axe Monitor(アックス モニター)は、1999年創業の米Deque Systems社が開発した、Webサイト全体を自動で巡回してアクセシビリティの違反を検出・管理するツールです。ブラウザ拡張のように1ページずつ調べるのではなく、開始URLからリンクをたどり、設定した範囲を定期的にスキャンして、結果をチームで管理します。この記事では、Dequeの公式ドキュメント(axe Monitor 8.8)と国内提供元ミツエーリンクスの製品ページをもとに、スキャン設定の上限、検出結果の読み方、対応規格、2026年までの変更点、axe DevToolsやWAVEとの使い分けを整理します。
まとめ:axe Monitorの要点
- 役割:本番サイトを定期巡回し、違反の発生・修正・再発を追跡する監視ツールです。検査エンジンはオープンソースのaxe-core(MPL-2.0)で、axe DevToolsやLighthouseと同じ系統です。
- 規模:スキャンは100ページ(Quick)、1,000ページ(Standard・既定)、5,000ページ・5階層(Large)の3段階と、深さ1〜5階層を指定するCustomから選びます。
- 対応規格:WCAG 2.0〜2.2(レベルA・AA・AAA)、Section 508、EN 301 549、Trusted Tester(TTv5)、RGAA 4。既定はWCAG 2.1 レベルAAです。国内提供元のミツエーリンクスはWCAG 2.2とJIS X 8341-3:2016での検証に対応すると案内しています。
- 検出できる範囲:自動検査が拾えるのは課題の一部です。Dequeの2021年の調査では、課題件数ベースで57%でした。JISへの準拠を表明するには手動の試験が別に要ります。
- 価格:公開されていません。Dequeはデモ申し込み、国内ではミツエーリンクスが導入支援と見積もりの窓口になっています。
- 向かないケース:定期巡回やチームでの結果管理が不要なサイト、開発中の画面の検査は、無償のブラウザ拡張やCIに組み込んだaxe-coreが候補になります。
axe Monitorの位置づけ:ページ単位のチェックツールとの違い
Dequeは、axe-coreという検査ルールのライブラリを中心に、用途別の製品を並べています。axe Monitorはその中で「サイト全体のスキャン、レポート、分析」を担う製品です。同じルールで検査するので、開発者がブラウザ拡張で見た違反と、運用担当がaxe Monitorで見た違反の判定がずれにくいという利点があります。
axe-coreを共有するDeque製品の分担
| 製品 | 検査の単位 | 主な利用者 | 費用 |
|---|---|---|---|
| axe-core | 呼び出したページ・コンポーネント | 開発者(テストに組み込む) | 無償(MPL-2.0) |
| axe DevTools 拡張機能 | 開いている1ページ | 開発者・デザイナー | 無償版と有償版 |
| axe Auditor | 手動試験の記録 | アクセシビリティ専門家 | 有償 |
| axe Monitor | サイト全体(巡回) | 運用担当・管理者 | 有償(価格非公開) |
axe Monitorの画面から、axe DevTools拡張機能で行った手動の誘導テスト(Intelligent Guided Tests)の結果を取り込めます。8.7からは、取り込んだ結果が次回以降のスキャン結果にも引き継がれるようになりました。自動巡回と手動試験の結果を1か所にまとめられる点が、単体の拡張機能にはない部分です。
WAVE・Lighthouseとの違い
「axe」と並べて比較されることが多いWAVEは、米ユタ州立大学のWebAIMが提供するツールです。Chrome・Firefox・Edge向けの拡張機能はページをブラウザ内で評価し、サーバーに情報を送りません。サイト全体を調べたい場合はWAVE APIを使い、1ページの基本評価に1クレジット(新規アカウントに100クレジット付与、追加は1クレジット0.025〜0.04ドル)を消費します。WAVEの判定をサイト全体に広げる方法は、WAVE APIで巡回や結果管理を自前で組むか、WebAIMが案内するWAVEベースの監視サービスPope Techを使うかのどちらかです。
Chrome DevToolsのLighthouseも、アクセシビリティ監査にaxe-coreを使っています。ただしLighthouseは性能やSEOと並ぶスコアの1項目として一部のルールを実行する位置づけで、違反の担当者割り当てや推移の管理はしません。3つを分けるなら、1ページの確認はWAVEかaxe DevTools拡張機能、ビルドごとの検査はaxe-core、公開済みサイト全体の継続監視がaxe Monitorです。
スキャン設定の中身:規模・スケジュール・ログイン後ページ
axe Monitorでは、1つのWebサイトの検査設定を「スキャン」、その1回ごとの実行を「スキャン実行(Scan Run)」と呼びます。スキャンの作成は8ステップで、必須は最初の「General」と最後の「Review」だけです。
スキャンサイズの4区分と上限
| 区分 | 上限ページ数 | 巡回の深さ | 想定する対象 |
|---|---|---|---|
| Quick Scan | 100 | 開始URLとそのリンク先 | サイトの一部 |
| Standard Scan(既定) | 1,000 | 指定なし | 中規模サイト |
| Large Scan | 5,000 | 5階層 | 大規模サイト |
| Custom Scan | 任意に指定 | 1〜5階層 | 範囲を絞りたい場合 |
大きなサイトは、ディレクトリやサブドメインごとに複数のスキャンへ分け、「スキャングループ」で束ねると担当部署ごとに結果を見られます。8.0からは1つのスキャンを複数のグループに所属させられるので、「採用サイト」と「英語サイト」のように別の切り口で同じ結果を集計できます。
スケジュールは一回・毎週・毎月
スキャンは一回だけ、毎週、毎月のいずれかで自動実行できます。2週間ごと・3か月ごとのような間隔や、曜日の指定も可能です。無限にリダイレクトするURLなどで終わらなくなる事態に備え、一定時間を超えたら打ち切る設定もあります。保存されるスキャン実行は各スキャンの直近3回分なので、それより長い推移は連携するaxe Reportsで見ます。
ログインが必要なページとユーザーフローの検査
会員ページや管理画面のように認証が必要な領域は、Basic・NTLM・Kerberos・クライアント証明書の各認証を画面から設定できます。フォーム型のログインなど、それ以外の方式はスクリプトで対応します。スクリプトはJSONまたはYAMLで書き、リンクの選択・文字入力・画面遷移といった操作を記録して、ログイン後の画面や購入手続きのような複数ステップのフローを検査します。
注意点は2つです。1つは、スクリプトによる解析は3分でタイムアウトすることです。延長はできますが、公式ドキュメントは変更を推奨していません。もう1つはボット対策です。ShopifyやCloudflareなどが採用するWeb Bot Authの許可リストに8.6で対応しましたが、想定よりページ数が少ない場合はDequeのサポートに署名情報を渡して有効化する必要があります。
PDFとモバイル表示の検査
Webページに加えてPDFも検査対象にでき、PDF/UAの違反を含めるかどうか、何件まで返すか、いつ以降に更新されたPDFに絞るかを指定できます。更新されない古いPDFを大量に公開している場合は、目的に応じて件数や更新期間を設定します。ただし公開中の古いPDFも利用者は読めるため、期間で除外すると検査漏れになる点に注意が必要です。表示幅は既定で1920×1080ピクセルで、タブレットやスマートフォン幅で検査したい場合はここを変えます。
検出結果の読み方:直す順番の決め方
axe Monitorの結果画面は、違反を並べるだけでなく「どこから直せば件数が最も減るか」を示す作りになっています。
「Issue」と「Needs Review」の区別
自動で違反と確定できるもの(alt属性のない画像、ラベルが関連付けられていないフォーム、コントラスト不足など)は「Issue」になります。人の判断が要るもの(見出しのように装飾されているが見出しタグでない文字列、ヘッダーセルのないデータ表らしき表など)は「Needs Review」です。Needs Reviewは確認後にIssueへ格上げするか、問題なしとして「Ignored」にします。Ignoredにした結果は、次のスキャンで再検出されてもOpenには戻らず、Ignoredの状態を維持します。
共通コンポーネントによるヘッダー・フッターの違反集約
ヘッダー・フッター・グローバルナビゲーションのような全ページ共通の部品に違反があると、1,000ページのスキャンなら同じ違反が1,000件並びます。テンプレートとなるURLに加え、共通コンポーネントの名前(例:Header)とCSSセレクターを設定しておくと、これらは「Common Issue」として1件にまとまります。8.5からは、共通部分を担当していないチームのために、共通コンポーネントの違反を結果から除外する設定も加わりました。ただし除外すると本当に直すべき違反を見落とす可能性がある、と公式ドキュメントも注意しています。
セレクター表とスクリーンショット
8.3で追加されたセレクター表は、違反の多いCSSセレクターを件数順に並べます。たとえば1つのimg要素の指定を直すだけで全体の2割の違反が消える、といった効果の大きい修正を先に見つけられます。8.8からは、違反箇所を枠で囲んだページ全体のスクリーンショットを保存できるようになりました。新規スキャンでは既定で有効ですが、スキャン時間が5〜20%ほど延びます。
見つけた違反は、8.4で追加されたJira連携で、ページ単位または違反単位のチケットとして起票できます。
対応規格:WCAG・Section 508・EN 301 549・JIS X 8341-3
検査に使う規格はスキャンごとに選びます。公式ドキュメントが挙げるのは、W3CのWCAG達成基準、米国のリハビリテーション法508条、欧州のEN 301 549、米国土安全保障省のTrusted Tester(TTv5)です。8.5でフランスの公式基準RGAA 4も加わりました(axe-core 4.11.0以降が必要)。WCAG 2.2への対応とレベルAAAの選択は8.0より前の7.x系で追加済みです。既定値はWCAG 2.1 レベルAAのままなので、2.2で検査したい場合はスキャンかプリセットで切り替えます。「ベストプラクティスも検査する」を選ぶと、規格の達成基準に含まれない改善点も結果に加わります。
日本での利用で気になるのはJIS X 8341-3です。ミツエーリンクスは、axe Monitorが最新のWCAG 2.2に対応し、WCAG 2.0の一致規格であるJIS X 8341-3:2016での検証も可能だと案内しています。そのJISは、ウェブアクセシビリティ基盤委員会(WAIC)が2025年10月30日に改正原案作成委員会を発足させ、WCAG 2.2と同一のISO/IEC 40500:2025に合わせる方向で改正作業が進んでいます。これから検査の基準を決めるなら、現行JIS(WCAG 2.0相当)の達成基準は満たしたうえで、WCAG 2.2 レベルAAで検査しておくと改正への備えになります。ただしWAICは、WCAG 2.2の正誤表がISO/IEC 40500:2025に反映されていない点や日本語テキストの扱いを論点に挙げており、改正後は確定した規定・試験方法との差分を確かめる必要があります。規格同士の関係はJIS X 8341-3とWCAGガイドラインの解説で詳しく扱っています。
検査エンジンのaxe-coreは、スキャンごとに版を固定するか、「Latest」でaxe Monitor上で利用できる最新の版を使うかを選べます。参考までに、GitHubで公開されているaxe-coreの最新版は2026年8月5日公開の4.13.0です。版が上がるとルールが増えて件数が変わることがあるため、前回との比較を重視する期間は版を固定し、比較の区切りで上げる運用が無難です。
自動検査の検出範囲と手動試験の必要性
Dequeは2021年3月、2,000件超の監査(13,000ページ超、約30万件の課題)を分析し、自動検査で課題件数の平均57%を検出できたと公表しました。よく引かれる「20〜30%」は自動化できる達成基準の割合で測った数字で、課題件数で測った57%とは物差しが違います。また57%はこのデータセットでの平均で、どのサイトでも同じ割合になるわけではありません。残りの課題には、キーボードだけで操作できるか、代替テキストの内容が適切か、といった人が判断するしかない項目が含まれます。スコアが高くても、それだけで「JIS準拠」とは表明できません。自動・手動・当事者による検証の組み合わせ方はWebアクセシビリティ診断の進め方で解説しています。
2024〜2026年の主な変更点(v8.0〜v8.8)
axe Monitorは2024年11月の8.0で大きく作り直され、SaaSとして提供されるようになりました。旧版の画面や用語で書かれた解説は、現行の画面と対応しない箇所があります。
| 版 | 公開 | 主な変更 |
|---|---|---|
| 8.0 | 2024年11月 | SaaS化、用語変更(Organization→Scan Group等)、ダッシュボードをaxe Reportsへ移管 |
| 8.1 | 2025年3月 | プリセット、共有スクリプト、結果取得API、日本語UI |
| 8.3 | 2025年7月 | セレクター表、スキャン作成権限の制御 |
| 8.4 | 2025年10月 | Jira連携 |
| 8.5 | 2025年11月 | RGAA 4、指定語句の検索、共通コンポーネントの除外 |
| 8.6 | 2026年1月22日 | Web Bot Auth対応、APIの時間当たり制限の撤廃(8.6.1) |
| 8.7 | 2026年4月17日 | 取り込んだ手動試験結果を次回以降にも反映 |
| 8.8 | 2026年6月30日 | MCPサーバーの一般提供、違反箇所のスクリーンショット |
8.0での用語変更は、旧版の資料を読むときに混乱しやすい部分です。旧「Organization」は「Scan Group」、旧「Project」(個々のサイト)は「Scan」、旧「Scan」(毎週・毎月の1回ごとの実行)は「Scan Run」、旧「Scope Definition」は「Common Component」に改められました。
8.8で一般提供になったMCPサーバーは、SaaS版の購入者全員が使えます。AIエージェントからスキャンの作成や設定変更を行い、前回との差分や優先して直すべき違反を尋ねられます。
8.5の「指定語句の検索」は、「アクセシビリティ方針」のような語句が全ページに載っているかを確認する機能です。調べるのは文字列の有無なので、自治体サイトなどで方針ページへのリンク漏れの候補を探すのに使えます。リンク先やリンクの動作は別途確認します。
価格と導入の進め方
axe Monitorの価格は、Deque・国内提供元のどちらも公開していません。Dequeの製品ページはデモの申し込み、ミツエーリンクスは問い合わせからの見積もりです。国内でのアクセシビリティ対応全体の費用の組み立て方はWebアクセシビリティ対応の費用で、診断・改修・運用に分けて整理しています。
国内での提供形態
ミツエーリンクスは、Deque社の協力のもとでaxe Monitorの画面を日本語化し、導入支援と運用サポートを提供しています。流れは、ヒアリング、要件定義、導入、設定、運用サポート開始の順です。導入前にデモを依頼することもできます。なお本体も8.1から日本語表示に対応しており、ブラウザの言語設定で切り替わります。
提供はSaaSが中心ですが、公式ドキュメントにはオンプレミス環境向けの修正履歴も残っています。8.0の動作確認環境の表には、OSがRocky Linux 8、データベースがMySQL 8.0とMicrosoft SQL Server 2019・2016と載っています。ただし8.0のリリースノートはSQL Server 2016のサポート終了を告知しており、資料同士が食い違っています。オンプレミスで導入するなら、対象版の対応環境を提供元に確認してください。
Monitor管理者の人数と共有権限の設計
権限は「Monitor管理者」「スキャン管理者」「メンバー」「閲覧者」の4種類です。Monitor管理者は全スキャンの作成・削除と権限付与ができるため、公式ドキュメントは1組織あたり3人以内、通常は担当者と代理の2人にするよう勧めています。制作会社や外注先には、ログイン不要でそのスキャンの結果だけを見せる公開共有リンクを使う方法もあります。
axe Monitorを選ばないほうがよいケース
axe Monitorの強みは「公開済みの大規模サイトを、担当者が入れ替わっても同じ基準で監視し続けられる」点にあります。この条件に当てはまらないなら、費用に見合いにくいと考えます。
- ページごとの確認で運用が回るサイト:ページ数が少なく、定期巡回やチームでの結果管理が要らないなら、無償のaxe DevTools拡張機能やWAVE拡張機能が候補になります。定期監視だけが必要なら、axe-coreを使った巡回スクリプトを自前で回す選択肢もあります。
- 開発中の画面が主な対象:CIでaxe-coreを走らせれば、自動検査で検出できる違反をリリース前に確認できます。費用は既存のCI基盤と保守体制を含めて比べます。axe Monitorは本番環境の状態を見るための製品です。
- 適合の証明が目的:自動検査は課題の一部しか拾えないため、axe Monitorのスコアだけで準拠を表明することはできません。試験の証跡が要るなら、手動試験(axe Auditorや外部の診断)を先に計画します。
- 個人データを含む画面:Dequeは、ソフトウェアやサービスを個人データの収集・保存・共有に使わないよう明記しています。会員の個人情報が表示される画面をそのまま巡回させる設計は避けます。
逆に、数千ページ規模で更新担当が複数部署に分かれている企業サイトや自治体サイトでは、共通コンポーネントでの重複整理と定期スキャンだけでも、手作業の点検では追いつかない再発を拾えます。どのページで何を直すかの優先順位付けは、実装側の観点からウェブアクセシビリティ向上の進め方でもまとめています。
よくある質問
axe Monitorとaxe DevToolsの違いは何ですか?
axe DevToolsは開発者が1ページや特定の操作手順を検査するためのツールで、axe Monitorはサイト全体を定期的に巡回して結果を管理するツールです。どちらもaxe-coreで判定しますが、結果を揃えるにはaxe-coreの版、適用するルール(規格とベストプラクティスの有無)、ページの表示状態を合わせる必要があります。axe DevToolsの手動テスト結果はaxe Monitorに取り込めます。
axe Monitorは無料で使えますか?
公式サイトに無料プランの案内はなく、価格も公開されていません。Dequeへのデモ申し込みか、国内ではミツエーリンクスへの問い合わせで見積もりを取ります。無料で使えるのは、検査エンジンのaxe-coreとaxe DevTools拡張機能の無償版です。
axe MonitorはJIS X 8341-3に対応していますか?
国内提供元のミツエーリンクスは、JIS X 8341-3:2016での検証が可能だと案内しています。ただし自動検査で分かるのは課題の一部なので、JISへの準拠を表明するには手動の試験が別に必要です。
axeとWAVEはどちらを使えばよいですか?
1ページずつ確認するなら、どちらのブラウザ拡張でも構いません。WAVEはページ上にアイコンで違反を重ねて表示し、axe DevToolsは違反を一覧にしてコードの該当箇所を示すので、見やすいほうを選べば足ります。サイト全体を継続監視するなら、巡回と結果管理まで備えたaxe Monitorが向いています。WAVE系で同じことをするなら、WAVE APIでの独自構築か、WAVEをエンジンにしたPope Techが候補です。
ログインが必要なページも検査できますか?
できます。Basic・NTLM・Kerberos・クライアント証明書の認証は画面で設定でき、フォームでのログインはJSONまたはYAMLのスクリプトで操作を再現します。スクリプトの解析は3分でタイムアウトします。