Apache DataFusionとは何か?次世代の高速SQLクエリエンジンの概要と活用シーンを詳しく解説!

目次
- 1 Apache DataFusionとは何か?次世代の高速SQLクエリエンジンの概要と活用シーンを詳しく解説!
- 2 Apache DataFusionの特徴とメリット:Rustならではの高速処理性能と拡張性の魅力に迫る
- 3 Apache DataFusionの主な機能:対応フォーマットやSQLサポートなど豊富な機能群を紹介
- 4 Apache DataFusionの使い方・セットアップ方法:開発環境構築と基本的な実行手順を詳しく解説
- 5 Apache DataFusionのインストール手順:Rust/Python/CLI環境別の導入方法
- 6 Apache DataFusionの基本的なSQLクエリ例:簡単なSELECT文でデータを抽出する方法
- 7 Apache DataFusionでのJSONやParquetファイルの読み込み:ファイル形式別のデータ取り込み方法
- 8 Apache DataFusionのユースケース・活用事例:組み込みSQLエンジンとしての活用やデータ分析基盤への応用例
- 9 Apache DataFusionと他プロジェクト(DuckDB等)との比較:DuckDBやPolarsとの違いと選び方のポイント
- 10 Apache DataFusionの注意点・よくあるエラーと対策:知っておきたい導入時の落とし穴とその対処法
Apache DataFusionとは何か?次世代の高速SQLクエリエンジンの概要と活用シーンを詳しく解説!
Apache DataFusionは、Rust製の拡張可能なSQLクエリエンジンです。メモリ内処理の高速化を目的としており、Apache Arrowのカラムナー(列指向)メモリフォーマットを利用することで高いパフォーマンスと他システムとの互換性を実現しています。2017年に開発が始まり、2019年にApache Arrowプロジェクトに寄贈された経緯があり、現在はApache Arrowエコシステムの一部として活発に開発・メンテナンスされています。Rustならではの安全性とスピードを持ち、C++に匹敵する性能を発揮しつつガベージコレクション無しで動作する点が特徴です。
DataFusionは単体のデータベースというより、他のアプリケーションやシステムに組み込んで使われることを想定したクエリエンジンです。開発者向けのライブラリとして提供されており、組み込み用途に適した設計になっています。例えば、自前の分析アプリにSQLクエリ機能を追加したり、新しいデータベースエンジンの基盤として利用するといった使い方ができます。実際にDataFusionは組み込みSQLエンジンとして多くのプロジェクトで採用されており、これを利用して高速なデータベースやデータ分析基盤を一から実装する代わりに、DataFusionの持つクエリ実行機能を再利用することが可能です。こうした背景から、次世代の高速クエリエンジンとして注目されており、分析系(OLAP)処理を中心に、場合によってはストリーミング処理やトランザクション処理といった低レイテンシ分野への応用も検討されています。
まとめると、Apache DataFusionは「Rust + Arrow」による高速SQL処理基盤であり、エンジン単体で使うよりも他システムへの組み込みやデータ処理基盤の構築に適した設計になっています。その高性能と柔軟性から、データ分析ツールのエンジンやクラウド時系列データベースのクエリ基盤など幅広い活用シーンがあります(詳細な事例は後述)。
Apache DataFusionの特徴とメリット:Rustならではの高速処理性能と拡張性の魅力に迫る
Apache DataFusionが注目される理由は、高速な処理性能と優れた拡張性という2点にあります。
高速処理性能
DataFusionはベクトル化されたマルチスレッド実行エンジンを備えており、現代的なCPUの能力を最大限に引き出します。データをカラムナー形式(Apache Arrow形式)でメモリ上に配置することで、CPUキャッシュ効率の良い処理を行い、大量データに対しても高速にクエリを実行できます。またRust製であるため低レベルな最適化が可能で、C/C++で書かれたエンジンに匹敵するパフォーマンスを発揮します。例えばSIMD命令による並列処理やスレッドプールによる並行クエリ実行などを実装しており、実測ベンチマークでも高い性能が報告されています。さらにPythonバインディング経由で利用する場合でも、C APIを介したゼロコピーでデータの受け渡しが行われるため、エンジンとPython間のオーバーヘッドが極小化されています。これらにより、DataFusionは「極めて高速」なデータ処理を実現しています。
優れた拡張性
DataFusionはプラグイン可能なアーキテクチャを採用しており、ユーザが様々な拡張を行えるのが魅力です。例えば、ユーザー定義関数(UDF)やユーザー定義集計関数(UDAF)を追加して独自の計算ロジックを組み込んだり、カスタムのデータソースやファイルフォーマットをサポートすることもできます。また、デフォルトで提供されるSQL文法以外に独自のクエリ言語を実装し、DataFusion上で実行することも可能です。演算子レベルでも拡張ポイントがあり、カスタムの論理プランノードや実行プランノードを実装して、標準の挙動を差し替えることもできます。この柔軟性により、用途に合わせてDataFusionをベースにした新たなデータ処理システムを構築できるのがメリットです。加えて、Apacheライセンスで提供されており商用利用も含め自由度が高いこと、そしてApacheソフトウェア財団のオープンなガバナンスの下でコミュニティ主導で開発が進められている点も信頼性につながっています。
要するに、Apache DataFusionは「速さ」と「柔軟さ」を兼ね備えたエンジンです。Rustの持つ低レイテンシ・高スループットな処理能力を活かしつつ、プラグイン可能な設計で様々なニーズに適応できるため、開発者にとって非常に魅力的なプラットフォームとなっています。
Apache DataFusionの主な機能:対応フォーマットやSQLサポートなど豊富な機能群を紹介
DataFusionはデータクエリエンジンとして、豊富な機能セットを持っています。以下に主な機能を挙げます。
高度なSQLサポートとDataFrame API
DataFusionは標準的なSQLクエリを幅広くサポートしており、SELECT文やJOIN、集計、サブクエリ、ウィンドウ関数などリッチなSQL機能を利用できます。SQL文法は基本的にANSI SQLに準拠しつつ、一部でHiveやSpark SQLに近い拡張も取り込んでいます(例えばSHOW TABLESなどのメタコマンド)。加えて、Spark/PandasライクなDataFrame APIも提供されており、プログラム上でクエリプランを組み立てることも可能です。DataFrame APIでは遅延評価(Lazy Evaluation)が採用されており、変換操作を連鎖的に定義していっても最終的にcollect()やshow()など結果取得を呼ぶまで実行されません。このため途中の最適化が効き、無駄のないクエリ実行が行われます。
多様なデータフォーマット対応
CSV、Parquet、JSON、Avroといった主要なファイル形式をネイティブにサポートしており、追加のコーディングなしにこれらのデータソースから直接クエリを実行できます。例えばCSVやJSONはSchema推論により自動的にデータ型を認識しますし、ParquetやAvroのような列指向・バイナリ形式からも直接読み取りが可能です。さらに、独自のデータ形式やデータベース接続を扱いたい場合には、DataFusionのTableProviderトレイトを実装することでカスタムデータソースを組み込むこともできます。この柔軟性により、ファイル、クラウドストレージ、データベース等さまざまな場所にあるデータに対して統一的にSQLクエリを実行できます。
クラウドオブジェクトストレージ統合
DataFusionはローカルファイルだけでなく、AWS S3やAzure Blob Storage、Google Cloud Storage上のデータにも対応しています。標準で用意されたObjectStore抽象により、これらリモートストレージ上のファイルをまるでローカルのファイルと同様に扱えます。例えば、S3上のParquetファイルに対しても直接SQLでクエリを発行可能です(後述のCLI例参照)。大規模データをクラウド上に保持して分析するようなケースでも、データをダウンロードすることなく直接クエリを実行できるため効率的です。
クエリプランナーと最適化エンジン
DataFusionは内部にクエリプランナーとコストベース最適化(CBO)エンジンを備えています。クエリを受け取るとまず論理プランを構築し、その上で投影やフィルタ条件のプッシュダウン、結合順序の自動最適化、集計関数の最適化など様々な最適化を適用します。例えば不要な列は早期に削除し、選択クエリのWHERE条件はデータソース読み取り時に適用(プルーニング)することで、処理量を削減します。また統計情報がある場合はそれを基に結合の順番をコスト評価し、自動的に効率の良い順序に組み替えます。このような高度なクエリ最適化により、手作業でチューニングしなくても高性能な実行計画が得られます。
マルチスレッド&ストリーミング実行
実行エンジンはカラムナー&ベクトル化された処理に加え、パイプライン並列(ストリーミング)とタスク並列の両方を取り入れています。各演算は矢じりのようにストリーム処理され、データはチャンク(RecordBatch単位)ごとに順次下流に渡されます。これにより大きなデータセットも逐次処理が可能で、全件をメモリに載せる必要がありません。またシステム内部で自動的にスレッドプールを用いて処理を並列化するため、マルチコアCPUをフル活用してスループットを向上させています。例えばスキャンやフィルタ、集計といった処理はデータパーティションごとにスレッドを分散し並行に実行されます。こうしたスケーラブルな実行設計により、単一ノードでもハードウェアリソースを最大限に引き出せるようになっています。
以上のように、Apache DataFusionはSQLエンジンとして必要な機能一式を備えています。多様なデータソースからの読み取り、高度なSQL文法、強力な実行・最適化エンジンなど、データ分析に求められる要件を満たす包括的なプラットフォームと言えるでしょう。
Apache DataFusionの使い方・セットアップ方法:開発環境構築と基本的な実行手順を詳しく解説
Apache DataFusionを利用するには、目的に応じてRustライブラリとして組み込む方法、Pythonから利用する方法、または付属のCLIツールを使う方法があります。ここでは開発環境のセットアップと、基本的なクエリ実行までの手順を概観します。
1. 環境への組み込み(セットアップ)
Rustで自前のアプリケーションに組み込む場合は、後述のようにCargo経由でDataFusionクレートをプロジェクトに追加します。Pythonから手軽に利用したい場合は、pipでDataFusionのパッケージをインストール可能です(詳細後述)。手軽に試す用途であれば、DataFusionには対話的なコマンドラインCLIも用意されています。まずは自分の用途(組み込みかスクリプト利用か)に合わせて環境を整備しましょう。
2. セッションコンテキストの作成
DataFusionでクエリを実行するには、まずSessionContext(セッションコンテキスト)オブジェクトを生成します。SessionContextはクエリ実行における管理ユニットで、この中にテーブルやビューを登録したり、クエリを発行したりします。Rustの場合は SessionContext::new() で新しいコンテキストを作成し、Pythonの場合は SessionContext() クラスをインスタンス化します。SessionContextは内部にスレッドプールやメモリ管理を持っており、複数のクエリを投げても使い回せます。
3. データソースの登録または読み込み
次に、クエリ対象となるデータをコンテキストに登録します。例えばCSVファイルを分析したい場合、Rustでは ctx.register_csv(“テーブル名”, “ファイルパス”, CsvReadOptions::new()) のように呼び出してファイルをテーブルとして登録します。Pythonの場合は ctx.read_csv(“ファイルパス”) でデータフレーム(テーブル)を直接読み込むことができます。ParquetやJSONも同様で、register_parquet/read_parquet、read_jsonメソッドが用意されています。複数のファイルをまとめて一つのテーブルとして扱うことも可能で、ディレクトリを指定すればその中の同種スキーマのファイル群を一括で読み込めます。データがクラウド上にある場合も、例えば ‘s3://バケット名/パス’ のようなパスを指定することで直接リモートから読み込むことができます。
4. クエリの実行(SQLまたはDataFrame API)
データを登録できたら、いよいよクエリを実行します。方法は2通りあり、SQL文字列を直接実行するか、DataFrame APIでクエリを組み立てるかを選べます。SQLで実行する場合、Rustでは ctx.sql(“SELECT …”) メソッドにクエリ文字列を渡し、非同期的にDataFrame(結果表)オブジェクトを取得します。Pythonでも ctx.sql(“SELECT …”) が利用可能です。DataFrame APIの場合、まず ctx.table(“テーブル名”) でテーブル参照を得てから、.select() や .filter() 等のメソッドをチェインしてクエリ処理を組み立てます。例えばRustでは df = ctx.table(“example”)?.filter(col(“a”).lt_eq(col(“b”)))?… のように記述します。どちらの方法でも、クエリ定義自体は遅延評価されます(すぐには実行されません)。
5. 結果の取得
最後に、クエリ結果を取得します。Rustでは df.collect().await? や df.show().await? を呼び出すことで実行がトリガーされ、結果を集めます。Pythonの場合は df.show() を呼ぶと結果がコンソールに表示され、df.collect() で結果をPythonオブジェクト(ArrowのRecordBatchなど)として取り出せます。DataFusion CLIではクエリを入力すると即座に結果が表示されます。このようにして、目的のデータ抽出や分析結果を得ることができます。
以上が基本的な流れです。まとめると、(1)環境セットアップ → (2)SessionContext作成 → (3)データ読み込み → (4)クエリ実行 → (5)結果取得の手順となります。一連の操作はシンプルで、特にSQLに慣れているユーザであれば直感的に利用できるでしょう。次のセクションでは、具体的なインストール方法について環境別に解説します。
Apache DataFusionのインストール手順:Rust/Python/CLI環境別の導入方法
Apache DataFusionを利用するためのインストール手順を、利用環境別に紹介します。
Rust環境で利用する場合(ライブラリ組み込み)
DataFusionはcrates.ioで公開されているクレートとして提供されています。Cargoのプロジェクトにdatafusionクレートを追加することで利用可能です。最新版のバージョン番号を確認し、例えばCargo.tomlに以下のように依存関係を追記します:
[dependencies]
datafusion = "最新バージョン番号"
tokio = { version = "1", features = ["rt-multi-thread"] }
上記ではマルチスレッド用のTokio runtimeも一緒に指定しています。あとは通常通りcargo buildすれば、プロジェクト内でDataFusionのAPIが利用できるようになります(コード中で use datafusion::prelude::*; などをインポート)。
※DataFusionはデフォルトで主要な機能(CSV/Parquetなど)が有効になりますが、不要な機能を削減したい場合はCargoでfeatureフラグを調整することもできます。
Python環境で利用する場合
PythonバインディングとしてdatafusionパッケージがPyPIで提供されています。pip経由でインストール可能で、以下のコマンドを実行してください:
pip install datafusion
インストール後、Pythonスクリプト上で from datafusion import SessionContext 等とインポートすることでDataFusionのPython版APIが使用できます。例えば先述の手順と同様に、ctx = SessionContext() でコンテキストを作成し、ctx.read_csv(…)やctx.sql(…)でクエリを実行できます。なおPython版では内部的にRustのエンジンを呼び出しており、pyarrowを利用したゼロコピー連携によって高速に動作します。
CLIツールを使用する場合
DataFusionには対話型のSQLシェルであるdatafusion-cliが付属しています。CLIを使うことで、プログラムを書かずに直接SQLクエリを試すことができます。Rust開発環境がある場合は、Cargoから直接インストール可能です:
cargo install datafusion-cli
上記コマンドによりデフォルトの最新バージョンのCLIがビルド・インストールされます(例: v37.0.0がインストールされたログが表示されます)。また、macOSユーザであればHomebrew経由でもインストールできます:
brew install datafusion
インストール後、ターミナル上でdatafusion-cliコマンドを実行するとシェルが起動します。datafusion-cliでは現在のワーキングディレクトリがデフォルトのデータ検索パスとなり、各種コマンドやクエリを入力できます。例えばhelp;と入力すればヘルプが表示されます。終了するには.exitまたはCtrl+Dを入力します。
以上が環境別の導入方法です。Rust組み込みの場合はクレート追加、Pythonの場合はpip、CLIの場合はcargoまたはbrewでインストール、と覚えると良いでしょう。自分の使い方に合った方法でApache DataFusionを導入し、次に示すようなクエリ実行を試してみてください。
Apache DataFusionの基本的なSQLクエリ例:簡単なSELECT文でデータを抽出する方法
それでは、Apache DataFusionで基本的なSELECTクエリを実行する例を見てみましょう。ここでは、簡単なデータを用意してCSVファイルに対してSELECT文を発行し、結果を取得する一連の流れを示します。
まず、例となるデータを用意します。以下のようなdata.csvというファイルがあり、内容は2列(カラムaとb)を持つシンプルなものとします(値は1行のみ):
a,b
1,2
DataFusion CLIを使って、このCSVファイルからデータを抽出してみます。CLIを起動し、次のようにSELECTクエリを実行します。
> SELECT * FROM 'data.csv';
+---+---+
| a | b |
+---+---+
| 1 | 2 |
+---+---+
1 row in set. Query took 0.007 seconds.
上記の例では、data.csvというファイルを直接テーブルのように扱い、全件選択するクエリ(SELECT *)を発行しています。結果として、CSVに含まれていた1行のデータ(a=1,b=2)が出力されていることが確認できます。このように、DataFusion CLIではファイルパスをシングルクォートで囲んで直接指定することで、そのファイルをデータソースとしてクエリを実行できます。CSV以外にも、ParquetやJSONファイルについて同様の操作が可能です。
RustやPythonのAPI経由で同様のクエリを行う場合は、前述したようにまずファイルを登録してからクエリを実行します。例えばRustの場合、先ほどと同じdata.csvを使うなら:
let ctx = SessionContext::new();
ctx.register_csv("example", "data.csv", CsvReadOptions::new()).await?;
let df = ctx.sql("SELECT * FROM example").await?; // テーブル "example" に対してクエリ実行
df.show().await?; // 結果を表示
このコードでは、ファイルを”example”という名前のテーブルとして登録し、そのテーブルに対してSELECT *を実行しています。結果として、CLIで見たのと同じ内容が表示されます。Pythonでも流れは同様で、
from datafusion import SessionContext
ctx = SessionContext()
df = ctx.read_csv("data.csv")
df.show()
のようにすれば同様にCSVの内容が表示されます。
以上のように、非常にシンプルなSELECTクエリであっても、Apache DataFusionを使うことでファイルから直接データを抽出し処理することができます。条件を付けた抽出(例: WHERE句)や、複数行への対応、ソートや集計関数の適用などももちろん可能です。基本を押さえたところで、次節以降ではより高度なデータ形式の扱いやユースケースについて見ていきましょう。
Apache DataFusionでのJSONやParquetファイルの読み込み:ファイル形式別のデータ取り込み方法
Apache DataFusionは様々なファイル形式に対応しており、特にJSONとParquetについては追加のプラグイン無しで直接読み込み・クエリ実行が可能です。それぞれの形式について、具体的な取り込み方法とポイントを解説します。
JSONファイルの読み込み
DataFusionはJSONファイルを扱うための機能を備えています。基本的にはニューライン区切りJSON(NDJSON)形式、すなわち1行に1レコードのJSONオブジェクトが記述されている形式を想定しています。Python APIの場合、SessionContext.read_json(“file.json”)メソッドを使うことで簡単にJSONファイルを読み込み、データフレーム(表形式のデータ)として利用できます。例えば:
ctx = SessionContext()
df = ctx.read_json("data.json")
df.show()
のようにするだけで、data.json内のJSONオブジェクト群が表データに展開され、表示できます。Rust APIでも同様に、ctx.read_json(“ファイルパス”, options) や ctx.register_json(“テーブル名”, “ファイルパス”, options) といった関数が提供されています(内部ではNdJsonReadOptionsでオプション指定可能)。注意点として、JSONはネストした構造を持つ場合がありますが、現時点のDataFusionでは完全なネスト構造(配列や構造体フィールド)のクエリサポートは限定的です(これは後述する注意点で触れます)。単純なフラットなJSONレコードであれば問題なくテーブルとして取り込めますが、複雑な入れ子データの場合は事前にフラット化するか、各フィールドを抽出するクエリを書く必要があります。
Parquetファイルの読み込み
Parquetは列指向のバイナリフォーマットで、分析用途で広く使われています。DataFusionはParquetをネイティブサポートしており、非常に簡単に読み込めます。PythonではSessionContext.read_parquet(“file.parquet”)を呼ぶだけで、そのParquetファイル全体をデータフレームとして扱えます。例えば:
ctx = SessionContext()
df = ctx.read_parquet("data.parquet")
df.show()
とすればParquetファイルの内容が読み込まれます。大量の列を持つParquetでも、必要な列だけをクエリで指定すればDataFusion側でカラムプルーニング(不要列の読み飛ばし)を行うため効率的です。Rustでも ctx.register_parquet(“table”, “data.parquet”) でテーブル登録し、ctx.sql(“SELECT … FROM table”) とするだけで同様に利用できます。Parquetはスキーマ情報を内部に含むため、DataFusion側で特にカラム型を指定する必要もなく便利です。
上述のように、DataFusionではファイル形式ごとに専用の読み込み関数が用意されており、数行のコードでデータを取り込むことができます。さらに、DataFusion CLI上でも同様に、JSONやParquetファイルはパスを直接指定してクエリ可能です(例えば SELECT count(*) FROM ‘s3://bucket/data.parquet’; のように記述)。これにより、CSVに限らず様々なデータソースに対して統一的にSQLでアドホックな分析を行うことができます。
Apache DataFusionのユースケース・活用事例:組み込みSQLエンジンとしての活用やデータ分析基盤への応用例
Apache DataFusionはその高速性と柔軟性から、さまざまな現場で活用されています。いくつか代表的なユースケース(活用事例)を紹介します。
アプリケーションへの組み込みSQLエンジン
DataFusionは開発者向けのライブラリであるため、自社アプリやサービスにSQLクエリ機能を組み込む用途で多用されています。例えば、新規にデータベースエンジンを開発する際、そのクエリ実行部分にDataFusionを採用するケースがあります。実際に、分散タイムシリーズデータベースのHoraeDBなど、特定用途に特化した分析データベースのクエリ処理にDataFusionが使われています。また、独自のクエリ言語を提供するプロジェクト(例えばSQL風ではない新言語のエンジン)でも、その内部実行をDataFusionに委ねることで効率化する例があります。このように、DataFusionを組み込めばゼロからSQLエンジンを実装する必要がなく、自前アプリに高度なクエリ機能を迅速に追加できるメリットがあります。
データ分析ツール/基盤への統合
DataFusionはデータフレームライブラリやBIツールのエンジン部分にも応用されています。例えば、Pythonの分散処理フレームワークであるDaskにSQLインターフェースを提供する「Dask SQL」は、クエリ実行エンジンとしてDataFusionを採用しています。これにより、Dask上で動作する大規模データに対してもSQL文で操作が可能となっています。また、VegaFusionというデータ可視化アクセラレータではDataFusionを用いてバックエンド処理を高速化しています。さらに、InfluxDB(時系列データベース)の最新版ストレージエンジンはDataFusionをクエリエンジンとして組み込み、SQLによる時系列データ問い合わせを実現しています。このように、既存のデータ分析基盤やツールに「エンジンとして潜り込む」形でDataFusionが利用されるケースが増えています。エンドユーザは意識せずとも、裏側でDataFusionが高速処理を支えているという状況です。
分散クエリエンジン/ビッグデータ処理
DataFusion自体は単一プロセスのエンジンですが、これをスケールアウトさせる試みも行われています。代表例がApache Ballistaで、DataFusionをベースにした分散クエリエンジンです。Ballistaでは各ノードでDataFusionが動作し、複数ノードにまたがる大規模データに対して並列にクエリを実行できます。Rust製であるため、SparkなどJava系エンジンより低オーバーヘッドでスピーディな分散処理が可能になると期待されています。また、Apache SparkそのものにDataFusionをネイティブ実行エンジンとして統合する試みもあります。DataFusion CometやBlazeといったプロジェクトでは、SparkのクエリをDataFusionで実行することで大幅な高速化を実現しています。例えばBlazeはSparkのプラグインとして動作し、Sparkの各タスクをRustのDataFusionで処理することで性能向上を図っています。このように大規模データ処理基盤においても、DataFusionがその性能を発揮するケースが生まれています。
これらの事例から分かるように、Apache DataFusionは単なるライブラリ以上の広がりを見せています。エッジからクラウドまで、多様なシステムの中核でSQL処理を支える存在となっており、今後もデータ基盤の重要な構成要素として採用が進むことが予想されます。
Apache DataFusionと他プロジェクト(DuckDB等)との比較:DuckDBやPolarsとの違いと選び方のポイント
近年、インメモリ分析エンジンとしてはApache DataFusionのほかにもDuckDBやPolarsといったプロジェクトが注目されています。それぞれ特徴がありますが、DataFusionとは焦点としているユーザ層やユースケースが異なります。ここではDuckDBとPolarsを中心に比較し、違いと使い分けのポイントを述べます。
DuckDBとの比較
DuckDBは組み込み型のOLAPデータベースで、シングルファイルのデータベースとして動作する「SQLiteの分析版」とも呼ばれる存在です。DuckDBは独自のストレージフォーマット(ファイル)を持ち、SQLを直接対話的に実行してデータをインポートしたりエクスポートしたりすることができます。つまり、エンドユーザやデータサイエンティストがツールとしてそのまま使える完成品データベースという色合いが強いです。一方、DataFusionは前述の通りライブラリ/エンジン寄りの位置付けであり、DuckDBのようにテーブルを保存しておく機能やインデックス管理機能などは持ちません。言い換えれば、DuckDBは「すぐ使える分析DB」、DataFusionは「組み込み用のクエリ実行エンジン」です。またDuckDBはC++で実装されているのに対し、DataFusionはRustで書かれている点も異なります。性能面では双方ともに高速で、Parquetなどの直接クエリに強みを持ちますが、DuckDBはシングルプロセス内で完結する分析に最適化されており、DataFusionはシステム構築の部品として拡張性を優先しているという違いがあります。選択のポイントとしては、「分析用の軽量データベースが欲しい」場合はDuckDB、「自前のアプリにSQL処理機能を組み込みたい」場合はDataFusionがフィットすると言えるでしょう。
Polarsとの比較
PolarsはRust製の高速データフレームライブラリで、Pythonなどからも使用されています。PolarsもApache Arrowメモリフォーマットを内部で利用しており、シングルノード上でのデータ操作に極めて高い性能を発揮します。ただし焦点は「データフレーム操作API」にあり、SQLインターフェースは一部提供されていますが主役ではありません。一方DataFusionはSQLとデータフレームの両APIを備えていますが、プロジェクトの性質上開発者が自分の用途に合わせて拡張できる設計になっています。Polarsは計算エンジンとしては強力ですが、DataFusionほど汎用的な拡張ポイント(カスタム演算子や独自最適化の組み込み等)は用意されていません。またPolarsはPythonユーザを含めたエンドユーザ向けに使いやすさが追求されていますが、DataFusionはエンドユーザより開発者寄りのツールであると言えます。選択のポイントとしては、「一台のマシン上でPython/Rustから手軽に高速データ処理したい」場合はPolarsが使いやすく、「自分でデータ処理基盤を作り込みたい、他システムと組み合わせたい」という場合はDataFusionが適しています。なおPolarsとDataFusionは競合関係というより、PolarsからDataFusionのエンジンを呼び出すなど相互運用も可能です(Arrowメモリフォーマットを共有しているため、両者間のデータ受け渡しはゼロコピーで行えます)。
まとめると、DuckDBは手軽な組み込み分析DB、Polarsは高速データフレームライブラリ、DataFusionは組み込み向けSQLエンジンとして位置付けられます。それぞれ強みが異なるため、用途に応じて使い分けることが重要です。DataFusionはApacheライセンスかつApache財団の運営するオープンコミュニティ製である点でも、中立性や将来性を重視するプロジェクトに採用しやすいメリットがあります。
Apache DataFusionの注意点・よくあるエラーと対策:知っておきたい導入時の落とし穴とその対処法
最後に、Apache DataFusionを導入・利用する際に注意すべき点や、陥りがちなエラーとその対策についてまとめます。
永続的なストレージを持たない
前述の通り、DataFusion自体にはデータを蓄積する機能(いわゆるデータベースとしてのストレージ層)がありません。そのため、テーブルデータは毎回起動時に外部ファイルから読み込むか、メモリ上に作成する必要があります。一時的にテーブルをメモリ内に保持すること(SessionContextの寿命中)はできますが、プロセスを終了すれば消えてしまいます。対策: 永続化が必要な場合は、Parquetなどの外部ファイルにエクスポートしておく、あるいは別途DuckDBやデータベースと併用して保存する、といった方法を取ります。また、DataFusionをバックエンドに用いている場合でも、上位レイヤーでキャッシュやストレージ管理を実装して永続化を補う設計が考えられます。
メモリ使用量と大規模データ
DataFusionはインメモリ処理が基本であり、巨大なデータセットや結合クエリを扱う際にはメモリを大量に消費します。場合によってはメモリ不足(Out-Of-Memory)エラーが発生することもあります。特にフィルタの無い大きな結合や、高カードリナリティのグループ集計はメモリ負荷が大きくなりがちです。対策: 可能であればクエリで適切にフィルタや列指定を行い、処理データ量を絞るようにします(DataFusionはフィルタや投影のプッシュダウンを自動で行いますが、不要な全読み込みを避けるクエリを書くことも重要です)。また、DataFusionにはメモリ使用量制限やスピル(ディスク退避)機能もある程度備わっており、CLI起動時に環境変数DATAFUSION_EXECUTION_MEMORY_LIMITを設定することでメモリ上限を指定できます。上限を超えた場合は一部処理がディスクにスワップされることでOOMを防げる可能性があります(完全ではないので注意)。それでも対応困難な場合は、前述のBallistaのように分散処理にスケールアウトしてデータを分割処理することも検討してください。
識別子(テーブル名・カラム名)の大文字小文字
DataFusionのSQLパーサは、標準SQLと同様に識別子を大文字小文字区別なく扱います。実際にはすべて小文字に正規化されるため、たとえばCSVの列名に大文字が含まれている場合、SQLクエリを書く際には小文字で指定するかダブルクオートで囲む必要があります。例えばCSVにNameという列がある場合、SELECT name FROM …と書くか、区別したい場合はSELECT “Name” FROM …のように引用符で囲みます。これを怠ると「列が見つからない」エラーになることがあります。対策: 列名・テーブル名は基本的に小文字にするか、大小混在する場合はダブルクオートで囲ってSQLで指定するようにしましょう。DataFusionのDataFrame APIではcol(“Name”)のようにそのまま書くと内部でパース時に同様の問題が起こるため、col(“\”Name\””)のようにエスケープするか、ident(“Name”)関数を使って大文字を明示する必要があります。
未サポートのデータ型・機能
DataFusionは多くのSQL機能をサポートしていますが、まだ発展途上の部分もあります。例えばネスト構造を持つ複雑なデータ型(StructやListなど)への完全な対応は現在開発中であり、現行バージョンではそれらを直接クエリすることが難しい場合があります。また、一部のSQL関数や機能(例えば時系列解析用の特殊関数や、トリガー/ストアドプロシージャのようなデータベース固有機能)は提供されていません。対策: ネストデータについては、事前にJSONをフラットに正規化してから取り込む、必要なフィールドだけ抽出してクエリする、といった工夫をします。将来的にはネスト対応も計画されており、バージョンアップで機能強化が見込まれます。また、ない機能はPythonやRust側で補完する(例えば特殊な分析は結果をDataFrameに持ち帰ってから自前で処理する)ことも検討してください。
Rust非同期実行の落とし穴
RustでDataFusionを使う際、クエリ実行(ctx.sql()やdf.collect()など)は非同期(async)関数となっています。そのため、Tokioなどのランタイム上で実行しないとFutureが完了しません。初心者が陥りがちなのは、メイン関数を通常のfn main()のままにして.awaitを呼んでしまいエラーになるケースです(「there is no reactor running」等のエラー)。対策: #[tokio::main]アトリビュートを付与した非同期メイン関数にする、もしくはtokio::spawnやblock_onで明示的に非同期コンテキストを用意してからDataFusionの処理を呼び出すようにします。公式ドキュメントのサンプルコードでもメイン関数に#[tokio::main]が付与されているので参考にしてください。環境構築節のコード例のように、Tokioのマルチスレッドランタイムをfeaturesで有効化しておくとスムーズです。
以上、Apache DataFusionを使う際の注意点をまとめました。これらを踏まえて導入・運用すれば、思わぬエラーやハマりどころを事前に回避できるでしょう。高速で柔軟なDataFusionをぜひ適切に活用し、データ処理基盤の強化に役立ててください。