリットだけでなく具体的な課題にも直面します。ここでは、複数ツール導入プロジェクトでありがちな問題点を挙げ、それぞれの概要を説明します。技術面の課題から人的な問題まで幅広く認識し、事前に対策を講じることが大切です。
異なるシステム間でのデータ連携・変換に関する技術的な課題
複数システムをつなぐ際の最大のハードルは、やはりデータ連携と変換の技術的課題です。システムごとにデータ形式(例えば日付の表記方法やコード体系、項目名など)が異なる場合、それらをマッチングさせる変換処理が必要になります。場合によっては、中間データベースを用意して一旦データを集約してから各システムに配信するといった複雑な構成を取ることもあります。また、リアルタイム性をどこまで担保するかも悩みどころです。即時にデータ共有しないと支障が出る業務もあれば、1日1回のバッチ連携で十分なケースもあります。これを誤ると、例えば在庫データが販売システムとズレてしまい二重販売の原因になる等の不具合に繋がります。さらに、システム間で文字コードや通貨単位など基本的な仕様が異なる場合も注意が必要です。これら技術的課題をクリアするには、経験豊富なエンジニアの関与や十分なテスト期間の確保が求められます。
複数システムにまたがるセキュリティ管理と権限設定の難しさ
システムが増えるとセキュリティ管理も一筋縄ではいきません。例えばユーザー権限の設定ひとつ取っても、システムAでは部署単位のロール管理、システムBでは個人単位の権限付与、と仕様が異なると統一したアクセスコントロールが難しくなります。複数システム間でシングルサインオン(SSO)を実現し、ユーザーが一度の認証で各システムを使えるようにする仕組みを導入することも検討すべきでしょう。SSOやアイデンティティ管理のソリューション(IDaaSなど)を用いれば、多少管理は楽になりますが、それでも各システム固有の権限設定は別々に行う必要がある場合も多いです。また、監査対応などでログを確認する際にも、システムごとにログイン履歴や操作履歴を集めなければならず手間です。セキュリティポリシーを全システムで統一して適用することも困難な場合があります。以上のように、セキュリティ統制を複数環境でシームレスに維持するのは課題が多いため、専門家の助言を仰ぎながら堅牢性を確保する取り組みが必要です。
複数ツール利用によるユーザーの混乱と定着率向上への課題
システムが切り替わったり増えたりすると、現場のユーザーが混乱するケースも見られます。「この情報はどのシステムに入力すればいいのか」「どのツールで何ができるのかが分からない」といった戸惑いが生じるのです。特にUIや操作性の違いはユーザー体験に影響し、場合によっては新しいシステムの利用を敬遠して旧来の方法(Excelや紙など)に逆戻りしてしまう恐れもあります。こうした混乱を最小化するためには、導入時の周知徹底とトレーニングが欠かせません。どの業務をどのシステムで行うのかを明文化し、操作マニュアルを整備して、新しい環境への適応を促します。また、ユーザーからのフィードバックをこまめに収集し、現場で起きている困りごとを把握して対処することも大切です。最初の数ヶ月はヘルプデスクの体制を強化して質問に迅速に答えるなど、定着率を高めるためのサポートを積極的に行いましょう。現場の混乱を放置するとシステム定着率が低下し、せっかくのベストオブブリードも宝の持ち腐れになってしまいます。
ベンダーごとの契約管理・費用管理の煩雑さ
複数のベンダーとの取引が発生することで、契約や費用の管理も複雑になります。各製品ごとに契約書の内容(契約期間、サービスレベル合意=SLA、支払い条件等)を把握しておかなければなりません。更新タイミングも異なるため、年間を通じてどこかのシステムの契約更新手続きをしている状況にもなりかねません。また、見積や請求も別々に届くため、それらをとりまとめて予算消化状況を管理する必要があります。うっかり更新を忘れるとサービス停止のリスクもありますし、逆に不要になったのに自動更新で支払い続けていた、といったミスも起こりえます。費用管理の面でも、どの部門がどのシステムのコストを負担しているか明確にしておかないと、コスト配分が不透明になりがちです。こうした煩雑さを軽減するために、契約管理ツールを導入したり、一元的に管理する部署・担当者を決めておくと良いでしょう。定期的にコストレビュー会議を開き、全システムの費用対効果をチェックする仕組みを設けることも、コストの無駄を防ぐ上で有効です。
システムアップデートや変更時の影響範囲と調整負荷
複数のシステムを連携させている場合、それぞれのアップデートや変更の影響範囲にも注意が必要です。例えば、一つのシステムがバージョンアップしてAPI仕様が変わった場合、連携先のシステム側でもそれに合わせて修正が必要になることがあります。また、新しい機能を追加した際に他のシステムとのデータ項目の不整合が起きないか確認する必要も出てきます。こうした調整作業は、システム数が多いほど発生頻度が高まり、IT部門の負荷となります。さらに、もし別の製品へのリプレース(置き換え)を検討する場合、その一つの変更が全体に及ぼす影響を評価し、慎重にプロジェクトを進めねばなりません。特に基幹系の主要システムを入れ替える際には、周辺システムとのデータ連携を一から作り直す必要が出るかもしれません。このように、運用フェーズに入ってからも各システムの変更に伴う調整ごとが続く点は、ベストオブブリード環境ならではの課題です。変更管理のプロセスをしっかり定義し、事前テストや段階的リリースを行うなどリスク低減策を講じながら運用していくことが重要になります。
ベストオブブリード戦略の成功事例:大手企業のITシステム最適化に成功したマルチツール活用の実例を紹介
最後に、ベストオブブリード戦略を巧みに活用して成功を収めている事例を紹介します。海外・国内それぞれのケースを見て、どのようにこの戦略が成果につながったのかを確認しましょう。
海外の成功例:Walmartが最適ツール活用で顧客体験を向上させた事例
米国の小売大手Walmart(ウォルマート)は、デジタル分野でベストオブブリード戦略を取り入れ大きな成果を上げた企業の一つです。同社はECサイトやモバイルアプリを通じた顧客体験の向上を目標に掲げ、各機能領域で最適なクラウドソリューションを選択し組み合わせました。例えば、モバイルアプリ内のユーザー行動を詳細に分析するため、行動分析に特化したAmplitudeというツールを導入しました。Amplitudeはモバイル向けの高速なユーザ分析が得意で、Walmartではこのツールを活用してアプリ利用状況や購買行動データをリアルタイムで可視化し、顧客の動向を深く理解することに成功しました。また、従来別々だった食料品と一般商品のアプリを統合するプロジェクトにおいても、Amplitudeが提供する高性能な分析基盤がユーザーの反応を即座に捉えるのに役立ちました。さらに同社は、メールマーケティングやプッシュ通知、オンライン広告など各分野でも専門性の高い外部ツールを組み合わせてデジタルマーケティングのエコシステムを構築しています。これらの取り組みにより、ウォルマートは顧客一人ひとりのデータに基づき適切なタイミングで最適なアプローチを取れるようになり、オンラインと実店舗をまたいだシームレスな顧客体験を提供することに成功しました。ベストオブブリード戦略がグローバル企業のDX推進において威力を発揮した好例と言えるでしょう。
国内の成功例:複数SaaS導入でDXを推進し成果を上げた企業事例
日本国内でも、複数のクラウドサービスを活用してDX(デジタルトランスフォーメーション)を加速させている企業があります。例えば、ある大手製造業では、従来オンプレミスの統合基幹システムに頼っていたところを見直し、各機能ごとにクラウドSaaSを導入する方針に転換しました。具体的には、営業支援にはSalesforce(セールスフォース)を、経費精算にはConcur、社内チャットにはSlack、BIツールにはTableau、といった具合に世界的にも定評のあるサービスを選定し、それらを社内システムと連携させています。このプロジェクトでは各部門のキーパーソンが選定に参加し、自部門にとって使いやすいツールを納得して導入したこともあり、社員の利用定着率が非常に高くなりました。その結果、営業案件の可視化や経費処理の迅速化、情報共有の活性化など多方面で効果が現れ、業務効率と意思決定スピードが大幅に向上しました。また、IT部門にとっても、自前で大規模システムを開発・保守する負担が減り、各サービスの連携やデータ活用に注力できるようになったという副次的メリットも得られました。このように、国内企業においてもベストオブブリード型のSaaS活用がDX成功の鍵となったケースが増えており、一社完結にこだわらない柔軟な発想が成果につながることを示しています。