フォーカスグループインタビュー(FGI)は、条件をそろえて集めた数名の対象者に、司会者が座談会形式で話を聞く定性調査です。国内の調査実務では「グループインタビュー」とほぼ同じ意味で使われており、日本マーケティング・リサーチ協会(JMRA)の業界統計も両者を1つの区分で集計しています。
この記事では、デプスインタビューとの違い、1グループの人数やグループ数・費用の目安、JMRAのガイドラインが定める記録と見学の扱いまでを、出典を示して整理します。
まとめ:FGIの要点
- FGIとグループインタビューは、国内の実務では同じ手法を指します。JMRAの統計も「グループインタビュー/FGI」を1項目で集計しています。
- デプスインタビューとの違いは、同時に話を聞く人数と、参加者同士のやり取りを分析の材料にするかどうかです。
- 1グループの人数は調査会社の公開値で3〜8名、所要時間は90〜120分が中心です。
- 2024年度の質的調査売上のうちFGIは29.2%です。FGI売上に占めるオンライン分は29.9%で、デプスインタビューのオンライン売上割合(68.9%)の半分以下です。
- 録音・録画・発言録などの記録には対象者全員の事前同意が要り、発言記録の削除や訂正を求められたら応じる必要があります。
以下、定義、他手法との違い、人数と費用、進め方、記録のルールの順に根拠を示します。
フォーカスグループインタビューの定義と名称の由来
FGIは、共通する属性や経験を持つ対象者を少人数集め、モデレーター(司会者)の進行でテーマについて話し合ってもらう調査手法です。インテージは自社のサービスページで「共通した属性を持つ対象者を複数名集め、会話を通して幅広い意見やアイデア収集ができるインタビュー」と説明しています。
名称のもとになったのは、社会学者のロバート・K・マートンとパトリシア・L・ケンダルが1946年に発表した論文「The Focused Interview」(American Journal of Sociology 51巻6号 541-557頁)です。論文はこの面接を、調査者が事前に分析しておいた状況にさらされた人々の反応を明らかにするためのものと定義しています。全員が共通して経験した状況に焦点を当てて話を聞く、というのが「フォーカス」の元の意味です。
1対1の面接と違うのは、ある参加者の発言に別の参加者が反応し、賛同や反論が連鎖していく過程そのものを分析の材料にする点です。JMRAのグループインタビュー調査ガイドラインも、グループダイナミックスによって個々の発言が誘発されるため、その反応の正確な記録が分析に欠かせないとして、会員社に原則として記録を義務づけています。ただし、依頼主と記録を行わない旨の合意がある場合は、この規定の適用外です。
グループインタビュー・デプスインタビューとの違い
FGIとグループインタビューの関係
国内の調査会社は、この2つを別の手法として区別していないことがほとんどです。アスマークは解説記事で、フォーカスグループインタビューとグループインタビューを「当社では同一の調査手法として認識しております」と明記しています。JMRAの第50回経営業務実態調査も、質的調査の内訳を「グループインタビュー/FGI」という1つの項目で集計しています。インテージの用語集も、グループインタビューの項目で「座談会、フォーカスグループインタビュー(FGI)ともいう」としています。
開発援助や公衆衛生の分野では、同じ形式の手法を「フォーカスグループディスカッション(FGD)」と呼ぶことがあります。この方法では、共通する属性や関心を持つ人々の話し合いを記録し、分析の材料にします。
名称だけから対象者条件の絞り込み方の違いは判断できません。依頼時は、呼び名よりも対象者条件とグループ設計を確認してください。
デプスインタビューとの比較
| 観点 | FGI | デプスインタビュー |
|---|---|---|
| 1回に話を聞く人数 | 3〜8名(各社公開値) | 1名 |
| 1回の所要時間 | 90〜120分 | 60〜90分 |
| 6名に聞くときの実査時間 | 1グループで約1.5時間 | 6人で約6時間 |
| 分析の材料 | 参加者同士の反応 | 個人の意思決定の経緯 |
| 向くテーマ | 人前で話しやすい話題 | 金銭・健康など私的な話題 |
| 質的調査売上に占める割合 | 29.2% | 47.4% |
実査時間の行はアスマークの試算(FGIは1グループ×1時間30分、デプスは6人×1時間)です。時間効率ではFGIが勝ちますが、JMRAの回答会員社では、デプスインタビューの売上構成比はFGIの約1.6倍です。ただし、この売上比率から案件数や採用理由までは判断できません。1対1の手法の進め方はデプスインタビューの基本と役割で解説しています。
質的調査の中でFGIが占める比重
JMRAの第50回経営業務実態調査は、会員社のアドホック調査のうち質的調査の売上を100%としたときの手法別構成比(2024年度・回答71社)を公表しています(出典:JMRA 第50回経営業務実態調査 表6-3-1-2)。
| 手法 | 質的調査売上の構成比 | うちオンライン割合 |
|---|---|---|
| デプスインタビュー | 47.4% | 68.9% |
| グループインタビュー/FGI | 29.2% | 29.9% |
| オンライン・コミュニティパネル/MROC | 2.1% | – |
| エスノグラフィ | 1.4% | 14.0% |
| その他 | 19.9% | – |
目を引くのはオンライン割合の差です。2024年度の各手法の売上に占めるオンライン分は、デプスインタビューが68.9%、FGIが29.9%です。アスマークのオンラインインタビューシステムi-PORT voiceは、グループインタビューを最大6名まで実施できるとしつつ、通信環境や運用を考えた推奨人数を3〜4名前後としています。ユニーリサーチも、対面のようにテンポよく進行しにくく集中力も続きにくいとして、オンラインは3〜4名・90分程度を勧めています。ただし、こうした制約とオンライン売上割合の差との関係は、この統計だけでは確認できません。
なお、この数字は売上の構成比で実施件数の比率ではなく、JMRA会員社に発注された調査が母体です。アドホック調査全体に対するFGIの比率は6.7%(表6-4)です。定性調査全体の手法の選び方は定性調査の手法の種類と進め方にまとめています。
1グループの人数・グループ数・所要時間の目安
1グループの人数
| 提供元 | 1グループの人数 | 所要時間 |
|---|---|---|
| インテージ | 3〜6人(参加者向け案内は最大8人) | 1〜2時間 |
| U-Site | 5〜6名程度 | 記載なし |
| chat-interview | 4〜8名(最多は6名) | 90〜120分 |
| アスマーク | 6〜8名 | 1時間半〜2時間 |
| ユニーリサーチ | 4〜8名(オンラインは3〜4名) | 90〜120分 |
各社のサービスページ・解説記事の記載です(2026年9月時点)。各社の公開値には幅があり、表全体では3〜8名の範囲です。chat-interviewは最も多いパターンを「1グループ6名・2時間」としています。例えば120分のうち導入や提示物の説明などに30分を使うと仮定すると、残り90分を6名で均等に分けた発言時間は1人あたり15分です。人数を増やすほど1人の発言が浅くなるので、深く聞きたい論点が多い調査ほど人数を絞るのが原則です。
グループ数と対象者の分け方
グループ数はchat-interviewが「2〜4つ程度」を一般的としており、インテージやアスマークの費用例も4グループで組まれています。1グループだけでは、そこで出た意見がその場の顔ぶれによるものか、対象層に共通するものかを判別できません。
何グループで足りるかには実証研究があります。Guest、Namey、McKennaの論文(Field Methods 29巻1号 3-22頁、2017年)は、全テーマの80%超が2〜3グループで、90%が3〜6グループで見つかったと報告しています。米国国際開発庁(USAID)が支援した実務ガイドも、結果を検証するために、識別したセグメントごとに少なくとも2グループを行うよう勧めています。この推奨に従い、比較対象を2セグメントに分けて各2グループを実施するなら、合計4グループです。ただし、各社の費用例が同じ根拠で設計されたかは確認できません。
分け方は、年齢・性別、使用状況、ライフステージ、使用ブランドなど、比較したい軸でグループを切ります。同じグループ内は条件をそろえ、グループ間で条件を変えるのが基本です。JMRAのガイドラインは、原則として全グループを通じて参加者同士が知り合いでないよう注意を求めています。ただし、知り合い同士の方が有益と判断される場合は、依頼主の合意により認めています。
期間・費用・謝礼の公開値
アスマークは、全体の期間を約1か月〜1か月半とし、一都三県の指定製品ユーザー6名×4グループで約140万〜200万円、「毎日朝食を摂る方」のような集めやすい条件で6名に実施する場合は12万〜60万円程度という例を示しています。インテージは4グループ(1グループ4名・オフライン・機縁リクルート・発言録とフルレポート込み)で240万円〜、マクロミルは1都3県の指定ゲームアプリユーザー6名×2グループ・実査2時間・発言録とレポート付きで146万円という見積例を公開しています。
参加者への謝礼は、アスマークが一般的な社会人・一般的なテーマ・120分で8,000円を目安とし、主婦層の平日昼間は7,000円、社会人・管理職層の平日夜は10,000〜12,000円になる例を挙げています。
費用の差を生むのは、対象者条件の出現率とグループ数です。見積もりを比べるときは、対象者条件とグループ数に加え、各グループの人数、実施時間、謝礼・会場費・発言録・分析レポートの包含範囲もそろえてください。
企画から実査当日までの進め方
JMRAのグループインタビュー調査ガイドライン(営業企画・実査管理)は、会員社が守るべき手順を定めています。発注側もこの順で確認すると、抜けを防げます。
- 企画書で実査設計を固める。抽出方法、グループ設計と1グループあたりの人数、対象条件、実施日時、会場、所要時間を明記する。
- リクルート用の調査票(スクリーニングシート)で対象者を選ぶ。適格基準と除外質問、基本属性、特定の職業の排除基準、グループインタビューの参加経験を必ず聞く。
- 参加者に事前案内をして了承を得る。インタビューの形式、匿名性の保証、不利益がないことの保証、観察と記録の有無とその方法、日時と所要時間、会場を伝える。
- インタビューガイドを作る。ガイドラインは「インタビュー内容の項目別リスティング」と「問い方・進め方」を全体のフローチャートとしてまとめたものと定義しており、作成や校了に依頼主が参加できる。
- 当日、会場に到着してグループを組む時点までに、参加者が条件を満たしているかを検証する。
- 終了後、司会者が参加者の適格性と適切性をフィードバックし、記録に残す。
参加経験を制限する場合は、経験回数と時期までスクリーニングで聞く必要があります。調査慣れした参加者は模範的な答えを返しやすく、グループ全体の発言を引っ張ってしまうためです。インタビューガイドの組み立て方は半構造化インタビューのガイドの作り方、司会者の問いかけが答えを誘導しないための線引きはサトルクエスチョンと誘導質問の境界線で扱っています。
記録の取り方と同意・見学のルール
FGIの記録媒体と原記録の扱い
JMRAのガイドラインでいう記録とは、筆記記録、録音・録画したデータ、それらをもとに作成した対象者の発言集を指します。記録機器が故障して記録できなかった場合は、司会者か分析担当者が終了後すぐに文書で備忘録を作らなければなりません。分析にはテープや速記録などの原記録を使い、解釈に原記録を用いたことを示す資料を残すことも求められています。
FGIでは、誰の発言に誰が反応したかが分析の中心になります。発言録を作るときは発言者を区別できる形で起こしておかないと、グループの相互作用を後から追えません。録音データの文字起こしに使うツールの選び方は文字起こしアプリの選び方と用途別の使い分けを参照してください。
対象者の同意と削除・訂正の請求
ガイドラインは、記録を取る場合は事前に「記録の目的」と「記録方法」を知らせ、対象者全員の同意を得るよう定めています。インタビュー後に対象者から発言記録の削除や訂正を求められた場合、会員社はそれに応じなければなりません。原記録を第三者に渡すには、記録に含まれる対象者全員から、機密保持と調査目的に限定した使用についての承認を得る必要があります。
中学生以下を対象にする場合は、まず親または責任ある成人の承諾が要ります。2025年9月26日に改訂されたJMRAのマーケティング・リサーチ綱領も、子供(目安として中学生以下または15歳以下)から調査データを集めるときは、事前に親権者等の同意を得るよう第17条で定めています。
依頼主による見学と録画の閲覧
依頼主がミラールームや別室のモニターで実査を見学する場合のルールは、JMRAの「グループ・インタビューの観察および記録の利用に当たってのお願い」(2002年12月3日)にまとまっています。
- 見学を希望する場合は、調査会社がリクルートを始める前に伝える。
- 見学者の中に対象者を知っている人がいたら、その人は見学をやめる。
- 録画記録の閲覧は調査会社のスタッフ立ち会いのもとで行う。貸し出しや複製を希望する場合も、対象者から文書で事前同意を取るため、リクルート開始前に伝える。
- 録画記録の貸し出し・複製を希望する場合は、対象者から依頼主名の開示を求められたら応じる(できるだけセッション終了後に開示する)。
実査管理のガイドラインには、医師を対象にした調査で依頼主の販売担当者を観察者に含めない、という例も示されています。対象者への告知は「分析の為にこのインタビューを見るべきスタッフが他にも存在し、別部屋で見せて頂いています」のように、見学の事実を隠さずに伝えます。
FGIを選ぶべきでない場面
FGIが向かないのは、次のような調査です。U-Siteは、大人数で話しにくい案件や個人属性を深掘りしたい案件、個々の意識の構造を探りたい案件、提示物の評価に時間がかかる案件を、FGIに向かない例に挙げています。
- 収入、病歴、家庭の事情など、他人の前で本音を言いにくいテーマ
- 購入に至るまでの迷いや比較の経緯を、1人ずつ時系列で追いたい調査
- 「何割の人がそう感じるか」を数字で示したい調査
最後の点は誤解が多いところです。6名×4グループでも聞けるのは24名で、しかも同じ場の発言に影響された意見なので、支持率や比率の推定には使えません。FGIで出た仮説を量で確かめたいときは、アンケートなどの定量調査とサンプルサイズの決め方に引き継ぎます。前2つに当てはまるなら、FGIではなくデプスインタビューを選んでください。
公表されているFGIの活用例
自治体の計画づくりでFGIを使った研究として、安梅勅江らの「フォーカスグループインタビュー活用の意義:『健康日本21』への住民の声の反映に向けて」(日本保健福祉学会誌 9巻2号 45-54頁、2003年)があります。地方中核都市の住民8グループ・合計60名へのFGIと質問紙による量的調査の結果を複合分析し、「健康な生活」へのエンパワメント、「いきいきとした生活」へのエンパワメント、「安全で安心な生活」へのサポート、「頼りになる情報システム」の確立という4つの重要領域を抽出しています。
1グループあたりに直すと平均7.5名で、調査会社の公開値の上限に近い構成です。論文は、グループダイナミクスで住民の生の声を引き出せることに加え、住民の計画への参画意識を高める点、プログラム実施後の評価に継続して使える点を、行政計画でFGIを使う意義に挙げています。
よくある質問
フォーカスグループインタビューとグループインタビューの違いは何ですか?
国内の調査実務では同じ手法を指します。アスマークは同一の調査手法と明記しており、JMRAの業界統計も「グループインタビュー/FGI」を1つの項目で集計しています。
FGIは1グループ何人で行いますか?
調査会社の公開値では3〜8名で、最も多いのは6名前後です。オンラインで行う場合は、アスマークやユニーリサーチのように3〜4名に減らすよう勧める会社があります。
フォーカスグループインタビューを外部に依頼すると費用はいくらかかりますか?
公開されている例では、指定製品ユーザー6名×4グループで約140万〜200万円(アスマーク)、4グループ・1グループ4名で240万円〜(インテージ)、6名×2グループで146万円(マクロミル)です。対象者条件の集めにくさとグループ数で大きく変わります。
FGIはオンラインでも実施できますか?
実施できます。ただしJMRAの第50回経営業務実態調査では、2024年度のFGI売上に占めるオンライン分は29.9%で、デプスインタビューのオンライン売上割合68.9%を下回っています。アスマークやユニーリサーチは、オンラインでは1グループ3〜4名に抑えるよう勧めています。
FGIを録音・録画するときに必要な手続きはありますか?
JMRAのガイドラインでは、事前に記録の目的と方法を知らせて対象者全員の同意を得ることが必要です。終了後に発言記録の削除や訂正を求められた場合も応じなければなりません。