画像解析APIは、画像を送信するとラベル・文字・顔・物体などの解析結果をJSONで返すクラウドサービスです。自前でモデルを学習させなくても数行のリクエストで画像認識を組み込めますが、Google・AWS・Microsoft・Oracleで課金の単位も無料枠の条件も揃っていません。ここでは4サービスの公式料金を突き合わせ、選定基準と、マルチモーダルLLMに置き換えるべき境界線までを整理します。
まとめ
- まず試すならGoogle Cloud Vision API。毎月1,000ユニットが恒久的に無料で、期限付きの試用枠ではない。
- 課金単位は「1画像」ではなく「1機能×1画像」。Cloud Vision APIは同じ画像にラベル検出と文字検出をかければ2ユニット請求される。枚数だけで見積もると外れる。
- 無料枠の性格が3種類ある。Googleは毎月恒久、AWSはアカウント作成から12か月、AzureはF0という無料価格レベルで月5,000トランザクション。
- 「何が写っているか」を固定ラベルで返させるなら従来型API、「この画像から何を読み取るか」を自由記述させるならマルチモーダルLLM。1,000枚をClaude Opus 5に投げると入力だけで約24ドル、Cloud Visionのラベル検出なら1.5ドルで、桁が違う。
- Oracle APEXならRESTデータソース経由でコードをほぼ書かずにOCI Visionを組み込める。既存のOracleデータベース資産があるなら有力。
画像解析APIで何ができるか
画像解析・画像認識・画像分析という呼び分け
この3語に技術的な定義の差はありません。ベンダーの日本語表記が揺れているだけで、Googleは「Vision AI」、AWSは「画像分析」、Microsoftは「Image Analysis」、Oracleは「AI画像認識」と名乗ります。検索する側も「画像解析 api」「画像認識 api」「画像分析api」を混在させて使っており、どれを入力しても同じカテゴリのサービス群に行き着きます。厳密に区別が要るのは学術的な文脈で、実装の選定段階では気にしなくて構いません。
一方で、返ってくるものの粒度には明確な差があります。画像全体に「犬」というラベルを付けるのが画像分類、画像内の座標付きで「ここに犬」と返すのが物体検出、ピクセル単位で領域を塗り分けるのがセマンティックセグメンテーションです。APIを選ぶ前に、座標が要るのか、ラベルだけで足りるのかを決めておくと候補が絞れます。
主要APIが共通して備える機能
ベンダーが違っても、学習済みモデルとして提供される機能はおおむね重なります。Cloud Vision APIの場合、ラベル検出・文字検出(OCR)・文書内文字検出・顔検出・ランドマーク検出・ロゴ検出・物体位置特定・不適切コンテンツ検出・ウェブ検出などが揃い、リクエストのfeature指定を変えるだけで切り替わります。
Amazon Rekognition Imageは、呼び出すAPIがGroup 1とGroup 2に分かれます。Group 1は顔の索引付けと照合(IndexFaces、CompareFaces、SearchFacesByImage など)、Group 2は検出系(DetectLabels、DetectText、DetectFaces、DetectModerationLabels、RecognizeCelebrities、DetectProtectiveEquipment)です。この区分は料金の集計単位でもあるため、顔照合を使う設計かどうかで見積もりが変わります。どのAPIがどちらのグループに属するかは、AWSのAmazon Rekognition料金ページに一覧があります。
ベンダー固有機能で差が出るのは、Rekognitionの保護具検出(DetectProtectiveEquipment)のような業務特化の学習済みモデルと、独自データで再学習させるカスタムモデルの有無です。汎用ラベルで足りるうちは、機能表よりも料金と無料枠で選んで問題ありません。Rekognition単体のAPI設計・実装手順・費用構造はAmazon Rekognitionとは?できること・API・料金と自前モデルとの使い分けで扱っています。
主要4サービスの料金と無料枠
| サービス | 提供元 | 従量料金(最初の課金帯) | 無料枠 |
|---|---|---|---|
| Cloud Vision API | 1,000ユニットあたり$1.50〜$2.25 | 毎月1,000ユニット(恒久) | |
| Amazon Rekognition Image | AWS | 1,000画像あたり$1.00 | 12か月間・月1,000画像 |
| Azure Vision in Foundry Tools | Microsoft | 公式ページに数値表示なし | F0:月5,000トランザクション |
| OCI Vision | Oracle | 1,000画像あたり$0.25(画像分類)※ | 公式ページで要確認 |
Cloud Vision APIの$1.50はラベル検出・文字検出・文書内文字検出・顔検出に適用され、物体位置特定だけは$2.25と高めです。5,000,001ユニット目からは文字検出・顔検出が$0.60、ラベル検出が$1.00に下がります。Rekognitionは最初の100万画像までGroup 1・Group 2ともに1,000画像あたり$1.00で、月間集計はグループごとに別々に行われます。
※OCI Visionの$0.25は画像分類機能の単価です。物体検出や文書AIなど他機能の単価は同額とは限らず、Oracleの料金ページはリージョンや機能で条件が分かれます。この数値は表の目安として扱い、発注前に必ず公式の料金ページで機能ごとの単価を確認してください。
Azureは事情が異なります。製品名が「Computer Vision」→「Azure AI Vision」→「Azure Vision in Foundry Tools」と改称を重ねており、2026年7月時点の公式料金ページはStandard(S1)の単価欄が「$-」のままで、実数が表示されません。Azureの価格計算ツールにサインインするか営業に問い合わせる導線しかないため、他社と同じ条件で単価を並べての比較が現時点ではできません。見積もりが必要なら、まずF0の月5,000トランザクション(毎分20トランザクション上限)で実測してからS1の試算に進むのが現実的です。
課金単位は「1画像」ではなく「1機能×1画像」
Cloud Vision APIで見積もりを外す原因はここに集中します。課金の最小単位は画像ではなく、画像に適用した機能1つです。1枚の写真にラベル検出と文字検出と顔検出をまとめてかければ、リクエストは1回でも3ユニット請求されます。PDFや複数ページの画像は、ページごとに1画像として数えられます。
Googleの計算例では、ランドマーク検出を5,300回実行した場合、最初の1,000回が無料で残り4,300回に$6.45という試算になります。1,000枚に3機能をかける設計なら3,000ユニット、つまり無料枠1,000ユニットを引いた2,000ユニット分が課金対象です。枚数ベースで「1,000枚だから無料枠に収まる」と読むと、実際には3倍の請求が来ます。
Rekognitionは画像単位の課金なので、この落とし穴はありません。ただしGroup 1とGroup 2の両方を使う設計では、それぞれ別に集計されて課金されます。
無料枠は3種類あり、性格がまったく違う
Cloud Vision APIの毎月1,000ユニットは期限のない恒久枠で、全機能に適用されます。小規模な社内ツールなら無料のまま運用し続けられる規模です。
AWSの無料利用枠はアカウント作成日から12か月間の期間限定で、Group 1とGroup 2それぞれで月1,000画像、加えて顔ベクトルとユーザーベクトルを月1,000件ずつ保存できます。ただし、Group 1・Group 2とは別枠で課金される画像の色調解析機能Image Propertiesには、無料枠が設定されていません。13か月目から突然課金が始まる構造なので、検証期間の長いプロジェクトでは注意が必要です。
AzureのF0は「無料試用」ではなく無料の価格レベルで、月5,000トランザクション・毎分20トランザクションという制限のもとで継続利用できます。毎分20という上限はバッチ処理では容易に頭打ちになるため、性能評価の用途には向きません。
どのAPIを選ぶか、そして選ぶべきでない場面
判断は3点で決まります。第一に、すでに使っているクラウドに合わせること。認証・IAM・請求・監査ログが既存基盤に乗るメリットは、単価差数十セントを簡単に上回ります。第二に、必要な機能が学習済みモデルに含まれているか。含まれていれば単価と無料枠で選び、含まれていなければカスタムモデルの提供有無で絞り込みます。第三に、処理量の桁。月数千枚なら無料枠の性格(恒久かどうか)が支配的で、月数百万枚なら課金帯の逓減が効くGoogleやAWSが有利です。
その上で、画像解析APIを採用すべきでない場面をはっきり挙げます。画像を外部に送信できない案件では、そもそも候補になりません。医療画像、個人情報を含む本人確認書類、機密図面などは、クラウドへの送信自体が契約や規程で禁止されていることがあります。この場合はTesseract OCRのようなセルフホスト可能なエンジンを自社環境に置くほうが、料金以前の要件として正しい選択です。Tesseractの精度と商用利用の条件を先に確認しておくと判断が早まります。
もう一つ、解析結果に厳密な再現性が要る場面も向きません。クラウド側のモデルはベンダーの判断で更新され、同じ画像に対する出力ラベルや信頼度スコアが時期によって変わります。監査対応や品質基準の根拠として結果を残す用途では、バージョンを固定できる自社モデルを検討してください。
マルチモーダルLLMとの使い分け
2026年現在、画像を理解させる選択肢は学習済みAPIだけではありません。Claude・GPT・Geminiといったマルチモーダルモデルは画像を直接入力でき、「この請求書から発行日と金額を抜き出して」のような自然言語の指示に応えます。従来型APIとの違いは機能の多寡ではなく、課金構造と出力形式という2つの構造的な差です。
課金構造から見ます。従来型APIはリクエスト(または機能)単位の定額ですが、LLMは画像を大量のトークンに変換して課金します。Claude Opus 5は長辺2,576ピクセルまでの高解像度画像を扱え、1枚あたり最大4,784トークンを消費します。入力が100万トークンあたり$5なので、1,000枚を投げると入力だけで約$23.9、これに出力トークンが加算されます。
| 方式 | 1,000枚あたりの概算 | 返るもの |
|---|---|---|
| Cloud Vision API ラベル検出 | $1.50(1,000ユニット) | 定義済みラベルと信頼度 |
| Claude Opus 5 画像入力 | 入力のみで約$23.9(上限値) | 自由記述・構造化JSON |
単価で15倍以上開くので、「画像に何が写っているか」を大量に分類するだけならLLMを使う理由はありません。逆に、レイアウトが一定しない帳票から必要項目だけを抜く、写真の状況を文章で説明させる、複数の条件を組み合わせて判定させるといった処理は、従来型APIの固定ラベルでは表現できず、LLM側が圧倒的に短い実装で済みます。OCRの領域でも、dots.mocrのようにマルチモーダル解析で従来OCRの限界を超えるアプローチが実用段階に入っています。
実務では併用が現実解です。全件をCloud Vision APIやRekognitionで安く一次分類し、例外や自由記述が要るものだけLLMに回す構成なら、コストを抑えたまま柔軟性を確保できます。
最小構成で試す
Cloud Vision APIはREST経由でJSONを投げるだけで動きます。APIキーを発行し、画像をBase64にしてリクエストボディに入れます。
curl -X POST \
"https://vision.googleapis.com/v1/images:annotate?key=$API_KEY" \
-H "Content-Type: application/json" \
-d '{
"requests": [{
"image": { "content": "'"$(base64 -i sample.jpg)"'" },
"features": [
{ "type": "LABEL_DETECTION", "maxResults": 5 },
{ "type": "TEXT_DETECTION" }
]
}]
}'
Base64化のコマンドはOSで違います。macOSのbase64 -i sample.jpgに対し、Linux(GNU coreutils)ではbase64 -w0 sample.jpgと書きます。GNU版は既定で76文字ごとに改行を挿入するため、-w0で折り返しを止めないとBase64文字列に改行が混ざり、JSONが壊れます。
このリクエストはfeaturesを2つ指定しているため、画像1枚でも2ユニット課金されます。動作確認の段階から、必要な機能だけを指定する癖をつけておくと請求が読めるようになります。レスポンスはlabelAnnotationsとtextAnnotationsが並んだJSONで返ります。labelAnnotationsはdescriptionとscore(信頼度)を持ちますが、textAnnotationsに含まれるのはlocale・description・boundingPolyで、scoreはありません。
コードを書かずに組み込む:OCI Vision × Oracle APEX
Oracle APEXを使っている環境なら、画像解析APIの組み込みはローコードで完結します。APEXはRESTデータソースという機構を持ち、外部APIをデータベース表と同じ感覚で扱えるためです。既存のOracle Database資産があり、業務画面から画像解析を呼びたい場合はこの構成が最短になります。
手順は3段階です。まずOCIコンソールでユーザーのAPIキーを作成し、秘密鍵とフィンガープリント、テナンシOCID、ユーザーOCIDを控えます。次にAPEXの「ワークスペース・ユーティリティ」からWebクレデンシャルを作成し、認証タイプにOCIを指定して控えた4項目を登録します。最後にRESTデータソースを新規作成し、エンドポイントにOCI VisionのanalyzeImageを指定して、作成したWebクレデンシャルを紐付けます。
ここまで済めば、APEXのページ・プロセスからRESTデータソースを呼び出すだけで解析結果が取得できます。認証ヘッダの署名生成はAPEX側が引き受けるため、OCI固有の署名仕様を実装する必要はありません。Oracleの手順書がPEM形式の秘密鍵をそのまま登録するよう指示しているとおり、改行を含む形を崩さずに貼り付ける必要があります。署名が成立しなければ認証は通らないため、401が返ったらまずクレデンシャルの秘密鍵を疑ってください。
よくある質問
Q. 画像解析APIと画像認識APIは違うものですか。
A. 同じものを指します。ベンダーごとの日本語表記の違いで、Googleは画像分析、AWSは画像分析、Oracleは画像認識と表記していますが、提供される機能のカテゴリは共通です。
Q. 無料で使える画像解析APIはありますか。
A. Cloud Vision APIが毎月1,000ユニットを恒久的に無料で提供しており、期限がない点で最も扱いやすい枠です。AWSは12か月間・月1,000画像、AzureのF0は月5,000トランザクション(毎分20トランザクション上限)です。
Q. 1,000枚の画像を解析するといくらかかりますか。
A. Cloud Vision APIでラベル検出だけなら1,000ユニットで、無料枠内に収まります。ただし同じ1,000枚にラベル検出と文字検出をかけると2,000ユニットになり、超過1,000ユニット分に$1.50が発生します。Rekognitionは画像単位なので1,000画像で$1.00です。
Q. 学習済みモデルで精度が足りない場合はどうしますか。
A. 各社が独自データで再学習させるカスタムモデルを提供しています。汎用ラベルではなく自社固有の分類(製品の型番、特定部位の欠陥など)が必要な場合は、学習用の画像とラベル付けのコストが別途かかる前提で検討してください。
Q. 画像を外部に送らずに解析できますか。
A. できます。文字認識ならTesseract OCRのようなオープンソースのエンジンを自社サーバーに置く構成が定番です。クラウドAPIに比べて精度調整の手間はかかりますが、画像がネットワーク外に出ないため、機密文書や個人情報を扱う案件で採用されます。