ブルーオーシャン戦略は、INSEAD教授のW・チャン・キムとレネ・モボルニュが提唱した経営戦略です。競争相手のいない市場空間を、差別化と低コストを同時に追うことで切り開きます。この記事では、著者の公式サイトとHarvard Business Review(HBR)の論文にある定義をもとに、レッドオーシャンやニッチ戦略との違い、ブルーオーシャンの見つけ方(6つのパスと非顧客の3層)、ERRCグリッドの作り方を順に解説します。事例はQBハウス、任天堂Wii、スターバックス、ユニクロを取り上げ、原典の枠組みに当てはめて読み解きます。
まとめ:ブルーオーシャン戦略の定義・見つけ方・誤解しやすい点
- 定義:差別化と低コストを同時に追求して新しい市場空間を開き、新しい需要を生む戦略です。対義語はレッドオーシャン(今ある全ての産業=既知の市場空間)です。
- 原典:HBR論文(1997年「Value Innovation」、2004年10月号「Blue Ocean Strategy」)と、2005年刊行の書籍『Blue Ocean Strategy』です。日本語版は2005年6月(ランダムハウス講談社)、[新版]は2015年9月(ダイヤモンド社)に出ています。
- 見つけ方:6つのパスで業界の境界を引き直し、既存顧客ではなく3層の非顧客に目を向けます。
- 設計:戦略キャンバスに業界の競争要因を描き、ERRC(取り除く・減らす・増やす・創造する)で新しい価値曲線を組みます。検証は「買い手の効用→価格→コスト→導入」の順に進めます。
- 誤解しやすい点:ニッチ戦略、単なる差別化、単なる低価格路線とは別物です。著者はこれらとの混同を「レッドオーシャンの罠」と呼んでいます。
ブルーオーシャン戦略の定義と提唱者・原典
著者の公式サイト(blueoceanstrategy.com)では、ブルーオーシャン戦略を「差別化と低コストを同時に追求して新しい市場空間を開き、新しい需要を創造すること」と定義しています。競合に勝つ方法を探す戦略ではありません。競合と比べること自体を無意味にする市場を作る戦略です。
ブルーオーシャンとレッドオーシャンの意味と比喩の由来
公式サイトによると、レッドオーシャンは「現在存在するすべての産業」、つまり業界の境界も競争のルールも知られている市場空間です。HBR論文(2004年10月号)の要約には「激しさを増す競争が海を血に染める」とあり、赤い海の比喩はここから来ています。ブルーオーシャンは「競争のない市場空間」を指します。需要を奪い合うのではなく、新しく生み出す点が違いです。ブルーオーシャンの対義語はレッドオーシャンです。
著者はHBR論文で、108社の新規事業を調べた結果も示しています。86%は既存の提供物を少し改良した「ライン拡張」で、売上の62%を占めながら利益は39%にとどまりました。新しい市場や産業を狙った14%は、売上の38%に対して利益の61%を生んでいます。件数では少数派の市場創造型が、利益の過半を稼いでいたという結果です。
バリュー・イノベーション:差別化と低コストのトレードオフを崩す考え方
戦略の中核にあるのがバリュー・イノベーション(価値革新)です。公式定義は「差別化と低コストを同時に追求し、買い手と企業の双方に価値の飛躍を生むこと」です。業界が当然のように競ってきた要因を取り除いたり減らしたりしてコストを下げ、業界がこれまで提供してこなかった要因を創り出して買い手の価値を上げます。
ポーターの基本戦略は、差別化とコストリーダーシップのどちらかを選ぶことを原則とし、両立は限られた条件でしか認めていません(詳しくはコストリーダーシップ戦略の定義と成立条件)。ブルーオーシャン戦略は、この「価値かコストか」の二者択一を前提にしない点で立場が異なります。
原典の書誌と日本語版の刊行年
| 刊行 | 媒体・出版社 | タイトル |
|---|---|---|
| 1997年 | HBR | Value Innovation: The Strategic Logic of High Growth |
| 2004年10月号 | HBR | Blue Ocean Strategy |
| 2005年 | Harvard Business School Press | Blue Ocean Strategy |
| 2005年6月 | ランダムハウス講談社 | ブルー・オーシャン戦略 競争のない世界を創造する |
| 2015年2月 | Harvard Business Review Press | Blue Ocean Strategy, Expanded Edition |
| 2015年9月 | ダイヤモンド社 | [新版]ブルー・オーシャン戦略 |
| 2017年 | Hachette | Blue Ocean Shift |
| 2018年4月 | ダイヤモンド社 | ブルー・オーシャン・シフト |
公式サイトによると、原著は400万部を超え、49言語で刊行されています。現行は20周年版で、新しい序文に加え、NVIDIAとテイラー・スウィフトのケーススタディが追加されました。日本語で手順まで読むなら、現在も入手しやすい[新版](2015年)が出発点になります。
レッドオーシャン戦略・ニッチ戦略との違い
レッドオーシャン戦略とブルーオーシャン戦略の比較表
公式サイトは、2つの戦略の違いを次の5項目で対比しています。
| 観点 | レッドオーシャン戦略 | ブルーオーシャン戦略 |
|---|---|---|
| 市場空間 | 既存の市場空間で競争する | 競争のない市場空間を創る |
| 競争相手 | 競合を打ち負かす | 競争を無意味にする |
| 需要 | 既存の需要を取り合う | 新しい需要を創り、獲得する |
| 価値とコスト | トレードオフを受け入れる | トレードオフを打ち破る |
| 活動の整合 | 差別化か低コストかを選ぶ | 差別化と低コストを両方追う |
レッドオーシャンで戦うための道具は、業界構造を分析するファイブフォース分析です。すでにある業界の中で有利な位置を探すときに使います。同じ需要を取り合う状態が続くと、一方の得が他方の損になるゼロサム型の競争や、製品の違いが価格にしか表れないコモディティ化が進みます。ブルーオーシャン戦略が必要になるのは、そうした局面です。
ニッチ戦略との違い:既存市場の細分化か、新しい市場空間か
著者は、ブルーオーシャン戦略をニッチ戦略として扱うことを「レッドオーシャンの罠」の2番目に挙げています。公式ブログには「既存の空間でニッチを見つけることは、新しい市場空間を見つけることと同じではない」とあります。ニッチ戦略は、セグメンテーションで既存市場を細かく分け、手薄な区画を取りにいく戦略です。一方、ブルーオーシャン戦略は、業界を使っていない人(非顧客)まで取り込み、市場そのものを広げます。
公式ブログが失敗例として挙げるのが、デルタ航空の子会社Song Airlinesです。おしゃれな働く女性という細い層に狙いを絞った結果、層の規模が小さく、事業を続けられませんでした。対象を絞るほどブルーオーシャンに近づく、という考え方は誤りです。
ブルーオーシャンの見つけ方:6つのパスと非顧客の3層
6つのパスによる業界境界の引き直し
公式ツールの「6つのパス(Six Paths Framework)」は、業界の外側に視点を移すための6つの切り口です。
| パス | 見る対象 |
|---|---|
| 1. 代替産業 | 形は違っても同じ目的を満たす別の産業 |
| 2. 戦略グループ | 同じ業界内の価格帯・性能帯が違うグループ |
| 3. 買い手グループ | 購入者だけでなく使用者や影響を与える人 |
| 4. 補完的な製品・サービス | 利用の前後に必要になるもの |
| 5. 機能志向と感性志向 | 業界が機能と情緒のどちらで競っているか |
| 6. 時間 | 業界に影響する外部トレンドの先 |
2番目のパスの公式例がフィットネスのCurvesです。公式ケースでは、Curvesは従来型のヘルスクラブと自宅運動プログラムという2つの戦略グループの強みを組み合わせ、それ以外の要素を取り除くか減らしてブルーオーシャンを築いた、と説明されています。まず手を付けるなら、代替産業と戦略グループの2つです。自社の業界名を外して「顧客は代わりに何を使っているか」を書き出すだけで始められます。
非顧客の3つの層と潜在需要の所在
| 層 | 公式の定義 |
|---|---|
| 第1層 | 間もなく非顧客になる層(最低限だけ買う) |
| 第2層 | 業界を検討したが選ばなかった層 |
| 第3層 | 業界を選択肢と考えたことがない層 |
第1層は、今の市場の縁にいて、必要だから最低限だけ買っている人たちです。第3層は現在の市場から最も遠く、業界の提供物を一度も選択肢と考えたことがありません。任天堂Wiiは公式のケース教材になっており、潜在需要をつかむには非顧客から学ぶ必要があることを示す事例として扱われています。公式ブログによると、Wiiはそれまでビデオゲームをしていなかった年少の子どもや高齢者を引き付け、既存のゲーム機を置き換えるより補う形で需要を広げました。既存顧客へのアンケートだけで次の要因を決めると、第2層・第3層は視野に入りません。
買い手の効用マップによる未充足の効用の探索
買い手の効用マップ(Buyer Utility Map)は、2つの軸を掛け合わせた表です。1つは購入・配送・使用・補完・保守・廃棄という買い手の経験サイクルの6段階、もう1つは生産性・簡便さ・利便性・リスク低減・楽しさとイメージ・環境への配慮という6つの効用レバーです。6×6の36マスのうち、業界が集中して競っているマスと空いているマスを塗り分けると、競争のない位置の候補が見えてきます。
戦略キャンバスとERRCグリッドの作り方
手順1:戦略キャンバスによる競争要因の可視化
戦略キャンバスは、自社の提供物が競合と比べてどう構成されているかを1枚で示す図です。次の順に作ります。
- 業界が競い、投資している要因を横軸に並べる。公式の描き方では先頭に価格を置き、続けて品揃え、立地、サービス時間などを並べる
- 各要因の提供水準を縦軸にとり、業界の標準的な企業の水準を点で結ぶ
- 自社と主要競合の水準も同じ図に描く。この折れ線がバリューカーブ(価値曲線)になる
自社と競合の折れ線がほぼ同じ形なら、レッドオーシャンにいる証拠です。形の違う曲線を作るのが、次のERRCグリッドの役割です。
手順2:ERRCグリッド(4つのアクション)による要因の組み替え
| アクション | 公式の問い |
|---|---|
| Eliminate(取り除く) | 業界が当然視しているどの要因を取り除くか |
| Reduce(減らす) | どの要因を業界標準より大幅に減らすか |
| Raise(増やす) | どの要因を業界標準より大幅に増やすか |
| Create(創造する) | 業界がこれまで提供しなかったどの要因を創るか |
コストを下げるのは「取り除く・減らす」、価値を上げるのは「増やす・創造する」です。4つのうち片側しか埋まらない場合は、差別化だけ、または低コストだけの施策にとどまっており、バリュー・イノベーションになっていません。
QBハウスのERRC:公式ケースに書かれた変更点と数値
1996年に東京の1店舗から始まったQBハウスは、公式サイトで「日本の理髪業界にブルーオーシャンを創造した」事例として紹介されています。
| 区分 | 公式ケースの記述 |
|---|---|
| 取り除く・減らす | 情緒的なサービス要素、特別なヘアトリートメント |
| 取り除く | 時間のかかる洗髪とブロー |
| 創造する | 切った髪を吸い取るエアウォッシュ |
| 創造する | 空き状況を示す信号式の表示 |
| 結果(時間) | 約1時間 → 10分 |
| 結果(価格) | 3,000〜5,000円 → 約1,000円 |
| 結果(収益) | 理容師1人の時間当たり収益が約50%増 |
その後、カット料金は2025年2月1日に国内全店で税込1,350円から1,400円へ改定されました(キュービーネットホールディングスの発表)。ブルーオーシャンを作っても、価格は固定されません。人件費や物価が上がれば、戦略的価格も見直す必要があります。
手順3:買い手の効用→価格→コスト→導入の順での検証
公式サイトは、事業として成り立つブルーオーシャンを作る順序を「買い手の効用、価格、コスト、導入」としています。価格は、狙う大衆市場の価格回廊(price corridor of the target mass)を特定するところから決めます。価格回廊は、対象とする多数の買い手を引き付けられる価格帯で、形は違っても同じ機能を果たす代替品や、目的が同じ別の商品まで含めて見積もります。次に、その回廊の中のどこに価格を置くかを、特許などの法的保護や、模倣しにくい資産・能力をどれだけ持つかで決めます。模倣を防ぐ力が強いほど、回廊の上限寄りに設定できます。
この順序には、実務上の結論があります。公式サイトは、戦略的価格で目標コストに届かないときの選択肢を「利益が出ないとしてアイデアを断念する」か「ビジネスモデルを革新して目標コストに届かせる」かの2つに限っています。コストに合わせて価格を上げることも、コストが高いからと買い手の効用を削ることも認めていません。価格を上げれば、価格回廊から外れて非顧客を取り込むという前提が崩れるからです。
ブルーオーシャン戦略の事例:公式に挙がる企業とユニクロの読み方
著者公式サイトが事例として挙げる企業一覧
| 企業・製品 | 業界 | 公式サイトでの扱い |
|---|---|---|
| QBハウス | 理容 | 日本の理髪業界にブルーオーシャン |
| 任天堂Wii | ゲーム | 非顧客から学ぶケース教材 |
| Curves | フィットネス | 戦略グループの強みを組み合わせた |
| NetJets | 航空 | ビジネスジェットの共同所有 |
| Apple iTunes | デジタル音楽 | 新しい市場空間を開いた |
| Cirque du Soleil | サーカス | 高価格帯に新市場/新技術に依らない |
| Dyson | 掃除機 | 高価格帯に新市場 |
| Starbucks | コーヒー | 新技術に依らない |
| [yellow tail] | ワイン | 新技術に依らない |
スターバックス・ダイソンが示す「技術」「低価格」の誤解
公式サイトのQ&Aは、Cirque du Soleil、[yellow tail]、JCDecaux、Starbucksを挙げ、「これらのブルーオーシャンの戦略的な動きは、いずれも新しい技術に依存していない」と説明しています。技術を伴うiPhoneやSalesforce.comについても、成功を左右したのは技術そのものより、買い手にとっての簡単さや使いやすさだったと述べています。スターバックスをブルーオーシャン戦略の事例として学ぶなら、技術の新しさではなく、コーヒーの提供価値をどう組み替えたかを見ます。これは3番目の罠「技術革新と市場創造の混同」への答えにもなっています。
低価格の誤解に答えるのがダイソンです。公式ブログは、Cirque du Soleilのサーカス、iPhoneのスマートフォン、ダイソンの掃除機を挙げ、「新しい市場は業界の低価格帯で作る必要はなく、高価格帯でも作れる」と書いています。ブルーオーシャン戦略を安売り戦略と同じものとして扱うのが6番目の罠です。
ユニクロのERRC分析:フリース1,900円とヒートテックの価値とコスト
ユニクロは日本の解説記事でブルーオーシャン戦略の定番事例として紹介されますが、ここでは原典のERRCに一次情報を当てはめて検討します。ファーストリテイリングは1987年から製造と小売を直結させ、SPA(製造小売業)に転換しました。1998年10月にはフリース1,900円が話題を呼び、2003年には東レと共同開発したヒートテックを発売しています。
次の表は、ユニクロとファーストリテイリングの公表資料をERRCに当てはめた当社の仮説です(キムとモボルニュによる分析ではありません)。公表資料から読み取れない「取り除く」の欄は空けています。
| 区分 | 要因(仮説) | 根拠となる公表資料 |
|---|---|---|
| 取り除く | 公表資料では特定できない | - |
| 減らす | 製造と小売の間の中間工程 | 1987年からSPAへ転換(統合報告書2024) |
| 増やす | 日常の肌着の保温機能 | 2003年 ヒートテック発売(東レと共同開発) |
| 増やす | 機能素材の衣料の手に取りやすさ | 1998年10月 フリース1,900円 |
ヒートテックを「創造する」に置かなかったのは、吸湿発熱の肌着そのものは先にあったからです。ミズノは吸湿発熱素材ブレスサーモを1993年に開発し、1997年からアンダーウエアとして販売しています。ユニクロ自身は開発の命題を「厚着以外の方法で、冬の寒さを解決する」と説明しており、変えたのは機能の有無より、その機能を誰がどの価格で日常的に着るかでした。フリース1,900円も同じ型で、機能素材の衣料を日常着の価格帯に下ろした例です。これを支えたのがSPAによるコスト構造でした。
ただし、SPAや低価格だけを取り出して「ブルーオーシャン」と呼ぶと、著者の言う6番目の罠(市場創造を低コスト戦略と同一視する)に当たります。ユニクロを事例に使うなら、「先行していた機能素材を、日常着として大衆価格で提供したこと」と「それを可能にした製造・販売の体制」の組み合わせとして説明するのが原典の考え方に沿います。
ブルーオーシャン戦略のデメリットと失敗する条件
レッドオーシャンの罠:差別化だけ・低コストだけ・技術だけ
著者は、市場創造と取り違えやすい考え方を6つの罠にまとめています。実務で特に起きやすいのは次の4つです。
- ニッチ戦略として扱う(第2の罠):細い層を狙い、市場が広がらない
- 市場創造を差別化と同一視する(第5の罠):価値だけを積み増し、コストが膨らむ
- 市場創造を低コスト戦略と同一視する(第6の罠):価格を下げるだけで、新しい需要が生まれない
- 技術革新と混同する(第3の罠):技術は新しいのに、買い手の効用が変わっていない
いずれも、ERRCの4マスの片側しか埋まっていない、または非顧客を見ていない状態です。企画書の段階では、4マスが埋まっているかに加えて、手順3の「買い手の効用、価格、コスト、導入」の順に検証が済んでいるかを確認します。4マスが埋まっていても、価格回廊に収まらない、目標コストに届かないといった理由で事業にならない案は残るからです。
模倣されやすいブルーオーシャンと参入障壁
競争のない状態がどれだけ続くかは、模倣をどこまで防げるかで決まります。著者は公式ブログで、1985年に始まった英国の慈善団体Comic Reliefを「ほぼ30年たっても信頼できる模倣者がいない」例として紹介しています。HBRの公式ケース教材は、価値(value)・利益(profit)・人材(people)の3つの戦略提案を、差別化と低コストの両方にそろえることを、模倣を防ぐブルーオーシャン戦略の構造として扱っています。3つのうち価値の提案だけが新しく、利益の仕組みや組織が業界標準のままであれば、他社は簡単に追いつけます。模倣への備えは、参入障壁の種類と合わせて設計します。
事例研究に偏った根拠と実証研究の結果
Burke、van Stel、Thurikは、エラスムス大学ロッテルダムの研究所ERIMのレポートシリーズで2009年に公表したワーキングペーパーで、当時の実証分析は事例研究に偏っており、議論に決着をつける一般性に欠けると指摘しました。そのうえでオランダの小売業のデータを統計的に分析し、ブルーオーシャン戦略と競争戦略は重なり合っていて、経営者はどちらか一方を選ぶ必要はないと結論づけています。同じ分析では、ブルーオーシャン戦略が長期的に成り立つ有力な戦略であることも確認されました。
ここから言えるのは、ブルーオーシャン戦略を否定する根拠ではなく、既存事業での競争と市場創造を並行させてよいということです。成功事例だけを集めて「この業界ならブルーオーシャンになる」と判断するのは、根拠の弱い使い方です。
ブルーオーシャン戦略を採用すべきでない場面
次のどれかに当てはまるなら、ブルーオーシャン戦略は採用せず、既存市場での差別化かコスト改善を優先します。
- 価格回廊の中で戦略的価格を設定すると、ERRCを尽くしてもコストが合わない
- 要因の組み替えを、既存顧客の要望だけを根拠に決めている(非顧客の調査がない)
- 実行の2原則(組織上の主要なハードルを越える、実行を戦略に組み込む)を担う体制と予算を用意できない
1つ目は、事業として成り立たないことがすでに分かっている状態です。2つ目は、新しい需要がどこにあるかを判断する材料が足りない状態です。3つ目は、需要があっても組織の抵抗や予算不足で実行が止まりやすい状態です。公式サイトは戦略の6原則を策定4つと実行2つに分けており、実行の2原則を欠いたまま策定だけ進めても、戦略は完成しません。
よくある質問
ブルーオーシャンとはどういう意味ですか?
競争のない、まだ誰も手を付けていない市場空間のことです。経営学ではW・チャン・キムとレネ・モボルニュが提唱したブルーオーシャン戦略の用語で、差別化と低コストを同時に追うことで、新しい需要を生む市場を指します。ビジネス会話では「競合がほとんどいない有望な市場」という意味で広く使われますが、原典では競合が少ないだけでなく、新しい需要を創り出しているかどうかを重視します。
ブルーオーシャンの対義語は何ですか?
レッドオーシャンです。現在ある全ての産業、つまり境界と競争のルールが知られた市場空間を指します。HBR論文の要約にある「激しさを増す競争が海を血に染める」という表現が、赤い海のたとえの由来です。レッドオーシャン戦略は競合を打ち負かすことを目指し、ブルーオーシャン戦略は競争そのものを無意味にすることを目指します。
ブルーオーシャン戦略の特徴は何ですか?
最大の特徴は、差別化と低コストを二者択一にせず、同時に追求することです(バリュー・イノベーション)。業界が当然視してきた要因を取り除く・減らすことでコストを下げ、業界が提供してこなかった要因を増やす・創造することで価値を上げます。既存顧客より非顧客に目を向け、価格は「買い手の効用」を決めた後に、価格回廊から決めるのも特徴です。
ブルーオーシャン戦略の本はどれを読めばよいですか?
日本語で読むなら、ダイヤモンド社の[新版]ブルー・オーシャン戦略(2015年9月)が基本書です。戦略キャンバスやERRCなどの道具を自社で実際に回す手順を知りたい場合は、続編の『ブルー・オーシャン・シフト』(ダイヤモンド社、2018年4月)が対応しています。原著は現在、NVIDIAとテイラー・スウィフトのケースを加えた20周年版が出ています。
ブルーオーシャンな業界はどう探せばよいですか?
「競合が少ない業界の一覧」から選ぶのではなく、自社がいる業界の境界を6つのパスで引き直す方法が原典の進め方です。着手例としては、代替産業と戦略グループの2つから始めます。そのうえで、業界を検討したが選ばなかった第2層には選ばなかった理由を、業界を選択肢と考えたことがない第3層には、同じ目的を何で満たしているかを調べます。競合が少ないこと自体は、ブルーオーシャンの条件ではありません。価値とコストの組み替えや、価値・利益・人材の提案をそろえた模倣への備えがなければ、参入が増えたときにレッドオーシャンへ戻ります。