マテハンは「マテリアルハンドリング(Material Handling)」の略で、倉庫や工場の中で物を運ぶ、保管する、仕分ける、取り出すといった作業と、その作業を担う機器をまとめて指す言葉です。この記事では、マテハンの意味と対象範囲、マテハン機器の種類を4分類で整理し、業界統計で見た市場規模と伸びている機器を示します。そのうえで、機器を買っても効果が出ない現場に共通する原因であるWMS・基幹システムとのデータ連携の条件と、導入を見送る判断の線引きまでを、発注を判断する立場から解説します。
まとめ:マテハン導入は荷姿の単位とシステム連携の範囲から先に決める
マテハンの効果は、機器の性能よりも「どの荷姿の物を、どのデータの指示で動かすか」で決まります。パレット・ケース・ピースのどの単位で物が流れているかを先に洗い出し、その単位に合う搬送・保管・仕分け・ピッキングの機器を選ぶ順番が基本です。
機器の指示はWMSが出し、WMSの元データは受注や在庫を持つ基幹システムから来ます。この連携が後回しになると、機器は納品されても手入力の指示待ちで止まる状態です。国土交通省の令和8年度の補助事業が、システム構築・連携と機器導入の同時実施を要件にしているのも同じ理由と読めます。物量の波が大きくSKUが頻繁に入れ替わる現場では、固定設備のマテハンより、移設できる機器と運用の見直しを優先する判断が妥当です。
マテハン(マテリアルハンドリング)の意味と、対象となる作業・機器の範囲
マテハンという言葉は、作業そのものを指す場合と、作業に使う機器(マテハン機器・マテハン設備)を指す場合があります。会話の中ではどちらの意味かを確かめておくと、見積もりや社内説明で食い違いが起きません。
マテリアルハンドリングの定義と、運搬・保管・仕分けに含まれる作業
マテリアルハンドリングは、原材料・部品・商品を「動かす」「置いておく」「分ける」「取り出す」「積む」作業の総称です。具体的には、トラックからの荷卸し、棚への格納、在庫からの取り出し(ピッキング)、出荷先別の仕分け、パレットへの積み付け、車両への積み込みまでが入ります。
物流センターだけの言葉ではありません。工場の組立ラインへ部品を供給する搬送や、病院・図書館で物を運ぶ設備もマテハンに含まれます。業務の範囲としては「倉庫や工場の建屋の中での物の動き」と捉えると、輸配送(建屋の外の物の動き)との境界が分かりやすくなります。
フォークリフトからWMSまで、統計上マテハン機器として数える範囲
範囲の目安になるのが、公益社団法人日本ロジスティクスシステム協会(JILS)が毎年公表している2024年度 物流システム機器生産出荷統計です。調査対象は1〜26番の分類で、自動倉庫、天井走行台車、無軌道台車システム(無人搬送車)、仕分機、コンベヤ、デジタルピッキング表示器、回転棚・移動棚、重量棚・中軽量棚、パレタイザ、垂直搬送機が並びます。
注目したいのは、23〜25番に「コンピュータ(ハード・ソフト)」と「WMS」が入っている点です。統計は、機器の情報処理と在庫監視を同期させるシステムまでを物流システム機器として数えています。フォークリフトは日本産業車両協会の調査として別枠で掲載され、2024年度の国内販売は75,686台、国内向け金額は2,319億1,700万円でした。機械だけでなく、機械を動かすソフトまでがマテハンの範囲だと考えるのが実態に近い見方です。
マテハン機器を搬送・保管・仕分け・ピッキングの4分類で見た種類と用途
機器の種類は数十に及びますが、役割で分けると搬送・保管・仕分け・ピッキングの4つに収まります。そこへ積み付けや荷卸しを担う荷役機器が加わります。
4分類ごとの代表機器と扱う荷姿、2024年度の売上規模の比較
次の表は、JILS統計の機種群を4分類に寄せ、扱う荷姿と2024年度の売上金額を並べたものです。金額は統計の機種群単位で、海外向けとクリーンルーム向けを含みます。
| 分類 | 代表的な機器 | 主に扱う荷姿 | 2024年度売上(前年比) |
|---|---|---|---|
| 搬送 | 天井走行台車・無人搬送車 | パレット・ケース | 台車系1,820億円(9.7%増) |
| 搬送 | パレット用・ケース用コンベヤ | パレット・ケース | コンベヤ系1,447億円(1.4%減) |
| 保管 | 自動倉庫 | パレット・バケット | 1,470億円(11.4%増) |
| 保管 | 重量棚・中軽量棚・移動棚 | パレット・ケース | 棚333億円・移動棚等202億円 |
| 仕分け | 仕分機(ソーター) | ケース・ピース | 157億円(20.4%減) |
| ピッキング | デジタルピッキング表示器 | ピース | 106億円(18.1%増) |
金額の大きさと現場での身近さは一致しません。台車系の大半は半導体工場などで使う天井走行台車で、一般の物流センターで目にする機会は多くないでしょう。ピース単位の出荷が中心のEC倉庫では、表の下2行の仕分けとピッキングの機器が先に検討対象になります。方式ごとの違いはピッキングシステムの7方式の比較とWMS連携で詳しく扱っています。
自動倉庫と移動棚、保管系マテハンを選び分ける荷姿と回転率の判断基準
保管系は、物を置く場所の密度を上げる機器です。パレット単位で高く積むならパレット用自動倉庫、通い箱やバケット単位ならバケット用自動倉庫、建屋を変えずに通路を減らしたいなら電動の移動棚、という順で選択肢が分かれます。
JILS統計でも、自動倉庫の中でバケット用(ユニット式)は791億円と前年から8.4%減った一方、自動倉庫全体は11.4%増えました。保管系はいったん据え付けると移設が難しく、出荷頻度の低い商品まで自動倉庫に入れると投資に見合いません。方式別の適用条件と投資回収の考え方は自動倉庫の方式別の違いとWMS・WCS連携の判断軸にまとめています。
パレタイザや荷役ロボットなど、4分類の外で入出荷を支える荷役の機器
入荷と出荷の両端には、パレットへの積み付け・荷降ろしを自動で行うパレタイザ/デパレタイザ、階をまたいで物を運ぶ垂直搬送機があります。2024年度の売上はパレタイザが81億円、垂直搬送機が137億円でした。パレタイザは機械式とロボット式の両方が統計の対象です。
ロボット式のパレタイザは、多関節ロボットに積み付けパターンを教え込む方式で、段ボールの寸法が頻繁に変わる現場では教示の手間が運用負荷になります。ロボットの種類と導入可否の判断基準は産業用ロボットの4種類の違いと導入可否の判断基準で整理しています。
総売上6,570億円のマテハン市場で伸びている機器と、統計から読む需要の変化
JILS統計の2024年度総売上は657,002百万円(約6,570億円)で、前年度の633,031百万円から3.8%増えました。売上件数も118,357件から133,532件へ増えています。
2024年度に伸びた無人搬送車とデジタルピッキング表示器の共通点
機種別の伸び率を見ると、無軌道台車システム(無人搬送車)が134億円から181億円へ35.2%増、有軌道台車システムが66.8%増、パレット搬送用コンベヤが34.2%増でした。逆に仕分機は20.4%減、ケース搬送用コンベヤは16.2%減です。
伸びた機器に共通するのは、建屋や既存のレイアウトを大きく変えずに入れられる点です。無人搬送車は床に軌道を敷かずに走れ、デジタルピッキング表示器は既存の棚に後付けできます。人が足りない現場で、工事期間の短い機器から入れていく動きと整合する数字です。なお、通信販売向けの売上は186億7,200万円で総売上の約2.8%にとどまり、マテハン市場の主力は製造業向けとクリーンルーム向けです。
制御ソフトとWMSの売上が機器と連動して増える構造と統計の限界
同じ統計で、コンピュータ(ハード・ソフト・WMS)の売上は455億円から540億円へ18.7%増えました。内訳はハードが166億円、ソフトが329億円で、残りがWMSにあたります。統計自身が「コンピュータは物流システム機器の制御等に利用されるものが多く、他の機種の出荷傾向に影響を受ける」と注記しています。
読み取れるのは、機器が1台増えるたびに、それを動かすソフトの仕事も増えるという関係です。一方で統計は機器メーカーを調査対象にしているため、情報システム会社が個別に開発するWMSや物流システムは数に入らないと明記しています。ソフト側の実際の市場は、この数字より大きいと見ておくのが妥当です。
マテハンをWMS・基幹システムとつなぐデータ連携で効果が出る条件
マテハン機器は、どの物をどこへ動かすかという指示データが届いて初めて動きます。機器選定と同じ重さで、データの流れを設計しておく必要があります。
受注から出荷実績まで、機器を動かす指示データが流れる3層の構造
データの流れは3層を経由する構成です。上位の基幹システム(販売管理・ERP)が受注と在庫の帳簿を持ち、中間のWMSが「どの棚から何個取り、どの出荷口へ送るか」の作業指示に分解し、下位の制御システム(WCS)が機器ごとの動作命令に変換します。実績は逆向きに、機器からWMS、WMSから基幹へ戻ります。
効果が出ない現場では、多くの場合この往復のどこかが手作業になっています。たとえば基幹からWMSへの出荷指示がCSVの手動取り込みだと、締め時刻の直前に指示が集中し、仕分機の処理能力を使い切れません。WMSの役割と在庫管理システムとの違いはWMSの機能と在庫管理システムとの違いを参照してください。
商品マスタの荷姿・寸法・重量データが欠けると機器が止まる理由
機器は商品マスタに登録された寸法・重量・荷姿(何個で1ケースか、何ケースで1パレットか)を前提に動きます。自動倉庫は棚に入る高さかを、ソーターはシュートに流せる重さかを、マスタの値で判定するためです。
マスタに寸法が無い商品や、入数の変更が反映されていない商品は、機器の入口で弾かれて人手の例外処理に回ります。稼働前に全SKUの寸法・重量・入数の欠損率を数えておき、欠損が数%残る段階で稼働させない判断が必要です。この整備は機器メーカーの見積もりに入らないことが多く、発注側の作業として予定に組み込んでおきます。
国交省の補助事業がシステム連携と機器導入の同時実施を求める意味
国土交通省は令和8年度の「中小物流事業者の労働生産性向上事業(物流施設におけるDX推進実証事業)」で、4月24日に1次公募、7月9日に2次公募を開始しました。要件は、システム構築・連携と自動化・機械化機器の導入を同時に行うことです。補助率は1/2以下、上限は1社あたりシステム構築・連携が2,000万円、機器導入が3,000万円(事業場内最低賃金を3%以上または45円以上引き上げる場合は2,200万円と3,300万円)でした。
対象は倉庫業者、貨物利用運送事業者、トラックターミナル事業者、貨物自動車運送事業者、物流不動産開発事業者で、自社倉庫を持つメーカーや小売は含まれません。2次公募は7月31日で締め切られています。次年度以降も同じ枠組みが続くとは限りませんが、機器だけの導入では効果が出にくいという判断が要件に表れていると読めます。
マテハン導入を見送るべき現場の条件と、機器選定より先に決める判断軸
マテハンは入れれば効く設備ではありません。見送ったほうがよい現場と、発注前に決めておく取り決めを整理します。
物量の波が大きくSKUが頻繁に入れ替わる現場で固定設備を避ける判断
繁忙期と閑散期の出荷量の差が数倍ある現場では、繁忙期に合わせた固定設備は年の大半で遊びます。季節商品や販促品でSKUが毎月入れ替わる現場も、マスタ整備と機器の設定変更が追いつきません。この2条件のどちらかに当てはまるなら、自動倉庫や大型ソーターのような据え付け型は採用しない、というのが本記事の結論です。
代わりに、無人搬送車やデジタルピッキング表示器のように移設や増減がしやすい機器から入れ、作業手順とWMSの指示の出し方を先に整えます。工程ごとの着手順序と、着手すべきでない現場の詳しい条件は倉庫自動化の進め方と着手順序で解説しています。
機器メーカーとシステム開発会社の責任分界を発注前に文書で決める手順
マテハンの案件は、機器メーカー、WMSベンダー、基幹システムの保守会社の3者以上が関わるのが普通です。障害時に「機器の故障か、指示データの誤りか」を切り分ける担当が決まっていないと、復旧までの時間が延びます。
- 機器とWCSの境界、WCSとWMSの境界で受け渡すデータ項目とファイル形式・通信方式を一覧にする
- 各境界でエラーが出たときに、最初に調査する会社と連絡経路を決める
- 商品マスタの寸法・入数を誰が登録し、誰が変更を反映するかを決める
- 受け入れ試験で、境界ごとの異常系(欠品・寸法超過・通信断)を試す項目を入れる
この取り決めは機器の見積もりより前に済ませておくと、各社の見積もり範囲の抜けも見つかります。WMSと基幹システムの間の連携開発を含めて相談先を探している場合は、物流システム開発の窓口で、既存システムの構成を前提にした進め方を検討できます。
よくある質問
マテハンについて、検索でよく調べられている疑問に答えます。
マテハンの読み方と意味は?どんな業界で使われる言葉ですか?
「マテハン」と読み、英語のMaterial Handling(マテリアルハンドリング)を縮めた和製の略語です。意味は、倉庫や工場の中で物を運ぶ、保管する、仕分ける、取り出す作業と、その作業に使う機器の総称です。物流業界だけでなく、自動車や電機の工場、医薬品の製造、病院や図書館の搬送設備でも使われます。機器を指すときは「マテハン機器」「マテハン設備」と呼ぶことが多く、作業を指すときは「マテハン作業」と区別すると誤解が起きません。
マテハン機器と物流ロボットはどう違いますか?
物流ロボットはマテハン機器の一部です。マテハン機器には、コンベヤや棚のように人の作業を補助する機器も、無人搬送車やロボットピッキングのように自律的に動く機器も含まれます。このうち、センサーで周囲を認識して自分で判断して動くものを物流ロボットと呼ぶのが一般的な使い分けです。JILSの統計では、無人搬送車は「無軌道台車システム」として台車系に分類されています。
マテハンとWMSの違いは何ですか?
マテハンは物を物理的に動かす作業と機器、WMSはその作業を指示し記録する倉庫管理システムです。WMSが「この商品をこの棚から何個取り、どの出荷口へ」という指示を作り、マテハン機器がそれを実行して実績を返します。JILSの物流システム機器統計では、WMSもコンピュータの分類として調査対象に含まれており、両者を一体の設備として扱う見方が業界では一般的です。
マテハンを導入する費用はどれくらいかかりますか?
機器の種類と規模で桁が変わるため、一律の相場はありません。目安として、JILS統計の2024年度の売上件数は133,532件、総売上は約6,570億円でした。部品のみの納品も件数に含まれるため単純な平均には意味がありませんが、据え付け工事を伴う自動倉庫や大型ソーターは億円単位、既存棚へのデジタルピッキング表示器の後付けはそれより小さい規模になります。機器代に加え、WMSとの連携開発と商品マスタ整備の費用を別に見込む必要があります。
中小規模の倉庫でもマテハンは必要ですか?
出荷量とSKU数が安定していて、特定の工程に人手が集中しているなら、小さな機器から検討する価値があります。ハンディ端末と棚番の整備、デジタルピッキング表示器、数台の無人搬送車といった移設可能な機器が入り口です。物量の波が大きい、SKUが頻繁に入れ替わるという現場では、機器より先に作業手順とWMSの整備を優先したほうが効果は出やすいでしょう。
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