LangGraph Platform(旧 LangGraph Cloud)とは?デプロイ手順・Studio・料金を実践解説【2026年版】
LangGraph で作ったAIエージェントを「本番で安定して動かす」ための基盤が LangGraph Platform です。もともと LangGraph Cloud という名前で登場し、その後 LangGraph Platform へリブランド、現在は公式には LangSmith Deployment という名称に統合されています。ただし検索や現場では今も「LangGraph Platform」「LangGraph Cloud」と呼ばれることが多いため、本記事ではこの3つが同じ系譜の製品である前提で、最新の仕様にもとづいて解説します。
なお、ライブラリ本体である LangGraph(OSS)そのものの概念や LangChain との違いは LangChainとLangGraphの処理構造の違い で詳しく扱っています。本記事は「作ったグラフをどう公開・運用するか」というデプロイ・運用基盤の側に絞ります。
目次
まとめ
LangGraph Platform(旧 LangGraph Cloud/現 LangSmith Deployment)は、LangGraph で作ったエージェントを本番運用するための基盤です。4つのデプロイ形態から要件に合うものを選び、langgraph-cli でローカル開発(langgraph dev)から本番公開(langgraph deploy)までを一貫して進められます。永続化・ストリーミング・HITL・スケーリング・LangSmith トレースといった運用機能が揃っているため、プロトタイプから本番への移行をスムーズにします。まずは Self-Hosted Lite か langgraph dev で手元の動きを確認し、必要に応じてマネージドへ広げていくのが現実的な進め方です。
LangGraph と LangGraph Platform の違い
LangGraph はステートフルなエージェント/ワークフローを「グラフ(ノードとエッジ)」で記述する OSS ライブラリです。これに対して LangGraph Platform は、そのグラフを本番運用するためのインフラ層を提供します。中核となる LangGraph Server は、水平スケール可能なランタイムで、タスクキュー、ストリーミング応答、バックグラウンド実行、cron、Webhook、長時間実行(durable execution)に対応します。
| 観点 | LangGraph(OSS) | LangGraph Platform |
|---|---|---|
| 役割 | グラフでエージェントを「記述」 | 記述したグラフを「公開・運用」 |
| 提供形態 | Pythonライブラリ(MITライセンス) | デプロイ基盤(マネージド/セルフホスト) |
| スケーリング | 自前で構築 | 水平スケール・キュー・冗長化を標準提供 |
| 永続化 | checkpointer を自分で用意 | Postgres などを自動プロビジョニング |
| デバッグ | ログ中心 | LangGraph Studio で可視化 |
4つのデプロイ形態
LangGraph Platform は、運用方針やセキュリティ要件に応じて複数のデプロイ形態を選べます。データを自社環境に置きたいのか、運用を丸ごと任せたいのかで選択が変わります。
| 形態 | 概要 | 向いているケース |
|---|---|---|
| Self-Hosted Lite | 機能限定の無料版。ローカルや自社サーバーで実行 | 小規模・検証・個人開発 |
| Cloud SaaS | LangSmith の一部としてフルマネージド。自動更新・保守不要 | 早く本番に出したいチーム |
| BYOC | 自社VPC内でマネージド運用(対応クラウドは公式の最新情報を確認)。データは自社環境に保持 | データ持ち出し制約がある組織 |
| Self-Hosted Enterprise | 完全に自社インフラ上で運用。最大限の制御 | 厳格なガバナンス要件 |
Self-Hosted Lite は最大100万ノード実行までの無料枠が用意されており、まず手元で試すのに適しています。Cloud SaaS はベータ期間中、LangSmith の Plus または Enterprise プランで無料で試せる扱いになっています(提供条件は変わりうるため、開始前に公式の最新情報を確認してください)。選び方の目安としては、運用を任せて早く出したいなら Cloud SaaS、データを自社環境から出せないなら BYOC、規制やガバナンスが厳しく完全に内製で握りたいなら Self-Hosted Enterprise、というように「データの置き場所」と「運用をどこまで任せるか」の2軸で判断すると整理しやすくなります。
LangGraph CLI:開発からデプロイまで
LangGraph Platform への入り口は langgraph-cli です。ローカル開発からDockerビルド、デプロイまでを同じコマンド体系で扱えます。インストールは次の通りです(ホットリロード付きのローカル開発には [inmem] 付きを使います)。
pip install langgraph-cli
# ローカル開発サーバー(ホットリロード)を使う場合
pip install "langgraph-cli[inmem]"
プロジェクトの設定は langgraph.json に集約されます。どのグラフを公開するか、依存関係、環境変数などをここで宣言します。graphs は「ファイルパス:変数名」の形式でコンパイル済みのグラフを指定します。
{
"$schema": "https://langgra.ph/schema.json",
"dependencies": ["."],
"graphs": {
"agent": "./src/agent.py:graph"
},
"env": ".env"
}
主なコマンドは次の通りです。langgraph dev は Docker 不要の軽量サーバーで、状態をローカルに保存しながらホットリロードで開発できます(既定ポート 2024)。langgraph up は本番に近い Docker Compose 構成(APIサーバー+PostgreSQL+Redis)を起動します(既定ポート 8123)。
# テンプレートから新規プロジェクト作成
langgraph new my-agent --template new-langgraph-project-python
# ローカル開発(Docker不要)
langgraph dev
# 本番相当のスタックをローカルで起動(要Docker)
langgraph up
2026年に追加された langgraph deploy は、ローカルプロジェクトの Docker イメージをビルドしてマネージドレジストリへ push し、LangSmith Deployment 上にデプロイ(または更新)するところまでを1コマンドで行います。永続化用の Postgres とストリーミング用の Redis も自動で用意されるため、手動のインフラ構築は不要です。Docker が未導入の場合はリモートビルドに切り替わり、GitHub Actions などの CI/CD にも組み込めます(このコマンドはベータで活発に更新されています)。
# LangSmith Deployment へ1コマンドでデプロイ
langgraph deploy
3つの主要コマンドは「開発 → 本番相当の確認 → 公開」という流れで使い分けます。最初から deploy を叩く必要はなく、dev で素早く回し、up で本番に近い構成を手元で検証してから公開する、という順序が安全です。
| コマンド | 用途 | Docker | 既定ポート |
|---|---|---|---|
langgraph dev |
ローカル開発・ホットリロード・Studio接続 | 不要 | 2024 |
langgraph up |
本番相当の構成(API+Postgres+Redis)を起動 | 必要 | 8123 |
langgraph deploy |
マネージド環境(LangSmith Deployment)へ公開 | 任意(無い場合はリモートビルド) | — |
デプロイする「グラフ」の最小例
Platform にデプロイする対象は、LangGraph で compile() したグラフです。LLM連携を省いた最小構成を示します(下記は当記事の検証環境 langgraph 1.2.5 で実行確認済み)。ノードでの戻り値が状態に反映され、エッジの順に処理が進みます。
from typing import TypedDict, Annotated
import operator
from langgraph.graph import StateGraph, START, END
class State(TypedDict):
messages: Annotated[list[str], operator.add]
def greet(state: State):
return {"messages": ["hello from node"]}
builder = StateGraph(State)
builder.add_node("greet", greet)
builder.add_edge(START, "greet")
builder.add_edge("greet", END)
graph = builder.compile()
print(graph.invoke({"messages": ["start"]}))
# => {'messages': ['start', 'hello from node']}
この graph を langgraph.json の graphs に登録すれば、そのまま Platform 上のAPIとして公開できます。実際にツール(外部API)を呼ぶエージェントに発展させる手順は LangGraphのTool Callingとは?その仕組みと基本概念 を参照してください。
永続化(checkpointer)と会話の継続
本番のエージェントは「途中で止めて再開する」「会話を覚える」必要があります。LangGraph では checkpointer を compile() に渡すことで、thread_id ごとに状態が保存され、複数回の呼び出しをまたいで文脈が維持されます。Platform ではこの永続化レイヤー(Postgres など)が自動で提供されます。次は会話状態が蓄積されることを確認した例です(実行確認済み)。
from langgraph.checkpoint.memory import InMemorySaver
graph = builder.compile(checkpointer=InMemorySaver())
config = {"configurable": {"thread_id": "user-1"}}
graph.invoke({"messages": ["a"]}, config)
graph.invoke({"messages": ["b"]}, config)
print(graph.get_state(config).values)
# => {'messages': ['a', 'hello from node', 'b', 'hello from node']}
LangGraph Studio:ビジュアルデバッグ
LangGraph Studio(2025年10月に LangSmith Studio へ改称)は、グラフの実行を視覚的に追えるデバッグ用の開発環境です。どのノードを通り、各ステップでどんな入出力が発生したかをグラフ上で確認でき、分岐の誤りや無限ループといったエージェント特有の不具合を素早く特定できます。langgraph dev でローカルサーバーを起動すると、ブラウザから Studio に接続して動作を確認できます。
本番運用を支える機能
LangGraph Platform には、エージェントを実運用するうえで必要な仕組みが組み込まれています。
- ストリーミング/バックグラウンド実行:対話的に途中経過を返すストリーミングと、時間のかかる処理を裏で走らせるバックグラウンド実行の両方に対応します。
- cron・Webhook:定期実行や外部イベント起点のワークフローを組めます。
- Double Texting:エージェントが応答し終わる前にユーザーが追加入力した場合の扱いを制御します。新しい入力を拒否する、待ち行列に入れる、現在の処理を中断する、巻き戻す、といった方針を選べます。
- Human-in-the-Loop(HITL):重要なステップで人間の承認・編集・中断を挟めます。誤送信や不可逆な操作を防ぎたい業務フローで有効です。
- 水平スケーリング:タスクキューとサーバーの水平スケールにより、負荷が増えても応答性を保てます。
LangSmith によるトレースと可観測性
LangGraph Platform は LangSmith と統合されており、各実行のトレース(プロンプト、入出力、レイテンシー、トークン使用量など)を自動で記録できます。複雑なグラフでは「どのノードで期待外れの出力になったか」の特定が難しくなりますが、トレースを使えば原因箇所まで遡れます。LangSmith 以外の選択肢を比較したい場合は Langfuseとは?次世代のLLMアプリケーション観測ツールの概要 も参考になります。
料金と利用開始
料金体系は形態によって異なります。Self-Hosted Lite は無料で始められ、ドキュメントも整備されています。一方で Cloud SaaS や BYOC、Self-Hosted Enterprise といった上位の形態は、原則として営業窓口への問い合わせが必要で、公開された一律価格は提示されていません(価格の透明性が低いという指摘も見られます)。料金やプラン条件は変動しやすいため、導入前に必ず公式の最新情報を確認してください。
よくある質問(FAQ)
LangGraph Cloud と LangGraph Platform は別物ですか?
同じ製品の名称変更です。LangGraph Cloud として登場し、LangGraph Platform にリブランド、現在は公式には LangSmith Deployment という名称に統合されています。検索では今も旧称が使われることが多いです。
LangGraph(OSS)だけでは本番運用できませんか?
可能ですが、スケーリング・永続化・トレース・デバッグ環境などを自前で用意する必要があります。これらを標準で提供して運用負荷を下げるのが LangGraph Platform の役割です。
まず無料で試すには?
Self-Hosted Lite(無料枠)か、langgraph dev によるローカル開発から始めるのが手軽です。本番に近い構成は langgraph up、マネージドへの公開は langgraph deploy で進められます。
TypeScript でも使えますか?
LangGraph.js と対応するCLI(@langchain/langgraph-cli)が提供されています。ただし Studio やデプロイ周りのツールは Python 側が先行して成熟している傾向があります。