噴水効果とは何か?マーケティング担当者が知っておきたい店舗設計の心理効果を徹底解説

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噴水効果とは何か?マーケティング担当者が知っておきたい店舗設計の心理効果を徹底解説
噴水効果(ファウンテン効果)とは、小売店舗において店頭や入口付近に顧客を強く引きつける要素を配置し、そこから“噴水”の水が上昇するように店内奥や上層階へと顧客動線を誘導する心理的マーケティング手法を指します。デパートで地下の食品売場や1階の化粧品売場を充実させて来店客を惹きつけ、「せっかく来たから他のフロアも見てみよう」という心理を誘発するのが典型例です。これにより、顧客は予定になかった売場にも足を運び、“ついで買い”による売上増加が期待できます。噴水効果はデパートやショッピングモールで広く使われている手法であり、集客力の高いテナントや魅力的な商品を入口付近に配置することで店舗全体の回遊を促すものです。言い換えれば、最初に顧客が喜ぶ情報や体験を提供し、さらなる行動を引き出す心理効果とも説明できます。まずは噴水効果の具体的な事例から、そのメリットや狙いを見ていきましょう。
噴水効果の具体例:デパートやショッピングモールでの活用事例
実際に噴水効果は様々な商業施設で活用されています。以下にデパートやショッピングモールなどでの具体例を紹介し、売上拡大につながるヒントを探ります(※他業態の例も含めています)。
デパートの事例
都市部の百貨店では、地下の食品フロア(いわゆる「デパ地下」)や1階の化粧品・アクセサリー売場に特に力を入れています。これらは主なターゲットである大人の女性客にとって魅力的なゾーンであり、入口から入ってすぐ目に留まる配置です。例えば、美味しそうなスイーツの香り漂う食品コーナーや、華やかな有名ブランドのコスメカウンターが目に入ると、「他にも素敵な商品があるかも」という期待感が生まれ、顧客は上階のフロアにも足を延ばすようになります。このように入口近くの強力な“つかみ”によって店内全体へ誘導し、結果として各フロアの売上向上につなげています。
ショッピングモールの事例
大型モールでも噴水効果の考え方が活かされています。多くのモールでは1階にスーパーやレストランなど家族連れの日常目的となる店舗を配置し、上層階に映画館やフードコート、キッズ遊戯施設などを置く構造になっています。これはメインターゲットであるファミリー層が「まずは食料品の買い出しや食事をしに来て、せっかく来たから他の階も見てみよう」と思う心理を狙ったものです。実際、1階で生活必需品を済ませた後、「上に映画館もあるしついでに遊んで行こう」という流れで上階へ誘導し、帰りにまた1階を通る動線上で追加の買い物を促しています。さらに、上層階の駐車場から下のフロアへ降りる導線を作ることで、来店客にモール全体を回遊させ各テナントへの立ち寄り率を高めている場合もあります。
コンビニエンスストアの事例
噴水効果は平屋(一階建て)構造の店舗でも応用されています。典型例として、多くのコンビニでは入口付近に雑誌コーナーが配置されています。雑誌はつい手に取りたくなる商材であるため、店に入った客の歩みを店内奥へと誘導するきっかけになります。また、店頭で雑誌を立ち読みする人の姿が外から見えることで「入りやすい雰囲気」を演出し、新規客を店内に引き込む効果もあります。さらに、奥の壁際に飲料やお弁当など主要商品を置くレイアウトもよく見られます。これも、お目当ての商品を買うついでに通路沿いの他商品が目に入り、追加購入につながりやすくするシャワー効果との組み合わせ戦略です(※シャワー効果については後述)。コンビニのレジ横にガムやチョコなど小物が並んでいて、会計待ちの間につい手に取ってしまう仕掛けも、顧客動線上で衝動買いを誘発する工夫と言えるでしょう。
テーマパークの事例(ディズニーランド)
噴水効果は商業施設以外でも顧客心理誘導に活用されています。例えば東京ディズニーランドでは、入園ゲートを入ってすぐの所にお土産ショップ(ギフトショップ)を配置しています。来園直後に目に入る場所にショップを置いておくことで、遊んだ帰り際に再びその店の存在が視界に入り「思わずお土産を買って帰りたくなる」心理を狙ったものです。このように最初に顧客に購入意欲を湧かせる演出をしておき、最後に実際の購買行動につなげる工夫も噴水効果の一種と言えます。
これらの事例から分かるように、噴水効果を上手に使うポイントは「入口や下層階にターゲットが魅力を感じるコンテンツを配置し、来店ハードルを下げた上で店内全体を回遊させる」ことにあります。デパートなら主力顧客に合わせたコーナー設定、モールなら来訪目的を満たすテナント配置、コンビニなら外からの視認性を高める工夫など、それぞれの業態に合わせた実践ヒントが得られるでしょう。
売上アップにつながる噴水効果の仕組み:ついで買いを促す顧客導線の効果
噴水効果が店舗全体の売上向上に貢献する仕組みは、顧客導線のデザインによって「予定になかった購買」を引き出すところにあります。入口で興味を惹かれた顧客は「他にも何か良い物があるかも」と期待して店内を巡回します。その過程で本来買う予定ではなかった商品やサービスにも触れ、結果的についで買い(クロスセル)の機会が増えるのです。事実、デパート業態では顧客にできるだけ“買い回り”してもらう(複数の売場を回ってもらう)ことが生命線とまで言われます。噴水効果によって意図的に下層から上層へ人の流れを作り出せれば、各フロア・各テナントの商品露出が増え、店舗全体としての売上アップにつなげることができます。
心理学的に見ると、人間は店内で過ごす時間が長いほど購買意欲が増す傾向があるとされています。店舗側は顧客の滞在時間と回遊範囲を伸ばすために導線設計を工夫し、例えばあえてトイレを奥まった場所に配置することで店内を歩かせるような戦略も取ります。少し遠くまで歩くうちに「せっかくだから2階も見てみようか」という気分になったり、目についた商品をつい手に取ってしまったりと、顧客の行動範囲拡大が衝動買いを誘発する効果があるのです。噴水効果はまさにこの原理を狙ったもので、入口での最初の一押しによって顧客を店内深くまで誘導し、結果として一人当たり購買点数や客単価の増加を図ります。
また、噴水効果で集まった顧客は店全体を回遊するため、従来は埋もれていた商品との新たな出会いが生まれる点も見逃せません。例えば普段は地下食品売場に来ない客層が、食品の香りに誘われて地下に立ち寄れば、新商品を知るきっかけとなります。同様にコスメ目当てで来店した顧客が上層のファッションフロアで思わぬ掘り出し物を見つけるケースもあるでしょう。こうした顧客と商品の偶発的な出会いを増やせること自体が、売上アップに寄与する重要な仕組みなのです。
要するに噴水効果は、「入口で関心を掴み→店内を巡回させ→想定外の購買を生む」という一連の流れをデザインすることで、店舗全体の売上増を実現する戦略と言えます。この流れがうまく機能すれば、顧客一人ひとりから引き出せる売上の最大化が期待できるでしょう。
行動心理と噴水効果の関係:顧客の感情変化が購買に与える影響
噴水効果の背景には、顧客の感情をポジティブに揺さぶり購買意欲へと転換する行動心理の応用があります。入口での演出や接客によって「この店は良さそうだ」「なんだか気分がいい」と顧客に感じさせることができれば、そのポジティブな感情の波紋が購買行動に波及しやすくなるのです。例えば、店舗に足を踏み入れた瞬間に
- 心地よい音楽が流れている
- スタッフが明るい笑顔で迎えてくれる
- 洗練された内装やディスプレイが目に飛び込んでくる
- いらっしゃいませ。ごゆっくりどうぞ」といった何気ない気遣いの声掛けがある
といった演出があると、来店客の心の中に「歓迎されている」「ここは居心地が良い」といったポジティブな感情が芽生えます。この顧客の「心を動かす」スイッチを押すことこそが噴水効果の出発点です。いったん良い気分になると、その感情はまるで噴水の水が高く吹き上がって外側へ波紋を広げるように、後続の行動(商品の購入や追加注文)へ次々と波及していきます。最初は買うつもりのなかった人でさえ、「せっかくだから買っていこうかな」という気持ちになり、財布の紐が緩むことも珍しくありません。
この現象は行動経済学でいう「感情ヒューリスティック」(感情に基づいて判断が左右される心理)や「フレーミング効果」(情報の提示のされ方で意思決定が変わる効果)によって説明できます。簡単に言えば、人は理屈よりもまず感情によって動かされるということです。噴水効果はまさにその人間の特性を突いたマーケティング手法であり、合理的な数値訴求だけでは得られない購買行動を引き出す点に大きな意義があります。入口で得た好印象がその後の店内体験全体にハロー効果(後光効果)を及ぼし、「この店は良いお店だ」という先入観のもとで商品を見るようになるため、結果的に購買への心理的ハードルが下がる面もあるでしょう。
さらに、こうしたポジティブな感情効果は当日の購買行動だけでなく顧客の将来的なロイヤルティにもつながります。例えば、とあるカフェでは店主が常連客の名前や好みを覚えていて、来店すると何も言わずとも「いつものコーヒー」を出してくれるそうです。この心配りに顧客は「自分が特別扱いされている」と感じ、店舗への愛着が深まります。そしてその満足感は再来店やSNSでの好意的な口コミ、新規客の紹介へと連鎖していきました。これも噴水効果が現場レベルで発動した好例と言えます。つまり、顧客の心を動かす小さな工夫の積み重ねが水滴からやがて大きな噴水となって広がるように、売上や評判の向上につながっていくのです。
このように心理学的視点から見ると、噴水効果とは「顧客のポジティブ感情の連鎖反応を引き起こし、購買行動を誘発する現象」と定義できます。マーケターは店舗設計や接客オペレーションの中にこの感情面へのアプローチを組み込み、顧客の心を掴む戦略を展開することが重要です。それがひいては一度の来店での売上増だけでなく、長期的なファンづくりにも貢献するでしょう。
集客力を高める噴水効果の活用法:入口演出からイベント活用まで
噴水効果を実践するにあたって、店舗への集客力を最大化するための具体的な施策にも触れておきます。鍵となるのは、来店前~来店直後の顧客の心を掴む工夫(入口での演出)と、来店後にさらなる興味を喚起し回遊を促す工夫(イベントや仕掛けの活用)です。
入口での演出
店頭・入口は文字通り“お店の顔”であり、噴水効果の成否を握る重要ポイントです。ここでは「一人でも気軽に入りやすい雰囲気」を作ることが求められます。具体的には、明るく開放的なエントランスにしたり(大型家電量販店が入口を広く取っているのはそのためで、店内の賑わいを歩行者に伝えやすくしています)、ガラス張りやオープンディスプレイで外から店内の様子が見える設計にするなど、「ちょっと入ってみようかな」と思わせる工夫が有効です。また、季節感のある華やかなウインドウディスプレイや目玉商品の陳列で足を止めさせる、良い香りや音楽で五感に訴える、スタッフが笑顔で呼び込みや試飲・試食を提供する、といった演出も入口での滞留と誘導に効果的です。重要なのは、ターゲット顧客が思わず引き寄せられる“フック”を入口に用意することです。例えば子連れ家族が多い立地では入口付近にキャラクターショーや風船配布を、オフィス街の書店なら話題の新刊コーナーを入口横に置く、といった具合に、最初の接点で関心を喚起し来店ハードルを下げましょう。
店内イベントの活用
噴水効果をさらに高めるには、店内各所で顧客の興味を繋ぎとめる仕掛けを用意することも有効です。例として、デパートでは定期的に物産展や期間限定ショップを上層階の特設会場で開催し、新たな話題性で来店客を惹きつけつつ、上階までの誘導に成功しています(これはシャワー効果の側面もありますが、結果的に全館回遊を促進しています)。またショッピングモールでは、週末に吹き抜けのイベント広場でミニコンサートやキャラクターショーを行い、家族連れの集客を図る光景が見られます。これもまず1階中央に人を集めてから各フロアへ散ってもらうという点で噴水効果的です。さらに各テナント個別でも、来店特典やスタンプラリーなど小さなイベントを企画し、「せっかくだから全部回って特典をもらおう」とお客様に思わせるのも手です。ポイントは、来店客に常に次の目的や楽しみを提供し続けることで、店内滞在時間と回遊範囲を自然に引き延ばすことです。入口で掴んだ興味の糸を途中で切らさないよう、階ごと・区画ごとにミニ“噴水”を配置するイメージでイベントやキャンペーンを配置しましょう。例えばファッションフロアでノベルティプレゼント企画をしつつ、上階のレストラン街ではフェアメニューを打ち出す、といったように各段階で新たな誘因を用意することが大切です。
このように、噴水効果を最大限に活用するには入口から店内奥まで一貫した演出プランを練る必要があります。入口で人を呼び込み、店内各所のイベントや目玉企画で興味をつないで最終的な購買につなげる——その一連の流れをデザインすることで、初来店のハードル低減(集客)と滞在・回遊促進(購買拡大)の両面で相乗効果を発揮できるでしょう。
他のマーケティング効果との比較:シャワー効果・波及効果との違い
噴水効果は「波及三原則」と呼ばれるマーケティング手法の一つであり、他にシャワー効果と散水効果(波及効果)があります。いずれも顧客の動線を操作して購買を促進する点で共通していますが、誘導する方向や範囲に違いがあります。それぞれの特徴を簡単に整理しましょう。
噴水効果
前述の通り「下層階(入口付近)から上層階へ」と人の流れを作る手法です。入口や地下に強力な集客コンテンツを置き、下から上への上昇志向の動線をデザインします。デパート地下の食品や1階のブランドショップで客をつかみ、上階まで買い回りさせる戦略が典型例です。噴水の水が下から吹き上がるイメージで、人の流れをボトムアップで活性化させます。
シャワー効果
噴水効果と逆に「上層階から下層階へ」人を誘導する手法です。あたかもシャワーの水が上から下に降り注ぐように、上階に集客力のある施設を設けて来店客を引き込み、その帰り道で下の階にも立ち寄らせることを狙います。例えばデパートの最上階で有名店の物産展やレストランを開催し、その目的で来た客が1階へ降りる途中で他の売場を見て回る——これがシャワー効果の典型パターンです。上階まで一度お客様に上がってもらえれば「ついでに下の階も見ていこうかな」という心理が働き、トップダウンでの購買拡大が期待できます。
散水効果(波及効果)
「同じフロア内」でお客様を横方向に伝播させる手法です。上下ではなくフロア内の回遊を促進するもので、いわば芝生に水をまくスプリンクラーのように効果を広げます。具体的には、あるフロア内の一店舗でセールやイベントを行い人だかりを作ると、その周辺の店舗にもおこぼれ的に客が流れていく現象などが該当します。ショッピングセンターで一つのテナントに人気ショップを誘致すると、そのフロア全体の来訪者が増える、といった波及効果がこれにあたります。散水効果は単一階層内での横展開戦略とも言え、フロア内の集客スポットを起点に顧客を周囲へ波及させる狙いがあります。
以上のように、噴水効果・シャワー効果・散水効果はそれぞれ下から上へ、上から下へ、同じ階へという異なる方向で人の流れを生み出す施策です。いずれも「顧客を回遊させてついで購入を誘発する」点では共通していますが、適用シーンと手段が異なります。なお、この三者は同時併用することで相乗効果を発揮することが知られています。実際、多くの大型商業施設では噴水効果とシャワー効果をセットで仕掛けています。まず入口近くの魅力で引き込み(噴水)、次に上階の目玉で頂点まで誘導し(シャワー)、最後に出口へ戻る途中で全フロアに立ち寄らせるという一連の流れを作ることで、一回の来店で館内隅々まで巡回してもらうわけです。このようにコンビネーションで活用すれば、一つの施策単独よりも高い売上効果が見込めます。一方、散水効果は単体でも機能しますが、噴水・シャワーいずれかと組み合わせて「上下+同一階」の両面から回遊性を高めるのが理想です。噴水効果の独自性は、とりわけ「来店の入り口部分での第一印象づくり」にフォーカスしている点にあります。他の効果と比べてもまず顧客に店に入ってもらう段階を重視しているため、新規顧客の取り込みや来店誘因作りに特に有効と言えるでしょう。その後の購買拡大策としてシャワー効果・散水効果と連動させることで、より強力なマーケティング施策となります。
噴水効果を活かした店舗デザインのコツ:顧客導線を意識した売場レイアウトと演出の工夫
噴水効果を最大限発揮するためには、店舗デザインの段階から顧客導線を意識したレイアウト設計を行うことが重要です。ここでは、店づくりにおける具体的な工夫ポイントをいくつか挙げてみます。
顧客導線の明確化と誘導
店舗内の通路配置やエスカレーター・エレベーターの位置は、顧客の動きを左右する大事な要素です。店内を見渡した時に自然と奥や上階へ進みたくなる導線を作りましょう。例えばエスカレーターを入口から離れた場所に配置し、その途中に各売場を巡回させる導線にするのは有効な手法です。大型店ではフロアごとにエスカレーターの位置を交互にずらすことでフロア全体を歩かせる設計も見られます。要は、お客様が無意識のうちに店内の奥深くまで進んでしまうような“動線の罠”を仕掛けることがポイントです。また、「▲▲コーナーはこちら→(○階)」といった案内サインやポスターで上階への好奇心を刺激するのも効果的です。導線上に興味を引く写真や宣伝文句を掲示し、「上の階ではこんなイベント開催中!」などと訴求すれば、足を向けてもらいやすくなるでしょう。
売場レイアウトと商品の配置工夫
各フロア・各コーナーに少なくとも一つは“目玉”を配置し、どの場所に行っても興味を持てるような布陣を意識します。例えば、ある階には人気キャラクターショップ、別の階には限定スイーツショップというように、フロアごとに異なる集客コンテンツを散りばめて配置するイメージです(これをベルディア社のブログでは「宝石の散りばめ型配置」と表現しています)。一方で、関連性の高い商品群はクラスター(集積)配置して回遊効率を上げるなど、単にばら撒くだけでなく集中と分散のバランスも重要です。また、来店客が思わず立ち止まるフォーカルポイント(視線の焦点)を各所に設けましょう。シーズンごとのテーマ展示やライブ実演コーナー、デジタルサイネージによる演出など、歩いていて次々に新しい刺激が得られる空間演出が顧客の探求心をくすぐります。もし偶然立ち寄ったフロアに何の魅力も感じられなければ、その場を足早に立ち去られ他の階へ移動されてしまいますが、配置と演出の工夫次第で「もう少し見てみよう」という気持ちを引き出すことが可能です。
滞在を快適にする環境づくり
店内を奥まで回ってもらうには、居心地の良い環境を整えることも大切です。適切な空調・照明はもちろん、長時間歩き回っても疲れにくい導線設計を意識します。例えば休憩スペースやベンチを館内奥や上層階に配置すれば、そこを目指して歩いてもらう過程で売場を閲覧してもらえますし、一息ついた後でもう一巡りしようという余裕が生まれます。トイレやインフォメーションをあえて奥まった位置に置くのも、先述のように多少の手間が逆に回遊を促す場合があります。ただし顧客にストレスを与えない程度の配置バランスが必要です。BGMや香りといった環境演出も、各フロアで雰囲気を変えてメリハリを付けることで「せっかくだから他も見てみよう」と感じさせる工夫になります。常に店内が単調にならず変化に富む体験を提供できれば、結果的に顧客を最後まで飽きさせず回遊させることができるでしょう。
定期的な刷新とPDCA
店舗デザインやレイアウトは一度作って終わりではなく、定期的な見直しと改善が欠かせません。顧客の動線データや売上分析から「立ち寄られない死角」「滞留しがちな動線上の渋滞箇所」などを把握し、レイアウト変更や演出追加によって解消していきます。噴水効果を高めるために入口付近のテコ入れ(例:季節ごとのディスプレイ変更)を行ったり、逆に効きすぎて入口だけ混雑してしまう場合は誘導スタッフを配置するなど、状況に応じた調整も必要でしょう。常に顧客目線で店内を観察し、「もっと奥まで見て回りたくなる仕掛けになっているか?」を問い続ける姿勢が、噴水効果を持続・強化するコツです。
以上のようなポイントを押さえて店舗デザインを行えば、顧客が無理なく店内を巡回し、自然と購買機会が増える“勝手に売上が伸びる”売場を作り上げることができます。噴水効果の考え方をベースに、顧客導線に沿ったレイアウト・演出の工夫を凝らすことで、どんな店舗でも回遊性と滞在時間を高める余地があるでしょう。
噴水効果のメリット・デメリット:メリットを最大化しデメリットを最小化するポイント
最後に、噴水効果を導入することによるメリット(利点)とデメリット(留意点)を整理し、その効果を最大限に活かしつつ副作用を最小限に抑えるためのポイントについて解説します。
噴水効果のメリット
売上・客単価の向上
顧客一人当たりが閲覧する商品点数を増やし、ついで買い・クロスセルを誘発できるため、結果として客単価や総売上の向上が期待できます。店舗全体の商品回転率が上がり、特定テナント・フロアに偏らないバランスの良い売上拡大につながります。
客数・回遊率の増加
入口施策によって新規顧客の来店ハードルを下げ、集客力を高める効果があります。「ちょっと見てみよう」というライトな動機でもまず入店させることで、機会損失を減らせます。また、一度来店したお客様を館内全域に回遊させるため、各フロアの来訪者数が底上げされます。普段人が少ない売場にも足を運んでもらえるため、フロア間の客数格差是正にも寄与します。
商品の露出増加と在庫消化
店内隅々まで見てもらえることで、特定の商品ばかりが売れる偏りを緩和できます。今まで埋もれていた商品や新商品にも目が留まりやすくなり、在庫の滞留リスク軽減や販売機会の創出につながります。これは特に大型店にとって重要で、「買い回り需要」を喚起できなくなると存在意義が薄れるとも言われるほどです。噴水効果はこの買い回り需要を創出する有効策です。
顧客満足度・エンゲージメント向上
店内で常に新しい発見や驚きがある状態を作れるため、顧客にとって楽しいショッピング体験を提供できます。結果として「また来たい」「友人にも勧めたい」という満足度向上やロイヤルティ醸成にもつながります。実際、噴水効果で顧客の感情を動かすことができれば口コミで新規客が増える好循環も期待できます。
噴水効果のデメリット・留意点
施策実現にコストやリソースが必要
入口を飾る有力テナントの誘致やイベント開催にはコストがかかります。また常に魅力ある店頭演出を維持するため、人員配置やディスプレイ刷新など手間や投資が必要です。例えば人気ブランドを1階に呼ぶ場合、高いテナント料設定や誘致交渉が必要になるかもしれません。その分の投資対効果を慎重に見極める必要があります。
目玉が固定化すると効果減退
いつも同じ入口コンテンツだと常連客には新鮮味が薄れ、次第に噴水効果が薄まる恐れがあります。顧客は「どうせいつもと同じ」と感じてしまい、新たな回遊動機を与えられなくなります。したがって定期的に目玉企画を入れ替え、常にフレッシュな驚きを提供する工夫が必要です。
一部顧客には通用しにくい
現代の消費者は目的買い志向が強まり、必要なものだけをピンポイントで購入してさっと帰るケースも増えています。そうした顧客には噴水効果で動線を伸ばそうとしても思ったように回遊してもらえない可能性があります。また、店舗によっては明確な主力ターゲット層が存在し、入口施策が他の客層には刺さらないことも考えられます(例:女性向け売場強化により男性客が入りづらくなる等)。あまりに特定層に偏った仕掛けは場合によっては逆効果となる点に留意が必要です。
他施策とのバランス調整
噴水効果に頼りすぎると、入口ばかり人が集中し奥が手薄になる、上階のシャワー効果施策と競合する、といったバランスの問題も起こりえます。例えば入口イベントが盛況すぎて館内動線が渋滞し、かえって顧客体験を損なうケースもありえます。全体を見渡したオペレーション管理や、シャワー効果・散水効果との兼ね合いを考慮した総合的な計画が求められます。
メリットを最大化・デメリットを最小化するポイント
上記を踏まえ、噴水効果の恩恵を最大限得つつ副作用を抑えるには以下のような点を意識しましょう。
他施策との組み合わせ
噴水効果“任せ”にするのではなく、シャワー効果や散水効果と組み合わせて全方位から回遊性を高めることが重要です。入口施策+上階施策の両輪で誘導すれば1回の来店で全館を回ってもらいやすくなり、片方のみより高い効果が見込めます。また、オンライン施策(SNSで入口の目玉を告知し来店動機を創出、など)とも連動させて相乗効果を狙いましょう。
コンテンツ企画への注力
定期的な目玉演出の刷新は欠かせません。「最近マンネリ化してきたな」と感じたら、新規ブランドの期間限定ショップを誘致したり季節イベントを企画するなどしてテコ入れしましょう。噴水効果・シャワー効果は以前より効き目が薄れてきているとも指摘されていますが、その場合はコンテンツや企画に一層力を入れて購買につなげる工夫が必要です。値下げやポイント還元以外にも、体験価値や限定感で顧客の心を動かす仕掛けを考えてみてください。
顧客目線での最適化
定期的に店舗を歩き回り、顧客の動きやすさ・興味の流れをチェックしましょう。意図した導線どおりにお客様が動いているか、滞留やスルーされている場所はないかを現場目線で検証します。場合によっては入口施策で引き込んだ後に顧客が興味を失っていないか(途中で疲れて帰っていないか)を確認し、問題があれば売場配置や演出を改善します。常にPDCAを回しつつ細かな改善を積み重ねることで、噴水効果のメリットをフルに発揮できる環境を維持できます。
顧客への提供価値を忘れない
最後に大前提として、噴水効果はあくまで顧客に新しい出会いや喜びを提供する手段であることを意識しましょう。単に店側の都合で回遊させようと動線を強要すると、かえって顧客に不便さや押し付けがましさを感じさせてしまいます。そうではなく、「色々見て回れて楽しかった」「つい予定外だけど良い買い物ができた」と思ってもらえる体験設計を目指すことが重要です。顧客満足度を伴った上でメリットを享受できるのが理想であり、そのためには商品の品質やサービス対応など基礎的な部分の充実も不可欠です。入口が魅力的でも実際の商品が期待外れでは台無しですから、店全体の価値向上と並行して噴水効果を狙う姿勢がデメリット低減のポイントと言えます。