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クリック&モルタルとは?意味・語源とブリック&モルタル・オムニチャネルとの違い

クリック&モルタルとは?意味・語源とブリック&モルタル・オムニチャネルとの違い

クリック&モルタル(クリックアンドモルタル、click and mortar)は、実店舗とインターネット通販の両方で商品を売る事業形態を指す言葉です。マーケティング用語集では定番の項目ですが、生まれたのは2000年前後で、今ではオムニチャネルやOMOといった後発の用語と並べて使われます。この記事では、語源になった「ブリック&モルタル」の意味、ドットコム崩壊期にこの形態が論じられた経緯、店舗受取などの具体的な形、後継概念との違いを、辞書・書誌・企業の年次報告書などの一次資料で整理します。

まとめ:クリック&モルタルの意味と店舗・EC併設の位置づけ

クリック&モルタルは、マウス操作の「クリック(EC)」と、建物を建てる材料の「モルタル(実店舗)」を組み合わせた造語です。英語の「brick and mortar(煉瓦とモルタル)」が実店舗型の伝統的企業を指すことから、その片方をクリックに置き換えて生まれました。Cambridge Dictionaryは clicks and mortar・clicks and bricks・bricks and clicks をいずれも「店舗とインターネットの両方で販売する事業」を表す表現として扱っています。

この形態は、2000年刊行の経営書『Clicks and Mortar』や同年のHarvard Business Reviewの論文で論じられました。翌2001年7月には、店舗を持たないネット専業のネットスーパーWebvanが営業を停止しています。

ただし、この言葉は「両方を持っている」ことしか表しません。在庫や顧客情報をつないでいるかどうかまでは問わないため、いま設計の目標にするならオムニチャネルやOMOの考え方を使うほうが実務に合います。

クリック&モルタルの意味と、ブリック&モルタルから派生した語源

煉瓦とモルタルで建てた店舗を指す brick and mortar

brick は煉瓦、mortar は煉瓦を積むときに目地を埋める接着材のモルタルです。Cambridge Dictionaryは brick-and-mortar を「インターネット上で営業する企業と比べたときの、建物の中で営業する伝統的な事業」を表す形容詞と説明しています。つまり「煉瓦とモルタル」は、物理的な建物を構えて商売をしていることの比喩です。

この比喩は、店舗や事務所という建物そのものを材料名で言い表しているだけです。ネット企業が登場したことで、対比のために「建物を持つ側」を呼ぶ言葉が必要になりました。

bricks and clicks などの表記ゆれと辞書上の定義

英語では clicks and mortar、clicks-and-mortar、clicks and bricks、bricks and clicks と表記が揺れます。Cambridge Dictionaryはこれらを同じ意味の見出しとして並べており、「ネット企業が店舗を出すのがクリック&モルタル、店舗企業がネットに出るのがブリック&クリック」といった使い分けは辞書上ありません。Dictionary.comは clicks-and-mortar の初出を「1995〜2000年」と幅で示しています。

日本語でもクリック&モルタル、クリックアンドモルタル、クリック・アンド・モルタルが混在します。意味の差はないので、社内資料では表記を一つに揃えれば足ります。

書名に掲げたポットラック『Clicks and Mortar』(2000年)

この語を書名に掲げた代表的な書籍が、David S. Pottruck と Terry Pearce の『Clicks and Mortar: Passion-Driven Growth in an Internet-Driven World』(Jossey-Bass、2000年、ISBN 0-7879-5273-7)です。Pottruckは証券会社チャールズ・シュワブで1997年12月に共同CEOに就いた経営者で、同社は店舗網を持つ証券会社としてオンライン取引を拡大していました。

国内の用語解説にはPottruckを「造語者」とするものもありますが、Dictionary.comが初出を1995〜2000年と幅で示している以上、書籍の刊行が最初の用例だとまでは言い切れません。「この語を広く知らしめた経営書の一冊」と捉えておくのが安全です。

ドットコム崩壊期のネット専業の撤退と店舗併設型をめぐる議論

2001年7月のWebvan閉鎖に見るネット専業ネットスーパーの撤退

ネット専業のネットスーパーだった米Webvanは、2001年7月9日に営業を停止し、連邦破産法11条の適用を申請すると発表しました。当日付のSeattle Timesによれば、2,000人が解雇され、シアトル、サンフランシスコ、シカゴなど7つの市場で75万人の利用者へのサービスが止まっています。1999年半ばに始まった事業が、わずか2年で終わりました。

配送センターと配送網を自前で築く必要があるネット専業に対し、既存の店舗を持つ小売企業には、店舗を受け渡し拠点として使う選択肢があります。ただし、Webvan一社の撤退だけで、店舗併設型全般の優位性までは判断できません。

HBR論文(2000年)が示した「分けるか統合するか」という論点

同じ時期、Harvard Business Review 2000年5〜6月号に Ranjay Gulati と Jason Garino の論文「Get the Right Mix of Bricks and Clicks」が掲載されました。公開されている要旨は、革新的なネット企業の多くが仮想の業務と物理の業務を統合しつつあり、成功の鍵は統合の進め方にあると述べています。

当時はネット事業を別会社として切り出す企業が多く、「分けるか、つなぐか」が経営の争点でした。クリック&モルタルという言葉自体は両方を持つ状態を指すだけですが、議論の中心はすでに「どこまでつなぐか」に移っていたことが分かります。

Amazonによる2017年のWhole Foods買収という逆方向の動き

ネット専業から店舗側へ踏み込んだ例もあります。Amazonは2017年6月16日の発表で、食品スーパーのWhole Foods Marketを全額現金の株式取得で買収するとし、純負債を含む取引総額を約137億ドルとしました。その後、同年8月28日に買収を完了しました。オンライン販売から出発した企業が、大規模な店舗網を取得した事例です。

Webvanの撤退とAmazonの買収だけで、食品販売に実店舗が必須とは判断できません。ただ、ネット専業の撤退とネット企業による店舗網の取得が、16年を隔てて同じ食品分野で起きた点は、店舗の役割を考えるうえで押さえておく価値があります。

ブリック&モルタル・ピュアプレーヤーとの販路・費用の比較

3つの形態は、販路として何を持つかで分かれます。

区分 販路 主な固定費 強み 弱み
ブリック&モルタル 実店舗のみ 店舗の賃料・人件費 試着・対面接客・即日持ち帰り 商圏の外に売れない
ピュアプレーヤー ECのみ 倉庫・配送・集客広告 商圏の制約がない 配送費と返品の負担
クリック&モルタル 店舗とEC 店舗とECの両方 店舗を受取・返品拠点にできる 二重運営のコスト

表の弱みの欄が示すとおり、クリック&モルタルは両方の固定費を抱えます。採算は、ECで増える粗利益と、サイト運営・物流・店舗対応で増える費用を比較して判断します。受取や返品の拠点を兼用することは費用を抑える手段の一つですが、別運営でも販路拡大による利益が追加費用を上回れば成立します。

クリック&モルタルの代表的な形態と国内外の実装例

ネットで注文して店舗で受け取る形(クリック&コレクト)

代表的な形の一つです。英国などではクリック&コレクト、米国ではBOPIS(Buy Online, Pick-up In Store)とも呼ばれます。ユニクロは、オンラインストアで購入した商品を指定店舗で受け取れる「ユニクロ店舗受取り」を1点から送料無料で提供しています。さらにアプリの「ORDER & PICK」では、指定店舗に在庫があれば事前注文から最短1時間で受け取れます。

ユニクロ店舗受取りでも、受取店舗に商品があれば店舗在庫から渡される場合があります。ORDER & PICKは指定店舗の在庫を注文するサービスで、両者を倉庫在庫と店舗在庫だけで区別することはできません。

店舗在庫をネットで見せて来店につなげる形

ヨドバシ・ドット・コムは、オンラインショッピングに加えて「リアルタイム店舗在庫検索」と「店舗受け取り予約」を提供しています。ECで買わせるだけでなく、店舗に在庫があることを見せて来店を促す使い方です。

家電のように実物を確認してから買いたい商材では、この形がショールーミング(店舗で見てネットで買う行動)への対抗策にもなります。店舗で見た客がネットで買っても、自社のECであれば売上は逃げません。

店舗を出荷拠点として使う形(米Target・Walmart)

米Targetは2025年度の年次報告書(Form 10-K)で、デジタル経由の売上の過半を店舗が処理しており、それによって Order Pickup、Drive Up、Same-Day Delivery といった当日受け渡しを提供できると説明しています。Walmartも2026年1月期のForm 10-Kで、オンラインで購入した多くの商品を最寄りのWalmart店舗またはSam’s Clubで受け取れると記載しています。

ここまで来ると、店舗は売場であると同時に物流拠点です。Webvanが自前の配送センターで担おうとした受け渡しを、既存の店舗網で担っている形です。

オムニチャネル・OMO・O2Oとの違いと現在の位置づけ

後発の用語は、いずれも「店舗とネットを持っていること」ではなく「どうつなぐか」に焦点を移しています。

用語 焦点 問うこと
クリック&モルタル 事業形態 店舗とECの両方を持つか
O2O 送客施策 ネットから店舗へ客を送れるか
オムニチャネル 在庫・顧客データ 全販路で在庫とIDを共有するか
OMO 顧客体験 客がネットと店舗を区別せず買えるか

クリック&モルタルは、この中で最も粗い区分です。店舗とECを持つ企業が当たり前になった現在、「当社はクリック&モルタル型です」と言っても設計上の情報はほとんど増えません。在庫と顧客IDの統合範囲を問うならオムニチャネルとは?在庫・顧客データの統合要件と導入手順・見送る判断基準、顧客体験を主語にするならOMOとは?O2O・オムニチャネルとの違いと導入判断・システム要件、送客施策に絞るならO2Oとは?意味・仕組みからメリット・課題・OMOとの違いまで解説で扱っています。

クリック&モルタルを目標に据えると失敗する場面と判断基準

店舗・EC間の在庫台帳と会員IDの分断

「クリック&モルタル化」を掲げてECサイトを立ち上げても、店舗在庫とEC在庫が別の台帳で、会員番号も別体系のままなら、実態は販路を増やしただけのマルチチャネルです。この状態では、ECで「在庫なし」と表示された商品が店舗の棚にある、店舗で買った商品をECの購入履歴で確認できない、といった分断が起きます。

Cambridge Dictionaryの「店舗とインターネットの両方で販売する」という定義では、この状態もクリック&モルタルに含まれます。だからこそ、目標は「両方を持つ」ではなく「店舗受取・店舗在庫の表示・店頭返品のどれを実現するか」で置くべきです。販路を増やす段階の整理はマルチチャネルとは?EC多店舗の統合範囲とオムニチャネルとの違いを参照してください。

商材別EC化率と店舗の役割(書籍・映像・音楽ソフト56.45%・食品・飲料・酒類4.52%)

経済産業省の「令和6年度電子商取引に関する市場調査」(2025年8月26日公表)では、2024年の物販系分野のEC化率は9.78%でした。平均では1割に届きませんが、分野別の差は大きく、書籍・映像・音楽ソフトが56.45%、生活家電・AV機器・PC等が43.03%に対し、食品・飲料・酒類は4.52%にとどまります。

10倍以上の開きがある以上、平均の9.78%を自社に当てはめて店舗とECの比重を決めるのは避けるべきです。一方で、EC化率は分野全体の比率で、個別企業の販路構成までは表しません。非ECの売上にも店舗以外の注文方法が含まれます。投資の重心は、自社の販路別売上と店舗受取・在庫問い合わせの件数を、自社分野の水準と並べて決めます。

店舗受取システムへの投資を見送る採算条件

店舗数やEC注文数が少なく、想定する受取件数による追加粗利益と作業費削減額で開発・運用費を回収できない場合は、専用システムの開発を見送ります。この段階では、ECで受けた注文を店舗スタッフが取り置く手作業の運用で店舗受取を始め、受取件数と在庫差異の発生頻度を記録するほうが合理的です。

手作業の期間に、受取件数、1件あたりの取り置き作業時間、在庫差異による欠品連絡の件数を記録しておくと、システム費用と比べる根拠になります。ユニクロのORDER & PICKのように店舗の棚在庫を注文対象にする段階では、在庫の更新と引当を自動で管理する仕組みが前提です。どの領域から着手するかの順序は小売DXとは?課題・進め方と店舗・EC・在庫のシステム化ロードマップを解説で整理しています。

よくある質問

クリックアンドモルタルの例にはどんな企業がありますか?

国内ではユニクロとヨドバシカメラが分かりやすい例です。ユニクロはオンラインストアの商品を店舗で受け取れるサービスと、アプリで注文して最短1時間で店舗受取できるORDER & PICKを提供しています。ヨドバシ・ドット・コムは店舗在庫をリアルタイムで検索でき、店舗受け取り予約にも対応しています。海外では、店舗がデジタル経由の売上の過半を処理している米Targetや、店舗受取を提供するWalmartが代表例です。

クリック&モルタルのメリットは何ですか?

利点の一つは、既存の店舗をECの受取・返品・出荷の拠点として兼用できることです。店舗受取なら顧客宅までの配送を省けます。送料の条件は各社で異なり、ユニクロ店舗受取りは1点から送料無料です。店舗で商品を見た客が自社ECで購入すれば、ショールーミングで他社に売上が流れることも防げます。一方で店舗とECの固定費を両方抱えるため、ECで増える粗利益が追加の運営費用を上回るかを確かめる必要があります。

brick and mortarはなぜ実店舗という意味になるのですか?

brickは煉瓦、mortarは煉瓦を積む接着材のモルタルで、建物を建てる材料の名前です。Cambridge Dictionaryはbrick-and-mortarを、インターネット上で営業する企業と対比して、建物の中で営業する伝統的な事業を表す語と説明しています。インターネット企業が登場したことで、建物を持つ側を材料名で呼ぶ比喩が広まり、そこからクリック&モルタルという言葉が派生しました。

クリック&コレクトとクリック&モルタルの違いは何ですか?

クリック&モルタルは事業形態の名前で、クリック&コレクトはその中の具体的な販売方式の一つです。クリック&コレクトは、ネットで注文した商品を店舗などで受け取る方式を指し、米国ではBOPIS(Buy Online, Pick-up In Store)とも呼ばれます。店舗とECを持つ企業が、店舗を受け渡し拠点として使う代表的な手段がクリック&コレクトだと整理できます。

クリック&モルタルはもう古い言葉ですか?

用語としては2000年前後に広まった言葉で、現在の小売の設計議論ではオムニチャネルやOMOが主に使われます。店舗とECの両方を持つこと自体が珍しくなくなり、この言葉だけでは在庫や顧客データをどこまでつないでいるかを表せないためです。ただし、ブリック&モルタルやピュアプレーヤーと対比して事業形態を説明する場面では、今も通じる言葉です。

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