医療機器や体外診断用医薬品をつくる工場の生産管理システムは、汎用の製造業向けと同じ物差しでは選べません。2022年12月から出荷判定する製品にUDI(医療機器を特定するための符号)の表示が法定化され、QMS省令は出荷を決めた人や使った試験機器まで記録に残すよう求めているためです。この記事では、生産管理システムに持たせるべきデータ項目をUDI表示とQMS省令の条文から逆算し、汎用パッケージで足りる会社と受託開発へ進むべき会社の分かれ目を条件付きで示します。
まとめ:医療機器の生産管理システムは出荷判定とUDI採番の連動で選ぶ
医療業、つまり医療機器・体外診断用医薬品の製造で生産管理システムを選ぶときの結論は3つに絞れます。1つ目は、出荷判定の操作とUDIの製造識別子(有効期限・ロット番号またはシリアル番号)の確定を同じ画面・同じデータで行えることです。表示義務は出荷判定した製品から適用されるため、ここが分かれていると転記ミスがそのまま法令違反の表示になります。
2つ目は、ロットごとの実績に「出荷を決めた人」「測定に使った試験機器」「植込医療機器なら構成部品と作業環境の条件」を持てることです。3つ目は、システム自体がQMS省令第5条の6のバリデーション対象になる前提で、改修の頻度と範囲を見積もることです。クラスⅠ中心でロット管理だけなら汎用パッケージと手順書で足ります。植込医療機器やシリアル管理を伴う製品を持つなら、出荷判定まわりは個別開発を検討する価値があります。
医療機器製造の生産管理が汎用品と分かれる理由と薬機法上の前提
生産管理システムの基本機能(生産計画・資材所要量計算・工程進捗・在庫)は医療機器でも変わりません。定義や機能の全体像は生産管理システムとは?機能・ERP/MESとの違いから種類・選び方と内製化の判断まで解説で整理しています。差が出るのは、薬機法とQMS省令が「誰の責任で、どの単位の記録を、いつまで残すか」を決めている部分です。
対象は医療機器と体外診断用医薬品の製造で病院の物品管理とは別の領域
「医療業の生産管理」と検索しても、上位に並ぶのは汎用の製造業向け解説ばかりです。生産管理システムを持つのは製品をつくる側なので、本記事では医療機器と体外診断用医薬品、専ら医療機関で繰り返し使われる消耗材料の製造を対象にします。この3区分は、厚生労働省の医療機器等を特定するための符号の容器への表示等における実施要項がUDI表示の対象として挙げる範囲と同じです。
病院やクリニックは、表示されたUDIを読み取る側に立ちます。院内の物品管理や医療機器の保守台帳は別のシステムで、生産計画や工程実績は扱いません。
製造販売業者と製造業者で生産管理システムに載せる記録の持ち主が変わる
医療機器の製造・販売では、市場への出荷責任を負う製造販売業者と、実際に製品をつくる製造業者が別の会社であることが珍しくありません。実施要項はUDI表示を「製造販売業者が出荷判定する製品」から適用すると定めており、データベースへの登録も製造販売業者の役割です。一方で製造記録はQMS省令の準用により製造所側にも求められます。
この分担を無視して1社分の業務だけでシステムを設計すると、受託製造所から受け取るロット実績を取り込む口が無い、という穴が開きます。自社が製造販売業だけなのか、製造業も兼ねるのか、受託製造を外に出しているのかを最初に書き出してください。
薬機法第68条の2の5のUDI表示を生産管理システムで回すための要件
令和元年の薬機法改正で新設された第68条の2の5により、医療機器等の容器へ特定用符号を表示することが義務になりました。実施要項は、令和4年12月1日以降に製造販売業者が出荷判定する製品から適用すると定めています(コンタクトレンズは令和7年12月1日から)。2026年10月時点で、既に全ての出荷判定分が対象です。
商品コードと製造識別子を包装単位ごとに出し分ける表示対象の早見表
UDIは、包装単位を識別する固定的な商品コード(GTIN)と、有効期限・ロット番号またはシリアル番号などの可変情報である製造識別子の2つで構成されます。実施要項は、医療機器の種類と包装単位ごとに表示の要否を分けています。
| 区分 | 個装 | 販売包装 | 元梱包装 |
|---|---|---|---|
| 特定保険医療材料 | 通知で必須 | 法で必須 | 通知で必須 |
| 高度管理・特定保守管理 | 任意 | 法で必須 | 通知で必須 |
| 上記以外の医療機器 | 任意 | 法で必須 | 通知で必須 |
| 体外診断用医薬品 | 任意 | 法で必須 | 通知で必須 |
表の「法で必須」は第68条の2の5による表示、「通知で必須」は実施要項による表示です。上記以外の医療機器でも、個装が最小販売単位なら販売包装の製造識別子は任意になります。生産管理システムでは、品目マスタに包装階層(個装・販売包装・元梱包装)ごとのGTINを持たせ、出荷単位ごとに印字内容を切り替えられるかを確認します。
有効期限のYYMMDD形式とGS1-128の要素文字列を採番マスタで持つ設計
実施要項は、有効・使用期限を西暦下2桁と月日各2桁のYYMMDD形式で表示し、日の設定がない場合は日を00とするか当該月の末日とするよう定めています。滅菌有効期限や経時変化による使用期限がある製品に適用され、耐久性のある医療機器の耐用期間には適用されません。シンボルはGS1-128かGS1データマトリックスを使います。
流通システム開発センター(現GS1 Japan)が2009年に厚生労働省の審議会へ提出した日本の医療機器のコード化の動向には、(01)14912345678900(17)010425(10)1234という要素文字列の例があり、(01)が商品コード、(17)が有効期限、(10)がロット番号を示します。生産管理システムは、この順で組み立てた文字列をロット確定時に生成し、ラベル印刷と出荷記録の両方へ同じ値を渡せる構造にしておくと、手入力による食い違いを防げます。
符号を割り当てるシステムの文書化とデータベース登録を出荷判定に組み込む流れ
厚生労働省は令和4年11月10日の符号を割り当てるシステムの取扱いに関する通知で、ISO 13485:2016の7.5.8(識別)を踏まえ、特定用符号を割り当てるシステムを文書化することが望ましいとしています。生産管理システムがロット番号やシリアル番号を採番するなら、そのシステムがここで言う「割り当てるシステム」に該当するということです。業務の流れは次の順に組みます。
- 品目マスタに包装階層ごとのGTINと表示要否を登録する
- 製造指図の発行時にロット番号またはシリアル番号を採番する
- 試験検査の結果を受けて出荷判定し、有効期限と製造識別子を確定する
- 確定した値でラベルを印刷し、読み取り検証の結果を記録する
- 出荷段階で公開されている医療機器データベースへ製品データを登録する
実務でつまずきやすいのは5番目です。データベース登録を別担当の手作業にすると、新製品の初回出荷で登録が漏れても生産管理側では検知できません。出荷判定の完了条件に登録済みフラグを含めるのが安全です。
QMS省令が製造記録に求める項目をロット単位の実績データへ落とす方法
QMS省令(平成16年厚生労働省令第169号)は、医療機器の製造管理と品質管理の基準です。条文構成や文書化の要求密度はQMS省令とは:医療機器の要求事項と文書・記録運用をシステム化する判断基準で詳しく扱いました。ここでは、生産管理システムの工程実績に持たせるデータ項目だけを取り出します。PMDAの改正QMS省令の概要及び調査での指摘事例等についてによると、2019年8月から2021年9月の調査指摘のうち製造が46パーセント、文書記録が19パーセントを占めています。
出荷決定者と試験機器の特定を求める第58条第4項を工程実績に持たせる項目
第58条第4項は、工程の次の段階へ進む許可と出荷の決定を行った者を特定する記録を求めています。限定第三種医療機器製造販売業者以外は、出荷可否の判定に使った設備や器具を特定する記録も対象です。PMDAの資料は、ロットごとに異なる試験機器で測定する場合、試験検査記録に試験機器の管理番号を残す方法を例に挙げています。
汎用の生産管理パッケージは、工程完了の登録者は残せても、検査に使った測定器の管理番号を持つ欄が無いことがよくあります。選定時には「ロット・工程・判定者・判定日時・試験機器番号」を1レコードで引けるかを確認してください。測定器の校正期限切れを判定時に警告できれば、第53条の校正管理とも矛盾しません。
植込医療機器の第49条が求める構成部品と作業環境の記録まで追う範囲
第49条は、構成部品や作業環境の条件によって植込医療機器が製品要求事項に適合しなくなるおそれがある場合、それらの条件を記録し、全ての記録の追跡可能性を確保するよう定めています。改正前は特定医療機器だけが対象でしたが、改正後は植込医療機器全般に広がりました。
植込医療機器を扱うなら、完成品ロットから構成部品のロット、さらにクリーンルームの温湿度や清浄度の記録まで逆引きできる構造が必要です。工程実績と環境モニタリングの記録が別システムにあり、時刻でしか突き合わせられない状態は避けます。部品とロットのつなぎ方そのものは、製造業のトレーサビリティとは?追跡範囲とロット・シリアルの使い分け、追加開発の判断で一般論を整理しています。
購買物品の変更時に影響ロットと出荷済み範囲を引ける部品展開の作り
第39条は、購買物品等の変更が製品実現の工程や医療機器に及ぼす影響を検証するよう求めています。PMDAの資料が挙げる影響の例は、変更された購買物品を受け入れたロットの範囲、それを使った最終製品の範囲、既に出荷した製品の範囲の特定です。
これを生産管理システムで答えるには、受入ロットから製造ロット、出荷先までを部品表(BOM)と実績でつなぐ逆展開が要ります。仕入先から材質変更の連絡が届いた日に、該当する出荷済みロットの一覧を数分で出せるかが判断の目安です。数日かかるなら、システム化の投資効果が見込めます。
生産管理システム自体が第5条の6のバリデーション対象になる点と選定の影響
医療機器の生産管理システムは、導入して終わりではありません。QMS省令第5条の6により、品質管理監督システムで使うソフトウェアは、初めて使うときと変更するときに、あらかじめバリデーションを行う必要があります。
ERPとMESが対象に明記された意味と経理・事務系が外れる線引き
PMDAの資料は、第5条の6の対象になりうるソフトウェアとして、製造指示などに関連する基幹系情報システム(ERP、MES)、文書・記録の管理システム、CAD、苦情・不適合・是正予防措置の管理システムを挙げています。経理処理や事務処理に使うソフトウェアのように、医療機器の品質・安全性・有効性に影響しないものは対象外です。
つまり、製造指図やロット実績を扱う生産管理システムはほぼ確実に対象に入ります。同じ会社の会計システムは外れるため、生産管理と会計を1つのERPパッケージで導入する場合、どのモジュールまでをバリデーション範囲に含めるかを最初に文書で線引きしておくと、後の監査対応が軽くなります。
改修のたびに事前バリデーションが要るため変更範囲を先に文書で決める運用
第5条の6第2項は、変更前のバリデーションが不要である正当な理由を示せる場合に限り、変更後の実施で足りるとしています。PMDAの資料は、表示上の変更や操作手順の合理化など品質に影響しない変更について、その範囲をあらかじめ文書で明示しておけば事前バリデーションを省けるという説明です。バリデーションの進め方にはISO/TR 80002-2を参照できます。
選定で効いてくるのは、ベンダーのバージョンアップの頻度です。クラウド型の汎用パッケージは月単位で画面や機能が更新されることがあり、その都度影響評価が発生します。更新時期を自社で選べるか、変更内容の資料が事前に出るかを契約前に確認してください。
汎用パッケージで足りる医療機器メーカーと受託開発へ進む条件の線引き
ここまでの要件を全部そろえようとすると、汎用パッケージの標準機能だけでは届かない項目が出てきます。とはいえ、全社が個別開発に進むべきでもありません。分かれ目は製品のクラスと識別の粒度です。
クラスⅠ中心でロット管理だけなら汎用パッケージと手順書で足りる条件
一般医療機器(クラスⅠ)が中心で、植込医療機器を持たず、識別がロット単位で済むなら、汎用パッケージに手順書を組み合わせる構成で十分です。条件は3つあります。品目マスタに包装階層ごとのGTINを登録できること、ロット確定時にUDIの要素文字列を出力できること、検査記録に試験機器番号の自由項目を追加できることです。
製造業向けの汎用パッケージの選び方は生産管理システムを製造業が導入するには|工程管理・BOM・原価連携で選ぶ判断軸が参考になります。月に数十ロット程度で品目数も少ない会社なら、出荷判定とデータベース登録は手順書とチェックリストで運用し、システム改修に予算を割かない判断が合理的です。
植込医療機器やシリアル管理を伴う製品で個別開発を選ぶ判断と見送る場面
個別開発を検討すべきなのは、植込医療機器で構成部品と作業環境まで追う必要がある、製品1台ごとにシリアル番号で管理している、受託製造所の実績を取り込んで出荷判定する、のいずれかに当てはまる場合です。汎用パッケージへの追加開発で足りるか、出荷判定とUDI採番の部分だけを切り出して作るかは、既存システムの構造で決まります。生産管理システム開発では、既存の生産管理を残したまま、出荷判定・UDI採番・ロット逆展開を追加する構成も相談できます。
反対に、品目が数点で出荷が月に数回程度なら、個別開発は見送ってください。開発費に加えて第5条の6のバリデーション工数が毎回の改修に乗るため、紙とExcelの手順書運用より総費用が膨らみます。
医療機器製造の生産管理システムの導入とUDI対応に関するよくある質問
医療機器メーカーや受託製造所の担当者から寄せられやすい疑問を、薬機法の実施要項とQMS省令の範囲で回答します。
病院やクリニックでも生産管理システムを使いますか?
使いません。生産管理システムは製品をつくる側のもので、医療機関は製品に表示されたUDIを読み取って使う立場です。実施要項はUDI表示の目的を、医療機器等の取り違え事故の防止、トレーサビリティの確保、流通の効率化としています。医療機関側で必要になるのは、受け入れた医療材料や医療機器をUDIで記録する物品管理や保守管理の仕組みで、生産計画や工程実績は扱いません。
クラスⅠの一般医療機器でもUDIの表示は必要ですか?
必要です。実施要項の対象から外れるのは、主として一般消費者の生活の用に供される医療機器と製造専用医療機器です。医療機関向けのクラスⅠ製品は「上記以外の医療機器」に区分され、販売包装への商品コードと製造識別子の表示が法令上の義務になります。個装は任意ですが、元梱包装は通知で必須とされています。
有効期限が無い医療機器では製造識別子に何を入れますか?
入力する情報は、ロット番号かシリアル番号です。実施要項は製造識別子を「有効・使用期限及びロット番号又はシリアル番号等の製造固有の可変情報」と定義し、期限の表示は滅菌有効期限や経時変化による使用期限がある製品に適用されるとしています。耐久性のある医療機器の耐用期間は期限表示の対象外なので、生産管理システムの品目マスタで期限の有無を持たせ、要素文字列を出し分けます。
汎用の生産管理パッケージに医療機器向けの機能を後付けできますか?
多くの場合は可能です。後付けしやすいのは、GTINの品目マスタ登録、UDI要素文字列の生成、検査記録への試験機器番号の追加といった項目単位の拡張です。難しいのは、出荷判定の承認フローを作り直す改修や、植込医療機器向けに構成部品と環境記録を逆引きする仕組みで、パッケージのデータ構造そのものに手を入れることになります。後付けした部分も第5条の6のバリデーション対象になる点は変わりません。
医療機器プログラムの場合は生産管理をどう考えますか?
製造識別子の考え方が変わります。実施要項は、医療機器プログラムでは製造識別子としてバージョン番号を使うと定めています。電気通信回線を通じて提供するプログラムは、利用者が閲覧できる方法で特定用符号の情報を提供する扱いです。このため、ロット実績よりもリリース管理と構成管理の記録が中心になります。該当性の判断や承認区分はプログラム医療機器とは?該当性の判断基準と承認区分、開発会社に求められる体制で整理しています。
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