ROASとROIの違いは、分子に売上を置くか利益を置くかです。ROASは「広告経由の売上÷広告費」、ROIは「利益÷投資額」で、この差のせいでROAS 300%の広告がROIでは赤字になることがあります。両者は粗利率を介して換算でき、式にすると「ROI=ROAS×粗利率−100%」(広告費だけを投資とみなす場合)です。
この記事では、2つの指標の定義と基準点の違い、ROASからROIへの換算式と計算例、広告ROIを出すときに分母と分子へ何を入れるか、Google広告の管理画面でROASを利益ベースに寄せる設定、媒体・MMM・社内で数字が食い違う原因までを扱います。ROAS単体の計算方法や改善策はROASとは?計算式・目安・ROIとの違いと広告費用対効果を高める方法、ROIそのものの定義と投資判断での使い方はROI(投資利益率)とは?計算式・目安・改善方法をわかりやすく解説で解説しています。
まとめ:ROASとROIの違いの要点
- ROASは売上ベース、ROIは利益ベース。損益分岐はROIなら0%だが、ROASでは粗利率によって変わり100%ではない。
- 広告費だけを投資とみなすなら「ROI=ROAS×粗利率−100%」で換算できる。粗利率40%なら、ROAS 250%でROI 0%になる。
- 広告ROIは分母に入れる費用で大きく変わる。媒体費だけで計算したROI 100%が、代理店手数料と制作費を含めると33%まで下がる例もある。
- Google広告のコンバージョン値には売上だけでなく利益も設定できる。利益を入れれば、目標ROAS 100%が広告費を利益で回収するラインになる。
- 日々の入札調整はROAS、予算決裁や施策の存続判断はROIで見る。Meridianで売上を成果指標にした場合の「ROI」は増分売上÷費用で、本記事の利益ベースのROIとは定義が異なる。
ROASとROIの定義と計算式の違い
Google広告のヘルプにある英語版用語集は、2つの指標を次のように定義しています。
「ROAS: Return-on-ad-spend, represented as a percentage, calculated as total conversion value divided by total spend.」「ROI: Return on investment, calculated as total profit divided by total spend.」(Google 広告 ヘルプ「Glossary」answer/12851704、2026年9月26日閲覧)
ROASの分子は「コンバージョン値」、ROIの分子は「利益」です。コンバージョン値に売上を入れる運用が一般的なため、ROASは売上ベースの指標として扱われます。
| 項目 | ROAS | ROI |
|---|---|---|
| 正式名 | Return On Advertising Spend | Return On Investment |
| 計算式 | 売上÷広告費×100 | 投資額控除後の利益÷投資額×100 |
| 分子 | 広告経由の売上 | 投資から得た利益 |
| 分母 | 広告費 | 投資額(広告費+関連費用) |
| 損益分岐の値 | 100÷粗利率(40%なら0.4を代入、結果は%) | 0% |
| 集計に要る情報 | 媒体の管理画面で完結 | 原価・手数料など社内データ |
| 主な用途 | 入札・配信の日次調整 | 予算決裁・施策の存続判断 |
ROIの式は「(利益−投資額)÷投資額」と書かれることもあります。この書き方の「利益」は投資額を引く前の金額で、引いた後の利益を分子に置く上の表と中身は同じです。本記事では利益を、売上から売上原価と、投資額に含めた広告費・関連費用を差し引いた金額と定義し、投資額をこの利益から再度差し引くことはしません。どちらの書き方でも損益分岐は0%です。
基準点の違いは読み間違いの元です。ROAS 100%は「広告費と同じ額の売上が立った」という意味で、売上原価を払えば赤字です。粗利率30%の商品ならROASの損益分岐は約333%で、それを下回るROASはすべて赤字になります。一方、ROIは0%を超えた時点で黒字です。
Amazon Adsが使うACOS(広告費売上高比率)は、ROASの逆数です。Amazon Adsの解説ページは「ACOS =(広告費 ÷ 広告収益)x 100」とし、ROASを「Amazon ACOSの逆数」と説明しています。ROAS 400%とACOS 25%は同じ状態を表し、利益を見ていない点も変わりません。
ROASからROIへの換算式と計算例
広告費だけを投資とみなす場合の換算式
投資を広告費だけとし、利益を「売上×粗利率−広告費」とみなすと、ROIはROASから直接求められます。
- ROI=(売上×粗利率−広告費)÷広告費
- =売上÷広告費×粗利率−1
- =ROAS×粗利率−1(%表記ならROAS(%)×粗利率−100)
この式から、ROI 0%になるROASは「100÷粗利率」と分かります。粗利率50%なら200%、25%なら400%です。損益分岐点ROASから逆算して目標ROASを置く手順はROASの解説記事の損益分岐点の章にまとめています。
同じROASでも粗利率でROIが変わる計算例
次の表は、上の換算式でROASと粗利率の組み合わせごとにROIを計算した例です(売上原価は粗利率に反映し、投資額は広告費のみ、その他の関連費用は考慮しない試算)。
| ROAS | 粗利率20% | 粗利率40% | 粗利率60% |
|---|---|---|---|
| 200% | −60% | −20% | 20% |
| 300% | −40% | 20% | 80% |
| 500% | 0% | 100% | 200% |
| 800% | 60% | 220% | 380% |
粗利率20%の商材では、ROAS 500%でもROIは0%で、広告で1円も利益が残りません。逆に粗利率60%のデジタル商材なら、ROAS 200%でもROIは20%の黒字です。「ROAS 300%を目標にする」といった一律の基準を、粗利率の違う商品カテゴリにまとめて当てはめると、この表の左の列で赤字を積み上げることになります。
広告ROIの分母と分子に入れる費用・利益の範囲
広告ROIの分母に含める媒体費・関連費用
広告ROIは、分母に何を入れるかで結果が大きく変わります。媒体に支払う広告費のほかに、次のような費用が発生していることが多いためです。
- 広告代理店の運用手数料(媒体費の一定割合で請求される形が多い)
- バナー・動画・LPの制作費
- 計測ツールや広告管理ツールの利用料
- 社内の運用担当者の人件費
計算例で比べます。媒体費100万円・ROAS 500%(売上500万円)・粗利率40%(粗利200万円)とします。媒体費だけを分母にしたROIは(200−100)÷100=100%です。ここに媒体費の20%の運用手数料20万円と制作費30万円を足すと、投資額は150万円になり、ROIは(200−150)÷150≒33%まで下がります。
どこまで含めるかに正解はありませんが、比べる施策同士で範囲をそろえることが前提です。媒体の管理画面で完結するROASと違い、ROIは社内の費用データを突き合わせないと出せません。予算決裁や施策間比較では関連費用込みで計算し、媒体費だけで効率を比べる場合はその旨を注記する、というように用途ごとに定義を決めて資料に書いておくと、会議で数字が食い違いません。
広告ROIの分子に使う利益とLTVの評価期間
分子の「利益」にも幅があります。売上から売上原価を引いた粗利を使うのが手軽ですが、ECでは配送費・決済手数料・返品による損失も注文ごとに発生します。これらを引いた限界利益(売上−変動費)を使うほうが、広告1件あたりの実際の儲けに近くなります。
リピート購入やサブスクリプションの商材では、初回購入の利益だけを分子に置くとROIを過小評価します。この場合は顧客生涯価値(LTV)を利益ベースで見積もり、対象期間と回収期間を明記します。例えば、12か月の利益見込みが3万円、顧客獲得への投資額が2万円なら、その投資額だけを控除したROIは50%です。LTVの算出方法はLTVの計算方法|基本式からSaaS・サブスク(解約率)の算出までを参照してください。マーケティング施策全体の利益貢献を増分で測るROMI(マーケティング投資利益率)の式は、ROMIとは?マーケティング投資利益率の計算式とROI・ROASとの違いで扱っています。
Google広告でROASを利益ベースに寄せる設定
ROASとROIの違いは分子の違いなので、分子に利益を入れればROASは利益ベースの指標になります。Google広告のヘルプ「コンバージョン値について」は、目標広告費用対効果の入札戦略を次のように説明しています。
「「目標広告費用対効果」入札戦略を使用すると、目標とする広告費用対効果の達成を目指しつつ、販売収益、利益率などのコンバージョン値が最大になるように入札単価が設定されます。」(Google 広告 ヘルプ「コンバージョン値について」answer/13064207、2026年9月26日閲覧)
注文ごとの粗利額を使うには、コンバージョンごとに異なる値を計測する設定と、その金額を動的に送信する実装が必要です。入札対象のコンバージョン値を粗利額に統一すると、管理画面のROASは「粗利÷広告費」になります。この場合、目標ROAS 100%がちょうど広告費を粗利で回収するライン(広告費だけを投資とみなしたROI 0%)で、目標ROAS 150%はROI 50%に相当します。入札は粗利率の高さだけでなく、注文ごとの粗利額や購入確率などを踏まえて、設定した目標ROASの達成を目指すように調整されます。
切り替えの際は、次の2点に注意が必要です。
- 目標ROASの数字の意味が変わる。売上ベースで400%だった目標を、利益ベースに切り替えた後もそのまま使うと、入札が絞られすぎて配信量が落ちる。
- 学習期間を見込む。同じ入札戦略のヘルプは、検索キャンペーンについて、コンバージョン値の蓄積方法を変更して間もない場合、キャンペーンで同程度のコンバージョン値を獲得できるようになるまで「コンバージョン サイクル 1 ~ 2 回分」待つことを勧めている。
なお、Google広告は2026年6月から入札戦略の表示名を変更しており、「目標広告費用対効果を設定したコンバージョン値の最大化」は「目標広告費用対効果」と表示されます。ヘルプは入札動作に変更はないとしています。
ROAS・ROIの数値が媒体と社内で食い違う原因
コンバージョンの計上日と成果確定までの期間
Google広告は、コンバージョンを成果が発生した日ではなく広告がクリックされた日に計上します。ヘルプは「Google Ads reports conversions from the date and time of the click that led to the successful action, not from the date of the successful action itself.」と明記し、7月19日にクリックして7月20日に購入した場合、Google広告では7月19日、Googleアナリティクスでは7月20日のコンバージョンになると例示しています。
このため、コンバージョンの遅延がある場合、直近数日のROASは成果が出そろった後より低く見えることがあります。「コンバージョン達成までの期間レポートについて」のヘルプも、クエリ日別に記録されるため最新のコンバージョン数が常に表示されるわけではなく、「CPA が増加したり、ROAS が減少したりしているように見えることがあります」としています。検討期間が長い商材で直近1週間のROASを見て配信を止めると、成果が確定する前の数字で判断したことになります。
アトリビューションと増分効果
媒体の管理画面が出すROASの分子は、その媒体が自社の広告に割り当てたコンバージョン値です。複数の媒体に広告を出していると、1件の購入を各媒体がそれぞれ自分の成果として計上し、各媒体が計上した広告経由売上の合計が、実際の売上を上回ることがあります。どの接点に何割の成果を配分するかはアトリビューション分析とは?選べるモデルとやり方・AI(データドリブン)の中身で整理しています。
さらに、広告を出さなくても立っていた売上(指名検索からの購入など)も分子に含まれます。ROIで予算の存続を判断するなら、広告がなければ発生しなかった増分の売上・利益で計算するのが本来の形です。増分の測り方はインクリメンタリティとは?広告の増分効果を測る手法とCPA評価の限界・運用判断を解説を参照してください。
MeridianのROIと利益ベースROIの定義差
同じ「ROI」という名前でも、マーケティング・ミックス・モデリング(MMM)の出力は利益ベースとは限りません。GoogleのオープンソースMMMであるMeridianのドキュメントは、動画広告に1万ドルを投じ、施策がなければ12.5万ドルだった売上が15万ドルになった例で、次のように書いています。
「Your ROI is $2.50 ($25,000 sales / $10,000 cost), meaning you earned $2.50 for every dollar spent.」(Google for Developers「Incremental Outcome, ROI, mROI and response curves」、2026年9月26日閲覧)
分子は増分の売上で、売上原価も広告費も引いていません。計算の形はROASと同じで、増分に限った「増分ROAS」と読むのが実態に近い値です。粗利率40%の商材なら、このROI 2.5は利益ベースでは2.5×0.4−1=0、つまり損益分岐ちょうどです。経営会議では、MeridianのROIを「増分売上÷広告費」と定義付きで示すか、本記事の利益ベースROIに換算し、費用範囲と換算条件を併記します。
売上以外を成果指標にしたモデルでは、分子の単位そのものが変わります。Meridianの用語集は、ROIを「結果の増分を費用で割ったもの」と定義したうえで、KPIが収益でなくKPIあたりの収益のデータもない場合は「結果の増分は KPI の増分になります」としています。この場合のROIは件数÷費用で、利益ベースのROIへの換算には1件あたりの利益を別途見積もる必要があります。
ROASとROIの使い分けと判断基準
| 判断する場面 | 見る指標 | 理由 |
|---|---|---|
| 入札・配信の日次調整 | ROAS | 管理画面で即時に確認できる |
| 粗利率の違う商品の配分 | 利益ベースのROAS | 予測される粗利額を入札に反映 |
| 予算決裁・施策の存続 | 関連費用込みのROI | 手数料や制作費まで回収できるかを見る |
| チャネル間の予算配分 | 増分ベースのROI | 重複計上と自然発生の売上を除ける |
| リピート・サブスク商材 | LTVベースのROI | 初回購入だけでは回収を過小評価する |
ROASで運用し、ROIで判断する。これが基本の分担です。ROASは媒体のデータだけで毎日出せるため、入札や予算の細かい調整に向いています。ROIは原価や手数料を突き合わせる手間がかかる代わりに、その広告が会社に利益を残しているかに直接答えられます。
避けたいのは、粗利率を確かめずにROASの目標値を決めることです。他社事例や業界平均として語られる「ROAS 300%」「ROAS 500%」は、粗利率20%の商材ではどちらも損益分岐以下か損益分岐ちょうどです。目標ROASは必ず自社の粗利率から「100÷粗利率」で損益分岐を出し、そこに確保したい利益を上乗せして決めてください。
一方、認知拡大が目的の動画広告やディスプレイ広告は、短期のROASもROIも低く出ます。この種の広告にROAS基準をそのまま当てると、将来の指名検索やリピートを生む施策から先に削ることになります。認知目的の広告は、ROIを長い期間と増分で測るか、到達や検索数の伸びといった別のKPIで評価するほうが実態に合います。
よくある質問
ROASとROIはどちらを重視すべきですか?
日々の広告運用ではROAS、予算を続けるか止めるかの判断ではROIを重視します。ROASは管理画面ですぐ確認できますが、利益が出ているかは分かりません。最終的に会社に利益が残っているかを判断できるのはROIです。
ROASが100%なら黒字ですか?
黒字ではありません。ROAS 100%は広告費と同じ額の売上が立った状態で、売上原価を払うと赤字です。広告費だけを投資とみなした損益分岐のROASは「100÷粗利率」で、粗利率40%なら250%です。
ROASが高いのにROIがマイナスになるのはなぜですか?
粗利率が低いか、広告費以外の費用が大きいためです。粗利率20%の商材はROAS 400%でもROIは−20%です。代理店手数料や制作費を投資額に含めると、ROIはさらに下がります。
広告ROIの目安はどのくらいですか?
全業種に共通する目安はありません。最低ラインは0%(投資額を利益で回収できる水準)で、それを上回る目標は、同じ予算をほかの施策や投資に回した場合に見込める利益率と比べて決めます。ROI一般の目安の考え方はROIの解説記事で扱っています。
ROASとACOSの違いは何ですか?
ACOSはROASの逆数です。ACOSは「広告費÷広告売上×100」で、Amazon広告で使われます。ROAS 400%はACOS 25%と同じ状態を表します。どちらも売上ベースなので、利益を判断するにはROIへの換算が必要です。広告費だけを投資とみなす場合、ROASからは「ROAS(%)×粗利率−100」、ACOSからはいったん「ROAS(%)=10,000÷ACOS(%)」に直してから同じ式に入れます。粗利率は40%なら0.4を代入します。