ダブルファネルとは?7ステージの定義とKPI、図の誤り
ダブルファネルは、購入までを描くパーチェスファネルと、購入後の継続・紹介・発信を描くインフルエンスファネルをつないだモデルです。ただし、よく見かける「下半分が広がる砂時計の図」は、人数の図として読むと成立しません。ここでは原典の書籍にさかのぼって定義を確認し、7ステージごとのKPI、図が誤読される理由、そしてこのモデルが噛み合わない商材の条件まで整理します。
まとめ
- 構造:上半分がパーチェスファネル(認知・興味・意思決定・購入)、下半分がインフルエンスファネル(継続・紹介・発信)の計7ステージ。原典が示すのは「2つのファネルを合体させる」という構造です。
- 原典:書籍『ダブルファネルマーケティング』(リックテレコム、2012年10月)はプロモーション・アクイジション・リテンション・インフルエンスの4フェーズを施策単位の区分として置いており、7ステージ図とは階層が違います。
- 図の注意:人数で描くなら下半分は広がりません。広がってよいのは、紹介や推奨によって新しい人数が実際に入ってくることを描く場合だけです。一人あたり売上の増加を描きたいなら、同じ図に重ねず分けます。
- KPIの置き方:上半分は次段階への到達率(歩留まり)、下半分は継続率・紹介経由CV数・NPS・UGC投稿数など一人あたりの伸びで測ります。上下を同じ物差しで並べないことが要点です。
- 向かない条件:紹介経路を判別する仕組みがない、単発購買でリピートが起きない、口コミ促進が法令で制限される。この3つのいずれかに当てはまるなら、下半分は数字が埋まりません。
ダブルファネルの構造と、砂時計に見える理由
ダブルファネルは、2つの独立したファネルを接続したモデルです。上半分は、多くの見込み客が認知から購入へ進むにつれて絞り込まれていく逆三角形。下半分は、購入した顧客が継続・紹介・発信へと影響を広げていく三角形です。購入というくびれを挟んで上下が向き合うため、全体が砂時計に見えます。なお「砂時計」は解説記事側で定着した言い回しで、原典の書籍には出てこない語です。英語圏では同じ発想を左右に並べて bow tie funnel(蝶ネクタイ型)と呼びます。B2B向けの Winning by Design(創業者 Jacco van der Kooij)が提唱する Bowtie モデルは、従来のマーケティング・セールスファネルを拡張してSaaSのリカーリングレベニュー型の顧客ジャーニーを表すデータモデル、と説明されています。
パーチェスファネル単体との違いは、購入をゴールとして扱わない点にあります。パーチェスファネルは購入で図が終わるため、購入後の顧客が次の見込み客を連れてくる動きが視野に入りません。マーケティングファネル全体の型と使い分けはマーケティングファネルとは?4つの型と使い分け・指標の置き方で整理しています。
パーチェスファネル側の4段階
上半分は認知、興味、意思決定(比較・検討)、購入の4段階です。認知段階では指名検索や広告リーチで母数を作り、興味段階では資料や事例で情報を渡し、意思決定段階では競合との差分を提示し、購入段階で契約や決済に至ります。各段階で人数が落ちるため、上半分は必ず下向きに細くなります。最上段だけを切り出した設計思想についてはトップ・オブ・ファネル(TOFU)とは何か?マーケティングの出発点を解説をご覧ください。
インフルエンスファネル側の3段階
原典は、この下半分を「伝統的なパーチェスファネルを”ひっくり返した”形のインフルエンスファネル」(図2-3「ソーシャル時代のインフルエンスファネル」)と説明しています。段階名としては継続・紹介・発信(拡散)の3つを挙げる解説が一般的です(講談社Cステーション、2023年5月24日)。継続は再購入や契約更新、紹介は既存顧客が知人や取引先へ推奨する行動、発信はSNSやレビューサイトへの投稿など不特定多数に届く行動を指します。上半分が人数を絞るプロセスであるのに対し、下半分は一人の顧客が生む価値と影響を増やすプロセスであり、性質がまったく異なります。この違いが、後述する図の誤読に直結します。
原典の4フェーズと、流布する7ステージのレイヤー違い
「ダブルファネル」を書名に掲げた日本語書籍が『ダブルファネルマーケティング』(トランスコスモス・アナリティクス 著、北出大蔵 編、リックテレコム、2012年10月下旬刊行、A5判176ページ、ISBN 978-4-89797-910-6)です。同書はダブルファネルマーケティングを、既存顧客のクチコミが新規顧客の開拓・購入・継続を促進する効果を使い、プロモーション、アクイジション、リテンション、インフルエンスという一連のプロセスの各フェーズのパフォーマンスを底上げしてROIを最適化する手法、と定義しています(Web担当者Forum掲載の特別公開版、2013年6月25日)。
原典が示しているものは2階層あります。1つは構造で、「パーチェスファネルとインフルエンスファネルのシナジーを生み出すこと」「前者が後者に取って代わるのではなく、むしろ図2-4のように2つのファネルを合体させ、一連のコミュニケーションプロセスを推進する統合的なマーケティング戦略と捉えるべきである」と述べています。もう1つが施策単位の区分としての4フェーズ。こちらには「プロセスの区切り方は業態や商品によって多少変化するが」という限定が付きます。
ウェブ上で最も多く見かける7ステージ(認知・興味・意思決定・購入・継続・紹介・発信)は、各ファネルの内部段階を並べた整理であり、原典の4フェーズとは階層が違います。原典の本文テキストに7段階の逐語列挙は見当たらず、7ステージ表記は解説記事側で広まったものです。両者は矛盾しませんが、社内資料で「ダブルファネル」と書くときにどちらの階層を指すかは明示しないと議論が噛み合いません。
思想的に近い海外の議論としては、Joseph Jaffe『Flip the Funnel: How to Use Existing Customers to Gain New Ones』(Wiley、2010年1月26日、ISBN 978-0-470-48785-3)があります。既存顧客を起点に新規顧客を獲得するという主張で、獲得側に偏った予算配分をリテンションとリファラルへ振り向ける発想を提示しました。ただし原典の書籍がJaffeを引いている記述は確認できません。「ひっくり返す」という日本語側の言い回しは、上に引いたとおり原典自身がインフルエンスファネルの説明として使っています。
デュアルファネル・フルファネルとの使い分け
近い言葉が複数流通しているため、社内で用語を決める際は次の区別を押さえておくと混乱を避けられます。
デュアルファネル:商標を伴うモデル名としての用法
解説記事の多くはダブルファネルとほぼ同義に扱います。一方で電通デジタルは、サービス名として商標記号付きの「デュアルファネル®」を用い、同社のサービス説明では、認知・理解・検討からコンバージョンへつなげるパーチェスファネルと、リピート・クロスセル/アップセル・レコメンドへつなげるリバースファネルを融合したファネル、と定義しています。段階名がダブルファネルの7ステージと一致しない点には注意が必要です。電通・電通デジタル・アドビが2019年2月15日に発表した連携は、「新規顧客の獲得」と「既存顧客の育成」への対応を一本化するソリューションを提供するもので、双方のファネルのデータ統合支援を含みます。他社の資料で見かけたときは、一般語として使っているのか、この商標付きの語を指しているのかを確認したほうが安全です。
フルファネル:購入後を含まない点の違い
フルファネルは、ファネル全域を分断せず一貫して設計・計測する考え方で、広告プランニングの文脈でよく使われます。Amazon Ads の解説では、フルファネルマーケティングを「カスタマージャーニーのあらゆるマーケティングチャネルとタッチポイント全体で戦略を立てること」と定義しています。ただし射程は論者によって変わります。同社のガイドはファネルの段階を認知・検討・コンバージョン・ロイヤルティの4つとし、購入後のフォローアップまで含めますが、購入までを指す用法も広く使われています。実務ではトップ(TOFU)・ミドル(MOFU)・ボトム(BOFU)の3層に割り、刈り取りに寄った予算を上層へ配分し直す根拠として持ち出される語です。ダブルファネルが購入後の継続・紹介・発信を段階として明示するのに対し、フルファネルは購入後を含むかどうかが話者によって変わるため、社内で使うなら射程の確認が要ります。
ルーピングファネル:段階を環状に描く別モデル
ルーピングファネルは、購入後の顧客が再び比較・検討段階へ戻る往復を輪として描くモデルです。更新や再購入のたびに比較検討が発生する契約型の商材では、直線的な段階よりも循環のほうが実態に近くなります。ダブルファネルが購入を境に上下対称で描くのに対し、こちらは段階の直線性そのものを置き換えます。詳細はルーピングファネルとは?原典の5段階と向く商材の判断基準で解説しています。
出回っている図の誤りと、人数で描くときの正しい読み方
ダブルファネルの図には、以前から具体的な批判があります。高広伯彦氏はnote「その『ダブルファネル』,『デュアルファネル』の絵は正しい?」(2020年12月1日)で、「[認知]→[ロイヤルカスタマー]に至るまでに人数は減ってくわけだからこのような図になるはずがない」と指摘しました。そのうえで「左側はファネル、右側は単なるLTV」と結論づけ、左側は顧客化に至るまで人数が減っていく図、右側はリピート購買・クロスセル・アップセルの結果として一人あたりの生涯売上が大きくなる図であって、性質の違う2つを真ん中で結びつけているのではないか、と述べています。氏は横向きのリボン型の図を前提に「下部(ないしは右部)」と併記しており、縦向きの砂時計図でも論点は同じです。
重要なのは、氏がこの図を「LTVの図として読めば正しい」と救済していない点です。同氏が拡大を認めるのは1つの場合だけで、Jaffeの”flip the funnel”のように「ファネルの最下部にいる既存顧客によって新規顧客を呼び寄せる」ことを描くなら「ファネル下部(ないしは右部)が広くなっていくのは頷ける」としています。つまり広がってよいのは、紹介と推奨で人数が実際に増えるときです。氏は最後に「もしこれがアウェアネスからロイヤルカスタマー化までのプロセスなのだとしたら、そもそもリボン型になってる必要もないと思う」と書いています。人数の推移を描くつもりなら、砂時計やリボン型にする理由はそもそもない、という指摘です。
この区別を落とすとKPI設計が壊れます。下半分を人数の図だと信じたまま運用すると、「継続段階の人数が購入段階より少ない」という当たり前の事実を異常値として扱い、離脱改善の施策を打ち続けることになるからです。実務では、次の3分岐のどれを描いているかを図の中に明記しておくと事故を防げます。
- 人数で描く:下半分も細くなり、砂時計にはなりません。下向きに細り続ける一本のファネルです。
- 紹介で入ってきた新規の人数を描く:下半分は広がります。この場合の下半分は「既存顧客が連れてきた人の数」であり、出口から上半分の入口へ矢印を戻すのが本来の姿です。
- 一人あたり売上(LTV)を描く:下半分は広がりますが、目盛りが人数ではなく金額に変わります。上半分と同じスケールで比較してはいけません。別の図に分けるほうが誤解を招きません。
段階ごとのKPIと代表施策
7ステージそれぞれに指標を置きますが、上半分と下半分では指標の性質が変わります。上半分は次段階への到達率(歩留まり)、下半分は一人あたりの継続と波及です。
| ステージ | 代表KPI | 主な計測元 | 代表施策 |
|---|---|---|---|
| 認知 | 指名検索数、広告リーチ | Search Console、広告管理画面 | 検索広告、SNS運用 |
| 興味 | 資料請求数、再訪率 | GA4、MAツール | ホワイトペーパー、事例公開 |
| 意思決定 | 比較・料金ページ到達率 | GA4 | 比較表、無料トライアル |
| 購入 | CVR、受注率 | GA4、CRM | フォーム改善、見積提示 |
| 継続 | 継続率、解約率 | CRM、購買履歴 | オンボーディング、定期連絡 |
| 紹介 | 紹介経由CV数、NPS | 紹介コード、アンケート | 紹介プログラム、事例取材 |
| 発信 | UGC投稿数、言及数 | SNS計測 | ハッシュタグ企画、レビュー導線 |
下半分の2段階は、計測設計を先に決めないと数字が取れません。紹介は紹介コードや専用フォームを用意しない限り、通常のアクセス解析では直接流入や検索流入に紛れて消えます。紹介段階のNPSは推奨度を0から10で聞き、推奨者比率から批判者比率を引くスコアで、算出方法と目安はNPS®(ネットプロモータースコア)とは?計算方法・目安・調査のやり方をわかりやすく解説にまとめました。発信段階で投稿そのものを数える場合は、UGCとCGMの違いとは?VOC・eWOMとの関係と使い分けを解説で扱っている定義の違いを踏まえ、集計範囲を先に決めてください。
ファネル形状からボトルネックを特定する手順
ダブルファネルを分析に使う目的は、どの段階で人が落ちているかを一目で見つけることです。次の順で進めます。
- 7ステージそれぞれの実数を、同じ集計期間で並べます。期間がずれた数字を並べると歩留まりが破綻します。
- 隣り合う段階の比(次段階の実数 ÷ 前段階の実数)を出します。これが各段階の通過率です。
- 通過率が自社の過去平均から大きく下がっている段階を1つだけ選びます。複数を同時に触ると、改善したのがどちらか判別できません。
- 選んだ段階に固有の施策を打ち、次の集計期間で同じ比を取り直します。
下半分については、通過率よりも「同じ時期に購入した顧客群が今も継続しているか」というコホートの見方に切り替えたほうが実態に合います。同一コホートで見れば継続顧客が購入者を上回ることはありませんが、月次のような期間集計ではストックの継続者数がフローの新規購入者数を上回るため、上半分と同じ通過率の物差しを当てると数字が意味をなさなくなります。
BtoBでは、そもそも検討段階の行動が自社サイトの外側で完結し、計測に乗らない問題があります。この計測不能領域についてはダークファネルとは?可視化できないBtoB購買行動と、コンテンツで捕捉する対策を参照してください。
ダブルファネルが機能しない商材と条件
このモデルは万能ではありません。次の条件に当てはまる場合、下半分を描いても意思決定に使えないため、パーチェスファネル単体で運用するほうが管理コストに見合います。
紹介経路を判別する仕組みがないのが、実務で最も多い不成立の理由です。紹介コードもアンケートも用意していない状態で紹介段階のKPIを設定すると、数字が埋まらないまま図だけが資料に残ります。導入前に、紹介経由かどうかを判別する手段を作るかどうかを決めてください。作らないと決めたなら、下半分はNPSなど意識調査の指標だけに絞るのが現実的です。
単発購買でリピートが構造的に発生しない商材では、継続段階の数字が常にゼロ近辺になります。住宅や相続関連サービスのように一生に一度か二度しか発生しない購買では、継続率をKPIに置いても改善余地がありません。継続を飛ばし、紹介と発信の2段階だけを購入の後段に置くほうが実態に合います。
口コミの促進が法令で制限される業種も同様です。医療機関の広告は厚生労働省の医療広告ガイドラインの対象で、治療内容や効果に関する患者の体験談は、限定解除の要件を満たしても広告に用いることが認められていません(規制対象がウェブサイトやSNSへ拡大したのは2017年成立・2018年6月1日施行の改正医療法)。誘引性のない自発的な口コミは広告に当たりませんが、医療機関の側から投稿を依頼したり便宜を図ったりできない以上、発信段階をKPIとして管理することはできません。
よくある質問
ダブルファネルとはどういう意味ですか?
購入までを描くパーチェスファネル(認知・興味・意思決定・購入)と、購入後を描くインフルエンスファネル(継続・紹介・発信)を購入段階でつないだモデルを指します。原典の書籍は、一方が他方に取って代わるのではなく2つのファネルを合体させて捉えるべきだと述べており、購入をゴールにしない点が特徴です。
デュアルファネルとは何ですか?
解説記事の多くはダブルファネルとほぼ同義に使います。ただし電通デジタルは商標記号付きの「デュアルファネル®」をサービス名として用い、認知・理解・検討からコンバージョンへつなげるパーチェスファネルと、リピート・クロスセル/アップセル・レコメンドへつなげるリバースファネルを融合したファネルと定義しています。段階名が異なるため、一般語として使っているのか商標を指しているのかの確認が必要です。
Wファネルとは何ですか?
「ダブル」を「W」と略した表記で、ダブルファネルを指して使われることがあります。ただし主要なマーケティング用語集に独立した項目はなく、検索需要もほぼありません。BtoBの文脈では「獲得と育成のWファネル」のようにダブルファネルとは別の意味で使う例もあるため、社外向けの資料では「ダブルファネル」と書くことをおすすめします。
フルファネルとダブルファネルの違いは何ですか?
フルファネルはファネル全域を分断せず一貫して設計・計測する考え方で、購入後を含むかどうかは論者によって変わります(Amazon Ads はロイヤルティを段階に含め、購入までを指す用法も一般的です)。ダブルファネルは購入後の継続・紹介・発信を必ず段階として置く点が異なります。全域を通して見るのがフルファネル、購入後を必ず足すのがダブルファネルという整理になります。
ビジネス用語でファネルとは何を指しますか?
顧客が認知から購入に至る過程で人数が絞り込まれていく様子を、漏斗(ファネル)の形に見立てて図式化したモデルを指します。段階ごとの人数と通過率を並べ、どこで離脱が起きているかを特定する用途に使います。型ごとの違いはマーケティングファネルとは?4つの型と使い分け・指標の置き方で解説しています。