レイトマジョリティ(late majority)は、イノベーター理論で新しい製品や考え方を「平均より少し後」に受け入れる人々で、全体の約34%を占めます。後期追随者・後期多数派とも訳されます。この記事では、提唱者エベレット・ロジャーズの原典『Diffusion of Innovations』第3版(The Free Press、1983年)の記述をもとに、レイトマジョリティの意味と割合、どんな条件がそろうと動くのか、ラガードとの違いを整理します。マイナンバーカードの保有率を採用者区分で読むときの注意も扱います。
まとめ:レイトマジョリティの要点
- レイトマジョリティは、採用時期の分布で平均から標準偏差1つ分遅い地点までに入る層です。割合は約34%(正規分布で34.13%)で、ここまでで累計84%になります。
- 原典での形容は「懐疑的(Skeptical)」。所属する社会の大半が採用し、不確実性がほぼ消えるまで動かない傾向を持つ層として描かれています。
- 動く引き金は、経済的な必要と周囲からの圧力の2つです。科学的な実証より、身近な人の使用感を信じます。
- 採用したあとにやめる割合も高く、米オハイオ州の農家調査では中止率34%でした(イノベーターとアーリーアダプターは14%)。売って終わりの施策では残りません。
- ラガードとの違いは判断の基準です。レイトマジョリティは周囲の大半と社会の規範を見て動き、ラガードは過去のやり方を基準に判断します。
以下、原典の記述、動く条件、日本のデータ、施策の順に根拠を示します。
レイトマジョリティの意味と、平均から標準偏差1つ分という位置
ロジャーズは、ある社会で新しいもの(イノベーション)が採用されていく時期を正規分布とみなし、平均と標準偏差で5つの層に区切りました。原典p.247には、平均から右へ標準偏差1つ分までの区間に入る「次の34%」がレイトマジョリティだと書かれています。
| 採用者区分 | 区間(平均=0) | 割合 | 累計 |
|---|---|---|---|
| イノベーター | -2SDより前 | 2.5% | 2.5% |
| アーリーアダプター | -2SD〜-1SD | 13.5% | 16% |
| アーリーマジョリティ | -1SD〜平均 | 34% | 50% |
| レイトマジョリティ | 平均〜+1SD | 34% | 84% |
| ラガード | +1SDより後 | 16% | 100% |
34%は調査で数えた人数ではなく、区切り方から決まる定義値です。正規分布で平均から+1SDまでの面積は34.13%で、それを丸めています。各層の割合がどう導かれるかはイノベーター理論とは?ロジャーズの5分類と割合の根拠、普及を左右する5つの属性で詳しく扱っています。
アーリーマジョリティとレイトマジョリティを合わせた68%が「マジョリティ層(多数派)」です。採用が半数を超えた時点から、レイトマジョリティの区間が始まります。
レイトアダプターとの違い:原典の「後期採用者」は2層の総称
「レイトアダプター」は5区分の名前ではありません。ロジャーズは、平均より遅い2層(レイトマジョリティとラガード)をまとめて「later adopters(後期採用者)」と呼び、平均より早い層の「earlier adopters」と対比して論じています。中止率や情報経路の調査結果も、この2分法で示されることが多い点に注意してください。
ロジャーズ原典が書くレイトマジョリティの特徴「懐疑的」
原典p.248〜250は、各層を一語で形容しています。イノベーターは「冒険的」、アーリーアダプターは「尊敬される」、アーリーマジョリティは「慎重」、そしてレイトマジョリティは「懐疑的(Skeptical)」です。該当段落の記述を、採用の判断に効く順に並べると次のとおりです。
- 所属する社会の大半が採用するまで採用しない。社会の規範がはっきりイノベーション側に傾いて、ようやく納得する。
- 採用は、経済的な必要と、増していくネットワークからの圧力への答えでもある。
- 有用性を説得することはできるが、採用を動機づけるには仲間からの圧力が要る。
- 資源(資金や余力)が比較的乏しいため、不確実性がほぼすべて取り除かれないと安全だと感じない。
- 平均的な人のすぐ後に採用する。
注目したいのは4つ目です。慎重さは性格の問題としてだけでなく、失敗したときに吸収できる余力が小さいという条件から説明されています。イノベーターの前提条件として原典が挙げる「損失を吸収できる資金力」の、ちょうど裏返しです。
原典は5区分を「理念型(ideal types)」と呼び、各層の間に明確な切れ目はないとも断っています(p.247〜248)。1人の人がスマートフォンではアーリーマジョリティ、キャッシュレス決済ではレイトマジョリティ、ということは普通に起こります。レイトマジョリティは人の属性ではなく、特定のイノベーションに対する採用時期の位置です。
レイトマジョリティを動かす経済的な必要と周囲の圧力
経済的な必要:使わないほうが損になる時点
原典が採用の理由として最初に挙げるのは「経済的な必要」です。たとえば、旧方式を続ける費用や負担が増えた場面がこれに当たります。紙の申請窓口が縮小される、取引先が電子請求書しか受け付けなくなる、旧製品のサポートが終わる、といった変化です。
この性質から、レイトマジョリティへの普及は売り手の工夫だけでは決まりません。制度や取引慣行、旧方式のサポート期限といった外部の条件が動いたときに、まとまって採用が進みます。
周囲の圧力:マスメディアより身近な人の評価
原典p.263は、レイトマジョリティとラガードについて、イノベーターほど科学に好意的ではなく、「信頼できる科学者が検証した」という訴求は効果を期待しにくい一方、仲間の主観的な使用経験を最も信用すると書いています。情報経路についても、平均より遅い採用者ほどマスメディアより対人経路が重要になることを、1938年のBowersによるアマチュア無線の調査(米国のアマチュア無線家312人への郵送調査)が最初に示したと紹介しています(p.50)。
また原典p.406は、レイトマジョリティとラガードにも彼ら自身のオピニオンリーダーがいると指摘しています。ただし、アーリーアダプターやアーリーマジョリティの間のオピニオンリーダーほど見つけやすくはありません。誰の言葉が層の中で信頼されているかを探す価値があるということです。オピニオンリーダーの概念そのものはオピニオンリーダーとは?定義・日本語訳と具体例、インフルエンサーとの違いで解説しています。
採用後にやめやすいレイトマジョリティ:中止率34%のデータ
レイトマジョリティは「一度採用すれば定着する多数派」ではありません。原典p.189は、後から採用した人ほど採用をやめやすいという一般化(Generalization 5-9)を示し、その根拠として次の調査を挙げています。
| 調査 | イノベーター・アーリーアダプター | アーリーマジョリティ | レイトマジョリティ | ラガード |
|---|---|---|---|---|
| Bishop & Coughenour(1964)米オハイオ州の農家 | 14% | 27% | 34% | 40% |
| Leuthold(1965)カナダの農家 | 18% | 24% | 26% | 37% |
原典は理由を2つ挙げています。1つは、教育や科学的な方法への理解が少ないと、試用の結果を本格利用へうまく広げられず、使い方の誤りから不満を持ちやすいこと。もう1つは、資源が少ないため、自分の財務状況に合わないイノベーションを続けられないことです。
1960年代の北米の農家を対象にした調査なので、34%という率を今日の製品やサービスの解約率の予測に使うことはできません。読み取れるのは、後から採用した層ほどやめやすいという方向性です。それでも、レイトマジョリティ向けの施策が「導入させる」までで止まってはいけない理由にはなります。初期設定の代行、使い方の説明、少額から始められる料金体系のように、採用後に挫折しない仕組みを売る側が用意する必要があります。
マイナンバーカード保有率84%を採用者区分で読むときの注意
「マイナンバーカードはイノベーター理論でどの段階か」という問いは、数字の上では答えたくなる題材です。総務省の「マイナンバーカードの申請・交付・保有状況」(令和8年9月27日時点の資料)に載っている月末時点の保有状況は次のとおりです。
| 時点(2026年) | 保有枚数 | 保有率 |
|---|---|---|
| 5月末 | 103,443,194枚 | 83.1% |
| 6月末 | 103,856,694枚 | 83.4% |
| 7月末 | 104,184,326枚 | 84.0% |
| 8月末 | 104,525,120枚 | 84.3% |
保有率は2026年7月末に84.0%となり、イノベーター理論でレイトマジョリティの区間が終わる累計84%と数字の上では並びました。ただし、この一致から「レイトマジョリティを通過した」とは言えません。
理由は指標の作り方にあります。イノベーター理論の84%は、採用した人を採用時期の順に並べた累計です。保有率は、交付した枚数から死亡や有効期限切れなどで廃止されたカードを除いた「いま保有されている枚数」を人口で割った値で、いつ取得したかの順番は含みません。総務省資料の注記によると、保有率は国外利用分を除いて計算され、分母は7月末分から令和8年1月1日時点の住民基本台帳人口(123,767,642人)です(表の保有枚数は国外利用分を含むため、枚数を人口で割っても保有率とは一致しません)。カードを持っていても、健康保険証として使っているかどうかは別の統計です。
制度の側では、従来の健康保険証が2024年12月2日以降に新規発行されなくなり、マイナンバーカードを健康保険証として使う仕組みを基本とする形へ移りました。一方で、カードを持たない人などには資格確認書が申請によらず無償で交付され、カードがなくても保険診療は受けられます(政府広報オンライン)。旧方式が縮小される変化は、原典が採用の引き金に挙げる「経済的な必要」に近い性質を持ちます。ただ、個々の人がこの制度変更を理由に取得したのかどうかは、保有率の統計からは分かりません。
採用者区分を当てはめるには、対象集団と観測期間を定め、個々の採用時期の分布を確認する必要があります。普及途中では将来の採用者が未観測なので、その時点のデータだけで最終的な区分や現在の段階を確定することはできません。保有率や利用率のような現在値だけで区分を当てはめると、失効や解約で数字が動くたびに「段階」が行き来してしまいます。
レイトマジョリティとアーリーマジョリティ・ラガードの違い
同じ34%のアーリーマジョリティ、そのあとに続くラガードとは、動き出す条件が違います。
| 比較 | アーリーマジョリティ | レイトマジョリティ | ラガード |
|---|---|---|---|
| 割合 | 34% | 34% | 16% |
| 区間 | -1SD〜平均 | 平均〜+1SD | +1SDより後 |
| 原典の形容 | 慎重(Deliberate) | 懐疑的(Skeptical) | 伝統的(Traditional) |
| 判断の基準 | 先行者の評価 | 周囲の大多数と規範 | 過去のやり方 |
| 施策の検討例 | 導入事例 | 普及率・標準化 | 旧方式からの移行支援 |
アーリーマジョリティは平均より先に、時間をかけて検討してから採用します。レイトマジョリティは平均の後、社会の大半が使い、使わないことが不利になってから採用します。詳しくはアーリーマジョリティとは?割合34%の根拠とキャズム攻略を解説を参照してください。
ラガードとの境目は、「今の多数派」を見るか「過去」を見るかです。原典p.250は、ラガードの判断の基準は過去にあり、採用したときにはすでに次の新しいものに置き換わっていることもあると書いています。原典はレイトマジョリティを「有用性を説得することはできる」層と書く一方、ラガードについてはオピニオンリーダーシップをほぼ持たず、伝統的な価値観を持つ人どうしで交流すると書いています。ラガードの詳細はラガードとは?イノベーター理論での意味・語源と16%の根拠を解説にまとめています。
キャズム理論のジェフリー・ムーアの呼び名とも混同しやすい点があります。ムーアの公式サイトは、レイトマジョリティを「conservatives(保守派)」、ラガードを「skeptics(懐疑派)」と呼んでいます。ロジャーズが「懐疑的」と形容したのはレイトマジョリティなので、英語の「skeptic」だけを手がかりにすると層を1つ取り違えます。
レイトマジョリティ向けマーケティング施策と、狙うべきでない時期
不確実性を消す訴求:普及率・シェア・保証
原典の記述から導く施策案として、新しさより対象業界での普及実績を前に出す訴求を優先すべきです。業界での利用率や導入社数、同業者の何割が使っているかといった数字がその材料になります。不確実性をほぼ消さないと動かない層なので、返金保証、無料の移行支援、解約しやすさのように失敗したときの損失を小さくする条件を、最初の訴求に入れておきます。
価格も判断材料の比重が大きくなります。資源が比較的乏しいという原典の記述どおり、高機能な上位プランより、必要な機能だけを低い月額で使える構成のほうが採用の障壁を下げます。
届く経路:対人の推薦と既存の取引先
原典の根拠は2つあります。1つは前述のp.263で、後期採用者は仲間の主観的な使用経験を最も信用するという記述です。もう1つはp.50で紹介されたBowers(1938年)の調査で、平均より遅い採用者ほどマスメディアより対人経路が重要になるという結果です。
ここから考えられる実務上の打ち手として、広告やプレスリリースに頼るより、同業者の紹介、既存の取引先や販売店からの案内、すでに使っている同僚の声を経路に組み込むことが挙げられます。導入事例を出す場合も、先進企業の挑戦談より、読者と規模や業種が近い会社が普通に使っている様子を見せるほうが、この層の判断基準に合います。いずれも原典の知見から導いた提案で、経路ごとの効果を比べた実測ではありません。
狙うべきでない時期:対象市場でまだ採用実績が乏しい段階
対象とする顧客の集団で、まだ周囲の採用例がほとんどない段階なら、レイトマジョリティを主ターゲットにするのは見送るべきです。この層は周囲の大半の採用と規範の傾きを待つので、値下げや保証の上乗せだけでは採用に踏み切る理由になりにくいからです。この段階では、先に採用する層で実績を作り、獲得費用と継続率を見ながら予算を振り分けるほうが筋のよい判断です。
普及の転換点としてよく引かれる16%は、5区分の累計から来た目安です。ロジャーズが共著した1999年の論文(Mahler & Rogers、Telecommunications Policy誌)は、クリティカルマスが生じる採用率を「おおよそ10〜20%」と幅で書いており、施策の可否を一律に決める閾値ではありません。詳しくはクリティカルマスとは?普及率16%の出典と10〜20%説・ジェンダー30%・臨界質量の違いで扱っています。先に攻める層の考え方はアーリーアダプターとは?意味・特徴とマーケティング活用をわかりやすく解説が参考になります。
「遅れた人」扱いが普及を止める理由:原典の個人非難バイアス批判
レイトマジョリティやラガードを「変化を嫌う人」「情報に疎い人」と説明する記事は多く見られます。しかしロジャーズ自身は、原典p.106〜107でこの見方を普及研究の偏り(個人非難バイアス)として批判しています。
原典によると、変化を促す側は、後期採用者が専門家の勧めに従わないのは伝統に固執しているから、あるいは不合理だからだと説明しがちです。ところが詳しく調べると、事業規模が小さく資源も限られている後期採用者には、そのイノベーションが合っていなかった例がありました。その場合、採用しないことは「きわめて合理的」だった可能性があると原典は述べています。さらに、後期採用者を伝統的で変化に抵抗する人々とみなす固定観念があると、働きかけても無駄だと考えて接触しなくなり、その結果ますます採用されなくなる「自己成就的予言」になると指摘しています。
実務への示唆ははっきりしています。レイトマジョリティへの普及が止まったら、相手の意識を変える前に、製品の側が彼らの規模と予算に合っているかを疑うべきです。たとえば大企業向けの機能と価格のまま中小事業者へ広げようとして伸び悩んでいるなら、この構図に当てはまっていないかを点検する場面です。
よくある質問
レイトマジョリティとはどういう意味ですか?
イノベーター理論の5つの採用者区分のうち、平均より後に新しいものを採用する層です。英語のlate majorityをカタカナ表記した言葉で、後期追随者・後期多数派とも訳されます。採用時期の分布で平均から標準偏差1つ分遅い地点までに入る人を指し、全体の約34%を占めます。ロジャーズの原典では「懐疑的」と形容され、所属する社会の大半が採用し、不確実性がほぼ消えてから動く傾向を持つ層とされています。
レイトマジョリティは全体の何%ですか?
約34%です。採用時期を正規分布とみなしたとき、平均から+1標準偏差までの面積が34.13%になり、それを丸めた定義値です。調査で数えた人数ではありません。イノベーター2.5%、アーリーアダプター13.5%、アーリーマジョリティ34%を合わせた累計50%の地点から始まり、累計84%で終わります。アーリーマジョリティと合わせた68%がマジョリティ層です。
レイトマジョリティとラガードの違いは何ですか?
判断の基準が違います。レイトマジョリティは「今、周囲の大多数がどうしているか」を基準にし、標準になり、使わないことが不利になれば採用します。ラガード(16%)は過去のやり方を判断の基準にし、採用したときには次の新しいものに置き換わっていることもある層です。原典の形容も、レイトマジョリティが「懐疑的」、ラガードが「伝統的」と分けられています。
レイトアダプターとは何ですか?
イノベーター理論の5区分の名前ではありません。ロジャーズの原典では、平均より遅く採用するレイトマジョリティとラガードの2層をまとめて「later adopters(後期採用者)」と呼んでいます。日本語の「レイトアダプター」も、この後期採用者の意味で使われることが多い言葉です。「アーリーアダプター」と対になる区分名だと考えると、5区分と混同します。
マイナンバーカードはイノベーター理論でどの段階ですか?
保有率だけでは判定できません。総務省の公表では、人口に対する保有率は2026年7月末に84.0%、8月末に84.3%で、数字の上ではレイトマジョリティの区間が終わる累計84%と並んでいます。しかし保有率は失効などを除いた現在の保有枚数の割合で、採用時期の順に並べた累計ではありません。保険証としての利用率とも別の数字です。採用者区分に当てはめるには、取得時期の累計を時系列で見る必要があります。