データエクスチェンジは、ユーザーの属性や行動履歴などのデータを、企業の枠を越えて交換・売買する仕組みです。ただし、広告業界では「オーディエンスデータの交換」を指すのに対し、クラウド業界ではAWSやSnowflakeが提供する「データ共有基盤」を指すなど、分野によって意味が変わります。この記事では、2つの用法の違い、主要サービス、データクリーンルームとの違い、国内の現状、データを提供・購入する前に確認すべき法律を整理します。
まとめ:データエクスチェンジの要点
- 広告業界の定義は、JIAAの用語集にある「オーディエンスデータを事業者間で交換する仕組み」です。
- クラウド業界では、AWS Data Exchange、Snowflake Marketplace、BigQuery sharing(旧Analytics Hub)、Databricks Marketplaceなど、データやその参照権限を共有・提供する基盤を指します。ファイル配信など、複製を伴う方式もあります。
- データクリーンルームは、生データを互いに見せずに突き合わせて分析する環境です。データエクスチェンジがデータや参照権限の流通を担うのに対し、データクリーンルームは共同分析で許可する処理や出力を制御します。
- 国内では、データ流通推進協議会(DTA)が2021年にデータ社会推進協議会(DSA)へ改称しました。情報銀行の認定事業者は、2025年3月29日更新の一覧で0件です。
- 個人データを他社へ渡すには、原則として本人の事前同意が必要です(個人情報保護法27条1項)。Cookie IDなどの個人関連情報も、提供先で個人データになる場合は、本人同意が得られているかの確認が必要です(同31条1項)。
データエクスチェンジの定義と2つの用法
広告業界の定義:オーディエンスデータの事業者間交換
日本インタラクティブ広告協会(JIAA)の「インターネット広告基礎用語集 2024年度版」は、データエクスチェンジを「ユーザーの属性や行動履歴などのオーディエンスデータを事業者間で交換する仕組み」と定義しています。インテージの用語集もこの定義をそのまま掲載しています。検索上位に並ぶ広告会社やリサーチ会社の用語集も、この意味で説明しています。
この用法では、交換の対象は広告配信に使う閲覧履歴・購買履歴・属性データです。交換したデータは、DMPで広告の配信対象(セグメント)を作るときの材料になります。オーディエンスデータの種類と集め方はオーディエンスデータの解説記事で扱っています。
クラウド・IoT分野の用法:データ共有基盤とマーケットプレイス
クラウドやIoTの分野では、データの提供者と利用者を結ぶ共有基盤そのものを「データエクスチェンジ」と呼びます。Google Cloudは、BigQuery sharing(旧Analytics Hub)を「data exchange platform」と説明しています。データを複製せずに、組織の境界を越えて共有・発見・利用できる基盤という位置づけです。
この用法では、交換する対象は広告データに限りません。気象、地図、金融市場、人流など、あらゆる業務データが対象になります。広告の文脈ではオーディエンスデータの交換、クラウドの文脈ではデータの共有・配信基盤という意味で読み分けます。
アドエクスチェンジとの違い
アドエクスチェンジは、広告枠をリアルタイム入札(RTB)で売買する市場です。交換の対象はデータではなく広告枠です。名前は似ていますが、データエクスチェンジで手に入れたデータを使って、アドエクスチェンジで広告枠を買う、という関係になります。広告枠の取引の仕組みはアドエクスチェンジの解説記事で説明しています。
データエクスチェンジの仕組みと参加者
提供者・利用者・運営者の役割
基本的な役割は、データの提供者、利用者、基盤の運営者です。例えばSnowflake Data Exchangeでは、管理者が参加メンバーを管理し、提供者がリスティングを公開します。提供者から見ると、自社で集めたファーストパーティデータを他社に渡すことになります。利用者から見ると、他社のファーストパーティデータを直接受け取る「2ndパーティデータ」か、仲介業者が集約・加工した「3rdパーティデータ」を手に入れることになります。
データの出どころと扱いの違いは、次の表のとおりです。
| 区分 | 出どころ | 典型的な入手経路 |
|---|---|---|
| ゼロパーティデータ | 顧客が自ら申告 | アンケート・会員登録 |
| ファーストパーティデータ | 自社が直接収集 | 自社サイト・POS・CRM |
| 2ndパーティデータ | 提携先のファーストパーティデータ | 提携先との直接取引 |
| 3rdパーティデータ | 仲介業者が集約 | データ事業者・DMP |
自社で集めるデータの分類はゼロパーティデータの解説記事で詳しく説明しています。
取引の流れ:掲載から利用まで
SnowflakeやBigQuery sharingで参照権限を共有する場合、取引はおおむね次の流れになります。権限付与の担当者や契約手続きはサービスによって異なります。
- 提供者が、データセットを「リスティング(出品情報)」として掲載する
- 利用者が、カタログを検索してデータを見つける
- 無償または有償の条件で、利用契約(サブスクリプション)を結ぶ
- 運営者が、利用者のアカウントに参照権限を付与する
- 利用者が、自社の環境からクエリを発行してデータを使う
従来のようにCSVを受け渡す方式とは、手順4に大きな違いがあります。SnowflakeやBigQuery sharingでは、データのコピーを渡さず、提供者側のデータを直接参照する権限を付与します。同一リージョン内の直接共有では提供者側の更新を参照できますが、リージョンをまたぐ複製では更新の反映に時間差が生じます。共有権限を取り消すと共有元へのアクセスは止められますが、利用者が既に保存・出力したデータまで回収できるわけではありません。データの検索やアクセス管理を基盤上で行えることが利点です。契約や決済が基盤内で完結するかは、サービスと提供者によって異なります。
主要なデータエクスチェンジ・サービスの比較(2026年9月時点)
以下の比較は、各社の公式ドキュメント(AWS Data Exchange、Snowflake Marketplace、BigQuery sharing、Databricks Marketplace)に基づきます。
| サービス | 提供元 | 公開範囲 | 補足 |
|---|---|---|---|
| AWS Data Exchange | AWS | 他組織との共有 | 2019年11月13日発表 |
| Snowflake Marketplace | Snowflake | 公開・特定の相手 | private listingsも提供 |
| Snowflake Data Exchange | Snowflake | 招待したメンバー | Supportへの依頼で有効化 |
| Snowflake Internal Marketplace | Snowflake | 自組織内 | 組織内でのデータ製品の共有 |
| BigQuery sharing | Google Cloud | 組織の境界を越えて共有 | 2025年5月6日にAnalytics Hubから改称 |
| Databricks Marketplace | Databricks | 公開・特定の相手 | OpenSharingで配信 |
AWS Data Exchangeは、他組織から受け取るデータの権限を共有・管理するサービスです。このデータセットを含む商品は「データ製品」としてAWS Marketplaceのカタログに掲載されます。Snowflakeでは「Data Exchange」という名前の機能が今も残っています。これはMarketplaceの旧称ではなく、招待したメンバーだけで使う別の機能です。社外に広く配るときはMarketplace、取引先グループに限るときはData Exchangeと使い分けます。
Databricks Marketplaceは、現行の公式ドキュメントではOpenSharingを共有基盤としています。その土台にあるDelta Sharingは、利用者側の計算基盤に依存しないオープンプロトコルです。公式ドキュメントも、共有されたデータの利用にDatabricksのワークスペースは不要としています。取引先ごとに使っているクラウドが違う場合は、この点が選定基準になります。BigQueryとSnowflakeの課金構造の違いはBigQueryとSnowflakeの比較記事で扱っています。
データクリーンルーム・DMP・データスペースとの違い
データエクスチェンジと混同されやすい仕組みを、何を渡すかで比べると次のようになります。
| 仕組み | 相手に渡すもの | 主な用途 |
|---|---|---|
| データエクスチェンジ | データ本体または参照権限 | データの売買・共有 |
| データクリーンルーム | 許可された分析結果 | 突合分析・効果測定 |
| DMP | 配信セグメント | 広告ターゲティング |
| CDP | 社内で統合した顧客像 | 自社内の顧客分析・施策 |
| データスペース | 共通ルールに沿ったデータ | 業界横断のデータ連携 |
データクリーンルームでは、参加者が許可した分析と出力に制限してデータを突き合わせます。出力は集計値に限らず、AWS Clean Roomsでは行単位のリストも設定できます。個人単位のデータを渡したくないが、共通顧客の分析はしたい、という場合はこちらを選びます。詳しくはデータクリーンルームの解説記事、DMPとCDPの違いはDMPの解説記事とCDPの解説記事で説明しています。
データスペースは、International Data Spaces Association(IDSA)が「合意されたガバナンスの枠組み、ポリシー、標準プロトコルなどに基づき、参加者間で信頼できるデータ共有を可能にする環境」と定義している仕組みです。個別の取引所ではなく、複数の事業者が同じルールで接続する業界単位の仕組みを指します。自動車産業向けのCatena-Xがその代表例です。欧州のGaia-Xは、単一のクラウドではなく、複数のクラウド事業者と利用者を結ぶ連邦型の仕組みを目指しています。
日本のデータ流通の現在地
DTAからDSAへの改称とDATA-EXの取り組み
国内でデータ取引市場のルールづくりを担ってきたデータ流通推進協議会(DTA)は、2021年1月に一般社団法人データ社会推進協議会(DSA)へ法人名を変更しました。さらに2021年4月には、官民データ活用共通プラットフォーム協議会(DPC)を合併しています。現在の活動は、DSAの名称と公式サイトで確認できます。
DSAは現在、「DATA-EX」という活動を進めています。各分野・業界が自らデータ連携基盤(データスペース)を作るための共通技術や標準を提供する活動です。DATA-EXの公式ページで概要を確認できます。
情報銀行は認定事業者が0件
本人の同意に基づいて個人データを預かり、第三者に提供する「情報銀行」には、日本IT団体連盟の認定制度があります。ところが、2025年3月29日に更新された認定事業者一覧では、通常認定・P認定とも「現在…事業者はございません」と記載されています。過去には大日本印刷やDataSignなどの認定実績があり、一覧にも掲載されていますが、有効な認定を持つ事業者は残っていません。
認定事業者がいないという一覧の記載だけでは、各サービスの継続状況や認定終了の理由までは判断できません。これから個人データを扱うデータ流通に参加するなら、外部サービスの提供状況を確認するとともに、自社が担う本人同意の取得・確認と記録管理の範囲を整理する必要があります。
ウラノス・エコシステムとTrusted Web
経済産業省は2023年4月30日、G7デジタル・技術大臣会合にあわせて「ウラノス・エコシステム」を立ち上げました。企業・業界・国境をまたぐデータ連携とシステム連携を目指す取り組みで、欧州のCatena-Xに相当する国内の枠組みです。
これとは別に、内閣官房デジタル市場競争本部は2020年10月に「Trusted Web推進協議会」を設置しました。データのやり取りの相手や内容を検証できる仕組みを検討しており、2023年11月24日にホワイトペーパーver.3.0を公表しています。なお、オランダの物流業界で使われているiSHAREは、同国の経済省などが支援したトラストフレームワークで、日本政府の施策ではありません。
DFFTとIAPによる国際データ流通
国をまたぐデータ流通については、日本が「DFFT(Data Free Flow with Trust:信頼性のある自由なデータ流通)」を掲げています。デジタル庁によると、DFFTは2019年1月のダボス会議で安倍総理(当時)が提唱し、同年6月のG20大阪サミットで首脳宣言に盛り込まれました。2023年のG7広島サミットでは、DFFTを具体化する国際枠組み「IAP(Institutional Arrangement for Partnership)」の設立が承認され、同年12月にOECDの下で運用が始まっています。
広告分野のデータ取引で起きている変化
広告向けデータ事業では、Oracle Advertisingの事業終了がありました。代表的な事業者だったOracleは、BlueKaiなどを含むOracle Advertisingの全製品とサポートを、2024年9月30日で終了しました。
GoogleはChromeでサードパーティCookieの選択に関する現行方式を維持する方針を示しています。ただし、この方針とOracleの撤退理由は分けて捉える必要があります。3rdパーティデータを調達する際は、法令への対応と、調達先の事業継続・契約終了時の代替手段をそれぞれ確認します。経緯はサードパーティCookie廃止の現在地で解説しています。広告主の選択肢には、提携先との直接契約によるデータ共有や、データクリーンルームでの突合があります。
データを提供・購入する前の法務チェック
データエクスチェンジでは、アクセス制御などの技術面に加え、提供・取得の法的根拠も確認します。個人情報保護法では、次の2つの条文が特に問題になります。
- 27条1項:法令上の例外を除き、本人の同意を得ずに個人データを第三者へ提供してはならない
- 31条1項:提供先で個人データとして取得されることが想定される個人関連情報(Cookie IDや閲覧履歴など)は、本人の同意が得られていることを確認しないまま提供してはならない
提供者は、本人同意を根拠に個人データを第三者へ提供する場合、提供する前に必要な同意を得ているかを確認します。提供者側で個人関連情報に当たるデータを、利用者が本人を識別できる個人データとして取得すると想定される場合、原則として提供者に31条の確認義務が生じます。この想定は利用者の使い方で決まるため、提供者と利用者は契約前に「受領後に利用者の顧客IDと突き合わせるか」を必ず取り決めておきます。2026年7月に公布された改正法の影響は個人情報保護法改正の解説記事で整理しています。
データエクスチェンジの利用を避ける条件
次の条件に当てはまる場合は、データエクスチェンジでデータを渡すべきではありません。
- 自社の顧客の個人データについて、第三者提供への本人同意も、同意なしで提供できる法令上の根拠もない
- 相手に生データを渡す必要がなく、共通顧客の集計値だけで目的を果たせる
- 受け取ったデータの出どころと同意の取得方法を、提供者が説明できない
1つ目は法令違反に直結します。2つ目はデータクリーンルームで足ります。3つ目については、個人データを受け取る側にも30条で、提供者の氏名や取得の経緯を確認する義務があります。その説明ができない相手からは受け取れません。なお、31条の本人同意の確認義務を負うのは、個人関連情報を提供する側です。反対に、気象・地図・市場データのような個人に関わらない業務データであれば、クラウド型のマーケットプレイスは調達の手間を大きく減らせます。個人データと業務データでは、同じ「データエクスチェンジ」でも判断の基準がまったく違います。
よくある質問
データエクスチェンジとアドエクスチェンジの違いは何ですか?
広告分野では、データエクスチェンジの取引対象はオーディエンスデータ、アドエクスチェンジの取引対象は広告枠です。データエクスチェンジで入手したデータを使って、アドエクスチェンジで広告枠を買うという関係です。
企業はデータをどのように販売または交換していますか?
主な方法は3つです。提携先と直接契約して交換する方法、データ事業者に提供して3rdパーティデータとして販売してもらう方法、AWS Data ExchangeやSnowflake Marketplaceなどのクラウド型マーケットプレイスに出品する方法です。個人データを含む場合は、原則として第三者提供前の本人同意が必要ですが、法令上の例外等に該当するかも確認します。
データ交換(データ連携)とデータエクスチェンジは同じ意味ですか?
データ連携は、システム間でデータを受け渡すこと全般を指します。データエクスチェンジは、そのうち異なる企業間で、取引や共有を目的にデータをやり取りする仕組みを指します。単なる社内システム接続は通常データ連携と呼びますが、社内向けの共有基盤にもデータエクスチェンジという名称は使われます。
データマネタイゼーション(データの収益化)とは何ですか?
自社が保有するデータを外部に販売したり、データを使ったサービスを提供したりして、収益を得ることです。例えばAWS Data Exchangeでは、データ製品をAWS Marketplaceに掲載できます。データエクスチェンジは、このように外部販売の販路として使えます。
情報銀行は今も利用できますか?
日本IT団体連盟の認定制度は続いていますが、2025年3月29日更新の一覧では、通常認定・P認定とも認定事業者は0件です。認定済みの事業者を通じて個人データを流通させる方法は、現時点では選べません。