Amazon Bedrock AgentCoreのご紹介: AIエージェントをあらゆる環境で安全にデプロイ

目次
- 1 Amazon Bedrock AgentCoreのご紹介: AIエージェントをあらゆる環境で安全にデプロイ
- 2 Amazon Bedrock AgentCoreの特徴と機能一覧: 主なメリットとサービス内容
- 3 Amazon Bedrock AgentCoreの使い方と導入手順: 初期設定から利用開始まで
- 4 企業におけるAmazon Bedrock AgentCoreの活用事例: 導入効果とユースケース
- 5 Amazon Bedrock AgentCoreの主要コンポーネント解説: RuntimeやGatewayなど各機能の詳細
- 6 Amazon Bedrock AgentCore Runtime入門: サーバーレス環境でのAIエージェント運用の基礎
- 7 Amazon Bedrock AgentCoreでAIエージェントをスケールする方法: 大規模運用を支える仕組み
- 8 Amazon Bedrock AgentCoreのセキュリティとガバナンス: 安全性・信頼性を担保する仕組み
- 9 Amazon Bedrock AgentCore APIの詳細と活用法: SDK連携や統合のポイント
- 10 Amazon Bedrock AgentCoreの最新アップデートと今後の展望: プレビューから未来へ
Amazon Bedrock AgentCoreのご紹介: AIエージェントをあらゆる環境で安全にデプロイ
Amazon Bedrock AgentCoreは、AIエージェントを安全かつ大規模に展開・運用するために設計されたAWSの新サービスです。あらゆるフレームワークやモデルで構築されたエージェントを、強固なセキュリティと信頼性のもとで迅速に本番環境へ移行できるよう支援します。このサービスにより、プロトタイプ段階のエージェントを数百万ユーザ規模のアプリケーションへとスムーズに拡張することが可能になります。
Amazon Bedrock AgentCoreとは何か?サービス概要を解説
Amazon Bedrock AgentCoreとは、複数のエンタープライズ向け機能を統合したフルマネージドサービス群です。開発者はAgentCoreを利用することで、自身のAIエージェントをAWS上に安全にデプロイし、運用できます。このプラットフォームは、LangChainやStrands Agentsなどのオープンソースフレームワークや独自モデルを問わず利用可能で、柔軟に適用できる点が特徴です。2025年7月にプレビュー版が発表され、企業がエージェントを実験段階から本番導入に進める際の課題を解決することを目指しています。さらに、AgentCoreにはエージェントの実行基盤(Runtime)をはじめ、ツール連携やメモリ管理、認証基盤、監視機能などが含まれており、AIエージェント運用に必要な要素が一つのサービスにまとめられています。要するに、Amazon Bedrock AgentCoreはAIエージェントを安全・迅速にスケールさせるための土台となるサービスといえます。
AIエージェント安全デプロイの背景とニーズ
AIエージェントが注目を集める一方で、企業がそれらを本番環境に導入するには新たな課題が生じます。従来、生成AIの活用はプロトタイプ止まりになりがちで、多くのケースで本番への展開に踏み切れない原因はセキュリティや信頼性の懸念、運用の複雑さでした。エージェントは複数のシステムやツールに跨って自律的に動作するため、適切な権限制御や監視体制が無ければ機密データの漏洩や誤動作のリスクがあります。また、大規模ユーザに対応するためのスケーラビリティ確保やダウンタイムゼロの運用も必須です。こうした背景から、AIエージェントを安全にデプロイするための基盤が強く求められてきました。AgentCoreはまさにそのニーズに応えるために設計されています。
例えば、オープンソースのエージェント開発フレームワークを使えば高度なエージェントを作成できますが、実際に組織のシステムに組み込み運用するには、セッション管理や認証、長期メモリの保存、監査ログの取得など多岐にわたるインフラ整備が必要でした。AgentCoreを利用すれば、こうした基盤構築の手間を大幅に削減できるのです。
あらゆる環境で動作する柔軟性: フレームワーク非依存
Amazon Bedrock AgentCoreはあらゆる環境・フレームワークでのエージェント利用を可能にする柔軟性を備えています。Bedrock上のモデルだけでなく、社内で学習したカスタムモデルや他社サービス上のモデルであっても、AgentCoreに統合して運用することができます。また、CrewAIやLangGraph、LlamaIndex、Strands Agentsといった人気のオープンソースエージェントフレームワークとも互換性があり、既存のエージェント開発資産をそのまま活用可能です。特定のプログラミング言語やツールにロックインされない設計となっており、開発チームごとの技術スタックに応じて導入しやすいのも利点です。さらに、AgentCoreの各機能は独立して使用することも組み合わせて使用することもでき、必要に応じて段階的に導入することができます。このように高い柔軟性を持つAgentCoreを利用すれば、企業は自社の環境や要件に合わせてエージェント基盤を構築し、既存システムにスムーズに統合できます。
スケーラブルなAIエージェント運用の重要性
AIエージェントをスケーラブルに運用できることは、企業にとって非常に重要です。少人数のテスト環境では問題なく動作するエージェントも、ユーザー数が数千・数万と増えれば、応答速度の低下や処理の遅延、リソース枯渇などが懸念されます。特にエージェントは複雑な推論や外部API連携を含むため、負荷のばらつきが大きく、従来の固定的なサーバーでは効率的な運用が難しい場合があります。AgentCoreはサーバーレスかつ自動スケーリングな基盤を提供することで、このスケーラビリティ課題を解決します。需要に応じてエージェントの実行環境が即座にスケールアウトし、多数の並行リクエストにも安定して応答可能です。また、モニタリング機能によりパフォーマンスを常時可視化できるため、ボトルネックの検知やリソース最適化も容易になります。大規模なユーザーベースを持つ企業でも、AgentCoreを利用すれば安心してAIエージェントを展開できるでしょう。
AgentCoreが解決する課題: インフラ負担の軽減
AgentCoreが解決する主な課題としては、インフラ構築や運用面の重荷からの解放が挙げられます。従来、エージェントシステムを本番展開するには、開発者はセッション管理の仕組みを一から構築し、ユーザーやエージェント自身のアクセス権限を適切に管理し、対話の履歴や知識を保持するメモリ機構を用意する必要がありました。さらに、それらをすべて高可用かつ安全に動作させるための監視・ログ基盤も欠かせませんでした。AgentCoreは、これら複雑な機能セットをAWS上のマネージドサービスとして提供することで、開発チームがエージェント固有のロジック開発に専念できるようにします。セキュリティとコンプライアンスを担保しつつ、迅速にエージェントをリリースできるため、新しいAIソリューションの価値創出までの時間を大幅に短縮できます。
要するに、AgentCoreの活用によってインフラ周りの技術的負担が軽減され、エージェントの機能開発とビジネスへの応用にリソースを集中できるというメリットがあります。
プレビューリリースとサービス開始の背景
Amazon Bedrock AgentCoreは2025年7月のAWS Summit New Yorkで初めて発表されました。これはAWSが提唱する「エージェンティックAI(Agentic AI)」戦略の中心的なサービスとして位置付けられており、生成AIを活用した自律エージェントを企業が本格導入するための土台となるものです。AWSは既に大規模言語モデルの提供基盤としてBedrockを展開していますが、AgentCoreの登場によって、モデルの提供に留まらずエージェントの実行・管理まで含めた包括的なソリューションが揃ったことになります。また、AgentCoreのプレビュー版提供開始に合わせて、AWSマーケットプレイスで事前構築されたエージェントやツールの提供、新たな投資プログラム(Generative AI Innovation Centerへの1億ドル投資)なども発表されており、エージェント技術の普及に向けたAWSの本気度が伺えます。
Amazon Bedrock AgentCoreの特徴と機能一覧: 主なメリットとサービス内容
Amazon Bedrock AgentCoreが提供する主な特徴と機能を以下にまとめます。エンタープライズでAIエージェントを運用するために不可欠な要素を網羅している点が、このサービスの強みです。AgentCoreならではの柔軟性やセキュリティ機能により、企業は安心してAIエージェントを活用できます。
AgentCoreの柔軟性: フレームワーク非依存・モデル非依存
AgentCoreは特定のAIフレームワークやモデルに依存しない設計になっています。例えば、社内で開発した独自モデルや、OpenAIのAPI、Googleの生成AIプラットフォーム上のモデルなど、出自を問わず統合可能です。同様に、LangChainやStrands Agents、Google’s ADKなどさまざまなエージェント開発フレームワークで構築したAIエージェントをAgentCore上で稼働させることができます。これにより、既存の開発資産を活かしつつAgentCoreを導入できるため、企業の技術選択の自由度が損なわれません。また、AgentCoreの各機能は独立して利用可能なため、一部の機能だけを段階的に導入するといった柔軟な運用も可能です。必要に応じてRuntimeだけを使い、後からMemoryやGatewayを統合するといった拡張も簡単に行えます。このような高い柔軟性が、AgentCoreをさまざまな環境に適応できる基盤たらしめているのです。
セッション隔離と長時間実行による高い安全性と信頼性
AgentCore最大の特徴の一つが、各エージェントセッションを完全に分離した実行環境を提供することです。これにより、あるユーザーとの対話内容やデータが別のユーザーのセッションに漏えいすることなく、機密性が保たれます。各セッションはサンドボックス化された空間で実行され、外部から遮断されているため、エージェントが誤って不正な操作を行ったり過剰な権限にアクセスしたりするリスクも低減されます。さらに、AgentCore Runtimeは業界最長クラスの長時間実行をサポートしており、最大8時間に及ぶ複雑なマルチステップタスクも一度のセッションで処理可能です。
従来、長時間の処理が必要な場合は複数のシステムに分散するなど工夫が必要でしたが、AgentCoreを使えば単一のエージェントが時間のかかるワークフローを最後まで実行できます。セッション隔離と長時間実行の両立により、信頼性と安全性を兼ね備えたエージェント運用が実現します。
組み込みツールとゲートウェイによる機能拡張
AgentCoreにはAIエージェントの能力を拡張するための組み込みツールと、外部サービスを接続するためのゲートウェイ機能が用意されています。組み込みツールとして提供されるのは、安全なコード実行環境「AgentCore Code Interpreter」と、クラウド上で動作する高速なブラウザ環境「AgentCore Browser」です。Code Interpreterを使えばエージェントがPythonなどのコードを記述・実行して高度な計算やデータ処理、グラフ生成などを行えます。また、Browserツールによりエージェントがウェブサイトを直接ナビゲーションしたりフォーム入力を行うなど、ウェブ上のタスクを自動化することも可能です。
一方、AgentCore Gatewayは既存のAPIやデータソースをエージェントが利用できるツールとして登録するための仕組みです。数行のコードで社内のREST APIやデータベースをエージェント対応ツールに変換でき、エージェントはそれらの情報源にアクセスして最新のデータや機能を活用できます。Gatewayにより、社内システムやサードパーティサービスとの統合が容易になり、エージェントの適用範囲が飛躍的に広がります。
短期・長期メモリによるコンテキスト保持
AgentCoreにはエージェントに「記憶」を与えるためのメモリ機能が含まれています。短期メモリ(セッションメモリ)は、ユーザーとの対話中に発生した情報を一時的に保持し、会話の文脈をエージェントが理解し続けることを可能にします。一方、長期メモリはセッションを超えて知識やユーザーの嗜好を保存し、次回以降の対話や他のエージェントとも共有できる永続的な記憶領域です。AgentCore Memoryを活用すれば、エージェントは過去のやり取りや学習内容を踏まえて応答を生成でき、よりパーソナライズされたインテリジェントな振る舞いが実現します。また、メモリの保持期間や要約・保存の方法も柔軟に設定可能で、企業のデータポリシーに沿った形でエージェントの知識を管理できます。
従来、エージェントに長期的な文脈を持たせるには外部データベースの実装などが必要でしたが、AgentCoreではこれが標準機能として提供されるため、開発者は難しいインフラ構築を意識せず高度な対話エージェントを開発できます。
リアルタイム監視と可観測性の確保
本番環境でエージェントを安定運用するには、挙動をしっかりと監視できることが不可欠です。AgentCoreにはCloudWatchと連携したオブザーバビリティ(可観測性)機能が組み込まれており、エージェントのパフォーマンス指標をリアルタイムで把握できます。例えば、リクエストの処理回数や消費したトークン数、応答までのレイテンシ、エラー発生率などのメトリクスがダッシュボードで視覚化されます。開発者や運用担当者はこれらのデータを元に、エージェントの健全性を評価し、必要に応じて対策を講じることができます。さらに、各エージェントの挙動ログや決定の過程も追跡可能なため、問題発生時のデバッグやコンプライアンスのための監査証跡としても活用できます。AgentCore Observabilityにより、エージェントが実際にどのように動作しているかを詳細に監視・分析できるのです。
これにより、企業はAIエージェントの運用状況を常時把握し、サービスレベルの維持や継続的な改善に役立てることができます。
既存認証基盤との統合による権限管理
エンタープライズ環境では、AIエージェントが操作できる範囲やアクセス権を厳密に管理することが求められます。AgentCoreのIdentity機能を利用することで、エージェント用の認証・認可を既存のアイデンティティ基盤と統合できます。具体的には、Amazon CognitoやMicrosoft Entra ID (旧称Azure AD)、Oktaなどの企業向けIDプロバイダーと連携し、エージェントに与える権限を一元管理可能です。また、OAuth 2.0に対応したGitHubやGoogle、Salesforce、Slackなどの外部サービスとも認証統合が行えます。これにより、エージェントがユーザーになり代わってAWSリソースや外部APIを呼び出す際にも、最小権限の原則に基づいた一時的な認証情報が付与され、安全性が確保されます。複雑な認可ロジックを開発者が個別に実装する必要がなく、既存の社内セキュリティポリシーに沿った運用が可能となります。
AgentCoreを用いれば、AIエージェントによる社内外システムへのアクセスも常に統制された状態で実行でき、企業のガバナンス要件を満たすことができます。
インフラ管理不要のフルマネージド提供
AgentCoreはAWS上のフルマネージドサービスとして提供されるため、ユーザー企業が自らサーバーやコンテナ基盤を管理する必要がありません。エージェント実行に必要な計算リソースの割り当てやスケーリング、障害対策といったインフラ運用はすべてAWS側で自動的に処理されます。そのため、インフラ管理に費やしていた時間やコストを大幅に削減可能です。例えば、高負荷時のスケールアウト設定や、セキュリティパッチ適用のためのメンテナンス作業といった日常の管理タスクから解放され、より創造的なエージェントの改善や新機能開発に集中できます。AWSの高度な運用ノウハウが組み込まれているため、可用性や耐障害性も確保されており、小規模なチームでも安心して本番環境でエージェントを走らせることができます。このように、AgentCoreの導入によってインフラ管理から解放され、AIエージェントの価値創出に専念できる点も大きな利点と言えます。
Amazon Bedrock AgentCoreの使い方と導入手順: 初期設定から利用開始まで
ここでは、Amazon Bedrock AgentCoreの基本的な利用方法と導入の手順について解説します。初めてAgentCoreを使用する開発者や企業がスムーズにサービスを立ち上げられるよう、準備段階からエージェントのデプロイ、テストまでの流れを順を追って説明します。事前準備すべき事項から実際のコンソール操作、さらには開発者向けのSDK活用まで、順を追って確認していきましょう。
AgentCore利用開始に必要な準備と前提条件
Amazon Bedrock AgentCoreを利用するには、まずいくつかの前提条件と準備が必要です。基本としてAWSアカウントが必要であり、AgentCoreは現時点ではプレビュー提供であるため、利用を希望する場合はAWSへの申し込みや利用可能リージョンの確認が必要となります(2025年時点では、米国東部(バージニア北部)、米国西部(オレゴン)、アジアパシフィック(シドニー)、欧州(フランクフルト)等でプレビュー利用可能)。また、エージェントをデプロイするために、あらかじめエージェントのコードやモデルを用意しておくことも重要です。例えば、Strands AgentsやLangChainで構築した対話エージェントのスクリプトが手元にある場合、それをAgentCore上で動かすことになります。さらに、AWS環境における基本的な権限設定(IAMユーザーやロールの作成)も準備段階で検討しておきましょう。エージェントがAWSリソースにアクセスする場合に備えて、適切なIAMロールを用意し、必要最小限のポリシーを付与しておくことが推奨されます。
AgentCoreコンソールへのアクセス方法と初期設定
準備が整ったら、AgentCoreのコンソールにアクセスして設定を開始します。AWSマネジメントコンソール内で「Bedrock AgentCore」と検索すると、AgentCore専用の管理画面に移動できます(Bedrockとは別個のサービス画面です)。初めて利用する際には、AgentCoreのダッシュボードから「エージェントをホストする」等のオプションを選択することでデプロイ作業を始められます。エージェントのデプロイ前に行う初期設定として、エージェントの識別名や説明、利用するリージョンの選択、ネットワーク設定(VPCやサブネットの指定など)を確認します。また、エージェントに関連するIAMロールの設定画面が表示され、エージェントが使用するロールや権限をここで指定します。例えば、エージェントがS3や他のAWSサービスにアクセスする必要がある場合は、それに対応したロールを紐付けます。初期設定を完了すると、いよいよエージェントのデプロイ作業へ移行できます。
AIエージェントの登録: AgentCore Runtimeへのデプロイ手順
AgentCore Runtimeへエージェントをデプロイする手順では、まず実行するエージェントプログラムを登録します。エージェントはコンテナイメージとして実行されるため、あらかじめエージェントのコードをDockerコンテナ化し、Amazon ECR(Elastic Container Registry)にプッシュしておきます。コンソール上で「エージェントのホスティング」に進むと、このECR上のコンテナイメージを指定する項目があります。エージェントのイメージを選択し、必要に応じて環境変数やメモリ・CPUなどの実行リソース設定を行います。また、エージェントが対話を開始するためのエントリポイント(関数やメソッド)を指定する必要があります。Strands Agents等のフレームワークで開発している場合は、AgentCore SDKを用いてBedrockAgentCoreAppクラスをインスタンス化し、エージェント呼び出し関数を登録する形になります。設定が完了したら、デプロイを実行します。AgentCore Runtimeがバックエンドでサーバーレス環境にエージェントをデプロイし、エンドポイントの準備が整います。数分ほどでエージェントが稼働状態となり、次のステップである動作確認へと進めます。
組み込みツールとゲートウェイの設定方法
エージェントをデプロイした後、その能力を拡張するために組み込みツールやゲートウェイを設定することができます。組み込みツール(Code InterpreterやBrowser)はAgentCoreの一部として提供されているため、必要に応じて有効化するだけでエージェントがそれらを利用可能になります。例えば、エージェントにウェブ閲覧機能を持たせたい場合、AgentCore Browserツールを有効にする設定を行います。ゲートウェイの設定では、エージェントが社内システムやサードパーティAPIにアクセスできるよう、新しいゲートウェイを作成します。コンソールの「ゲートウェイ」画面で、接続先となるサービスの種類を選択します。AWS Lambda関数や既存のREST API、SalesforceやSlackなど特定の統合先を指定することも可能です。ゲートウェイ作成時には、必要に応じて認証情報(APIキーやOAuthクライアントID/シークレット)や、ゲートウェイが使用するIAMロール、暗号化のためのKMSキーなどを設定します。これらの設定により、エージェントは安全に外部ツールを利用できるようになります。
エージェントのエンドポイント公開と動作テスト
エージェントのデプロイおよび設定が完了すると、AgentCoreはそのエージェント用のエンドポイント(API URL)を提供します。このエンドポイントを通じて、外部からエージェントに対する問い合わせ(プロンプト)を送信し、応答を得ることができます。まずコンソール上で、デプロイ済みエージェントのステータスが「稼働中(Running)」になっていることを確認しましょう。次に、コンソール内に用意されているテスト機能や、AWS CLI・SDKを利用して実際にエージェントへリクエストを送ります。例えば、テスト用のチャットUIやコマンドラインからエージェントに対して指示(プロンプト)を送り、その返答が期待通りかを確認します。ここで、エージェントが正しくツールやメモリを活用して応答できているか、認可されていない操作を試みていないかなどを重点的にテストします。必要に応じて、AgentCore Observabilityのダッシュボードでログやメトリクスを確認し、エージェントの動作を詳細に検証します。問題がなければ、エージェントのエンドポイントを自社のアプリケーションやサービスに組み込んで、実際の業務フローで利用を開始できます。
AgentCore SDKの活用: コードからのエージェント操作
AgentCoreはAWSコンソールだけでなく、開発者向けのSDKやAWS CLIを通じても操作・管理が可能です。AgentCore SDK(例えばPython版)を利用することで、コードからエージェントのデプロイや実行を自動化できます。具体的には、AgentCore SDKをプロジェクトにインポートし、BedrockAgentCoreAppオブジェクトを生成してエージェントのエントリポイントを登録する、といった手順でプログラム上からエージェントを起動できます。これは、CI/CDパイプラインに組み込んでエージェントをデプロイしたり、カスタムの管理ツールを作成したりする場合に有用です。また、AWS CLI経由でAgentCoreの各種リソース(エージェント、ツール、ゲートウェイなど)を操作するコマンドも提供されており、スクリプトで一括設定することもできます。SDKを活用することで、GUI操作に頼らずにAgentCoreを柔軟に統合・制御でき、より高度な自動化や外部システムとの連携が可能になります。
導入時のベストプラクティスと注意点
最後に、Amazon Bedrock AgentCoreを導入・運用する上でのベストプラクティスと注意点を押さえておきましょう。まず、エージェントに付与する権限は必要最低限に留め、過剰な操作ができないようIAMロールやゲートウェイ設定でガードレールを設けることが重要です。次に、エージェントの動作を小規模なスコープで十分テストしてから本格展開することを推奨します。ステージング環境で様々なシナリオを検証し、メモリ機能やツール連携が正しく機能するか、想定外の入力に対しても安全に対処できるかを確認してください。また、運用開始後もObservabilityのモニタリング情報を定期的にチェックし、異常な挙動(例えば急激なエラー増加や応答遅延)が見られた場合は迅速にエージェントをアップデートしたりモデルを改善したりする体制を整えておきます。さらに、エージェントが学習・記憶するデータには機密情報が含まれる可能性があるため、Memoryに保存する内容や保持期間について社内のセキュリティポリシーに沿った設定を行うことも注意点です。最後に、AWSからのAgentCoreアップデート情報(新機能リリースや仕様変更)にも目を配り、常に最新のベストプラクティスに従ってエージェント基盤を運用すると良いでしょう。
企業におけるAmazon Bedrock AgentCoreの活用事例: 導入効果とユースケース
Amazon Bedrock AgentCoreは様々な業界でのAIエージェント活用を後押ししています。ここでは、特に注目すべき企業の事例を通じて、AgentCoreの導入効果を紹介します。金融や医療、マーケティングなどの分野で、先進企業がAgentCoreを活用してどのようにビジネス価値を高めているのかを見てみましょう。
金融業界の事例: 銀行におけるパーソナライズドサービス
金融業界では、AIエージェントを活用して顧客サービスの高度なパーソナライズや業務効率化を図る動きがあります。ブラジルの大手銀行Itaú Unibancoは、早くから機械学習やAIを活用してきた企業の一つであり、AgentCoreの初期導入企業でもあります。同行ではAgentCoreを用いることで、銀行顧客一人ひとりに合わせたハイパーパーソナライズドなサービスを実現しつつ、セキュリティとコンプライアンスを厳格に保つことを目指しています。例えば、顧客からの問い合わせに対してAIエージェントが自動応答や適切な提案を行う際にも、AgentCoreのセッション分離やIdentity機能によって顧客データの保護と権限管理が徹底されます。ItaúのCTOは「AgentCoreにより、開発者はエージェントを構築・管理するための柔軟なツールを得られ、コンプライアンスを確保しつつスケーラブルな金融サービス変革が可能になる」と述べており、金融分野においてAgentCoreは高度な顧客体験と安全性の両立を支えるプラットフォームとして期待されています。
医療業界の事例: 医療データ統合へのAI活用
医療業界でも、AgentCoreの活用によって新たなソリューションが生まれつつあります。医療データ統合プラットフォームを提供する米国のInnovaccer社は、AgentCore Gatewayを用いて医療分野向けの独自プロトコルHMCP(Healthcare Model Context Protocol)を構築しています。既存の医療システムのAPIをAgentCore上でエージェントが扱えるツールに自動変換することで、最新の患者データや診療記録にエージェントがリアルタイムにアクセスできるようにしています。ヘルスケアではプライバシーと安全性が最重要ですが、AgentCoreが提供するセキュアで柔軟な基盤のおかげで、AIエージェントが医療データやツールと安全かつ責任ある形で対話できる土台が整ったといいます。InnovaccerのCEOは「AgentCore Gatewayにより既存APIをMCP対応ツールに変換し、我々のシステムが拡大してもシームレスにスケールできる。信頼性・柔軟性のある基盤によって、AIエージェントが医療データ、ツール、ワークフローと安全に対話できるようになった」と述べており、AgentCore導入による医療AIの加速に期待を寄せています。
マーケティングの事例: 動的コンテンツ生成とキャンペーン効率化
マーケティング分野では、AIエージェントが顧客体験のパーソナライズやコンテンツ生成に活用されています。米国のマーケティング企業Epsilonでは、AgentCoreを活用して大規模なキャンペーンを自動化し、コンテンツ制作や顧客ジャーニーの最適化を図る計画です。具体的には、AIエージェントが顧客データに基づいてメールや広告のコンテンツを動的に生成し、ユーザーごとに最適化されたメッセージをタイミングよく配信する、といったシナリオが想定されています。AgentCoreのスケーラブルなエージェント基盤により、こうしたパーソナライズドマーケティングを多数の顧客に対して同時に展開することが可能になります。Epsilon社は、AgentCoreの導入によってマーケティングキャンペーンの構築時間を最大30%短縮し、主要指標であるエンゲージメント率の大幅な向上も期待できるとしています。このように、マーケティング業界でもAgentCoreはデータ駆動型の迅速な施策展開を支える基盤として注目されています。
エンタープライズの事例: コンテンツ管理へのAI統合
エンタープライズ向けのコンテンツ管理やコラボレーション領域でも、AgentCoreの活用が進んでいます。クラウドストレージ大手のBoxは、自社サービスにAIエージェントを導入する実験を進めており、AgentCore Runtime上でエージェントをデプロイしています。Boxでは、オープンソースのStrands Agentsを用いてエージェントを構築し、AgentCoreを通じて企業ユーザー向けにスケーラブルなAI機能を提供しようとしています。例えば、企業内の膨大な文書やナレッジベースにエージェントがアクセスし、ユーザーの質問に対して即座に関連資料を探し出して回答する、といった高度なコンテンツ管理AIが想定されています。AgentCoreのセキュアなRuntimeと統合により、企業データとのやり取りでも高いセキュリティとコンプライアンス水準を維持しつつ、AIエージェントを大規模に展開できるといいます。BoxのCTOは「AgentCore Runtime上でエージェントをデプロイすることで、エンタープライズ需要に応えるスケーラブルなAI機能を実現できる。将来の企業はエージェントによるインテリジェントなコンテンツ管理を基盤に構築されていくだろう」と述べており、AgentCoreが次世代の業務プラットフォームになる可能性を示唆しています。
その他業種への応用可能性と今後の展開
上記以外にも、AgentCoreは幅広い業種で活用が期待されています。例えば製造業では、設備点検や異常検知を行うエージェントをAgentCore上で運用し、現場のIoTセンサーから得たデータを解析してメンテナンスを自動化するといった応用が考えられます。また、小売・eコマース分野では、顧客問い合わせ対応のチャットボットやレコメンデーションエージェントをAgentCoreで大規模展開し、24時間体制の顧客サービスを実現することも可能でしょう。金融や保険では、規制準拠のチェックを自動で行うエージェントや、マーケット情報を集約してレポート生成するエージェントなどが考えられます。AgentCoreはセキュリティとガバナンスが重視される設計のため、これら多様なユースケースにおいて信頼性を確保しながらAIエージェントを実装できる点が利点です。各企業が自社の課題に応じて独自のエージェントソリューションを開発し、AgentCoreをその基盤として活用することで、新たな価値創出が続々と生まれていくことでしょう。
Amazon Bedrock AgentCoreの主要コンポーネント解説: RuntimeやGatewayなど各機能の詳細
Amazon Bedrock AgentCoreは複数のコアコンポーネントから構成されており、それぞれがAIエージェントの特定のニーズを満たす役割を担っています。以下では、AgentCoreを支える主要コンポーネント7つについて、その特徴と機能を解説します。これらのコンポーネントは単体でも利用可能ですが、組み合わせることで強力なシナジーを発揮し、包括的なエージェント基盤を構築します。
AgentCore Runtime – 安全なサーバーレス実行基盤
AgentCore Runtimeは、AIエージェントを実行するための安全なサーバーレス基盤です。各エージェントセッションごとに隔離されたコンテナ環境を提供し、ユーザーごとのデータ分離とセキュリティを徹底しています。Runtime上では、リアルタイム応答が必要な対話型エージェントから、最大8時間に及ぶ長時間のバッチタスクを行うエージェントまで、幅広いワークロードを処理できます。フレームワークに依存しない設計で、LangChainやStrandsといった任意のエージェント実装をコンテナイメージ化してデプロイ可能です。また、AWS Lambdaで培われたサーバーレス技術を基盤としているため、自動スケーリングや高可用性が組み込まれており、アクセスの増減に応じて環境が柔軟にスケールします。さらに、予期せぬ中断や障害に備えてチェックポイント機能やリカバリ機構も備わっており、信頼性の高い実行環境を実現しています。AgentCore Runtimeによって、開発者はインフラ管理を意識せずに、本番対応のエージェントを迅速に展開できるようになります。
AgentCore Memory – 長期・短期メモリ管理機能
AgentCore Memoryは、エージェントに長期・短期の「記憶」を持たせるためのコンポーネントです。対話中に得られた情報を短期記憶として保持し、会話の文脈を維持するだけでなく、重要な知識やユーザー設定を長期記憶として蓄積することができます。開発者は複雑なメモリストレージ基盤を構築することなく、Memoryコンポーネントを利用してエージェントに継続的なコンテキストを与えられます。AgentCore Memoryでは、高精度なベクトルデータベースや要約アルゴリズムが用いられており、関連性の高い情報を効率よく呼び出せるようになっています。短期メモリはマルチターンの会話内での文脈を保持し、長期メモリはセッションを跨いで知識を永続化するため、エージェントが過去の経験を学習し続けることが可能です。例えば、カスタマーサポートエージェントであれば前回の問い合わせ内容を記憶しておき、次回ユーザーから連絡があった際にスムーズに参照できます。Memoryコンポーネントにより、エージェントは人間のように学習と経験を積み重ね、より賢く振る舞うことが期待できます。
AgentCore Gateway – 外部サービス連携のゲートウェイ
AgentCore Gatewayは、AIエージェントが外部のツールやサービスにアクセスできるようにするためのゲートウェイ機能です。企業内の既存システム(APIやデータベース)やサードパーティのサービスを、エージェントが利用可能な「ツール」として登録・変換します。開発者は最小限のコード変更で、社内のREST APIやAWS Lambda関数、SaaSアプリケーションをエージェント対応ツールにすることができます。GatewayはMCP(Model Context Protocol)やA2A(Agent-to-Agent)といった標準プロトコルにも対応しており、エージェントが接続できる外部機能の範囲を大きく広げます。たとえば、データベース問い合わせ用のAPIをGatewayに登録すれば、エージェントはそのAPI経由で最新のデータを取得して回答に反映できます。さらに、Gateway設定ではアクセス制御も可能で、エージェントが外部サービスを利用する際の認証・認可を一元的に管理します。AgentCore Gatewayによって、エージェントは社内外のあらゆるリソースとつながり、より高度で現実的なタスクを実行できるようになります。
AgentCore Identity – 認証と権限管理サービス
AgentCore Identityは、AIエージェントの認証とアクセス権限を管理するコンポーネントです。エージェントがユーザーやシステムの代理として動作する際に、適切な権限で安全にリソースにアクセスできるよう調整します。Identityは既存の企業IDプロバイダーと連携可能で、Amazon CognitoやMicrosoft Entra ID、Oktaなどを通じて、エージェントに対し一時的なきめ細かな権限を付与できます。これにより、エージェントは必要な範囲内でのみAWSサービスや外部APIを操作し、不要な操作はブロックされます。たとえば、エージェントがユーザーのメールを代理送信したり、社内データベースにクエリを投げたりする場合でも、事前に許可された範囲でのみ実行され、認可されたトークンが短期間だけ発行される仕組みになっています。また、AgentCore IdentityはOAuthなどの標準にも対応し、GitHubやSlackといったサービスのユーザー許諾を得てエージェントが代行操作することも可能です。Identityコンポーネントにより、エージェントの行動は常に認証済みかつ監査可能な状態となり、セキュリティと信頼性を確保します。
AgentCore Observability – 動作監視とログ分析
AgentCore Observabilityは、AIエージェントの動作を監視・分析するためのコンポーネントです。CloudWatchとの統合により、エージェントのさまざまなメトリクス(トークン使用量、応答時間、エラー数など)をリアルタイムに可視化します。運用担当者はダッシュボードを通じてエージェントのパフォーマンスを把握し、問題発生時には詳細なログやトレース情報を調査できます。Observability機能には、各エージェントのアクション履歴を時系列で追跡するライブビューや、過去のセッションを再現できるセッションリプレイなど高度な分析ツールも含まれており、エージェントがどのような判断を行ったかを後から検証することも可能です。さらに、OpenTelemetry互換の標準化されたテレメトリーデータを出力できるため、既存の監視システムやSIEMツールと連携して統合的なログ管理・分析を行うこともできます。AgentCore Observabilityを活用することで、AIエージェントの挙動を透明性高く監視でき、信頼性の維持や継続的な改善に役立ちます。
AgentCore Code Interpreter – セキュアなコード実行環境
AgentCore Code Interpreterは、AIエージェントが安全にコードを実行するためのコンポーネントです。エージェントは必要に応じてPythonなどのプログラミングコードを生成・実行し、複雑な計算やデータ処理を行うことがあります。Code Interpreterはそうしたコード実行を隔離されたサンドボックス環境で実施し、エージェントが外部に害を及ぼしたり機密データに不正にアクセスしたりしないよう統制します。開発者は、この環境に特定のライブラリやパッケージをあらかじめ組み込んだり、実行に必要なリソース(CPU/メモリ)やタイムアウト時間を設定したりすることも可能です。例えば、大量のデータからグラフを生成する解析コードや、一時的なファイル操作を伴う処理も、Code Interpreter上であれば本番環境の安全性を保ったまま実行できます。エージェントがプログラムを書いてテストする能力は、問題解決や高度な推論に大きな力を発揮しますが、Code Interpreterコンポーネントのおかげでそれを安心して本番環境に組み込むことができます。
AgentCore Browser Tool – ウェブ操作自動化ツール
AgentCore Browser Toolは、AIエージェントがウェブ上の操作を自動化するためのブラウザ環境を提供します。クラウド上で動作する軽量ブラウザであり、人間のユーザーに代わってウェブサイトの閲覧やフォーム入力、クリック操作などをエージェントが実行できます。特徴的なのは、その速度と安全性です。サーバーレスで提供されるブラウザ環境はミリ秒単位の低レイテンシで応答し、各セッションごとに分離されているため、ウェブ操作中に生じるデータも他に漏れる心配がありません。例えば、エージェントがウェブ上の公開データをスクレイピングしたり、ユーザーの代わりにクラウドサービスの設定画面を操作したりするとき、Browser Toolが活躍します。ライブビュー機能を使ってエージェントのブラウザ操作を監視したり、後からセッション記録を再生して挙動を検証したりすることも可能です。AgentCore Browser Toolにより、エージェントはウェブの世界と直接対話し、インターネット上の情報やサービスをシームレスに活用できるようになります。
Amazon Bedrock AgentCore Runtime入門: サーバーレス環境でのAIエージェント運用の基礎
ここではAgentCoreの中核サービスである「Runtime」について掘り下げます。AgentCore RuntimeはAIエージェントの実行環境を司る重要なコンポーネントであり、その仕組みと利点を理解することでAgentCoreの活用がよりスムーズになるでしょう。Runtimeの特徴や仕組み、具体的な利用方法について解説し、サーバーレス環境でエージェントを運用するメリットを見ていきます。
AgentCore Runtimeの役割と特徴
AgentCore Runtimeは、Amazon Bedrock AgentCoreの土台となる実行環境です。AIエージェントが実際にユーザーからのリクエストを受け取り、応答を生成し、必要に応じてツールを呼び出す——これら一連の処理を安全かつ効率的に行うのがRuntimeの役割です。Runtimeの最大の特徴は、サーバーレスかつマルチセッション対応の設計にあります。従来であればエージェント用にサーバー群を用意しスケーリングを調整する必要がありましたが、Runtimeではそうした煩雑さを隠蔽し、開発者はエージェントの論理に専念するだけで本番スケールの環境を得られます。また、Runtimeは完全マネージドサービスであるため、セキュリティパッチ適用や中間ソフトウェアの更新などの管理作業もAWS側で処理されます。AgentCore全体の心臓部と言えるRuntimeは、エージェントが常時安定して動作するための堅牢な基盤を提供しているのです。
サーバーレス環境によるエージェント実行のメリット
AgentCore Runtimeがサーバーレスで提供されることにより、多くの利点が得られます。第一に、利用者はサーバーインスタンスのプロビジョニングや管理を意識する必要がありません。エージェントの利用者数やリクエスト量が増減しても、Runtimeが自動でバックエンドのリソースを調整するため、常に適切な計算リソースが確保されます。これにより、突然のトラフィック増加時でもエージェントがスムーズに応答し続け、逆に利用が少ないときにはリソース使用を抑えてコスト最適化が図れます。第二に、サーバーレスであることで高い可用性が確保されます。AgentCoreは複数のアベイラビリティゾーンにまたがってデプロイされており、一部のサーバーに障害が発生してもエージェントサービス全体が停止することはありません。さらに、AWSのサーバーレステクノロジーは自動リカバリやフェイルオーバーの仕組みを備えているため、エージェントは常に利用可能な状態が維持されます。第三に、サーバーレス環境では、利用した分だけ課金されるため、エージェントが待機している間の無駄なコストが発生しません。こうしたメリットにより、企業はインフラ管理の負担を大幅に減らしつつ、高品質なエージェントサービスを提供できるのです。
コンテナ化されたエージェントのデプロイ方法
AgentCore Runtimeにエージェントをデプロイするには、エージェントプログラムをコンテナ化する方法が取られます。具体的には、エージェントの対話ロジックやツール呼び出し処理を含むアプリケーションコードをDockerコンテナイメージとしてビルドし、それをAWSのコンテナレジストリ(Amazon ECR)にプッシュします。コンテナには必要なライブラリやモデルファイルなど、エージェントが動作するために必要なものをすべて含めておきます。AgentCoreのコンソールまたはSDKを使って新規エージェントを作成するときに、このコンテナイメージのURIを指定します。さらに、エージェントのエントリポイント(実行開始関数やスクリプト)を設定し、エージェント名や説明を登録します。これにより、AgentCore Runtimeは指定されたコンテナイメージを使用してエージェントを起動し、APIエンドポイントを自動生成します。開発者はこのエンドポイントにリクエストを送ることで、デプロイしたエージェントを操作できます。コンテナ化というアプローチのおかげで、エージェントは開発環境と本番環境で一貫した動作をし、依存関係の違いによるトラブルを最小限に抑えることができます。また、LangChainやStrandsなどのフレームワークを使ったエージェントであっても、その環境ごとパッケージ化してRuntimeに載せるだけなので容易です。
セッション分離と長時間実行の仕組み
AgentCore Runtimeは、セッションごとの厳格な分離と長時間実行への対応という2つの難題を解決しています。まずセッション分離については、各ユーザーや各対話セッションごとに独立した環境(コンテナ)が割り当てられ、その中でエージェントが動作します。このため、あるセッションで処理した機密データが別のセッションに漏れることはなく、また、セッション間でリソースや状態が干渉し合うこともありません。この仕組みは、複数ユーザーが同時にエージェントを利用するSaaS型のアプリケーションなどで特に重要です。次に長時間実行への対応ですが、AgentCore Runtimeは一つのエージェントセッションで最大8時間までの連続処理を許容しています。これは、たとえば大規模データセットの解析や複数段階のワークフロー実行など、完了までに時間を要するタスクをエージェントが行えることを意味します。バックエンドではチェックポイントとリカバリの機構が組み込まれており、途中で中断が起きても処理を再開できるよう工夫されています。セッション隔離と長時間実行、これらを両立させたAgentCore Runtimeのおかげで、複雑かつ負荷の大きいエージェントタスクも安心して本番環境で走らせることが可能となっています。
リアルタイム性とスケーラビリティの確保
インタラクティブなAIエージェントでは、ユーザーからの質問に即座に答えるリアルタイム性が求められます。AgentCore Runtimeは低レイテンシ設計となっており、バックエンドの処理を高速化することで応答遅延を抑えています。例えば、エージェントが外部APIを呼び出す際にも、Gatewayとの組み合わせで接続処理を効率化し、無駄な待ち時間を削減します。また、スケーラビリティの面でもRuntimeは優れたパフォーマンスを発揮します。需要に応じて数十、数百といったエージェントセッションを同時に立ち上げ、並行実行できるため、利用者が増えても処理待ちでストレスを感じることはありません。前述の通りサーバーレスの特性上、自動でスケールアウト・スケールインが行われるため、ピーク時には迅速にリソースが追加割り当てされ、逆にアイドル時にはリソースが解放されます。これにより、どんな規模のユーザー要求にも対応できる柔軟性が担保されています。さらに、全体の負荷状況はObservabilityで常時監視できるため、ボトルネックがあれば検知して対処することも容易です。リアルタイム性とスケーラビリティを両立したAgentCore Runtimeは、エンタープライズ向けAIエージェントに必要な高性能を実現しています。
ユースケース: Runtimeが活躍するシナリオ
AgentCore Runtimeの強みが発揮されるシナリオとしては、例えば高度なカスタマーサポートAIの導入が挙げられます。問い合わせ対応エージェントは多数のユーザーから同時に質問を受けることもありますが、Runtimeのスケーラビリティによりピーク時にも安定した応答を返せます。また、問い合わせ内容に応じて社内の複数システム(顧客データベース、注文管理システム、ナレッジベースなど)にアクセスし、情報を集約して回答を組み立てるには長めの処理時間が必要なケースもあります。Runtimeはこうしたマルチステップ処理を単一セッション内で完了させることができるため、エージェントが途中で途切れることなく回答を生成できます。さらに、金融分野のリスク分析エージェントや、研究開発分野のデータ分析エージェントなど、扱うデータ量が膨大で時間のかかる処理でもRuntime上であれば問題ありません。これらのシナリオでは、セッション分離によるセキュリティ確保と長時間実行の両立が鍵となりますが、AgentCore Runtimeはその要件を満たしているため、安心してエージェントを本番投入できるのです。
Amazon Bedrock AgentCoreでAIエージェントをスケールする方法: 大規模運用を支える仕組み
ここでは、AgentCoreを用いてAIエージェントをスケールさせる方法について解説します。エージェントの利用規模が拡大しても安定してサービスを提供できるよう、AgentCoreには自動スケーリングや高可用性の仕組みが備わっています。スケーラビリティと信頼性を両立させるためのポイントや、大規模展開時の運用について、順に見ていきましょう。
自動スケーリングによる同時セッション拡大と負荷分散
AgentCoreは、需要に応じて自動的にエージェントの実行環境を増減させる自動スケーリング機能を備えています。これは、多数のユーザーが同時にエージェントを利用する状況でも、一貫した応答性能を維持するために極めて重要です。AgentCore Runtimeはサーバーレス環境上に構築されており、新たなリクエストが発生すると必要に応じて新規セッション(コンテナ)を即座に立ち上げ、逆に利用が減ればセッションを終了してリソースを解放します。例えば、1秒間に数百件のクエリが飛んできた場合でも、AgentCoreはその負荷に見合った数のエージェントインスタンスを並列に稼働させ、全ユーザーに待ち時間の少ない応答を返します。ユーザーから見ると、裏で何十ものエージェントが動いているようには見えず、一人の賢いエージェントが常に素早く対応してくれるように感じられるでしょう。AgentCoreにおける同時セッション管理は全自動で行われるため、運用担当者が都度サーバーを追加したり負荷分散を調整したりする手間が省け、スケーリングの難易度が飛躍的に下がっています。
ピーク時の安定性と障害耐性: AgentCoreの高可用設計
大規模なエージェント運用では、ピーク時の負荷に耐える安定性と、万が一の障害発生時でもシステムが止まらない耐障害性が求められます。AgentCoreはAWSインフラストラクチャ上に構築されており、データセンター障害にも強い設計です。複数のアベイラビリティゾーンにエージェント実行環境がまたがって配置されているため、一部のゾーンに問題が起きても他が引き継ぎ、サービス全体の継続性が保たれます。また、AgentCore Runtimeには前述したチェックポイントや自動リトライの仕組みが備わっており、長時間動作するエージェントが途中で停止しても可能な限り再開・復旧できるようになっています。ピーク負荷時にはスケールアウトが迅速に行われるだけでなく、CloudWatchのアラーム機能と連携し必要に応じて通知を発したり追加対策を講じたりすることも可能です。さらに、AgentCoreのマネージドな特性上、AWS側で常にシステムのヘルスチェックと最適化が行われており、利用者は裏で行われるパッチ適用やハードウェア交換などを意識せずに済みます。これらの仕組みにより、AgentCoreを使えば、どんなに大規模な利用にも耐えうる安定したエージェント基盤を手に入れることができます。
複数エージェント協調への対応: マルチエージェント環境
企業内で複数種類のAIエージェントを展開したい場合や、連携するマルチエージェントシステムを構築したい場合にも、AgentCoreは有用です。AgentCoreのサービス群はオープンな設計であり、Strands Agentsのようなオーケストレーションフレームワークと組み合わせて、複数のエージェントがお互いにコミュニケーションを取り合い協調してタスクを進めることも可能です。例えば、一つのエージェントがユーザーインタフェースとして会話を行い、別の専門エージェントが裏でデータ分析を担当し、その結果をさらに第三のエージェントが要約してユーザーに返す、といった複数エージェントのパイプラインを構築できます。AgentCore GatewayやMemoryを共有することで、エージェント間で道具や知識を共有し合い、チームとして動作させることもできます。こうしたマルチエージェント環境では、各エージェントのスケーリングやエラー管理が複雑になりがちですが、AgentCoreの統合プラットフォーム上で一元的に管理できるため、システム全体のスケーラビリティと安定性を保ちやすくなっています。つまり、AgentCoreは単一エージェントのスケールだけでなく、複数エージェントが連携する高度なシナリオにも対応できる柔軟性を備えているのです。
大規模環境での監視とチューニング
エージェントを大規模に展開した際には、継続的な監視とチューニングが重要です。AgentCore Observabilityを活用すれば、トラフィックの傾向やリソース消費状況をリアルタイムでモニタリングでき、スケール戦略の調整に役立ちます。例えば、特定の時間帯にCPU使用率やトークン消費量が急増するのであれば、エージェントの推論ロジックの最適化やモデルの軽量化を検討できます。また、複数のエージェントを運用している場合、それぞれの利用率データを比較し、負荷の偏りがあれば役割配分を見直すことも可能です。AgentCoreが提供する詳細なメトリクスを元に、オートスケーリングの閾値を適切に設定し、予期せぬ急激な負荷変動にも自動対応できる体制を整えておくことが大切です。こうしたデータに基づくチューニングを継続することで、たとえ大規模環境であってもエージェントサービスの安定稼働と効率性を両立できます。
スケーリング活用によるビジネス効果
最後に、AgentCoreによるスケーラブルなエージェント運用がもたらす効果について触れます。前述の事例でも触れたように、AgentCoreを導入した企業はエージェントの本番展開に伴うインフラ面の課題を大幅に軽減できています。例えば、マーケティング企業のEpsilonはAgentCoreでエージェントをスケールさせることでキャンペーン構築時間を30%短縮できると試算しており、銀行のItaúは大規模な顧客基盤に対してもパーソナライズドな対応を維持しながらサービス提供できる体制を整えました。それ以外の企業でも、従来PoC段階で止まっていた高度なエージェントが、AgentCoreのスケーラビリティを得て初めて実ビジネスに耐えうる形で稼働し始めています。スケーリングの効果は単に技術面の話に留まらず、エージェントが生み出す成果(顧客満足度向上、業務効率化、新たなサービス創出)を迅速に大規模展開できるというビジネス上のメリットに直結します。AgentCoreを活用したスケーラブルなAIエージェント運用により、企業はAI導入のROIを最大化し、競争優位を確立することが可能となるでしょう。
Amazon Bedrock AgentCoreのセキュリティとガバナンス: 安全性・信頼性を担保する仕組み
Amazon Bedrock AgentCoreはエンタープライズ向けサービスとして、セキュリティとガバナンスに重点を置いて設計されています。AIエージェントの柔軟な能力を活かしつつも、安全性とコンプライアンスを確保するための仕組みが随所に組み込まれています。
セッション隔離で実現するデータ漏洩防止策
AgentCoreにおける基本的なセキュリティ対策として、各エージェントのセッション隔離があります。エージェントはユーザーごとに独立した実行環境で動作し、その範囲外のデータやリソースには直接アクセスできません。これにより、あるユーザーとの対話内容や機密情報が他のユーザーに漏洩するリスクを根本から防止しています。また、エージェントが外部のシステムと連携する際も、各連携ごとに明確な境界が設定され、不正なデータの混入や権限の逸脱を防ぐ仕組みとなっています。こうしたセッション隔離は、エージェント導入に際して懸念される情報漏洩リスクを低減し、安心してエージェントを活用する土台となっています。
アイデンティティ統合と最小権限アクセス
AgentCoreは既存のアイデンティティ基盤と統合することで、エージェントに対する認証・認可を厳格に管理できます。エージェントがAWSリソースや外部サービスを操作する際には、AgentCore Identityコンポーネントを通じて一時的かつきめ細かな権限が付与され、必要最小限のアクセスしか許可されません。例えば、エージェントがS3からファイルを読み取る場合でも、事前に定めた特定のバケット内の必要なオブジェクトにのみアクセスするよう権限が制限されます。また、この権限付与には企業で利用中のシングルサインオン(SSO)やディレクトリサービスとも連携可能で、社内ポリシーに沿った認証フローを組み込めます。AgentCoreによって、エージェントの行動は常に認証済みのユーザーやシステムとして行われ、なりすましや過剰な権限行使といったリスクを抑制します。
エージェント行動のガードレール設計と制限手法
AIエージェントは強力な能力を持つ反面、適切にガードレール(行動制限)を設けることが重要です。AgentCoreでは、エージェントが利用できるツールやAPIを開発者が明示的に登録・許可する形となっており、与えていない機能を勝手に使うことはできません。例えば、エージェントに対し「この範囲のデータベースクエリは許可するが、更新操作は禁止する」といった制約をゲートウェイ設定やIAMポリシーで指定可能です。また、エージェントが生成するコンテンツにフィルタをかけたり、一定のルール(NGワードやプライバシー情報の検出など)を適用して不適切な応答を防ぐ仕組みも組み込めます。さらに、AgentCore Observabilityと組み合わせて、エージェントの動作をリアルタイムに監視し、異常な振る舞いが検知された場合には自動的にエージェントを停止させるといった運用も可能です。このような多層的なガードレールにより、AIエージェントの暴走や誤用を未然に防ぎ、安全な運用が担保されます。
監査ログの活用とコンプライアンス対応
企業のガバナンスにおいては、監査とコンプライアンス対応が欠かせません。AgentCoreはエージェントの活動ログや決定経緯を詳細に記録しており、後からそれを検証・監査することができます。誰がいつエージェントを利用し、エージェントがどのような情報にアクセスし、どんな出力をしたのか、といった履歴が透明性高く残ります。このログ情報はコンプライアンス部門がチェックしたり、法規制対応のために保管・報告したりする用途に役立ちます。例えば、金融業界で求められる厳格な記録保持要件や、GDPRなどデータ保護規則に対応するための証跡として、AgentCoreの監査ログを活用できます。また、これらのログは必要に応じてエクスポートして社内のSIEM(Security Information and Event Management)システムと連携させることも可能です。AgentCoreのおかげで、AIエージェントの活動も他のITシステム同様に監査可能なものとなり、企業のガバナンス枠組みに組み込みやすくなっています。
企業ポリシーとの整合性と運用ガバナンスの確立
総じて、AgentCoreは企業のセキュリティポリシーやガバナンス要求と整合するよう配慮されています。エージェントが保持するメモリ内容の暗号化や保存期間の設定、利用するモデルやデータの所在管理など、細かな点まで制御可能であり、社内規定に沿った運用設定が行えます。また、AWS自体が高いセキュリティ基準(ISOやSOCなどの認証)を満たして運用されていることも、AgentCoreを安心して利用できるポイントです。企業はAgentCoreを導入することで、イノベーティブなAIエージェント技術を享受しつつ、自社のセキュリティ・ガバナンス枠組みの中でそれを制御し、リスクを管理することができます。AI導入に伴うリスクとメリットのバランスを取りながら、AgentCoreは信頼できる基盤として機能するのです。
Amazon Bedrock AgentCore APIの詳細と活用法: SDK連携や統合のポイント
Amazon Bedrock AgentCoreはGUIだけでなくAPIやSDKを通じて操作・統合することが可能です。開発者はプログラムからAgentCoreを呼び出すことで、自動化や他システムとの連携を柔軟に実現できます。
AgentCoreが提供するAPIとSDKの概要
AgentCoreはAWSの一般的なサービスと同様、APIとSDKを通じてプログラムから操作できます。AWS CLIコマンドや各種言語向けSDK(例えばPythonのboto3ライブラリなど)が提供されており、エージェントの作成・更新、ツールやゲートウェイの登録、メモリストアの操作など主要な機能をコードから呼び出すことが可能です。AgentCore専用のSDK(AgentCore SDK)も用意されており、より高レベルな抽象でエージェントアプリケーションを構築・デプロイするためのクラスや関数が提供されています。これらを活用することで、AgentCoreをCI/CDパイプラインに組み込んで自動デプロイしたり、独自の管理ツールやユーザーインターフェースからAgentCore機能を呼び出したりと、用途に応じた統合が実現できます。
エージェントデプロイ・実行におけるAPIフロー
エージェントをデプロイして実行するまでのAPIフローを簡単に追ってみましょう。まず、開発者はAgentCore SDKを使ってエージェントアプリケーションをコード上で定義します。例えばPython SDKでは、BedrockAgentCoreAppというクラスをインスタンス化し、そこにエージェントのメイン関数(エントリポイント)を登録します。その上で、SDKのメソッド呼び出しによりエージェントをクラウド上にデプロイすることができます。この際、先述したようにエージェントのコンテナイメージや必要なリソース設定を引き渡します。デプロイAPIが成功すると、エージェントに一意の識別子やエンドポイントURLが割り当てられます。クライアント側(エージェントを利用するアプリケーションやユーザー)は、このエンドポイントに対してHTTPリクエストやSDKの呼び出しを行うことでエージェントとの対話を開始できます。つまり、AgentCoreのAPIは「エージェントを登録するためのAPI」と「登録済みエージェントを呼び出すためのAPI」の大きく2つの役割を担い、前者はDevOps的な管理操作、後者はランタイム時のユーザーインタラクションに相当します。
Gatewayを介した外部APIツール連携
AgentCore Gatewayに関しても、API経由で設定・管理することが可能です。例えば、社内のREST APIエンドポイントをエージェントに使わせる場合、AWS CLIまたはSDKを用いてGatewayリソースを作成し、対象となるAPIのエンドポイントURLや認証情報、利用許可する操作内容などをパラメータで指定できます。プログラム的にGateway設定を行うことで、インフラをコード(IaC)として管理する一環としてエージェント統合を制御したり、動的にツールの登録・削除を実施したりできます。また、AgentCore GatewayはAPI自体を抽象化してエージェントが理解できる形式に変換しますが、その裏側ではMCP(Model Context Protocol)という標準仕様が活用されています。AgentCoreのAPI群は、こうした標準プロトコルに対応する形で設計されているため、他のMCP対応システムとも連携しやすい利点があります。
MCP/A2Aなど標準プロトコルへの対応
AgentCoreは最新の標準プロトコルに対応している点でも注目されます。MCP(Model Context Protocol)はエージェントが利用可能なツールやAPIのインターフェースを記述するための仕様で、AgentCore GatewayはこのMCPに準拠したツール定義を内部的に行っています。これにより、エージェントはどんな操作(入力と出力)が可能なツールなのかを理解し、必要な計画を立てることができます。また、Agent-to-Agent(A2A)プロトコルにも対応しており、複数エージェント間の協調動作を標準化された形で実現できます。さらに、AWSはAgentCoreと連携する形で、エージェントがAWSサービスを直接コールできるMCPサーバー(AgentCore AWS API Server)も提供しており、エージェントが自らクラウドリソースを操作する高度なシナリオも視野に入っています。つまり、AgentCoreのAPIは単なるツール連携だけでなく、業界標準を取り入れることでエコシステム全体との親和性を高めているのです。
API活用例: 開発や他システムとの統合
実際のAPI活用シナリオとしてはいくつかの例が考えられます。例えば、開発チームが複数のエージェントをマイクロサービス的に運用し、それらをTerraformやCloudFormationといったIaCツールで定義する場合、AgentCoreのAPIを使用してエージェントやゲートウェイ設定を自動デプロイできます。また、企業内のポータルサイトにチャットボットを組み込みたい場合、フロントエンドからAgentCoreのエージェントエンドポイントに問い合わせを送るREST APIクライアントを実装すれば、シームレスにエージェント応答を得ることができます。開発者向けにはJupyter Notebook等からAgentCore SDKを介してインタラクティブにエージェントを呼び出し、実験やデバッグをすることもできます。こうした柔軟なAPI活用により、AgentCoreは様々なシステムやワークフローに溶け込むことができます。
今後のAPI拡張と互換性の見通し
AgentCoreは現在プレビュー版ということもあり、今後API機能のさらなる拡充や改善が予想されます。ユーザーからのフィードバックを受けて、より使いやすいSDKや新たな機能エンドポイントが追加されるでしょう。例えば、エージェントのバージョン管理やA/BテストをサポートするAPI、あるいはエージェントの対話履歴を取得・分析するためのエンドポイントなど、運用ニーズに応じた拡張が考えられます。また、AWSはAgentCoreを他のサービス(Bedrock AgentsやFlows、Knowledge Basesなど)とも密接に連携させていく方針であり、将来的にはそれらを横断する統合APIが提供される可能性もあります。開発者にとっては、AgentCoreのAPIアップデート情報を追いながら、自社のシステムに最適な形でエージェント機能を組み込んでいくことが重要になるでしょう。
Amazon Bedrock AgentCoreの最新アップデートと今後の展望: プレビューから未来へ
Amazon Bedrock AgentCoreは2025年7月の発表以来、急速にアップデートと進化を続けています。ここでは直近の新機能やアップデート情報、そして今後のサービス展開について展望します。
プレビュー版での最新機能と改善点
プレビュー版公開以降、AgentCoreにはいくつかの改善と新展開が見られます。2025年7月末には初期デモ用コードやチュートリアルが改善され、AgentCoreのセットアップが以前より簡素化されました。また、AWS Marketplace上にAIエージェントとツール専用の新カテゴリーが開設され、パートナー各社が提供する事前構築済みエージェントやツールをAgentCore上で簡単に導入できるようになりました。例えば、Marketplaceから業界特化型のエージェントを購入し、自社のAgentCore環境で動かすといったシナリオも可能になっています。さらに、AgentCoreに関連してAWSはGenerative AI Innovation Centerへの1億ドルの追加投資を発表しており、企業がエージェントソリューションを迅速に導入できるよう支援を強化しています。これらの動きは、AgentCoreエコシステムが着実に拡大しつつあることを示しています。
AWSのエージェンティックAI戦略におけるAgentCore
AWSにおけるエージェンティックAI戦略の中で、AgentCoreは中心的な位置付けにあります。大規模言語モデルを提供するAmazon Bedrock、マルチエージェントをコードレスで構築するAmazon Bedrock AgentsやFlowsと並び、AgentCoreは「本番対応のエージェント基盤」を担う柱となっています。AWSのビジョンでは、今後あらゆる企業がAIエージェントを活用して業務を自動化・高度化するとされており、AgentCoreはその基盤インフラとして不可欠です。AWSのVPであるSwami Sivasubramanian氏は、エージェントはソフトウェアの在り方を劇的に変える一方で、新たな運用上の課題をもたらすと指摘した上で、「AgentCoreは証明済みの原則に基づきつつ新たな可能性を取り込み、エージェントをプロトタイプから本番運用へ移行させるための包括的なサービスセットだ」と述べています。AgentCoreはAWSのクラウドサービス群と密接に連携し、顧客企業が求めるセキュリティ・信頼性・ガバナンス水準を維持しながら、AIの最先端技術を安全に取り入れる架け橋として機能していくでしょう。
一般提供(GA)に向けたロードマップ
AgentCoreの一般提供(GA)に向けた正式リリース時期は現時点で公表されていませんが、プレビュー期間中に集まったフィードバックを踏まえて機能成熟が図られると見られます。AWSは例年大型イベント(re:Inventなど)でサービスのGAを発表することが多く、AgentCoreも2025年末から2026年にかけてGAとなる可能性があります。GAでは対応リージョンの拡大やサービス利用上限の引き上げ、SLAの明示など、エンタープライズ利用に向けた体制が整えられるでしょう。また、プレビュー中に見つかった改善点(例えばコンソールUIの利便性やドキュメントの充実)が反映され、より使いやすく安定したサービスとして正式ローンチすると期待されます。
追加予定の機能やサービス統合の見通し
今後の機能拡張としては、いくつかの方向性が予想されます。まず、組み込みツールのさらなる拡充です。現在はコード実行とブラウザ操作が標準提供されていますが、将来的にはデータベースクエリ専用ツールやEメール送受信ツール、音声合成・認識ツールなど、エージェントが扱える範囲が広がるでしょう。また、Bedrock Knowledge Basesとの連携強化も考えられます。AgentCoreエージェントが企業内の大規模知識ベースから直接情報を取得し、より高度な回答を生成できるようになるかもしれません。加えて、開発者向けにはエージェントのデバッグ支援機能(例えばセッション再現ツールの高度化や対話シナリオの可視化)や、エージェント評価用のシミュレーション環境などが提供される可能性もあります。AWSは顧客のユースケース拡大に合わせて機能強化を継続すると考えられ、AgentCoreはリリース後も進化し続けるプラットフォームとなるでしょう。
AgentCoreがもたらす将来の展望: AIが変える未来
将来的な展望として、Amazon Bedrock AgentCoreは企業ITの在り方を変革し得る基盤と言えます。エージェントが安全に高度化し、各社の業務フローに深く組み込まれていけば、人とAIが協働する新たなビジネスモデルやサービスが次々に生まれるでしょう。AgentCoreはその中で、信頼性と柔軟性を兼ね備えた中核インフラとして、様々な業界のDX(デジタルトランスフォーメーション)を下支えすると期待されています。AWSの積極的な投資とコミュニティの盛り上がりにより、AgentCore発のソリューションや成功事例が今後ますます増えてゆくでしょう。数年先には、「AgentCoreでエージェントを導入する」ことがクラウドでウェブアプリを構築するのと同じくらい当たり前になっているかもしれません。Amazon Bedrock AgentCoreの今後の展開から目が離せません。