コンティンジェンシープランは、地震やシステム障害のような不測の事態が起きた直後に、被害をどこまで抑えるかを決めておく行動計画です。金融庁の「主要行等向けの総合的な監督指針」は、この語に「緊急時対応計画」という訳語を併記しています。事業を止めないためのBCPとは目的も時間軸も異なり、混同したまま作ると、緊急時に誰も開かない書類になります。
まとめ
先に結論を示します。
- コンティンジェンシープランの目的は発生直後の被害最小化で、重要業務の継続と早期復旧を担うBCPとは役割が違う
- 金融庁の監督指針は、策定にあたって客観的な水準が判定できるものを根拠にすることを求め、その例としてFISCの手引書を名指ししている
- そのFISC「金融機関等におけるコンティンジェンシープラン策定のための手引書」は第5版が最新で、2025年3月21日に公表された(PDF版1,200円)
- 第5版では、リスクの原因を起点とする従来の手順に加えて、リスクの結果を起点とする策定方法が追記された
- 記入シート形式のひな形は、中小企業庁が「中小企業BCP策定運用指針」の様式類として公開している
以下では、定義と別名の整理から、2つの策定アプローチ、公的ひな形の入手先、金融機関に課される具体的な水準までを順に見ていきます。
コンティンジェンシープランの定義と別名
コンティンジェンシープランとは、不測の事態が発生した直後に取るべき行動をあらかじめ定めた計画を指します。復旧そのものではなく、被害の拡大を止める初動に主眼があります。
コンチプラン・緊急時対応計画という別名と表記ゆれ
実務では「コンチプラン」と略されることが多く、日本語では「コンティンジェンシー計画」「緊急時対応計画」とも呼ばれます。金融庁の監督指針は「金融機関等におけるコンティンジェンシープラン(緊急時対応計画)策定のための手引書」という書名を引用しており、行政文書上の訳語は緊急時対応計画です。英語表記は contingency plan で、「コンテンジェンシープラン」「コンティジェンシープラン」といった表記ゆれも同じ計画を指します。
紛らわしいのが「コンティンジェンシー理論」で、こちらは有効なリーダーシップは状況によって変わるとする組織論の学説です。緊急時の計画とは別系統の概念のため、コンティンジェンシー理論とは何か?その定義と経営や組織運営における基本概念を基礎からわかりやすく解説で切り分けて解説しています。
想定する事象は自然災害に限らない
コンティンジェンシープランを災害対応の計画と捉えると、想定が狭くなります。金融庁の監督指針は着眼点として、次のように定めています。
「コンティンジェンシープランの策定に当たっては、災害による緊急事態を想定するだけではなく、金融機関の内部又は外部に起因するシステム障害等も想定しているか。また、バッチ処理が大幅に遅延した場合など、十分なリスクシナリオを想定しているか。」
バッチ処理の遅延という、事故とも呼びにくい事象まで名指しされている点が重要です。停電や地震だけを並べた計画は、この水準を満たしません。
BCP・リスクマネジメントとの違い
BCPとの違いは目的と時間軸
両者は対立するものではなく、担当する時間帯が違います。コンティンジェンシープランが火を消す計画なら、BCPは焼け跡で商売を再開する計画です。
| 観点 | コンティンジェンシープラン | BCP(事業継続計画) |
|---|---|---|
| 主な目的 | 被害の最小化 | 重要業務の継続と早期復旧 |
| 主な時間軸 | 発生直後の初動 | 目標復旧時間までの全期間 |
| 判断の起点 | 個別事象への即応手順 | 業務の優先順位付け |
| 代表的な公的文書 | FISC手引書(第5版) | 内閣府 事業継続ガイドライン(令和5年3月改定) |
BCP側の全体像と策定手順はBCP(事業継続計画)とは何か?企業存続のために事前に備えるべき計画の全体像とポイントを詳しく徹底解説にまとめています。
リスクマネジメント・DR対策との位置関係
リスクマネジメントは平時からリスクを洗い出して低減する継続的な活動で、発生前を担います。コンティンジェンシープランは発生後の初動、BCPは復旧までを担う関係です。システムやデータの復旧という技術面だけを切り出したものがDR対策(災害復旧)とは?定義・目的と企業への重要性で扱うDR対策にあたり、情報システム部門が担当する範囲は情報システム担当者が最初に押さえるべきIT-BCPの定義と通常BCPとの本質的な違いで整理しています。
策定手順の2つのアプローチ
手順書の類は「リスクを洗い出す」から始まる型がほとんどですが、FISCは第5版でもう1つの入口を追記しました。どちらを選ぶかで、計画の陳腐化しやすさが変わります。
リスク(原因)を起点に組む従来型
地震、火災、サイバー攻撃、感染症といった原因を列挙し、それぞれの被害を予測して対応手順を書く進め方です。手順は次の流れになります。
- 対象範囲と発動基準を決める
- 想定する原因を洗い出す
- 原因ごとの被害範囲と影響度を予測する
- 重要業務の優先順位と代替手段を定める
- 全社へ周知し、訓練で手順を検証する
原因が具体的なので手順を書きやすい一方、想定していない原因が現れるたびに計画が追いつかない弱点があります。
リスク(結果)を起点に組むオペレーショナル・レジリエンス型
FISCは第5版で、金融庁が2023年4月に公表した「オペレーショナル・レジリエンス確保に向けた基本的な考え方」を受け、リスクの原因によらず、リスクの結果の想定を起点とする策定方法を追記しました。「システムが止まる」「データが破損する」「拠点に人が集まれない」といった結果から逆算するため、原因が新種でも手順が使えます。
クラウド事業者の広域障害のように、数年前の想定表には存在しなかった原因が現実に業務を止めている以上、原因の列挙を増やし続ける運用には限界があります。新規に策定するなら結果起点を軸にし、原因起点は発動基準を具体化する補助として使うほうが、更新の負担も小さくなります。
結果シナリオ別に決めておく初動の例
結果起点で組む場合、1件のシナリオに対して決めるのは「誰が発動を判断し、何を止め、どの代替に切り替えるか」の3点です。
| 想定する結果 | 原因の例 | 発動基準 | 初動で切り替える先 |
|---|---|---|---|
| 基幹システムの停止 | 機器故障・広域クラウド障害 | 復旧見込み2時間超 | 手作業運用と受付停止の告知 |
| データの破損・暗号化 | ランサムウェア・操作誤り | 整合性エラーの検知 | 隔離とバックアップ世代の特定 |
| 拠点に人が集まれない | 地震・交通途絶・感染症 | 出社可能人数が基準未満 | 遠隔からの権限委譲と代替拠点 |
原因の欄が空欄でも発動基準と切り替え先が決まっていれば、初動は動きます。逆に原因を細かく書き込むほど、想定外の原因が来たときに誰も判断できなくなります。
公的なひな形とサンプルの入手先
白紙から書く必要はありません。日本語で入手できる公的文書は次の3つが中心です。
| 文書 | 発行 | 最新版 | 入手条件 |
|---|---|---|---|
| コンティンジェンシープラン策定のための手引書 | 金融情報システムセンター(FISC) | 第5版(2025年3月) | PDF版 1,200円 |
| 中小企業BCP策定運用指針の様式類 | 中小企業庁 | — | 同庁サイトで公開 |
| 事業継続ガイドライン | 内閣府 防災担当 | 令和5年3月改定 | 無料・PDF |
記入シートがそのまま欲しい場合は、中小企業庁の様式類が実務的です。同庁のダウンロードページで様式類(記入シート)が配布されており、埋めれば計画の骨格ができます。金融機関やその委託先であれば、監督指針が根拠として名指ししているFISCの手引書を先に押さえるべきです。公的ガイドラインの全体像と使い分けはBCP対策の全体像と国内公的ガイドラインが果たす位置づけ・実務上の活用条件で扱っています。
金融機関に求められる水準
金融庁の「主要行等向けの総合的な監督指針」は、システムリスクの評価項目としてコンティンジェンシープランに6つの着眼点を置いています。金融機関以外にとっても、監督当局が何を実効性の条件と見ているかを知る材料になります。
- プランが策定され、緊急時体制が構築されているか
- 客観的な水準が判定できるもの(例としてFISCの手引書)を根拠としているか
- 災害だけでなく内部・外部に起因するシステム障害等も想定しているか
- 他の金融機関の障害事例や中央防災会議等の検討結果を踏まえ、想定シナリオの見直しを適宜行っているか
- 訓練を全社レベルで行い、共同センター等の外部委託先等と合同で定期的に実施しているか
- 業務への影響が大きい重要なシステムに、オフサイトバックアップシステム等を事前に準備しているか
加えて、システム統合を行う場合は、統合後の構成と組織体制に基づいてプランを見直したうえで取締役会の承認を受けることが求められます。策定の主体が現場任せになっていないかを確認する項目です。
形骸化を招く3つの型と回避策
プランが機能しない原因は、内容の薄さよりも運用の欠落にあります。よく見かける型は3つです。
1つ目は、原因の網羅を目指して表を膨らませる型です。想定表の行数は増えても、新種の事象には対応できません。結果起点へ切り替え、発動基準と初動の指揮系統を具体化するほうが実効性は上がります。
2つ目は、訓練を自社内だけで完結させる型です。監督指針が外部委託先等との合同実施を明記しているとおり、システム運用を委託していれば、委託先が動かない限り初動は成立しません。自社だけで通った訓練は、本番の連絡経路を検証できていないことになります。
3つ目は、策定した時点で完了とする型です。監督指針は、他の金融機関の障害事例や中央防災会議等の検討結果を踏まえて想定シナリオの見直しを適宜行っているかを着眼点に挙げています。作ってあること自体には価値がなく、委託先を巻き込んだ訓練と他社事例による更新が伴わなければ、緊急時に開かれないまま終わります。
よくある質問
コンティンジェンシープランは別名で何といいますか?
実務では「コンチプラン」と略されます。日本語では「コンティンジェンシー計画」、行政文書では「緊急時対応計画」という訳語が使われ、金融庁の監督指針もこの訳語を併記しています。
BCPがあればコンティンジェンシープランは不要ですか?
不要にはなりません。BCPは重要業務を目標復旧時間内に再開させる計画で、発生直後に被害を止める初動の手順までは細かく定めないのが一般的です。両方を持ち、発動基準で接続させる形が実務的です。
ひな形やサンプルは無料で入手できますか?
中小企業庁が「中小企業BCP策定運用指針」の様式類を記入シートとして公開しており、同庁のダウンロードページから入手できます。金融機関向けに水準を満たしたい場合は、FISCの手引書第5版がPDF版1,200円で提供されています。
コンティンジェンシー理論とは関係がありますか?
直接の関係はありません。コンティンジェンシー理論は、有効なリーダーシップや組織構造は状況によって変わるとする経営学の学説で、緊急時の行動計画とは別の概念です。
想定すべきなのは自然災害だけですか?
違います。金融庁の監督指針は、災害による緊急事態に加えて内部または外部に起因するシステム障害等を想定することを求め、バッチ処理が大幅に遅延した場合を例示しています。