ゲームチェンジャーは、市場や競争の前提そのものを書き換えてしまう存在を指す言葉です。ただ、人を指すのか製品や企業を指すのか、「ゲームチェンジ」とどう違うのか、言い換えるならどの語が合うのかは、使う人によってばらつきます。この記事では辞書と証券用語集の定義を出発点に、ビジネスで広く引用される4類型を原典の書誌まで遡り、異業種競争の実例をカメラ映像機器工業会の出荷統計で確かめます。カードゲーム「マジック:ザ・ギャザリング」の統率者戦で使われる「ゲームチェンジャー」の意味も後半で整理しています。
まとめ:ゲームチェンジャーの意味と使い分け
- 意味は「状況を根本から変えてしまう人・物・出来事」。もとはスポーツで試合の流れを一変させる選手やプレイを指す言葉で、それがビジネスに転用されました。
- 日本のビジネス文脈では、人だけでなく製品・サービス・企業も指します。野村證券の証券用語解説集も対象を「製品やサービス、企業など」と定義しています。
- 「ゲームチェンジ」は起きた変化そのもの、「ゲームチェンジャー」はそれを起こした主体。行為と主体の関係にあります。
- 4類型(秩序破壊型・市場創造型・ビジネス創造型・プロセス改革型)の原典は、内田和成 編著『ゲーム・チェンジャーの競争戦略』(日本経済新聞出版社、2015年1月)。その前提には、同じ著者が2009年に出した『異業種競争戦略』の「業界という枠組みを越えた戦い」という見方があります。
- 異業種競争の典型がデジタルカメラです。総出荷は2010年の1億2,150万台から2025年の943万台まで減り、業界団体自身が「スマートフォンの台頭」を競争の相手として名指ししています。
- 言い換えは文脈で選び分けます。主体を指すなら「革新者」「破壊的イノベーター」、現象を指すなら「ディスラプション」「地殻変動」。
- MTGの統率者戦では、デッキの強さやプレイ体験を事前に相談する際に参照するカードリストの名称です。ブラケット3のデッキは最大3枚まで、ブラケット1・2では使えません。
ゲームチェンジャーの意味と語源
辞書と証券用語集が示す2つの定義
英語の game changer について、ケンブリッジ辞典は語義を2つ載せています。第1義が “something that affects a situation very much and completely changes the way that it develops”(状況に極めて大きな影響を与え、その展開の仕方を完全に変えてしまうもの)、第2義が “someone or something that affects the result of a game very much”(試合の結果を大きく左右する人または物)です。第2義がスポーツの原義、第1義がそこから広がった比喩表現にあたります。
日本語での定義は、金融の用語集が明快です。野村證券の証券用語解説集は、一文目で「新しい視点や独自の技術、先見性などによって、既存の市場の状況を一変させる価値や可能性をもった製品やサービス、企業などのこと」と説明したうえで、二文目に「もともとはスポーツなどでそれまでの試合の流れをがらりと変えてしまう選手やプレイのことを指す」と原義を併記しています。ビジネス文脈の説明では製品・サービス・企業が先に挙がる一方、原義としては選手も残っている。この二層構造が、日本語で使われるときの混乱の元です。
ゲームチェンジャーのスポーツ用法とビジネスへの転用
語源はスポーツにあるとされ、特に野球の文脈で説明されることがあります。航空自衛隊幹部学校の航空研究センターが公開しているシンポジウム発表資料は、次のように述べています。「この言葉は元々スポーツ分野の言葉と言われています。特に野球において、試合の流れを一気に変えてしまう選手のことを指す言葉でした。これが転じて、動向を大きく変える人や出来事をゲーム・チェンジャーと言うようになりました」(上髙原賢志「ゲーム・チェンジャーを考える」『エア・アンド・スペース・パワー研究』第7号)。
野村證券の解説も「選手やプレイ」と出来事を含めており、これが製品・企業へ広がる下地になりました。原義には人(選手)が含まれており、ビジネスの説明では製品・企業が前に出る。「ゲームチェンジャーとはどんな人か」という疑問が生まれやすいのは、このずれのためです。
ゲームチェンジャーと呼ばれる人の条件
個人をゲームチェンジャーと呼ぶ際の判断基準
人に使うこと自体は誤りではありません。ケンブリッジ辞典は第2義を「試合の結果を大きく左右する人または物」とし、用例にも “As a player he can be a game changer.”(選手として、彼は試合を変えられる存在だ)を載せています。判断の目安になるのは、その人がいることで試合や物事の展開そのものが変わったかどうかです。ビジネスで個人を評価するときは、高い成績だけでなく、市場や仕事の進め方にどのような変化をもたらしたかを示すと、意味が伝わります。
この区別は実務でも意味を持ちます。人事評価やタレントマネジメントの文脈で安易にこの語を使うと、単なるハイパフォーマーとの線引きが曖昧になり、評価基準として機能しなくなります。個人に対して使うなら、変えた対象(ルール、前提、業界慣行)を具体的に添えてください。
製品・技術・企業を指す用法
ビジネスの文脈では、変化を起こした人物に着目する場合と、その人物が関わった製品や事業の仕組みに着目する場合があります。野村證券の定義はビジネス文脈の部分を「製品やサービス、企業など」と物の側から書き始めており、後述する4類型の事例もすべて企業・商品・サービスです。用語解説や戦略論で例に挙がるのは、こちらの用法です。
人を指すか物を指すかで文の意味は大きく変わります。「彼はゲームチェンジャーだ」は人物評、「この技術はゲームチェンジャーだ」は市場予測。どちらも実績の評価にも将来の予測にも使えるため、対象と判断時点を明示すると伝わりやすくなります。
「ゲームチェンジ」と「ゲームチェンジャー」の違い
この2語は、行為と主体の関係にあります。ゲームチェンジは競争の前提が書き換わる現象そのもの、ゲームチェンジャーはそれを引き起こした側です。「業界にゲームチェンジが起きた」とは言えますが、「業界にゲームチェンジャーが起きた」とは言いません。逆に「あの企業がゲームチェンジャーだった」は成立し、「あの企業がゲームチェンジだった」は成立しません。
| 語 | 品詞・性質 | 指すもの | 使える文 |
|---|---|---|---|
| ゲームチェンジ | 現象・行為 | 競争の前提が変わること | 市場でゲームチェンジが起きた |
| ゲームチェンジャー | 主体 | 変化を起こした人・物・企業 | この企業がゲームチェンジャーだ |
| ゲームチェンジング | 形容詞(game-changing) | 変化を起こす性質 | game-changing technology |
近い語にディスラプションがあります。ケンブリッジ辞典は disruption のビジネス上の語義を、新しい方法や技術によって業界や市場の従来のやり方を完全に変えることとしています。被害を受ける側だけの表現ではなく、起きた変化の大きさと方向に重心がある語です。
言い換え・類語と使い分け
言い換えを探すとき、まず決めるべきは主体を言い換えたいのか、現象を言い換えたいのかです。ここを混ぜると、文の主語がずれた不自然な言い換えになります。
| 言い換え | 対象 | ニュアンスの違い | 適した場面 |
|---|---|---|---|
| 革新者・イノベーター | 主体 | 新しさのみで破壊の含意が薄い | 社内文書・表彰 |
| 破壊的イノベーター | 主体 | 破壊的イノベーションの担い手。理論上は適用条件あり | 競合分析 |
| ルールチェンジャー | 主体 | 変えた対象がルールに限定 | 規制・業界慣行の話 |
| ルールメーカー | 主体 | 壊す側でなく作る側に重心 | 標準化・規格策定 |
| 台風の目・立役者 | 主体 | 影響力のみで変化の質は不問 | 一般向けの記事 |
| ディスラプション | 現象 | 業界の従来のやり方が変わる | 業界構造の変化の説明 |
| パラダイムシフト | 現象 | 考え方・枠組みの転換 | 技術思想・学術の文脈 |
| 地殻変動・構造変化 | 現象 | 規模のみを表す比喩 | 経済記事・レポート |
避けたほうがよい言い換えもあります。「策略家」はゲームチェンジャーの類語として検索されることがありますが、意味が重なりません。策略家は目的のために手段を巡らせる人物像であって、市場の前提を変えたかどうかは問いません。ゲームチェンジャーの訳語として使うと、賞賛の語が謀略の語にすり替わります。
英語 game changer / game-changing の使い方
英語では名詞と形容詞で形が変わります。名詞は game changer または game-changer、形容詞は game-changing です。ケンブリッジ辞典の game-changing の項は形容詞として立項し、”having a big effect on a situation so that the way it develops changes completely” と定義しています。日本語の記事で「ゲームチェンジングな技術」という表現を見かけますが、英語ではこちらが正規の形です。
動詞として言いたい場合は change the game を使います。名詞 game changer、形容詞 game-changing、動詞句 change the game の3つは、日本語ではまとめて「ゲームチェンジ系」に見えますが、英語では品詞が違うため置き換えられません。
用例としては、ケンブリッジ辞典が “The hit show has been a game changer for the network.”(そのヒット番組は放送局にとってゲームチェンジャーだった)を挙げています。for + 影響を受けた側を添える形がよく使われますが、”As a player he can be a game changer.” のように省く用例もあります。日本語でも英語でも、何に影響を与えるのかが文脈から分からないときは、その対象を補うと伝わりやすくなります。
ゲームチェンジャーが注目される背景:異業種競争
原点は2009年の『異業種競争戦略』
ビジネス用語としての「ゲームチェンジャー」が日本で広まった背景には、競争相手が同じ業界の中にいるとは限らなくなった、という問題意識があります。この見方を早くから体系化したのが、4類型の原典と同じ内田和成です。2009年11月に『異業種競争戦略:ビジネスモデルの破壊と創造』(日本経済新聞出版社、ISBN 978-4-532-31482-8)を出しています。出版社の紹介文は、成熟市場で始まった顧客の奪い合いを「業界という枠組みを越えた戦い」「ビジネスモデルの戦い」と表現し、この競争構造を「事業連鎖」で読み解くとしています。目次でも第3章が「事業連鎖-異業種格闘技を読み解くカギ」です。
2015年の『ゲーム・チェンジャーの競争戦略』は、この延長にあります。第1章の題は「新たなゲームのはじまり――激化する異業種競争」。業界の外からルールを変えてくる相手を「ゲーム・チェンジャー」と呼び、その戦い方を4つに分けた、という順序です。前述の航空研究センターの発表資料も、この言葉は内田が2015年に同書を「上梓されたあたりから流行り出しました」と書いています。4類型だけを切り出して覚えるより、「同業他社を見ているだけでは相手に気づけない」という出発点とセットで押さえたほうが、分類の使い道がはっきりします。
デジタルカメラとスマートフォンに見る異業種競争
異業種競争にさらされたカメラ市場の変化は、カメラ映像機器工業会(CIPA)の会員企業による世界向け出荷台数で確認できます。ただし、出荷減少のすべてをスマートフォンの影響と断定する統計ではありません。CIPAの2011年2月の発表によると、2010年のデジタルカメラ総出荷は「過去最高の1億2千150万台」で、うちレンズ一体型(いわゆるコンパクトデジタルカメラ)が1億860万台でした。2025年の年間実績では、総出荷が943万8,876台、レンズ一体型は243万6,911台です。15年で総出荷は約13分の1、レンズ一体型は約45分の1になりました。
相手がカメラメーカーでなかったことは、業界団体自身が書いています。CIPAの2015年2月の発表は、「レンズ一体型デジタルカメラ」がスマートフォンの台頭により苛烈な競争に晒されている、と記しました。同業他社のシェアだけを追っていれば、市場が縮んだ理由は説明できません。カメラの外から来た製品が、写真を撮るという用途ごと持っていった。内田が「事業連鎖」で捉えようとしたのは、こうした業界の境界をまたぐ競争です。
ゲームチェンジャーの4類型と企業事例
日本のビジネス記事で「4つの類型」として紹介される秩序破壊型・市場創造型・ビジネス創造型・プロセス改革型の原典は、早稲田大学大学院商学研究科教授(刊行時)の内田和成 編著『ゲーム・チェンジャーの競争戦略:ルール、相手、土俵を変える』(日本経済新聞出版社、2015年1月、ISBN 978-4-532-31958-8。2018年11月に日経ビジネス人文庫版)です。航空自衛隊幹部学校の航空研究センターの公開資料(前述の上髙原賢志氏の発表)はこの分類を引用する際、出所を「『ゲーム・チェンジャーの競争戦略』p.31(日本経済新聞社、2015年)参考に作成」と明記しています。4類型を社内資料や企画書に引くなら、書名と刊行年まで添えておくと、誰のどの分類なのかを読み手が辿れます。
分類の軸は2つです。防衛省資料が掲載する図では、横軸が「既存の製品やサービス/新しい製品やサービス」、縦軸が「既存の儲けの仕組み/新しい儲けの仕組み」。売るものを変えたか、儲け方を変えたかの組み合わせで4つに割れます。
| 類型 | 英語名 | 出版社書誌による定義 | 挙げられている例 |
|---|---|---|---|
| 秩序破壊型 | Breaker | 相手の儲けの仕組みを無力化する | スマホゲーム/コストコ |
| 市場創造型 | Creator | 顧客が気づいていない価値を具体化する | JINS PC/東進ハイスクール |
| ビジネス創造型 | Developer | まったく新しい事業モデルをつくり出す | 価格.com/カーシェアリング |
| プロセス改革型 | Arranger | バリューチェーンを見直し、新たな価値をつくり出す | アマゾン/セブンカフェ |
定義の列は、出版社が提供する文庫版の書誌に載っている4本をそのまま引いています。英語名のBreaker・Creator・Developer・Arrangerは、上髙原氏の発表資料が4類型を兵器・軍事技術に転用した図で用いている表記です。なお同資料は、本文で著者名を「内田一成」、図の出所欄で出版社を「日本経済新聞社」と記していますが、国立国会図書館の書誌では「内田和成」「日本経済新聞出版社」です。
各型の中身を同資料の説明で見ると、プロセス改革型のアマゾンは「仮想空間を使用して莫大な量の本を並べることにより、全国どこでもいつでも24時間、本を買えるという画期的なビジネス」になりました。売っているのは本のままで、在庫と流通の持ち方を変えています。
秩序破壊型の例はスマートフォン向けゲームです。従来は「任天堂DSプレイステーションといった専用機を売って、ソフトを売っていました」が、基本プレイ無料でアイテム購入から収益を得るスマホゲームでは、ソフトの購入時からプレイ中へと課金の起点が移りました。商品はゲームのままです。
市場創造型のJINS PCは、顧客が気づいていなかった価値を形にした例です。「これまで眼鏡は目が悪い人が視力を矯正するための道具でした。これに対し、JINS PCは、ブルーライトから目を保護することといった新しい機能の商品を売って、今まで眼鏡を必要としない人も顧客とした」わけです。
ビジネス創造型の価格.comは、商品も収益源も既存の小売とは別物です。「電化製品の販売価格を一覧できるようにし、そこから安そうなものを選んでホームページにアクセスすることで広告収入を得ています」。売り物は情報、収益は送客です。同じ型に挙がるカーシェアリングも、車を売らずに使う時間を売る点で、シェアリングエコノミーの仕組みそのものです。
4類型を自社に当てはめるときは、変えられる資産が自社のどこにあるかから逆算します。流通や運用に強みがあるなら、工程の変更で顧客価値を増やせるかを検討します。顧客接点のデータがある場合は、そこから新たな提供価値と収益源を設計できるかを確かめます。自社のケイパビリティを棚卸ししないまま「市場創造型を狙う」と決めても、顧客が気づいていない価値を掘り当てる根拠がありません。個人の時間や技能を単発の仕事につなぐギグエコノミーのように、既存の枠組みの外に眠っている資源を見つけられるかが分かれ目になります。
既存企業がゲームチェンジャーに対抗する方法
この分類は、既存企業が対抗策を検討する際にも使えます。原典では、第2章から第5章までが4類型の解説、第6章が「既存プレーヤーはどう対抗するか」に充てられています。文庫版の紹介文も「競争のルールを破壊する企業(ゲーム・チェンジャー)の戦い方と、その防衛策を明らかにする」と、防衛策を並置しています。
対抗の出発点は、相手がどの類型かを見極めることです。秩序破壊型への対抗では、値下げを決める前に、相手の収益源と自社が維持できる採算を確認します。市場創造型への対抗では、既存顧客の流出に加え、従来は購入していなかった層の獲得状況も調べます。既存市場内のシェアだけでは、新たな需要の広がりを捉えられません。プロセス改革型が相手なら、商品の性能比較に加え、調達・販売・配送などの工程で生じる価値の差を調べます。
前述のカメラ業界は、同じ土俵に乗らない対抗の実例でもあります。CIPAの2015年の発表は、スマートフォンと競合したレンズ一体型に対し、「スマートフォンとは一線を画する高画質、個性豊かな交換レンズ群との組み合わせで自在な表現力を発揮する」レンズ交換式は「はるかに底堅い」と書いています。数字もこの見立てと整合します。2010年からの減り方は、レンズ一体型の1億860万台から243万台(約45分の1)に対し、レンズ交換式は1,290万台から700万台(約半分)にとどまり、2025年には総出荷の7割強をレンズ交換式が占めています。
もうひとつ、原典の紹介文が挙げるのは「新しい競争ルールをつくる側に立てば、新規事業やイノベーションを起こす、あるいは現在の事業領域をさらに広げるチャンス」という視点です。うまくいっている企業ほど既存の勝ちパターンに縛られて窮地に追い込まれる、という指摘も同じ紹介文にあります。この構図はイノベーションのジレンマと重なります。防衛策と攻撃側への転換は、同じ分析から出てきます。
防衛分野におけるゲーム・チェンジャー技術の用例
ビジネス書の用語という印象が強い言葉ですが、日本の公的文書では別の射程で使われています。防衛省が令和6年7月に公表した「防衛省AI活用推進基本方針」は、AIについて「多くの領域に変革をもたらし得るゲーム・チェンジャー技術とも指摘される」と記しています。この文書が対象にしているのは、企業や製品ではなくAIという技術そのものです。同方針はこの表現を、AIが戦闘のスピード・精度・効率の向上や省人化・省力化につながるという文脈で用いています。
省の方針とは別に、研究者個人による分析もあります。2020年の航空研究センターシンポジウムで、上髙原賢志氏は内田和成の4類型を兵器・技術の分析に転用しました。発表資料は、横軸を兵器・技術の既存/新規、縦軸を従来領域(陸海空)/新領域(宇宙・サイバー)に差し替え、既存技術を新領域に向けるBreaker型にサイバー攻撃・衛星コンステレーション・GPS妨害を、新技術のCreator型にレーザーやレールガンを置きました。ビジネスの分類枠が、軸を入れ替えるだけで別分野に流用できた実例です。
この資料の結論は、ビジネスの文脈にも当てはまります。「新しい兵器や軍事技術だけが、ゲーム・チェンジャーになるわけではない」と述べたうえで、既存の装備を見直す観点を「削る」「強める」「混ぜる」「単純化する」の4語で示しています。Breaker型(既存技術を新領域へ)を「現代の軍事作戦が新領域への依存度が高いため最も効果的な兵器」と評価する一方、新技術×新領域のDeveloper型には「いつ頃兵器として確立するか不確実です。よって、現時点でゲーム・チェンジャーになるのかは分かりません」と留保を付けています。最先端の技術ほどゲームチェンジャーになりやすい、という直感は必ずしも成り立ちません。
AIについても、いつ何が変わるのかという時期の見通しは、2045年問題のような長期予測と同様、断定できる段階にありません。
ビジネス以外の「ゲームチェンジャー」:MTGと映画
MTG統率者戦のゲームチェンジャー・カード
検索で「ゲームチェンジャー」を調べると、カードゲーム「マジック:ザ・ギャザリング(MTG)」の話題が多く並びます。これは統率者戦(コマンダー)というフォーマットで、Wizards of the Coastが定めているカードのリスト名です。2025年2月11日に、デッキの強さを5段階で示す「コマンダーブラケット」のベータテストと同時に初版の40枚が発表されました。統率者戦の管理は2024年9月30日に、Commander Rules Committee(統率者戦のルール委員会)からWizards of the Coastのゲームデザインチームへ移っています。
公式サイトの日本語ページは、このリストを「コマンダーのゲームを劇的に変えるカード」と説明し、使用枚数を次のように定めています。「ブラケット1とブラケット2のデッキでは、ゲームチェンジャー・カードを使用できません。ブラケット3のデッキでは、ゲームチェンジャー・カードを最大3枚まで使用できます。ブラケット4とブラケット5のデッキでは、ゲームチェンジャー・カードを制限なく使用できます」。ブラケット自体は同卓者と強さを揃えるためのマッチメイキングの仕組みで、適用は任意とされています。
| ブラケット | 名称 | ゲームチェンジャー・カード |
|---|---|---|
| 1 | エキシビション | 使用不可 |
| 2 | コア | 使用不可 |
| 3 | アップグレード | 最大3枚 |
| 4 | オプティマイズド | 制限なし |
| 5 | cEDH | 制限なし |
リストは固定ではなく、更新のたびに入れ替わります。たとえば2026年2月9日の更新では、全体を一掃するFarewellが追加され、同日に禁止が解除されたBiorhythmもリストに入りました。手元のデッキが何枚該当するかは、公式サイトの最新リストで確認してください。「展開を根本から変えてしまうもの」という英語の第1義をカードに当てはめた命名で、意味の芯はビジネス用語と同じです。
ドキュメンタリー映画『ゲームチェンジャー:スポーツ栄養学の真実』
動画配信サービスの検索で出てくる『ゲームチェンジャー:スポーツ栄養学の真実』は、2018年の米国のドキュメンタリー映画(原題 The Game Changers、監督ルイ・シホヨス)です。食生活が運動能力や健康に及ぼす影響を、植物性中心の食事をとるアスリートを追って描いています。題名の「ゲームチェンジャー」は、スポーツの原義と「常識を覆すもの」という比喩を掛けた使い方です。
ゲームチェンジャーを使うべきでない3つの場面
使いどころを絞ったほうがよい語です。とりわけ次の場面では、使わないほうが伝わります。
まず、予測を実績のように言い切る場面です。将来の可能性を述べる用法もありますが、実現済みの成果と予測は区別する必要があります。「当社の新製品はゲームチェンジャーになります」という宣言は、事後にしか検証できない性質のことを事前に断定しています。前述の航空研究センターの発表資料が新技術×新領域の類型に「現時点でゲーム・チェンジャーになるのかは分かりません」と留保を付けたのも、この理由からです。プレスリリースでこの語を使うなら、変える対象と、変わったと判断できる指標をセットで書くべきです。
次に、変えた対象や成果を示さない個人評価です。優秀な人材を指したいなら、ハイパフォーマーや変革リーダーなど、評価軸の定まった語のほうが運用できます。
最後に、単なる好調・成長の言い換え。売上が伸びた、シェアが上がったという話は、既存のルールの中での成果であってゲームチェンジではありません。ここで乱用すると、本当に前提が変わったときに使う語がなくなります。ケンブリッジ辞典の定義にある “completely changes the way that it develops”(展開の仕方を完全に変える)という条件を、判断のハードルとして使うのが実務的です。市場規模の増減だけでなく、顧客の選択基準や収益の仕組みが変わったかを目安にしてください。
よくある質問
ゲームチェンジャーとはどういう意味ですか?
状況を根本から変えてしまう人・物・出来事を指します。ケンブリッジ辞典は「状況に極めて大きな影響を与え、その展開の仕方を完全に変えてしまうもの」と定義しています。日本のビジネス文脈では、野村證券の証券用語解説集のように「既存の市場の状況を一変させる価値や可能性をもった製品やサービス、企業など」として、製品・企業を指す用法もあります。
ゲームチェンジャーとはどんな人を指しますか?
物事の展開や結果に大きな変化をもたらす人を指し、ルールの前提を変える人も含まれます。もとはスポーツで、試合の流れを一気に変える選手を指す使い方がありました。日本語のビジネス文脈では、人に加えて製品・技術・企業を対象にする用法もあります。個人に使う場合は、その人が何を変えたのかを具体的に添えないと評価語として機能しません。
ゲームチェンジャーの言い換え・類語は何ですか?
主体を言い換えるなら「革新者」「破壊的イノベーター」「ルールチェンジャー」、現象を言い換えるなら「ディスラプション」「パラダイムシフト」「構造変化」が近い語です。主体と現象のどちらを指しているかで選ぶ語が変わります。なお「策略家」は意味が重ならないため、言い換えには適しません。
ゲームチェンジとゲームチェンジャーの違いは何ですか?
ゲームチェンジは競争の前提が書き換わる現象そのもの、ゲームチェンジャーはそれを起こした主体です。「市場でゲームチェンジが起きた」「あの企業がゲームチェンジャーだ」のように、動きと担い手で使い分けます。英語では形容詞形の game-changing、動詞句の change the game も併せて使われます。
ゲームチェンジャーの代表的な例は何ですか?
内田和成 編著『ゲーム・チェンジャーの競争戦略』の4類型に沿った例として、航空自衛隊幹部学校の航空研究センターの公開資料が掲載する図は、プロセス改革型にアマゾンとセブンカフェ、秩序破壊型にスマートフォン向けゲームとコストコ、市場創造型にJINS PCと東進ハイスクール、ビジネス創造型に価格.comとカーシェアリングを挙げています。業界の外から市場を塗り替えた例では、業界団体がコンパクトデジタルカメラの競争相手として名指ししたスマートフォンが分かりやすい存在です。